ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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長い分、今回はネタが多めに含まれています(笑)


唐揚げを二度揚げするかしないかで、美味しさが劇的に変わる……!

 新がエルメンヒルデを見送って部室に戻ってきた後、(せき)を切ったようにゼノヴィアがテーブルを叩いた。

 

「……相変わらず、吸血鬼は好きになれない……っ!」

 

「よく我慢したよ、お前は。俺より敵意満々だったからな」

 

 新がポンポンとゼノヴィアの肩を叩き、シスター・グリゼルダがカップに口をつけた後、ゼノヴィアに言う。

 

「昔のあなたなら、デュランダルで斬りかかったところですね。よく我慢しました。成長しましたね」

 

 シスター・グリゼルダに褒められ、ゼノヴィアは複雑そうな表情で頬を赤く染めていた。

 

 しかし、ゼノヴィアの言う事は(もっと)もである。

 

 ギャスパーと同じ種族とは思えない程、嫌味と傲慢なプライドの塊だった……。

 

 唯一冷静を保ち続けたソーナがリアスに言う。

 

「どうするのですか? 協定を無視するわけにもいかないでしょう。そうなると、ギャスパーくんを送り出す事にもなります。そうなれば……最悪、彼を失うかもしれません」

 

 ソーナのハッキリした答えにギャスパーも複雑極まりない顔になっていた。

 

 それも当然、自分が外交のカードに使われるなんて思いもしなかったのだろう。

 

 更には拒否が物凄く難しい状況……和平を謳っていた手前、ようやく和平のテーブルに着こうとする吸血鬼側からの申し出を突っぱねるわけにもいかない。

 

 世間的に見ても、ギャスパー1人の条件でカーミラ派―――(すなわ)ち吸血鬼側の半分と休戦できるのはメリットが大きく安い。

 

 可能ならば拒否したいのが本音だが、断る理由も無い―――グレモリーにとって最悪の展開だ。

 

 ギャスパーが大きく息を吸って、震える口調で吐き出した。

 

「ぼ、僕、行きます」

 

 ギャスパーの宣言に皆が驚いた。彼は(みずか)ら行く事を志願してきた……しかも、決意に満ちた瞳で。

 

 ギャスパーが続ける

 

「……吸血鬼の世界に再び戻るつもりはありませんし、ここが僕にとってのホームです。で、でも、ヴァレリーを助けたい! 彼女は……僕の恩人なんです。彼女のお陰で僕はあの城から抜け出て、ここに辿り着けました。……一度は死にましたけど、それでも今は優しい(あるじ)がいて、頼れる先輩がいて、一緒に遊んでくれる友達もできました……。こんなに幸せになれたのに、彼女だけ(つら)い目に遭っているのかもしれないと思うと……。きっと理不尽な扱いを受けていると思うんです!」

 

 ギャスパーは男の顔をして、リアスに告げた。

 

「僕、ヴァレリーを助けたいです!そして、絶対に死にません! ヴァレリーを救って、ここに戻ってきます!」

 

 決意に燃える今のギャスパーは愉快な段ボールヴァンパイアではなく、1人の男の目と顔をしていた。

 

 その姿に感化され、一誠は無言でギャスパーの頭を撫でる。

 

 普段は頼りないが決める時は決める……グレモリー男子としての矜持(きょうじ)を見せてくれた。

 

 ギャスパーの決意を聞いて、リアスも立ち上がる。

 

「―――行くわ、私。今度こそヴラディ家とテーブルを囲むつもりよ。まずは私が行ってこの目であちらの現状を確認してくるわ。ギャスパーの派遣に関してはそれからでも遅くはないと思うの」

 

 リアスの目にも炎が(とも)っていた。ギャスパーの一言が決起の火を点けたのだろう。

 

 かつて世話になった女の子を助け出す―――男にとってはこれ以上ないシチュエーションである。

 

「じゃあ、俺達も―――」

 

 新達が申し出ようとしたが、リアスは首を横に振る。

 

「いえ、新達は待機していてちょうだい。もしかしたら、と言う事があるかもしれないもの」

 

「……と、言うと?」

 

 新の問いにリアスは指を2本立てる。

 

「前提条件として、ギャスパーの主たる私が直接訪れるのが道理だし、先方にも失礼が無いわ。そしてあなた達にここで待機してもらう理由を大別すると2つね。1つは有事が起きた際に、私がいなくても直ぐに行動できるようにする為。ここに襲来してくる者がいるかもしれないから、対応できるメンバーが残った方が良い。2つめに……」

 

 リアスは眷属全員を見渡す。

 

「私があちらで何かあった時、増援メンバーが必要になるでしょうから」

 

「部長は何かが起きる、または巻き込まれると踏んでいるんですね?」

 

「ええ、祐斗。そうならないのが何よりだけれど、今までの経緯(けいい)、ヴァンパイアの問題から察しても巻き込まれる可能性があるわね。いえ、それを踏まえて行動して何らおかしくない」

 

「だったら尚更、最初からついていった方が良いんじゃねぇのか?」

 

 新がもう一度確認するが、リアスはやはり首を縦には振らなかった。

 

「ゾロゾロと全員で行けばあちらも警戒するわ。力で解決するつもりか?―――と勘繰られて交渉しにくくなるでしょうから、まずは私が行って(しか)るべきよ。……今までこちらの声に耳を傾けなかった彼らなのだから、それぐらいの気構えを持って当然だわ。……私の思慮は浅いかしら?」

 

 リアスはアザゼルに確認を取る。

 

「いいや、力押し眷属の『(キング)』にしては悪くない考えだ。ただ、お前だけじゃ不安だな。今回の1件、ツェペシュ、カーミラ、双方の裏の事情が絡みそうだ。さっきの話は腑に落ちない点がいくつもあるからな」

 

「勿論、最低限の備えはするわ。―――私の『騎士(ナイト)』は連れて行くつもりよ。良いわね、祐斗?」

 

「はい、お任せください」

 

「木場が行くなら安心できます」

 

 一誠の率直な答え。何度も模擬戦で交えてきたので、祐斗の実力は誰よりも知っている。

 

 アザゼルが首をコキコキ鳴らしながら言う。

 

「―――と、俺も行こう。俺は先にカーミラに会ってくる。んでもって、最低でもグレモリーの何名かが吸血鬼の抗争でも動けるように話をつける。いくつか土産(みやげ)を持って行くつもりだ。逆にリアスはヴラディ家に直接行った方が良い。リアスがカーミラ側に顔を出したら、警戒が強くなるだろうからな」

 

 土産持参で交渉の条件を付与させる気だろう。抜け目の無い判断だ。

 

 新達何名かが動けるようになるなら話は別。ギャスパーの危険も軽減できる上に、(くだん)の聖杯を持った吸血鬼―――ヴァレリー・ツェペシュも救えるかもしれない。

 

「でも、先生自らだと警戒されるんじゃ? 堕天使の要人ですし。他にも誰かつけた方が良いのでは?」

 

 一誠の問いに対してアザゼルは首を横に振る。

 

「未だ吸血鬼を相手に戦っている天界と教会―――天使が行くよりは多少マシだろうよ。て言うよりも、神器(セイクリッド・ギア)に詳しい俺が行くのは交渉の武器になる」

 

「あ、聖杯とかで!」

 

「ああ、そういう事さ。今日来た奴らだって、重要な話し相手は俺だったろうからな」

 

 アザゼルがシスター・グリゼルダとイリナ―――天界側のスタッフに言う。

 

「イリナ、シスター・グリゼルダ。この事はミカエルにも伝えておいてくれ。聖杯と吸血鬼、さすがにきな臭さ過ぎる」

 

 シスター・グリゼルダが頷く。

 

「ええ、分かりました。こちらは場合によってはジョーカーを切るとミカエルさまもおっしゃっておりますし、最悪の結果だけは避けたいものです」

 

 シスター・グリゼルダの言葉にアザゼルは軽く驚いていた。

 

「……ジョーカー、そんなに簡単に切れるのか? て言うか、俺達への対応のランクが上がってるな。まあ、偉い連中ばかりが狙ってくるから当然か。聖杯が絡む以上、手助けをジョーカーに請うかもしれない。聖杯と吸血鬼。本来、相容れない聖と闇。多分ロクでもない事にはなるぞ。俺は最低限の犠牲で済むようにしたいんだがな」

 

「ええ、そうならない為にも暇人ジョーカーは存分に使えと四大セラフさまのご意志です。本当、あの子ったら暇さえあると美味しいもの巡りで連絡がつかなくなりますから。そこの新やゼノヴィア以上に困った子です」

 

 どうやらジョーカーはシスター・グリゼルダの知り合いらしい。そこは一先ず置いておき、これからの行動を整理。

 

 リアスと祐斗、アザゼルが吸血鬼側のもとに行く事が決まった。あとのメンバーはギャスパーを含めて、この町で待機。

 

 何かがリアス側で起こったら、改めて合流する手筈となる。

 

 何事も起こらなければ良いのだが……アザゼルの言い分ではどうにも争いは起こりそうだ。

 

 犠牲も出ない事を願うが……そんなには甘くない。

 

 新達にやれるのは、リアスと仲間に降りかかる火の粉を全力で振り払うだけ……。

 

 気合いも入るが、不安も大いに覚えてしまう深夜の会談だった―――。

 

 

――――――――――――――

 

 

「先生、いつ頃旅立つ予定ですか?」

 

「とりあえず、これからリアスと打ち合わせをする。良い機会だからな、ヴァンパイアサイドと交渉しておかないと後々面倒になる」

 

 会談を終えて、一息ついた新は一誠と共に旧校舎の別室に来ていた。

 

 アザゼルに籠手の具合を見てもらう一誠。それに付き添う新はアザゼルから出発予定について訊いていた。

 

 祐斗とアザゼルがいるので、リアスが最悪の事態に巻き込まれる事は無いと思いたいが……それでも心配の種は消えない。

 

 魔法使いとの契約話も重なり、グレモリー眷属はトラブルに見舞われ過ぎている……。

 

 アザゼルの診断が終わり、アザゼルが息を吐く。

 

「イッセー、これから伝説のドラゴンは大事にしろよ? 魂だけになっているとはいえ、それでも貴重な伝説さまだぞ? 滅びてしまって神器(セイクリッド・ギア)にも封印されず、魂の所在すら不明とされるドラゴンがどれだけいるか」

 

「も、勿論、ドライグは大切にしますよ!」

 

「ドライグが幼児退行した元凶とも言えるお前がそんな事を言うとは……明日は大雨だな」

 

 新が茶化していると、アザゼルが何かを思い出したかのように手をポンと叩く。

 

「……と、これも教えておいた方が良いか。ヴァーリからの情報があってな」

 

「ヴァーリから?」

 

「あいつが世界中に足を運んで未知のものを探求しているのは知っているな?」

 

 現在、白龍皇(はくりゅうこう)のヴァーリは育ての親―――アザゼルのように豊かな探求心から、世界中を旅して不可思議なものを見て回っているらしい。

 

「どうにも旅先でよく『禍の団(カオス・ブリゲード)』の構成員に出くわすようだ」

 

「それはお尋ね者になっているヴァーリチームに粛清を与える為ではないんですかね?」

 

 一誠の言う通り、ヴァーリはオーフィスを勝手に新達のもとに送り込んだ罪で『禍の団(カオス・ブリゲード)』から追われる立場となっている。

 

 そもそもヴァーリチームは元から『禍の団(カオス・ブリゲード)』内の他の派閥と折り合いが悪く、事ある毎に睨まれていた……。

 

 アザゼルが話を続ける。

 

「ヴァーリが探していたのは……既に滅んだとされる凶悪な魔物の(たぐい)だ。生きているかもしれないと言う不確かな情報を基に探していたようだ。あいつの強者捜しもそこまでいくと超暇人集団と思えちまうよ。―――で、だ。その滅んだ魔物、主に滅んだドラゴンの生息していたと言う地にヴァーリの他に『禍の団(カオス・ブリゲード)』の構成員―――魔法使いのグループも来ているって言うんだよ。……遭遇は一度や二度じゃないようだからな、偶然ではないだろう」

 

「滅んだドラゴン……それってどんな有名なのがいたんですか?」

 

「お前らが知っているかどうか分からないが、『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハ、『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカ、『原初の晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)』アポプスかな。懐かしい名前だ、あいつら相当危険だったな。―――残虐性が高すぎて封印、または退治されちまったよ。他にも北欧のニーズヘッグ、初代ベオウルフが退治したと言う凶暴なグレンデル。同じく英雄の初代ヘラクレスが試練で倒したラードゥンは伝説の果実を守護していたドラゴンではあるが退治されちまったな。日本だと八岐大蛇(やまたのおろち)か。……特にクロウ・クルワッハとアジ・ダハーカ、アポプスは今じゃ絶滅してしまった『邪龍(じゃりゅう)』でな。ヴリトラも『邪龍』だが、いま言った3匹に比べたら可愛いもんだ」

 

 邪龍―――聞くだけでもおどろおどろしい名称である……。

 

「その3匹、そんなにやばかったのか?」

 

「ヴリトラですら、魂を幾重にも刻まれて意識を封じられただろう? それぐらいしないと邪龍ってのは存在を抹消できない程に強力だ。だが、ヴリトラは神器(セイクリッド・ギア)の融合で意識を取り戻した。何処までも邪龍はしぶといんだよ。その中でも凶悪さで筆頭だったのがクロウ・クルワッハ、アジ・ダハーカ、アポプスだった」

 

 ヴリトラでさえ不気味と感じるのに、邪龍筆筆頭格の3匹はそれ以上……恐ろしい限りだ。

 

「……二天龍より強いんですか?」

 

「それはさすがに現役時代の赤白の方が強いだろう。だが、出来るだけ各ドラゴンも『邪龍』と争うのを避けたそうだ。『邪龍』、もしくはそれに近しい属性のドラゴンは相手にするのがこの上なく面倒だったとな。それはつまり触れちゃ不味いって事だ」

 

 まさしく触らぬ神ならぬ……触らぬ『邪龍』に祟りなしと言ったところだろう。アザゼルはアゴに手をやりながら続ける。

 

「しかし、滅んだドラゴンども―――特に邪『邪龍』を語るのは久しぶりだ。だが、よく分かるだろう?―――力があり、暴れん坊のドラゴンは例外なく滅ぼされている。五大龍王(ごだいりゅうおう)最強とされるティアマットは要領が良いんだろう。上手く世俗に()け込みながら好き勝手に生きているようだ」

 

「俺も元々はドラゴンの欠片から創られたけど、滅ぼされるのは御免だからな」

 

「やっぱりドラゴンはタンニーンのおっさんのように威風堂々な姿が良いな。龍王って感じがして、俺は格好良いと思います」

 

 新と一誠の意見にアザゼルも同意する。

 

「ああ、そうだな。現存する伝説のドラゴンと付き合うならあいつにしておいて損は無い。あれこそドラゴンの王だ。あんなドラゴンは今じゃ他にいないから、よーく見て参考にしておけ。何はともかく、水面下でテロ集団も何かを企んでいるようだ。……また、嫌な事が起こるかもしれないと覚悟だけはしておけ」

 

「はい」

 

「おう」

 

 アザゼルは途端に新と一誠の頭に手を乗せる。

 

「いつも悪いな。また、お前らに貧乏くじを引かせる事になるかもしれない」

 

「本当、まいっちまいますね。でも、来るなら退(しりぞ)けるしかないでしょう。俺達はそうやって突き進んできましたから」

 

「そうだな、愚痴ったところで敵が手加減してくれるわけじゃない」

 

 敵が来るなら倒すしかない。生き残る為には強くなって打破していかなければならない。

 

 それがグレモリー眷属、駒王学園(くおうがくえん)オカルト研究部の道である。

 

「まあ、俺も俺で冥界の事業に関して忙しい面があるんだけどな」

 

「何か始めたんですか?」

 

 一誠が問うと、アザゼルが途端にいやらしい顔付きになる。

 

「ああ、土地を転がしてんのさ。冥界が悪魔側と堕天使側で分かれてるのはお前らも知ってるだろう?」

 

「ちょくちょく話には聞いているな」

 

「実はな、悪魔側に比べると堕天使側は住人の数に比べて相当土地が余ってんだよ。堕天使側に住んでるのは、純粋な堕天使と堕天使と関わりを持つ種族、あとは堕天使と異種族のハーフだ。種の存続が(あや)ぶまれる悪魔と比べても住んでる者は少ない。何せ悪魔や天使と違って、俺達は転生システムを敢えて選択しなかったからな」

 

 そう、アザゼルを含めグリゴリは堕天使を増やす転生システムを敢えて作らなかった。

 

 アザゼル(いわ)く、「悪い天使は俺達で終わりで良い」らしい。

 

「―――それで、だ。余った土地を使って、同盟関係を結んだ勢力向けのリゾート地を開発してんのさ。商業施設やカジノなんかも大々的に計画されていてな。既に別荘を持ちたい各勢力のセレブ連中から注文が殺到してる。俺はかなりの産業になると踏んでる。ま、堕天使も色々と資金―――先立つ物が必要だから商売していかないとな」

 

 ここでドアがノックされる。入ってきたのはリアスだった。

 

「アザゼル? 診察は終わったかしら? 日本を発つスケジュールを決めましょう」

 

 アザゼルが「おう、そうだな」と言ってリアスと共に出発スケジュールの打ち合わせをしに行く。

 

 新と一誠も部室に戻ろうかと思った矢先―――新が“ある匂い”に気付いた。

 

「どうした、新?」

 

「一誠、下の方から何か匂ってくるんだよ」

 

「匂い? どんな匂いだ?」

 

「それが……熱した油のような匂いなんだ。それに……食い物の匂いも混じってる」

 

 新が言うには複数の食べ物の匂いが、下から来ているらしい。

 

「これは……鶏肉? 他には醤油、ニンニク、生姜(しょうが)、一味唐辛子。それにカキピーの匂いもしてくるぞ……」

 

「何か唐揚げみたいだな」

 

 一誠が口走った唐揚げと言うワードに―――2人はハッと顔を見合わせ、“とある人物”の顔を脳裏に浮かばせる。

 

「「ま、まさか……っ」」

 

 新と一誠はダッシュで下の階に降りていった……。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「……唐揚げの呼吸、(いち)の型―――下味(したあじ)

 

 一口サイズに切られた鶏肉がボウルに入れられ、醤油、擦り下ろした生姜とニンニク、塩コショウ、一味唐辛子を振りかけられる。

 

「唐揚げの呼吸、()の型―――揉味揉味(もみもみ)

 

 ボウルの中で鶏肉が揉み込まれ、肉の繊維が柔らかくなる……っ。

 

 これぞ、コネ(どく)ならぬ―――揉み(どく)……っっ!

 

 揉み込まれた鶏肉は水気を取られ、(あらかじ)め砕かれたカキピーが片栗粉と混ざり合う。

 

 「唐揚げの呼吸、(さん)の型―――粉磨不士(こなまぶし)

 

 鶏肉はカキピーと片栗粉の中へ潜り、衣を纏っていく……。

 

 そして、いよいよ行程は終盤……熱した油の中へ落とされる。

 

 泡立つ気泡、香ばしい匂いが(ただよ)い、作り手の口元が歪む。

 

 鶏肉達は狐色に揚がり、網皿の上で余分な油を切られる……。

 

 「そして、これでフィニッシュだ……。唐揚げの呼吸、()の型―――二度揚戯(にどあげ)!」

 

 一度揚げた鶏肉を、今度はより高温となった油の中へ落とし……水分を飛ばす。

 

 二度揚げされた鶏肉達が更に盛られ、上に白髪ネギを添えられる……。

 

「フッフッフッ……やったぁ、完成した……っ。これこそ悪魔的かつ禁断の唐揚げ、その名もカキピー唐揚げ……っ」

 

 作り手は出来具合に満足したのか、ニヤリと口の端を吊り上げ、舌舐めずりする。

 

 その1つを箸で掴み、いざ食そうとした時―――その部屋の扉が勢い良く開かれる。

 

「お前ぇぇぇ……何やってんだぁ⁉」

 

「あれ、イッセー先輩。どうしたの?」

 

「それはこっちの台詞だ、シドォッ! お前うちの調理実習室で何作ってんだよっ⁉」

 

 一誠が声を荒らげて言った通り、旧校舎の調理実習室に居たのは―――造魔(ゾーマ)の一員、シド・ヴァルディだった……。

 

 唐揚げと言うワードで真っ先に彼の顔が浮かび、匂いを辿って調理実習室に着いた新と一誠。

 

 到着して早々に新はガクッと(こうべ)を垂れ、一誠はツッコミを入れてしまった。

 

 シドが得意気に語る。

 

「見て分からない? 唐揚げ作ってたの」

 

「なんでこんな真夜中にうちの調理実習室に忍び込んで、唐揚げを作ってるんだって聞いてんだよ!」

 

「いや~、唐揚げ好き(カラアゲスト)として(うず)いちゃってさぁ。作りたくなっちゃったんだよねぇ。せっかくだからアーシア先輩に食べてもらおうと思って張り切っちゃった♪」

 

「張り切っちゃった♪―――じゃねぇだろぉぉぉっ! いろいろツッコミどころが多くて何から指摘して良いのか分からねぇよ! だいたい何なんだよ、唐揚げの呼吸って⁉」

 

「フッ、イッセー先輩。唐揚げの呼吸を知らないの? 唐揚げ好き(カラアゲスト)としてはまだまだだね。基本中の基本なのに」

 

「知らねぇよ! また勝手に編み出した新語(しんご)じゃねぇのか⁉」

 

「うん、そうだよ」

 

「だーもうっ! 何処までもマイペースを(つらぬ)くコイツ腹立つっ!」

 

「やめとけ、一誠。いちいち突っ掛かるだけ無駄だ」

 

 新はどうどうと一誠を(なだ)め、シドは唐揚げが乗った皿を2人の前に突き出す。

 

「そうだよ、イッセー先輩。きっとお腹が空いてるからイライラしちゃうんだよ。ほら、コレでも食べて元気出しなよ」

 

 未だにマイペースなシドに対して一誠は文句を言おうとするが……カキピー唐揚げの香ばしい匂いが鼻に入り込み、喉元まで上がっていた言葉を下がらせる。

 

 ゴクリ……っ。

 

「アレアレ~? イッセー先輩、食べたくないのかなぁ?」

 

「ふ、ふざけんな。だだだ誰が食うかよ、そんな怪しげなもんを」

 

「ヨダレ垂らしながら言っても説得力ねぇぞ」

 

 カキピー唐揚げの誘惑に呑まれそうになった時、またしても思わぬ来客がやって来る……。

 

 室内の端にドラゴンの紋様が描かれた扉らしき物体が出現し、それを開けて何者かが出てくる。

 

 出てきた人数は2人。その内の1人は肩まで伸びた茶髪、旋毛(つむじ)辺りからピョコンと主張するアホ毛、中性的な顔立ちに深い紫色の眼が印象的だ。

 

 一見すれば誰もがその者を女子と見紛(みまが)うだろうが―――名は八代渉(やしろわたる)、残念ながら男子である。

 

 もう1人は腰まで伸びる白髪に琥珀色の眼、こちらは言わずもがな(れっき)とした女性―――高峰祐希那(たかみねゆきな)

 

 久しぶりの顔合わせに一誠は驚いた。

 

「おおっ、渉じゃねぇか! 久しぶりだな」

 

「はい、お久しぶりです」

 

 久しぶりと言うのも無理はない。渉と祐希那は今まで休学していたのだ。

 

 魔獣騒動が収束した後、2人は休学届けを提出し、(しばら)く京都に身を置いていた。

 

 その理由は―――闇人(やみびと)と妖怪との和平の仲介役、三大勢力との溝を埋める為の復興活動に(いそ)しむ為だった。

 

 今は穏健派として身を置いているが、元々闇人(やみびと)は妖怪だけでなく三大勢力の敵として、幾度となく新や一誠達の前に立ち塞がってきた。

 

 しかし、先日の魔獣騒動を機に三大勢力を敵視していた闇人(やみびと)(ほと)んど討伐され、組織も弱体化の一途を辿り、『2代目キング』こと蛟大牙(みずちたいが)の意向で三大勢力、妖怪との和平案が承諾された。

 

 無論、今までの(おこな)いが全て帳消しにされるわけではなく……いくつかの制限と、被害を受けた冥界および京都の復興支援を命じられ、肩身が狭い毎日を送っているらしい。

 

 渉も元を辿れば闇人(やみびと)の父、人間の母との間に生まれた者―――所謂(いわゆる)ハーフなので、和平案および復興支援の仲介役として立ち合う他なかった。

 

 休学届けを提出してからは(せわ)しなく動き回り、ようやく落ち着いてきたので顔を出せるようになったと言うわけだ。

 

「皆さんが頑張ってくれたおかげで、やっと復学できるようになりました。これからもよろしくお願いします」

 

「おう、よろしくな」

 

「はいはい、感動もしない再会はそれまで。それより……そいつ誰なのよ? 見ない顔なんだけど」

 

 渉の隣にいる祐希那がシドに気付き、新と一誠に訊く。

 

 2人はカクカクシカジカとシドについて説明し、渉と祐希那はシドの方に視線をやる。

 

「じゃあ、このヒトが話に聞く『造魔(ゾーマ)』って組織の?」

 

「ああ、しかもバカみたいに強い上、こんなマイペース野郎だから手を焼いている」

 

「敵地に堂々と居座ってるって事⁉ 何よそれ! いつから⁉」

 

「少し前からだ。しかも、お前らと同じクラスらしい」

 

「そうだったんですか。とりあえず、クラスメイトとしてよろしくお願いします」

 

「渉! こいつは敵だから頭下げなくて良いのよ!」

 

 馬鹿正直に頭を下げる渉を祐希那が(いさ)め、シドは「よろしくね~♪」とにこやかに手を振る。

 

 シドは再度カキピー唐揚げが盛られた皿を前に突き出してきた。

 

「んじゃ、お近づきのご挨拶って事で。唐揚げ食べる?」

 

「いらないわよ! 何なのアンタ⁉」

 

「そんなに目くじら立てないでよ、お姉さん。僕は美味しい唐揚げが出来たから、先輩達に食べてもらいたいだけ。大丈夫、毒入りなんてセコい事はしてないからさ」

 

「立場分かってる? アンタは敵地のど真ん中にいるのよ? 総がかりでアンタを仕留めるわよ?」

 

 祐希那がそう言った途端、シドはニヤリと不気味な笑顔を見せた。

 

「へぇ……先輩達全員で遊んでくれるんだぁ。良いよ?  だったら僕も本気で遊んじゃおっかなぁ……っ!」

 

 無邪気から邪気に転換したシドの様子に祐希那は目を見開き、構えようとするが……新と一誠に制止される。

 

「やめろ、考え無しに突っ掛かるな。こんな奴でも『造魔(ゾーマ)』の幹部、今ここで戦ったりしたら周りを巻き込むだけだ」

 

「悔しいけど、こいつの強さは本物なんだ……っ! 下手に刺激したら相当マズい事になっちまう。だから、ここは(こら)えてくれ……っ」

 

 祐希那は反論しようとするが、新と一誠の歯痒そうな表情を見て言葉を詰まらせる……。

 

 2人の心中を汲み取ったのか、祐希那は渋々構えを解いた。

 

「……分かったわよ。仮にもアンタ達は先輩だからね、顔を立ててあげるわ」

 

「良かったねぇ、先輩。話を分かってくれて。んじゃ、唐揚げどうぞ♪」

 

 しつこくカキピー唐揚げを突き出してくるシド。恐らく食べるまで1歩も退()かないのだろう……。

 

 仕方ないので新が先陣を切る事にした。

 

「……本当に毒は入ってねぇんだな?」

 

「もう~、疑り深いなぁ~」

 

 シドがカキピー唐揚げを1つ摘まんで食べる。

 

 ザクザクと小気味良い音を立てて咀嚼(そしゃく)し、毒の(たぐい)が入ってない事を証明する。

 

 ゴクンっと飲み込み、「ほらね、何も無いでしょ?」と無実をアピール。

 

 その様子を見た新は眉を潜めながらも、カキピー唐揚げに手を伸ばし―――ようやく食べた。

 

 1回、2回、3回と噛む回数を増やし、遂に飲み込み―――黙り込む。

 

「…………っ」

 

「ど、どうした、新?」

 

「…………っ」

 

「新さん、どうしました?」

 

「…………っ」

 

「ちょっと、どうしたのよ⁉ まさか、やっぱり毒入り―――」

 

「……………………うんまッッッッッ!」

 

 突然声を張り上げた新に驚く一同。今まで沈黙していたのは毒が入っていたからではない。

 

 “単純にカキピー唐揚げが美味しかった”だけのようだ……っ。

 

 困惑する一誠達を尻目に、新はワナワナと震え出す。

 

「細かく砕いたカキピーが生むクランキーな食感……っ。揉む事で鶏肉の繊維が(ほぐ)れて柔らかくジューシーな仕上がり……っ。更に一味唐辛子が程よいアクセントとなり、二度揚げで閉じ込められた旨味が口の中に溢れてきやがる……っ! ウメェ……ッッ!」

 

「そんな泣く程にっ⁉」

 

「こればっかりは……認めるしかねぇ……っ。コイツは……真の唐揚げ好き(カラアゲスト)だ……っ」

 

 あまりの美味さに涙を流し、天を(あお)ぐ新。

 

 完全なる無実の証明とお墨付きを貰ったシドはドヤ顔で一誠にも勧めてくる。

 

「さあさあ、イッセー先輩。食べなきゃ損だよ~?」

 

「う……っ、分かったよ。食ってやるよ!」

 

 (なか)ばヤケクソで一誠はシドの作ったカキピー唐揚げを口に放り込み、咀嚼する。

 

 結果は勿論―――。

 

「……………………うんめぇぇぇぇッッ! 何だこれ⁉ めちゃくちゃ美味(ウマ)いぞ……っ!」

 

「ほ~ら、言った通りでしょ~?」

 

「くぅぅぅぅ……っ! クソぉぉぉぉ……っ! 美味すぎて涙が勝手に出ちまう……っ。何なんだよ、この美味さは……っ⁉」

 

 カキピー唐揚げの圧倒的美味さに打ちのめされた一誠も、新と同様に涙を流し……天を仰ぐだけだった。

 

 残る砦は渉と祐希那のみ。

 

「ちょっ、ちょっと! なんで泣いてんのよ⁉ たかが唐揚げ1つで大げさ―――」

 

「祐希那、コレ本当に美味しいよっ。食べてごらん」

 

「って、アンタも勝手に食うなぁぁぁぁ!」

 

 いつの間にかカキピー唐揚げを食べていた渉にキレる祐希那。

 

 渉はカキピー唐揚げを摘まんで祐希那の前に差し出す。

 

 祐希那は渋々カキピー唐揚げを食べてみる事に……。

 

 結果は―――。

 

「―――超美味しいんですけど……っ」

 

 見事に陥落。ここに居る4人全員がカキピー唐揚げの美味さに屈した。

 

 感動して言葉も出ない新、一誠、祐希那に代わって渉が言う。

 

「シドさんでしたっけ? 美味しい唐揚げ、ありがとうございます。でも、本来はお互い敵同士です。何か悪い事をするようなら、僕達も黙っていませんよ?」

 

「フフンッ、良いね良いねぇ。そう来なくちゃ。でも、今日はノーサイドだから安心しなよ。これからもよろしくね~♪」

 

「はいっ」

 

 その後、リアス達も調理実習室に駆け込んで来たが―――シドが提供したカキピー唐揚げの美味さにヤられ、全員が骨抜きにされたとか……。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

『いくら赤龍帝でも権利を持っていない、ただの従僕であるのなら、私に意見する資格は無いでしょう?』

 

『あなたも赤龍帝と同じく、ただの中級悪魔に過ぎない従僕』

 

 日も上がらない早朝―――。

 

 新は自宅の大浴場にてシャワーを浴びていた。

 

 いつもより早く目が覚めてしまった新はベッドを抜け出て、リアス達を起こさずに来ていた。

 

 脳内で思い返していたのは昨夜カーミラ派の吸血鬼―――エルメンヒルデが放った言葉だった。

 

 ……ただの従僕、発言する権利を持たない……。

 

 確かに冥界で持て(はや)されている新と一誠だが、他の勢力からは「リアス・グレモリーの眷属」と見られている。

 

 真実ゆえに外交の場面だと役に立たない……。

 

 北欧のオーディンや京都の妖怪とは良い関係を築けたが、あれは特殊なケース。

 

 基本的に新や一誠は他勢力から見れば、発言力の無い一介の中級悪魔である。

 

 こう言った場面でリアスやアザゼルの力にもなれないのはとても歯痒いだろう……。

 

「……だから、貴族だの純血だの(うた)ってる連中は好かねぇんだよな……」

 

 大事な後輩を……ギャスパーだけじゃなく、誰かを正面から庇う為には力以外のモノも必要となってしまう。一誠もそれを思い知らされただろう……。

 

「……思い上がるな。今の俺はもう独り善がりの俺じゃない。やれる事をやれば良いんだ」

 

 今はとにかく自分に出来る事をするべきだ。

 

 いつか必ず上級悪魔になれる時がやって来る……。その時までに力を蓄えていけば良い……。

 

「一誠も、祐斗も最上級悪魔になるって決めたんだ。……なら、俺も最上級悪魔になってやる……っ」

 

 決意を改めて口に出して確認していた時、不意に大浴場の戸が開く。

 

 顔を向けてみると―――そこには今まさに入ってきたばかりの全裸のレイヴェルが居た。

 

「……新さま?」

 

「お、レイヴェルか。ワリィな。誰も入ってないもんだから使ってた」

 

 一応の謝罪はする新だが、裸のレイヴェルから目を逸らさなかった。

 

 小柄な身体でありながら、しっかりと魅力的な女性の体つき。豊かな双丘(おっぱい)。いつものドリルロールも下ろしているので、また違う印象が魅力を引き立てる。

 

 上がった方が良いか?と思慮していた新にレイヴェルが告げる。

 

「……お、お背中をお流しします!」

 

「―――ファッ?」

 

 予想だにしなかった一言に新は間の抜けた返事をしてしまった。

 

「……いかがですか?」

 

「あ、ああ。良いぞ」

 

 ―――と言うわけで、レイヴェルにタオルで背中を洗ってもらっている新。

 

 背中を流してもらっている間、会話が無いのは気まずいので……昨夜の吸血鬼の話題で繋いでいた。

 

「……私、今回生まれて初めて純血の吸血鬼と出会いましたけれど……まだ理解できないところもあって……。ギャスパーさんとなら直ぐにお友達になれたのに……」

 

 レイヴェルも複雑な心境なのだろう。

 

「……お友達のギャスパーさんを取り引きの条件に指定した事もありますけれど、自分達以外はどうでもいいと言う姿勢が……。ですが、これもあちらにとっての政治なのでしょうね。……難しい問題ですわ。勿論、ギャスパーさんをあちらに闇雲にお貸しするのもどうかと思います。……でも、悪魔も合理的で純血を(とうと)びますわ。私も純血の悪魔です」

 

 そう、レイヴェルはフェニックス家のお姫様で長女でもある。上流階級で生きている生粋の上級悪魔。

 

 それゆえに思うところが多々あるのだろう……。

 

「純血の悪魔でも様々な友達を選べます。私も小猫さんとギャスパーさん、クラスメイトの皆さんが仲良くしてくれますもの。正体を隠さざるを得ないのが残念ですけれど……。種族が違おうともお友達をキチンと選べる事ができれば素敵だと思うんです」

 

 レイヴェルは普段はツンとしているが、根は本当に純粋で良い子だ。

 

 ―――正体を隠す。確かに話せないし、話す事で危険に晒す事になってしまう。

 

 せめて学園にいる間だけは平和であって欲しいと願うばかりだ。

 

「今回の1件で思い知った。俺達が外交の場で何かを言うには、ただ実力があるだけじゃダメだってな。一介の中級悪魔じゃ聞いてもらえない……改めて上を目指さなきゃいけねぇってよ」

 

 お湯で背中を流してもらった後、レイヴェルが新に訊いてくる。

 

「新さまは……そ、その、将来のご眷属は決めておられるのですか?」

 

「眷属? ああ、上級悪魔になった時のか? 実はまだ決まっていないんだ」

 

 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は最高で15枠、相手によっては複数の駒を使うかもしれない。

 

「ゼノヴィアは俺についてきてくれるって言うから、リアスとトレードしようかって話は出ている。まあ、確定したわけじゃないけどな。俺が独立するなら、ゼノヴィアを眷属にして連れていった方が早めに行動できるだろうし、仕事もやりやすくなるだろう。同様に一誠もアーシアを眷属にして連れていくらしいから、そうなるとリアスの眷属がだいぶ抜ける事になっちまう。その抜けた分の穴埋めはどうするのか、その辺が明確に決まってねぇんだ」

 

 そこまで言って新は思った。

 

 “レイヴェルが将来もマネージャーでいてくれれば、心強いだろう”と……。

 

 そんな新の心中に反応するかのようにレイヴェルが言う。

 

「……私、新さまのマネージャーをしていきたいです」

 

「ああ、嬉しいぜ。頼もしい限りだ」

 

 良い雰囲気になったところで、新はこんな事を言い出す。

 

「よしっ、今度は俺がレイヴェルの背中を流してやるか」

 

「……っ。よ、よろしいのですか……?」

 

「さっきの礼も兼ねてな。嫌なら別に構わないが―――」

 

「い、いえ……是非お願いします……っ」

 

 少し顔を赤らめて承諾するレイヴェル。新は早速タオルを泡立て、彼女の背中を優しく洗っていく。

 

「お、お上手ですね……新さま……」

 

「まあ、よくリアスや朱乃も洗ってやってるからな」

 

 慣れた手付きでレイヴェルの背中を洗い、お湯で泡を洗い流す。

 

「ほい、終わったぞ」

 

「ありがとうございました……。あの……っ」

 

「ん、何だ?」

 

「こ、今度は……前の方も、お願いします……っ」

 

 レイヴェルの口から驚きの言葉が出てきた―――っ。

 

 今度は前……(すなわ)ち、レイヴェルのおっぱいを洗って欲しいと言う事だ……っ。

 

 一瞬ギョッとする新に、レイヴェルは艶のある表情で訊いてくる。

 

「ダメ、でしょうか……?」

 

「洗いますっ」

 

 即決した新。レイヴェルは新の方を向いて座る。

 

 小柄な身体に釣り合わない豊かなおっぱいがプルンッと揺れ、レイヴェルの顔が更に紅潮する。

 

 新は再びタオルを泡立て、レイヴェルのおっぱいを洗い始めた。

 

「ん……っ、んんっ、……ぁん……っ」

 

 丁寧に洗われているせいで無意識に艶声(つやごえ)を発してしまうレイヴェル。

 

 必死に羞恥心を(こら)える姿も相まって、新の手付きがだんだんエスカレートする……。

 

 タオルを落とし、レイヴェルのおっぱいを手で洗い始める新。

 

 ゆっくりと撫で回し、緩急をつけて揉み、乳首も指で(いじ)りまくる。

 

「はぁぁん……っ! あ、あらたっ、さまぁ……っ! そこは……っっ」

 

「そんな声を出されちゃ、抑えられるわけねぇよ」

 

 新は執拗にレイヴェルのおっぱいと乳首を洗い、責め続ける。

 

 全身を駆け巡る快感にヤられたレイヴェルは、遂にその場でへたり込んでしまう。

 

 艶かしい息遣いと共に上下するおっぱい。レイヴェルの表情は完全に(とろ)けていた……。

 

「あ、新さま……っ。私、こういう事は初めてで……どうしたら良いのか分かりません……っ。ですから、新さまのしたい事を……なさってください……っ」

 

 それは情事OKとも言えるサインだった。そんな事を言われてしまったら、もう止まれない……。

 

 新はレイヴェルの唇にキスしようとした―――その寸前、背後からガシッと頭を掴まれる。

 

 新の首が強制的に背後に向けられ、自分の頭を掴んでいる者の姿を目の当たりにする。

 

 新の頭を掴んでいるのは―――全裸の小猫だった……。

 

 ミシミシと頭蓋骨が嫌な音を立てる中、新は引きつった笑顔を作る。

 

「こ、小猫さん……。いつから居ましたか……?」

 

「……30分前からいました。新先輩が入ってきたので、湯船の中に隠れてました」

 

「ほ……ほぉ、潜水の記録にチャレンジしていたのかな? それなら見事に新記録樹立だな……」

 

「……先輩、レイヴェルに何をするつもりでしたか?」

 

「そ、それは……ほら、頑張ってくれてるマネージャーの後輩を(ねぎら)ってやろうと―――」

 

「……レイヴェルに何をするつもりでしたか?」

 

「いや、だから……」

 

「……レイヴェルとナニをするつもりでしたか?」

 

「小猫さん、話を最後まで―――」

 

「……ナニをするつもりでしたか?」

 

 (かたく)なに問い詰めてくる小猫。その異様な迫力に新は「……すみません」と弱々しく謝るしかなかった。

 

 小猫はそのまま新を引き()っていく。

 

「……先輩、そんなにおっきいのが良いんですか? ちっこいのは嫌いですか?」

 

「落ち着け小猫、俺はそんな事で女を区別したりしない。ただ、あの空気だと行かない方がしつれイダダダダダダッ! 割れる! ミシミシと頭蓋骨が割れるっ!」

 

「……言い訳なら聞いてあげますので、とりあえず上がりましょう」

 

「こ、小猫……っ。よく聞いてくれ。確かに俺はレイヴェルの艶っぽい雰囲気に流されそうになった。だが、小猫だってレイヴェルと同じ土俵―――つまり、俺とお前の体を洗い合えばその気になってもおかしくなダダダダダダァッ! 更に握力が強くゥゥゥゥゥゥっ!」

 

 絶叫する新は小猫によって強制連行されていった。

 

 大浴場に残されたレイヴェルは息を(ととの)え、もどかしい表情となる。

 

「もうっ、小猫さんってば……良いところでしたのに……っ。でも、その場の流れって怖いですわね……。私、あんな風に新さまを誘惑するなんて……っ」

 

 

―――――――――――――――

 

 

「はぐれ術者の連中との最終確認は?」

 

「問題ない。奴らも存分に楽しむそうだ。そんなだから協会を追放されたんだ」

 

「ハハハ、テロリスト集団に身を置いている魔術師の俺達が言えた義理じゃないな。―――で、リーダーは本当にやるつもりなのか?」

 

「それが今の上の意向ってんだから、仕方ないだろう」

 

「イカレてる。シャルバも曹操(そうそう)も大概だったが、実際今回のはヤベェよ」

 

「いつだって俺らがやる事はヤバい事ばかりだ。もう、あとになんか引けやしない」

 

「リーダーは準備が整ったって連絡をくれたよ。ま、あのヒト達がいなかったら、うちの組織も俺らも終わりだったんだ。付いていくしかない。―――俺らはロクな生き方なんて出来やしないよ。だったらトコトン楽しむべきだ」

 

「行く先々でヴァーリ達と出会ったのに(えん)を感じたわ」

 

「強者を呼ぶと言うドラゴン。だったら踊り合えってな。―――ドラゴン同士で」


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