頭を使うのも結構だが、体も鍛えなければならないのがグレモリー眷属の厳しい現実
魔法使いの書類選考と悪魔稼業の
広大なフィールドで二組に分かれて修行しており、この場には戦士タイプの新、一誠、祐斗、ゼノヴィア、イリナがいた
新と一誠は共に祐斗との一戦を終えて休憩していた
新も新しく会得したモード―――『
更に……
自発的に付ける傷は小さな物になってしまうので、どうしても威力不足に
『やっぱり瀕死になり得るぐらいの致命傷を負わないと発揮できねぇか……』
汗だくで座り込み、スポーツドリンクを飲みながらそんな事を考える新の視界に祐斗が映り込む
グラムをジッと眺め、息を吐いてから一言漏らす
「……やはり、グラムは使いどころが難しいかな」
「お前でも使うのが困難なレベルなのか?」
一誠がそう訊くと、祐斗は目を細める
「技術的なものもあるけどね。とにかく消耗が激しいんだ。これを思いっきり振るうだけで僕の体力、魔力、いろんなものが大量にすり減ってしまう。1回の戦闘に連続で使えば、命すら削るだろうね。まさに魔剣の帝王と呼ばれるだけはある代物だよ」
それだけグラムが有している
近付けるだけでも影響が出るので、アザゼルも祐斗に普段は亜空間にしまうよう指示していた
祐斗が右手の先の空間を歪めて、そこにグラムをしまい込む
ゼノヴィアがデュランダルを亜空間に格納しているのと同じ原理で、祐斗はそこにジークフリートから得た各種魔剣を収納している
「ジークフリートの野郎はよくそんなのを使えたな」
「いや、だからこそ、彼も容易に本気のグラムを使えなかったんじゃないかな。
「他の魔剣は?」
「良い魔剣だよ。ただ、魔のアイテムだけあってリスクはあるけど。どれも持ち主が呪いを受けるか、使う度に持ち主の何かを削る。ジークフリートは……長生きするつもりは無かったんだろうね。もしくは戦士育成機関で生まれつき命をいじってあったか」
祐斗はスポーツドリンクを飲んだ後に言う
「どちらにしたって僕が直接持つよりも、龍騎士達に持たせて運用させた方がデメリットは少ないだろうね」
「……魔剣を持った龍騎士に阻まれて木場に触れる事すら出来なかったぞ。ふふふ、所詮パワーバカの私はアウトレンジの攻撃に弱いんだ」
体育座りしてイジケているのはゼノヴィアだった……
祐斗にテクニックのトレーニングを受けているゼノヴィアは、彼の厳しい洗礼を受けていた
デュランダル砲と破壊力重視を出来るだけ使わずに、他のエクスカリバーの特性を使って祐斗と模擬戦をしているのだが……技術を取り入れようとすればする程、祐斗との格差を思い知らされたそうだ
祐斗が進言する
「パワーを解禁したキミなら、魔剣を持った龍騎士も軽く
エクスカリバーの8つの能力は確かに驚異的で、ゼノヴィアはデストラクションの破壊力重視を主体にしか使えていないが……最低でも擬態するミミックや透明になるトランスペアレンシーはマスターして損は無い
実際、それらの特性を覚えてきているものの……祐斗との溝が開けられているのは事実
だが、ゼノヴィアに関してはエクスカリバーの能力をいくつか覚えた方が必ず強くなれる
本人もそう感じているからこそ、祐斗相手にトレーニングを申し込んだのだろう
修行相手に任命された祐斗は「……やっとゼノヴィアがテクニックタイプのトレーニングをしてくれる……!」と感動して打ち震えていたそうだ
トレーニングに付き添っているイリナがゼノヴィアからエクス・デュランダルを借りて、振るってみせる
刀身がウネウネと変化して、サイズの大きい日本刀の形となった
「ほら、ミミックはこうするのよ。イメージ力が必要よね。使いこなせればいろんな物に変化させられるんだから」
イリナはミミックの元持ち主だけあって、擬態のやり方についてはゼノヴィアよりも
バアル戦のロスヴァイセも一時的な使用とはいえ、大した技量だった
8つに分かれたエクスカリバー、それぞれに独自の特殊能力を有していた
それは統合し、デュランダルと合体した後も消えずに残っている
破壊力が凄まじく、ゼノヴィアは元々その聖剣の持ち主だった為、特に使いこなせている
次に
イリナは平常時には紐状にして、戦う時は日本刀にしていた
これも使用者によって多様な姿を見せる
3番目は
所有者のスピードを底上げし、振られた剣の速度も増す
使えれば幻術で敵を惑わし、
たとえばエクソシスト中に相手の悪魔や吸血鬼を弱らせたり、祓い師の力をアップさせたり、またはミサに参加している者達に幸運を授けたりと、能力は特異な部類に入る
これも使いこなすには独特の才能が必要で、ゼノヴィアはあまり得意としていない
7つめは
如何なる存在をも意のままに操れるようになる特性を持っているのだが……
「私はアーサーのように伝説の魔物を支配できるような才能は発揮できないだろうな。……上手く発動すらしない」
ゼノヴィアの言うように
最後の8つめは
“灼熱”の名が付く通り、刀身に高熱を付与する事が出来るが、この特性も習得に難航していた
刀身に赤い紋様が刻まれ、ブレイズ・エクス・デュランダルと化した
数ある特性の中、支配の力の習得は1番最後になるだろうとゼノヴィアだけでなく、リアスも予想している
イリナもサポートに入ってくれているので、最低でも擬態の特性は完全に習得できるだろう
ちなみにイリナも新達のトレーニングに付き合って修行を開始しており、天使用に量産された聖魔剣の使い方を祐斗に聞きながら、独自の戦闘スタイルを確立させようとしていた
イリナは天使だが、悪魔で分類するならテクニックタイプのウィザード寄りで、ロスヴァイセから魔法を訊いて覚えてきているらしい
「このままじゃ、自称剣士になってしまうわよ、ゼノヴィア」
イリナにそう言われ、ゼノヴィアは「ガーン!」と大口を開けてショックを受けていた
ゼノヴィアは涙目になりながらも言い返す
「……自称天使の
それはイリナにとって
「私、天使だもん!
「俺に振るな! ……と言うか、俺とイリナって実は幼馴染みだったな。たまに忘れちまうわ」
新がそう言うや否や、ゼノヴィアがせせら笑う
「なるほど、イリナ―――
ゼノヴィアがイリナをイジる新しいワードを得てしまい、当のイリナも頬をいっそう膨らませて目を潤ませる
「天使だもん! 幼馴染みだもん! 酷いもん!」
「やーい、自称幼馴染みぃ」
「何よ、自称剣士! 脳みそまで筋肉ぅっ!」
『なんつー低レベルな口論だ……っ』
横から見ていた新も頭を抱える程の低レベルな舌戦……
出会った当初は危ない雰囲気を漂わせていたのに、今ではパワーバカと自称天使……
恐らくこっちが本来の年相応な姿なのだろう
それを見せてくれていると言う事は、それだけ新達と打ち解けた証拠でもある
「やっぱり実戦が1番だと思うぞ。また『はぐれ悪魔』の捕縛任務が出ないだろうか。もしくは
ぼやくゼノヴィア
実は英雄派の事件以来、理不尽な取引で上級悪魔の下僕にされていた
曹操達が
ツラい思いをして逃げ出してきた者は話し合いに応じて捕縛と言う形になるが、力を得て暴走してしまった者は……やむを得ず討伐する事もある
しかも
人間界の日本に逃げてきた者に関しては、リアスを含めたグレモリー眷属が受け持ち、冥界ではサイラオーグが討伐に駆り出されて活躍しているそうだ
現段階で本当の平和と言うものは極めて難しい……
巨大な魔獣によって破壊された冥界の各町村は復興し始めたが、心の平穏はそう簡単に戻らない……
加えて
それらを食い止められるよう、新達は鍛えるしかない
「さて、そろそろ一旦切り上げて、あっちに行ってみるか?」
新の言葉に皆が賛同し、リアス達がトレーニングしている場所へ歩き出した
―――――――――――――――――
フィールドを移動中、リアス達のもとに向かう中、一誠がこんな事を言い出した
「なあ、新は今もバウンティハンターの仕事をしてるんだったよな?」
「ああ、最近は依頼の数が減っちまって、こっちがメインになりつつあるけどな。急にどうした?」
「いや、先生から少しだけ聞かされたんだけど……ハンター協会も吸血鬼の事を
一誠の問いに対し、新は疲れた表情で溜め息を吐く
アザゼルが言った通り、バウンティハンター協会にも吸血鬼を敵視している者が多く、昔はよく依頼任務に駆り出された
人間を
「
「それで吸血鬼との会談の話が出た時、嫌な表情をしていたんだね」
祐斗の言葉に新は生返事し、更に話を続ける
「その上、アイツとも事ある
「アイツ?」
「……バサラだよ」
バサラ・クレイオス―――その名が出た瞬間、一誠達の表情が
つい先日、この町に現れて一誠達を圧倒的な力で捩じ伏せ、新を修羅道に焚き付けようとした張本人……
5年前に吸血鬼の本地ルーマニアで
新は苦々しい顔付きで語り始める
「アイツも吸血鬼を毛嫌いしてるのは知っていたし、依頼が出された以上文句は言えない。だが……それでも、あの時のアイツのやり方には賛同できなかった」
「いったい何が遭ったんだ?」
「バサラは―――討伐対象だけじゃ飽き足らず、自分の目に留まった吸血鬼を片っ端から
一誠達は絶句するしかなかった
そんな短絡的な理由だけで吸血鬼を根絶させようとしていたのか……っ
しかし、バサラの凶行はそれだけではなかった
「しかも、アイツは……同じ討伐任務に来ていた多くのハンター達を吸血鬼もろとも
珍しく新が声を荒らげるのも無理はない
何故なら……以前、任務の際に墓参りした5つの墓標―――その内の4人が吸血鬼の討伐時、バサラ・クレイオスの手によって
つまり、新にとってバサラはただの腐れ縁ではなく―――4人の同業者の
イリナも任務の際に同行していた為、事情はある程度知っていたが……まさか、こんな形で真相を知るとは思わなかったのだろう
愕然とするイリナが青ざめた表情で
「酷い……っ」
「ああ、クズだった俺から見ても酷いと思ったさ。当然の如く、俺はヤツに詰め寄ったよ。“なんで
“しょうがねぇだろ、邪魔に入ったコイツらが
『………………ッ』
あまりにも身勝手過ぎるバサラの発言と凶行に、一誠達は開いた口が塞がらなかった……
そして、この1件が引き金となってハンター協会と吸血鬼の
それと同時にバサラ・クレイオスの凶行が目に余るものと判断した上役は、バサラ・クレイオスのライセンスを永久凍結―――
ところが、それでもバサラ・クレイオスは「別に構わねぇよ。好き勝手できると思ってたが、結局ここも堅苦しいだけだったな」と逆に開き直り、あっさりとライセンスを捨てたと言う
まさに
「今でも
「今更だけど、俺達そんなヤツを相手にして、よく生きていられたな……」
一誠が
「バサラは根っからの戦闘狂かつ実力主義だから、人を観る眼はあるんだ。内に確固たる信念があるかどうか、権力や血筋の威を
「だから、
「ああ、犬は餌で飼える。人は金で買える。だが……真の
新とバサラ、ルーマニアでの出来事を話している内にウィザードタイプの仲間達がトレーニングしている区画に辿り着く
輝く魔法陣の上に立って話し込むロスヴァイセとルフェイ
座禅を組み精神統一しているのは小猫とギャスパー
小猫は静かに闘気を身に纏っており、
遠くでは紅い魔力と稲光が激しく渦巻き、リアスと朱乃が魔力や魔法などの研究をしているのだろう
アーシアはオーフィスと自身の使い魔ラッセーと話し込んでいるようだ
以前から打診されていたように、アーシアには魔物との契約、もしくは召喚魔法を用いて魔物を使役する方面が向いている
ゆえにアーシアはたくさんの魔物と眷属もしくは使い魔として契約をして、召喚の力を高めてみたいと
ちなみに描かれていないが、一誠も魔王サーゼクスの
空を飛ぶ魔法の船―――スキーズブラズニルとは問題なく契約を結べたらしい
話を戻して、レイヴェルがここにいないのは家に1人残り、新の相手となる魔法使いの書類選考を進めているからだ
「新さまはトレーニングをしてきてください。あとは私がいつも通り下調べしておきますので」―――と、毎回トレーニングに送り出してくれる
一誠や他の皆がアーシアと共に魔物との契約や召喚魔法の向上について話し合っている間、新が周囲に視線を配らせていると、少し離れた位置で小猫とギャスパーに座禅を組ませていた黒歌が手招きしているのを確認
新が自分に指を差すと黒歌が首を縦に振る
新は「ちょっと行ってくる」と一誠達に告げてから会話の席を外して、黒歌のもとへ足を運ぶ
「何だよ?」と黒歌に問うと、黒歌はにんまり笑んでいた
「にゃはは、今さー、
小猫だけでなくギャスパーまでそうしているのは、内に巣食う力を探る為
小猫は心を無にする事で仙術の基本である自然との一体化を
「協力してよ、リューくん」
「そうは言っても、何をすりゃ良いんだ?」
「簡単よ。―――ほれっ♪」
黒歌は新の手を取り―――ムニュンッと着物の隙間から見えていたおっぱいの谷間に新の手を埋没させてく
極上の柔らかさと質感に新は反射的に指を動かし、黒歌のおっぱいを揉む
この光景を感じ取ったのか……小猫の目が見開き、非難の表情を浮かべた
「ね、姉さま! 新先輩から離れてください! 私の体がおっきくなる前に先輩が姉さまの肌触りを覚えてしまったら……っ!」
訴える小猫の頭をハリセンでペチンと叩く黒歌
「はい、失格にゃ。この程度で気を乱して修行を解くようではまだまだ半人前も良いところね、白音?」
「…………は、はい」
黒歌にそう注意され、小猫は言葉も無かったようだ
悔しげな様子だったが、頭を振って気を取り直し、再び座禅を組み始めた
更に30分経つと、皆がその日のトレーニングを終えて集合し始めた
未だにこの場にいないのはリアスと朱乃
離れた位置で魔力と魔法のトレーニングをしているようだが……少し経ってようやく姿を現す
「ごめんなさい、今日は思いのほか朱乃と入り込んでしまって」
「うふふ、部長ったら、いつにも増して激しかったですわ」
かなりの練習をしていたのか、ジャージは双方ともにボロボロで肌も露出していた
その姿に着目していると―――リアスと朱乃と共に移動してきた物体を見て生唾を飲み込んだ
リアスの頭上に浮かぶ巨大な球体……球体の内側を紅色と真っ黒なオーラが
誰の目から見ても分かるように、とんでもない質量の魔力を圧縮させている代物だ
新が球体を指差しながら2人に訊く
「……さっきから異様なプレッシャーを放っているアレは何だ?」
「部長の新必殺技ですわ。……やっぱり、分かります?」
朱乃の言葉にゼノヴィアが頬に汗を伝わせながら頷く
「ああ。相当ヤバいものだろ? 絶対に食らいたくない
破壊力一点に費やしたものだと分かるが、リアスの事だから単に威力重視と言うわけではなかろう
「……この大きな紅色の球体は完全にゲームでは禁止技ね。私が今まで甘かったのよ。ゲーム前提で攻撃を考えていたところがあったものだから……。でも、テロリストの襲撃を受け、新を一度失い、考えを改めたわ。―――実戦に必要なのは、相手を確実に滅ぼす威力よ」
「それってつまり……」
一誠の言葉に祐斗が続く
「レーティングゲームのリタイヤシステムですら回避できない一撃を有しているって事だろうね」
謎めくリアスの新必殺技に皆が恐ろしげな表情を浮かべた
リアスはウィザードタイプだが、どちらかと言えばパワー寄りに分類する
兄のサーゼクスもウィザードタイプだが、テクニック寄りの為、兄妹でありながら滅びの魔力に差異が見られる
残念な事にリアスはサーゼクスのようなテクニカル要素の才覚は無いのだそうだ
しかし、滅びのパワーだけを追求すれば話は別
大規模な破壊力を重点的に伸ばす……先程の球体から感じる力強さはそれを物語っている
リアスと朱乃は自身の破れたジャージを魔力で元に戻して、笑みを浮かべた
「さ、今日は皆帰りましょうか」
こうして、今日の全員でのトレーニングが終了となる
――――――――――――――――――
「ふぅ、サッパリしたなぁ」
トレーニングを終えて、風呂で汗を流した新はリビングのソファーで
疲れた体に炭酸風味が染み渡る
「……先輩、チョコミント食べますか?」
膝上に座る小猫が自分のアイスをスプーンで
新は「じゃあ、ひと口」と言ってそれを食べる
しかも、間接キスで―――
打ち解ける前の小猫なら絶対にしないであろう間接キスも、今ではごく当たり前のようになっていた
ちょっとした幸せを感じていると、レイヴェルが前に立つ
「……こ、小猫さん。いつも思ってましたけれど、人前で新さまのお膝に座るなんてお行儀良くないですわ!」
レイヴェルが物申してきたが、小猫は平然と座り続ける
「……ここは私だけの特等席だから」
「と、特等席⁉ 新さまからも言ってあげてください!」
「レイヴェル、別に困ってるわけじゃねぇから大丈夫なんだが」
膝上に座っている小猫が今度は抱っこと言う格好になる
「……私は将来先輩のもとにお嫁に行くから、ここをキープする」
「…………っっ!」
それを聞いてレイヴェルは心底悔しそうな表情を浮かべていた
実はレイヴェルも二人っきりの時に、新の膝上に座りたいと言って座らせる事もある
その時は逆に小猫が不機嫌そうに頬を膨らませていた
最近ではいの一番に小猫が占拠するようになり、「ここはずっと私の席です」と主張までしてくる
猫の妖怪ゆえに縄張りに執着があるせいか、新の膝上はいつの間にか小猫のテリトリーになっていた
レイヴェルは徐々にジンワリと目元を潤ませて抗議を始める
「ず、ずるい! ずるいずるいずるいずるいずるいっ! 小猫さんばっかりずるいですわっ! えいっ!」
レイヴェルが子供のように地団駄を踏み、小猫を突き飛ばしてしまう
「私だって、ここに座ります! いいえ、占拠です!」
空いた新の膝上に今度はレイヴェルが鎮座する
突き飛ばされた小猫は眉を吊り上げ、口を三角にして「えいっ!」とレイヴェルを突き飛ばしてしまう
直ぐに新の膝上に座り―――
「……ここは私の席っ! あげない……っ!」
新にしがみつく小猫はレイヴェルに意固地なまでに譲らなかった
「独り占めなんて許しませんわ! 私も座りたいぃっ!」
小猫を引きずり下ろそうと奮闘するレイヴェル
その気迫は2人のバックに睨み合う猫と火の鳥の幻影が見える程だった……
新は唐突にライザーとの回線で話していた事を思い出す
『レイヴェルはな。親しい者の前では礼儀正しく、慎ましいんだが……。基本的にリアス並のわがままプリンセスだ。特にヒトのものを欲しがる癖があってな。……お前と暮らしている内にその辺りも見えてくるかもしれないぜ?』
確かにその通りだった……と思い返す新を尻目に、小猫とレイヴェルの奮闘はまだ続く
「お前ら、いい加減にしろよ。ヒトの膝上でいつまでも争うな」
新が少しキツめに
お互い喧嘩したばかりか、目も合わせずにいた……
しかし、不思議な事に翌朝には普通に接する
『やっぱり、2人は友達なんだな』と新は心中で笑った
―――――――――――――――
次の日の昼休み、新は生徒会室に足を運んでいた
部屋にいるのは新と匙だけで、本来なら一誠も来る筈だったが……シド・ヴァルディの『アーシア先輩の唐揚ゲット大作戦』と言う強制イベントに遭遇してしまい、アーシアが作ってくれた唐揚げを死守すべく奮闘しているらしい……
「―――コール。手札を見せな」
「……役無しだ」
「スリーカードで俺の勝ち、10連勝だ」
「またかよっ、チクショウ! 竜崎っ、いい加減こっちの勝負も再開させろよ! 俺を何度負かせば気が済むんだ⁉ ハッキリ言ってイジメじゃねぇかっ!」
「俺はやられた事をやり返しているだけだ。勝負を戻したいなら、一度くらい俺に勝ってから言うんだな」
新と匙がプレイしているのはポーカーで、新は匙に10連勝していた
先程まではボードゲームで遊んでいたのだが、5回連続で黒星と言う煮え湯を飲まされた為、ポーカーに移行して匙をボコボコにしていたのだ……
ちなみに先程までプレイしていたのはレーティングゲームの競技の1つ―――スクランブル・フラッグを模したボードゲーム
ルールを簡単に説明すると、広大なゲームフィールドに旗が何本も立っていて、交互に駒を動かしてそれを奪い合う
制限時間内に旗を全て奪取するか、相手よりも多くの旗をキープすれば勝利となる
取られた旗を奪う事も可能で、その時にダイスが使われ―――出た目によって防衛か強奪されるかが決まる
本来のゲームでは旗の死守に
戦術タイプのシトリーやアガレス向けのルールで、パワーでゴリ押し傾向のグレモリーには難儀なものだった……
新がカードをシャッフルしていると、匙が神妙に話し掛けてくる
「……ところでさ、お前さ……」
「何だ? 急に顔を曇らせやがって」
顔を曇らせ、輝きを失ったような目付きの匙が新に訊く
「お前、リアス先輩と付き合ってんだってな!」
匙の突然の追及に新は『ああ、そういやコイツには言ってなかったな』と何処吹く風
匙が深い息を吐きながら続ける
「……ほら、この間の
『ええ、2人は学園祭以降、恋人同士です。……サジは知らなかったのですか?』と、ソーナ会長に答えられたらしい
途端に匙は詰め寄り、新の肩を掴んで揺さぶる
「知らなかったよっ! 竜崎、お前ぇぇぇぇっ! なんで教えてくれなかった⁉」
「言う機会が無かっただけだ。それより匙、お前も一誠と同じく顔芸化してきたな」
「いま言う事がそれか⁉」
斯く言う匙も主のソーナに恋心を抱いているのだが、新に先を越された事に多大なショックを受けていた
恨めしそうな顔で匙は新に問う
「……それで、主さまを落とした感想は?」
「勿論、最高だ」
何の躊躇も無く告げた新(笑)
匙はワナワナと震えだし、頭を抱えて
「チクショウ! 呪ってやるぅぅぅっ! ヴリトラの力で呪ってやるぅぅぅっ! 俺なんて会長と映画に行ったぐらいしか進展ねぇよ! しかも眷属と一緒に映画鑑賞だ! 兵藤のヤツもアーシアさんと良い感じになってるしぃぃぃっ! 俺とお前ら、何処で差がついた⁉ やっぱ天龍と龍王の差か⁉」
「待て待て、一誠の場合はそうかもしれんが、俺とお前の差はそんな浅はかなもんじゃない。俺は12歳で童貞を捨てた。一方、お前は現在進行形で童貞―――ただそれだけの話だ(笑)」
「うわぁぁぁんっ! こっちでもマウント取るなぁぁぁぁっ!」
「サジ、何を叫んでいるのですか。外まで聞こえていましたよ? 静かにしなさい」
生徒会室にソーナ会長を含めた生徒会メンバーが帰ってきた
ソーナ会長の登場に匙も涙を拭い、姿勢を正す
ソーナ会長の視線が新を捉え、柔和な笑みを見せる
「あら、新くん、ごきげんよう。生徒会室に遊びに来ていたのですね」
「ああ、一誠の代理みたいなもんだけどな。お邪魔してるぜ」
「そうですか。何も無いところですが、生徒会の会議が始まるまではゆっくりしてくれて構いません」
「何も無くはないだろ。
「ふふっ、相変わらず女性を褒めるのが達者ですね」
リアスとの関係で親しみを感じたのか、最近ではソーナも笑顔を見せる場面が多くなっていた
すると、匙がさっきよりも一層深刻そうな顔で全身を震わせ―――新の肩に手を回し、耳打ちしてきた
『…………お、お、お、お、お、お、おおおおおおおお、お前ぇぇぇぇぇっ。会長から「新くん」って何だ⁉ どういう事だよ⁉』
『おやおや、どうしたのかな、童貞龍王くん?』
『童貞って言うなぁぁぁぁっ! どういう事だって訊いてんだよ! お、お、俺だって下の名前で呼ばれた事なんてないのに……っ!』
涙を流す匙の横で『
『グッジョブ、竜崎くん。
ウンウンと頷いて『
『竜崎先輩、そんな感じで会長も落としてください。
『おおおーい! 花戒、仁村ぁぁぁっ!』
2人の言葉に突っ込む匙……御愁傷様(笑)
ガックリと
『2人もさ、たまには匙を
いつもの調子を取り戻したのか、新が若干からかい気味に進言すると―――彼女達は「「え……っ」」と顔を紅潮し始めた
花戒と仁村はハッと我に返り、平静を取り
『も、もうっ! また私達をからかって面白がってるのね⁉ 竜崎くんのドSっ!』
『竜崎先輩っ、少しはそのスケベ根性を控えてください!』
『え~、満更でもない顔をしてるくせにぃ』
新が茶化していると、いつの間にか近くに寄っていた副会長―――
『あなた達、竜崎くんのペースに乱されてはいけません。それに……会長がそんな簡単に落ちるわけないでしょう。竜崎くん、うちの子達の言う事は気にしないでくださいね』
『そんなに言うなら副会長が俺とデートしてみる?』
『…………っ。…………っ』
『おい、何か言ってくれよ。さすがに無言を
『言ってる傍から副会長が1番ペースを乱されてるじゃないですか』
『どうせなら副会長、一気にチューしちゃいましょう。この
『……っ⁉ あ、あなた達……いい加減にしなさいっ!』
真羅椿姫は顔を真っ赤にして花戒と仁村を追い回す
副会長らしからぬ可愛さに含み笑いをしていると、ソーナ会長が新を呼ぶ
「新くん」
「ん、どうした?」
ソーナ会長の手元には小型の連絡用魔法陣
何か遭ったのかと思慮していると、ソーナ会長が告げる
「今、連絡がありました。あなたのもとにも直ぐに届くと思いますが……吸血鬼との会談が明日の夜になったそうです」
「―――っ」
ソーナ会長の言葉に新の表情が険しくなる……
吸血鬼―――身近と思っていたが、最も遠かった種族
ここから本当のヴァンパイアと
―――――――――――――――
「バサラさま、どうやらグレモリー眷属と吸血鬼の会談の日取りが決まりました。明日の夜に
「そうかい、吸血鬼どもにしては随分と急ぎ足じゃねぇか」
「ええ、吸血鬼サイドでも色々と問題が起きてるようなので。恐らくそれを鎮静化させたいが為に日程を早めに
「ハッ、何処までも笑わせやがる。他との接触を一切合切拒んできた奴らがこういう時だけ根回しが達者でよぉ」
「バサラさま、再三言っておきますが……くれぐれも乱入するような真似だけはご自重ください。ただでさえややこしい案件なのですから」
「んな事ぁ言われなくても分かってらぁ。あくまで監視、だろ? 俺が
「実際、何度も引っ掻き回してきたでしょう」
「チッ、まあ良い。とりあえず、あのクソ吸血鬼どもの対応に竜の字がどう反応するか……見届けてやるか」
次回はいよいよ吸血鬼との会談です!