ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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待ちに待った温泉回です!


温泉に行こう!

とある日の放課後、職員会議を終えてきたアザゼルが開口一番にこう言った

 

「よし、お前ら伊豆に行くぞ。この間の魔獣騒動(まじゅうそうどう)と立て続けに起こる造魔(ゾーマ)の襲撃、あれの慰安旅行だ」

 

唐突な慰安旅行の提案に、リアスが目を通していた書類を置いて言う

 

「良いわね、慰安旅行。日程は?」

 

「ん? リアス、アザゼルの急な提案に賛同するのか?」

 

即答したリアスに新がそう訊く

 

いつもの彼女なら「いきなりそんな事いわないでちょうだい。こっちにも都合と言うものがあるの」と返しているだろう

 

実際、リアスは悪魔の仕事を優先する現場第一主義的な面が強い

 

「ええ、一息つくと言うわけではないけれど、皆に英気を(やしな)ってもらうプランを私も立てようとしていたわ。大きな事件が立て続けに起きて、皆の疲れも溜まってきていると思っていたから。リフレッシュも兼ねて良い提案だと思うわ」

 

リアスがそう言う

 

確かに二学期に入ってからの事件を並べてみると……旧魔王派と闇人(やみびと)のテロ、悪神ロキ襲来、修学旅行先と昇格試験後に英雄派&神風一派に襲われ、その後は冥界全土を巻き込んでの巨大魔獣騒動

 

最近では新しく台頭してきた組織『造魔(ゾーマ)』によるデスゲーム『クロニクル』の横行、その首魁(しゅかい)バサラ・クレイオスとの対面、『造魔(ゾーマ)』の尖兵トランザーおよびテンペスターの襲撃

 

信じられない事件のオンパレード、こうして皆が無事に生きているのが奇跡に等しいぐらいである

 

リアスが言うように全員が心身ともにダメージを負ったのも事実

 

アザゼルがウンウンと(うなず)いて新達を見渡すように言う

 

「そうそう、その通りだ。お前達は信じられないぐらいの騒動に首を突っ込んだんだもんな。若いお前らがあれだけの修羅場、死線を(くぐ)れば体や心の何処かが傷付いていても不思議じゃない。―――そこで慰安旅行なわけだ! リアス、日程は次の週末でどうだ? こういうのは即実行した方が良いってもんだ! なーに、手配は直ぐに済む。あとはお前達の同意次第だぜ?」

 

全員が突然のリアスとアザゼルのやり取りに視線だけで追っている

 

すると、リアスが1度大きく頷いた

 

「ええ、分かったわ。では、次の土日は伊豆に行きましょう」

 

こうして、オカルト研究部の伊豆一泊二日慰安旅行が決行される事となった

 

 

――――――――――

 

 

そんなわけで次の土曜日を迎えた

 

天気は朝から快晴で絶好の旅行日和

 

一誠達は前夜に旅行の準備を整えて、午前10時に兵藤家の門前に集まっていた

 

「私、伊豆に1度行ってみたいと思ってましたの」

 

目を爛々と輝かせているレイヴェル

 

彼女は最近、日本の事を勉強しているので全国の有名な観光地等に強く興味を持っていたりする

 

「……伊豆のお魚は美味しいから楽しみです」

 

小猫は観光地の食べ物に意識が釘付けのようだ

 

祐斗とギャスパーが到着し、あとはアザゼルとロスヴァイセを待つだけ―――と思いきや、一誠がここで不審な点に気付く

 

「あれ? 先生やロスヴァイセさんはともかく……なんで新がいないんだ?」

 

一誠がキョロキョロと周りを見渡していると、リアスが告げてくる

 

「新なら私達が起きた時には既にいなかったわ。で、机の上にメモが置かれていたのよ。『先に用事を済ませてくるから、集合時間には合流する』って書いてあったわ」

 

「旅行当日に済ませる用事って何なんだよ……」

 

一誠が愚痴った直後、遠くの方から走行音が近付いてくる

 

走行音の正体は―――愛車のバイクに(また)がる新だった

 

ただし、いつものバイクではなく大きなサイドカー付きの特注仕様で、そのサイドカーにはお馴染みの飲ん兵衛……もとい堕天使三人娘―――レイナーレ、カラワーナ、ミッテルトが乗っていた

 

エンジンを止め、バイクから降りた新はフルフェイスのヘルメットを外す

 

「よぉ、待たせたな」

 

「新! どうしたんだ、そのバイク? 買ったのか?」

 

一誠がそう訊くと新は首を横に振って答える

 

「コイツは取り外し可能なサイドカーをくっ付けただけの代物だ。……実は慰安旅行の事がレイナーレ達にバレちまってな。『連れていけ!』ってしつこくせがまれたんだよ……。んで、早朝に家を出て、行き付けのバイク屋でサイドカーをくっ付けてもらったんだ」

 

「なるほど、あのメモに書かれた“用事”はコレの事だったのね」

 

リアスが納得していると、新が「ああ、書き置きだけでスマなかった」と謝罪してくる

 

しかし、何故わざわざバイクで来たのか?

 

一誠が疑問を浮かべていると、背後でゼノヴィア達教会トリオの会話が聞こえてくる

 

「……てっきり、魔法陣で移動かと思ったら、車なのか」

 

「……え? マジか。今日、車移動なの? 車で伊豆まで行くのか?」

 

一誠が会話に介入すると、イリナが頷いてきた

 

「うん、私はそう聞いたわ。アザゼル先生も車で来るそうなの」

 

「ええ、突然そういう事になったの。アザゼルの提案よ」

 

「俺もそう聞かされた」

 

リアスだけでなく新からもそう言われる

 

一誠が「それ、先生の思い付きだろうな」と思っていると、遠くから車の走行音が近付いてくる

 

青いボディの車が高速で角を曲がり、兵藤家の門前で弧を描くように激しいドリフトで急停止した

 

目の前に現れた青一色のスポーツカー

 

扉が開き、中から現れたのは光沢のあるジャケットとパンツと言う出で立ちのアザゼル

 

サングラスも着けており、何処の歌舞伎町のホストですかと言わんばかりの格好だった

 

「ふふふ、今日は俺の愛車で伊豆の海岸線をドライブだ」

 

キザなポーズで車に寄り掛かりながらアザゼルはそんな事を言う

 

「……おおっ、速そうだ。悪魔の仕事で金を貯めてこういう車を買おうかな」

 

ゼノヴィアが興味津々でスポーツカーを見ていると、アーシアが首を(かし)げていた

 

「でも、車で移動と言っても、この大人数ですし、先生の1台だけでは……」

 

アーシアの言う事はもっともだった

 

アザゼルが乗り付けてきたスポーツカーは珍しい5人乗りだが、そもそもここにいるメンバーは10人以上

 

バイクで行くであろう新(堕天使三人娘同行)を除いても―――面子(メンツ)は一誠、リアス、アーシア、朱乃、小猫、祐斗、ゼノヴィア、ギャスパー、イリナ、ロスヴァイセ、レイヴェル、アザゼル、更に今回はオーフィスもいる

 

一誠曰く、オーフィスを家に置いていく事も出来ないので連れていく事になってしまったそうだ

 

『……まさか、ジャンケンで負けた奴は現地まで空を飛んでこいとか無茶ぶり言うんじゃ⁉』

 

『あのアホ堕天使なら言いそうだな……』

 

新と一誠がヒソヒソと会話していると、もう1台の車が兵藤家の前に到着する

 

赤いワゴン車から降りてきたのは―――ロスヴァイセだった

 

「ワゴン車をリアスさんに用意してもらいました。こちらは8人乗りですよ」

 

「と言うかロスヴァイセ、免許持ってたのか」

 

新がそう言うと、ロスヴァイセに「当然です。これでも元北欧の主神のお付きですから」と自慢げに返された

 

北欧の主神オーディンの付き人をする前から様々な資格を取得していたので、そこは曲がりなりにも才女と言えよう

 

ここで一誠が挙手してきた

 

「俺! ロスヴァイセさんの車に乗りたいです!」

 

ロスヴァイセの運転技術はアザゼルと比べて遥かに静かなもので、一誠はロスヴァイセの車に乗車した方が安全だと確信を得ていた

 

アザゼルが不満げに言う

 

「おいおい、イッセー、俺のドライビングテクニックに不安でもあるのか?」

 

「あるに決まってますよ! 絶対安全運転しそうにないじゃないですか! 死の旅路になるに決まってます!」

 

「普段からトラブルメーカーの奴に信用なんてあるわけねぇだろ」

 

新と一誠がボロクソに言う中、ゼノヴィアはアザゼルの車のドアを開けて、既に乗り込む姿勢になっていた

 

「私はアザゼル先生の車でも良いぞ。スリリングなドライブも悪くないだろう」

 

「さすがゼノヴィア。分かってるじゃねぇか」

 

ゼノヴィアの頭を撫でるアザゼル

 

「スリリングな運転を否定しなかった⁉ うわぁぁぁんっ! やっぱり安全に運転する気ないじゃないですかっ!」

 

「堕天使に人間の法廷速度は当てはまらないのさっ!」

 

「ドヤ顔で言ってんじゃねぇボケッ!」

 

「もう嫌だ、この邪悪で悪党なラスボス堕天使を誰か倒してっ!」

 

周りの皆も率先してアザゼルの車に乗りたいと申し出る者がおらず、自然とロスヴァイセの車の周囲に集まっていた

 

しかし、ワゴン車の乗車枠は運転手を除いて7名―――(すなわ)ち……スポーツカーに乗らねばならない犠牲者が4人も出てしまう計算だ

 

唯一バイクで乗ってきた新はホッとするが、一誠に詰め寄られる

 

「俺は嫌だ! 動く棺桶に乗るつもりはねぇぞ! だいたい何でお前だけバイクなんだよ⁉ ズルいぞっ!」

 

「ハッハッハッ、知るか。免許を取ってないお前がマヌケなだけだ。諦めて棺桶(スポーツカー)に乗ってこい」

 

「この薄情者ッッ!」

 

ギャーギャー喚く一誠を尻目に、リアスが息を吐いて意見を述べる

 

「じゃあ、公平にジャンケンで決めましょう」

 

 

――――――――――――

 

 

……結局、一誠はジャンケンで負けてアザゼルの車(と言う名の棺桶)に乗る事になってしまった

 

アザゼルの車に乗るのは一誠、ギャスパー、ゼノヴィア、オーフィスと言う色物メンバー

 

「ごめんね、イッセーくん」

 

一誠に謝りつつ、ワゴン車に乗り込む祐斗

 

ワゴン車は運転手のロスヴァイセを始め、リアス、アーシア、朱乃、小猫、イリナ、レイヴェルと華があり過ぎるメンツだ

 

そこへ祐斗が乗り込むわけだから、一誠は久しぶりにイケメンに対して嫉妬を禁じ得なかった

 

しかも誰かの身代わりではなく、単にジャンケンで負けたゆえの結果なので旅行に出る前から凶運(きょううん)だった……

 

悔しさに拳を震わせる一誠を迎え入れるように、スポーツカーの助手席のドアが独りでに開く

 

助手席越しにアザゼルが不敵な笑みを見せていた

 

「ふふふ、ようこそ、俺の愛車へ。イッセー、お前は助手席な」

 

まるで地獄の門が開かれたようにしか思えない状況……車内からも邪悪なオーラが流れてくる

 

恐る恐る乗車する一誠達

 

先にロスヴァイセが運転するワゴン車が発進する

 

一方、スポーツカーの後部座席に座るゼノヴィアは平然としており、オーフィスも無表情

 

そんな両者に挟まれているギャスパーは「……ひぐっ。……あぅあぅ……」と既に顔面蒼白でシートベルトを必死に掴んでいた

 

全身をブルブルと震わせ、発進する前から顔が涙と鼻水まみれになっていた

 

「よーし、カーナビつけっぞ。堕天使特製のナビゲーションだ」

 

そんな一誠やギャスパーの事なぞ知らぬアザゼルはカーナビを起動させようとしていた

 

ボタンを押した瞬間、車のボンネットが開いて衛星放送のパラボラアンテナに似た物体が姿を現し、機械音声が車内に響く

 

『サテライト・ダウンフォール・キャノンシステムの起動準備に入ります。半径1キロ以内に存在する友軍はただちに避難―――』

 

車内の一誠達は突然の警告に驚き、アザゼルはケラケラ笑いながらボタン操作をして音声を止める

 

「おーっと、コレは違うボタンだった。失敬失敬」

 

「何かキャノンとか避難とか危険極まりない単語が聞こえてきたんですけどっ⁉ つーか、ボンネットから何か出てきましたよ⁉」

 

「気にするな。サテライト兵器はここでは使わん。ハリウッド映画じゃよくある事だぞ? えーと、こっちのボタンだったかな。何せ(いじ)り回したせいで空は飛べるわ、水上は走れるわ、次元の狭間にダイブできるわと色んな機能があり過ぎて、何処に何が設置してあるか制作者の俺でもよく覚えてないんだわ。コレだったかな?」

 

アザゼルが次にボタン操作をすると―――

 

『目標を指定してください。ただちにドラゴン・デストロイ・ミサイルを発射します』

 

ボンネットが再度開いて小型ミサイルが出現した……

 

「ああ、これはイッセーが『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』で暴走した時を想定して作った龍殺し(ドラゴンスレイヤー)ミサイルだったかな。すまんすまん」

 

「サテライト兵器にミサイル⁉ 何を積んでいるんだ、この不思議スポーツカーは⁉」

 

「私はむしろそれが見たい」

 

「ふざけんな、ゼノヴィアァァァァッ! 発車が発射になっちまうだろうがっ!」

 

「じゃあ、今日は普通に走るぞ! パワーブースター、スイッチオン!」

 

アザゼルがハンドル横にある謎のスイッチを押した瞬間―――けたたましい音のロケット噴射と共に青いスポーツカーは爆走を開始させた

 

一誠はシートベルトに手をかけ、体に掛かるGを感じながら思いっきり泣き叫んだ

 

「降ろせぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

スポーツカーが走り去った直後、新は一誠の冥福を祈るように合掌した

 

「一誠、お前の事は忘れねぇよ。もし逝ったら……骨は俺が埋めてやる」

 

「アラタ~、うちらも早く行こうよ~」

 

退屈していたミッテルトにせがまれ、新は気を取り直してバイクに跨がる

 

エンジンを入れて出発しようとした矢先、ミッテルトがサイドカー内の何かに気付いた

 

「ん、何コレ? ポチッとな」

 

ミッテルトがボタンらしき物を押した瞬間、聞き覚えのある音声が響く

 

『オッス! 毎度お馴染みマスター・イスルギだ! 3秒後にハイパーロケットブースターで加速するから、振り落とされないようにしとけよ!』

 

「………………何だと(パルドン)……っ?」

 

キリヒコの口癖が移る新(笑)

 

バイクの後部からロケットの噴射口が出現し、アナウンス通り3秒経った刹那―――こちらもけたたましい爆音と共に爆走し始めた

 

「あら、良い風ね。悪くないわ」

 

「これなら直ぐに追い付くかもしれないな」

 

「キャッホ~! 超速(ちょっぱや)ブラリ旅~!」

 

レイナーレ、カラワーナ、ミッテルトが平然とする中、新も全身に凄まじいGを受けながら叫んだ

 

「マスタァァァァァァァァッ! いつの間に細工しやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉」

 

その後、青いスポーツカーとサイドカー付きのバイクによる爆走カーチェイスが発生したのは言うまでもなかった……

 

 

―――――――――――

 

 

「ようやく海が見えてきたか……」

 

兵藤家から旅立って2時間半ほど

 

伊豆の海岸を新は疲れた表情で見ていた

 

勝手に取り付けられたロケットブースターで爆走していれば、疲弊するのも無理はない

 

ちなみに一誠の方も車の中でグッタリと死んでいたそうだ

 

もう後は何事も無く目的地に到着する事を願うのみ……

 

車はそのまま山に登るべく街道を突き進む

 

山を登って山中に入り込み、細い道を通っていく

 

伊豆の山に入って1時間程で、濃霧の先に目的地となる温泉旅館が見えてきた

 

周りは山と木々しか無く、旅館は古き良き木造の純和風な雰囲気

 

「良い旅館ね。今日は……今夜は素敵なものになりそうだわ」

 

リアスは新の手を握り、ほんのり頬を赤くしながら旅館を見ていた

 

「……温泉。旅行……一組だけ敷かれた布団には枕が2つ……」

 

朱乃も空いている新の手を握っており、その表情はリアス同様に瞳を(うる)ませていた

 

何か期待に応えねばならないような雰囲気だが、爆走バイクのせいで新は疲弊が溜まっており、1秒でも早く部屋で休みたい気分だった

 

他の皆も車から荷物を下ろして旅館に移動する

 

新、一誠、ギャスパーはフラフラのまま旅館の入り口を通っていった

 

「お帰りなさいませ、いーひっひっひっ」

 

不気味な笑い声と共に新達を迎え入れたのは―――着物を着たシワクチャの老婆だった

 

一見すれば妖怪の(たぐい)にしか見えない程怖い面持(おもも)ちをしている

 

「おー、女将(おかみ)! 今日は厄介になるぜ! 貸し切りだしな」

 

「いっひっひっ、伊豆の山んなかまでようこそお出でくださいました。ここは悪魔さんや堕天使さんにご贔屓(ひいき)にしてもらっている秘境ですぞい。私はここの女将をしておりますゆえ。いま流行(はや)りの山ガールですぞ。ひっひっひっ」

 

『『山ガールと言うより、山姥(やまんば)だろ!』』

 

新と一誠は胸中(きょうちゅう)で揃ってツッコんだ

 

「実は来る途中、一般人では通れない結界をいくつか(くぐ)ってきたのさ」

 

アザゼルがそう説明する

 

恐らく、道中の濃い霧が結界だったのだろう

 

「今日はお世話になります―――」

 

山姥女将にそこまで挨拶をしたリアスの表情が笑顔のまま凍り付く

 

彼女の視線の先に目を向けると―――奥から銀髪の女性が近付いてきた

 

「ごきげんよう、皆さん。先にこちらでお待ちしてました」

 

「「グレイフィアさん⁉」」

 

またもや揃って素っ頓狂な声をあげる新と一誠

 

しかし、その反応も当然……まさかグレイフィアが来ているとは誰も思わない

 

しかも、メイド服ではなく完全なる私服

 

「オフをいただきました。学生達だけの旅行は色々と危険でしょうから、今日は引率(いんそつ)として参った次第です」

 

淡々とグレイフィアがそう言った後、凍り付くリアスの真っ正面まで来て一言告げる

 

「リアス、まさか旅先でハメを外そうなどと思ってはいなかったでしょうね?」

 

半目でグレイフィアに問われたリアスは「ギクッ!」とばかりに体を反応させて強張(こわば)らせる

 

……図星だったようだ

 

朱乃も魂胆を見破られたのか、諦めたように肩を落としていた

 

グレイフィアがリアスに正面から言う

 

「高校生が温泉旅行の名目で想いを完遂させるなど、百年早いですね。いつも言っているでしょう? まずは殿方と普段の生活で成就させなさい。殿方との旅行で盛り上がるのはそれからでも遅くありません」

 

クドクド説教する中、アザゼルがグレイフィアの肩に手を置く

 

「まあまあ。今日は無礼講と言う事で良いじゃねぇか。お前さんも温泉に浸かって日頃の疲れを取れって」

 

グレイフィアはアザゼルの手を取り、奥に引っ張っていこうとする

 

「良い機会です。あなたにも色々と話さなくてはいけない事が山のようにありました。今日は今までの反省とそれを踏まえての今後を話し合いましょう」

 

「お、おい! マジか! 俺は今日温泉に入って酒をキューッとやって岩盤浴やって卓球やってマッサージ機を使う予定なんだぞ⁉」

 

「サーゼクスに悪影響なので、今の内にあなたの悪いところを()みます」

 

「摘まれるの、俺⁉ おい、助けろ、お前達ぃぃぃっ!」

 

アザゼルは新達に助けを求めるが……全員が満面の笑みで手を振って見送った

 

これ以上に素晴らしい粛清は無いだろう(笑)

 

「てめえら! 薄情者ぉぉぉぉぉっ!」

 

こうして、悪の堕天使は銀髪の女王に旅館の奥へ連れて行かれたのだった

 

 

―――――――――――――

 

 

「自称天使には負けん!」

 

「言ったわね! 天界式ピンポンを見せてあげるわ!」

 

時は夕飯前、大浴場近くにあるゲームコーナーでゼノヴィアとイリナが卓球勝負をしていた

 

激しいラリーを繰り広げている

 

アーシアは見学しながら2人に応援を送る

 

「……レイヴェル、これおいしいから食べてみて」

 

「まあ、いただきますわ」

 

小猫とレイヴェルはゲームコーナーに設けてあるソファーに座って温泉まんじゅうを食べていた

 

普段は口喧嘩しているけど、何だかんだで仲の良い2人だったりする

 

「あぁぁぁぁぁああああああぁぁ……良い……」

 

震えた声を出しながら気持ち良さそうにマッサージ機を使うロスヴァイセ

 

声が若干おばさんくさい(笑)

 

「……わぉわぉわぉ……」

 

変な声を震わせて揺れるマッサージ機に座るオーフィス

 

「あーっ、またレイナーレさまだけ大当たり(スリーセブン)⁉ ズル~いっ!」

 

「フフン、これも私が至高の堕天使に近付いた賜物(たまもの)よ」

 

「またサクランボ……っ。レイナーレさまには(かな)わないのか」

 

スロットマシーンで盛り上がっているのはレイナーレ、カラワーナ、ミッテルトの堕天使三人娘

 

皆が思い思いに温泉旅館を堪能していた

 

祐斗は温泉に、リアスと朱乃も岩盤浴を堪能している

 

実はこの旅館には混浴風呂も備わっているのだが、まだ誰もそこに入る気配が無い

 

『……ぐふふっ、ようやく車内での気持ち悪さも抜けてきたぞ。夕飯食べて一息ついたら大浴場に行ってみようかな!』

 

一誠はスケベな目論みに備えて英気を(やしな)う事にした

 

そして深夜を迎え、一誠はスケベな勘を働かせて「この時間帯なら女子の誰かが入る筈!」と言う時間に部屋を抜け出す

 

ちなみに部屋は男子ひと纏めになっており、アザゼルは夕飯前にグレイフィアからようやく解放され、部屋で晩酌タイム

 

ギャスパーは部屋に備え付けてある温泉に入っており、祐斗は岩盤浴に行っている

 

夕食を食べ、仮眠も取り、睡眠欲と食欲を満たしたら……次は性欲だ

 

「せっかく温泉に来たんだ、スケベが女湯を覗かないでどうするよ……っ! さーて、いざ温泉へ―――」

 

ガシッ! ミシミシ……ッ!

 

気合を入れて向かおうとする一誠は背後から何者かに首を掴まれ、絞められる

 

突然の奇襲に声を上げる暇さえ無く、一誠は窒息しながら背後に視線を向けた

 

『…………ッッ! あ、新……ッ⁉ なに、しやがる……っ⁉』

 

「詰めが甘いな、一誠。温泉(イコール)覗きと聞いて俺が静観するとでも思ったのか?」

 

『お前、だって……覗き、たいだろ……っ⁉ だったら―――』

 

「はぁ……分かってねぇな。忘れたのか? 俺はな……女湯を覗く時は戦友(とも)(あざむ)いてから覗く。欺けなかった場合は―――仕留めてから覗く」

 

ゴキッッ!

 

新は一誠の首をあらぬ角度にねじ曲げ、意識を奪い取った

 

最期に一誠は「裏切り、もの……っ」と怨嗟を込めて倒れ伏した

 

その後、新は一誠を簀巻きにして人目の付かない場所に放り込み、温泉へと向かった

 

(くだん)の混浴風呂に着いた新は脱衣場に足を踏み入れるが、中には誰も入っていない

 

奥の露天風呂も確認してみたが誰もおらず、お湯が沸く音しか聞こえてこない

 

「まあ、あの山姥ババアがいないだけマシか」

 

これは男湯に入って女湯を覗いた方が確実だと思った新は、振り返って出ようとした

 

その時、誰かが脱衣場に入ってくる

 

長い銀髪の女性、ロスヴァイセ―――ではなく……グレイフィアだった

 

「あら、新さん。殿方がいらっしゃるなんて……事前の確認を(おこた)るなんて迂闊(うかつ)でしたね」

 

混浴風呂の脱衣場でグレイフィアに出くわした新は数秒ほど思考が停止した後、こう結論を出した

 

“……よし、出よう”

 

彼女の厳格さを考えれば当然の答えで、説教どころか折檻を食らわされるかもしれない……

 

「じゃ、じゃあ俺はこれにて失礼するでござる」

 

ござる口調で足早に出ようとした時、グレイフィアが新の手を掴む

 

怪訝に思う新にグレイフィアは微笑んで言った

 

「一緒に入りましょうか」

 

「…………何ですと(パルドン)?」

 

予想外の一言に、新は呆気に取られた

 

 

―――――――――――

 

 

混浴の浴場、その洗い場に座る新とグレイフィア

 

自分の2つ横に全裸のグレイフィアが座っている……っ

 

横目で見れば、たわわなおっぱいとグラマーな肢体がそこにある

 

リアス以上のナイスバディが直ぐ横にあると言うあり得ない状況……

 

新はスケベ心よりも緊張感に包まれていた

 

何せ相手は魔王サーゼクスの眷属最強の『女王(クイーン)』の上、サーゼクスですら恐れる女性

 

下手に下心を持ってしまえば消されかねない……っ

 

そんな厳格さを持っている筈のグレイフィアが何故新と混浴の温泉に入るのか?

 

説教?

 

性欲の自粛勧告?

 

リアスとの関係についての進言?

 

頭に巡るものを上げていけばキリが無い

 

「……あの、良いんすか?」

 

新は恐る恐る(たず)ねてみた

 

グレイフィアは桶に入れたお湯で体を流しながら「何がですか?」と聞き返してくる

 

非常に困る返答とこの状況下に居たたまれなくなったのか、新は立ち上がって出ようとした

 

「俺、やっぱ上がりますわ」

 

足早に去ろうとした新の手をグレイフィアは再び掴み、直ぐ横の洗い場に座るよう(うなが)してくる

 

「お待ちなさい。まだ体を洗ってはいないのではなくて? お湯に浸かってもいません」

 

グレイフィアの横に座らされる新

 

チラリと目線を向ければ、タオルで隠す事すらしない極上のお姉さんボディがある

 

グレイフィアの肌は眩しい程に白く、シミ1つすら無い

 

形も良く大きいおっぱいに綺麗な乳輪と乳首、丁度良い太さの足、腰も経産婦と思えない程くびれている

 

「背中を流してあげましょう」

 

そう言われて新はグレイフィアに背中を流してもらう事に……

 

ゴシゴシと背中をタオルで(こす)られる新

 

鏡越しに映るグレイフィアのおっぱいはブルンブルンと揺れ、背中から腕、太ももの辺りまでタオルで擦られる

 

たまに近寄り過ぎてグレイフィアのおっぱいが新の背中に触れるが、当の新は反応に困ってしまう

 

「広いのね、新さんの背中は」

 

「そ、それ程でも……っ」

 

「うふふ、何をそんなに改まっているのですか? 私は正直な感想を言っただけですよ? やはり高校生と言えど男性ね。とてもたくましい背中をしているわ。いえ、冥界の為に数々の強敵を倒してきたあなたにそのような事を言うのは失礼かもしれないわね」

 

「そ、そうですか? でも、褒めていただいて光栄っす」

 

そんな会話をしながらも新の背中にお湯がかけられる

 

「はい、これで綺麗になりましたね」

 

「ありがとうございます。じゃあ、俺はこれにて―――」

 

「今度は私の背中を流していただけると嬉しいのですが?」

 

本日3回目の「何ですと(パルドン)……っ?」を絞り出す新

 

呼吸を整え、グレイフィアに訊ねる

 

「い、良いんですか?」

 

「ダメかしら?」

 

残念そうな声音を出すグレイフィアに、新は受けるしか選択肢が無くなった!

 

「い、いえ。喜んでお受け致します!」

 

「うふふ、新さんは本当におかしな方ですね」

 

普段は見る事の無いグレイフィアの可愛らしい笑顔に、新の下心が(くすぐ)られる

 

だが、今は真面目に背中流しに取り掛かった

 

『……思っていたより、小さい背中してんだな』

 

泡立てたタオルでグレイフィアの背中を流す新

 

緊迫状態の中、新は意を決して告げた

 

「あの、グレイフィアさん」

 

「はい。何でしょう」

 

「こんな時に言うのもなんですが……俺とリアスはお互いの想いを告げました」

 

「ええ、うかがっています。冥界でも有名ですもの、『グレモリー次期当主の恋人』として。それで、私に改めて報告された理由は?」

 

「……認めてもらえますか? 俺とリアスとの事……」

 

新の問いに対してグレイフィアはこう訊き返してくる

 

「その確認は私があの子の義姉(あね)だからですか? それともグレモリー家のメイドだからでしょうか?」

 

「両方です」

 

新の言葉を受けて、グレイフィアは少し考え込むように黙した

 

(しば)し考えた後、こう言ってくる

 

「そうですね。では、条件をクリアしてくれるのなら許してあげましょうか」

 

「条件? それはどんな……?」

 

グレイフィアは顔を新の方に向けて、笑みを見せる

 

「今後、私の事をプライベート時に『義姉(あね)』とお呼びなさい。それが条件です」

 

難易度が高いと言うか、恐れ多いと言うか……考えようによっては(ほとん)ど許すと捉えられる条件である

 

真相は分からず終いだが、新は湯でグレイフィアの背中を洗い流す

 

「背中、ありがとうございました。さ、お湯に浸かりましょう。せっかくの温泉なのですから」

 

グレイフィアに言われるまま、次は温泉に浸かる事にした

 

「……良いお湯です。温泉は日本のものに限りますね……」

 

温泉に浸かり、グレイフィアが気持ち良さそうにそう漏らす

 

新は「そうっすね……」と返すものの、直ぐ隣に銀髪の美女がいるゆえに温泉よりも気になってしまう

 

このままでは保たないので何か話題を振る事にした

 

「そ、そう言えば一誠とミリキャスが随分と打ち解けたって聞きましたけど」

 

「ええ、あの子もとても喜んでいました。……あの子は出生が特別なものだったゆえに他の子供達のように自由が約束されているわけではありませんから……」

 

ミリキャスは魔王サーゼクスとグレイフィアの息子

 

魔王の子供と言うだけで周りの大人達は特別な目で捉えている

 

今後待ち受けるものはミリキャスが思う以上に大きなものとなるだろう

 

プレッシャーに押し潰されないよう、一誠もそうだが新も出来る限りのフォローをしていかなければならない

 

そんな風に思っていると……グレイフィアが新に近付き、身を寄せて新の頬に手を伸ばす

 

「夫も息子もプライベートな時間を有意義に過ごした。それならば私も多少新さんと楽しく過ごしても文句は言われないと思いませんか?」

 

「――――ッッ!」

 

いつものグレイフィアと違い、官能的な目をしているので不覚にも鼓動が(たかぶ)ってしまう

 

「……義弟(おとうと)が出来るのですね……」

 

「グレイフィアさん、家族とかは……?」

 

新は不意にそう訊いてしまい、グレイフィアは少しだけ表情を落ち込ませていた

 

「死別、または生死不明です。過去の旧政府と反政府の内戦でルキフグス家の者は実質私しか残りませんでしたから……」

 

「……ツラい事を訊いてしまいましたね」

 

「あなたが気に病む必要はありません。遠い昔に終わった事です。それに私には新しい家族がいますから……。サーゼクス、ミリキャス、リアス、お義父(とう)さま、お義母(かあ)さま、ルシファー眷属……それに」

 

グレイフィアが新の頬を撫でる

 

それはリアスの撫で方にそっくりだった

 

義弟(あなた)もいる。今はとても幸せなんですよ」

 

素敵な笑顔を向けるグレイフィアに、新の下心指数が上昇

 

そして、こんな状況でも新の目がグレイフィアのおっぱいに釘付けになってしまう

 

―――と、ここで新が何かに気付いた

 

『……酒の匂い……っ?』

 

最近の新はリュオーガ族の力を頻繁に使用するお陰で鼻が利くようになり、グレイフィアの口元から微かな酒の匂いを嗅ぎ取れたのだ

 

「……グレイフィアさん、もしかして酔ってる?」

 

「さあ、どうでしょうか? ……ひっく」

 

「絶対酔ってるよな⁉ “ひっく”って言ったぞ!」

 

「そんな事より新さん。先程、私の胸ばかり見てましたよね?」

 

「えーっと、それは……俺の悪い癖でして……どうにも視線がそちらに行ってしまうもので」

 

そう言うとグレイフィアはクスクスと小さく笑う

 

「構いませんよ。若い男性なのですから、当然の反応でしょう? けれど、そうね。前にも言った覚えがありますけど……私の裸を見た殿方はサーゼクスとあなただけですね」

 

―――と、ここで突然の浴場の扉が開かれる

 

そちらに目を向けてみると―――そこにはリアス、朱乃、小猫、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセ、レイヴェルと女性陣が全裸で混浴に姿を見せていた

 

特にリアスが新と身を寄せ合うグレイフィアを確認する

 

「新……と、お義姉(ねえ)さま⁉」

 

新とグレイフィアの状況を見て驚き、全身を震わせるリアス

 

グレイフィアは新とリアスを交互に見た後、意味深な笑みを浮かべて言う

 

「あら、リアス。浴場で大きな声を出すものではありません」

 

「……新を混浴の温泉に誘おうと男子部屋に行ってみたら、新がいなくて……もしかしたらとここに来てみれば……こ、これはいったい……?」

 

“ヤバい!”と直感した新は直ぐに言い訳をしようとしたが―――グレイフィアが新に抱き付いてくる

 

素晴らしいボリュームのおっぱいが新の背中に押し付けられ、極上の感触が広がる

 

そして、グレイフィアがからかうようにリアスに告げた

 

義弟(おとうと)とお風呂でのスキンシップ、と言ったらどうするのかしら?」

 

その言葉に対してリアスはタオルを落とし、イヤイヤと首を横に振った

 

「……取られちゃった……私の新、お義姉(ねえ)さまに……取られちゃった……」

 

駄々っ子が言いそうな事を(つぶや)きながら、リアスは涙目になった

 

「これが真の浮気なのね……グレイフィアさま、さすがですわ……」

 

その場にくず折れ、虚ろな目になる朱乃

 

「魔王の妻を新が略奪! いや、魔王の妻が部長から新を奪ったのか? どちらにしてもさすがだな」

 

「うんうん! もう、これは大事件よ!」

 

ゼノヴィアとイリナは感心するように見守るだけ(笑)

 

「……新先輩ゲットの道は険しすぎる」

 

「……最近、新さまを遠く感じますわ」

 

小猫とレイヴェルは遠い目をしていた

 

「凄い現場を見てしまいました……。浮気旅行とはよく言ったものです」

 

ロスヴァイセは何を言っているのだろうか?

 

リアスは意を決したような目付きで、フラフラと覚束(おぼつか)ない足取りで新とグレイフィアの方に向かっていく

 

「……良いもん。……お義姉(ねえ)さまを倒して、新を取り戻すもん! 死ぬ気でいくわよ、朱乃!」

 

リアスは決死隊のような宣言をして、手元に紅い魔力を(たぎ)らせる

 

「そうですわね。たとえ相手がグレイフィアさまでもここは退けませんわ! リアス、彼を奪い返しましょう!」

 

朱乃も手元に電気を走らせていた

 

「面白いですね。ふふふ」

 

新に抱きつきながらも不敵な笑みを浮かべ、オーラを纏うグレイフィア

 

「ちょ、ちょっと待て! 俺の言い訳を聞いてくれ! グレイフィアさんは酒に酔ってて―――」

 

「お義姉(ねえ)さまのおたんこなすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 

その後、混浴の浴場で熾烈なキャットファイトが始まり、新は何も出来ずに巻き込まれる事に―――

 

結局、最後まで癒されたのか癒されなかったのか分からない慰安旅行になってしまいました(笑)




いよいよ次回からは14巻編に入ります!

次章のタイトルは“進路指導のウィザードとダークロード”です!

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