ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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やっとこさ書けました……。


異世界おっぱいチャンネル受信⁉

「では、イッセーさま。しっかりと掴まっていてください」

 

「で、でも良いんスか? こんな思いっきりしがみついちゃったりして……」

 

「……はい。少々恥ずかしいですけど……っ、頑張ります……っ」

 

顔を赤らめるユキノ、今の彼女は一誠の背中にガッチリとしがみついていた

 

ユキノが提案した打開策とは―――“彼女自身が一誠の足役となって水中移動を(にな)う”と言うものだった

 

この黒水(くろみず)の中では魔力が思うように維持できないので、砲撃系統の魔力ではトランザーにダメージを与える事は難しい

 

ゆえに打撃で押していくしか無い……

 

更に水の抵抗のせいで動きも制限され、何もかも圧倒的に不利な状況

 

しかし、人魚と化したユキノが加われば話は別だ

 

彼女の能力によるサポートが加われば、速度だけでも向上できる

 

「では、参りますっ!」

 

そう言ってユキノは一誠と共に漆黒の海の底へと(もぐ)っていく

 

先程とは違って海中を自由自在に泳いでいる感覚に、一誠は少しばかり感動を覚える

 

しかし、この漆黒の海が自分達にとって苦である事は変わらない

 

いくら水中仕様とてユキノにも負担が掛かる上、限界もある……

 

一誠は気を引き締めて攻撃に意識を集中させる

 

海底にまで差し掛かったところで、先程叩き落とされたトランザーが土煙を上げて飛び起きる

 

「チッ、オレとした事が不意を突かれてしまったか」

 

打たれた部分を(さす)り、首をゴキゴキと鳴らすトランザー

 

「しかし、()せんな……。赤いトカゲもどきの攻撃力がいきなり跳ね上がっただと? いったい何が奴の力を増大させた? 実に不可解だ……そして不愉快極まる……!」

 

不快感を明らかにした表情で一誠を睨み、海中を猛然と突き進んでいく

 

両腕の(ヒレ)で2人を斬ろうとするが、人魚(マーメイド)状態のユキノの移動速度は感嘆の一言に尽きるものだった

 

一誠を(かか)えているにもかかわらず、水中を優雅かつ素早く泳いでトランザーを翻弄する

 

目まぐるしいスピードでトランザーの攻撃を回避し、一誠が攻撃を仕掛ける

 

顔面やボディにパンチを浴びせ、更にアゴを蹴り上げる

 

トランザーも反撃を(こころ)みるが、(ことごと)(かわ)されてしまう

 

ヒット&アウェイを繰り返していく一誠だが、それでも決め手を与えられない……

 

しかし、有効とも言える手法が見つかり、絶え間無く打ち込んでいけば勝機は(おとず)れてくる筈

 

一誠は一心不乱にヒット&アウェイ戦法を続けた

 

殴っては逃げる、蹴っては逃げる

 

そんな戦法に撹乱されているトランザーは徐々に苛立ちを(つの)らせた

 

「チョコマカと逃げ回りおって……鬱陶(うっとう)しい限りだ。ならば―――」

 

このまま追い掛けても埒が空かないと踏んだトランザーはその場で停止し、全身から何かが噴き出し始めた

 

プシューッと噴き出したのは―――大量の気泡

 

その気泡がトランザーの全身を包み込んでいく

 

一誠とユキノは警戒しつつも、トランザーとの距離を詰めていく

 

気泡によって覆い隠されたが、徐々にトランザーの影が見えてくる

 

動こうとする様子も無い……

 

『よしっ、ユキノさん! ここで特大のを打ち込みます! 突っ込めますか⁉』

 

『はいっ!』

 

一誠の指示を聞いてユキノが移動速度を上げて突っ込んでいく

 

一誠は右の籠手を肥大化させ、更に力を倍増させる

 

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)!!!!』

 

Solid (ソリッド) Impact(インパクト) Booster(ブースター)!!!!』

 

一誠は特大仕様のソリッド・インパクトを泡の中にいるトランザー目掛けて打ち込んだ

 

ガゴォォオオンッッ!

 

重く鈍い打突音

 

打撃は寸分の狂い無く入ったのだが……!

 

ビキビキビキッ!

 

『―――ッッ! ウアアァァァァッ、アアアアアアアアア……ッッ!』

 

一誠が拳を押さえて悶絶する

 

見てみると……一誠の籠手は完全に砕かれ、手からも血が噴き出している

 

いったい何が起こったのか?

 

わけが分からないまま泡の方に視線を向けると―――トランザーが姿を現す

 

だが、現れたトランザーの全身はまるで金剛石のような光沢を放っていた

 

見るからに硬そうな肉体と化したトランザーに、一誠とユキノは絶句する……

 

「残念だったな、赤いトカゲもどき。オレは体の硬度を自在に変化できる。『天地晦冥(てんちかいめい)』の黒水(くろみず)には炭素も含まれていてな。それを吸収し、圧縮する事で肉体の硬度を最大限に高めた。造魔(ゾーマ)……否、深淵イチの防御力を誇る―――このトランザー。もはや貴様の攻撃などヤワなガラス細工同然だ」

 

トランザーは太い両腕で一誠とユキノを捕まえる

 

優勢が僅かな時間で劣勢に(おちい)り、トランザーの握力で2人の体が(きし)

 

「このまま握り潰しても良いがまずは赤いトカゲもどき、お前から先に始末してやる。そうすれば先程のように不可解な真似は出来なくなるだろう。いずれにせよ、『天地晦冥(てんちかいめい)』の毒がそろそろ回ってくる頃合いだ。体の自由も利かなくなる」

 

トランザーはユキノを放り捨て、一誠の始末を優先する

 

直ぐに助けに行こうとするユキノだが、悲しくも『天地晦冥(てんちかいめい)』の黒水の毒性によって体の自由が利かなくなり、思うように動けない

 

また一誠も黒水の毒で体を(むしば)まれていく

 

トランザーは微塵の容赦も無く、腕の(ヒレ)で一誠の鎧の前面を切り裂いた

 

一筋(ひとすじ)二筋(ふたすじ)の裂傷が刻み込まれ―――噴出した血が海中に(ただよ)

 

トランザーが硬質化した状態で拳を握る

 

「今度の拳は先程の比ではないぞ? 精々成仏できるように祈っておくんだな!」

 

ドゴオォォッッ!

 

裂けた傷に極太の拳を叩き込んでいくトランザー

 

防御力―――肉体の硬度が上がると同時に、攻撃力も今までのモノとは比べ物にならない……

 

最硬度と言っても過言ではない強固な拳が打ち込まれ、一誠は更に血を吐き出す

 

内側から、外側からも滅多打ちにされ……一誠の気力と体力はもう限界を迎えようとしていた

 

散々殴ったトランザーは一誠の頭部を右手で掴み、最後の仕上げに取り掛かる

 

「我々に啖呵を切った胆力(たんりょく)だけは褒めておこう。だが、これがお前の限界だったわけだ。……では、そろそろトドメを刺してやろう。2度と目覚めぬように頭を粉々に砕いてやる」

 

『……ッッ! ……ッッ!』

 

トランザーの右手が一誠の頭を握り潰すべく、徐々に力を強めていく

 

兜が割られ、遂には頭蓋骨が(きし)み始める……っ

 

『チクショウ……っ! せっかく、ユキノさんのお陰で助かったってのに……っ! この暗い海の中で死んじまうのかよ……っ⁉』

 

もがいてみせる一誠だが、トランザーの右手はビクともしない

 

貴重な体内酸素を無駄に消費するだけだった……

 

ユキノも限界寸前で、苦悶に満ちた表情で海中を(ただよ)

 

本当にここで最期を迎えてしまうのだろうか……?

 

『こんな所で死にたくねぇよ……っ。せめて、せめておっぱいを堪能させてくれぇ……っ』

 

薄れていく意識の中で一誠がそう願った刹那―――“声”が流れてくる

 

『あなたの想いはその程度ですか、乳龍帝(ちちりゅうてい)?』

 

『………………んっ?』

 

突然聞こえてきた声にハッと意識が(よみがえ)る一誠

 

いったい何処から“声”が聞こえてくるのか視線を泳がせると……視界に(とら)えたのはユキノのおっぱいだった

 

すると、おっぱいは静かに話し始める

 

『私はこの女性のおっぱいではありません。―――私はおっぱいの精霊です』

 

…………………………

 

『………………誰だ、お前はっ⁉』

 

あまりにも意味不明な語りに一誠の意識が覚醒し、ユキノのおっぱいに指を突きつけていた

 

『落ち着いてください。私はこの娘のおっぱいを介して、あなたに話しかけているのです』

 

『だから! 誰なんだよ、お前!』

 

『私は全てのおっぱいを(つかさど)りし神―――乳神(ちちがみ)さまに(つか)える精霊です。あなたの(かたく)ななまでのおっぱいへの渇望(かつぼう)が私を呼び出したのです』

 

『バカな! 俺のパイリンガルが知らずに発動しただけじゃなく、違うチャンネルまで受信しちゃったの⁉』

 

「さっきから何を慌てているんだ、こやつは?」

 

怪訝な表情で一誠を(うかが)うトランザー

 

“おっぱいの精霊”を自称する声に驚愕せざるを得ない一誠だが、その声は籠手に宿るドライグにも聞こえていた……

 

『あ、相棒……っ。確かに俺にも乳の精霊とやらの声が聞こえる……。俺の知らない世界の力を感じる。……まさか、相棒は異世界の神の使いを呼び寄せたと言うのか……っ?』

 

『ドライグ! 乳神さまって、何処の神話体系の神さまなんだ⁉』

 

『俺が知るわけ無いだろぉぉぉおおおおおおっ! うおおおおんっ! また俺はおっぱいドラゴンの忌み名に拍車が掛けられるぅぅううううううっ! 俺は何も悪くないのに! 相棒が、相棒がぁぁぁぁ!』

 

ドライグはいつにも増して泣き叫んだ(笑)

 

『よく聞きなさい、乳龍帝(ちちりゅうてい)よ』

 

『あーもうっ、何スか⁉』

 

『今こそ乳神さまの力を、ご加護をあなたに与える時です。おっぱいを求める者に乳神さまは慈悲深いご加護を与えます。きっと役に立つ事でしょう』

 

おっぱいの精霊がそういった直後、一誠の鎧の全宝玉が光り輝き始める

 

今までに無い力強さを(とも)した光……

 

『乳神さまの加護を今こそ、あなたへ―――』

 

ゴオオオオオオッッ!

 

一誠の鎧の各所から莫大なオーラが噴き出し、そのパワーアップに一誠もドライグも驚く

 

『な、何か知らないけど……スゲェ力を感じるぞ⁉』

 

『お、俺もだ……っ。それに……何故か懐かしい力の波動も感じる……!』

 

“今なら勝てる気がするっ!”

 

そう思った瞬間、一誠の意識は完全に覚醒し、トランザーの右手を引き剥がす

 

そして、直ぐに攻撃へ転じた一誠の拳打がトランザーの顔に突き刺さる

 

「――――ッッ⁉」

 

拳を食らったトランザーの顔は驚愕に満ちていた

 

何故なら……一誠の拳打でダメージを受けたからだ

 

一誠はそのまま拳の乱打乱撃を繰り返し、トランザーを押し戻す

 

全ての拳がトランザーの肉体に刺さり、その(たび)にトランザーの顔が苦痛に歪む

 

「……バ、バカな! ヤツの攻撃力がオレの防御力を上回っただと⁉ いや、それどころじゃない! まるで攻撃が体内にまで直接響いてくるような感覚だ……ッッ! 何なんだ、コイツは……⁉ 何なんだ、この力は⁉」

 

あり得ない事態に憤慨したトランザーはお返しとばかりに殴り返す

 

暗い海中での殴打合戦に発展し、両者が息つく暇を与えず殴りまくる

 

『やっと勝機が見えてきたんだ……ッ! 1発でも多く打ち込んでやるッ!』

 

一誠は残された気力と体力を振り絞り、トランザーに拳打を浴びせ続ける

 

ひたすら殴る、ひたすら蹴る、ひたすら殴る……!

 

必死の攻撃がトランザーに焦燥感を(つの)らせた

 

「おのれぇぇぇ……ッ! 調子に乗るなァッッ!」

 

(いきどお)るトランザーは両手に禍々(まがまが)しい呪力(じゅりょく)のオーラを纏わせて一誠の腹に打ち込み、そのまま突き進んで岩壁に叩き付けた

 

前後からの圧殺攻撃に一誠の骨と内臓が悲鳴を上げる

 

しかし、トランザーの猛攻は終わらない……

 

岩壁から引き剥がした一誠に今度は肘を押し当て、海底に叩き付ける

 

海中を泳ぎ回り、あちこちの海底や岩壁に連続で叩き付けていく

 

「これで終わりにしてやろう……ッ!」

 

トランザーは一誠を頭上に抱え上げ、(みずか)らの肩の上に乗せる

 

そして顎と太腿(ふともも)を左右の腕でロックし、弓なりに反らせて背骨を痛め付ける

 

続けてトランザーは呪力のオーラを全身に纏い、猛スピードで海中を突き進み始めた

 

速度が乗ってきたところで海面から空中へ飛び出し、一誠を再び海面へと叩き付ける

 

その行為を何度も繰り返していき、いよいよ最後の仕上げに取り掛かった

 

猛烈な回転を加え、暗い海中に渦潮を発生させながら海底目掛けて突き進む

 

「ディープ・ダイブ・インパクトォォォォッッ!」

 

トランザーは逆さまの体勢で回転を加えながら、一誠を脳天から海底に激突させた

 

激突した瞬間、莫大な破砕音と土煙が上がり―――周辺一帯が大きく揺れる

 

(しばら)くして揺れが治まり、トランザーは体勢を元に戻す

 

脳天から海底に叩き付けられた一誠の体は完全に埋もれ、両足だけが飛び出ている

 

その足はピクリとも動かない……

 

「……フンッ、死んだか」

 

トランザーは埋もれた一誠に背を向け、次は海中に(ただよ)っているユキノの殺害に移行しようとした

 

ボコ……っ

 

僅かに聞こえた気泡の音にトランザーは表情を強張(こわば)らせた

 

あれだけ苛烈な攻撃を食らわせて、生きていられる筈が無い……っ!

 

そう思って背後に視線を移すと……信じられない光景を目の当たりにした

 

「……ッッ! キ、キサマ……ッ! 何故生きているッッ⁉」

 

トランザーの言葉通り、一誠は死んでいなかった……!

 

兜も鎧もボロボロに破損し、全身が血だらけになっているが―――赤龍帝(イッセー)の眼には闘志の炎が燃えていた

 

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倍加の音声が何度も響き、両腕の籠手に撃鉄が形成される

 

一誠は力強い眼力で向かってくるトランザーを見据え、弓を引くように拳を構えた

 

トランザーの呪力を帯びた豪腕を左の拳打で()き止め、右の拳打を力一杯撃ち込んだ

 

撃鉄を鳴らして威力を底上げさせ、そこから更に倍加の音声を響かせた

 

『―――クリムゾン・インパクトォォォォォオオオオオオオオオオオオオオッッ!』

 

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)!!!!』

 

Solid(ソリッド) Impact(インパクト) Booster(ブースター) Rush(ラッシュ)!!!!』

 

何度も撃鉄を撃ち鳴らして極太(ごくぶと)仕様の拳打を打ち込み、海面へと上昇させる一誠

 

そして、乾坤一擲(けんこんいってき)―――トドメの1発をトランザーに向けて撃ち放った

 

極大の一撃がトランザーに突き刺さり、そのまま海面へと打ち上げた

 

海中から水柱が噴き上がり、それと共にトランザーが空中へ舞い上がる

 

「…………ッッ⁉ …………ッッ」

 

硬質化させた肉体に亀裂が入り、上空高く跳ね上げられたトランザーはそのまま落水(らくすい)

 

再び水柱が噴き上がった直後、漆黒の海に異変が(おとず)れる

 

主の死を(さと)ったのか、『天地晦冥(てんちかいめい)』の黒水がどんどん引いていく

 

黒水が消えた事で地上が安全地帯に戻り、高台に避難していたアーシア達が一誠とユキノのもとに駆け寄る

 

「イッセーさんっ! ユキノさんっ!」

 

「ア、アーシア……っ。ユキノさんを、先に回復させてやってくれ……っ」

 

一誠の頼みに応じたアーシアは直ぐ様ユキノの治療に取り掛かる

 

さすがに力を使い過ぎたのか、一誠はその場で尻餅をついて大きく息を切らす

 

『乳龍帝よ、見事でした。またいつか会える日を楽しみに―――』

 

「あ、おっぱいの精霊とやらの声が遠ざかった。……結局、乳神さまって何だったんだろ」

 

『相棒。出来れば俺は2度と関わりたくないぞ……っ。これ以上、心労の種が増えるのは嫌だ……っ』

 

ドライグが今にも泣きそうな声音で一誠に懇願(こんがん)する

 

恐らく一誠もこんな意味不明な異世界の神との接触は御免(こうむ)るだろう……

 

ふと一誠は離れた場所で倒れているトランザーに視線を向けた

 

「……また起き上がったりしないよな? これ以上は()たないぞ……」

 

『その心配は無さそうだ、相棒。ヤツからは生気(せいき)を感じられない。もう動く事は無いだろう』

 

「そっか……良かったぁ……っ。そこんトコだけ乳神さまのご加護に感謝しないとな」

 

ようやくトランザーが事切れた様子に安堵し、一誠は天を(あお)いだ

 

その後、アーシアの治療を受けてある程度回復した一誠は“乳神”や“乳神に仕える精霊”の経緯(いきさつ)を話したが……一様に引いていた

 

「あ、あれ? なんで皆して引いてるんだ? いや、引くのは分かるよ。俺だって信じられないって思ってるもん。でも、本当なんだ! 本当におっぱいの精霊ってのが俺に語りかけてきて、乳神さまのご加護のお陰で―――って、アーシア⁉ なんでまた回復させようとしてるの⁉ しかも、頭部に集中してるよ⁉ もしかして頭がヤられたと思ってる⁉」

 

『気持ちは分かるが、皆聞いてくれ。実は相棒の言う通りなんだ。乳の精霊とやらの声が聞こえてきたんだ。残念な結果だが、こいつは異世界の神の使いを呼び寄せたらしい―――って、おい! 俺にまで回復の光を飛ばすなぁぁぁぁぁぁっ! うおおおおんっ! どうせおっぱいドラゴンの声なんて誰も信じちゃくれないんだ! こんな生活もう嫌だぁぁぁぁぁぁあああああああっ!』

 

弁明しようとしたドライグは泣き叫び、一誠は心労の種を増やしてしまった事に心の底から謝った

 

そこへ人魚(マーメイド)の姿から元に戻ったユキノが歩み寄ってくる

 

「あ、あの……っ。イッセーさま」

 

「あ、ユキノさん。どうしたんスか?」

 

一誠が訊ねるとユキノは何やら顔を赤らめ、チラチラと視線を合わせる

 

ユキノは深々と頭を下げて言い放った

 

「先程は緊急事態とはいえ、あのような形で……く、口付けをしてしまい―――申し訳ありませんでしたっ!」

 

「ゴッフォッ⁉」

 

ユキノの爆弾発言に一誠の口から何かが飛び出し、彼女の姉であるソラノは「ヒューヒューッ、役得だゾ~♪」と茶化してくる

 

その直後、アーシアがジト眼で一誠に詰め寄る

 

「……イッセーさん? 今のはどういう意味ですか? 口付けって……キスの事ですか?」

 

「ア、アーシアちゃん? お顔が怖いよ? あの……ユキノさんが言ってるのは人命救助的な意味であって、決してイヤらしい意味で言ったわけじゃ―――」

 

「人命救助、ですかぁ……。そうなんですか……。では、シスター・グリゼルダにお願いして、お祓いを受けてもらいましょう。イッセーさんの中にエッチな精霊さんが潜んでいるかもしれませんので」

 

「アーシアちゃんっ⁉ もしかして怒ってますか⁉ もう俺の中におっぱいの精霊はいませんよっ⁉ いないからお祓いするのだけはヤメてっ! 心身ともにボロボロの状態でお祓いなんかされたら本当に死んじゃうッ! 誰かぁぁぁ! 助けてぇぇぇぇぇぇえっ!」

 

一誠は“シスター・グリゼルダのお祓い”から逃れるべく、軋む体に鞭を打って助けを求めた

 

そして、その願いは成就(じょうじゅ)せず―――否、別の形で叶う事になった

 

ドオォォォォォォォオオオオンッッ!

 

突如鳴り響く爆砕音

 

音のした方向を見てみると、砂煙の中から2人の人影が現れた

 

一方は苦しそうに傷を押さえ、ペッと血を吐き出すボロボロの新

 

もう一方は悠然と(たたず)む怪物―――厄災(やくさい)ことテンペスター

 

どうやら今まで空中戦を繰り広げ、ここに落ちてきたようだ

 

状況は新が劣勢のように(うかが)える

 

「クソ……ッ、マジで歩く災害だよ、コイツは……!」

 

「災害ではない。我は深淵より生まれし、厄災のテンペスター。同じ相手に2度も負けはしない」

 

テンペスターは4本の魔手を広げ、「ヒュルッ」「ボオッ」「カチカチッ」「ゴロロンッ」と唱えると―――呪力を帯びた凶悪な竜巻、炎、氷、雷がそれぞれの腕を(おお)っていく

 

1つだけでも厄介だった攻撃が、今度は4つ同時に発動……っ

 

多種多様な厄災を操る怪物(テンペスター)が新を見据えて告げた

 

「深淵に沈み、闇の彼方へ―――堕ちろ」




ようやくここで乳神と、乳神に仕える精霊を出せました!本来ならもっと早くに登場するべきなのですが……

何はともあれ、次回は2度めの新VSテンペスター戦です!

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