ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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また時間かかってもうた……

一誠VSトランザー戦がメインです!


深淵の闇(ダークネス・フォーム)晦冥(かいめい)のトランザー

「ヒュルッ」

 

遂に始まった因縁のリベンジマッチ

 

新はテンペスターと、一誠はトランザーが相手と言う振り分け

 

テンペスターの作り出した無数の竜巻が新に襲い掛かる

 

新は剣に火竜のオーラを纏わせ、向かってくる竜巻を片っ端から斬り裂いていく

 

その後、剣を勢い良く振り抜いて、剣に纏わせていた火竜を放つ

 

大口を開けながらテンペスターに向かっていく火竜

 

テンペスターはその場から動かず―――

 

「ドザァッ」

 

一言呟いた途端、大雨が降り注ぐ

 

大雨に打たれる火竜は次第に勢いが(おとろ)え、遂に消えてしまう……

 

テンペスターは「ビュンッ」と動きを加速させて詰め寄り、新に蹴りを入れる

 

新は体勢を崩され、更なる追撃が来る

 

「ゴロロンッ」

 

新の頭上から膨大な雷撃が降り注ぎ、新の全身を呑み込む

 

雷に打たれながらも、新は先程と同じように竜の呼吸法で(ほとばし)る雷を喰らう

 

身体中からプスプスと黒煙を上げる新は、テンペスターを睨み付ける

 

「チクショウ……この前よりも強くなってやがるな」

 

「炎だけでなく、雷も喰うのか。奇異な奴だ」

 

「それはこっちの台詞だ……ッ!」

 

新は両手両足に火竜のオーラを纏わせ、テンペスターに拳と蹴りの乱打を繰り出す

 

テンペスターは「ガキンッ」と肉体を硬質化させ、肉弾戦で対抗する

 

殴打合戦の中でも時折(ときおり)火竜を放つが、テンペスターは鋭利な刃物に変化させた十指で切り裂く

 

多彩な技と技のぶつかり合い……

 

新とテンペスターの戦いをそう例えるのなら、一誠とトランザーの戦いは“力と力のぶつかり合い”と言うべきだった

 

「うおぉぉぉぉおおおおおっ!」

 

「フンッ」

 

一誠の拳打を同じく拳打で迎え撃つトランザー

 

何度も何度も入れているにもかかわらず、トランザーには決定打を与えられない

 

しかも、このトランザーはパワーだけに留まらず……

 

一誠が見舞った拳打を片手で止め、更にそれを内側に(ひね)って転がす

 

関節を(ねじ)られ、なす術無く転がされた一誠に対して―――トランザーは追い討ちの踏みつけ

 

背中に重量級の衝撃がのし掛かり、口から胃液を吐き出してしまう一誠

 

トランザーは更に跳躍して、エルボードロップの体勢で落ちてくる

 

ギラリと鈍い光を放つ(ヒレ)が迫り来る

 

一誠は咄嗟に背中のブーストを噴かして、その場から緊急離脱

 

トランザーの(ヒレ)がフロアの床に突き刺さり、先程まで一誠がいた場所は大破する

 

ムクリと起き上がるトランザーに対し、一誠は再度ブーストを噴かせて突っ込んでいく

 

「まだ懲りずに殴ってくるか。ワンパターンな奴め」

 

「うるせぇよっ!」

 

一誠の拳打をまたも軽々と止めるトランザー

 

その直後、一誠は「新ァッ!」と呼び掛けてからトランザーの腕を掴む

 

一誠の呼び掛けに意図を察した新は、テンペスターの蹴り足を掴み―――お互いの相手同士を激突させようとする

 

しかし、そうは問屋が(おろ)さない……

 

「ドドンッ」

 

テンペスターの発した衝撃波が新と一誠を上から押し潰し、2人のコンビプレイは失敗に終わってしまう

 

目論見を潰したテンペスターとトランザーはそれぞれの相手を殴り飛ばし、新と一誠は壁に叩き付けられる

 

「ズバババンッ」

 

テンペスターが腕を振るうと無数のカマイタチが発生し、2人を切り刻もうと襲い掛かってくる

 

カマイタチは猛威を振るい、壁もろとも2人を切り刻んでいく

 

全身を斬られ、血を噴き出す新と一誠

 

更にバラバラに切り刻まれた壁が2人の頭上から降り注ぎ、押し潰される

 

瓦礫の下敷きとなってしまい、血が床に拡がっていく……

 

トランザーとテンペスターは(きびす)を返し、今度はアーシア達の方に視線を移す

 

得物を手にして身構えるゼノヴィアとイリナ

 

その時、背後から瓦礫がはね除けられ、新と一誠が飛び出してきた

 

「まだ終わっちゃいねぇんだよッ!」

 

「アーシア達に近づくんじゃねぇッ!」

 

飛び出してきた両者に対し、トランザーとテンペスターが再び迎え撃つ

 

新の火竜を纏わせた打撃を、テンペスターは竜巻の両腕で防ぐ

 

一誠の拳打をトランザーは頑強な(ヒレ)で受け止める

 

その後、熾烈な白兵戦が続き……一旦距離を取る四者

 

新と一誠は息が乱れているが、トランザーとテンペスターは相変わらず余裕の様子を崩さない

 

そして、テンペスターが一言漏らす

 

「飽きたな」

 

「ウム……そろそろ認めてやろう。こやつらはただの悪魔にあらず」

 

不穏な台詞が出た直後、トランザーとテンペスターの体から呪力(じゅりょく)のオーラが滲み出てくる

 

揺らめく呪いのオーラはまるで生物のように新達を睨み、周囲の空気を震撼させる……

 

その震えは次第に大きくなり―――2匹のバケモノに異変が(おとず)れる

 

「我ら深淵の力を解放しなければ、破壊できぬ相手と見た……ッ」

 

トランザーの体が一回り肥大化、頭と両腕の(ヒレ)が更に鋭さを増し、頭部もより凶悪じみた様相となる

 

「本気で行くぞ……ッッ!」

 

テンペスターは(たてがみ)が伸び、黒い体毛が身体中を覆っていく

 

以前、新と対峙した時の姿と似ているが……今度は計4本の魔手(ましゅ)を生やす獅子の獣人と化した

 

その光景を見てイリナが表情を強張(こわば)らせる

 

「な、なに……この重圧……っ⁉」

 

「ああ、さっきまでとは桁違いだ……っ。嫌な脂汗が出てくる……っ!」

 

ゼノヴィアも2匹の尋常ならざる気迫に当てられ、顔を(しか)める

 

当然、新と一誠にもプレッシャーが伝わっているだろう……

 

「ここからが本番ってわけか……ッ!」

 

「新、だったら俺達も―――」

 

「ああ、遠慮無く―――」

 

「「本気で行くぞッッ!」」

 

負けじと2人も本気を出す事を決意

 

新は竜の力を完全解放し、一誠は『真・女王(クイーン)』の呪文を唱える

 

新の体から黒い炎と雷が(ほとばし)り、一誠が呪文の最後の一節を(うた)

 

Cardinal(カーディナル) Crimson(クリムゾン) Full(フル) Drive(ドライブ)!!!!』

 

莫大なオーラが解き放たれ、新と一誠の変化も完了した

 

新の『超越の黒竜帝(インフェルニティ・オーバー・ドラグニル)』雷炎モード

 

一誠の『真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)

 

「「深淵の闇(ダークネス・フォーム)―――解放ッッ!」」

 

トランザーは更に大柄なサメ型の怪物と化し、テンペスターは4本の魔手を広げた獅子の獣人となった

 

(たたず)んでいるだけなのに、その場が凶悪なオーラの渦に包まれる……

 

天地を揺さぶり、イリナ達が固唾(かたず)を飲んで見守る刹那―――地面が()ぜた

 

新とテンペスターは同時に空中へ飛び出し、高速かつ連続の打ち合いを始めた

 

あちこちで飛び散る衝撃は大きく、打撃が衝突する(たび)に建物内が震撼する

 

一誠とトランザーも重量級の殴打合戦を繰り広げ、こちらでも大きな衝撃が飛び交う

 

「……出来る事なら、ここを壊さないで戦ってもらいたいものですね」

 

シスター・グリゼルダがボソッとそう(つぶや)くが、それは無理な話である

 

何せ相手は規格外の組織―――造魔(ゾーマ)が送り出した怪物(バケモノ)2匹

 

本気でやらねば倒すどころか、(わた)り合える相手ではない……

 

壮絶な打ち合いが一頻(ひとしき)り終わると、テンペスターが「ヒュルッ」と竜巻を全身に纏い、新に向かって突進していく

 

凄まじい勢いで滑空し、竜巻の拳を突き出す

 

新も雷炎を纏った拳打で迎撃しようとするが……テンペスターの狙いは別にあった

 

拳同士を激突させるのではなく新自身を捕らえて、建物の窓を破り外へ飛び出していく

 

「このっ、何しやがるっ⁉」

 

「我は貴様を確実に殺す。その為に場所替えだ」

 

新を外へ連れ去っていくテンペスター

 

一誠は追い掛けようとするが、トランザーに行く手を(はば)まれる

 

「くそっ! そこを退()きやがれっ!」

 

「そうはいかん。確実にお前を(ほうむ)る為、ヤツには場所を移してもらった。安心しろ。直ぐに同じ地獄で再会する事になるだろう」

 

そう言うとトランザーの体から呪力のオーラが揺らめき、より一層濃くなる

 

「招待しよう。お前ら一介の悪魔ですら(あらが)えない冥府の深海へと……ッ。―――『天地晦冥(てんちかいめい)』ッッ!」

 

ドドドドドドドドドドドッッ!

 

トランザーの周りから黒い水が大量に噴き出し、凄まじい勢いで建物内を浸水していく

 

一誠達も黒い水の勢いに呑まれ、強制的に建物の外へ追いやられてしまう

 

噴き出した黒い水の勢いは止まらず、周辺一帯をどんどん覆っていく

 

それは何処までも広がる黒い大海原の如し……

 

一誠は「ぷはぁっ!」と水面から顔を出し、続いてアーシア達も水面から顔を覗かせる

 

「どんだけ広範囲に出してんだよ……っ⁉」

 

一誠はヤバそうな雰囲気を察したのか、ユキノに向かって叫ぶ

 

「ユキノさん! アーシアや皆を避難させてくれ!」

 

「は、はい! ですが……イッセーさまも―――」

 

「俺は大丈夫! どっちにしても、あのサメ野郎を食い止めなきゃならないんだ!」

 

「……分かりました。くれぐれもお気をつけて」

 

「ワタシも手伝うぞ、ユキノ」

 

ユキノは神器(セイクリッド・ギア)―――『獣達の楽園(ゾーオン・ガーデン)』の能力で鳥のような姿となり、姉のソラノも神器(セイクリッド・ギア)―――『天使創造(シンセティック・エンジェライズ)』により、コインから天使を生成してアーシア達を近くの高台へ避難させる

 

自分もひとまず空へ飛んで体勢を立て直そうとしたが……直ぐに海中へと引きずり込まれてしまう

 

無論、一誠を海中に引きずり込んできたのは―――トランザーだ

 

極太の右腕を構え、一誠の首元にラリアットを打ち込む

 

ただでさえ息の出来ない水中戦、更に首元への攻撃はまさに二重苦(にじゅうく)である

 

トランザーのラリアットをまともに食らい、ゴボッと空気を吐き出してしまう一誠

 

トランザーは悠々と海中を泳ぎ、一誠の前に立ち塞がる

 

一誠はお返しとばかりにドラゴンショットを撃とうとするが―――放たれた魔力はあまりにも弱々しく、勢いが無いものだった

 

『……っ⁉ 魔力が上手く撃てない……っ⁉ それに何だ……この水……? 浸かってるだけなのに、力が入らねぇ……っ』

 

一誠が黒い水に対して違和感と疑念を抱えている間に、先程放ったドラゴンショットがようやくトランザーの元に届く

 

しかし……勢いの無いドラゴンショットはトランザーに命中したかと思えば―――パシュンッと(はかな)く霧散していった……

 

トランザーはポリポリと被弾した部分を掻き、自身が出現させた黒い水について語り始める

 

「力が入らぬか? それも当然。この『晦冥(かいめい)黒水(くろみず)』はお前達の魔力などを(いちじる)しく低下させる作用があるのだ。更に毒性もあり、少しでも飲めば5分程度で死に至る。いや……それ以前にお前達のような地上の生物は、水中で5分も息が続かぬか」

 

つまり、トランザーが出したのは猛毒の水……!

 

それが建物だけでなく、周辺一帯を覆い尽くしている……!

 

しかも、タイムリミットは僅か5分しかない……!

 

『ソッコーで片付けるしかないってのか!』

 

一誠は籠手から何度も倍加の音声を鳴らし、魔力を上昇させる

 

背中のブーストを噴かして距離を詰めようとするが……地上での戦いと違って、水の抵抗が邪魔して思うように速度が出ない

 

海中だと“多少速い”程度の動きにしかならなかった

 

それでも何とか拳を突き出すが……トランザーは易々(やすやす)と回避する

 

まさしく水を得た魚の如し、自由自在に泳いで海中での機動力を見せつける

 

『地上でさえ厄介だったのに、水中でこの速さとか反則だろ……ッ!』

 

一誠は心中で毒づきながら懸命に攻撃を当てようとするが……拳も、蹴りも、魔力も全てが威力不足で通じない

 

水の抵抗と毒性により、一誠の動きは完全に封殺されていた……!

 

トランザーは素早く一誠の頭上に回り込み、極太の右腕に呪力のオーラを溜め込む

 

危険な密度の呪力に包まれた右腕を構え―――

 

「ディープ・インパクトォッッ!」

 

トランザーの破壊力に満ちた拳が一誠に炸裂

 

一誠はまともに食らったせいで勢い良く海底に叩き付けられ、空気と共に血を吐き出してしまう

 

たった一撃で筋肉も骨も内臓も悲鳴を上げる……

 

『……ッッ! こ、こんなの食らい続けたら……マジで身が()たない……ッ! それ以前に息も続かない……ッ!』

 

一誠は急いで水面に浮上すべく、魔力を増大させて背中をブーストを噴かした

 

「ほう、オレのディープ・インパクトを受けてまだ動けるのか。大した頑丈さだ」

 

水面へ逃げていく一誠を追い掛けるトランザー

 

一足先に水面から顔を出した一誠は苦しさからゲホゲホと()せて、新鮮な空気にありつける

 

高台の方から「イッセーさん!」とアーシアが呼び掛けてくるが、一誠は応える暇も無く再び水中へと引きずり込まれていく

 

『クソ……ッ、コイツ……ッ!』

 

「この海域(かいいき)にいる限り、お前の攻撃などカトンボ以下に成り下がる。おとなしく水葬(すいそう)された方が苦しまずに済むと思うが?」

 

『ふざ、けんなよ……っ! こんな暗い海の底で死んでたまるか……っ!』

 

「無駄な足掻きだな。漆黒の海の藻屑(もくず)となるが良い」

 

トランザーは再び一誠を海底に叩き付けた

 

 

―――――――――――――――

 

 

一方、高台に避難したアーシア達は当惑していた

 

先程は一誠が水面から顔を出してきたのに、直ぐに水中へと引きずり込まれる場面を見てしまったからだ

 

アーシアは真っ先に助けに行こうとしたが、ゼノヴィアとイリナに止められる

 

アーシアは元々泳ぎが得意じゃない方なので、飛び込んだとしても助けられる可能性は極めて低い

 

「それにこの黒い水……何か良からぬ力を感じます。無作為(むさくい)に飛び込むのは危険過ぎますね……」

 

シスター・グリゼルダも黒い水の危険性を気取ったのか、重苦しい表情で告げる

 

アーシアが回復のオーラを飛ばすと言う方法もあるが、漆黒に染まった海中は非常に見えづらく、一誠の居場所を突き止められない

 

このまま指を(くわ)えて見ている事しか出来ないのか……?

 

全員が後込(しりご)みしていると……ユキノが1歩前に出た

 

「私がイッセーさまのもとへ参ります」

 

ユキノの神器(セイクリッド・ギア)―――『獣達の楽園(ゾーオン・ガーデン)』は動物の特性を使用および任意の動物に変化する事が出来る

 

陸上生物や鳥類は勿論、水棲生物の能力を使用する事も可能である

 

……とは言え、トランザーが出現させた『天地晦冥(てんちかいめい)』の黒水(くろみず)は毒その物

 

そんな危険な水の中に飛び込めば命の保証は無いだろう……

 

「ユキノさん……っ」

 

「アーシアさま、イッセーさまを助けたい御気持ちは私達も同じです。その為にもアーシアさまはこの場でお待ちください。アーシアさまの回復能力は重要ですので」

 

ユキノの説得にアーシアは涙目で「お願いします……っ」と(うなず)き、ユキノは一誠の救出準備に取り掛かるのだが―――

 

シュル……ッ

 

「「「「――――っ⁉」」」」

 

アーシア、ゼノヴィア、イリナ、シスター・グリゼルダがユキノの行動に仰天する

 

それもその筈、いきなり“服を脱ぎ始めた”のだから……

 

「ユ、ユキノさん⁉」

 

「ちょちょちょ、ちょっと待って! なんで服を脱ぎ始めてるの⁉」

 

慌てるイリナが問うと、近くにいたチェルシーが補足説明する

 

「あ~、そう言えば知らなかったわね。ユキノの神器(セイクリッド・ギア)って水中仕様の能力を使う際――――いちいち裸にならないといけないらしいのよ」

 

「何その特殊条件⁉ 大きなお友達にとって都合良すぎじゃないっ⁉」

 

そうこうしてる間にユキノはパンツも脱ぎ、文字通り一糸纏わぬ姿となった

 

顔を赤らめているが、一誠の救出に向かう覚悟を決めた表情のユキノは神器(セイクリッド・ギア)を発動する

 

下半身が魚の尾ヒレと化し、人魚のような姿となった

 

「では、行ってまいりますっ」

 

そう言ってユキノは漆黒の海へ飛び込んでいった

 

視界が悪い漆黒の海中を泳ぎ、一誠を捜索する

 

『……っ。この水、思った以上に厄介ですね……っ。浸かっているだけなのに、力が抜かれていく……っ。この姿になれば水中でも呼吸が出来る筈なのに……息苦しい……っ。早くイッセーさまのもとへ向かわないと……!』

 

 

―――――――――――――

 

 

「不憫なものだな、水中で息が出来ん(やから)と言うのは」

 

『……ッ! ……ッ!』

 

トランザーは海底で一誠を押さえ込み、ジワジワと追い詰めていた

 

手足をバタつかせる一誠だが、その行動は貴重な体内酸素を消費するだけだった……

 

「もはや無意味だ。オレが『天地晦冥(てんちかいめい)』を発動させた時点でお前は詰んでいた。いい加減諦めろ。今なら死に体寸前のお前に鞭を打つような真似はしない」

 

トランザーが哀れむような視線で言うが、一誠は当然諦めるつもりなど無い

 

左腕でトランザーを殴ろうとするが、トランザーは少し身を引く程度の所作で避ける

 

『伸びろっ、アスカロンッッ!』

 

Blade(ブレード)‼』

 

左の籠手から内蔵されている聖剣アスカロンの刃が伸び、トランザーの頬に切り傷を付ける

 

僅かに一矢報いた一誠だが……逆にトランザーの神経を逆撫でしてしまった

 

「……最後通告のつもりだったんだが。どうやら理解力も無くなったようだな、赤いトカゲもどきよ」

 

押さえ込むのを中断し、一誠を放り投げる

 

「良かろう。お前の要望通り―――徹底的に殴り殺してやろうッッ!」

 

ドゴォッッ!

 

トランザーの呪力を纏わせた剛腕が一誠の体に突き刺さり、一誠は(たま)らず空気と共に血を吐き出す

 

そこから先は一方的な私刑(リンチ)だった……

 

海中で自由の利かない一誠を剛腕で殴り、叩き落とし、蹴り上げ、肘打ち

 

シャチが獲物を(もてあそ)ぶかの如く、微塵も容赦の無い攻撃を浴びせ続ける

 

重厚な一撃を食らう(たび)に、一誠の意識が徐々に薄れていく

 

『ダ……ダメだ……っ。コイツ、強すぎる……ッ』

 

遂には指一本動かす気力すら無くなってしまい、海中を(ただよ)う格好となる

 

しかし、トランザーは温情など掛けてくれない

 

「これが造魔(ゾーマ)―――否、深淵に歯向かった者の末路だ」

 

特大の一撃が鎧を破壊し、吹き飛ばされた一誠はゆっくりと海底に沈んでいく

 

『息が出来ない……っ。目も(かす)んでいく……っ』

 

一筋の光さえも届かない暗い海の底へ吸い込まれる一誠

 

『チクショウ……何なんだよ、この黒い水は……っ。こんな真っ暗な海の中で……俺は死ぬのかよ……?』

 

何処までも漆黒に覆われた海に対して毒づくが、今の一誠に(あらが)(すべ)は無い

 

ただ暗黒に沈んでいくのみ……

 

『嫌だ……っ! こんな真っ暗な海の中で死んじまったら―――2度と女の子のおっぱいを拝めないじゃねぇか……っ!』

 

こんな時でもおっぱいの事を考える辺りは流石(さすが)と言わざるを得ないが、今はそんな場合ではない

 

しかし、一誠の脳裏に浮かぶのは―――

 

『ああ……アーシアのおっぱいの成長を見届けなきゃいけないのに……っ。ユキノさんとソラノさんの姉妹おっぱいを……味わいたい……っ。チェルシーさんのナイスな小振りおっぱいも、ディマリアの爆裂おっぱいも……もっともっと堪能したかったのに……っ』

 

おっぱい、おっぱい、ただ只管(ひたすら)おっぱい

 

しかし、この漆黒の海の中では―――そんな願いも雲散霧消(うんさんむしょう)

 

このまま海の藻屑となってしまうのか……

 

意識を手放そうとした刹那、弱々しいが……一筋の光が一誠の視界に届く

 

『…………光……っ? そんなのいらねぇよ……っ。空気……空気が欲しいんだ……っ。空気をくれぇ……っ』

 

一誠は残り少ない意識でそう願った

 

彼の必死の願いは―――叶った

 

救援に来たユキノからの口移しと言う形で……

 

彼女から空気が送られ、徐々に意識を取り戻す一誠

 

『……? ……っ。……っ⁉ 人魚……⁉ いや、ユキノさん……⁉』

 

突然の人工呼吸に一誠は驚きを隠せず、意識を取り戻した一誠を見て安堵するユキノ

 

だが、彼女も『天地晦冥(てんちかいめい)』の毒に(おか)されしまい、今度はユキノが意識を失ってしまう

 

力無く沈んでいくユキノ

 

そんな彼女に突進してくる巨大な影

 

「何処から()いて出てきた!」

 

やって来たのは晦冥(かいめい)の主―――トランザーだった

 

一誠ではなくユキノに狙いを定め、膨大な呪力を腕に纏わせる

 

ユキノを殺そうとするトランザーの姿が視界に入った瞬間、一誠の意識が急激に覚醒し―――

 

『その女性(ひと)に触わるんじゃねぇえええええええええッッ!』

 

魔力を爆発させる勢いで加速し、ユキノをトランザーの剛腕から救出

 

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)!!!!』

 

Solid(ソリッド) Impact(インパクト) Booster(ブースター)!!!!』

 

肥大化させた左拳をトランザーの後頭部に叩き込んだ

 

思わぬ反撃を受けたトランザーは「―――ッッ⁉」と言葉も無く仰天し、今度は自分自身が海底に叩き落とされた

 

この隙に一誠はユキノを抱えて水面に浮上

 

「ブハァッ!」と勢い良く水面から顔を出し、余分な水を吐き出す

 

「ユキノさん! ユキノさんっ! おい、しっかりしてくれ!」

 

「……………………ケポッ。はぁ……はぁ……イッセー、さま……? ご無事で良かった……っ」

 

「待ってろ! 直ぐにアーシアが回復させてくれるから! アーシアァッ! 頼む!」

 

「はいっ! お任せください!」

 

アーシアが回復のオーラを一誠とユキノに向けて飛ばし、淡い緑色の光が2人を包み込む

 

一誠の傷も消失し、ユキノの顔色も良くなっていく

 

『これで少しは楽になった……けど、早くアイツを倒さないとその内やられちまう……! 水中じゃ向こうの方が圧倒的に有利だ……っ。どうすりゃ良い……⁉』

 

回復しても状況が好転したと言うわけではない

 

いずれは晦冥(かいめい)黒水(くろみず)による毒で()られてしまうのは明々白々(めいめいはくはく)

 

一誠は頭をフル回転させ、どうにか知恵を絞り出そうとしたが……やはり打開策など簡単には思い付かない

 

「イッセーさま、折り入ってお願いがあります」

 

そんな時に声を掛けてくるのはユキノ

 

一誠は怪訝(けげん)そうに彼女の方に顔を向けた

 

「ユキノさん?」

 

「イッセーさま……私がイッセーさまの足となります。どうかお力添えの許可をお願いします」

 

ここから一誠の大反撃が始まる……⁉




次回はいよいよ……長らく登場してなかった“あの神”にまつわる精霊が一誠のもとに⁉

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