ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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今回は早めに投稿できました!


誰にだって苦手な人物はいるさ……

外も寒くなり、本格的な冬になろうとしている頃

 

部室は珍しく新、一誠、アーシア、ゼノヴィアの4人のみと言うメンツ

 

「そう言えば、イリナって俺達と別行動している時、何してんだ?」

 

新が部屋でお茶を飲みつつ、そんな事を口から漏らした

 

「天界―――天使の役割を果たしているそうだぞ」

 

新の対面に座るゼノヴィアが言う

 

イリナはオカルト研究部の中で唯一の転生天使

 

普段の生活では行動を共にしているが、それ以外のところ―――(おも)に悪魔の仕事中の際は別行動が多い

 

新や一誠達は深夜この部屋に集まって人間からの召喚を待っているが、イリナは居ない

 

時折(ときおり)差し入れを持ってくるくらいだ

 

「休日の時もたまにお一人で出かける事もあるようですよ。何でも天使のお仕事だと……」

 

アーシアがショートケーキの苺をフォークで(すく)いながらそう言った

 

つまり、イリナは新達の知らないところで色々と仕事をしているのである

 

「「……天使の仕事か。興味深いな」」

 

新と一誠がふとそう口にした途端、アーシアとゼノヴィアが顔を輝かせる

 

「そうだな、私もイリナの仕事―――いや、天使の普段の役割とやらに大変興味があるぞ。元教会の戦士だったから知らないわけではないが、イリナの仕事ぶりは友人として見てみたい。なあ、アーシア」

 

「はい、ゼノヴィアさん! 私、一度で良いから天使のお仕事を拝見したいと思っていたんです!」

 

変な部分を刺激してしまったようで、完璧に2人は信仰深い教会関係者モードに突入

 

転生前は教会に属していたから気になるのだろう

 

「……でも、やっぱり、ご迷惑でしょうか……」

 

途端に控えめになるアーシア

 

一瞬興味が沸き立ったようだが、冷静に考えてみればイリナ―――天界に迷惑をかけてしまうと思ったのだろう

 

しかし、そんなアーシアの謙虚な思いを(ぬぐ)い去るように“ある娘”は扉を豪快に開いて登場する

 

―――無論、イリナだった

 

「ふふふ! 話は聞かせてもらったわ! 良いわ、皆! 私の仕事を見学してみて!」

 

どうやら、今回は教会と関係を持ちそうな展開になりそうだ

 

 

――――――――――――――

 

 

次の休日、新と一誠、アーシア、ゼノヴィアが辿り着いたのは隣町の外れにある教会関連の建物だった

 

この辺りで活動している信徒の拠点の1つであり、三大勢力の協力体制下にあるこの一帯での天界側の本部でもある

 

イリナは普段ここに通い、仕事や報告などを(おこな)っているそうだ

 

三大勢力の同盟で急遽新設した為か、外観はわりと(あたら)しめで大きな十字架が目立ち、建物の大きさだけなら駒王学園(くおうがくえん)の新校舎ぐらいはある

 

イリナは一足先に到着しているそうだ

 

ちなみにリアス達には許可を得ており、「良い機会だから教会について勉強してきなさい」と送り出され、裏で天使との話はつけておいてくれるらしい

 

だが、悪魔ゆえか教会関連の建物に近付くだけで寒気が襲ってくる……

 

それはアーシアやゼノヴィアも感じているようだ

 

「……悪魔になってから、町中で教会を見かける(たび)に悪寒が走る。ふふふ、悪魔に転生した信徒にはお似合いかもしれない」

 

「いい加減に割り切れ。破れかぶれで悪魔に転生したくせに」

 

自虐するゼノヴィアにツッコミを入れる新

 

教会の施設育ちである彼女達からすれば、まだ難しい問題なのだろう

 

「……ミサに参加したいです」

 

アーシアは遠い目で建物を見つめていた

 

ちなみに今日は全員が駒王学園の制服を着ており、アーシアは最後までシスター服で行くべきか苦慮していたが……相手側への配慮も(かんが)みて駒王学園の制服にした

 

「来てくれたのね、皆!」

 

建物の前で(たたず)んでいると、イリナが話しかけてきた

 

「今日は天使のお仕事、見せちゃうわ♪」

 

だいぶ上機嫌で声も明るくハキハキしている

 

イリナは新達にとある物を渡してくる

 

首から掛けるカードストラップ、サラリーマンがよく使う社員証のような物だ

 

ストラップの中には新達の顔写真が貼られているIDカードが収まっていた

 

イリナがカードを指して説明する

 

「それは専用の特別許可証よ。天界関連の場所に足を踏み入れても相互に影響が出ないようになっているの。最近、開発されたばかりのもので、まだ関係者の分しか無いみたい」

 

新達がストラップを身に着けると、先程までの悪寒が嘘のように消えていく

 

「その許可証を身に着けている間は悪魔の能力とかは使わないでね。まだ研究段階のものだから、何が起こるか分からないの」

 

イリナはウインクをしながら補足説明をしてくれた

 

ストラップを着けている間は能力の使用は不可、しかも魔力を使ったら何が起こるか分からない

 

まさに一長一短である……

 

しかし、スムーズに事が進んだところを見ると、両陣営による信頼関係は良好だろう

 

「ま、私達が力を使わなければ良いだけの事だ」

 

「お前が真っ先に力を使いそうなんだよ」

 

平然と言うゼノヴィアに再び新がツッコミを入れる

 

特に同じ『騎士(ナイト)』の祐斗からは「ゼノヴィアに技の幅を広げてもらいたい。彼女、戦闘時に何も考えていないと思うんだ……」と残念に語られている

 

イリナ先導のもと、新達は建物内に入った

 

何事も無く自動扉を抜けて中に進む

 

内部の様子は一見何処にでもあるオフィスビルと変わりは無い

 

通路を行き交う関係者もスーツを着ており、普通のサラリーマンに見える

 

―――と思ったら神父やシスターとも通路ですれ違い、新達に気付いたようで軽く驚いた様子と共に好奇の視線を向けてくる

 

「……あー、例の」

 

「……噂には聞いていたが……」

 

すれ違う者達の小声も気になるが、何よりも行き交う人々からのイリナへの挨拶が気になっていた

 

A(エース)イリナさま、お帰りなさいませ」

 

「天使イリナ、ごきげんよう」

 

「イリナさま、あとで主への祈りを見守ってください」

 

スーツを着た人達、神父やシスターを問わず、イリナを見かけるや否や手を組んでお祈りしたり、頭を下げていた

 

誰もがイリナを聖者のように扱い(うやま)っていた

 

忘れがちだが、イリナは天使長ミカエルのA(エース)

 

よくよく考えてみれば凄いポジションなのだ

 

「「……イリナって凄いんだな」」

 

「凄いです……! 私もイリナさんに憧れてしまいます!」

 

「そうだな……元信徒としては、信仰の果てに天使化があるのなら、これ以上ない(ほま)れだろう。友人が天使だなんて、私は誇りに思って良いのかもしれない」

 

新と一誠がボソリと(つぶや)き、アーシアとゼノヴィアは目を爛々と輝かせ、手を組み祈りを捧げだした

 

ふいにイリナが振り返り、気まずそうな表情で笑みを浮かべる

 

「ごめんね。ここに来ているヒト達は全派閥の中でも良識のあるヒト達ばかりなんだけど……やっぱり、悪魔―――と言うよりも新くんやイッセーくん達が物珍しいんだと思う」

 

「別に気にしちゃいねぇから」

 

「そうそう。とりあえず、このヒト達は諸々(もろもろ)知ってるんだろう?テロリストの事とか、先日の冥界で起きた魔獣騒動(まじゅうそうどう)の事も」

 

「まあね。この三大勢力の同盟拠点に所属しているヒト達は全派閥の中でも一定の条件をクリアしてきた者ばかりだから。普段は表立って行動せずに、裏方に回って私達をサポートしてくれているの。そのついでに布教したり、お祓いしたりかな」

 

新や一誠達が戦っている裏で天界サイドも動いている

 

その話は聞いているが、そらよりも気になる事が……

 

「お祓い……悪魔をか?」

 

一誠がまさかと思って問うと、イリナが苦笑いして答える

 

「ううん、この辺を縄張りにしている悪魔―――リアスさんやソーナさんもそうだけれど、彼女達は同盟関係の大切な仲間だもの。そんな事しないわよ。それにリアスさん達が酷い事するわけないじゃない?」

 

「それじゃあ、悪霊とかを退治しているのか?」

 

「ああ、あとは(よこしま)な精霊だな?」

 

新とゼノヴィアの問いにイリナも(うなず)

 

「ええ、悪霊や悪い事する精霊はあとを()たない、無限に出現する存在よ。そういうものに困ったヒト達を救う為に祓うの」

 

「それはリアスお姉さまもおこなわれていますね」

 

アーシアがそう続き、イリナが階段を上りながら深い息を吐く

 

「実はね、三大勢力の協力体制でエクソシストが縮小傾向にあるの。教会に所属する神父、シスターとか、異形と戦える者―――戦士の事ね。戦士達は協力体制の影響で戦う相手を絞られてしまったの。今までは悪魔や堕天使を相手にテリトリー争奪戦をしていたわ。けれど、悪魔に堕天使、妖怪まで味方になってしまったから、相手が少なくなってきたの。現在は魔物や、(いま)だ同盟を拒否している吸血鬼ぐらいが主な相手かしら。おかげで戦士の数も今後減少傾向にあるわ。平和になれば戦う必要は無いものね。テロリストと言う共通の敵がいるから、急激に戦士の数を減らしていくわけではないけれど……」

 

エクソシストの縮小傾向……以前にアザゼルからも聞いてはいたが、確かに問題視される傾向である

 

「主のため、戦いに命を懸けてきた者にとって、生き甲斐でもある剣を捨てろなどとは、さすがにツラいものがあるな。私なら(しばら)くの間、生き方に苦悩しそうだ」

 

ゼノヴィアがそう言う

 

戦士ならではの悩み、今までの生き方を変えると言うのは確かに苦悩するのも(いな)めない

 

新も自堕落な生活スタイルを一変したので、その辺りの苦労は何となく理解できてしまう

 

「ちなみによほどのポストでもない限り、主の存在については隠してあるわ。敬虔(けいけん)な信徒の皆さんにそのような事を伝えられるわけがないもの」

 

イリナは切なそうな瞳を浮かべて補足してくれる

 

この建物にいる神父やシスターは基本的に聖書に記されし神の不在を知らないようだ

 

アーシア、ゼノヴィア、イリナでさえ心の均衡(バランス)を失いかけたのだから、教会関係者にとっては劇薬その物の情報である

 

何も信じられなくなり、自暴自棄になったりしたら大事(おおごと)になりかねない

 

階段を上りきり、上階に上がる一同

 

先導しているイリナが“とある扉”の前で止まる

 

扉には天界の文字が刻まれ、十字のレリーフまで彫られていた

 

如何(いか)にも威厳がある扉で、この中にいるのは相当なお偉方なのだろう

 

ドアをノックする前にイリナが新達に告げる

 

「実はね、今日、この一帯の天界スタッフを統轄(とうかつ)されている支部長がお見えになられているの。普段はお忙しくて、主に教会本拠地のヴァチカンと天界を行ったり来たりしているんだけれど、今日は特別少しだけスケジュールが空いたらしくて。私と同じ転生天使なのよ」

 

「支部長で転生天使か。きっと、元聖人クラスの信徒だったのだろうな。会うのが楽しみだ」

 

期待に胸を膨らませるゼノヴィアだが、その彼女を見てイリナが意味深な笑みを浮かべる

 

「うふふ、きっとゼノヴィアは驚くわ」

 

そう言いながらイリナは扉をノックする

 

中のヒトが「どうぞ、お入りになってください」と丁寧に返してくれた

 

声から察するに若い女性のようだ

 

『―――ッ。……っ? 何だ、今の声を聞いた瞬間、とてつもなく嫌な予感が……ッ』

 

新が(いぶか)しげにそんな事を考えているのも束の間、開かれた扉から部屋に入っていくと―――役員用のオフィスデスクにシスターが1人座っていた

 

頭部にベールをしっかりと(かぶ)り、髪の毛の具合までは分からないが、北欧的な顔立ちで青い目をした美女だった

 

歳は20代後半ほどで柔和な表情を浮かべていて、優しそうな雰囲気のオーラを纏っていた

 

「これはこれは、ようこそお越しになられました、皆さん」

 

シスターは立ち上がり、新達を迎え入れてくれた

 

柔らかな対応だが、一誠が注目したのは美女シスターの肢体だった

 

ハッキリした体つきはラインを隠すシスター服からは分かりづらいが、恐らくは隠れ巨乳

 

お尻は安産型で、脚の太さも理想的で適正なものだった

 

一誠がスケベな視線を投げかけてもシスターはニッコリと微笑(ほほえ)み、それが逆に申し訳なく感じてしまう程だ

 

……一誠は隣で表情と全身を強張(こわば)らせるゼノヴィアに気付いた

 

青ざめた顔でゼノヴィアは声を(うわ)ずらせながら発した

 

「シ、シシシシシシシシシシ、シスター・グリゼルダ! ど、どどどどどどどどどうして、に、日本に⁉」

 

ゼノヴィアがここまで慌てふためく姿はとても珍しい

 

シスター・グリゼルダと呼ばれた女性は、笑みを絶やさぬままに口を開く

 

手の甲を向けると、そこには『Q(クイーン)』の文字が浮かび上がる

 

「ごきげんよう、グレモリー眷属の皆さん。わたくし、四大セラフたるガブリエルさまのQ(クイーン)、グリゼルダ・クァルタと申します。この支部の(おさ)を務めております。以後、お見知り置きを」

 

四大セラフ―――ガブリエルのQ(クイーン)

 

その肩書きから天界でもかなりの要職ポジションだろう

 

「シスター・グリゼルダ……高名な信徒の方です。私も教会に属していた頃は、お名前を何度も耳にしました」

 

アーシアの言葉に対し、イリナがウンウンと頷きながら言う

 

「ちなみにガブリエルさまが(つかさど)るカードはハート。シスター・グリゼルダはハートのQ(クイーン)って事になるの。皆からは『クイーン・オブ・ハート』と呼ばれているのよ」

 

シスター・グリゼルダの視線が一誠に移る

 

赤龍帝(せきりゅうてい)の兵藤一誠さんですね? お話はかねがね(うかが)っております。数々の功績を立てている冥界きっての期待のホープ」

 

「そ、そんな、期待のホープだなんて……そんな風に言われたら照れちゃいますよ!」

 

赤面しつつ恐縮していた一誠だが、シスター・グリゼルダはニッコリしながらもキッパリと続けた

 

「七つの大罪の1つ―――色欲が大変強いそうですね。まさに悪魔らしいと言うか、しかもドラゴン。主の教えではドラゴンとは邪悪な存在。『色欲を持った悪魔でドラゴン』……うふふ、刺激に弱いうちの若い信徒が聞いただけで卒倒しそうなフレーズです」

 

褒められているのか、貶されているのか、反応に困る一誠へイリナが耳打ちしてくる

 

『シスター・グリゼルダは悪魔にとっても厳しいわ。何せ同盟前までは主のため、天のため、悪魔や堕天使と戦ってきたわけだもの。キリスト教全派閥内、特に女性エクソシストの中では5本の指に入ってたのよ。でも、悪い方ではないの。今のもシスターなりの悪魔への冗談みたいなものだから』

 

つまり、以前は悪魔相手に悪魔祓いをしてきた猛者シスター

 

言葉とは裏腹に悪意は感じ取れないから、本当に冗談混じりの挨拶なのだろう

 

「さて、次は―――ゼノヴィア」

 

シスター・グリゼルダの視線がゼノヴィアに移った

 

ゼノヴィアは口元を引くつかせ、目線を逸らそうとするが、途端にシスターがずずいっと歩み寄って顔を両手で押さえる

 

ニコニコしながらも迫力のある声でシスター・グリゼルダが言う

 

「お久しぶりね、戦士ゼノヴィア。まさか、こんなところで再会できるなんて思ってもみませんでした」

 

声音はあくまで冷静だが、何処か怒気も含まれている……

 

「……や、やあ、シスター・グリゼルダ。ひ、久しぶりだね……げ、元気にしていたかな……?」

 

「元気にしていたかな、じゃないでしょう? なんで任務のため日本に向かったまま、帰還もせずに悪魔に転生しているのでしょうか? しかも今日の今日まで連絡は一切無しとは如何(いかが)なものかしら? 敢えて今日あなたに言葉を投げかけるなら、どの(つら)下げてここに来たと言うべきかしらね……!」

 

ゼノヴィアの顔を掴む手に力が入り、語気もどんどんヒートアップしているシスター・グリゼルダ

 

優しげな印象から一転、凄まじいプレッシャーが室内を支配していた

 

イリナが一誠とアーシアに言う

 

「シスターとゼノヴィアは同じ施設の出で、シスターはゼノヴィアの仕事の先輩なの。あっちでは1番付き合いが長かったんですって。私もゼノヴィアとコンビを組んだ時に何度もお世話になったわ」

 

顔を押さえられて、逃げ場の無いゼノヴィアがイリナに言う

 

「イリナ! ど、どうしてシスター・グリゼルダの事を今まで話さなかった! こ、ここの支部長が彼女なら、私は今日ここに来なかったぞ!」

 

「そう言ったら今日来ないだろうから黙っていたの。だって、ゼノヴィアったらシスター・グリゼルダに連絡の1つもしなかったじゃない?」

 

「あ、当たり前だ! 言ったら……私は殺される!」

 

ゼノヴィアは体をジタバタさせるが、顔を強く押さえられているので逃げられない

 

両手で強く押さえられているから顔も不細工な格好となっており、それを見てイリナもブフーッと愉快そうに噴き出していた

 

シスター・グリゼルダは両手でゼノヴィアのほっぺを最大にまで伸ばしながら言う

 

「あなたが日本で悪魔に転生したと聞いた時は卒倒して気がどうにかなりそうでした。あんなに手塩にかけて主の教えを()いたあなたが、まさか悪魔だなんて……。あなたは昔からヒトの話は聞かない、勝手に行動する、わけの分からない持論を作り出す、と問題児ではあったけれど、優しい心根の女の子だと信じていたのですよ?」

 

確かにシスター・グリゼルダの言う通り(笑)

 

ゼノヴィアは“話を聞かない”

 

“勝手に動く”

 

“わけの分からない思想を持つ”の三拍子が揃った大変困った娘です(笑)

 

ふいにアーシアがシスター・グリゼルダに言う

 

「シスター・グリゼルダ、どうかゼノヴィアさんを許してあげてください。……教会を追われ、悪魔になった私が言っても説得力が無いと思いますが……それでも、ゼノヴィアさんは良いヒトです。私達の大事な仲間で、私も何度も助けていただきました。ゼノヴィアさんがいなかったら、きっと誰かがもっと傷付いていた筈です。それに……ゼノヴィアさんは私の大切なお友達です。お許しになってください」

 

深く謝罪するアーシア

 

彼女にとってゼノヴィアは今や大事な友人

 

アーシアの言葉を聞き、シスター・グリゼルダはゼノヴィアのほっぺを離して柔和な表情に戻る

 

「シスター・アーシア、あなたの事は知っています。身に宿る神器(セイクリッド・ギア)の影響で、だいぶ(つら)い目に遭われたようですね。あとで特例のIDカードを新たに発行します。それを今回のように持って入れば、この地域限定ではありますが、教会の行事にもある程度参加できるでしょう」

 

それを聞いてアーシアは酷く驚き、狼狽(ろうばい)してしまう

 

「そ、そんな……、良いのですか? そのように大事なものを悪魔になった私に……」

 

アーシアの恐る恐るの問いにシスター・グリゼルダは満面の笑みで頷く

 

「ええ、たとえ悪魔になろうとも信仰の心があるのなら、あなたは私達の同志でしょう。悪魔ゆえ不自由は多いかもしれませんが、主の教えを信じるならば共に素晴らしい時を過ごせる筈です」

 

シスター・グリゼルダの言葉にアーシアは感動し、目頭(めがしら)を熱くさせていた

 

「良かったな、アーシア! ミサにも参加できるかもな!」

 

一誠がそう言うとアーシアは「はい!」と元気良く心底嬉しそうにしていた

 

シスター・グリゼルダはゼノヴィアのほっぺを再び伸ばす

 

「シスター・アーシア、良かったら今後もこの困った娘のお友達をしてあげてください」

 

「もちろんです! そ、それと、私はもうシスターでは……」

 

「少なくとも私はあなたの事をシスターとして接しますよ?」

 

シスター・グリゼルダの言葉にアーシアは本当にノックダウンしそうだった

 

それ程までに今日は最良の日となっているのだろう

 

「シスター・アーシアには色欲まみれの悪魔と、自由気ままな悪魔の扱い方をお教えしましょう。うふふ、これでも数多くの悪魔を見て、退(しりぞ)けてきた身の上ですもの。それぐらいお手の物です」

 

……どうやら一誠とゼノヴィアには手厳しそうだ

 

「それと……先程から気配を消して、この部屋から抜け出そうとしている悪魔の扱い方も教えてあげましょう。―――ね? そこのワンパク坊主さん?」

 

シスター・グリゼルダの意味深な言葉に一誠達が振り返る

 

その視線の先には……部屋から脱出しようとしたが、シスター・グリゼルダに気付かれたせいでギクッと硬直している新の後ろ姿が見えた

 

「え? このヒト、お前とも知り合いなのか、新?」

 

一誠が間の抜けた声音で訊くと、新は何処からともなく付けヒゲとカツラを取り出し、カツラを被って付けヒゲを装着

 

「……おやおや、新とは、いったい誰の事でごぜぇましょうですかな?」

 

明らかにおかしい喋り方とバレバレの変装に一誠は引くつくが、新(?)はお構い無しに妙なポーズを決めて告げた

 

「ワガハイは偶然ここに迷い込んだ旅人、ナナッシエノ・ゴンビェモン・フォンティーヌ13世―――通称エリザベス良江(よしえ)なのであ~るっ。決して竜崎何とかさんではないので、悪しからずでア~ルっ」

 

「異議ありぃっ!そのトボケ方、前にも見た事があるぞ! 確かお前の親父さんがやってたよな⁉ 何たら4世の次は13世⁉ ふざけた一族を長続きさせんな! しかも、通称エリザベス良江って何だよっ⁉ ごちゃ混ぜにも程があるわ! やっぱそう言うところは親子ソックリじゃねぇかっ!」

 

一誠のツッコミに対し、新は見苦しくもトボケ続ける

 

「フォッフォッフォッ、何処のどなたか存じませんが、ワガハイは(れっき)とした謎の旅人。何物(なにもの)にも縛られず放浪するのが運命(さだめ)、ただ流離(さすら)うのみなのであ~るっ。それではサラバダー」

 

扉を開いて逃げようとした刹那、ヒュンッと何かが一誠の横を通り過ぎ―――新(?)の背中に突き刺さる……

 

バタンッと倒れ伏す新の背中に突き刺さったのは―――万年筆だった

 

投げたのは勿論、シスター・グリゼルダ

 

シーンと静まり返る中、彼女はズカズカと歩み寄って新を引きずり戻し、カツラと付けヒゲを取り上げる

 

「あなたとも久しぶりの再会だと言うのに、そんな態度で困った子ですね。まだお話を聞かないフリをするのでしたら……もう2本か3本ほど追加で刺してあげましょうか?」

 

「い、いや……勘弁してつかぁさい、シスター・グリゼルダ……ッ」

 

新は観念したのか、背中に刺さった万年筆を抜いて恐る恐る立ち上がった

 

そして、シスター・グリゼルダは先程ゼノヴィアにしたのと同じように新の顔を両手で掴む

 

「さて、あなたにも言いたい事は多々あります。まずはお久しぶりね」

 

「あ、ああ……久しぶり、グリゼルダ……さん。元気にしてまっか……?こちらはボチボチやっとりますわ……っ」

 

キャラ崩壊してるのか、新は下手な関西弁で返すが―――シスター・グリゼルダの手は強まる一方だった……

 

「あなたの事を聞いた時も卒倒してしまいそうでしたよ? あれだけ私や教会のシスターに迷惑をかけてきたあなたが悪魔に転生、全勢力の天敵とも言える魔族(まぞく)の力を身に宿(やど)し、あまつさえドラゴンの欠片から作られた存在だった等と信じられない事実のオンパレード。本当に……本っ当にどうしようもないヤンチャ坊主だったんですね、あなたは……!」

 

「いや~……人生色々ありますわな……俺もビックリぃ~っ」

 

「ゼノヴィアだけでも手が掛かる娘だったのに、あなたはそれ以上の問題児だった。『教会のシスターが下着を穿()かないのは本当か?』等と言って(みだ)らに触る、シスターの沐浴(もくよく)や着替えを堂々と覗く、挙げ句の果てには聖堂内で口説(くど)き落とす。あなたのおかげで変な興味を(いだ)き、正道を外れてしまったシスターがどれだけいると思ってるのかしら……!」

 

「……認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの(あやま)ちと言うものを」

 

赤い彗星の有名な台詞を詠唱する新だが、かえってシスター・グリゼルダの怒気に火を点けるだけだった……

 

「……どうやら、あなたは昔も今も変わってないようですね。その点だけは安心しました。心置き無く折檻する事が出来そうね……!」

 

「フッフッフッ、今までの俺だと思ったら大間違イダダダダダダダダダダッ! ギブギブギブ! ちょっ、マジすんませんっ! 調子に乗り過ぎましたっ! シスタージョークがあるならデビルジョークもイケるかなと思ってましダダダダダダダダッ! ノーモア爪! 爪が食い込むっ!」

 

女性にたいして、ここまで手も足も出ない新の姿は極めてレアだった

 

初めての光景に一誠達は呆気に取られる

 

そうこうしている内にシスター・グリゼルダが手を離し、ようやく解放される新

 

痛々しい手の痕が残っている頬を(さす)り、シスター・グリゼルダと距離を取る

 

「い、意外だな。新にも頭が上がらないヒトがいたのか」

 

「本当よね、ここまで焦った新くんを見るのは新鮮かも」

 

一誠とイリナがふいに出した言葉に対し、シスター・グリゼルダが柔和な笑みを見せる

 

「ええ、この子は教会で配給されるパンやスープをよく貰いに来ていた事がありまして。まだ10歳の子供が独りで暮らしていくには、困難だった事でしょうから。……でも、とにかくヤンチャが過ぎる子で、教会嫌いなのに食糧やシスターが目当てでやって来る事が多かったわ」

 

「―――と言う事は、まさかシスター・グリゼルダにも?」

 

イリナが恐る恐る訊くと、シスター・グリゼルダは迫力ある笑顔で言った

 

「勿論、私も例外無く彼の被害を受けました。今はだいぶ大人びているようですが……昔は本当に酷かったんですよ? 何度叱っても懲りずに仕掛けてくる彼の往生際の悪さには、逆に感服させられた程です。……まあ、その都度8時間ほど主の教えを説いて差し上げましたけれど」

 

「ああ、思い出したくないのに思い出しちまうよ。ガキの頃は引き際を知らなかったからな。無知なガキながら死の恐怖を味わったのは……アレが初めてだったよ」

 

新の体がプルプルと小刻みに震え始め、何故かゼノヴィアに「分かる、分かるぞ……っ」と涙を浮かべながら励まされた

 

「困った子ですが、そんなあなたにも可愛い時代はありましたよ?」

 

そう言うとシスター・グリゼルダは(おもむろ)にデスクの引き出しを開け、何かを取り出す

 

取り出したのは1冊の本―――アルバムだった

 

シスター・グリゼルダが開いたページの写真を見せてくる

 

「こちらの写真は彼がパンを照れ臭そうに受け取っている場面です。最初は盗みを働いていましたが、私の指導によって少しは反省してくれた雰囲気が感じられるでしょう?」

 

「照れ臭そうにと言うより、ふて腐れてる感がありますけどね……」

 

「次にこちらは泥の中に落ちて、見事に半分だけが泥まみれになった写真です。この時ばかりは私も思わず笑ってしまいました」

 

「ブフッ! 見事なハーフ&ハーフッ!」

 

「呆然としている様子がまた笑えるな……っ」

 

一誠が噴き出し、ゼノヴィア、イリナが笑いを(こら)えている中、新は苦虫を噛み潰した表情となる

 

「こちらは大きな仕事に失敗して泣き疲れ、教会の側で眠っている時の写真です。自分の無茶で同僚の方に大怪我させてしまった事を悔やんでいました」

 

「仕事に関してはシビアだったのに、良いトコあるじゃん」

 

「それは俺がまだガキだったからだ。……あの頃は失敗しまくってたから、仕方ねぇだろ」

 

「特に思い入れがあるのはこちらですね。木から降りられなくなった猫を見つけて、遠征に来ていた()と一緒に助ける写真です」

 

シスター・グリゼルダがその写真を見せると、2人して木に登っていく姿があった

 

確かに木に登っているのは(おさな)い頃の新だが、皆が着目したのはもう1人の方である

 

最初に気付いたのは―――イリナだった

 

「え? これって……私⁉」

 

「本当だ! これ……昔のイリナじゃないか!」

 

「新とイリナは過去に会っていたのか?」

 

「いや、そんな記憶は……。―――あっ! 思い出した! 確かやたらと俺に突っ掛かってくる聖職者もどきが居たぞ! それでよく言い争いや取っ組み合いになった事がある! んで、その最中に偶然見つけて、2人で木によじ登っていったんだ!」

 

驚く一誠達、ハッと思い出した新を尻目にシスター・グリゼルダが続ける

 

「ええ、A(エース)イリナはご両親の仕事の都合でたまたま遠征に来ていました。短期間ではありますが、その時に彼と知り合ったのです。最初は主義主張の違いから仲違いしていましたが、気遣い無く言い合えるところから次第に仲良くなっていきました。そして……(くだん)の猫を救出する際、彼女は猫と一緒に木から落ちてしまったんです」

 

「あ、それは何だか覚えがあります」

 

「その時、彼は両方とも受け止めましたが―――体勢が悪かった為に腕を骨折してしまいました」

 

「そんな事もあったなぁ。確か尻で踏み潰されたんだっけ」

 

「ええっ⁉ わ、私のお尻で折れちゃったの⁉」

 

「ああ、その時に付けたあだ名も思い出したよ。―――(シリ)ナだったな」

 

紫藤(シリ)ナ(笑)

 

黒歴史とも言えるネーミングの発覚にイリナは顔を真っ赤にした

 

「もうっ、私のお尻はそんな重くないもんっ!」

 

「そうだな。重くはないが痛かった」

 

「なるほど、イリナは実は新と幼馴染みで(シリ)ナだったのか」

 

「ゼノヴィアも(シリ)ナって呼ばないでよ⁉」

 

新とゼノヴィアに茶化されるイリナだったが、シスター・グリゼルダが2人を(いさ)めた事で終息

 

改めてイリナがシスター・グリゼルダに言う

 

「お話しした通り、今日は天使のお仕事を皆に見せようかなと思っています」

 

「ええ、それは素晴らしい事です。悪魔が天使の仕事を見学する、これ程までに三大勢力の同盟の意義を強く感じる事はありません。是非とも今日は天使の役割を見て行ってください。A(エース)イリナ、粗相(そそう)の無いように」

 

「はい!」

 

元気良く敬礼して応えるイリナ

 

かくして、新達は天使の仕事を見学する事になった

 

 

―――――――――――――――

 

 

「ああ、天使よ。我が懺悔(ざんげ)に耳を(かたむ)けてくれたまえ~」

 

建物内にある礼拝堂で、(ひざまず)き懺悔する男性信者

 

「ええ、どうぞ、私でよろしければお話を聞きましょう」

 

イリナは頭上に輪っかを出して、天使の翼を広げて信者の悩みを聞いていた

 

信者はこの支部で働く関係者で、天使の存在を認知できている

 

今の状況を簡単に説明すると「天使の悩み相談室」らしく、悩みを打ち明けたい信徒から相談を持ち掛けられて、礼拝堂でそれを聞く

 

「神はエッチなDVDをたくさん借りた事、きっとお許しになってくださる筈です」

 

男性の悩みを聞き、イリナはそう答えていた

 

新達は礼拝堂の長椅子で仕事を見学している

 

しかし、悩みもそうだが……それに答えるイリナの格好もおかしい

 

純白の羽衣を身に着け、神々しい演出を光力で展開させ、口調と態度を無理に正している為―――その光景が妙に笑えてしまう

 

「……ヤバい、吹き出しそうだ」

 

「イリナの相談室って、演出が強すぎないか?」

 

笑いを堪える新、一誠はアーシアとゼノヴィアに語りかけるが……当の2人は興味深そうにイリナの仕事ぶりを見学していた

 

残念ながら感性や捉え方が違うようだ……

 

イリナはその後も訪れる信者達の話を真剣に聞いて答え、2時間ほどで相談室が終わり、次の仕事に向かう

 

建物内の聖堂に(おもむ)き、赤ん坊連れの若い夫婦に対応するイリナ

 

「天使さま、どうか、この子に聖なる名をつけてあげてください」

 

どうやら赤ん坊の命名を願いに来たようだ

 

「分かりました!」

 

イリナは(こころよ)く承諾して、用意されていた紙にペンを走らせていく

 

「はい! その子の名前は『治虎武』と書いて『やこぶ』くんです! 聖人からお名前を拝借しました!」

 

「ひと昔前の暴走族か、お前はァッ! 何だ、その適当感溢れる当て字は⁉」

 

「ありがとうございます、天使イリナさま!」

 

「お礼言っちゃったよ! 良いのか、そんなDQN(ドキュン)ネームで⁉」

 

「うん、良い名だ」

 

「はい、さすがイリナさんです」

 

ゼノヴィアもアーシアも納得しており、新と一誠は信徒の感覚をますます理解できなくなっていた

 

次にイリナが向かったのは建物内にあるスタジオ

 

用意されていた撮影器具と専属のカメラマン、水着に着替えたイリナの写真撮影が始まった

 

「はい、良いですよー、イリナさま。じゃあ、次はこういうポーズで」

 

「こ、こうですか?」

 

「そうです! 1枚いただきます!」

 

可愛くポージングするイリナにフラッシュが()かれる

 

一部の信徒向けに発刊している身内専用雑誌『週刊ぶれいぶエンジェル』なる物が存在するそうで、今度の特集はミカエルのA(エース)―――(すなわ)ちイリナを取り上げるのだと言う

 

「イリナさん、教会で天使の存在を知っている方々の間ではかなり人気があるそうです」

 

アーシアがそう情報をくれる

 

まるでアイドルのような仕事だが、それは新達も同じ

 

イリナも天界関連の業界では有名で人気もあるようだ

 

撮影が終わったイリナにカメラマンが言う

 

「ふふふ、イリナさま、今日は彼氏同伴ですか? あれが噂の闇皇(やみおう)でドラゴンのボーイフレンドですな?」

 

カメラマンが新に視線を送り、イリナは途端に顔を紅潮させる

 

「そ、そ、そ、そういうわけではなくて……! 最近分かった事なんだけど、新くんはセカンド幼馴染と言うか……!」

 

「イリナさまは信徒の間でも人気なのですから、彼氏が発覚したら男性ファンはたいそうショックを受けるでしょうな」

 

カメラマンはそう言いながら豪快に笑っていた

 

イリナが当惑する一方で―――

 

「ほう、彼氏ねぇ」

 

ゼノヴィアが半眼で新を睨んでいた

 

「も、もう! 新くんからも何か言ってあげて―――きゃっ!」

 

イリナが新に詰め寄り、フォローを頼んでくるが―――その時、イリナが撮影機器のコードに足を引っ掛けて新の方に倒れ込んでくる

 

新は上手くイリナを支えたのだが……ムニュンと柔らかな肌触りが手に伝わる

 

見れば、体勢を崩した拍子に水着のブラがはだけて、イリナのおっぱいをダイレクトに触れていた

 

「おおっと、イリナさま! こんなところで幼馴染の彼氏とハグとは大胆ですな!」

 

新とイリナが抱き合っているところを、カメラマンがパシャリと激写

 

当のイリナは恥ずかしさに耐えるように切なそうな表情を浮かべる

 

「……こ、こんなところでダメだよ、新くん。……そっか、こ、こんな風に幼馴染の関係、越えちゃう気なのね……」

 

そんな事を言いながら天使の翼を白黒に点滅させるイリナ、堕天の危機に直面している

 

「イッセーさん、見ちゃダメです」

 

「はい」

 

「私の前で抜け駆けは許さん。やるなら3人で一緒にだ」

 

「ゼノヴィア、お前の思考も大概おかしいぞ?」

 

 

―――――――――――――

 

 

その後もイリナの天使の仕事は続いた

 

書類の整理、料理教室、果てはお茶の相手まで……天使と言うよりは何でも屋に近い感じだった

 

しかし、頼み込む人々がイリナの事を待ち望み、期待して頼っていた

 

思ってる以上に天使の存在は教会信者にとって大切なものなのだろう

 

建物内の食堂で一休みする一同

 

「いやー、今日は面白かったな」

 

「最高の1日だった」

 

「はい、まさに最高でした」

 

一誠は素直な感想を述べ、ゼノヴィアとアーシアは大満足だったようだ

 

「どうやら、一通り見学されたようですね」

 

現れたシスター・グリゼルダが微笑みながら言う

 

「ところで、若手の戦士にエクソシストの実践練習をさせたいのですが、見学していきますか?」

 

エクソシストの実践練習、興味がそそられるが……

 

「ただ、対象となる悪霊がなかなか見つからなくて……。最近、大規模に一斉殲滅したものですから」

 

シスター・グリゼルダの視線が新と一誠に移り、新は嫌な予感を(さと)った

 

「ドラゴンで悪魔のあなた方に若手戦士達のお相手をしていただけると(さいわ)いなのですが……。色欲だけお祓いしてしまうとかどうでしょう? エッチなのはよくありませんよ?」

 

シスター・グリゼルダの意味不明な提案に新と一誠は度肝を抜かれるが、アーシアとゼノヴィアは頷いていた

 

「そうですね。もしかしたら、イッセーさんはエッチなところを少しだけ祓っていただいた方が良いのかもしれません」

 

「うん、新はスケベなのが良いところだが、度の過ぎた性欲は時に女を当惑させるかもな」

 

「なんですとぉぉぉぉっ⁉ 俺のスケベをお祓いで調整すると⁉ そんなバカな!」

 

「ふざけんな! そんなもんお断りだ! イリナ! 何とか言ってやってくれ!」

 

新がイリナに助け船を求めるが―――イリナは顔を赤らめながら言う

 

「……新くんとは堕天しないお付き合いがしたいから、賛成かも? なーんてね」

 

ウインクする始末……ここに来てから3人とも信徒の精神が高まってしまっている……

 

「クソッタレ! 逃げるぞ、一誠ッ! 俺達から性欲を消されるのは“無”に帰するのと同じだッ!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁああぁっ! 性欲を消されてたまるかぁぁぁっ!」

 

その場を逃げ出す新と一誠だが、シスター・グリゼルダとゼノヴィアに追われ……哀れにも捕まってしまう、その刹那―――

 

ドドォォォオオオオオオオンッッ!

 

とてつもない爆音が響き渡り、周りを見渡す一同

 

すると、1人の教会関係者が慌てた様子で飛び込んできた

 

「シ、シスター・グリゼルダッ! 大変です!」

 

「いったい何が起こったのですか?」

 

「敵襲です! 何者かがこの建物に乗り込んできました!」

 

「なんて不届きな……人数は?」

 

「そ、それが……3人です……っ!」

 

 

―――――――――――――

 

 

同時刻、建物に空けられた大穴から3人の襲撃者が侵入してくる

 

それは『造魔(ゾーマ)』傘下の盗賊ギルド『三羽の闇鴉(バンディット・レイヴン)』のメンツだった

 

騒ぎを聞き付けて集まってくる信者や教会関係を前に、襲撃者3人が(たたず)

 

「ここの支部長がいるらしいが、ソイツを殺せば良いのか?」

 

タバコを吹かしてそう訊くのは、ガンマン風の男―――ジョーズィ・バリスタン

 

その問いに対して黒髪の女性―――マリア・ミルコビッチが答える

 

「それは性別にもよるんじゃない? 男なら殺しても構わないし、女だったら売り飛ばしちゃえば金になりそうね」

 

「ここには金目の物が山ほどありそうだな。暴れるのは良いが、派手に壊すんじゃねぇぞ、マリア」

 

マリアに忠告するのは両腕が太く(いか)つい男―――ゴリランド・ローニッシ

 

3人の襲撃者の目が妖しく光る

 

「さて……タップリ殺して、タップリ稼がせてもらうわよ?」




次回は『三羽の闇鴉(バンディット・レイヴン)』とのバトルです!

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