ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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今回は少し短めかと


バサラ・クレイオスと言う怪物(おとこ)

「アイツが……親父の弟子……っ?」

 

突然のカミングアウトに新もリアス達も混乱する一方、バサラはフンっと鼻を鳴らすように笑う

 

総司は先程の攻撃で痛めた手を(さす)りながら言う

 

「ああ、そうだ。私の唯一の弟子であり、最大の汚点とも言うべきかな。彼は私からバウンティハンターのノウハウや技術を盗み、独学で会得した。そして、異例の早さでSSS(トリプルエス)級になったんだ。……だが、協会の意に(そむ)く行動が多すぎて何度も糾弾され、遂には(みずか)らライセンスを捨てた。それ以降、彼は戦いを求める戦鬼(せんき)と化して放浪を続けている―――そう聞いていたが、まさかこんな所にまで来るとは思わなかったよ」

 

総司がバサラに視線を向けて言う

 

「バサラ、キミはそこまでして戦いに身を落とすのか? 自分の命すら惜しまないキミのやり方は……ハッキリ言って周りに良くない影響を及ぼす。バケモノ染みた強さを持つキミでも命は1つしか無い。何故その命を大事にしようとしない? やはり、キミは―――」

 

「命を大事に? 本気で言ってんのか?」

 

急に総司の言葉を(さえぎ)るバサラ

 

嘆息した後に語り出す

 

「命は1つしか無い……だから大事にしろと誰もが言いやがる。テメェらの親も、先公も、テレビに出てくるコメンテーターとか言う(やから)。挙げ句の果てにはミュージシャン、警察だけじゃなく……テメェらの所の魔王や天使までもが言いやがるんだ。命は大切にしろってよぉ」

 

バサラは額に手を当てて笑いを堪えるような仕草をした後、左目をカッと見開かせる

 

「―――だから、テメェらはダメなんだよッ! 命ってのはもっと粗末に扱うべきものなんだ。生命(いのち)ってヤツは丁寧に扱い過ぎると(よど)み腐る。老害やテメェらみたいな最近の奴らはとにかく保身に走る、自分(テメェ)を大事にし過ぎている。一言に纏めりゃあ―――やり過ぎ、病的なまでにやり過ぎだ。その結果、貴重なチャンスを掴む事無く、ズルズルと後退しながら腐り落ちていく……ッ! テメェらはその事にまだ気付いちゃいねぇ。いや、気付こうと言う考えすら放棄してやがる……ッ! そんな(くすぶ)った生ヌルい奴らなんざ、俺の相手にならねぇんだよ……ッ!」

 

力説するバサラは次に新の方に視線を移す

 

「その点、竜の字は違う。命の使いどころってヤツを心得ている。さっきも言ったように竜の字はヘタレ発言を繰り返しちゃいるが、決める時には決めてくる。何故なら―――本質は俺と同じように“戦いの中で生きてきた獣”だからだ。生きるか死ぬかの瀬戸際、ギリギリの淵でこそ見えてくる闘争心、本性。その全てが俺と酷似している。ただ1つ違うとすれば……環境の悪さだ」

 

「環境の悪さ……?」

 

「ああ、平和ボケなぬるま湯に浸かり過ぎて、くだらねぇ毎日を送り続け、日々を無駄に塗り潰す。強く生きようともしねぇ奴らが量産されて満足しようとしてやがる。日常? 平和? そんな偽物(まやかし)の環境下で強くなれるのか? 平和ボケの保身主義に走っていれば俺に勝てるのか? 明らかに竜の字の―――戦いの中で生きてきた奴らの価値を殺している。んなもんクソくらえだ。生きる為には勝つしかねぇ、また勝つ為には生きるしかねぇ。それが諸行無常(しょぎょうむじょう)たるこの世を生き抜く唯一の真理だ」

 

“諸行無常”―――この世に存在する一切のモノは常に変転して生滅(しょうめつ)し、永久不変なものは全く無いと言う仏教の根本思想の1つである

 

確かに完璧な平和など存在しない……

 

今もこの世の何処かで争いや(いさか)いが勃発している……

 

それを認知せずに平和や平穏を(うた)う者を、バサラは吐き気がするほど見てきた

 

平和に(うつつ)を抜かせば勘が(おとろ)え、判断も(にぶ)り、その結果―――滅びてしまう……

 

「だから、俺がテメェらに教えてやるよ。テメェらがほざく平和なんてモノはやって来ねぇ。生きている限り常在戦場(じょうざいせんじょう)、ヒトだろうが何だろうが―――戦ってこそ強さを得られ、“本当に生きている”って瞬間を実感できる。それが俺の掲げる真理だ」

 

常在戦場……(すなわ)ち、自分が生きている限り戦いを止めるつもりは無い

 

アザゼルやグレモリー眷属を始めとする三大勢力への宣戦布告とも取れる……

 

徹底的に平和や平穏を否定するバサラの極論に、一誠はワナワナと震えた

 

「そんなの……メチャクチャじゃねぇかっ!? 狂ってるどころの話じゃないっ!」

 

「ザコには分からねぇよ。―――“ただ生きたいだけ”のザコにはな」

 

一誠の反論を一蹴するバサラ

 

凶悪な実力に(ともな)い、彼の思想はグレモリー眷属全員を畏怖させた……

 

そんな中、総司が1歩前に出る

 

「やっぱりキミは話しただけで分かってくれる男じゃないよね」

 

総司の体からオーラが(あふ)れ出し、闇人(やみびと)の姿となる

 

鬼と蝙蝠が混ざったような怪人と化した総司は、両手にオーラを集束させていく

 

普段はオチャラケている総司だが、ここぞと言う時に見せる本性は味方でありながら恐ろしい程の寒気を感じさせてくる……

 

怪人と化した総司を見たバサラは―――嬉しそうに口の端を吊り上げた

 

「ハハッ、やっぱオッサンもオッサンじゃねぇか! そっちの方が遥かに良いぜ? まあ、今日は挨拶代わりに来た程度だから、オッサンには置き土産をくれてやらぁ」

 

そう言った、次の瞬間―――っ!

 

ズシャアァァァッッ!

 

「「「「「「「――――ッ⁉」」」」」」」

 

総司以外の全員が目の前の光景に仰天した

 

それもその筈……バサラの胸から剣の柄らしき物体が飛び出てきたのだ……!

 

それも1本だけじゃなく、2本……3本……4本……5本……総計6本

 

バサラは飛び出てきたソレを掴んで、自身の胸から引きずり出す

 

右手と左手に3本ずつ(たずさ)えたところで、バサラの胸の裂傷が跡形も無く消えていく

 

右の三振りは炎の如く波打つ赤い剣、鉱物のように(きら)めく剣、血のような線が刻まれた漆黒の剣

 

左の三振りは水と氷が混ざり合った青い剣、鳥の羽を模したような鮮やかな緑色の剣、眼の如き柄から稲妻を顕現(けんげん)させたような剣

 

その六振りの剣を見たアザゼルは信じられんとばかりに驚愕した

 

「何なんだ、あの剣は……ッ⁉ 神器(セイクリッド・ギア)かっ⁉ だとしても、あんな禍々(まがまが)しい物は見た事ねえぞ! それに……アレは“体内に宿(やど)してる”なんてもんじゃねえっ! まるで……寄生虫じゃねぇかッッ!」

 

「前に戦った時よりも剣の数が増えてる……ッ⁉」

 

新も驚きを隠せない様子だった

 

六振りの魔剣(まけん)(たずさ)えたバサラに対し、総司はドスの利いた声音を飛ばす

 

「止められなくなっても知らないよ? キミのやり方は、その魔剣どもと同じく周りの全てを戦禍に巻き込み、暴走させる……っ!」

 

「恐れるに足らねぇなぁ。戦いに生きる―――それが俺だ」

 

少しの言葉を交わした直後、バサラの六振りの魔剣と総司の打撃が一瞬でぶつかり―――極大の衝撃が巻き起こった

 

その衝撃は新の時の比ではない……

 

校舎どころか町の全てを震撼させる程のモノだった……

 

あまりにも次元が違う衝突に目を(つむ)ってしまい、ふと目を開けてみると―――再度信じられない光景が視界に飛び込んできた

 

「――――ッッ。嘘だろ……っ? 雲が……天が割れてる……ッ⁉」

 

アザゼルの言った通り、広大な天が先程の衝撃によって裂かれていた……!

 

その発生源たる総司とバサラは互いに1歩も退()かず、やがて(攻撃の手)を収めた

 

「今日は久々にスカッとしたぜ、オッサン。とりあえず引き上げてやらぁ」

 

「その方が良い。これ以上続けたら、ただの大災害になってしまうからね」

 

上機嫌のバサラは全ての魔剣を体内に戻し、総司も元の姿に戻る

 

バサラがシルバー達のもとに行こうとした時、総司が呼び止めてくる

 

「そうだ。1つだけ気になっている事があるんだけど、聞いても良いかい?」

 

「あ? 何だよ?」

 

「その右目は―――いったい誰に潰されたんだ?」

 

総司の言葉に奇異の視線が集まり、総司が話を続ける

 

「今までそんな眼帯なんて着けていなかったじゃないか。バケモノ以上のバケモノであるキミが深傷(ふかで)を負う程の相手……それは―――キミが作った造魔(ゾーマ)とやらの中に居るんじゃないのかい?」

 

「……妙なところで目敏(めざと)いじゃねぇか、オッサン」

 

バサラは開き直ったのか、指摘された右目の眼帯を取り外す

 

バサラの右目は―――眼球その物が完全に無くなっていた……

 

骸骨のように薄暗い空洞が露呈し、その異様な顔立ちが怖気(おぞけ)を更に増長させる

 

殆どの者が目を(そむ)け、一誠に至っては吐き気が喉元まで込み上げてくる程……

 

バサラは不敵な笑みを絶やさずに言う

 

「こういう事が起こりうるから、戦いってのは止められねぇんだ。どんな奴でも化ける可能性を秘めている。たとえば―――ウチのチビスケとかな」

 

バサラが流し目でチビスケ……もといレビィを見据える

 

対してレビィは何故か気まずそうな表情をしていた

 

その話を聞いて総司は何かを得心したような顔付きとなる

 

「やっぱりね、その()も―――」

 

「おっと、長話(ながばなし)ならそっちで勝手にやってくれや。俺はもう帰るぜ」

 

(きびす)を返してシルバー達のもとに足を運び、シルバーが転移用の魔法陣を開く

 

「またな、竜の字。次に()り合う時は今日以上の獣に戻っておけよ? 飼い犬のままで俺に勝とうなんて夢を見るな。獣だった自分(テメェ)反芻(はんすう)して、戦いに活かせ。俺の相手をまともに出来るのは―――お前だけなんだからな」

 

そう言ってバサラ達は魔法陣の中へと消えていき、脅威が去った事で空気が一気に軟化する

 

恐怖で張り詰めっぱなしだった為、多くの者がその場でへたり込み、(しばら)く落ち着かない呼吸が続いた

 

新もようやく気持ちが落ち着いてきたのか、血走っていた眼が普通の様相に戻っていく

 

総司は足早に立ち去ろうとしたが、アザゼルに「ちょっと待て!」と止められる

 

「おっとっと、その顔は……聞きたい事が山程あるって顔をしてるね?」

 

「よく分かってるじゃねぇか、嘘吐きオヤジ。奴の事も、あのおかしな魔剣についても色々知っていそうだから洗いざらい吐いてもらおうか?」

 

総司は“野暮な事をしなきゃ良かったかな”と後悔しつつ、仕方がないと前置きをしてから話す事を決めた

 

「こうなってしまった以上、話すとしよう。避けては通れない相手だからね。アレは―――魔王や神だけじゃなく、次元すらも滅ぼしかねない禁じられた魔剣だ」

 

 

――――――――――――――

 

 

「―――禁忌の神滅具(ロスト・ロンギヌス)?」

 

バサラ達が去り、部室に戻ってきたアザゼルとグレモリー眷属一同は総司から聞き慣れない単語を聞かされた

 

総司が神妙な面持ちで説明を続ける

 

「そう、それがバサラ・クレイオスの持つ魔剣の正体―――禁忌の神滅具(ロスト・ロンギヌス)だ」

 

「ロンギヌスって言葉が付くぐらいだから……神器(セイクリッド・ギア)って事だろうな。けど、おかしいだろ? あの魔剣が神器(セイクリッド・ギア)だとしたら、なんで今の今まで誰も知り得なかったんだ?」

 

アザゼルの疑問は(もっと)もだった

 

アザゼルはこれまで神器(セイクリッド・ギア)の研究に没頭し、数多くある神器(セイクリッド・ギア)の存在を認知している

 

しかし、話題に挙げられた禁忌の神滅具(ロスト・ロンギヌス)の存在は全く知らなかった

 

その疑問に総司が答える

 

「当然だね。今は亡き聖書の神が存在を隠蔽(いんぺい)していたんだから」

 

「なっ、何だとっ⁉」

 

総司の言葉にアザゼルは勿論、オカルト研究部の全員が驚いた

 

神器(セイクリッド・ギア)とは聖書の神が作った異能システム

 

発見されていない物は多いが、存在すら認知されていない物は初耳だった

 

それだけならまだしも、“発生源たる聖書の神が存在を隠蔽していた”と聞かされたら度肝を抜かれるのは当然だろう

 

総司は禁忌の神滅具(ロスト・ロンギヌス)について知っている限りの事を語り始める

 

「―――禁忌の神滅具(ロスト・ロンギヌス)、それは通常の神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)と違い……聖書の神の意志とは関係無く生み出された突然変異のような物だと聞いている。人に宿るのではなく、(みずか)らヒトを引き寄せて宿主を見極めるんだ」

 

「自らヒトを引き寄せる……? 独立具現型の(たぐい)か?」

 

アザゼルの問いに対し、総司は首を横に振る

 

「そんな優しいモノだったら、どれだけ良い事か……。引き寄せるだけならまだしも、宿主に相応(ふさわ)しくないと判断すれば即座に殺す―――ヒトを喰らう神器(バケモノ)さ」

 

神器(セイクリッド・ギア)が……ヒトを殺す……っ⁉」

 

続々と出てくる衝撃の事実にアザゼルも、新も、リアス達も開いた口が塞がらない……

 

そんな危険極まりない神器(セイクリッド・ギア)―――否、神器(セイクリッド・ギア)と呼べるかどうかすら疑わしい魔剣が造魔(ゾーマ)の手中にある……

 

しかも、規格外の強さを見せつけたバサラ・クレイオスの手に……

 

「バサラ・クレイオス……彼が持っているのは禁忌の神滅具(ロスト・ロンギヌス)の中でも特に凶悪な魔剣型のモノだ。火、水、風、地、雷、闇、それぞれの属性を(つかさど)る6体の魔獣を封じ込めた魔剣―――『六獄の魔皇剣(ヘキサゴラム・ブリンガー)』。その全てが彼を宿主……いや、(あるじ)として認めてしまった」

 

「つまり、ヤツの中には文字通り6体の魔獣(バケモノ)が巣食っているって事か……っ。最初に出くわした時、尋常じゃないプレッシャーを感じたのは気のせいじゃなかったんだな……っ!」

 

アザゼルが憎々しげにバサラとのファーストコンタクトを思い出す

 

バサラが放っていた重圧は彼自身に加え、彼の体内に巣食っている魔剣群―――(すなわ)ち、6体の魔獣によるモノもプラスされていたのだ

 

総司が禁忌の神滅具(ロスト・ロンギヌス)―――『六獄の魔皇剣(ヘキサゴラム・ブリンガー)』について話を進める

 

先程見た魔剣群を簡単なイラストで描き、それぞれに封印された魔獣達を明かす

 

「あの魔剣に封じ込められている魔獣は、どれも神話や伝承に名高いモノばかりだ。中にはキミ達がよく知っている神もいるだろう。まずは火の魔剣、天界から火を盗み、人類に“火”と言う知性を与えた神―――プロメテウス。尽きる事の無い紅蓮の炎を操り、炎騎神(えんきしん)とも呼ばれている」

 

「プロメテウス……人間に火を与え、文明や技術を発展させたと同時に戦争を起こす引き金にもなったギリシャ神話の神か。あの戦闘狂にピッタリだな……」

 

「水の魔剣に封じられているのは北欧神話の神―――エーギル。海で死した者の魂を喰らい、水、氷、幻を操る水幻龍(すいげんりゅう)の名を持つ。これは船に噛み付いて破壊する“エーギルの(あぎと)”と呼ばれる表現に由来しているらしい。風の魔剣はイラン神話に伝わる神霊鳥(しんれいちょう)シムルグ、“鳥の王”と称され、その羽には治癒の力が秘められている」

 

ここまでの説明だけでも破格過ぎるバサラの魔剣……

 

ギリシャ、北欧、イラン神話と様々な神があの魔剣に封じ込められている……

 

アザゼルは顔を(しか)め、他の皆は生唾を飲むしかなかった

 

それでも総司は説明を続ける

 

「地の魔剣に封じられているのは硬魔獣(こうまじゅう)ガルグイユ。これはフランス語での呼び方で、もっと分かりやすく言えばガーゴイルかな」

 

「ガーゴイルって漫画やゲームなんかで出てくるザコキャラみたいな奴じゃあ―――」

 

「それは違う。本来のガーゴイルは雨樋(あまどい)や魔除けの象徴として(あが)められる程の怪物、パリのノートルダム大聖堂にも(たてまつ)られている神格化された魔獣なのさ。堅牢な魔石(ませき)で出来た肉体(からだ)は、並大抵の攻撃を一切寄せ付けない」

 

次は雷の魔剣に視点を置く

 

「雷の魔剣には先程のプロメテウス同様、ギリシャ神話の神キュクロプス―――通称サイクロプスが封印されている。単眼から大地を焼き払う程の(いかずち)を放ち、雷滅鬼(らいめつき)と忌み名を付けられた」

 

「サイクロプスって……あの一つ眼の巨人みたいな怪物が⁉ つーか、神様だったのか⁉」

 

驚く一誠に、総司は淡々と語っていく

 

「また漫画やゲームでの先入観から来る誤解だね。サイクロプスは元々才能ある鍛冶(かじ)の神だったんだ。ギリシャ神話の主神ゼウスに雷霆(らいてい)と呼ばれる武器を作った事から雷の精霊とも言い伝えられていた。キミ達がよく知っている一つ()巨人の怪物は叙事詩(じょじし)で描かれた物、それが世間で広まっただけに過ぎない」

 

最後に血の紋様が刻まれた漆黒の魔剣について語り始める

 

「そして、闇の魔剣……。コイツが1番厄介な代物でね。彼が最初に手に入れた禁忌の神滅具(ロスト・ロンギヌス)でもあった……。この魔剣に封じられているのは死神であり、スラヴ神話の悪神(あくじん)―――冥刹皇(めいせつおう)ツェルノボーグ。“黒い神”の名を持ち、夜と闇、破壊と死を(つかさど)る魔獣だ」

 

総司の口から全ての魔獣の名が明かされ、部室内は不気味な静寂に包まれる……

 

張り裂けそうな空気の中、アザゼルは絞り出すように総司へ問い掛ける

 

「……いつから奴はあの魔剣を持っていた?」

 

「私と出会う以前から持っていたそうだよ。と言っても、最初の内は2本だけだったけど。残りの魔剣は後々(のちのち)になってから手に入れたんだろう。一振りだけでも所持していれば、本人の意志とは関係無く引き寄せ合うからね……。そして、彼は遂に全ての魔剣を手中に収めてしまった……」

 

「運命の悪戯(いたずら)ってヤツかよ……っ。いや、あの野郎のとんでもない技量を(かんが)みたら必然だったってのか……っ!」

 

「それがバサラ・クレイオスと言う怪物(おとこ)さ。概念や理論を一切合切はね()ける、もはや異次元の存在と言っても過言ではない。……キミ達はそんな怪物(おとこ)(たば)ねている組織を相手にしようとしているんだよ?」

 

総司の言葉に静まり返る一同

 

総司は真剣な面持(おもも)ちを崩さずに言う

 

「アザゼルくん、これから先は本当に厳しい戦いになると思うよ。彼は―――バサラは戦いを楽しむ戦鬼(せんき)だ。否応(いやおう)なしに(あお)ってくるだろう。私も出来る限りの対処をするが、決して心を折らないようにしてくれ。心が折れた瞬間、バサラは躊躇(ちゅうちょ)無くキミ達を滅ぼすよ? 彼は信念を持たない者を最も嫌うからね」

 

警告とも取れる総司の言葉にアザゼルは何も言えなかった

 

ここまで来た以上、引っ込みなどつけられない……

 

そんな事をすれば、バサラは駒王町(くおうちょう)ごとアザゼルやグレモリー眷属を滅ぼしに来るだろう……

 

総司の視線が新に向けられ、総司が新に伝える

 

「新、お前もバサラの性格は知っているだろう? 彼の目的は“キミと戦い続ける事”だ。だが……今のままでは到底キミに勝ち目など無い。怒りをぶつけるだけではダメだ。頭のてっぺんからつま先まで自分を使いこなせ。今のお前なら出来なかった事も出来る筈だ」

 

「……俺を使いこなす……?」

 

「と言うわけで、今から父子(おやこ)水入らずで飯でも食いに行くぞ。考えが纏まらない時はとにかく食べる。それが1番の特効薬だ」

 

「こんな時に食欲なんか湧くかよ……」

 

「良いから良いからっ」

 

総司は新の手を掴み、(なか)ば強引に連れ出していく

 

部屋を出る寸前、総司がアザゼル達に告げる

 

「アザゼルくん、リアスちゃん、皆も今日はご飯をしっかり食べて気分をスッキリさせたまえ。さっきは脅すような口振りだったけど、バサラはキミ達の這い上がる姿も期待しているんだよ。ただ、そのやり方が過激過ぎるのが難点だけどね。とにかく、自分を見失わない事。良いね? それじゃっ」

 

そう言って総司は新を連れて部室から出ていった

 

すっかり(よど)み沈んだ空気の中、アザゼルはふと総司とバサラの言葉を思い出す

 

―――“やっぱりね、その()も”―――

 

―――“どんな奴でも化ける可能性を秘めている。たとえば、ウチのチビスケとかな”―――

 

その言葉からアザゼルは最悪の予想を脳裏に(よぎ)らせた

 

『―――あのレビィって娘にも禁忌の神滅具(ロスト・ロンギヌス)が宿っているってのか……っ⁉ いや、もしかしたら他にもいる可能性がある……っ⁉ だとしたら、本当にバケモノ集団じゃねぇかよ……ッッ!』

 

アザゼルは心の底から“とんでもない組織を敵に回そうとしている”と後悔してしまった……

 

 

――――――――――――――――

 

 

「バサラさま、本当によろしかったのですか?グレモリー眷属を野放しにしたままで」

 

「良いんだよ、今日は挨拶代わりに来ただけだ。ここで終わらせちまったら面白味(おもしろみ)()ぇだろ?」

 

「そうですか。しかし……これで彼らも思い知ったでしょうね。六振りの魔剣―――禁忌の神滅具(ロスト・ロンギヌス)を持つあなたの力を。我々造魔(ゾーマ)の恐ろしさを」

 

「この程度で尻尾巻いて逃げるようなら興醒めだ。俺が()るまでもねぇよ」

 

「『六獄の魔皇剣(ヘキサゴラム・ブリンガー)』、『想像創造(ソリッド・イマジネイト)』、『恐天災獄(ディザストル・ゼロ)』、聖書の神が隠蔽していた忌まわしき遺物が揃っている以上、彼らに勝ち目など微塵も無いでしょうけど」

 

「おいおい、シルクスカーフ。うちのチビスケみたいに化けるかもしれねぇだろ?」

 

「シルバーです。……それより、バサラさま。指揮官から次の襲撃地点の目処(めど)がついたとお達しがありました。隣町の外れにある教会関連の建物だそうです」

 

「三大勢力の拠点か」

 

「はい。つきましては傘下に入った盗賊ギルドの3人を向かわせようかと」

 

「ああ、あの連中か。確かパンダトレーニングって奴ら―――」

 

「『三羽の闇鴉(バンディット・レイヴン)』です。加えてトランザーと復活したテンペスターも向かわせる予定です」

 

「構わねぇよ、好きに暴れさせてやりな」


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