ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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新年を迎えてやっと投稿できました……!

もうね……本当に更新をどげんかせんといかんわ……っ




剥げたな、テメェの化けの皮が……

「アザゼル……今の殺気は……っ」

 

「ああ、そうだ。最悪の展開……造魔(ゾーマ)の大ボスが(みずか)ら出向いてきやがった……!」

 

アザゼルだけでなく、リアスも恐々(きょうきょう)とした様子で震えている

 

あまりにも濃密な殺気に当てられ、部室内の全員が震えを止められなかった

 

特に戦闘に秀でてないアーシア、ギャスパー、レイヴェルの3人は一瞬でも気を抜くと意識を持っていかれそうだった……

 

アザゼルは警備のスタッフに連絡を取ろうとするが、先程から誰にも通じない……

 

その間にも“殺気の主”―――造魔(ゾーマ)のトップがこちらに近付いてくる気配を感じた

 

近付く度にビリビリと空気が揺れ、気配が肌に突き刺さる……

 

『新がいない現状で造魔(ゾーマ)の大ボスがやって来るとはな……っ。なんてタイミングの悪さだ……っ!……いや、仮に新がいたとしても俺達総出でやり合えるかどうかも分からん……!いずれにしろ、ここで全滅だけは避けるべきだ。だったら……』

 

アザゼルは思考を働かせた後、窓から校庭へと飛び出し―――リアス達に告げる

 

「お前らはそこで待機してろ……。まずは俺が奴らの動向を(さぐ)ってみる。間違っても攻撃を仕掛けるなよ……」

 

「……っ⁉なに言ってんだよ、先生っ!そんなの自分から()られに行くようなもの―――」

 

「もし、奴らが本当に俺達を皆殺しにするつもりなら―――とっくに殺ってる。これだけデカい殺気を遠くから放ってくるような奴だ……。この町を丸ごと滅ぼす程の攻撃を放ってきてもおかしくない筈……。だが、それをせずに殺気のみを飛ばしてきた。多分、俺達に対する牽制……何らかの意図があるって事だろうよ……。だから、まずはそれを確かめる」

 

アザゼルの指摘は一理あった

 

確かに一誠達を殺すつもりなら、最初の段階で既に実行していただろう

 

殺気の大きさからして、この場にいる全員を殺す事など容易(たやす)

 

それをしなかったのは―――“少なからず戦闘の意思は無い”事を示唆している

 

だが、戦闘の意思が無いにしても殺気のデカさはまさに規格外……

 

下手に刺激すれば、一気に“全滅”と言う最悪の事態にもなりかねない

 

それだけは避けるべく、まずはアザゼルが先陣を切る

 

あくまで様子見の真意を持って……

 

そんな極限状態を知ってか知らずか、殺気の主はどんどん近付いてくる

 

空気が痺れ、木々が揺れ、地が微細に鳴り響く

 

まるで巨大な魔物にでも睨まれているかの如く……

 

口の中の水分が失われるような感覚に(さいな)まれながら、アザゼルは必死に目を凝らす

 

そして……遂に殺気の主―――造魔(ゾーマ)のトップが姿を見せる……!

 

威風堂々と歩みを進めてくる、青いコートを羽織った眼帯の男

 

男の少し後ろには3人の人物がついてくる

 

その内の2人は幽神正義(ゆうがみまさよし)からの情報で見覚えがあった

 

1人は滅悪祓士(デビル・スレイヤー)と呼ばれる銀髪の優男(やさおとこ)―――シルバー・ゼーレイド

 

もう1人は“死神”の異名を持つ異形―――ブラッドマン・クルーガー

 

その2人を視認したアザゼルは苦虫を噛み潰したように顔を歪める

 

『クソ……ッ、早くも先手を打ってきやがった……!悪魔殺しに死神……こっち側の動きを制限された……!』

 

悪魔を滅殺(めっさつ)する異能と、触れずに敵を(ほうむ)る死神

 

造魔(ゾーマ)のトップだけでも厄介極まるのに、スタートから劣勢のレールを敷かれてしまった……

 

そして、残りの1人は情報映像で確認されていない―――青い髪にカチューシャを着けた小柄な少女

 

見た目だけを注視すれば、猛者(もさ)揃いである造魔(ゾーマ)の幹部とは思えない程の風体(ふうてい)だった

 

造魔(ゾーマ)の4人が徐々に近付いていき、アザゼルの眼前で足を止める

 

ただ目の前にいる……

 

それだけなのに凄まじい重圧を浴びせられていた

 

特に眼帯を着けた男の重圧は他の比ではない……

 

『……ッ!1人分の圧力じゃないだろ、こいつは……ッ⁉まるで、ドデカい魔獣の群れにでも睨まれてるような気分だ……。「豪獣鬼(バンダースナッチ)」や「超獣鬼(ジャバウォック)」とは全然違う……ッ!こんな奴が、こんな奴らが今まで世に出回らなかったってのか……⁉』

 

緊迫した空気の中、右目に眼帯を着けた男―――(すなわ)造魔(ゾーマ)のトップが口を開く

 

「よぉ、テメェがこの一帯を仕切ってるヒキコモリー眷属の元締め―――アンコゼリーって奴か」

 

「バサラ様、グレモリー眷属と堕天使元総督のアザゼルです」

 

「ああ、そんな名前だっけ?アンコゼリーで良いだろ?それか汗疹汁(アセモジル)

 

「前者はともかく、後者だと単なる(きたな)い汁になってしまいますよ」

 

「ピッタリなんじゃねぇの?姑息な手ぇ使って生き(なが)らえてるカラスどもの親玉なんだからよ」

 

ふざけた態度でありながら辛辣(しんらつ)な毒を浴びせるバサラに、アザゼルは睨みを利かせるが……当の本人は全く意に介さない

 

バサラの(かたわ)らにいるシルバーが旧校舎―――オカルト研究部の部室に目をつける

 

「バサラ様、ここで立ち話をしても意味がありません。道を作りますので行きましょう」

 

そう言ってシルバーが指を鳴らした瞬間、彼の周囲から冷気が発生

 

その冷気がオカルト研究部の部室の窓に向かって一直線に伸び、氷の階段を形成する

 

一瞬で道が作られ、目を丸くしてしまうアザゼルにバサラが告げる

 

「道は出来たんだ、さっさと案内してくれよ。テメェらの根城の中心部に」

 

口の端を吊り上げ、アザゼルに案内を催促するバサラ

 

アザゼルは敵意を持ちながらも、バサラに質問を飛ばす

 

「案内はするが……2つの質問に答えてもらおうか」

 

「何だ?」

 

「何故ここに来た?造魔(ゾーマ)の被害を受けているこの町の、それも俺達の所に来た目的は何だ?警備を強化しているこの町に、どうやって入ってきた?」

 

アザゼルの問いに対してバサラは直ぐに答える

 

「まず1つめの質問に答えてやる。ここに来たのはテメェらと契約・取引をする為だ」

 

「取引、だと……?」

 

「ああ、双方にとって悪くない話だ。今日は少なくとも戦う気は()ぇから安心しとけ。それと2つめの質問に対する答えだが……テメェらんとこの兵隊は弱っちい奴らばっかりじゃねぇか。チョイと睨んだだけで落ちていきやがったよ。んで、そのまま普通に入ってきただけだ」

 

つまり、直接手を下さずに警備の者達を仕留め―――悠々とこの町に侵入してきたと言う事だ

 

当然の如く言ってのけたバサラに、言葉を失うアザゼル

 

しかし、質問に答え終わったバサラが再び案内を催促してくる

 

「くだらねぇ質問は終わったか?なら、さっさと案内しな」

 

「…………チッ、分かったよ」

 

舌打ちしたアザゼルは不機嫌な表情で先頭を(のぼ)り、バサラ達4人もあとを追って上っていく

 

果たして、造魔(ゾーマ)が持ちかけてきた契約・取引とは何なのか……?

 

一触即発の空気が漂う中、アザゼルは背中に嫌な汗を感じながら氷の階段を上っていった

 

『アイツらが耐えられるかどうか、胃が痛くなってきそうだ……』

 

 

―――――――――――――

 

 

「「「「「「…………っ」」」」」」

 

オカルト研究部の部室内は刺々しい雰囲気が充満していた

 

アザゼルが造魔(ゾーマ)面子(メンツ)を案内してきた直後は怒りの色が滲み出ていたが……対峙した瞬間、膠着状態に(おちい)った

 

ソファーに腰を下ろし、行儀悪くテーブルの上に足を乗せるバサラ

 

その(かたわ)らに(たたず)むシルバー、ブラッドマン、レビィ

 

対面するようにアザゼルとリアスが座っている

 

アザゼルだけでなく、リアス達もバサラの全身から滲み出る殺気(本人曰く、抑えているらしい)に当てられ―――落ち着かない様子だった

 

『ヤベェな、こりゃ……。室内に来ただけだってのに、こっちが逃げ道を塞がれた気分だ……。造魔(ゾーマ)の首領に滅悪祓士(デビル・スレイヤー)、死神……ヤベェ奴らが勢揃いで吐き気すらしてくる……』

 

極限状態とも言える場の中で、バサラが開口一番に名乗りを上げてくる

 

「まずは自己紹介から始めるとするか。俺はバサラ・クレイオス、一応造魔(ゾーマ)のトップだ。んで、このちっこいのがチビスケ」

 

「チビスケって紹介やめてくれるっ⁉」

 

バサラの“チビスケ”発言に真っ先に異を唱えたのは青い髪にカチューシャを着けた小柄な少女―――レビィ・シャルティア

 

この場にいる造魔(ゾーマ)面子(メンツ)の中でも、特に狂気とは無縁に思える人種である

 

チビスk……もとい、レビィに異議を申し立てられたバサラが言い返す

 

「んだよ、ちっこいからチビスケだろ?何処が間違ってんだ」

 

「まずチビスケって名前じゃないからっ!私の名前はレビィ!」

 

「チビィスケ?」

 

「レ・ビ・ィッ!と言うより、このやり取りを何回もやる必要がある⁉」

 

話が進まない事に業を煮やしたのか、シルバーが台頭する

 

「話が進まないので私が説明させていただきます。彼女はバサラ様の“右目”役―――レビィ・シャルティア。まあ、ペットボトルの蓋的な存在だとお考えください」

 

「蓋⁉私ってペットボトルの蓋みたいなポジションなの⁉」

 

「それはさておき、私は造魔(ゾーマ)の執政官を務めるシルバー・ゼーレイド。そして、そこにいる骸骨は“死神”の呼び名を持つ―――ブラッドマン・クルーガー、以上です」

 

「私の扱い終わりっ⁉」

 

紹介の酷さに呆気に取られるレビィを意に介さず、ブラッドマンが語り始める

 

「魔の学舎(まなびや)(かな)でるは、地の獄に堕ちし鈴の()か。照らす魔煌(まこう)は、大地を癒やせし明星(みょうじょう)息吹(いぶき)か。今宵は密約を結びし(さち)とならん事を願い、魔の(むくろ)煉獄(れんごく)へ堕とし(いざな)うこと無かれ」

 

「……つまり、彼はあなた方におとなしく我々の取引に応じるべきだと言っているのです」

 

ブラッドマンの詩的な言い回しをシルバーが簡潔に要約する

 

上から目線の態度に(しか)めっ(つら)となる一同だが、ここでキレてしまっては元も子もない

 

アザゼルが話を切り出す

 

「そんなに言うなら、さっさと話の本題に入ったらどうなんだ?くだらん時間稼ぎをするつもりか」

 

「おっと、(わり)(わり)ィ。そろそろ始めるとするか。おい、しば漬け」

 

“シルバーです”と前置きをしてから、彼が取り出したのは1枚の紙だった

 

その紙には―――“造魔(ゾーマ)との取引誓約・契約書”と(つづ)られていた

 

契約書を机の上に置いた後、バサラが口の端を吊り上げて言う

 

「単刀直入に言うぜ。―――俺らと取引しねぇか?テメェんとこの土地の一部と引き換えに、俺らが『禍の団(カオス・ブリゲード)』って残党どもの息の根を止めてやるよ」

 

「「「「「「「――――っ⁉」」」」」」」

 

契約を持ちかけてきた事にも驚きだが、その契約内容も度肝を抜かれるようなものだった

 

“『禍の団(カオス・ブリゲード)』の根絶”を引き合いに出してきた造魔(ゾーマ)の真意が理解できず、アザゼルが(いぶか)しげに訊いてくる

 

「……どういうつもりだ?そもそも何故、そんな契約を敵である俺達に持ち掛けてくる?お前らに何のメリットがある?」

 

「メリット、か……。()いて言えば依頼・要望が多数あったから、それに応えてやろうとしてるだけってところだな。けどよ、その方がテメェらにとっても都合が良いんじゃねぇの?目の上の(こぶ)を俺らが進んで除去してやる。その対価として土地の一部を献上してくれって事だ。1年契約なら10%分、2年契約なら15%分だ。そして、その契約期間中はお互いの管轄地域に干渉しない―――つまり、『禍の団(カオス・ブリゲード)』を根絶するまでは部分的に同盟関係を結び、(いさか)い等の敵対的行為を禁ずる。どうだ、良い条件だろ?」

 

何とも破格の交換条件……

 

10%~15%、つまり1割程度の土地を献上するだけで『禍の団(カオス・ブリゲード)』を根絶してくれると言うのだ……!

 

実質、『禍の団(カオスブリゲード)』は機能停止にあるものの、未だ壊滅には至ってない

 

契約さえ結べば造魔(ゾーマ)がその期間内に全て片付けてくれる

 

しかも、誓約書を介しておけば契約に違反する行為を起こしても即糾弾できる

 

更に『禍の団(カオス・ブリゲード)』が入手した情報や研究資料の(たぐい)も回収し、その全てを三大勢力間で共有すると言う条件も付け加えられた

 

まさに至れり尽くせりの条件である

 

机の上に出された誓約書を手に取るアザゼルと、ますます造魔(ゾーマ)の真意が読めなくなるリアス達一同

 

ただ分かる事は1つ……(したた)

 

造魔(ゾーマ)と言う組織も、それを束ねているバサラ・クレイオスと言う男も想像以上に(したた)かだった

 

『……この男、見掛けによらず狡猾(こうかつ)だな。実力だけなら向こうが圧倒的有利、優位に立っている筈だ……。それなのに一方的どころか、こちら側にとっての好条件を交渉の材料に引き出し、小規模の土地を掠め取る……。確かに僅かな土地だけで問題点、障壁を取り除けるなら―――大抵の奴は首を縦に振るだろうよ。……キリヒコとはまた違った意味で厄介な男、巧妙にヒトの揚げ足を取る嫌な野郎だ……っ』

 

アザゼルは心中でバサラの抜け目の無さに感嘆しつつも酷評

 

そんな中、リアスが怒気を含みながら反論する

 

「ふざけてるの?目の(かたき)であるあなた達の要求を私達が呑むと思っているのかしら?相手にどう思われているのかも(わきま)えず、ヒトの町にズカズカと足を踏み入れて、自分の立場を分かっているの?」

 

リアスが怒りのオーラを滲ませながら問い(ただ)してくるが、バサラは微塵も動揺する事無く言い放った

 

「立場、ねぇ……。今そんなもんを気にして、何になるんだよ?問題は契約するのか、しないのか、ただそれだけだ。話をすげ替えてんじゃねぇよ」

 

「…………っ!」

 

契約以外の話をまともにする気は無いとばかりに吐き捨て、リアスは無言でバサラを睨む

 

ここで攻撃的な対応を取ろうものなら、バサラ達造魔(ゾーマ)は容赦無く返り討ちにしてくるだろう

 

しつこいようだが、この場で即戦争&全滅だけは何としても避けたい……

 

リアスも他の皆も黙って聞いているしかなかった

 

そして、アザゼルが造魔(ゾーマ)との契約に対する答えを出す

 

「確かにこの条件でお前らが『禍の団(カオス・ブリゲード)』を潰してくれるってのは、俺たちにとってオイシイ話だろうな。まさしく棚からぼた餅みたいな契約内容、文句の付け所が1つも無い」

 

「先生っ、こんな奴らの誘いを受けんのかよっ⁉」

 

アザゼルの反応に声を荒らげる一誠

 

他の皆もアザゼルの反応にざわつくが、アザゼルは手に持った誓約書を―――ビリッと破り捨てた

 

「猫の手も借りたいとは言うが、お前らのような怪しい化け猫の手なんざ借りたくねぇわな。真意が読めない相手との契約は危険極まりない。それに……この町をお前ら悪党どもの好きにはさせねぇ。誰が契約なんぞするかよ」

 

アザゼルはハッキリと契約を拒絶、シッシッと追い払うように手を振る

 

アザゼルの態度にシルバーは眉を潜め、今にも殺さんとする気迫を見せるが―――バサラが手で制する

 

その直後にバサラは顔を(うつむ)かせ、笑うように肩を震わせた直後……一言吐き捨てた

 

「――――つまんねぇ」

 

「は?」

 

「ここまで予想通りの反応をされたら、逆にシラケちまうな。全くクソ面白くもねぇ。つまんねぇ奴……もはや愛想笑いさえする気も()えた。せっかく目の上の瘤を除去できるチャンスを提示したってのに……テメェらは取るに足らねぇ意地とプライドとやらで、その機を無下にするんだからな。……どうやら俺はテメェらの事を買い被り過ぎていた。こんな(ザマ)じゃあ今まで生き残れたのは相手が弱かったか、単なるマグレの産物だろうよ」

 

「……何が言いたい?」

 

「堕天使のオッサン、聞けばテメェは前々から神器(セイクリッド・ギア)ってヤツをかき集めてるそうじゃねぇか。研究だの抑止力だの言ってよぉ」

 

「ああ、そうだ。お前らみたいな戦争バカとは違って有意義に―――」

 

「そいつは大嘘だ」

 

バサラはアザゼルの言葉を(さえぎ)るように否定し、鋭い眼孔を飛ばしながら続ける

 

「テメェはただ単にビビってるだけだ。これから先に起こるであろう激戦、激動、修羅場、死線、降り掛かってくる災禍(さいか)を恐れてやがる。いつか到底(かな)わない相手が出てくる事に、周りの物を失いかねない焦燥感に、そして何より―――今の安穏とした暮らしを壊したくないが為に……外壁を固めている。力を持っているくせに平和を求めてやがる」

 

「……それの何が悪い?」

 

「“力を持った者”が平穏に生きられるわけねぇだろ。力を持てば、必ず何処かで衝突する。それも理不尽かつ否応無く。テメェはそんな至極当たり前の現実から目を(そむ)け、逃げてやがる。つまり、テメェは管理がしたくて勝負をしたくない腰抜けの男。謂わば、学歴だけで威張り散らすエリート気取りの無能と同じ。平常時の仕事は無難にこなしても緊急時にはクソの役にも立たねぇと言う事だ。ピンチは凌げず、チャンスも(のが)す。……とてもヒトの上に立つ器じゃねぇな。総督をクビになるのも当然か」

 

そして、バサラはアザゼルに対して―――以下のように断じた

 

「オッサン……剥げたな、テメェの化けの皮が。―――二流だ。俺から見れば所詮テメェは二流、臆病風が骨まで染み付いた保身中毒、大詰めで見誤る指示待ちの老害に過ぎねぇ」

 

「…………っ」

 

声こそ荒立てぬものの、アザゼルの急所を的確に(えぐ)るような罵倒

 

バサラの一言一句がアザゼルの心中に痛く突き刺さる……

 

確かにアザゼルは自身の研究と敵対勢力への抑止力の為に、神器(セイクリッド・ギア)所有者や情報をかき集めていた

 

先の三つ巴戦争で多くの仲間を失い、種族の絶滅を避けるべく真っ先に三大勢力間の和平を提案した

 

“力を持った種族”であるにもかかわらず、平和に暮らしたいと願っている

 

“力”と“平穏”―――それは両立など出来ない、相反する事実だ

 

力を手に入れなければ外敵に(おびや)かされ、力を持っていれば必ず別の力を引き寄せてしまう

 

争い・(いさか)いの無い世界など―――この世には存在しないのだから……

 

「“力”を持つからには覚悟を決めなきゃならねぇ。“力”がもたらすのは平穏じゃねぇ―――破壊だ。何かを創る為には何かを壊さなきゃならねぇ。世界ってのは……幾星霜(いくせいそう)の破壊と創造を繰り返した死屍累々(ししるいるい)の上で成り立っている。医学だろうが科学だろうが、食育だろうが歴史だろうが、その全てが先人どもの血と犠牲によって構築されてんだよ。それが現実、この世の真理だ。残酷で理不尽なのが当然、常識。最初(ハナ)っから平等に創られている世界なんざ存在しねぇんだよ。テメェはその残酷な現実から目を()らしてやがる。口では堅実的な事を言ってるだろうが、内心は真逆……この世の残酷さに押し潰され敗けた。だから、偽善ぶった理想ばかりほざいた挙げ句―――周りの奴らを負のスパイラルに巻き込む。俺から言わせりゃ、テメェらの方が最大級に性質(タチ)(ワリ)ぃんだよ」

 

「…………っ」

 

「ここまで保身的な腰抜け野郎は見た事がねぇ。だから、竜の字も腑抜けた空気に毒されちまったんだろうな」

 

「―――っ?誰の事を言ってるんだ?」

 

「おいおい、まだ気付かねぇのか?テメェらの中で“竜の字”っつったら、1人しかいねぇだろ」

 

―――“竜の字”―――

 

そのワードで連想されるのは1人しかいない……

 

アザゼルはその人物にいち早く気付いた

 

「……新の事か」

 

「ああ、アイツとは同業のよしみだった、謂わば腐れ縁みてぇなもんだ。竜の字(ヤツ)がテメェらの飼い犬になったと聞いた時は、さすがに開いた口が塞がらなかったぜ」

 

同業……(すなわ)ち、この男もバウンティハンター

 

目の前の男―――バサラが新と同業者である事に驚きを隠せないリアス達一同

 

そんな視線を尻目にバサラは淡々と続ける

 

「昔のアイツは俺と同じ匂いを持つ―――修羅の道を進む獣だった。それが今やテメェら腑抜けた平和主義どもの飼い犬、すっかり尻尾を振って媚びるようになっちまってる。他の奴からも敬遠されていた面影(おもかげ)が全く()ェ。正直言って呆れ果てたぐらいだ。世間でどう持て(はや)されているかは知らねぇが、少なくとも俺から言える事はただ1つ―――今の竜の字は昔より弱くなってやがる」

 

「「「「「「――――っ!」」」」」」

 

新に対する侮辱にリアス達は一層(いきどお)りを強く表し、アザゼルも眉根を潜めた

 

ピリピリした空気を意に介さず、バサラは新への罵倒を続けた

 

「テメェら温室育ちのボンボンどもに囲まれてりゃあ、弱っちくもなる。だがな……少なくとも戦いに関する心構えだけは変えちゃならねぇ。もし、竜の字が自分(テメェ)の信念をも変えて飼い犬に成り下がっちまったら―――それこそ俺はヤツを軽蔑する。アッサリと心根を変えちまうようなヤツとは戦う価値も、張り合う価値すらも()ェ。時間の浪費だからな」

 

そして、バサラは鋭い眼光のまま言った……

 

「飼い犬になりたがるのは―――逃げ癖が染み付いたアホだけだ。平和主義を唱えるアホと同じなんだよ……クズが」

 

バサラがそう断じた刹那、ドゴンッ!と机に拳を打ち付ける音が響き渡る

 

視線を移すと……一誠が憤怒の形相でバサラを睨み付けていた

 

歯軋りを鳴らし、今にも飛び掛からんとする様子だった

 

「てめえ、もういっぺん言ってみろ……!殺すぞ、この野郎……っ!」

 

「やめろ、イッセーッ!見え見えの挑発だ!安易に乗るんじゃ―――」

 

「ふざけんなよっ!俺達の仲間をボロクソにバカにされて、黙ってろって言うのか⁉」

 

アザゼルの制止に聞く耳を持たない一誠

 

確かにここまで愚弄されては黙っていられないものだが、相手はバケモノ揃いの猛者を束ねる造魔(ゾーマ)の首領

 

安易に喧嘩を売れる相手ではない……

 

しかし、一誠は自身の激情を抑えられなかった

 

それはゼノヴィアも同じ

 

既にデュランダルを構え、その切っ先をバサラに向けている

 

「私もイッセーと同意見だ。仲間を……新を目の前で侮辱されて、おとなしくしていろと言う方が無理だ。……こんな奴とは話をする必要も無い、今すぐこの場で斬り払うのが賢明だ……ッ!」

 

ゼノヴィアも頭に血が(のぼ)っており、完全に臨戦態勢に入っていた

 

それを見てシルバーとブラッドマンも迎撃しようと構えるが……バサラが「待てよ」と2人を一喝して止め、口の端を吊り上げる

 

「そうやって直ぐに激情に任せて暴走するのは―――図星を突かれた証拠だ。まあ、俺は核心を突いてやったんだから無理もなかったか。けどよ……喧嘩を売るなら相手を見てからにしろ。テメェらなんざ俺の足元にも届かねぇよ」

 

バサラは組んでいた足を下ろし、ソファーから立ち上がる

 

「ただ……ここで俺らが帰ったら、それこそテメェらの気が済まねぇよなぁ?俺に竜の字をバカにされたままじゃあ引き下がれねぇよなぁ?どうしても()りてぇって言うなら―――表に出ろ。テメェらの望み通り、相手してやるよ」

 

なんと、バサラは私闘と言う形で一誠達を駆り出させようとしてきた……!

 

バサラはシルバーに目配せして、再び氷の階段を作らせた

 

窓から外へ伸びた氷の階段を降りていくバサラ達

 

一誠とゼノヴィアは直ぐに外へ飛び出そうとしたが、アザゼルに一旦止められる

 

「お前ら少しは頭を冷やせッ!確かに奴の口振りは腹立たしいが、無策でどうこう出来る相手じゃないのは分かってるだろ⁉」

 

「じゃあ先生は……このまま黙って仲間をバカにされていろって言うのかよっ⁉あんなクソ野郎が新と同じバウンティハンターだなんて……!」

 

「いずれにしろ、今ここで奴の首を()ねれば造魔(ゾーマ)は終わりだろう!私は行くぞッ!」

 

一誠もゼノヴィアも怒り心頭、こんな状態になってしまっては何を言っても止まらないだろう……

 

アザゼルは舌打ちをしつつも「とりあえず落ち着けッ!」と2人を(なだ)める

 

そして、溜め息を吐いてから言う

 

「良いか、ここで奴を倒そうとは考えるな。焦って深入りすれば必ず足を(すく)われる。ここは……相手の力を知るつもりで戦え。俺達はまだ奴の能力を知らない。こうなったのは不本意だが、ある意味チャンスでもある。奴の能力を引き出すつもりで行け。それを踏まえてなら、いくらでも殴って構わん」

 

「……っ。さすが先生、今だけはアンタの悪知恵に感謝しますよ!」

 

「ならば、遠慮はいらないな!思う存分斬り刻んでやる!」

 

「イッセーくん、ゼノヴィア。それなら僕も行くよ。……僕も今の侮辱は聞き捨てならないからね」

 

一誠とゼノヴィアだけでなく、祐斗も参戦してきた

 

グレモリー眷属主戦力トリオの出陣にリアスも奮起する

 

「勿論、私達も出るわ。私の大事な眷属を……新を侮辱した事を後悔させてやらないと治まらないわ……!あの男に一泡(ひとあわ)吹かせてやりましょうッ!」

 

「ええ、当然そのつもりですわ」

 

「そうよそうよ!思い切ってギッタンギッタンにしちゃうわ!」

 

「……潰します」

 

「新さんは誰よりも苦労してきた人です。それを侮辱されるのは我慢なりません」

 

リアスに続いて朱乃、イリナ、小猫、ロスヴァイセも参戦を申し出てきた

 

アーシア、ギャスパー、レイヴェルの3人は控えに残し、8人がかりでバサラ・クレイオスとの私闘に踏み込む意志を決めた

 

しかし、彼らは思い知らされる……

 

バサラ・クレイオスと言う男が規格外のバケモノである事を……

 

そのバケモノに決して安易に挑んではいけなかった事を……!

 

 

―――――――――――

 

 

「バサラ様、宜しいのですか?あのような下級集団の相手をなさって」

 

「何度も言ってんだろ、シーラカンス。アイツらが戦う気の()ェ奴らなら、最初(ハナ)っから安い挑発なんざしねぇよ」

 

「シルバーです。……もしかして、こうなる事も計算していましたか?」

 

「まあな、仲間意識の強い奴らは身内を愚弄されれば簡単に乗ってくる。契約しようがしまいが関係ねぇ、“侮辱してきた俺を仕留められる”と言う大義名分を得て躍起になってくるだろうよ」

 

「なるほど……豪放磊落(ごうほうらいらく)でありながら(さか)しいやり方ですね」

 

「今までの奴らがアホ過ぎたんだよ。さーて、これから少しは面白くなりそうだ。グラタンコロッケどもの実力とやらを推し(はか)ってやるぜ」

 

「グレモリー眷属ですけどね」




次回、バサラの無双ぶりが火を噴きます!

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