ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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お待たせしました!厄災とのバトルです!


魔王少女VS厄災のテンペスター

「―――ッ!な、何だ……このおどろおどろしい気配は……ッ⁉」

 

下の階層にて造魔(ゾーマ)首領―――バサラ・クレイオスと対峙していた新は、突如やって来た別の怖気(おぞけ)に気付いて後ろを振り返る

 

その発生源は上の階層からだった

 

バサラ・クレイオスが思い出したように告げる

 

「ああ、そう言えば造魔(ウチ)の先兵が来てたんだっけな。ハハッ、すっかり忘れてたぜ。今頃は上の奴らとドンパチかましてるだろうよ」

 

「何だと……ッ⁉」

 

「上にいる奴らの事が心配か?行きたきゃ別に行っても良いぜ?今日は挨拶程度で来ただけだからな」

 

バサラ・クレイオスは“さっさと行きな”とばかりに腕を組んで静観する

 

新はヤツの一挙一動(いっきょいちどう)が心底気に入らないのか、不愉快を(あらわ)にした

 

「……本当に何処までもムカつく野郎だ……ッッ!」

 

しかし、直ぐにでもこの場を離れて、ソーナ達の所に向かわねばならない

 

(きびす)を返して上の階層に向かおうとした時、バサラが再び言い始める

 

「なあ、竜の字。この際ハッキリ言っといてやる。俺ァ正直、組織のボスを(まっと)うするつもりはあまり()ェんだ。派手に動くのに都合が良いから、情報とか手に入れやすいから、とりあえず組織を纏めてるだけに過ぎねぇ。実際、纏めてんのはウチの指揮官と中間管理職の奴よ」

 

「……何が言いたい……っ」

 

睨みを利かせる新に、バサラは口の端を吊り上げて言う

 

「なぁに、俺が斡旋(あっせん)してやるから―――お前が造魔(ウチ)のボスをやってくれって事さ」

 

「―――ッッ⁉」

 

“この男は、いったい何を考えているのか……?”

 

事もあろうに、自分が座している造魔(ゾーマ)の首領と言う立場を新に譲ろうと持ち掛けてきた……!

 

バサラの真意が全く読めない……

 

読めないが、新は腹の底から拒絶の怒号を飛ばす

 

「ふざけんなよ!俺に……俺にアイツらを裏切れって言うのか⁉」

 

「そういう事になっちまうかもな。だがよぉ、案外そうした方がお前の為にもなるんじゃねぇの?ほら、平和ボケを願ってるテメェんとこの……何だっけ?確かアイス・ブロッコリーって女の―――」

 

「リアス・グレモリー」

 

「あー、そうだそうだ。シマリス・バルコニーだったな」

 

「まともに答える気すら無いだろ……。―――って、そうじゃない!今すぐソーナ達の所に戻らねぇと―――」

 

「おいおい、もう行っちまうのかよ?いつからノリが(わり)ィ奴になったんだ。せっかく来てやったってのに、つまんなくなっちまったな。それともお前が行こうとしている場所で話を続けるか?」

 

「アイツらには指1本たりとも触れさせやしねぇ。……来たら殺すぞ……ッ!」

 

「ハンッ、言うようになったじゃねぇか、竜の字。けどよぉ、その台詞を吐いて“1度でも俺に勝った”事があんのか?あまり大口叩いてると火傷どころじゃ済まねぇぞ」

 

「うるせぇッッ!テメェなんかと喋ってる時間はねぇんだよ!そんなに殺りたきゃ、向こうをソッコーで片付けてから相手してやるッ!もう……今までの俺とは違うんだよッッ!」

 

新は最後まで憎々しげに怒号を吐き捨て、危機が迫っているであろうソーナ達のもとに向かっていった

 

 

――――――――――――

 

 

「“今までの俺とは違う”だぁ?―――ハッ、笑わせやがる。テメェこそ何も分かっちゃいねぇんだよ。俺に対するキレ方、焦り方、何一つ変わっちゃいねぇ。変わったところと言えば……テメェが昔より弱くなったって事だ。俺が知ってる竜の字(テメェ)はもっと暗く、獣のようにギラギラしてたぜ。血の気が多く、牙を研ぎ澄まし、同業者からも敬遠されてた。それがいつの間にか、飼い主に尻尾を振って媚びるような犬に成り下がってやがる。獣が牙を(うしな)っちまったら―――終わりなんだよ」

 

 

――――――――――――

 

 

「ヒュルッ」

 

ソーナ達の前に現れた造魔(ゾーマ)の刺客―――“厄災”のテンペスター

 

小さく(つぶや)くと同時に無数の竜巻が発生し、ソーナ達に襲い掛かっていく

 

ソーナ達は何とか直撃だけは避けたものの、竜巻の凄まじい風圧によって吹き飛ばされ―――各々(おのおの)が壁や地に叩きつけられてしまう

 

しかし、“厄災(テンペスター)”は追撃の手を緩めやしない……

 

「ヒュルッ」

 

今度は(みずか)らの体に竜巻を纏って空中へ飛び出し―――ソーナに狙いを定める

 

「……ッ!会長には指1本触れさせやしねぇっ!」

 

そう息巻いて飛び出してきた匙は、ヴリトラの黒炎を放って迎撃しようとする

 

幾重にも黒炎を放出してテンペスターの行く手を(さえぎ)るが……黒炎は竜巻に呑まれ、霧散してしまう

 

「ビュンッ」

 

その一言と共にテンペスターの速度が急激に上がり、匙はあっという間に距離を詰められ―――竜巻を纏った拳が匙の腹に突き刺さる

 

鋭く重い一撃が深々と食い込み、匙は血反吐を吐いて吹き飛ばされる

 

テンペスターは即座にソーナにも攻撃を仕掛けるが、寸前のところで真羅椿姫(しんらつばき)花戒桃(はなかいもも)草下憐耶(くさかれや)が立ち塞がる

 

椿姫は自身の神器(セイクリッド・ギア)―――『追憶の鏡(ミラー・アリス)』を展開

 

更に花戒の人工神器(セイクリッド・ギア)―――『刹那の絶園(アブローズ・ウォール)

 

草下の人工神器(セイクリッド・ギア)―――『怪人達の仮面舞踏会(スカウティング・ペルソナ)』による三重の防御陣が張られ、テンペスターの攻撃を防ぐ

 

しかし、それでも衝撃は凄まじく……椿姫達は苦悶の表情を見せる

 

『く……っ!なんて威力なの……っ⁉攻撃を跳ね返すまでに、鏡が()つかどうか―――』

 

「ドドンッ」

 

バリンッッ!

 

テンペスターの手から衝撃波が放たれ、椿姫達の張った鏡、結界、仮面の群れの防御陣が容易(たやす)く破られ―――衝撃の余波が彼女達を襲う……!

 

テンペスターの放った衝撃が隅々まで行き渡り、肉も骨も悲鳴を上げる

 

椿姫達は血を吐き、その場にくず折れてしまう

 

「よくも副会長達をっ!」

 

「許さないっ!」

 

果敢(かかん)に向かっていくのは巡巴柄(めぐりともえ)仁村留流子(にむらるるこ)

 

巡は“中二病刀”こと『閃光(ブレイザー・シャイニング)(・オア・)暗黒の(ダークネス・)龍絶刀(サムライソード)』を、仁村は脚甲(きゃっこう)型の『玉兎と嫦娥(プロセラルム・ファントム)』を展開してテンペスターへ攻撃を仕掛けようとする

 

しかし、攻撃の気配を察知したテンペスターは、その場から動かずに―――

 

「ボオッ」

 

全身から莫大な炎を噴かせて2人を焼き払う

 

巡と仁村はテンペスターが発した炎に呑み込まれ、衣服と体を焼かれてしまう

 

それだけでも大きなダメージだが、テンペスターは容赦の無い追撃を見舞おうとした

 

「グイッ」

 

テンペスターが左手を前に(かざ)すと、巡と仁村の体が引き寄せられていく

 

テンペスターは眼前まで引き寄せた両者の腹に手を当てて―――「ドドンッ」と衝撃波を放った

 

巡と仁村は吹っ飛ばされ、地に倒れ伏す

 

「はあっ!」

 

由良翼紗(ゆらつばさ)が人工神器(セイクリッド・ギア)―――『精霊と栄光の盾(トゥインクル・イージス)』から雷を(ほとばし)らせ、ヨーヨーのように投擲(とうてき)する

 

猛然と回転しながら飛来する盾に対し、テンペスターは再び「ヒュルッ」と竜巻を生み出して由良の攻撃を相殺(そうさい)する

 

「ドゴンッ」

 

更に由良の足元から土塊(つちくれ)が意思を持ったかのように突き出し、強烈な打撃を与える

 

盾で防御したにもかかわらず、後方の壁に叩き付けられる

 

まさに“厄災”……ソーナは眼前の厄災(テンペスター)に戦慄せざるを得なかった……

 

(あらかじ)め支給されたフェニックスの涙(少量)を負傷した眷属達に振り掛け、何とか傷だけでも治癒させるが、それも気休め程度にしかならない

 

『攻撃が多彩過ぎる……!リアス、私達は甘く見ていたのかもしれない……っ。造魔(ゾーマ)が……ここまで恐ろしい組織だったなんて……っ』

 

1歩、また1歩、自分と倒れる眷属達に近付こうとする厄災(テンペスター)

 

「お前達は厄災に勝てない」

 

淡々と告げ、再びソーナを狙おうとする

 

しかし、そこへ最強の魔法少女―――否、魔王少女が立ち塞がる

 

「待ちなさいっ!これ以上、私の大事なソーたんと椿姫ちゃん達を傷付けさせないわ!魔法少女マジカル☆レヴィアたんが相手よっ!」

 

「―――ッ!お姉さま⁉」

 

魔法少女姿の四大魔王―――セラフォルー・レヴィアタンが自前のスティックを振りかざして、周りにハートマークや星を(きら)めかせる

 

「ミルルン・ミルミル・スパイラル~☆煌めく魔法で、凶悪魔人を消滅させちゃうんだもんっ☆」

 

可愛くポージングするものの、彼女が放つ魔力は可愛らしさの欠片も無かった……

 

ファンシーなエフェクト音とは真逆の魔法攻撃が厄災(テンペスター)に降り注ぐ

 

「……ミルルン……?」

 

苛烈な魔法攻撃が特大の爆発と爆煙を生み、厄災が呑み込まれる

 

魔法攻撃を決めた当のセラフォルーは決めポーズをしていた

 

本来なら四大魔王が(みずか)ら戦線に出向く事は避けたいが、(ソーナ)LOVEのセラフォルーにはそんな通告など通用しない

 

「ソーたんを泣かせようとする悪い子は、魔法少女マジカル☆レヴィアたんがお仕置きしちゃうんだから☆」

 

「ですから、たん付けはお止めになってくださいと―――ッ⁉」

 

背筋から冷や汗が噴き出す程の怖気(おぞけ)が走り、充満していた爆煙が霧散する

 

言うまでもなく……爆煙を振り払ったのは造魔(ゾーマ)の“厄災”―――テンペスター

 

体の至るところが焦げているものの、大きなダメージは無かった

 

「お姉さまの魔力を受けて、ほぼ無傷……ッ⁉」

 

冥界でも屈指の実力を持つセラフォルー

 

そんな彼女の攻撃を受けても、厄災は致命傷すら負っていなかった

 

セラフォルーが再び身構えると、フードに隠れたテンペスターの目が妖しく光る

 

そして、フードごと自分の着ている服を荒々しく破り捨てた

 

全貌が明らかになった“厄災”は人間ではなく、獣人(じゅうじん)に近い姿をしていた

 

筋骨粒々の肉体に獅子のような(たてがみ)

 

鋭い目付きでセラフォルーを睨み、セラフォルーも負けじと指を突きつける

 

「それがあなたの正体ね?どんな相手でもレヴィアたんは負けないっ!正義の魔法を煌めかせて、厄災なんて消滅させちゃうもんっ☆」

 

ノリノリで宣言するセラフォルー

 

テンペスターは「ヒュルッ」と(つぶや)いて、複数の竜巻を生み出す

 

全ての竜巻がセラフォルーに向かっていくが、セラフォルーは自慢の魔力で竜巻を凍らせる

 

コンマ1秒後に、凍らされた竜巻の間からテンペスターが飛び出してきた

 

自分にも竜巻を纏わせ、風圧で砕いた氷を目眩ましに使い―――セラフォルーに竜巻の拳を見舞おうとする

 

セラフォルーは「とうっ!」と華麗なジャンプで攻撃を(かわ)

 

テンペスターは「ビュンッ」と素早く方向転換し、再度セラフォルーに竜巻の拳を突き出す

 

身を(よじ)って回避するセラフォルーだが、凄まじい風圧によって飛ばされる

 

空中で体勢を立て直し、魔法攻撃を放つ

 

テンペスターは「ボオッ」と極大の爆炎でセラフォルーの魔法攻撃を相殺した

 

爆煙が周りを覆い、視界が悪くなってしまう

 

「ドロリッ」

 

テンペスターは肉体を液状化させ、更に分裂してセラフォルーの死角から距離を詰める

 

爆煙のせいでテンペスターの姿を確認できないセラフォルー

 

その隙を突いて、液体となったテンペスターがセラフォルー……ではなく、ソーナを捕らえた

 

「きゃあっ!」

 

「―――ッ⁉ソーナちゃんっ⁉」

 

液体となったテンペスターはソーナの手や足、胸などに絡み付いて身体の自由を奪う

 

頭部のみを元に戻したテンペスターが、セラフォルーに忠告する

 

「四大魔王、これ程の魔力とは予想外。だが、我の回復力ならば直ぐにダメージを再生できる。普通に戦っても良いが、ここは任務を優先させてもらう。下手に抵抗するなら、コイツの命は無い」

 

テンペスターは戦法を変え、ソーナを人質にセラフォルーの動きを封じてきた

 

卑劣な手腕にセラフォルーは怒りを見せる

 

「卑怯よ……っ。私の大事なソーたんにイヤらしく絡み付いて、ヌルヌルにしようとするなんて……っ!天使と堕天使が許しても、このレヴィアたんが許さないんだからっ!」

 

「ならば……何故鼻血を出している?我の攻撃を受けた形跡は無い筈だ」

 

「お姉さま……」

 

こんな状況にもかかわらず、セラフォルーは鼻血を垂らしてちょっとワクワク顔

 

その光景にソーナは溜め息を吐いてしまい、テンペスターは疑問符を浮かべる

 

すると、突然ソーナの体に脱力感が(おとず)れてくる

 

手足に力が入らなくなり、膝から崩れてその場にへたり込む

 

「…………っ。ど、どうして……っ?急に、力が抜けていく……っ」

 

「ソーナちゃん⁉あなた、ソーたんに何をしたの⁉」

 

セラフォルーの問いにテンペスターは淡々と告げる

 

「我は相手の生命力や魔力などを吸収し、(みずか)らの呪力(じゅりょく)に変換する事が出来る。我がこのまま吸収を続ければ、この女は死ぬ」

 

「―――ッ⁉何ですって……!今すぐソーナちゃんを離してっ!じゃないと―――」

 

「我を滅ぼすか?それも良い。ならば……この女ごと我を滅ぼしてみろ」

 

テンペスターはソーナを盾にするように構える

 

こんな事をされれば、さすがのセラフォルーも手出しが出来ない……っ

 

セラフォルーは焦燥にまみれた表情でテンペスターを睨んだ

 

攻めあぐねている間にもソーナの魔力と生命力が吸われ、テンペスターの呪力が上昇していく

 

テンペスターはソーナを拘束したまま液状化している肉体を切り離し、元の獣人の姿に戻る

 

「言っただろう。お前達は我には―――“厄災”には勝てないと。―――ヒュルッ」

 

ソーナの魔力を吸収したせいか、先程よりも凶悪性を増した竜巻が複数出現し―――セラフォルーに襲い掛かっていく

 

セラフォルーは氷の魔力で再び竜巻を凍らせようとするが……強化された竜巻に魔力が呑み込まれてしまう

 

四方(しほう)から飛来してくる竜巻を飛んで回避するセラフォルー

 

しかし、その背後には既に厄災(テンペスター)が待ち構えていた

 

「…………っ!?」

 

「堕ちろ。―――ドドンッ」

 

厄災の放った衝撃波が魔王少女の背中を撃ち抜く……

 

 

―――――――――――――

 

 

「ウオォォォォォオオオオオオオッッ!」

 

「フンッ」

 

場面が変わって、厄災(テンペスター)と同じく造魔(ゾーマ)の刺客として襲撃してきた“晦冥(かいめい)”のトランザー

 

通常の鎧状態とはいえ、禁手(バランス・ブレイカー)と化した一誠を肉弾戦で追い詰めていた

 

一誠は何度も拳や蹴りを打ち込むが……トランザーの並外れた防御力の高さに苦慮し、手足からも血を流す

 

『クッソォ……ッ!硬すぎるだろ、コイツ⁉攻撃だけでもサイラオーグさん並みだってのに……!』

 

「なかなかしぶといな。丈夫さだけは一人前か」

 

「この野郎……ッ、余裕かましやがって!」

 

「実際余裕だからな。この調子だと、お前の仲間とやらも大した事が無さそうだ。弱い従者を持った(あるじ)が哀れでならん」

 

「うるせぇっ!部長を……俺達の仲間をバカにすんじゃねぇっ!」

 

激昂した一誠は背中のブーストを噴かし、トランザーに突撃していく

 

トランザーは腰を落として構え、一誠の拳に対して張り手で迎え撃つ

 

拳と張り手が衝突した刹那、トランザーは直ぐに一誠の腕を掴んで勢い任せに地面へ投げ付ける

 

一瞬の浮遊感から背中に激痛と窒息感が走り、一誠は表情を歪ませる

 

更にトランザーはそのまま回転して、自らの背面を浴びせかけるように一誠を押し潰す

 

そこから腕の(ヒレ)を利用した肘打ち

 

一誠は何とか肘打ちだけは回避し、空振(からぶ)ったトランザーの肘が地面を砕く

 

「丈夫さだけでなく、逃げるのも一人前だったか」

 

「ハァ……ハァ……ッ」

 

いくら打ち込んでも全く怯まない怪物に、一誠は畏怖せざるを得ない

 

『こんなバケモノが向こうにもいるってのか……!モタモタしてる暇は無いのに……ッ!』

 

(いきどお)りと焦りが混ざり、一誠は兜の中で歯を食い縛る

 

トランザーが肩を回しながら言う

 

「向こうの様子が気になるか?心配せずとも、直ぐに会わせてやる。お前を(ほうむ)った後で1人残らず同じ地獄へ叩き落としてやろう」

 

「そう簡単に殺られてたまるかよッッ!」

 

行かせてなるものかと一誠は再度自分の魔力を増大させ、ドラゴンの両翼を広げて飛び出していく

 

トランザーもその場を駆け出して、腕刀(わんとう)で切り裂こうとする

 

腕刀が当たる寸前、一誠はトランザーの腕を踏み台にして背後に飛び―――そこから後頭部に蹴りを入れる

 

不意を突かれたトランザーが体勢を崩し、着地した一誠は直ぐに方向転換して―――肥大化させた拳を見舞った

 

ドゴンッッ!と大きく響く打突音

 

直撃を食らったトランザーは地面を(えぐ)りながら吹き飛ぶ

 

手応えのある一撃を入れた一誠

 

だが、それでもトランザーはムクッと平然とした様子で起き上がる

 

「クリーンヒットしたのに……今のでもダメなのかよ……!?」

 

「ほう、今のは良い攻撃だったぞ。普通の者ならば失神を(まぬが)れん威力だ。まあ、オレには効かないが」

 

言い終わると直ぐにその場を駆け出すトランザー

 

一誠は迎撃の体勢を(ととの)え、迫り来るトランザーに拳を打ち込もうとしたが―――

 

パンッッ!とトランザーが目の前で自らの(てのひら)を合わせるように叩いてきた

 

相撲技の1つ―――猫騙しである

 

乾いた炸裂音に一誠は反射的に怯んでしまい、先程のお返しとばかりにトランザーが肘打ちを叩き込む

 

トランザーの(ヒレ)が一誠の腹に深々と刺さり、腹部の鎧を砕いた

 

一誠は血を吐き出して後方へ吹っ飛び、背中から倒れる

 

「コイツ、(つえ)ェ……ッ!」

 

二天龍(にてんりゅう)の一角と聞いていたが、どうやら期待外れだったようだな。―――“真の姿”を出すまでもあるまい。早急に片付けて、施設内の者も始末するか』

 

 

――――――――――――――――

 

 

再び場面を施設内に戻し、セラフォルーは苦戦を()いられていた

 

拘束されたソーナ、倒れているシトリー眷属がいる為に全力の攻撃が出来ない上、テンペスターがソーナの魔力を吸収し続けると言う悪状況

 

魔力を吸収する事によりテンペスターは呪力を上昇させ、肉体の強度も技の威力も増していく

 

力を制限しなければならない上、テンペスターの魔力吸収が続けばソーナの命も危ない……

 

『このままじゃ、ソーナちゃんが……っ』

 

テンペスターの攻撃をくらったセラフォルーは(きし)む体を起こす

 

ソーナの魔力どころか生命力も尽きかけている現状、もはや猶予は無い……

 

セラフォルーが自前のスティックを構え、特大の魔力を集中させ始める

 

「一か八かのレヴィアたんなのよっ!」

 

一瞬に勝負を賭けたセラフォルーがスティックを掲げ、氷の魔力の余波が周囲に広がっていく

 

「女ごと我を滅ぼすか」

 

テンペスターは静かにそう(つぶや)くが、セラフォルーの狙いまでは読めていなかった

 

セラフォルーの氷の魔力が徐々に高まり―――

 

「どんな状況でも諦めない、皆を救う魔法少女ミルキーに、私はなるっ!―――『零と雫の霧雪(セルシウス・クロス・トリガー)』ッッ!」

 

そう叫んだ刹那、室内の全てが瞬時に氷の世界と化し―――ソーナを捕らえていた液体も凍りつく

 

無論、それだけには留まらず……氷の魔力はテンペスターを氷塊(ひょうかい)に変えてしまった

 

まさに瞬殺(しゅんさつ)……

 

テンペスターを凍らせたセラフォルーは直ぐにソーナのもとに駆け寄り、自分の魔力を分け与える

 

呼吸が弱りかけていたソーナの顔色に生気が戻る

 

「ソーナちゃん、もう心配しなくて良いわ。悪い厄災はお姉ちゃんが凍らせてやったから☆」

 

「お姉さま……少しはご自分の心配をしてください……。そんなボロボロで……」

 

「私は良いのっ。ソーナちゃんが無事なら、こんなのどうって事ないもんっ☆―――でも、この衣装お気に入りだったのに破けちゃった……」

 

セラフォルーが意気消沈した表情で服を摘まむ

 

自身が憧れている魔法少女ミルキーの衣装は至るところが破れており、(きわ)どい格好となっていた

 

ソーナが凍結した液体(テンペスターの破片)を砕きながら言う

 

「衣装なら、また新しいのを買ってあげますから」

 

「本当っ⁉じゃあ、ソーナちゃんもお揃いで買ってくれる⁉」

 

「それは嫌です」

 

「うえぇぇぇんっ!ソーナちゃんの意地悪ぅぅぅぅぅっ!」

 

駄々をこねるセラフォルーを見て、ソーナは嘆息するものの―――姉の無事な姿に安堵する

 

椿姫達もようやく起き上がり、氷塊と化したテンペスターへの処遇をどうするか言おうとした

 

その瞬間、全身に形容しがたい怖気(おぞけ)が走る……っ!

 

視線をそちらに移すと―――氷塊にされている筈のテンペスターがソーナ達に鋭い視線を向けていた

 

そして、徐々に氷塊が震え始め……熱を帯びたように赤く変色していき―――呪力が噴き出して氷を木っ端微塵に破壊した

 

飛び散る氷の破片とマグマのような呪力がソーナ達に襲い掛かり、呪力の余波が彼女達の体と衣服を溶かそうとする

 

凄まじい余波ゆえにソーナ達は吹き飛ばされてしまい、テンペスターが地に降り立つ

 

ボゴボゴと肉体から噴きこぼれるマグマが止み、テンペスターはゆっくりと歩みを進める

 

「……お姉さまの魔力を、あんな簡単に……!?」

 

―――“厄災”―――

 

まさに生きた厄災……っ

 

ソーナは目の前の厄災(テンペスター)に戦慄と恐怖を(いだ)いた

 

セラフォルーはソーナを庇うように立つが、先程の攻撃で魔力を大量に消費してしまったので―――呼吸が乱れている……

 

『さすがにちょっとヤバい……。魔法少女ミルキー、最大のピンチを迎えちゃったかも……』

 

セラフォルー自身もテンペスターの規格外過ぎる力に冷や汗を流す

 

そんな事などお構い無しに目の前の“厄災”は再び「ヒュルッ」と呟き、自分の両腕に竜巻を纏わせる

 

「堕ちろ、闇の彼方へ」

 

竜巻の両腕でセラフォルーを薙ぎ払おうとした刹那、背後からドンッッ!と壁が吹き飛び―――火竜がテンペスターに食らい付く

 

セラフォルーから距離を離されたテンペスターだが、直ぐに竜巻の両腕で火竜を消し去る

 

テンペスターは直ぐに敵意の視線を、破壊された壁の方に向ける

 

そこには―――既に鎧を展開した新が(たたず)んでいた

 

ようやく新が戻ってきた事に安堵しかけるが……

 

『……?新くん、先程よりも様子がおかしい……。ここを離れてる間に、何か遭った……?』

 

ソーナは新の様子がおかしい事に気付いた

 

戻ってきた新はさっきよりも険しい顔付きとなっており、怒りの色がより濃く見える

 

「貴様、何者だ?」

 

テンペスターが問い掛けるも、新は「うるせぇ」と一蹴(いっしゅう)して足を進める

 

殺気を(はら)んだ視線を“厄災”に向け、火竜を両腕に纏わせながら告げた

 

「テメェが誰だか知らねぇけど、ソッコーで片付けさせてもらうぜ。今の俺は虫の居所(いどころ)が悪いからな……ッ!」

 

「“厄災”に歯向かうとは愚かな奴だ。貴様も闇の彼方へ堕ちろ」

 

静かに敵意を燃やす厄災(テンペスター)と、今にも爆発しそうな様子の新

 

相反する感情が施設内に渦巻く……




次回は新VSテンペスターの回になります!


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