ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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また更新に長引いてしまいました……


晦冥(かいめい)厄災(やくさい)の襲来

「「「「各地で三大勢力の拠点が襲撃されている⁉」」」」」

 

翌日の放課後、アザゼルから開口一番にそう言われたグレモリー眷属とシトリー眷属が口を揃えて驚愕する

 

実はここ数日で人間界、冥界問わず三大勢力の拠点が次々と襲撃を受け、制圧されているらしい

 

襲撃の実行犯は言うまでもなく……造魔(ゾーマ)によるものだった

 

本隊だけでなく、傘下組織も荷担している為か―――被害は拡大の一途を辿っていた

 

「特に酷いのは人間界に潜伏している議員クラスが管理している拠点だ。隣接地帯にまで被害が及んでやがる……」

 

「その地点の襲撃は造魔(ゾーマ)の幹部クラスが(おこな)っているわけね?」

 

リアスがそう訊くと、アザゼルは何故か(いぶかし)しげな表情で話し始める

 

「それがな、造魔(ゾーマ)である事には違いないんだが……どうも幹部連中じゃないらしいんだ」

 

「……?どういう事?」

 

「前に映像で見た造魔(ゾーマ)の幹部とは似ても似つかぬ様相だったと目撃証言が出ている。ただ確固として言えるのは……そいつらも幹部どもと同じくバケモノ染みた強さだって事だ」

 

「そ、それじゃあ、今の造魔(ゾーマ)には……そいつら含めてバケモノみたいな連中が14人もいるって事スか⁉」

 

あまりにも突然過ぎる敵戦力の増強に一誠は声を荒らげ、アザゼルも苦虫を噛み潰したような顔付きとなる

 

「“()”を“造る”組織―――造魔(ゾーマ)か……。首謀者はキリヒコ辺りか……?ヤツもあの反則能力を造ったと言い張ってるぐらいだしな。……クソッ、いつまでも先手を打たれていたらジリ貧だ……!」

 

アザゼルは直ぐに映像用の魔法陣を展開し、造魔(ゾーマ)の次なる襲撃ポイントを考察しようとする

 

しかし、三大勢力の拠点は数多くある為、どの地点に行けば良いのか予測できない

 

アザゼルだけでなく、リアスやソーナも頭を悩ませた

 

そんな時、通信用の魔法陣がアザゼルの前に出現する

 

通信の主は四大魔王の1人―――アジュカ・ベルゼブブだった

 

「アジュカか。何か情報は掴めたのか?」

 

『かなり気が立っているようだな。……まあ、苛立つのも無理はない。これだけ大々的に拠点を潰されてるからな。だが、こちらもやられっぱなしで黙るつもりは無い。造魔(ゾーマ)が次に襲撃しそうな拠点を突き止めてきた』

 

「そいつぁ吉報じゃねえか。で、次の襲撃予定は何処なんだ?」

 

アザゼルがそう言うと、アジュカは映像用の魔法陣を映し出し―――造魔(ゾーマ)が次に襲撃すると(おぼ)しき拠点を表示する

 

そこは勿論(もちろん)三大勢力が管理しており、重要な拠点の1つでもある

 

造魔(ゾーマ)が次に襲撃する確率が高いのはそこだ。その施設には稀少な金属が貯蔵されている。恐らく、武器の製造に必要な資材や情報収集の為に各拠点を襲撃していたのだろう。あと考えられるのは―――土地その物を手中に収める為かもしれない』

 

「土地を手に入れる?その目的は?」

 

『それも予測に過ぎないが……武器製造の他に密輸や密入国ルートを確保するのが襲撃の(おも)な狙いだろう。三大勢力の拠点を制圧しつつ、侵入経路を複数作り上げる。そうする事によって絶え間無くそちら側に潜入、襲撃しやすくなる』

 

「こっちの戦力は削ぎ落とされ、向こうは情報や資金と共に侵入経路を確保。更には刺客を堂々と送り込めるってわけか……クソッタレ……!」

 

アジュカの推測した造魔(ゾーマ)の目的にアザゼルは舌打ちをする

 

ともあれ、襲撃予定地点が判明しただけでも対処し(やす)くなったのは事実

 

『襲撃決行は今夜だろう。……アザゼル』

 

「ああ、分かっている。少しでも奴らの情報を持ち帰らねえと割に合わん。造魔(ゾーマ)の生意気な鼻っ柱をへし折ってやる」

 

アジュカからの通信が切れた直後、アザゼルは皆の方を向いて告げる

 

「聞いての通りだ。今夜、造魔(ゾーマ)の連中が襲撃してくる。どんな奴らが来るかはまだ分からんが、1人残らず取っ捕まえる気合で行くぞ!お前ら、気を抜くなよ!」

 

アザゼルの言葉に全員が気合を入れた

 

 

――――――――――――――――

 

 

時刻は深夜帯を回り、新達は襲撃予定地点の警護に当たっていた

 

施設を囲うようにグレモリー眷属が方々(ほうぼう)へ配置され、施設内の部屋にはシトリー眷属と新が配置される

 

特に新と一誠はグレモリー眷属の中でもトップクラスの実力なので―――施設外部の警備を一誠に、内部の警備を新に振り分けさせた

 

そして、更に今回は超強力な助っ人がいるのだが……

 

「……どうして、お姉さまがいらっしゃるのですか……?」

 

「ソーナちゃんがいるところに、お姉ちゃん有りだもんっ!安心してね?造魔(ゾーマ)なんて危険なヒト達はお姉ちゃんのきらめくスティックで滅ぼしちゃうんだから☆」

 

そう、アザゼルが呼んだ助っ人とは―――四大魔王の1人でソーナLOVEの魔王少女セラフォルー・レヴィアタンでした……

 

確かにこれ以上頼もしいものは無い助っ人なのだが、ソーナにとってはありがた迷惑な話だった

 

新はそんな様子を眺めつつ下の階層へ向かおうとするが、セラフォルーに呼び止められる

 

「あれれ?新くん、何処に行くの?」

 

「下の階層を見て回ってくる。さっきから……何か匂うんだよな」

 

「もうっ、女の子に向かってそんな言い方しちゃダメよっ。ソーナちゃんも私も、椿姫(つばき)ちゃん達も汗臭くなんかないもんっ」

 

「いや、そういう意味じゃなくて……。何つーか、嫌な匂いがしてくるんだよ。それも―――とてつもなく嫌な予感をさせる匂いだ……」

 

新が渋い顔付きで言う

 

やはり昼休みで見た“夢”の事が気になってしまうのか、終始落ち着かなかった

 

「ソーナ、とりあえず俺は下の階層を一通り見て回ってくる。何かあったら通信で呼び出してくれ」

 

「ええ、分かりました。気を付けてくださいね、新くん」

 

そう言うと新は部屋を出て、下の階層へ続く階段を降りていく

 

ソーナはいつもと違う雰囲気に包まれた新の背中を無言で見届けていた

 

『……何でしょうね、いつもの新くんと少し様子が違う……。まるで―――何かに(おび)えているような……』

 

 

―――――――――――――

 

 

下の階層を散策中の新は、昼休みから終始浮かない表情をしていた

 

……と言うのも、立て続けに造魔(ゾーマ)からの痛手を(こうむ)っているので無理は無い

 

デスゲーム『クロニクル』、シド・ヴァルディの強化、ユナイト・クロノス・キリヒコの降誕

 

ただでさえ頭を悩ませる事態が多発しているのに、加えて“嫌な夢”を見る始末……

 

新の表情は(ゆが)むばかりだった

 

『嫌な予感とか(わざわ)いってのは立て続けに、それも理不尽に降りかかってくるものだって誰かが言ってたよな……。―――って、これじゃあ“アイツ”と同じじゃねぇか……っ』

 

思い出したくもない事を思い出してしまった新は、忘れろと言わんばかりに頭を振り乱す

 

気分を(まぎ)らせる為に孤独のストレッチ

を始める―――その直後、新の全身に怖気(おぞけ)が走った

 

しかも、それは彼にとって忘れ(がた)い気配だった……

 

『……ッッ!この気配……心臓まで握り潰してくるような寒気……ッ!まさか……アイツがここに来ている……⁉』

 

信じたくないと願いながらも、ゆっくりと怖気の発生源がいると思われる方に視線を移す

 

下の階へと続く階段から“何者か”が上がってきている……

 

1歩、また1歩と近付いてくる(たび)に新の呼吸が落ち着かなくなり、震えも止まらない

 

そして、その者が遂に―――新の前に姿を見せた

 

青いコートを羽織り、右目を眼帯で(おお)った某“独眼竜”の風体(ふうてい)をした男

 

新は目を見開いて茫然自失のまま立ち尽くし、眼帯の男はニヒルな笑みを浮かべて言う

 

「久しぶりだな、竜の字。少し見ねぇ内に老けたんじゃねぇか?」

 

「な……なんで……っ、なんでお前が……⁉」

 

信じられなかった……

 

夢であって欲しかった……

 

死んでも出くわしたくなかった……

 

そんな思いが新の頭の中を掻き乱し、平静さを奪い取る

 

眼帯の男が数歩進み、足を止めて告げる

 

「やっぱ俺達は何処まで行こうと平行線のように腐れ縁が切れねぇらしいな。決して交わる事が()ぇのに、すぐ近くに居やがる。どれだけ月日が流れようとも、いつかは必ず遭遇しちまう。世の中ってヤツぁ本当に理不尽に出来てるよな」

 

「……理不尽の権化がそれを言うのかよ……ッ。いや、それ以前に―――なんでお前がここにいるんだ⁉」

 

「おいおい、そう目くじら立てんじゃねぇよ。懐かしい顔触れにちょっくら挨拶しに来ただけだ。それに―――造魔(ゾーマ)っつったっけ?ウチの(モン)が世話になったらしいじゃねぇか。まあ、これからも世話になるけどな」

 

―――“造魔(ゾーマ)”―――

 

それを聞いて新は耳を疑った

 

何故この男が造魔(ゾーマ)の名を口に出したのか……?

 

思慮を巡らせた結果―――最悪の答えに行き着いてしまった……

 

「……お前……っ、まさか……ッ⁉」

 

「ああ、言ってなかったか?今の俺ァ造魔(ゾーマ)って組織の纏め役やってんだよ。いや、“やってる”って言うより“なっちまった”って言った方が正しいか。好き勝手にやってたら自然にそうなっちまったんだよ」

 

「……最悪じゃねぇか……ッッ!」

 

「おいおい、こんくらいで最悪とか言ってたら身が()たねぇぞ?」

 

「お前の存在その物が最悪なんだよ……ッッ!お前は周りの奴まで、それこそ関係の無い奴まで戦渦(せんか)に巻き込む―――理不尽と最悪の権化だ……!」

 

「前にも言ったろ?災いや戦渦ってのは理不尽に、立て続けに起こるモンだって。そいつに(あらが)えねぇようじゃ、この世界で生き残れやしねぇんだよ」

 

新の悪態に全く動じず、いけしゃあしゃあと返し続ける眼帯の男

 

そして、新はギリリと歯を食い縛った後―――憎々しげに言った

 

「変わってねぇよな……その考え、その理不尽さ……!昔から何も変わっちゃいねぇ……ッ!また俺の周りを壊し続けるのか……ッ⁉―――バサラ・クレイオス……ッッ!」

 

新は眼前に現れた造魔(ゾーマ)の首領の名を叫んだ

 

―――“バサラ・クレイオス”―――

 

新にとって最も忌まわしい男が、よりにもよって危険な組織のトップとなっていた……

 

眼帯の男―――バサラ・クレイオスは口の端を吊り上げ、再び言う

 

「簡単に壊れちまうような奴ァ最初から()ェのと同じだ。そいつを擁護するような言い方からすると、テメェの今いる環境はよっぽど平和ボケしてるみてぇだな」

 

「平和ボケ、だと……ッ!」

 

「ああ、力を持った奴はまともな生き方なんて出来ねぇ。力を持てば、知らず知らずに寄ってきやがる。敵だろうと何だろうとな。なのに、テメェらは平和に生きたいとかほざいてやがる。そんなもんは―――ただの幻想に過ぎねぇ。否応(いやおう)なしに戦渦に巻き込まれるのが世の常だ。生き残りてぇなら強くなるしかねぇ……強くなりたきゃ生き残るしかねぇ。それが現実ってヤツだ。夢だの理想だの平和だの、んなもんばっか追い求めてたら―――腐り落ちるぜ?」

 

「……相変わらず極論だな……っ。平和を忌み嫌う典型的な戦争野郎の言い草だ……ッ!」

 

「戦うのが悪か?強くなる事が悪か?んなもん誰が決めた?俺は俺のやりたいように生きるだけだ。それが俺のライフスタイル、生き様ってヤツよ。誇りも尊厳も信念も捨てて生きるような奴ァ、ただの家畜だ。だから……俺はテメェらの平和主義を否定する。これから先の戦渦に耐えられるかどうか、俺が試してやるよ。まずは―――前菜を(おご)ってやるぜ」

 

そう言うとバサラは(ふところ)からスイッチのような器具を取り出し、親指でボタンを押す

 

その刹那、外の方で大量の転移型魔法陣が開かれ、中から大勢の人影が降ってくる

 

それを見た新は仰天し、直ぐにバサラの方を向く

 

「バサラ!今なにをした⁉」

 

「慌てんなよ、俺達に協力する連中を向かわせただけだ。テメェらがそれぞれ警備してるポイントに送り込んでやった。これぐらいは退(しりぞ)けてくれねぇと張り合いが()ぇよ」

 

「テメェ……ッッ!」

 

「おっと、竜の字。助けに行こうなんてシラケる真似はすんなよ?せっかくお膳立てしてやった戦い(パーティ)なんだ、派手にやらせてやれよ。テメェが行くってんなら―――俺はこの中で好き勝手に暴れさせてもらうぜ。それでも良いのか?」

 

「……!そうか……お前は俺を足止めする為に……ッ!」

 

新はバサラの目論見(もくろみ)に気付いたが……既に遅し

 

新がこの場を離れれば、バサラは直ぐにでもソーナ達の所に向かうだろう

 

この男の恐ろしさ、身勝手さ、性質(タチ)の悪さを嫌と言うほど知っている新は身動きが取れなくなってしまった

 

一誠やリアス達に造魔(ゾーマ)の洗礼が降りかかる……

 

 

―――――――――――――――

 

 

場面が変わって、施設の東門前

 

そこの警備を担当するリアス、朱乃、アザゼルは急襲してきた造魔(ゾーマ)傘下の兵達相手に応戦していた

 

アーシアとレイヴェルは後方にて支援と回復に徹しており、アザゼルが用意した簡易結界が攻撃の飛び火を防いでいた

 

造魔(ゾーマ)傘下の兵達は人間の他にも獣人(じゅうじん)等が多数混ざっており、その数はここだけでも1000人以上いる

 

リアスは消滅魔力の塊を、朱乃は雷光を放って空の敵を撃ち落とし、アザゼルは光の槍で地上の敵を撃破していく

 

「いきなりこんな大群で攻めてくるとはな!だが、大量の敵を相手にするのが得意なお姫さま2人―――相手が悪かったな!」

 

「私達を侮辱し続けた事を後悔させてあげるわッ!」

 

「覚悟はよろしいですわね?」

 

アザゼルの言う通り、リアスと朱乃は範囲攻撃メインなので大群相手には打ってつけだった

 

しかし、相手も負けておらず……生半可な攻撃では倒れやしない

 

少なくとも中級から上級悪魔クラスの強さを持っているのだろう

 

『恐らく今頃はイッセー達の方にも造魔(ゾーマ)の連中が押し掛けているだろうな……。兵隊クラスでも結構な強さだ、幹部クラスの奴らが来たら少数で相手するには危険過ぎる……。とにかく、この場を速攻で片付けて加勢しに行かねぇと……!』

 

 

――――――――――――

 

 

西門エリア、ここを警備しているのは祐斗、ゼノヴィア、イリナの3人

 

三者はそれぞれの得物で襲い掛かってくる造魔(ゾーマ)の兵達を斬り伏せていた

 

祐斗は自慢の速度で立ち回りながら敵を斬り、ゼノヴィアはデュランダルのパワーで一挙に薙ぎ払う

 

イリナも光の攻撃で牽制しながら量産型聖魔剣(せいまけん)で敵を斬り払った

 

(しばら)くすると、サーベルを(たずさ)えた男が前に出てくる

 

恐らく、この兵隊達のリーダー的な役割だろう

 

鞘からサーベルを引き抜き、切っ先を祐斗達に向ける

 

「かの有名な聖魔剣(せいまけん)、デュランダルの使い手と剣を交えられるとは、私も運が良い。是非お手合わせ願おうか」

 

「ゼノヴィア、イリナさん。彼は僕が引き受けよう。周りの連中は任せても良いかい?」

 

「分かった、ザコは任せてくれ」

 

「オッケーよ!」

 

ゼノヴィアとイリナは周りの敵を討伐しに行き、祐斗はサーベル男の前に立つ

 

それぞれが得物を構え、一瞬の静寂が流れる……

 

刹那、サーベル男は目にも留まらぬ速さで連続の突きを繰り出してきた

 

しかも、ただの突きではなく―――回避し続ける祐斗の周りを削る程の突き……

 

「ほう、私の突きを(かわ)すだけでも驚異的な速さだ。しかし、さすがに踏み込めないと見える」

 

「驚きましたよ。まさか、これ程の剣士がいるなんて」

 

「私も造魔(ゾーマ)の中では単なる兵隊の1人に過ぎないが、それでも君達のような上級悪魔クラス相手にも渡り合える。油断はしない方が良い」

 

「そのようですね。それでも、ここを通しませんよ。僕達にも心強い仲間がいるんでね」

 

祐斗は聖魔剣を聖剣にチェンジし、禁手(バランス・ブレイカー)の龍騎士団を出現させる

 

全ての龍騎士が剣を構え、サーベル男を取り囲む

 

四方八方から攻めてくる龍騎士に対し、サーベル男は鞘も使った二刀流で突き崩す

 

全ての龍騎士を突きで倒し、残された祐斗にも突きを放つ

 

ドズッ!と切っ先が刺さり、サーベル男はニヤリと笑むが―――

 

「……ッ⁉」

 

サーベル男は仰天していた

 

何故なら……刺した筈の祐斗の体が徐々に透けていき、遂には消えてしまったからだ

 

驚愕に包まれる中、倒された龍騎士の1体が起き上がり―――その場を駆け出す

 

「―――ッ!しまった!」

 

目の前の祐斗が魔力で作られた偽者(フェイク)だと気付いたサーベル男は、直ぐに反転して龍騎士のフリをしていた祐斗に突きを繰り出そうとする

 

しかし、コンマ1秒の差で祐斗がサーベル男の腹を斬り払った

 

サーベル男は口から血を吐き、龍騎士の兜を外した祐斗が告げる

 

「あなたの剣の腕も素晴らしいものでした。出来れば、もっと違う形で剣を交えかった」

 

「ふふ……っ、見事だ……。若いのに大したものだよ……」

 

サーベル男は満足げな表情で倒れ伏し、意識を失った

 

 

――――――――――――――

 

 

南門エリア、ここでは小猫とロスヴァイセが豪快に立ち回っていた

 

猫又モードと化した小猫が打撃で敵を打ち倒していき、ロスヴァイセが魔術砲撃で遠距離から敵を倒していく

 

グレモリー眷属の強さに造魔(ゾーマ)の兵達は驚きの声音を上げる

 

「くそっ、こいつら強すぎんだろ⁉」

 

「こんなチビ相手に―――ブゲァァッ!」

 

「……チビって言った人、もう1回殴ります」

 

「いや、俺は(むし)ろちっぱいが好―――アベシッ!」

 

「……変態も殴ります」

 

「じゃあ、俺の事はお兄ちゃんと呼んで欲し―――ダムルグッ!」

 

「……ツラい(精神的に)」

 

「小猫さん、随分と荒れてますね……」

 

どうやら、ここには変態どもが集まっていたようだ……

 

小猫は不快感を明らかにして敵兵を殴り倒すのだが、きっと終わる頃には心身ともに疲弊しているだろう……

 

 

――――――――――――――

 

 

北門エリア、ここを警備する一誠も皆と同じく造魔(ゾーマ)の軍勢と対峙していた

 

「……俺、1番のハズレを引いちゃったかも……っ」

 

悲壮な表情で(つぶや)く一誠

 

彼の眼前には―――水晶のような輝きを放つ異形が大勢飛来していた

 

背中には羽根らしき物が生え、様々な種類の敵が確認できる

 

球体のボディに裂けた口だけが存在するタイプや、光の剣を(たずさ)えた騎士のようなタイプ、更には杖のような武器を携行したタイプがいる

 

聖なる力や光の攻撃は悪魔にとって猛毒

 

一誠は冷や汗を流しながら目の前の大群と対峙する

 

その時、異形の大群の中から何者かが降りてくる

 

「邪魔は許さないゾ、悪魔の子。邪魔するなら―――天使が裁いちゃうゾ♪」

 

飄々(ひょうひょう)とした声音を発したのは、どうやら女性のようだ

 

それだけでも一誠にとっては嬉しい情報だが、更に嬉しい事に―――その女性はとてつもない露出度の服装をしていた

 

最低限の部分、胸元と下半身のみをフワフワした羽のような衣装で隠しているものの……胸元は大きく開いており、太股(ふともも)もかなり露出している

 

水色がかった長い銀髪に黒いリボン、輪っかを形作ったアホ毛

 

奇抜な格好をした女性が地面に降り立つと、ウインクしながら言う

 

「ワタシの可愛い天使達が月に代わってお仕置きしちゃうゾ♪」

 

『……この女性(ひと)、めっちゃエロい格好してんな!おっぱいもデケェ!しかもアレ、ほぼ裸みたいな衣装だぞ⁉エロいお仕置きだったら受けてみたいかも……っ!』

 

一誠はだらしなく鼻の下を伸ばしてエロい顔付きになる……

 

顔芸満載のエロ顔で凝視する一誠に、謎の女性は不敵な笑みを見せる

 

「キミが噂の赤龍帝(せきりゅうてい)―――いや、乳龍帝(ちちりゅうてい)かな?女の乳を食べたり飲んだりして戦うって聞いてるゾ」

 

「酷い噂が立ってるな⁉俺ってそんな認識されてるの⁉てか、俺はおっぱいを食べたり飲んだりしない!」

 

「じゃあ、どうしたいんだゾ?」

 

「揉んで吸いたい!……って、何言わせるんだ⁉」

 

「アハハハッ、キミって面白いゾ♪」

 

銀髪の女性は可愛く笑い、一誠は顔を赤くしてしまう

 

しかし、この女性も造魔(ゾーマ)の一員

 

油断は出来ない……

 

銀髪の女性が胸元から硬貨(コイン)を取り出す

 

「ワタシはこれからやらなきゃいけないお仕事があるんだゾ。悪いけど……邪魔するなら容赦しないゾ」

 

そう言って女性は手元のコインを複数枚投げる

 

すると、投げたコインが輝き始め―――周りの異形と同じ怪物が生み出された

 

その光景に一誠は驚愕する

 

「コ、コインが怪物に変わった⁉」

 

「失礼だなっ、怪物じゃないゾ。この子達はワタシが生み出した―――天使だゾ」

 

「これが天使っ⁉こんなバケモノみたいな天使がいるのか⁉」

 

「正確には“ほぼ天使”だゾ。これはコインをコストに様々な天使を創れる神器(セイクリッド・ギア)―――『天使創造(シンセティック・エンジェライズ)』。まさにワタシに相応(ふさわ)しい神器(セイクリッド・ギア)だゾ」

 

天使を創る神器(セイクリッド・ギア)……

 

造魔(ゾーマ)の幅広い戦力に一誠は当惑するが、相手が女性なので何とかいけるかもしれないと気合を入れ直す

 

直ぐに禁手(バランス・ブレイカー)の鎧を身に纏い、銀髪の女性が創った天使軍団と改めて対峙する

 

「さあ、ワタシの可愛い天使達。このソラノ・アンジェルに勝利をもたらすんだゾ」

 

銀髪の女性―――ソラノ・アンジェルが指を突きつけると同時に天使軍団が突撃していく

 

『……ん?“アンジェル”?……何処かで聞いた事がある名前のような―――』

 

一誠はふと違和感を覚えたが、天使軍団の猛攻が迫ってきた為、考えを中断する

 

騎士型の天使達は光の剣を振るい、杖を携行した天使達は遠距離から光線を放つ

 

球体型の天使は一誠の周りを飛び交い、鋭い牙で噛みつこうとしてくる

 

一誠は天使軍団の攻撃を回避しつつ、拳や蹴り、ドラゴンショット等で天使達を倒していく

 

しかし、倒しても倒してもソラノが次々と新たな天使を創り出すので数を減らせない……

 

そこで一誠は天使軍団の根源を狙う事にした

 

「女性相手なら必勝の策がある!いくぜ―――乳語翻訳(パイリンガル)ッッ!」

 

一誠は溜めた魔力を解放し、謎の夢空間を生み出した

 

ソラノを射程距離に(とら)え、すかさずソラノのおっぱいに(たず)ねる

 

「さあ、エロいお姉さんのおっぱいちゃん!何を考えてるのか教えてくれ!」

 

“これで決まった!”と気持ちを(たかぶ)らせる一誠だが、彼女のおっぱいから聞こえてきたのは―――

 

 

―――“妹を……助けて……っ”―――

 

 

「…………え……っ?」

 

思わぬ言葉に一誠は当惑し、一瞬動きを止めてしまう

 

ソラノのおっぱいから発せられた悲痛な叫び……

 

いったいどういう事なのか?

 

一誠は思いきって真意を訊いてみる事にした

 

「あのー、聞いても良いスか?」

 

「うん?何だゾ?ワタシのスリーサイズでも知りたいのか?」

 

「アンタ、妹さんを助ける為に……こんな事をしてるのか?」

 

一誠の指摘にソラノの表情が陰りを見せ、それに呼応するように天使軍団の動きも止まる

 

「……お前、人のプライバシーにズカズカと踏み込んでくるのは悪い事だゾ。気を付けないと嫌われるゾ」

 

「すんません……。でも、アンタのおっぱいが―――いや、あなた自身が助けを求めてるんじゃないのか?本当はこんな事したくないのに、妹さんを助ける為に……」

 

黙り込むソラノを見て、一誠は確信を(いだ)

 

ソラノは(みずか)ら望んだわけではなく、強制されているのだと……

 

一誠は説得を(こころ)みる

 

「その妹さんを助けたいんだろ?だったら、俺達が協力する!俺達が妹さんを助けるから―――」

 

「……無理だゾ。妹とは幼い頃に生き別れたから居所(いどころ)を知らない……。でも、造魔(ゾーマ)の連中が見つけたって言って、ワタシに話を持ち掛けてきたんだゾ。『協力するなら妹の命は保証してやる。ただし、断れば即座に殺す』と……」

 

(しお)れた表情で一誠の説得を許否するソラノ

 

彼女もきっと本心では妹を助けてもらいたいのだが、背後に造魔(ゾーマ)が控えてるゆえに逆らう事が出来ないのだろう

 

ましてや、身内の命を狙われているなら尚更……

 

「結局ワタシは従う他ないんだゾ……。造魔(ゾーマ)(あらかじ)め退路を絶ってから、協力体制を持ち掛けてくる……。最初から選択肢なんて存在しないんだゾ……。だから、どう足掻(あが)いても逃げられないゾ……。妹が―――ユキノが無事でいられる為には、こうするしか……」

 

「―――っ?ちょっと待った。今、“ユキノ”って言わなかったか?」

 

「……?そうだゾ。―――ユキノ・アンジェル、それがワタシの妹の名だゾ」

 

「……ッ!やっぱり、そうか!何か聞き覚えのある名前だなぁと思ったら―――アンタ、ユキノさんのお姉さんだったのか!」

 

「―――ッ⁉ユキノを知ってるのか⁉」

 

思わぬ好機を得た一誠はユキノとの接点をソラノに打ち明けた

 

ユキノが現在グリゴリの管理下に置かれ、無事である事を伝えると……ソラノは歓喜の涙を流し、戦闘の意思を消してくれた

 

生み出した天使軍団をコインに戻し、その場に座り込む

 

「良かった……良かったゾ……。ユキノは無事なんだな……」

 

「ああ、大丈夫っスよ。これでもうアンタがこんな事をする理由は無い筈だ」

 

「……でも、ワタシが裏切れば造魔(ゾーマ)の連中が黙っていないゾ?奴らは敵対する者は欠片も残さないぐらい徹底的に潰してくる、血も涙も無い連中だゾ……」

 

「そんなの関係ねぇ!俺が、俺達がブッ飛ばす!相手が誰だろうと―――俺がユキノさんを守ります!」

 

一誠の力強い台詞にソラノは次第に心を開き、涙を指で(ぬぐ)って「……ありがとう……ありがとう……」と何度も繰り返す

 

妙な形ではあるが、とにかくこの場を切り抜けた―――と思ったその矢先……

 

「念の為にと来てみれば、戦わずに和解か。反吐(ヘド)が出る展開だ」

 

突如、何者かの声音と共に重厚なプレッシャーが襲ってくる

 

その方向へ顔を向けると―――そこには造魔(ゾーマ)の刺客らしき異形が歩いてきた

 

ズシ……ズシ……と重く鈍い足音を鳴らし近付いてくるのは―――赤紫色の体皮に(おお)われ、頭部と太い両腕に刃のような鋭いヒレを生やした大柄なサメ型の魚人(ぎょじん)

 

サメ男が放つ異様な重圧に一誠は思わずたじろいだ

 

「な……何だコイツ……!とんでもなく邪悪なオーラに満ちてやがる……ッ!何なんだ、お前は⁉」

 

造魔(ゾーマ)先兵(せんぺい)、“晦冥(かいめい)”のトランザーと呼ばれている」

 

聞いた事の無い名前だが、造魔(ゾーマ)である事には違いない

 

恐らく、このトランザーと言う男は三大勢力の拠点を潰し回っている(やから)の1人だろう

 

淡々と名乗りを終えたトランザーは―――瞬時に距離を詰め、ソラノ目掛けて太い右腕に生えた(ヒレ)を振り下ろす

 

「―――ッ⁉」

 

一誠は咄嗟に横っ飛びでソラノを救出

 

トランザーの刃は空を斬り、そのまま地面を叩き割った

 

「あっぶねぇ……!大丈夫か⁉」

 

「へ、平気だゾ。ちょっと服が破れただけだゾ」

 

先程の風圧によるものか、ただでさえ露出度の高いソラノの服が破れ―――おっぱいが丸出しになっていた

 

たわわな果実を直視した一誠はお馴染みの顔芸となる

 

「ウホッ♪良いおっぱい♪」

 

「……キミって顔が面白いゾ」

 

「よく言われま―――ッ⁉」

 

一誠は背後から迫ってくる殺気を感じ取り、振り向き様に拳打を放つ

 

ガキンッ!と一誠の拳がトランザーの刃と衝突し、風圧が周りの地面を(えぐ)

 

防いだだけでも拳が(しび)れ、衝撃が骨に染み渡ってくる……!

 

「ほう、オレの腕刀(わんとう)を受けきるか。赤龍帝(せきりゅうてい)の名は伊達ではないようだな」

 

「テメェ……いきなりこの女性(ひと)を狙いやがって……ッ!」

 

「何がおかしい?弱い奴を先に片付けておくのは戦闘の基本だろう。余計な邪魔をしなければ一撃で死なせてやれたものを。和解なんぞした今、この女はもはや敵対者でしかない」

 

「ふざけんな!人質を取って無理矢理こんな事させやがったくせに!」

 

「人質?ああ、そんな話もあったな。だが、それは指揮官とキリヒコが進言した事だ。オレには関係無い」

 

悪びれる様子を微塵も見せないトランザーに、一誠は怒り心頭で拳を叩き込もうとする

 

トランザーは冷徹に一誠の拳打を太い両腕で(さば)いていく

 

重く鈍い打撃音が(しばら)く鳴り響き、トランザーは(みずか)らの体を弓なりに反らし―――頭部の(ヒレ)を介した頭突きを繰り出す

 

一誠は負けじとオーラを高めた拳打で対抗

 

ガゴンッ!と衝突し合う音が鳴り、トランザーが地面を滑るように(わだち)を刻みながら後方へ下がる

 

首をゴキッと鳴らすトランザーは表情を一切変えず、逆に拳を痛めた一誠は苦悶の声を漏らす

 

「ぐ……っ!ちくしょう……ッ、何なんだ、コイツの体は……ッ⁉硬すぎる……っ!まるで鋼鉄の塊を殴ってるみたいだ……!」

 

「フン、オレの強さにお前が泣いたか。涙を拭きたければ今の内に拭いておけ」

 

「誰が泣くかよ……ッ!」

 

一誠は魔力を高め、増大させたドラゴンショットを(てのひら)から解き放つ

 

向かってくる赤い奔流に対し、トランザーは―――その場を動く事無く両腕の(ヒレ)容易(たやす)く切り裂いた

 

呆気なくドラゴンショットを霧散させられ、驚愕する一誠

 

トランザーが嘆息して言う

 

「つまらんな。赤龍帝(せきりゅうてい)―――ドラゴンの名を(かん)するから、どれ程のモノかと思えば……大した強さではなかったか」

 

「何だと……ッ!」

 

「人間界の(ことわざ)では、こう言うらしいな。―――“弱い犬ほど、よく吠える”と。この場合は“弱い龍”だがな」

 

淡々と見下してくるトランザー

 

自尊心を(いちじる)しく傷付けられた一誠は怒りに震える

 

それを見て、トランザーは更に嘆息した

 

「安い挑発にすぐ乗せられる、それもお前達の愚かな部分だ。現に(ふところ)に潜り込まれている事にも気付いておらん」

 

「……っ⁉どういう事だよ⁉」

 

「分からんのか?お前達が必死に守っている後ろの施設、その内部には既にもう1人―――“厄災(やくさい)”が紛れ込んでいる。外部で派手に攻めれば、その分だけ意識がこちら側に集中する。お前達はまんまと策に()まったんだ」

 

なんと、施設内には既に造魔(ゾーマ)の刺客が入り込んでいた……!

 

つまり、外部からの襲撃は陽動

 

主戦力を外で足止め、内部より崩すのが奴らの目的だったのだ……

 

またも造魔(ゾーマ)の思惑通りに運ばされた事に、一誠は憤慨する

 

「この野郎……ッ!」

 

「中に何人残っているかは知らんが、それでも終わるだろう。いずれにしろ、中の者は滅びる。―――“厄災”の手に掛かってな」

 

 

―――――――――――

 

 

「……新くん、遅いですね」

 

その頃、内部を警備中のソーナ達は戻ってこない新を案じてソワソワしていた

 

落ち着かない様子のソーナに、セラフォルーが小声で言う

 

『ソーナちゃん、もしかして新くんの事が心配っ?』

 

『い、いえ、そういうわけではありません。ただ……彼の様子がいつもと違っていたので、不審に思っただけです』

 

『ウフフッ♪ソーナちゃんってば、ジ~ッと新くんを見つめていたのね☆』

 

「……ッ!もうっ、お姉さま!こんな時に茶化さないでくださいっ!」

 

「あぁっ、そんなソーナちゃんも可愛い~!」

 

セラフォルーはソーナに頬擦りし、ソーナは先程の指摘に顔を真っ赤にしながらセラフォルーを引き離そうとする

 

結局、シトリー眷属総出でセラフォルーを引き離し……警戒の方へと意識を集中させた

 

その直後、扉の開く音が聞こえてくる

 

「やっと戻ってきたのか。おい、竜崎!あんまり会長や俺達に迷惑をかけるんじゃ―――」

 

そこまで言いかけた匙だったが、途中で言葉を止める

 

理由は当然―――そこに現れたのが新ではなかったからだ……

 

フードを目深に(かぶ)り、顔は確認できないが異様な気配を発している男

 

如何(いか)にも怪しげな雰囲気を滲み出している男に対し、ソーナが問いかける

 

「あなた、何者ですか?」

 

「……我に名は無い、造魔(ゾーマ)の先兵。……ヒトは我を“厄災”と呼ぶ」

 

そう、このフードを被った男こそ……実はトランザーと同じく三大勢力の拠点を次々と壊滅させた“厄災”

 

真の名は―――“厄災”のテンペスター……

 

「ヒュルッ」

 

その一言と共に現れた無数の竜巻

 

造魔(ゾーマ)の“厄災”がソーナ達に牙を剥く……ッ!


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