ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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更新にまた1ヶ月以上かかってしまいました……


レベル2か3でレベル50と戦えって無理ゲーだよね?

「何だよ、何なんだよこれ……っ!こんなのって有りかよ……⁉」

 

「どんだけ攻撃しても倒せない……⁉反則だろ……っ!」

 

(とき)は深夜

 

戦慄し、狼狽の声を上げる『クロニクル』のプレイヤー達

 

その原因は―――目の前にいるPK(プレイヤーキラー)の存在だった

 

赤と青の眼を光らせ、複数のプレイヤーから受けたであろう傷を修復しながら歩みを進めていく

 

()()ぎだらけの死霊とも言える姿で迫るのは―――異形化したユナイト・キリヒコ

 

彼の持つ不死の再生能力により、如何なるダメージも瞬時に治癒・回復―――たとえ肉体が吹き飛ばされようとも僅か数秒で完全復活を果たしてしまう……

 

シドと同じく『クロニクル』のPK(プレイヤーキラー)キリヒコは右腕の装置(デバイス)を向け、危険なオーラを流し込む

 

Infection(インフェクション) Crisis(クライシス) Wave(ウェイブ)……‼‼』

 

不気味な音声が鳴った直後、装置(デバイス)の銃口から禍々(まがまが)しい波動が幾重にも放射され、プレイヤー達に襲い掛かる

 

半数は不恰好ながらも逃げたが、残りのプレイヤーは成す術も無く波動の餌食となってしまう

 

「うわぁぁぁぁあああああっっ!」

 

「ぎゃあぁぁぁぁああああっっ!」

 

深夜に響くプレイヤーの悲痛な断末魔

 

PK(プレイヤーキラー)の放つ波動をくらったプレイヤー達は、そのまま灰となって消滅する

 

「あ……あぁぁぁ……っ!」

 

プレイヤーの消滅を目の当たりにした他のプレイヤー達は怯え、恐怖に駆られてジタバタと手足を動かして逃げようとする

 

しかし、恐怖が(まさ)ったせいで体を思い通りに動かせず―――PK(プレイヤーキラー)の更なる追撃が迫る……

 

「―――Adieu(アデュー)

 

Infection(インフェクション) Crisis(クライシス) Burst(バースト)……‼‼』

 

再度おどろおどろしい音声が鳴り、右腕の装置(デバイス)から無数の光弾(こうだん)が放たれる

 

光弾は意思を持ったかのように縦横無尽にうねり、残ったプレイヤー達の背中を(つらぬ)いた

 

「…………たず、げで……っ!」

 

助けを求めても、その願いが届く事は無い

 

残ったプレイヤー達も体が粒子化し―――消滅していった……

 

その場にいる全てのプレイヤーが消滅したのを機に、キリヒコは異形の姿を解除

 

右腕の装置(デバイス)に消滅したプレイヤーの残骸(粒子)を吸収させ、吸収を終えると邪悪な笑みを浮かべる

 

「だいぶ溜まってきましたね。この1日で死亡者(ゲームオーバー)が8745人、実に良い成果です。その数だけ人間の愚かさ、浅ましさ、欲深さがこの世に広がっている……」

 

キリヒコは装置(デバイス)(みずか)ら肉体に挿し込み、採取したデータを注入する

 

作業が終わると、キリヒコの体から一層邪悪なオーラが滲み出し―――生物のように揺らめく

 

「―――Trés bien(トレビアン)……!楽しくて仕方ありませんね。あとは揺さぶりを掛けたグレモリー眷属がどう動くのか。そして、『クロニクル』の最終局面を目の当たりにした時―――どう壊れてくれるのか……っ」

 

 

―――――――――――――――

 

 

三連休2日めの朝……と言っても、まだ日は(のぼ)っていない時間帯

 

新は他の誰よりも早く目を覚ましてしまい、2階から下りて1階のリビングでコーヒーを飲んでいた

 

その理由は―――キリヒコとの密談の件が執拗に頭を(よぎ)ったからである

 

新は『クロニクル』を終わらせるべく、キリヒコの提案を呑み―――マスター版の『クロニクル』端末を自身の体内に埋め込んだ

 

自分が『クロニクル』のプレイヤーとなってボスキャラを倒す……

 

しかし、それは多大な危険と隣り合わせの提案だった

 

承知の通り、キリヒコは全く掴み所を見せない策士であり―――本人の戦闘能力も極めて高い

 

このマスター版の端末とて、何かしらの術式や工作を施しているのはほぼ間違いない

 

それでも新はこの危険な提案を呑んだ―――否、呑むしかなかったと言うべきか……

 

通常の状態では『クロニクル』に干渉する事が出来ない上、ボスキャラを倒しても強化再生させてしまう

 

そうなれば、『クロニクル』の犠牲者は更に増すばかり……

 

早急にこのデスゲームを終わらせる為、新はキリヒコの提案を呑むしかなかったのだ

 

『……もしかしたら、俺は蛇の口の中に飛び込んだのかもしれないな。リアス達に前以(まえもっ)て話したところで、分かってくれるとは思えなかったわけだし……』

 

新はアザゼルやリアス達にも話さず独断でキリヒコの提案を呑んだので、やはり後々になってから糾弾される事を懸念していた

 

……今だけはそれも覚悟していなければならない

 

しかし、何もせずに場を煮詰まらせては悪化の一途を辿るのみ

 

全ては『クロニクル』を終結させる為……

 

『必ず、必ずこのふざけたデスゲームを終わらせてやる……っ。その時はまとめて借りを返してやる……!蛇に喰われるなら、その前に口の中を引っ掻き回してやる……!』

 

 

――――――――――――――

 

 

時刻は午前9時、グレモリー及びシトリー眷属の面々がオカルト研究部の部室に集まっていた

 

アザゼルが皆の前に映像を映し、『クロニクル』に対するこれからの動向を話す

 

「お前らも既に知っているだろうが、この町だけじゃなく世界中のあらゆる都市で『クロニクル』と呼ばれるデスゲームが横行している。使用者の数も多い上、今の俺達には干渉する事が出来ない。アジュカも通信妨害の術式解除に躍起になっているが、相変わらず進展無しだ」

 

アザゼルは映像の魔法陣を動かし、『クロニクル』の被害状況を映し出す

 

「軽はずみな気持ちでやり始めただけに、犠牲者が後を絶たない。……既にこの1日と数時間で9000人以上の人間が死んだ」

 

現時点での被害状況にシトリー眷属は絶句、新達も苦虫を噛み潰したような表情となる

 

このまま放置していれば、確実に死亡者の数は激増するだろう……

 

「一般人を……こんなくだらない事に巻き込んでんのかよ……⁉その『造魔(ゾーマ)』って奴らは……ッ!」

 

映像を見ていた匙が怒り心頭の顔付きで体を震わせ、ソーナを含めたシトリー眷属も怒りが込み上げてくる

 

アザゼルが話を続ける

 

「腹立たしい気持ちは分かる。ただ、それは奴らにぶつけてやれ。このクソゲームをおっ始めやがった元凶にな。まずはシドとキリヒコの行方を追う。捜索範囲はこの町を中心とした数十キロ圏内だ。他のスタッフにも包囲網を張らせている。見つけ次第、お前らに連絡が行き届くようにな」

 

「問題は……“プレイヤー達をどうやって鎮圧するか”よね。彼らに見つかったら襲撃を受けるのは間違いないわ。アザゼル、その点についての対策はあるのかしら?」

 

リアスの意見はもっともだった

 

『クロニクル』のプレイヤーは自分達以外の存在を“アイテムを落とすレアキャラ”としか認識していないので、彼らの前に姿を見せればたちまち狩りの対象にされてしまう

 

相手は一般人なのでこちらは攻撃を加える事が出来ず、下手にダメージを与えてしまえば死に至らしめる……

 

リアスの問いに対してアザゼルが答える

 

「その点も対策は考えた。あの後、グリゴリの連中に急ピッチで作らせた。―――コイツだ」

 

アザゼルが机の真ん中に出したのは、防災ライトのような器具だった

 

「先生、何なんすかコレ?」

 

「コイツは自分の魔力を媒介にする睡眠装置だ。魔力をスプレーの様に噴霧して、浴びせた相手を眠らせる。要は暴徒鎮圧用スプレーと似た感じの物だと思ってくれれば良い。プレイヤーをコイツで眠らせて、安全圏まで運び出す。今のところプレイヤーへの対処法はこれぐらいだろうな……」

 

アザゼルも完全な対処が出来ないゆえに複雑な顔となるが、プレイヤー達の凶行を止めるには効果的かもしれない

 

全員がその鎮圧用の特殊装置を手に取り、アザゼルが言う

 

「良いか、お前ら。今の俺達に出来るのは“死亡者の増加を少しでも食い止める”事だ。もし、シドとキリヒコに遭遇してもプレイヤーの避難を優先させろ。神経を逆撫でするような事をやられても―――今は耐えろ」

 

その言葉を合図に全員が真剣な面持ちで頷いた

 

 

――――――――――――――

 

 

「……クソッ。出てこなくて良い時は出てくるくせに、なんでこう言う時に限って出てこねぇんだか」

 

捜索を開始してから約3時間

 

新は単独で担当区域を捜索しているが、未だにシドとキリヒコを見つけられずにいた

 

他の皆とも連絡を取り合っているものの、そちらも目撃情報は無し

 

アザゼルやスタッフからの連絡も来ず、新はシドやキリヒコ、『クロニクル』のボスキャラが出没してこない事に対して不満を漏らす

 

無駄に時間と体力だけが消耗され、仕方なく休息を取る事にした

 

近くの牛丼チェーン店・松乃屋(まつのや)の前に立ち寄り、いざ入ろうとした時だった

 

「あら、奇遇ね」

 

ふと聞こえてくる女性の声

 

声のした方向に顔を向けると、そこにはレイナーレ達がいた

 

彼女は普段がボンテージファッションの為、人目に付かないよう天野夕麻(あまのゆうま)の時の服を着ている

 

隣にはカラワーナ、ミッテルトも引き連れているが―――今回は更にもう一人いる

 

「どうも」

 

「あれ、ミカサ?」

 

先日より新が教育・指導する事になった新人ハンターのミカサ・ヨルハニア

 

本来なら新は指導する立場にあるのだが、『クロニクル』の対応に追われており、指導どころではない

 

それでも協会からの任は達成しないといけないので、レイナーレ達に協力を煽った

 

出会った当初の飲みっぷりが好印象だったのか、レイナーレ達は(こころよ)く引き受け―――早くも共に行動する事になったそうだ

 

レイナーレが新に話し掛ける

 

「朝から忙しいって言ってたのに、こんな所で何してるのよ?」

 

「現在進行形で忙しかったんだよ、ノンストップで歩き回ったんだから。んで、昼飯を食おうと思ったんだ」

 

「それで牛丼屋に来たわけ?(わび)しいわね」

 

「お前らの酒代で稼ぎが消えていってるんだ!侘しくもなるだろ!だいたい、お前らこそ何やってんだよ?」

 

「ウチらは梯子酒(はしござけ)の途中で、今ちょうどランチタイム~♪」

 

ちなみに彼女達は先程まで10軒以上の居酒屋で飲んできたらしい……

 

“また出費が(かさ)みそうだ……”と新は顔を引きつらせ、ミッテルトがトコトコと新に歩み寄っていく

 

「つーわけでっ、ア~ラタ♪お腹を()かした可愛いウチらにご飯奢ってね☆」

 

本人の意思に関係無く、不幸と言うものは簡単に訪れてくる……

 

世の中とは常に理不尽で不条理の渦中(かちゅう)にある事を思い知らされる新だった

 

観念した新はレイナーレ達を引き連れて松乃屋に入り、人数分の食券を買う

 

買ったのは勿論、定番の牛丼(味噌汁付き)と生卵

 

席に着き、食券を店員に渡してから数分後―――注文した牛丼と卵が運ばれてきた

 

小皿に卵を割り、それを溶いてから牛丼にかける

 

レイナーレ達も見様見真似(みようみまね)で溶いた卵を牛丼にかけた

 

牛丼を掻き込む新、ミカサはそれを物珍しそうに見つめる

 

「それは……そうやって食べる物なのですか」

 

「ん?ああ、そうだけど……まさか、牛丼食った事ないのか?」

 

「はい」

 

「何処の箱入り娘だよ。……ほら、お前もやってみろ」

 

ミカサは新の言う通りに卵を割り、それを溶いてから牛丼にソッとかける

 

箸を手に取り、卵が掛かった牛丼を一掬(ひとすく)い―――口に運ぶ

 

『…………これが、ぎゅうどん……』

 

彼女にとって未知の食べ物だったのか、その後もゆっくりと箸を進めるミカサ

 

“いったい何処の世間知らずの家から飛び出してきたんだろうな……”と脳裏を(よぎ)らせている刹那―――

 

「おい!向こうの方でボスキャラが出たってよ!それも2体だぜ!」

 

「マジかよ!早く行かねぇと横取りされちまうじゃんか!」

 

「全員で狩れ!いち早くレベルを上げるんだ!」

 

外からそんな喧騒が聞こえてきた

 

新は我が耳を疑い、箸を止めてしまう

 

『こんな時に……っ!しかも、タイミングの悪い……っ!』

 

新は心中で毒づきつつ、牛丼を急いで掻き込み―――味噌汁で流し込む

 

急ピッチで食べたので()せたが、胸を叩いて強引に止める

 

「アラタ、どうしたの?そんなに急いで―――」

 

「急用が入ったんだよ!良いな、お前らはゆっくり食ってろ!この件は俺が片付ける!」

 

レイナーレの言葉を(さえぎ)って、新は直ぐに店を飛び出していった

 

話が全く見えず怪訝そうに(うかが)うレイナーレ達

 

ミカサも走り去る新の後ろ姿をただ見つめるだけだった……

 

 

―――――――――――――

 

 

「……ふぅっ、これで全員か、兵藤?」

 

「ああ、言っただろ?やりにく過ぎるって」

 

「しかし、襲ってこられると恐ろしいもんだな。相手はマジで一般人な上に、こっちの話は全く聞いてくれねぇ……。『造魔(ゾーマ)』を毛嫌いする気持ちが理解できたよ」

 

アザゼル特製“一般人は眠っちまえライト”をしまい、眠らせたプレイヤーを転移用魔法陣で転送させる匙

 

匙の他にも一誠、アーシア、仁村留流子(にむらるるこ)花戒桃(はなかいもも)が同じように『クロニクル』のプレイヤー達を眠らせ、転移用魔法陣で堕天使系列の医療施設へと転送する

 

プレイヤー達に出くわした彼らは問答無用で襲撃されるが、アザゼルから貰った睡眠装置(眠っちまえライト)によって事なきを得た

 

日頃から超常の存在と戦っている一誠達にとって、一般人の相手は“戦いにくい”の一言に尽きるものだった

 

レアキャラとして襲撃され、万が一にも攻撃すればプレイヤーを死に至らしめてしまう……

 

更に『クロニクル』のプレイヤーではないので干渉も出来ない

 

今の一誠達に出来るのは、こうしてプレイヤー達を眠らせ、安全圏まで隔離するのみ……

 

「こんな事が世界中で起きてるって考えたら、身の毛もよだつよな……」

 

「大変だねぇ、先輩達も」

 

他人事(ひとごと)みたいに言う―――な……?」

 

匙が言葉を詰まらせ、ゆっくりと声のした方向に視線を移す

 

そこには―――(くだん)の元凶の1人、シド・ヴァルディが「ニンッ♪」と無邪気な笑顔を振り撒いていた

 

突然の登場に匙は「うわぁっ!」と素っ頓狂な声を上げて距離を取り、一誠達も驚愕する

 

「お、お前いつの間に⁉」

 

「イッセー先輩、そんなに驚く?今時エンカウントなんて珍しい事じゃないんだよ。―――と言っても、そこのコンビニでから揚げ買ってたら、たまたま先輩達を見つけただけなんだけどね☆」

 

シドは青い看板が目印のコンビニ・○ーソンで買ってきたであろうから揚げを1つ摘まみ、パクっと口に運ぶ

 

やがて食べ終わると(から)になった容器を捨て、腕を伸ばしたり屈伸したりと準備運動を繰り返す

 

「先輩達の(たくら)みは分かってるよ。『クロニクル』を止めに来たんでしょ?でも、残念っ☆『クロニクル』はプレイヤー以外の干渉を一切受け付けないから、先輩達がいくらボスキャラを倒しても無駄だよ。プレイヤー以外の人が倒せば倒す程、ボスキャラはレベルアップしていくんだから。それに―――」

 

「それに?」

 

「さっきプレイヤー達を眠らせて、何処かに転送してたでしょ?そんな事をしても無理っ。その程度の策じゃ『クロニクル』は止められないよ」

 

「悪いけど、止めさせてもらうぞ。これ以上お前らの好き勝手にされてたまるかってんだ!」

 

「プププッ、分かってないなぁ。あのキリヒコが“何の対策もしてないわけが無い”って言ってるのに。プレイヤーを引き離したりしたら、それこそ死亡(ゲームオーバー)を早めちゃうだけなのにさ♪」

 

「な……何だと⁉それ、どういう事だ⁉」

 

シドの不吉な言い回しに声を荒らげる一誠

 

一転して焦りが見え始めた一誠達を見て、シドは再び不敵な笑みを浮かべる

 

「知りたい?でも、教えてあ~げないっ♪ネタバレしたら面白くなくなっちゃうもの」

 

「てめえ……っ!」

 

「まあ……先輩達が遊んでくれるのなら、考えてあげても良いよぉ?」

 

無邪気な笑顔で邪気に満ちた言葉を放つシド

 

明らかに挑発している……

 

アザゼルから“シドやキリヒコと出くわしても、プレイヤーの転送を最優先させろ”と言われているが……今の一誠と匙に耐えるなんて利口な事は出来なかった

 

「……ざけんなよ、てめえっ!だったら、今すぐここでぶちのめして白状させてやる!」

 

「イッセーさん⁉」

 

「元ちゃん、落ち着いて!」

 

「元士郎先輩!アザゼル先生から言われた事を忘れたんですか⁉」

 

アーシア、花戒、仁村が2人を止めようとするが―――シドの挑発に乗ってしまった一誠と匙は、彼女達の制止を聞かずに飛び出してしまう

 

それを見てシドはニヤリと笑う

 

「そうそう、そう来なくちゃ♪イッセー先輩はそういうヒトだもんね。―――そうじゃなきゃ心が踊らないよっ!」

 

シドは手元から黒い魔法陣を展開し、(みずか)らの体を飲み込ませる

 

魔法陣が消え去り、シドは戦闘形態となって現れた

 

メタリックブルーの装甲に身を包んだスマートな出で立ち―――『連携操師(パズリングフォーム)

 

一誠も禁手化(バランス・ブレイク)して『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』を身に纏い、匙もヴリトラの力を解放して黒炎(こくえん)を両腕に纏わせる

 

「焼き払えぇっ!」

 

匙が手を前に突き出すと、ヴリトラの黒炎が勢い良く地を走り、シドを焼こうとする

 

シドは直ぐにその場から横っ飛びで回避し、そこへ一誠が追撃を掛ける

 

背中のブーストを噴かし、飛び出した一誠が右拳でシドに殴りかかっていく

 

シドは闘牛士(マタドール)のように身を(ひるがえ)して拳打を(かわ)し、すかさず一誠の後頭部にパンチを叩き込む

 

その勢いで一誠の体は地に落ち、体勢を立て直すべく身を起こそうとするが―――今度は蹴りを入れられる

 

込み上がる窒息感と鈍痛に兜の中で顔を歪ませ、後方に飛ばされる一誠

 

シドは更に攻撃を加えようとするが、何かに腕を掴まれる

 

腕に絡まったのは―――黒炎に包まれたラインのような物

 

その先を目で追ってみると……匙の腕から黒炎のラインが伸びていた

 

匙が持つヴリトラ系神器(セイクリッド・ギア)の1つ―――『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)

 

対象に接続する事で魔力を奪い取る神器(セイクリッド・ギア)である

 

「てめえの魔力を、根こそぎ奪ってやる!俺の黒炎は死んでも消えない呪いの黒炎だ!」

 

匙が怒気を込めて叫ぶが、シドはそのラインを掴み―――

 

「それじゃあ……離しちゃダメだよッ!」

 

思いっきり引っ張って匙を空中に引き上げ、背負い投げのように地面へ叩き付けた

 

盛大に叩き付けられた匙は血反吐(ちへど)を吐く

 

更にシドはラインを引っ張って匙を引き寄せ、そのまま匙の腹に拳を打ち込んだ

 

まるでヨーヨーで遊ぶかの如く匙をいたぶる

 

何度も引き寄せ、何度も殴る蹴るを繰り返す

 

自分の腕が黒炎で焼かれているのもお構い無し……

 

あまりにも狂気じみた気迫に匙はやむ無くラインを切り離し、地面を転げ回る

 

あのまま接続を続けていれば、匙は殴殺(おうさつ)されていただろう……

 

ラインを切り離されてもシドは攻撃の手を緩めず、倒れている匙に向かって走り出した

 

「いつか決めるよ、稲妻シュートォッ!」

 

某サッカー番組の台詞を言いながら、匙を蹴り上げようとする

 

シドの蹴り足が匙に命中する刹那―――青色の力強い結界が匙を覆う

 

ガキンッ!と跳ね返されるシドの蹴り

 

その結界を発生させていたのは―――シトリー眷属『僧侶(ビショップ)』の花戒桃だった

 

「やらせないわ」

 

彼女の両腕に腕輪が出現しており、その腕輪がオーラを発している

 

それを見たシドは標的を変えたのか、花戒の方へ走っていく

 

しかし、そこへシトリー眷属『兵士(ポーン)』の仁村留流子が行く手を阻む

 

「このぉっ!」

 

軽やかなフットワークを駆使して、彼女の蹴りがシドに炸裂する

 

顔を蹴られたシドは一瞬動きを止め、花戒と仁村の両者に視線を移す

 

「……へ~っ、面白いね、それ」

 

興味を持ったように仁村の両足に指を差すシド

 

彼女は両足にだけ鎧を纏っており、そこからオーラを揺らめかせていた

 

「もう、こうなった以上―――後には引けませんよね。アザゼル先生から貰った人工神器(セイクリッド・ギア)の威力、見せてやりますよっ!」

 

「防御は私に任せて!アーシアさんは兵藤くんと元ちゃんの回復をお願いします!」

 

仁村が(なか)ば破れかぶれに力強く宣戦布告し、花戒もアーシアに回復を促す

 

アーシアは手元から回復のオーラを発生させ、一誠と匙にそれぞれ飛ばす

 

シドは再度仁村に攻撃を仕掛けるが、花戒の腕輪から発せられる結界に何度も弾かれ、仁村の徒手空拳(としゅくうけん)と蹴りがシドに決まっていく

 

その光景を見て、一誠は驚くしかなかった

 

「すげぇな……シドの攻撃をモノともしないのか」

 

「ああ、アザゼル先生から貰った人工神器(セイクリッド・ギア)をこんなに早く実戦で使うとは思わなかったが……お陰でシトリー眷属の戦力は増大されたってわけだ」

 

匙が得意気にそう言う

 

花戒が持つ人工神器(セイクリッド・ギア)は一瞬で対象物を結界で覆う『刹那の絶園(アブローズ・ウォール)

 

一定の距離内であれば瞬時に結界を発生できる上に、生半可な攻撃ではビクともしない堅牢さを誇る

 

仁村の人工神器(セイクリッド・ギア)は『玉兎と嫦娥(プロセラルム・ファントム)』――太ももまで覆う脚甲(きゃっこう)

 

噴出するオーラによって足の速度と蹴りの破壊力を上げる

 

シトリー眷属の殆どが人工神器(セイクリッド・ギア)を取り入れ、戦力を強化させていたのだ

 

立て続けに攻撃をくらったシドは―――テンションと哄笑を上げる

 

「……ププッ、アハハハハハッ!面白いっ、面白いよ!イッセー先輩だけじゃないんだね!他のヒト達も結構やるんだ!やっぱりそうじゃなきゃ面白くないよッ!そうやって僕と遊んでくれるヒトがいるから、ゲームはやめられないんだッ!アハハッ、アハハハハハッ!」

 

シドの狂気じみた笑いに花戒と仁村は畏怖し、更に警戒心を高めた

 

一頻(ひとしき)り笑ったシドはフゥッと息を吐き、眼孔を光らせて睨み付ける

 

「じゃあ……僕もちょっとだけ本気を出しちゃおうかなッ!」

 

シドの狂気は(とど)まる事を知らない……


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