ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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やっと書けました……本当に遅くなってすみません……


護衛任務のブラザーズとセルゼン(後編)

幽神兄弟、リント、ジュビア、ウェンディ&シャルルの連合と教団の戦いが始まって数十分

 

依然として優勢を維持している悪堵は怒涛のラッシュを繰り出しており、カゲマルを圧倒していた

 

悪堵の拳打ラッシュによってカゲマルは防戦から抜け出せない

 

打ち続けられては不利と判断したカゲマルは即座に距離を取り、一振りに全力を注ぐ決断をした

 

刀にオーラを流し込み、その場を駆け出して刀を振り上げる

 

「我が刃に全身全霊を込め、この一撃に全てを懸けようッ!!」

 

「捨て身の一撃か、面白(おもしれ)ぇッ!」

 

悪堵は嬉々として受け入れ、右拳に強いオーラを纏わせる

 

神速で迫り来るカゲマルが―――頭上に(かざ)した日本刀を悪堵目掛けて振り下ろす

 

風圧と共に来る刃を拳で迎え撃つ悪堵

 

衝撃波が2人を中心に起こり、一拍空けてカゲマルの刀が折れる

 

その光景に絶句するカゲマル

 

容赦なく悪堵の左拳が彼の腹に深々と突き刺さった

 

衝撃が背中を突き抜け、血を吐いた直後にカゲマルは意識を失い倒れる

 

終始カゲマルを圧倒した悪堵の勝利に終わり、残る幹部は4人

 

少し離れた場所でフトルモン・ゼツと戦っているシャルルとウェンディも攻勢に転じ始めていた

 

2人は風の魔力を応用したスピードで連携攻撃を開始

 

それが功を奏してフトルモンを追い詰めた

 

フトルモンは最後の抵抗とばかりに再び三角木馬を召喚する

 

「ゆけぃっ!我が愛馬よ!小娘どものお尻をビシビシ責めてやるのだ!」

 

「お、お尻ですかっ⁉」

 

ウェンディは咄嗟に尻を庇うような仕草をする

 

フトルモンの(めい)を受けた三角木馬は口の部分から六角棒を出現させ、ウェンディに向かって突っ走る

 

「その六角棒をお主らのお尻にねじ込み、突いて突いて突きまくってしんぜよう。そうすれば、拙僧と同じく新しい信仰に目覚めるであろう」

 

「ひぃぃっ!」

 

「ウェンディのお尻になんてものを突っ込ませようとしてんのよっ!」

 

シャルルの蹴りが三角木馬のアゴにヒットし、仰向けに倒れる

 

「あぁっ、そんな勿体ない事を!」とフトルモンが嘆いてる間に、ウェンディが魔法陣から竜巻を発生させる

 

「お尻は嫌ですぅっ!」

 

涙目で魔力の竜巻をフトルモンに放ち、上空に跳ね上げる

 

乱回転しながら上空に跳ね上げられたフトルモンの前に―――先回りしたシャルルが魔法陣を展開する

 

「そんなにお仕置きしたいなら、アンタがやられなさいっ!」

 

魔法陣から濃密な風の魔力が放たれ、フトルモンを今度は下へと吹き飛ばす

 

しかも、着弾地点には……先程仰向けに倒された三角木馬があった

 

避ける(すべ)も無いフトルモンの尻に―――三角木馬の出した六角棒が突き刺さる

 

「オーウッ!ジュゥゥゥゥシィィィィィィィィィィィィィイッ!!(意味不明)」

 

フトルモンは甲高い絶叫を上げ、アへ顔のまま意識を失った……

 

2人目の幹部フトルモンを撃破したシャルルとウェンディだが―――ウェンディは震えっぱなしだった

 

「ひぅぅ……っ、怖かった……っ」

 

「よしよし、泣かないの。もう終わったんだから」

 

涙目のウェンディを(なだ)めるシャルル

 

一方、リントはスティブナイトの鎧の頑強さに手を焼いていた

 

何度も剣戟や銃弾を撃ち込むが、決定打を与えられずにいる

 

「こりゃ参ったっスねー。いくらやっても効かないのは初めてっス」

 

「諦めろ。お前達は我々の信仰によって浄化される運命(さだめ)、おとなしく己の愚かさを受け入れろ」

 

「何度も言いますけど、自分も生きて償いをしなきゃいけない身なんスよ。ここでおっ()んだら―――ヴァチカンや正義パイセンに顔向けできないっス」

 

「償いなら、今ここで果てるが良いッ!」

 

吼えるスティブナイトがバトルアックスを横薙ぎに振るい、リントの体を真っ二つに分断しようとする

 

リントは跳んで(かわ)し、水平に振られたバトルアックスを踏み台代わりにする

 

『しっかし、どうしましょうか?あの硬い鎧を何とかしないと勝ち目は無さそうっスね』

 

跳びながら考察するリント

 

とりあえずスティブナイトの片刃刀(スクラマサクス)を銃撃で止め、光の剣で兜を叩く

 

大きな音を響かせるが―――やはりダメージは無し

 

着地したリントがフゥッと溜め息を吐く

 

「何度やっても同じだ。そんな剣や銃では俺の鎧には―――ッ」

 

突如、スティブナイトは言葉を詰まらせてふらつく

 

自分の身に何が起きたのか理解できないスティブナイト

 

リントはその様子を野生の勘を働かせる

 

『……なるほど、剣や銃は効かなくても“振動”は別みたいっスね』

 

そう―――スティブナイトは先程の剣戟による“振動”で足元をふらつかせたのだ

 

如何に頑強な鎧と言えど、内部に浸透する振動までは防ぐ事が出来ない

 

振動が脳を揺さぶり、ダメージを与えていた

 

思わぬ突破口を見つけたリントは頭部―――正確には兜への集中攻撃を開始する

 

スティブナイトはバトルアックスを盾代わりにして銃撃を防ぎ、直ぐに反撃へ転じようとした

 

しかし、スティブナイトの視界にリントの姿は無い……

 

盾代わりに使用したバトルアックスが一瞬視界を(さえぎ)り、リントはその間に背後へ回り込んでいた

 

そして、光の剣でスティブナイトの頭部を一閃

 

後頭部を打たれ、更にバトルアックスの側面にも打ち付けられ―――二重の振動がスティブナイトの脳を激しく揺さぶる

 

兜の隙間から吐血が流れ、スティブナイトは膝から崩れ落ちて倒れ込んだ

 

これで教団の幹部3人が倒れ、悪堵達の優勢は確固たるものとなった

 

『あとは正義パイセンだけっスね。もう一働(ひとはたら)きしますか』

 

 

――――――――――――――

 

 

『マズい……っ、血を出し過ぎたせいで意識が遠退きそうだ……っ。おのれ、爆乳(ばくだん)め……っ!』

 

正義は(いきどお)ると共に窮地に追いやられていた

 

不可抗力によってフローラのおっぱいを直視してしまい、体内の血液を(ほとん)ど失ってしまった……

 

正義の弱点を見切ったヒメガミとフローラは直ぐに周りにいる信者―――元シスター達に命令を下す

 

「そいつの弱点は女よ!」

 

「全てのシスターで攻撃を仕掛けなさい!」

 

ヒメガミとフローラの命を受けてシスター達が正義に突っ込んでいく

 

銃や光の剣、槍などの武器を持って向かってくるシスター達に対し、疲弊している正義は―――

 

『………………際どくない』

 

直ぐに冷静さを取り戻し、向かってきたシスター達を次々と蹴りで倒していった

 

正義が危惧しているのは“露出の多い女性”や“エロい格好をした女性”、“爆乳が目立つ女性”であり、露出度が極端に少ないシスターなら特に問題は無いようだ

 

目論見が一部外れてしまった事によりシスター達の士気が低下、その隙に正義は(ふところ)から輸血用の注射器具を取り出した

 

針を首筋に刺して緊急輸血を終え、血の気を取り戻す

 

しかし、輸血を終えても危惧を(ぬぐ)い去れるわけではない

 

正義は現状の打開策を編み出そうと思考を張り巡らせようとした、その時―――

 

「…………恋敵(こいがたき)1人(ひとぉり)……恋敵が2人(ふたぁり)……恋敵が3人(さんにぃん)……恋敵が4人(よにぃん)……」

 

突如、場を支配する怨念にまみれた声音

 

ここでまた正義に嫌な予感が走り、シスター達も怨念にまみれた声音に戦慄する

 

声のする方向に視線を移すと―――そこに元凶(ジュビア)がいた……

 

「…………あれは恋敵……これも恋敵……たぶん恋敵……きっと恋敵……」

 

呪いの人形の如くフラフラと覚束(おぼつか)ない足取り、長い髪の隙間から見える眼孔

 

怨霊、死神、鬼神すら睨み殺しそうな迫力のジュビアにシスター達は完全に怯えていた

 

恐らく、正義に(たか)ろうとするシスター達を見て怒りが(たぎ)ったのだろう

 

「何処もかしこも―――こぉぉぉぉぉぉぉいぃぃぃぃぃぃがぁぁぁたぁぁぁきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……ッ!」

 

ジュビアの全身からオーラが溢れ、周囲に水の魔力が噴き出てくる

 

噴き出てきた水流もジュビアの怨念が宿ったのか、生物のように(うごめ)き―――シスター達を睨み付ける

 

「ジュビアの愛はっ、誰にも邪魔させませんッ!!」

 

ジュビアが手を前に突き出すと水流の群れが一斉に襲い掛かっていった

 

ヒメガミとフローラは召喚した植物に乗って回避するが、シスター達はなす(すべ)無く水流に呑み込まれる

 

ジュビアの乱入によってシスター軍団は戦闘不能

 

正義は何とか窮地を脱した―――わけではなかった

 

『……ッ!また爆乳(ばくだん)が現れた……ッ!』

 

一難去ってまた一難、ジュビアの登場に嫌な予感を拭いきれない正義

 

シスター軍団を撃破したジュビアは直ぐに正義のもとへ駆け寄っていく

 

「大丈夫ですか⁉」

 

「俺の事は良い……!それより、ヤツらを―――」

 

正義の警告虚しく、ヒメガミとフローラはその隙を見逃さなかった

 

「切り裂け―――斬紙(きりがみ)ッ!」

 

「溶かしなさい―――アシッド・チェリーッ!」

 

ヒメガミの投げた紙吹雪が刃物の如く鋭くなって飛び、フローラの召喚した巨大植物が硫酸の実を吐き出す

 

ジュビアは2人の攻撃に気付き、それらを(かわ)していく

 

直撃はしなかったが、ヒメガミとフローラの狙いはこれで終わらなかった

 

「不意討ちとは卑怯ですね、やはり恋敵……ッ!」

 

「さっきから何を言ってるか知らないけど、これでその男は封じたわ」

 

「ええ、思わぬ収穫よ」

 

ヒメガミとフローラの言葉に疑問符を浮かべるジュビア

 

すると、ジュビアの背後で再び“ブシャァァァアアアアアアッ!”と血が噴出する音が……

 

振り返ってみると正義が再び兜の隙間から鼻血を流し、ガクガクと体を震わせていた

 

「ど、どうしましたか⁉まさか、今の攻撃を受けて―――」

 

「ち……ガウ……!良いからっ、俺に構わず……その格好をブシャァァァアアアアアアッ―――」

 

正義に(うなが)され、ジュビアは目線を自分の体に向ける

 

そう―――先程の攻撃でジュビアの衣服の所々(ところどころ)が斬られ、または溶かされていた

 

それによりジュビアは半裸同然の姿にされ、正義は鼻血を噴き出してしまったのだ

 

『くっ、そぉ……!輸血した血が……!』

 

せっかく輸血した血も体外へ排出されてしまい、正義は目眩(めまい)を起こす

 

正義の容態を見たジュビアは―――

 

『……ッ!正義さまが血を……⁉おのれ、恋敵……!ジュビアの隙を突いて正義さまに血を流させるとは……ッ!』

 

ジュビアは見事に勘違いした怒りをヒメガミとフローラに浴びせる

 

ヒメガミとフローラは畳み掛けるように手裏剣型の紙と硫酸の実を幾重にも飛ばし、ジュビアは水の魔力で応戦

 

激しい攻防が続く中、遂にジュビアの胸元に残っていた布が切り裂かれてしまう……

 

押さえが無くなった事により勢い良く飛び出すジュビアの色白おっぱい

 

ジュビアは恋敵(ヒメガミとフローラ)に対する怒りで我を忘れていたので気付かないが―――正義は運悪く目撃してしまった……

 

ジュビアの爆乳(ばくだん)が大きく揺れる(さま)を見た正義は神速で地に突っ伏し、うつ伏せの状態で多量の鼻血を流した

 

もはや体積の9割以上とも言える血を流出してしまった正義

 

ジュビビーン!

 

ジュビアの“正義センサー”が警鐘を知らせ、ジュビアはようやく突っ伏している正義に気付いた

 

「ジュビっ⁉ま、正義さま⁉」

 

「……ッ…………ッ…………ッ」

 

もはや喋る気力すら残されていない……

 

そんな正義の醜態を見てヒメガミとフローラがせせら笑う

 

「ふふっ、もう虫の息みたいね、あの男」

 

「良い気味だわ、そのまま血の海に沈めてあげる!」

 

ヒメガミとフローラが息巻く中―――ジュビアの怒りのボルテージが上昇する

 

恋敵(こいがたき)……恋敵……恋敵……!

 

恋敵(こいがたき)こいがたきコイガタキKOIGATAKI(こいがたき)胡威牙多鬼(こいがたき)恋敵(こいがたき)こいがたきコイガタキKOIGATAKI(こいがたき)胡威牙多鬼(こいがたき)恋敵(こいがたき)こいがたきコイガタキKOIGATAKI(こいがたき)胡威牙多鬼(こいがたき)恋敵(こいがたき)こいがたきコイガタキKOIGATAKI(こいがたき)胡威牙多鬼(こいがたき)――――

 

コ イ ガ タ キ……ッ!!

 

怨嗟(えんさ)にまみれたジュビアから莫大なオーラが放出され、水の魔力の勢いが増す

 

「ジュビアの愛は奪わせないッ!誰にも邪魔はさせないッ!!」

 

ジュビアは恋敵(ヒメガミとフローラ)の周りに水の壁を張り巡らせ、2人を閉じ込める

 

その間に正義の体を起こそうとするが、当の正義は出血し過ぎて意識を失いかけていた

 

ようやく正義の重態に気付いたジュビアは“ある術式”が施された小型の魔法陣を展開

 

魔法陣から透明な管が出現し、正義の体に刺さる

 

次にジュビアは(みずか)らの腕に管のもう片方を()

 

すると……ジュビアの血液が管を介して正義の体へと流れ込む

 

ジュビアが展開したのは―――なんと輸血の術式が施された魔法陣だった

 

悪魔にとっても珍しい治療用の術式魔法陣

 

拒絶反応無しに自らの血液を他の者に譲渡できると言う優れもの

 

だが……自らの血液を他人に譲渡している為、これを(おこな)えば当然貧血となり、一時的に体を動かせなくなってしまう

 

父親とシャルルからもなるべく使用しないようにと言われているのだが、正義の治療を専念するジュビアに迷いはなかった

 

『元々これはアスタロト家とヴァサーゴ家が原因……正義さまに、これ以上の迷惑は掛けられない……!』

 

輸血は順調に進み、やがて正義の意識がハッキリとしていく

 

輸血が終わり、ジュビアが力無く倒れると同時に正義がゆっくりと体を起こす

 

正義は直ぐに自分の状態とジュビアの状態を順に捉え、管を外してジュビアに問い掛ける

 

「おい、まさか……お前が俺に輸血を……?何故―――何故こんな事をした⁉そんなに弱ってまで、自分を犠牲にしてまでする事だったのか⁉」

 

正義に抱えられるジュビアは息を切らしながら答えた

 

「…………ジュビアが……あなたを助けたいと思ったから……」

 

彼女の言葉に正義は衝撃を受けた

 

―――“助けたいと思ったから”―――

 

それはかつて自分に感情を取り戻させてくれた女性―――アーシアとほぼ同じ台詞だった

 

自分が火傷を負った時、アーシアも有無を言わさず治療してくれた

 

その時から正義に人の心が戻り始めたのだ……

 

『…………俺は、なんて情けないんだ……。苦手な筈の女に助けられ、守られてばかりじゃないか……っ。不本意だが守る立場の俺が守られるとは……!』

 

正義は自責の念に駆られ、自分の心の弱さを理解する

 

正義がこれまで出会った女性は皆―――心根が強かった

 

アーシアは神が死んだ今でも祈りを捧げる事を止めず、悪人である筈の自分に優しく接してくれた……

 

リントは教会出身としてフリード、ジークフリートが犯した罪を(つぐな)う為、贖罪の為に生きている……

 

ジュビアは見ず知らずの自分に血を分け与えてくれた……

 

貧血で倒れた彼女に対し、正義は禁手(バランス・ブレイカー)を一旦解除―――自分の上着をジュビアに着せる

 

ジュビアをソッと下ろして再び禁手(バランス・ブレイカー)の鎧を身に纏う

 

『だらしなく血を流している場合ではないな……』

 

正義が立ち上がると同時に、先程ジュビアが張った水の壁に異変が生じる

 

主の魔力が弱まったせいか、水の勢いが弱々しくなり―――土へと還っていく

 

水の壁から解放されたヒメガミとフローラ

 

正義は彼女達を鋭く睨み付けた

 

「……さっきはよくもやってくれたな」

 

「凄んだところで私達に敵うと思ってるの?」

 

「あれだけ血を流しておいて、まだそんな口が聞けるなんてね。お望み通り―――浄化してあげる!」

 

意気込むと共にヒメガミは(おびただ)しい数の紙を宙に投げ、フローラは巨大な食肉植物の群れを召喚する

 

宙に投げられた紙はそれぞれ炎、氷、雷、毒などを発しながら鳥の形を成していく

 

正義の眼前に食肉植物と怪鳥の群れが並んだ

 

ヒメガミとフローラの合図と同時に食肉植物と怪鳥の群れは正義に襲い掛かっていった

 

正義の中で燃え(たぎ)る闘志のオーラ

 

それが脚にも移り渡り、爆発するかの如く噴き上がり―――

 

「―――フンッッ!!」

 

怒号と共に放った正義の蹴りは向かってくる食肉植物と怪鳥の群れを容赦なく薙ぎ払った

 

凄まじい風圧が怪物どもを端々から崩壊させ、微塵の欠片も残されぬまま消滅

 

まさに瞬殺……ヒメガミとフローラは目の前で何が起きたのか理解できなかった

 

一撃で怪物の群れを消した正義は彼女達を鋭く睨む

 

背後に鬼の幻影を(ともな)いながら……

 

「「ひっ……」」

 

正義の異常な迫力にヒメガミとフローラは軽く悲鳴を上げてしまい、後退しようとしたが―――足がもつれて尻餅をつく

 

そんな彼女達に正義はオーラを高めた左足を振り上げ―――目の前の地面を踏み砕いた

 

クレーターが出来上がり、踏み抜く風圧によってヒメガミとフローラの衣服が破れる

 

おっぱい丸出し……それは正義にとって何よりも耐え難い光景だが、鬼と化した正義は一切動揺せず

 

睨みを利かせて彼女達に警告した

 

「命が惜しければ、おとなしくしていろ」

 

気迫に満ちた警告、ヒメガミとフローラは応じるしかなかった

 

涙目で震える2人を尻目に正義は“ある方向”に視線を移す

 

「貴様がこの集団の黒幕か」

 

正義の視線の先には―――1人の老人がいた

 

この教団を束ねる神官ルードヴィッヒ

 

親玉が(みずか)ら出てきた

 

周りの信者達も神官の登場に沸き上がり、歓声が響き渡る

 

「黒幕とは下賎な言い方をしてくれるな。我々は(けが)れた悪魔を浄化する聖なる集団だ。全ては悪魔祓いの極みを(たまわ)る為、テロ組織に加担したアスタロト家、それと関わりを持つヴァサーゴ家を浄化するのだよ。小僧、お主はその汚らわしい一族の肩を持つと言うのか?人間でありながら、悪魔どもを―――」

 

「黙れ」

 

神官ルードヴィッヒの言葉を正義は一喝する

 

「テロ組織とは『禍の団(カオス・ブリゲード)』の事だろう?それに加担したのはディオドラ・アスタロトであって、アスタロト家ではない。一部の者が穢れたから他の奴らも穢れる?根拠も無い、己の目で確かめた事も無い老害が悪魔を語るな」

 

「やはり悪魔に魂を売り渡した者に言葉は通じぬようだな。ならば、お主の魂も悪魔祓いの極みへの供物としてくれよう……!」

 

神官ルードヴィッヒが祭服を取り払うと―――その体には無数の術式や傷痕が刻み込まれていた

 

火傷、ネジ穴、切り傷……ありとあらゆる傷が神官の体を埋め尽くし、無数の術式が点滅を始める

 

神官の肉体の惨状を目の当たりにしたヒメガミ、フローラ、信者達は勿論―――正義さえも我が目を疑った

 

それに対して神官ルードヴィッヒは不気味な笑いを発するのみ……

 

「何を驚く必要がある?悪魔祓いの極みを賜れるのなら、我が身などいくらでも差し出そう。その為に私は喜んで体を焼き、穴を空け、皮を削ぎ落とした……!それが悪魔祓いの極みの代償……!何かを得る為に何かを犠牲にするのは当然の事だ……!」

 

「そこまでするとは……もはや常軌を逸しているな」

 

「何とでも言うがよい……!この傷と術式を体に埋め込んだ事で―――私は悪魔祓いの極みへと近付けたのだッ!!」

 

術式の点滅が早くなると同時に神官の体に異変が現れる

 

手や足が形を歪め、異形の姿へと変貌していく……

 

鋭い爪を持った手足、獣のような白い体毛に覆われた巨躯、口元から剥き出しとなった牙、血走らせる眼孔

 

目の前にいた神官はバケモノと化した……

 

その光景に信者達は言葉を失う

 

牙の隙間から吐息を漏らし、バケモノへ姿を変えた神官が言う

 

『フハハハハ……ッ、これこそが悪魔祓いの極みを賜る為の下準備!私自身が魔となって悪魔祓いの極みを受ける事により、その術を己の体に刻み込むのだ!我が身を()して得る術、まさしく我が信仰を象徴する!』

 

「……自分から卑下していた悪魔になるとは、貴様の思想はますます解せん」

 

『だが、まだ足りない!悪魔祓いの極みを賜る為には必要なものがある!それは―――悪魔祓いを信仰する信者達の魂だ……ッ!!』

 

神官……否、悪魔と化したルードヴィッヒは周りの信者達に視線を向ける

 

すると、信者達を巨大な手で捕まえ―――彼らを喰らい殺す

 

突然の凶行にヒメガミとフローラは目を覆い、正義も絶句する

 

悲鳴を上げて逃げ惑う信者達を片っ端から喰い殺すルードヴィッヒは高らかに笑う

 

『信者達の信仰心こそが悪魔祓いの極みを呼び寄せる為に必要不可欠!その数が多ければ多い程、悪魔祓いの極みへと到達できるのだ!死した信者達の血肉と魂は最高の供物となる!』

 

「……!貴様は……その為だけに、この教団を作ったのか……!」

 

『先程も言った筈だ!何かを得る為に何かを犠牲にするのは当然だと!悪魔祓いの極みに到達できるなら、私は喜んで我が身だけでなく信者達の命も捧げようぞ!』

 

もはや破綻者の域に達していたルードヴィッヒはヒメガミとフローラにも視線を向ける

 

彼女達は恐怖のあまり動けずにいた……

 

『安心しろ、誰1人とて逃がさん。全ての信者を悪魔祓いの極みの(にえ)としてくれよう。―――聖なる犠牲となってくれ』

 

悪魔と化したルードヴィッヒがヒメガミとフローラに手を伸ばそうとする

 

破綻した欲にまみれた魔の手が迫り来る刹那―――孤月状のオーラがその手を弾く

 

ルードヴィッヒが憎々しげに視線を移すと、左足を振り上げた体勢の正義が視界に映った

 

足を下ろし、正義はルードヴィッヒに睨みを利かせて言う

 

「―――気に入らんな」

 

『何だと?』

 

「貴様のやり方が気に入らんと言ったんだ」

 

『何と言われようと構わぬ。犠牲が無ければ成し得ぬ事もある。長く生きて私はそれを学んだ。お主にもいずれ分かる時が来るだろう』

 

「……なるほど、兵藤(ヤツ)が1番嫌うタイプの思想だな。最近になってよく分かってきた」

 

『この世の(つね)も知らぬ青二才には何を言っても無駄と見える。無知のまま浄化される事を悔やむが良いッ!』

 

悪魔ルードヴィッヒが巨大な手を振り上げ、正義を叩き潰そうと振り下ろしてくる

 

正義は軽く回避して全身のオーラを高めていく

 

毒々しいオーラが体から揺らめき、鬼の幻影を映し出す

 

「怒りを喰らわば修羅となろう―――。怨みを滅せば魔鬼(まき)となろう―――。深淵に巣食いし鬼を放ちて、前に塞がる害を(つらぬ)穿(うが)て―――。(なんじ)よ、御霊(みたま)を喰らい罪を背負いし悪鬼と化せ―――ッ!―――『魔鬼化(アビス・ブレイク)』ッッ!」

 

鬼気に満ちたオーラが噴き出し、正義の鎧が異質な形状へと変化する

 

―――『深淵の鎧鬼人(ディープ・アビサル・デッドスペクター)

 

鬼人と化した正義は背中から揺らめく両翼を展開し、1対の目の如く妖しい輝きを放つ

 

その輝きが正義の両足に集束していき、正義は上空高く飛び上がった

 

『他人を散々(ののし)っておきながら、お主こそ(けが)らわしい力に満ちているではないか!』

 

「確かに俺も罪を犯した。それは否定しない。……だから、俺はこの禍々(まがまが)しい姿も受け入れ――――罪を背負って生きていく」

 

『私がその苦しみから解放してやろうと言うのが分からんのか!』

 

「それが浄化だと?笑わせるな。貴様は己の罪を認めず、他人の罪だけを糾弾している最低最悪の老害だろう。(みずか)らの(あやま)ちを認め、生きて(つぐな)いを果たしてこそ罪を払拭できる!」

 

全身に絶大なオーラを纏い、蹴りの体勢で急降下していく正義

 

対してルードヴィッヒは巨大な拳を突き出してきた

 

両者の蹴りと拳が衝突するが……ルードヴィッヒの拳は(またた)く間にひしゃげ、砕かれていく

 

絶句するルードヴィッヒに正義は冷徹に言い放った

 

「貴様は自分の罪にすら気付けなかった哀れな老害だ」

 

正義の蹴りが眼前の悪魔(ルードヴィッヒ)を真っ二つに分断し、着地する

 

白い巨躯の悪魔と化したルードヴィッヒは信じられないと言いたげな形相となり、体の端々から崩壊していった

 

教団の総帥が灰となって消えた事により、運良く生き残った信者達は歯向かう気力も無くなった

 

魔鬼化(アビス・ブレイク)』を解除して元の姿に戻る正義

 

全て終わったところでヒメガミとフローラが正義に恐る恐る訊ねた

 

「どうして……どうして私達を助けたの?」

 

「さっきまで、あなた達を殺そうとしていたのよ……?なのに、どうして……?」

 

彼女達の問いに正義は「単なる気紛れだ」と簡素に答える

 

ここで正義も彼女達に“ある事”を訊ねる

 

「俺もお前達に訊きたい事がある。―――あの老害が(しき)りに言っていた“悪魔祓いの極み”とは何なんだ?あそこまで執着するのは異常だ。何か知っているんじゃないのか?」

 

正義の問いに彼女達は心当たりが無いか考察する

 

すると、フローラが小さな声音で言う

 

「デビル……スレイヤー……」

 

「何?」

 

「少し前に神官が誰かと話しているのを盗み聞きした事があるわ。通信用の魔法陣だったけれど、その時に聞いた言葉が―――デビル・スレイヤーだった。もしかしたら、それが悪魔祓いの極みなのかもって……」

 

聞いた事の無い異能―――デビル・スレイヤー

 

名称から察するに『龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)』と似て非なる力なのだろうか?

 

神官ルードヴィッヒは自らを悪魔に変えてまで、その力を欲していた……

 

“誰かと話していた”と言う事から、恐らく神官は通信の相手に(そそのか)されて暴挙に出たのだろう

 

この教団も結局は利用されていただけだったのかもしれない……そう考えざるを得なかった

 

『こいつらも願わずして被害者にされていた―――と言う事か……』

 

魔鬼化(アビス・ブレイク)』を解除した正義は視線をヒメガミとフローラに向けるが……直ぐに視線を逸らす

 

何故なら―――彼女達は未だに“おっぱい丸出し”のままでいたからだ

 

背を向けて、これからどうするかを考えようとした時―――彼女達が話し掛けてくる

 

「私達、これからどうすれば良いの……?神官には最初から見捨てられて、教団も潰れて……」

 

失意に暮れるヒメガミとフローラに対して正義はこう告げる

 

「自分の進む道は自分で決めろ。誰かに決められる人生などつまらんだけだ。まずは自分がどうしたいのかを考えていけ」

 

正義の言葉にお互いの顔を見合わせるヒメガミとフローラ

 

直後にコクりと(うなず)き、正義にこう言ってきた

 

「「なら、私達はあなたについていくわ」」

 

「…………は?何故?」

 

素っ頓狂な声で聞き返す正義

 

ヒメガミとフローラは凛とした顔付きで続ける

 

「あなたが今言った事を実行するのよ。自分がどうしたいのかを考えて決めるって」

 

「だから、私達はあなたについていって罪を償う事にしたわ」

 

「ふざけるな。そういう事は牢屋を出てから決め―――」

 

『おーおー、それなら心配すんな』

 

突然聞こえてきた声に反応し、正義はポケットからスマホを取り出す

 

相手は勿論―――アザゼルだった

 

『よっ、幽神。実はいつでも会話が聞こえるように特殊な術式プログラムを仕込んでたんだ。んで、話を盗み聞きしてみりゃ……ププッ、何か面白そうな事になってんじゃねえの。こりゃイッセーの事を言えなくなってきましたなぁ?』

 

「また貴様か……!話を聞いてたなら直ぐに―――」

 

『まあまあまあ、両手に華ってヤツじゃねえか。その2人はお前に任せるわ。俺からも話をつけとくんで。じゃ、バハハ~イ♪』

 

陽気な声音でそう告げ、アザゼルは一方的に通信を切った

 

アザゼルの態度に正義はプルプルと怒り、スマホを握り潰す

 

『あの堕天使め……ッ!次に会った時は蹴り殺す……ッ!』

 

アザゼルに対して殺意を沸かせる正義

 

ヒメガミとフローラは彼の背中へと近寄っていく

 

「女にここまで言わせておいて、その責任を取らないつもり?」

 

「しっかりと責任を取ってもらうわ」

 

もはや何を言っても退く気は無いと悟ったのか……正義は苦々しい顔付きで「勝手にしろ」と告げる

 

ヒメガミとフローラに笑顔が戻り、これで無事任務達成―――と思いきや

 

「コォォォォォォォォォォォォォォォォォォォイィィィィィィィィィィィィィィィガァァァァァァァァァァァァァァァタァァァァァァァァァァァァァァァァァキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ……っ」

 

まるであの世からの怨念の如く聞こえてきた声

 

振り返ってみると―――先程まで倒れていたジュビアが起き上がって、怨嗟にまみれた表情となっていた……

 

ジュビアの異様な迫力に正義さえも言葉を失う

 

彼女の視点では“半裸の恋敵2人が正義に求愛している”と見て取れたのだろう

 

ジュビアの目が“ジュビーン!”と妖しい輝きを放ち、全身から水のオーラが噴き荒れる

 

「届けぇぇぇぇぇぇぇっ!ジュビアの愛の翼ァァァァァァァァァァッ!!」

 

ジュビアは両手でハートマークを作り、恋敵よ吹き飛べと言わんばかりの水流(ハート型)を放った

 

「ま、待て!俺まで巻き込mゴボボ……ッ!」

 

ハート型の水流はヒメガミとフローラだけでなく、正義まで呑み込んでいった……

 

アスタロト家とヴァサーゴ家を狙った教団の目論見は崩れ去り、その後―――ヒメガミとフローラ以外の信者達と幹部は揃って冥界に転送された

 

正義は最後までアザゼルに異議を申し立てたが、それが通る事は無かった……

 

更に精神的疲労が重なり、リントと共にしばらく留まる事になってしまったそうな……

 

『覚えてろ、アザゼル……!次に会った時は必ず蹴り殺してやる……ッ!』

 

 

―――――――――――――――

 

 

吹雪が吹き荒れるとある国の平地にて

 

凍った大地に(たたず)む者が報告係からの連絡を受けていた

 

『申し上げます、例の教団はアスタロト家とヴァサーゴ家の討伐に失敗し、教団自体も壊滅したようです』

 

「やはり、そうですか。わざわざ情報を教えたのも無駄になりましたね。報告ご苦労様です」

 

『しかし、こうも簡単に話に乗ってくるとはマヌケにも程がありますよね』

 

「悪魔祓いにとって悪魔を祓う力は絶対なるもの。その極みと称される力をチラつかせれば、彼らの信仰心を煽れる。人間は偶像虚像を崇拝する愚かな生き物です。現にあの神官は自ら悪魔と化したわけですからね」

 

『仮に教団がアスタロト家とヴァサーゴ家を滅ぼしたら、どうするつもりでしたか?』

 

「無論、消しますよ。用済みには消えてもらうのが手っ取り早いので。そもそも私の悪魔を祓う力を誰かに教えるつもりはありません。教えたとしても―――ただの人間に使える代物ではありませんから」

 

『……酷いですね。端から見れば、あなたの方が悪魔より悪魔らしいですよ―――シルバーさま』

 

「それはどうも。では、そろそろ戻ります」

 

通信を切り、自分の背後に視線を配る男―――シルバー・ゼーレイド

 

その視線の先にはシルバーによって凍り漬けにされた悪魔が10体ほどいた

 

直ぐに(きびす)を返して歩き出すと―――凍り漬けの悪魔達は(はかな)い音を立てて砕け散る

 

シルバーは眼鏡をクイッと上げて(つぶや)

 

「所詮、派生に過ぎない『悪魔祓い(エクソシスト)』どもでは役に立ちませんか。悪魔祓いの原初とも言うべき一族―――『滅悪祓士(デビル・スレイヤー)』。その末裔たる私の手で『造魔(ゾーマ)』に(あだ)なす悪魔は滅ぼしてあげましょう……。如何なる悪魔とて、私の前では無力に成り下がる。いずれ、身をもって教えて差し上げますよ、グレモリー眷属」

 

シルバーは自ら生み出した風に乗って、その場から飛び去っていった

 

氷と風を操る『滅悪祓士(デビル・スレイヤー)』シルバー・ゼーレイド

 

悪魔を滅ぼす絶対の異能は、よりによって『造魔(ゾーマ)』の一員―――幹部構成員が有していた

 

禍の団(カオスブリゲード)』以上に危険な組織―――『造魔(ゾーマ)』が本格的に始動する日は近い……




1ヶ月ぶりの更新でした……。

最近は長々と考えたり、執筆が滞りがちです

さて、今回の話で終盤に出てきたシルバー・ゼーレイド

外見のイメージはフェアリーテイルのインベル・ユラです


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