ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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幽神兄弟回、中編です!




護衛任務のブラザーズとセルゼン(中編)

「実はもう1人、末っ子―――ディオドラの弟がいるんですが……そちらは今、現ベルゼブブ殿の運営する研究所の1つにいます。本当はお呼びしたかったのですが、当分戻る気は無いと言われまして……」

 

「いや、構わん。それより……その教団とやらの話を聞かせてもらえるか?」

 

正義は過激派教団の話に戻そうとする

 

周りの殆どが女性しかいないと言う空間に耐える自信が無い為、早急に話を終わらせて避難しようと考えていた

 

アスタロト家元当主は小さな魔法陣を展開し、周辺の地図をテーブルの上に映し出す

 

話によると、教団の連中はここから数キロ離れた森の奥深くに簡易的なアジトを構えており、そこに他の支部も集結してくるらしい

 

「教団の人数は確認されているだけでも1000人弱、全ての支部が集まれば―――その数は2000人、3000人を超えるかと……」

 

「ちなみに訊くが、当初はどうするつもりだった?」

 

正義の問いに元当主は気まずそうな表情で目を逸らす

 

それを見た正義は元当主の思惑を察して溜め息を吐いた

 

「―――妻子とヴァサーゴ家の者を別の土地に移し、自分だけがここに残って教団の(まと)になろうとした……そんなところじゃないのか?」

 

「―――ッ!」

 

正義に核心を突かれた元当主は目を見開いて仰天

 

元当主の思惑にジュビア・アスタロトは詰め寄る

 

「お父さま、まさか……ご自分を犠牲にして私達を……⁉」

 

「…………これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。ディオドラの犯した事は私の監督不行き届きが原因だ。恐らくここも既に知られているだろう。攻め込んでくるのは時間の問題、それなら……私の首1つで教団の目をお前達から逸らせる他―――」

 

「残念だが、その覚悟は無意味だ」

 

元当主の言葉を(さえぎ)る正義

 

「この手の連中はしつこさが売りだろう。たとえアスタロト家元当主の首を取ったところで満足するとは思えん。血族を皆殺しにするまで止む事は無い、少なくとも俺はそう考えている」

 

正義はソファーから立ち上がる

 

「向こうから近付いてくるなら、こっちからも出向いてやろうじゃないか。その方が手っ取り早い」

 

「ま、まさか今から行くつもりですか⁉」

 

「当然だろう。この場合、逃げたり待っている方が愚策だ。なだれ込まれる前に叩く。行くぞ、相棒、リント」

 

「おう、兄貴。久々に腕が鳴るぜ」

 

「思い立ったら即行動ってやつですな」

 

正義に(うなが)されて悪堵とリントも出発の準備に取り掛かる

 

正義の思いがけない行動力の大胆さに元当主は言葉を失う

 

いざ行こうとしたその時、シャルル・ヴァサーゴが正義一行を呼び止める

 

「アンタ達、まさか3人だけで教団を潰す気でいるの?相手は3000人以上いるのよ?」

 

「潰す気でなければ、こんな事は言い出さん。何か言いたげな顔をしているな」

 

「……ええ」

 

正義を鋭い目で睨み付けるシャルル・ヴァサーゴは―――こう告げてくる

 

「その話、私達も加えさせてもらうわ。連れていきなさい」

 

「シャ、シャルル⁉」

 

「ウェンディ、元々はアスタロト家とヴァサーゴ家の問題よ。それを今日会ったばかりの他人に任せるとか―――違うと思うの。逃げてるだけじゃ何も変わらない。ちゃんとケジメをつけなきゃスッキリしないわ」

 

シャルルの言い分も一理ある

 

このまま逃げ続けたところで教団は諦めもしないだろうし、他人に尻拭(しりぬぐ)いしてもらうのも虫が良すぎる話……

 

「と言うより―――泣き寝入りとか逃げの一手とか、一方的に私達にも非があるみたいな決め付けが気に入らないから潰すわよ!」

 

「それが本音かい⁉……ったく、トンでもねぇジャジャ馬だぜ」

 

「何よ、少なくとも足手まといにはならないつもりよ」

 

「……好きにしろ」

 

正義は無愛想にシャルルの言い分を聞き入れ、シャルルはフフンと鼻を鳴らす

 

当然、シャルルはウェンディも同伴するよう説得を開始

 

それと同時にジュビアはアスタロト家元当主と話し込んでいた

 

「ジュビア、何もキミまで行かなくても!もしもの事が遭ったら―――」

 

「いいえ、お父さま。ジュビアもアスタロト家の息女です。何もしないで待つのは嫌です」

 

どうやら彼女もこの問題をヒトに任せて放っておく事が出来ないようだ

 

本来なら護衛対象を危険に晒すわけにはいかないのだが……幽神正義は気に留めなかった

 

「どうする、兄貴?」

 

(みずか)ら決めたのなら文句は言わん。好きにしろ」

 

ジュビーンッ!

 

正義の“好きにしろ”と言う一言にジュビアは過剰に反応する(謎の擬音付きで)

 

それもその筈―――何せ彼女の耳にはこう聞こえたのだ……

 

『好きにしろ、ジュビア。そして結婚しよう』

 

180度どころか300度以上間違った解釈をしたジュビアは脳内にハートマークを溢れさせ、心中でガッツポーズをする

 

『ああ……っ、初めてなのにジュビアの想いをそこまで……!決めましたっ、ジュビアは全身全霊をかけて期待に応えます!幽神さん―――いえ、正義さまっ』

 

ゾゾ……ッ!

 

『―――ッ⁉また嫌な悪寒が走った……ッ。何だ、さっきからまとわりついてくる怖気(おぞけ)は……?』

 

正義は自分で爆弾を起動させてしまった事に気付いていなかった……

 

それもただの爆弾ではなく、恋する乙女(ジュビア)と言う誰にも解除できない爆弾

 

その後、ウェンディの説得も終わり―――幽神兄弟、リント、ジュビア、ウェンディ、シャルルの教団迎撃チームが結成された

 

「んで、このまま正面から突っ込むのか、兄貴?」

 

「いや、途中まで進んで―――そこからは二手(ふたて)に分かれる」

 

「正義パイセン、何か策がありますかね?」

 

「猪突猛進しか能が無い烏合(うごう)の衆に効果覿面(こうかてきめん)のやり方だ」

 

 

―――――――――――――――

 

 

場面変わって過激派教団の簡易アジト内部

 

祭壇らしき場で祈りを捧げる神官

 

つまり、この教団の総帥とも言える老人が得体の知れない呪文を唱え続けていた

 

一通り呪文を唱えると息を整え、近くの椅子に腰掛ける

 

「ルードヴィッヒ神官、全支部の信者が(つど)いました」

 

神官・ルードヴィッヒに信者の集結完了を報告しに来たのは―――フードを目深(まぶか)に被り、刀を携行する男

 

恐らくは教団の幹部だろう

 

報告を受けた神官が「そうか」と淡白に返す

 

「総勢3000人、(けが)れし悪魔の一族―――アスタロト家およびヴァサーゴ家の浄化、信者どもは既に躍起になっております」

 

「……じきに穢れた悪魔の魂は浄化され、その浄化によって我々は更なるお言葉を得る。悪魔祓いの極みと称される(すべ)(たまわ)る為に―――」

 

「全ては悪魔祓いの極みと称される術の為に」

 

「先に信者の士気を上げておくのだ。後に向かう」

 

祭壇の間から退室し、外へ向かう石造りの廊下にて―――男は他のメンバーと鉢合わせする

 

「いよいよ、穢れた悪魔の浄化が始まるのね。カゲマル」

 

フードの刀使い―――カゲマルに話し掛けてくるのは東洋風の和装をしたお下げ髪の女性

 

気の強そうな口調に加え、和装に包まれた豊満なバストが揺れる

 

「ヒメガミか。信者達の士気を上げておけと神官より(うけたまわ)っている。そっちの様子はどうだった?」

 

「既に信者の士気は最高潮よ。後は進軍あるのみ、心配いらないわ」

 

和装の女性―――ヒメガミ・フブキがやれやれと言った感じで首を振る

 

「神官さまは心配性よね。でも、警戒は(おこた)らない方が良いみたい。私達の事を嗅ぎ回ってる連中がいるのは確かだし」

 

2人の話を聞いて、大きな花のような帽子を被った少女―――フローラ・コスモスが言う

 

彼女もまた豊満なバストを持っており、上乳を露出させるような服装をしていた

 

「フローラ、それは本当か?」

 

「ええ、私の可愛い植物達が教えてくれたわ。私達と似たような人達をグリゴリが雇ったらしいの」

 

「ムムム、それは何とも遺憾な話ですな。我々の浄化作戦が阻止される事など、あってはなりませんぞ」

 

修行僧のような出で立ちにハゲ頭の太った男―――フトルモン・ゼツが合掌しながら敵について危惧する

 

そこへ背中に戦斧(バトルアックス)、腰に片刃刀(スクラマサクス)(たずさ)え、頭部も兜で(おお)った全身鎧(プレート・アーマー)の騎士―――スティブナイトが割って入る

 

「運命の(さい)はどちらに転がるか……」

 

「たとえ誰が相手であろうと、我々の信仰の邪魔はさせない。何人(なんぴと)たりとも浄化するまでだ。行くぞ」

 

教団の幹部達が外に出て、信者達の前に集結する

 

(おびただ)しい数の信者

 

『はぐれ』となったエクソシスト、神父、シスター、異能者等が老若男女問わず揃っている

 

(しばら)くして神官ルードヴィッヒが幹部および信者達の前に現れた

 

「信者の諸君、今日はよく集まってくれた。この浄化作戦をもって穢れし悪魔の一族―――アスタロト家とヴァサーゴ家の者どもに我々の信仰心を見せてやるのだ」

 

神官が杖を掲げて宣告する

 

「全ては我々が信仰せし、悪魔祓いの極みと称される(すべ)とお言葉を(たまわ)る為!『禍の団(カオス・ブリゲード)』などと言う下賎(げせん)な者どもの手を借りた悪魔に――聖なる鉄槌を下せ!」

 

「「「「「オォォォォォオオオオオオオッ!!」」」」」

 

神官の言葉に信者達もそれぞれの武器を掲げて吼える

 

総勢3000人の信者達を引き連れ、教団は進む……

 

「全ては悪魔祓いの極みの為に!」

 

「全ては悪魔祓いの極みの為に!」

 

「全ては悪魔祓いの極みの為に!」

 

進軍している様子はまるで黒い絨毯(じゅうたん)……

 

軍勢の中央に位置する幹部達も、この光景は壮観だと称していた

 

(しばら)く進み、中間地点たる広大な荒れ地に差し掛かると―――信者の1人が報告してくる

 

「前方に複数の人影を確認!」

 

「ほう、誰だか知らぬが……我々の信仰の邪魔をする愚か者がいたのか。―――浄化しろ」

 

フードの刀使いカゲマルの指示を受けて信者達が動く

 

武器を持った信者が100人程の数で攻めようとする

 

「浄化作戦の邪魔はさせん!」

 

「我々に(あだ)なす愚か者にも浄化の鉄槌をーッ!」

 

「聖なる裁きを受けよーッ!」

 

信者達の怒声が轟音と共に響いた直後―――凄まじい衝撃によって吹き飛ばされていく

 

信者達は散り散りに宙を舞い、大地に叩きつけられる

 

ざわめく信者達の前に立ち塞がったのは―――幽神悪堵、リント・セルゼン、ジュビア・アスタロト、そしてウェンディ&シャルルのヴァサーゴ姉妹だった

 

神器(セイクリッド・ギア)―――『拳獄の手錠(ライジング・ギア)』を右手に展開した悪堵が、拳の一撃で100人単位の信者を吹き飛ばしたのだ

 

口の端を吊り上げて悪堵が言う

 

「浄化だと?やれるもんなら、やってみやがれッ!」

 

悪堵が放った開戦の一撃の威力を見て、ウェンディとシャルルは感嘆する

 

「す、凄いです……っ」

 

神器(セイクリッド・ギア)なんて持ってたの……?とんでもない破壊力ね……」

 

「こりゃ驚きましたな。敵さんが100人くらい吹っ飛びましたよ」

 

リントも爽快とばかりに感心していた

 

一方、ジュビアは―――何故か涙目でイジけている様子だった……

 

シャルルがジュビアを軽く叱る

 

「ちょっとジュビア、これからあいつらを倒すんだからシャキッとしなさいってば」

 

「あぅぅ~……正義さまと一緒が良かったのにぃ~……」

 

……どうやら幽神正義が別行動をしている為に悲愴に暮れていたようだ

 

そこでシャルルがジュビアに耳打ちする

 

「今ここでポイント稼いでおけば、見直してくれるかもしれないわよ?」

 

ジュビーンッ!

 

シャルルの助言によってジュビアの目が光り、彼女の脳内に妄想が走る

 

『ジュビア、よく頑張ったな。結婚しよう』

 

……相変わらず通過点を飛ばした結末にジュビアのやる気が更に上がる

 

「ジュビアっ、頑張ります!」

 

気合いと共にジュビアの魔力が高まり、シャルルは“やれやれ”と肩を(すく)めた

 

先程の一撃で教団は出鼻を(くじ)かれたが、直ぐに突撃を再開してくる

 

悪堵は意気揚々と拳を打ち鳴らし、禁手(バランス・ブレイカー)の鎧を身に纏った

 

大地を蹴って駆け出し、突撃してきた教団の連中を拳で吹き飛ばす

 

振り下ろされる武器、飛んでくる魔術も軽々と弾き返し、悪堵は容赦なく拳を叩き込んだ

 

「思ったよりやるじゃない、アイツ」

 

「で、でも……あんまりやり過ぎないようにしないと……」

 

「そう言ってる間に来てるわよ、ウェンディ!」

 

シャルルの言う通り、ウェンディ達の前に教団の信者が立ち塞がる

 

エクソシスト特有の祓魔弾(ふつまだん)による銃撃、光の剣による斬撃、魔術が彼女達にも襲い掛かってくる

 

シャルルとウェンディは足元に魔法陣を展開し―――そこから激しい風を発生させて、向かってきた攻撃を回避する

 

2人は風をメインとした魔力に特化しているのだ

 

教団の攻撃を次々と(かわ)し、縦横無尽に飛び回る

 

ウェンディは手元に魔法陣を展開して―――強烈な竜巻の波動を撃ち放つ

 

竜巻に呑み込まれた信者達は上空に跳ね上げられ、地面に叩きつけられた

 

その後もウェンディは風の魔力を応用した加速で教団の攻撃を回避、信者達をパンチと蹴りで打ち倒していく

 

「何だ、この娘はッ!速すぎて当たらない⁉」

 

「あら、速いだけじゃないわよ」

 

驚く信者に蹴りを入れるのは―――ウェンディと同じく風の魔力で加速したシャルル

 

新体操のような身軽さで駆け巡り、こちらも信者達の攻撃をものともしない

 

ウェンディとシャルルの立ち回りを見て、信者達が口々に思う

 

『『『『生足とパンスト、ありがとうございますっ』』』』

 

―――ヴァサーゴ姉妹に対する下心だった……

 

一方、リントも信者達の攻撃を野性的な動きで回避しつつ、光の剣で斬り伏せていた

 

「斬って、(かわ)して、もう1回斬って躱してバキューンっス!」

 

掴みどころの無い動きで信者達を翻弄し、彼らと同じ祓魔弾を使用した拳銃を撃つ

 

ジュビアの方も信者達を圧倒していた

 

「くそっ、この女も強いぞ!」

 

「取り囲んで討ち取れ!」

 

「そうはいきませんっ!」

 

ジュビアが両手を広げて魔法陣を展開すると―――信者達の足下から水流が噴き上がり、彼らを容易(たやす)く吹き飛ばす

 

彼女は水の魔力を得意としており、使い方も富んでいた

 

水流が相手を呑み込む、弾き飛ばす、時には水を刃のように飛ばして相手の武器を切り裂く

 

鞭の如くしならせて信者を絡め取り、振り回して周りを薙ぎ払う

 

上級悪魔だけあって実力は申し分無かった

 

ジュビビーンッ!

 

―――ここでジュビアは何かを察知したのか、信者達の後方に視線を移す

 

『感じますっ、正義さまが敵を倒しながら―――ジュビアの方に近付いてくるのを……ッ!』

 

 

―――――――――――――――

 

 

「何事だ」

 

「し、神官さま!後方より敵襲ですッ!」

 

幹部達と共に軍勢の中央にいる神官が、信者の1人から報告を受ける

 

かなり慌てた様子だった

 

「我々を嗅ぎ付けた軍でも来たのか」

 

「そ、それが……敵は1人です!たった1人に―――後方の信者達が蹴散らされています!」

 

信者の言う通り、後方の軍勢は“1人の鎧人(よろいびと)”―――別行動を取っていた幽神正義によって壊滅的な被害を受けていた

 

正義が立てたプランとは挟撃(きょうげき)だった

 

前方の悪堵達が敵の注意を引き付けておき、その隙に無防備となった背後から強襲する

 

退路を絶たれた上、このまま軍勢を蹴散らされれば詰みとなる……

 

幹部の1人、カゲマルが神官に告げる

 

「神官、ここは我々にお任せを。奴らの勢いを殺してまいります」

 

「ウム、頼んだぞ」

 

神官より了承を得て、教団の幹部達が動き出す

 

「これより奴らの排除に当たる。薄汚いネズミどもに我々の信仰心を思い知らせてやろう」

 

「で、どちらに行けば良いのかしら?」

 

「後方から攻めてくる奴が恐らく1番の手練れだろう。2人がかりで確実に潰せ。残ったメンバーで前方に向かう。ヒメガミ、フローラ、後ろを任せても構わないか?」

 

「了解」

 

「任せといて」

 

「では、行くぞ!」

 

カゲマル、フトルモン、スティブナイトが前方に、ヒメガミとフローラが後方に駆け出していく

 

一番手に飛び出したカゲマルが刀を鞘から抜き、信者達を倒していたウェンディに斬りかかろうとする

 

「くたばれ、穢れし悪魔よッ!」

 

「ふえぇっ⁉」

 

突然の奇襲に驚くウェンディ

 

カゲマルの刀がウェンディに振り下ろされる寸前、間一髪シャルルがウェンディを抱えて回避した

 

「ウェンディ、しっかりしなさい!」

 

「ごめん、シャルル……っ」

 

ウェンディを救出したものの、シャルルは衣服の端を斬られていた

 

彼女は刀を向けるカゲマルを睨み付ける

 

「ちょっとアンタ!レディにそんな危ない物を振り回してんじゃないわよ!」

 

「たわけ、悪魔が何を言う。穢れた存在が我々の信仰の邪魔をする事自体愚かだ。せめてもの情けに苦痛なき浄化を与えてやる!」

 

カゲマルは再び刀で斬りかかろうとするが、それに気付いた悪堵が乱入してくる

 

悪堵の拳を(かわ)したカゲマル

 

すかさず悪堵の鎧に一太刀を入れる

 

「やるじゃねぇか、日本刀(ボントウ)使い」

 

「貴様も悪魔の一員か。悪魔のくせに拳を使うとは奇異なもの。だが、拳で私に勝てると思うな」

 

「あぁ?」

 

「―――剣術三倍談。素手の者が刀を持つ者と互角に戦うには、3倍の段数が必要とされる。私の一刀流剣術は指南免状まで達している。我が神速の刃に浄化されるが良いッ!」

 

頭上に構えた刀をダッシュすると同時に振り下ろすカゲマル

 

悪堵はそこから1歩も動かず―――オーラを纏わせた右の拳で弾いた

 

この結果にカゲマルは驚愕し、悪堵が得意気に語る

 

「ヘヘッ、残念だけどよぉ、そんな御託は俺には通用しねぇんだ。武器を使う奴ってのは―――武器を破壊されりゃあ途端に弱くなる。俺はそういう奴らを何人も見て、ぶちのめしてきた。つまり……」

 

構える悪堵から滲み出てくるオーラがどんどん強くなっていく……

 

「俺にとって武器使いは(むし)ろ―――おあつらえ向きの獲物(ひょうてき)って事なんだよッ!!」

 

その場を駆け出した悪堵が猛烈な拳打のラッシュを繰り出し、カゲマルは何とか刀でそれらを防いでいく

 

しかし、刀での防御は対処が遅れがちになってしまう為……攻撃に転じる事が出来ない

 

『……ッ!コイツの拳ッ、なんて威力だ……ッ!この私がッ、徒手格闘の相手に防戦を()いられている……ッ⁉バケモノか、コイツは……ッ!』

 

カゲマルとの立ち合いは完全に悪堵が主導権を握っていた

 

しかし、次なる幹部の魔の手がシャルルとウェンディに迫る

 

2人の前に対峙したのはハゲ頭の修行僧――――フトルモン・ゼツ

 

「ンンンンッ、お主達はこの拙僧(せっそう)がお相手致しましょうぞ!目眩(めくるめ)くお仕置きの世界へっ、お主達を(いざな)ってしんぜようッ!」

 

フトルモンが前方に円を描くように手を回すと―――不気味な魔法陣の中から三角木馬が出現してきた

 

その木馬には彼の名前が漢字で……『太流悶絶(フトルモン・ゼツ)』と刻まれている

 

フトルモンが召喚した三角木馬を見て、シャルルが「趣味悪いわね」と一蹴する

 

「我が愛馬を侮辱するか、悪魔の娘よ!その不浄な振る舞いを清めたまえッ!」

 

フトルモンがビシッと手を前に突き出すと、三角木馬が地を滑るように突進していく

 

シャルルは腰に手を当てて溜め息混じりに毒づく

 

「こんなヘンテコな馬に何が出来るのよ」

 

「―――と思わせて、実はただの捕獲器!」

 

フトルモンが指を動かした途端、三角木馬の口や胴体が開き―――中から拘束に使われる縄が飛び出してくる

 

完全に虚を突かれたシャルルは反応が遅れ、三角木馬が出した縄に縛られてしまう

 

更に両足にもそれぞれ縄が絡まり―――強制的にM字開脚のポーズをさせられる

 

「えぇぇえっ⁉ちょっ、ちょっと!何これ⁉」

 

「シャルルってば、そんなエッチなポーズを……っ」

 

「私がやってるわけじゃないわよ!」

 

「フフフッ、穢れた悪魔の娘にはお似合いの格好であろう」

 

「穢れてるのはアンタの方よ!この変態!ハゲ!」

 

「オゥフッ、小娘の(ののし)りが染み渡るぞぉ……っ」

 

フトルモンはドMの変態でした……

 

変態の眼孔がキラリと光り、その視線が今度はウェンディに注がれる

 

危険を感じたウェンディは直ぐに逃げようとしたが……地面から出てきた拘束具に足を掴まれ、両手も縛られる

 

これもフトルモンの仕業であり、ウェンディはその場から逃げる事が出来ない……

 

フトルモンはジリジリと歩み寄りながら、(みずか)らの(ふところ)をまさぐる

 

「さあ、お主にも特別なお仕置きをしてやろうぞ。名付けて―――“おしゃぶりチュパチュパ責め”だ」

 

「お、おしゃぶり……ですか……っ?」

 

恐ろしく聞こえてくる響きにウェンディは涙目となり、フトルモンが懐から赤ん坊がくわえるおしゃぶり―――の形をしたキャンディを取り出す

 

それをウェンディにくわえさせ、更に「チュパチュパするのだ」と(うなが)

 

ウェンディはとりあえずおしゃぶり型キャンディ(ミルク味)をチュパチュパする事に……

 

「どうだ?良い年頃の娘がおしゃぶりを口に押し込まれ、まるで赤ん坊のようにされる気分は。まさに顔から火が出る程の赤面もの。―――そのまま“バブゥ”と言いなさい!」

 

「……バ、バブゥ~……っ」

 

ウェンディは顔を赤くしながら流れに流されて赤ちゃん言葉を発し、それを聞いたフトルモンは何故か満足そうに(うなず)いた

 

「……幼女の幼児退行、拙僧にとってはご褒美である♪」

 

「ウェンディに何させてんのよーっ!!」

 

ドガッ!

 

M字開脚の拘束から脱出したシャルルが怒り心頭のドロップキックをフトルモンに食らわせ、フトルモンは「ひでぶっ!」と地面を転がり回る

 

シャルルは急いで手に風を集め、ウェンディを捕らえている拘束具を切り―――おしゃぶり型キャンディを没収した

 

「ウェンディ!いつまでしゃぶってんの!」

 

「あうぅ……恥ずかしかったよぉ……っ」

 

「よくもレディにこんな(はずか)しめを……!アンタッ、生きて帰れると思わないでよっ!」

 

フトルモンは立ち上がり、尚も余裕の態度を見せる

 

「フフフッ、その意気や良し。拙僧もまだまだお仕置きを披露したいのでな。さて、次は如何なるお仕置きを与えてやろうか。水責め、鞭責め、蝋燭(ろうそく)責めに足裏ペロペロ―――どれでも好きな責めを申したまえ。……逆にお主らが拙僧にしても構わんぞっ」

 

「頬を染めるなーッ!!」

 

シャルル&ウェンディVSフトルモンの戦いが混沌を極める中、リントは全身鎧(プレート・アーマー)の鎧騎士―――スティブナイトと対峙していた

 

スティブナイトは右手にバトルアックス、左手に片刃刀(スクラマサクス)を握る

 

「その装備から察するに教会の者か。何故悪魔に加担する?」

 

「いやー、ちょいとワケありなんスよ。自分、これでも教会の異端者を追わなきゃいけない立場にあるもんでね。すみませんけど敵対させてもらいます」

 

「ふん、ならば叩き潰すまでだ」

 

そう言った直後、スティブナイトはバトルアックスを素早く横に振り抜いた

 

しかし、そこにリントの姿は既に無く―――リントはスティブナイトの頭上に跳んでいた

 

リントは左手に持った銃で祓魔弾を撃ち、更に降下して斬りかかろうとする

 

スティブナイトは左手の片刃刀(スクラマサクス)を回して祓魔弾を防ぎ、リントの光の剣を刃で受け止める

 

そこからバトルアックスの側面で叩こうとするスティブナイト

 

リントは咄嗟にバトルアックスが来るタイミングに合わせて、側面を踏み台にするように飛び退いた

 

振り抜かれたバトルアックスの風圧が周囲の地面を破壊する

 

リントは素早い動きで翻弄しつつ、距離を詰めていく

 

スティブナイトのバトルアックスが振り下ろされるが、その一撃は大地への空振りに終わる

 

地に突き刺さった隙を突いて、リントが光の剣を見舞うが……スティブナイトの全身鎧(プレート・アーマー)には刃が通らなかった

 

「ありゃりゃ」

 

「隙ありだ」

 

スティブナイトの力任せに振り抜くバトルアックスがリントに襲い掛かる

 

リントは間一髪避けたものの……胸元を少し切り裂かれた

 

「硬いっスね~、鎧の旦那」

 

「当然だ。俺の鎧は対魔獣用に作らせた特注品、そんな剣や銃ごときで破られる代物ではない」

 

スティブナイトが片刃刀(スクラマサクス)の切っ先をリントに向ける

 

「悪いが、我々の信仰の為に死んでもらうぞ。穢れた悪魔を浄化して―――悪魔祓いの至高を(たまわ)るんでな」

 

「死ぬのはゴメンですな。自分もまだまだ生きていかなきゃいけない身なんスよ」

 

気合を入れ直して身構えるリント

 

だが、ここでジュビアがいない事に気付く

 

『アスタロトのお姉さん、さては正義のパイセンの所に行きましたか。血相変えて飛び出していったって事は……何かヤバそうな感じになってるんスかね?』

 

 

――――――――――――――――

 

 

その頃、教団を後方から単独で攻め込んでいる正義は順調に信者達を蹴散らしていた

 

ただでさえ強い上に、禁手化(バランス・ブレイク)した正義を止められる者は早々にいない

 

蹴りを繰り出す度に地面が()ぜ、信者達が宙へ吹き飛ばされる

 

「まだやる気か?」

 

正義が睨みを利かせて威圧、その迫力に教団の信者達は完全に臆してしまう

 

そろそろ片付けようかと構えた直後―――正義に嫌な予感が走り、空を切るような音と共に何かが飛来してくる

 

正義は飛んできた何かを蹴り落とし、正体を確認する

 

『―――紙だと?今のは金属を蹴ったような感覚だった……』

 

正義の言う通り、飛んできたのは紙だったが……手裏剣の形をしていた

 

怪訝に思う正義の前に2人の女性が現れる

 

「やるじゃない、単独で攻めてくるだけの事はあるわね」

 

「でも、それもこれまで。私達の連携であなたを浄化してあげる」

 

不敵な笑みを見せるのはヒメガミ・フブキとフローラ・コスモス

 

2人の姿を見た正義は―――スッと目線を逸らした……

 

『何故だ……!何故、俺の前に(きわ)どい女ばかり現れるんだ⁉どいつもこいつも俺を殺そうとする爆乳(ばくだん)を抱えやがって……ッ!!』

 

正義の己の女難の悪さに(いきどお)り、地面に八つ当たり

 

ヒメガミとフローラは(いぶか)しげに(うかが)

 

「目を逸らしたと思ったら、急に怒りだした?何なの?」

 

「きっと私達の恐ろしさをたった今知って、自分の愚かさに気付いたのよ」

 

全然違います(笑)

 

それはさておきとヒメガミは胸元から赤い紙の束を取り出す

 

『―――ッ!あの女、胸元(そんなところ)から出すな……ッ!』

 

「舞え―――赤紙(あかがみ)!」

 

ヒメガミが赤い紙を幾重にも投げ放つと、紙が炎と化して正義を焼き払おうとする

 

正義は左足の蹴りで炎を消し、上空へ飛び上がる

 

そのまま降下して蹴りを見舞おうとした刹那、ヒメガミを庇うように地面から(いばら)の壁が出現する

 

茨の壁に蹴りを阻まれた正義は後方に飛び退く

 

「貴様の仕業か」

 

「ふふっ、そう。私の可愛い植物の養分にしてあげる」

 

不敵に笑むフローラもヒメガミと同様―――胸元から植物の種らしき物を取り出す

 

『だから、胸元(そんなところ)から出すなッ!!』

 

声に出せない事情ゆえ、心中でキレる正義

 

フローラは植物の種を地にばら蒔き、魔法陣を展開する

 

「育ちなさい―――グロウ・フラワー!」

 

フローラが唱えた瞬間、種を植えた場所から巨大な食肉植物が出現

 

不気味な鳴き声を吐き、花弁を開いて威嚇してくる

 

巨大植物が襲い掛かってくるが、正義はオーラを纏わせた左足で一蹴

 

植物は蹴り砕かれ、その破片が地面に舞い散る

 

『クソ……ッ、さっさと片付けねば……!』

 

嫌な予感を(ぬぐ)えない正義は焦りからか、早急に彼女達を倒そうと動く

 

まずは蹴りから弧月状のオーラを放つ

 

それに対してヒメガミが胸元から数枚の紙を取り出す

 

「守れ―――鋼紙(はがねがみ)!」

 

放り投げられた紙は金属のように硬化して、ヒメガミを守る壁となる

 

フローラも先程と同じ茨の壁を出して、飛んできた弧月状のオーラを防ぐ

 

爆煙が生じる中、正義は比較的耐久力が薄いと見た茨の壁に向かって駆け出す

 

螺旋状のオーラを纏わせた蹴りで、茨の壁を削り取っていく

 

壁の向こう側へ突き破った蹴りはフローラを(とら)えるが……紙一重で(かわ)されてしまう

 

「生意気よ!」

 

フローラが手を前に(かざ)すと、茨の先端から種子が砲弾の如く射出され正義に被弾

 

後方に飛ばされた正義は体勢を立て直して着地する

 

「チッ、今のを(かわ)した……か……っ?」

 

突然言葉が止まり、金縛りにあったかの如く硬直する正義

 

その様子を見てヒメガミとフローラは(いぶか)しげに思うが―――ヒメガミがフローラを見て気付いた

 

「ちょっ、ちょっと!フローラ!」

 

「どうしたの、ヒメガミ?そんなに慌てて」

 

「む、胸!胸が出てる!」

 

「え?」

 

プルルン……ッ

 

フローラがゆっくりと視線を胸元に下ろすと―――自分のおっぱいが見事丸出しになっていた

 

実は正義が茨の壁を突き破った時、間一髪直撃を避けていたフローラだったが……蹴りの風圧によって服の胸元が切り裂かれていたのだ

 

正義が止まったのも、フローラの生乳を目撃してしまった為である……

 

それに気付いたフローラの顔がどんどん赤くなっていき、彼女の口から悲鳴が……

 

「い、いやぁぁあ――――」

 

ゴブシャァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

悲鳴が上がる前に正義は鼻血を大噴射

 

兜の隙間から溢れ出てくる血が地面を真っ赤に染め、多量の血を失った正義がガクンと膝からくず折れる

 

正義の突然の大量出血にフローラの悲鳴が中断に終わり、ヒメガミもキョトンとする

 

「……?何もしてないのに、あんなに血を……?」

 

「まさかとは思うけど……アイツ、女に弱い?」

 

正義の弱点に勘付いてしまったヒメガミ

 

とりあえず自分の魔術を(ほどこ)した紙でフローラの胸を隠してあげる

 

正義は大量の血を失ったショックとフローラのおっぱいを見てしまったショックで足取りが覚束なくなり、膝まで笑い始めた

 

『い、いかん……!余計な事を考えるな!意識を集中させろ!心を乱さず、落ち着かせれば……これしきの事でゴプァッ……!』

 

今の正義に平静を(たも)つのは無理だった

 

正義の容態を見て、ヒメガミが確信を得る

 

「やっぱり、そうね。さっきので確実に弱ってるわ。フローラ、どうやら今がチャンスみたい」

 

「これ、チャンスって言えるの?嫁入り前なのに見られて……っ」

 

「その恨みを存分にぶつけてやれば良いのよ」

 

「……そうねっ、私の純潔を(けが)した罪、あの男の体で(つぐな)ってもらうわ!」

 

好機とばかりに戦意を高めるヒメガミとフローラ

 

(もだ)え苦しむ正義に危機が迫る……

 

 

―――――――――――――

 

 

ジュビビビーンッ!

 

『―――っ。ジュビアの“正義さまセンサー”に危険信号……?正義さまの身に何かが遭ったに違いありませんっ。待っててください、ジュビアが今すぐ参りますっ!』

 

 

幽神正義に新たな爆乳(ばくだん)の持ち主が迫り来る……




もう幽神兄弟回じゃなくて、正義女難の回になりそう(笑)

ちなみに教団の幹部女子2人もフェ○リーテイルのキャラを元にしました。

あの作品の女の子、可愛いのが多すぎますっ(褒め)

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