ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

212 / 263
幽神兄弟メインの回、始まります!


護衛任務のブラザーズとセルゼン(前編)

「良い天気だねぇ」

 

この日、アザゼルは暇をもて余していたのか―――小さな釣り堀に出向いていた

 

釣糸を垂らし、魚が食い付くのを待つ

 

この釣り堀は堕天使側が経営する施設の1つで、今はアザゼルの貸し切り状態にしている

 

更に周りには誰もおらず―――リアスや新、一誠達さえもいない

 

その理由は……これから“とある人物”が訪れ、内密に話を進めるからである

 

身内にさえ隠す話とはいったい何なのか……?

 

(しばら)く魚が釣れない状態で待っていると、ようやくアザゼルが呼び出した人物が訪れてきた

 

「貴様がアザゼルか。どうやって俺達の出所(でどころ)を割ったか知らんが、こんな場所に呼び出して何の用だ?」

 

「総督をクビになって風当たりが悪いってのに、それでも俺らを呼び出すってどういうつもりだよ、オッサン」

 

訪れて早々にアザゼルへの疑心を追及する2人組

 

刺々しくなるのも無理はなかった

 

何故なら、アザゼルが呼び出した人物とは―――幽神(ゆうがみ)兄弟だったからだ

 

今やお尋ね者の賞金首へと成り下がった彼らを、アザゼルが呼び出していた

 

表向きは“神器(セイクリッド・ギア)所有者である彼らをグリゴリの監視下に入れる為の説得”と堕天使側には説明をしているが、アザゼルの思惑はそれだけじゃない

 

「まあ、そうカリカリしなさんな。釣りでもしながらゆっくり話そうじゃないか」

 

生憎(あいにく)だが俺達にそんな気分は無い。くだらん話をするようなら、帰らせてもらうぞ」

 

(きびす)を返して帰ろうとする幽神正義(ゆうがみまさよし)―――だが、アザゼルは彼を逃がさない

 

(ふところ)から1枚の写真を取り出す

 

「良いのか?俺の話を聞いてくれるなら、この写真をくれてやろうかな~っと思ってたんだが」

 

「俺に写真観察の趣味は無い」

 

「こいつはただの写真じゃねぇ。体育の授業でコッソリ撮った―――マット運動をしているアーシアのお宝写真だ」

 

「…………ッ」

 

アザゼルが出した交渉材料とはアーシアの写真だった……

 

幽神正義のアーシアに対する好意は既に知られており、アザゼルはそこを突いて(あらかじ)めアーシアの写真を撮っていたのだ

 

しかも、運動が苦手なアーシアが懸命にマット運動をしていると言う場面付きで……

 

アザゼルは悪い表情をしながら幽神正義に交渉を持ちかける

 

「さあ、どうする?おとなしく話を聞いてくれるなら、この写真を提供してやらん事もないぞ?今なら3枚セットとお得だ」

 

「…………ッ!…………ッ!」

 

「て、てめぇ!兄貴の弱みにつけ込みやがって!良い歳こいて恥ずかしくねぇのか⁉」

 

幽神正義の弟―――幽神悪堵(ゆうがみあくど)が激昂するが、アザゼルは「ハハハ!何とでも言え!」と悪戯な笑みを飛ばすだけだった

 

見かねた悪堵は右手に神器(セイクリッド・ギア)―――『拳獄の手錠(ライジング・ギア)』を展開して、殴り掛かろうとするが―――正義は手で制する

 

「……写真はいらん。写真はいらんが、話ぐらいなら聞いてやる」

 

「毎度ありっ、そうこなくちゃな。それじゃあ前金代わりに見せてやるか、ほれ」

 

「ふんっ、こんな写真を見たところで今更―――」

 

ブシャアァァァァァァアアアア……ッ!

 

僅か1秒で鼻血大噴射(笑)

 

「あ、兄貴ィ⁉言ったそばから鼻血が弧を描いてるぞ⁉いったい何がブシャアァァァァァァアアアア……ッ!」

 

弟も巻き添えで鼻血噴射(笑)

 

幽神兄弟は揃って付近に置いてあったバケツに顔を突っ込み、鼻血の()け口とした

 

それを見てアザゼルは苦笑い

 

「アーシアのブラジャーチラ見えでそこまで鼻血を噴くとは思わなかった……」

 

 

――――――――――――――――

 

 

「さて、死ぬか遺言を残すか決めろ。武士の情けと言うヤツで、どちらか選ばせてやる」

 

「まあまあ、そういきり立つなって。お茶目なジョークじゃないか」

 

「バケツ2杯分の出血をさせておきながらジョークと言い張るなら、俺の蹴りが貴様の頭蓋骨を叩き割るのもジョークで良いんだな?」

 

「いや、マジで悪かった。本題に入ろう」

 

止血と輸血を終えた幽神正義から刺々しい殺意を浴びせられ、アザゼルは早急に話を本題へ移す

 

ちなみに悪堵はまだ耐性が弱かったらしく、隣で仰向けになっている

 

話を始める前に正義が疑問を切り出す

 

「そもそも何か用件があるなら、何故兵藤達に言わない?」

 

「イッセー達は冥界での騒動直後で、今は休ませてやりたいんだよ。それに……この件はあいつらにあまり関わらせないようにしたかったんだ。何せ―――アスタロト家とヴァサーゴ家の問題だからな」

 

“アスタロト家”と言う一言を聞いた正義は眉根をピクリと動かす

 

魔獣騒動が終わった今でもアスタロト家は折り合いが悪く、冥界の貴族や市民からの風当たりもすこぶる悪かった

 

理由はディオドラ・アスタロトと『禍の団(カオス・ブリゲード)』の癒着

 

その1件がアスタロト家と懇意にあるヴァサーゴ家にも飛び火してしまい、両家は肩身の狭い思いをしている

 

正義もディオドラ・アスタロトの事は知っている―――と言うより、魔獣騒動の時に偶然出くわした

 

神風の手によって復活した白髪神父フリードと闇人(やみびと)村上京司(むらかみきょうじ)を惨殺し、復活したディオドラも消息不明となった

 

生死不明だが、正義にとって彼の生存など微塵も興味なし

 

正義は胸糞(むなくそ)悪い記憶を消して、話の本題に耳を傾ける

 

「ディオドラ・アスタロトの1件を皮切りに、アスタロト家とヴァサーゴ家は(しばら)く人間界の辺境の地に身を潜める事になった。傷心旅行って感じでな。ところが……何処で嗅ぎ付けたかは知らんが、タチの悪い過激思想のカルト教団連中が躍起になってアスタロト家とヴァサーゴ家を狙い始めた。―――“悪魔の浄化”と言う口実でな。『はぐれ』に踏み外した神父やエクソシスト、更には異能者の(たぐい)まで集まったもんだから手に余る。しかも、そいつらはいくつもの支部をあちこちに構えてやがる」

 

「つまり、その支部を1つ1つ潰してこいと?」

 

「いや、それは流石に無理がある。複数の支部を構えていると言ったが―――それぞれの場所が何処にあるか、お互いに知らないんだ。……見ず知らずのくせに目的だけ同じと言う組織ほど厄介なものは無い。だから、場所を割らせようとしても無駄だし、全ての支部の場所を調べてる時間も無い」

 

「なら、俺達にどうしろと?居場所が分からんようなら手の打ちようが無いんだが」

 

そう言ってくる正義に対し、アザゼルは「そこが今件の鍵だ」と前置きをしてから言う

 

「場所が特定できないなら、敢えて奴らを集結させてやれば良い。全ての支部の連中が集まる日程を見越して、お前ら2人を護衛として派遣する。支部を1つ1つ潰していては埒が空かないし、多勢で動けば奴らにも気取られる」

 

「アスタロト家とヴァサーゴ家を餌に(おび)き寄せ、一網打尽にすると言う事か」

 

「そういう事だ」

 

正義は(しば)し考え込み、アザゼルの要望に対して1つ訊ねる

 

「その護衛とやらをして俺達に何のメリットがある?たとえ(うけたまわ)っても、賞金首である俺達の立場など早々に変わったりしない」

 

「メリットならあるさ。それも踏まえて俺はお前らをスカウトしようと呼んだんだよ」

 

「スカウトだと?」

 

「ああ、この護衛の依頼を受けて(なお)かつ教団連中を捕縛できたなら、お前ら2人をグリゴリに配属、遊撃兼諜報部隊として活動させる。お尋ね者のお前らには嬉しいメリットだと思うが?」

 

アザゼルの依頼を受け、その任を果たせば―――幽神兄弟は賞金首からグリゴリの諜報部員として立場を変える事が出来る

 

グリゴリの監視下に置かれるなら、三大勢力でも納得の声が上がるだろう

 

彼らにとって悪い話ではない筈……

 

この話に対して正義が出した答えは―――

 

「良いだろう、その護衛とやらをやってやる。ただし、少しでも不審な考えを起こそうものなら―――その時は容赦しない」

 

「そんな事はしねぇよ、した覚えもない(笑)」

 

「……貴様の舌にも無駄な(あぶら)が乗っている事が分かった。口内に生えてる32本の歯ごと蹴り潰した方が良さそうだな」

 

「待て待て、冗談だ!早まるなって!冗談なんだから少しは聞き流してくれよ!」

 

「誰かが言っていた。貴様の冗談には悪意しか感じられないと」

 

「ひでぇ濡れ衣だな!」

 

幽神正義(コイツ)の前で下手な冗談は言わない方が良いかも……”とアザゼルは危惧した後、今件に関するもう1つの報せを伝える

 

「それから今回の1件にもう1人―――お前らと共に行動する奴がいる。そっちに関しては明日、直接会ってもらう事になる」

 

「余計な人手は邪魔になるだけだ」

 

「そうもいかないんだよ。万が一ってのも考えられるから、助っ人はなるべくいた方が良い。教団には正教会から追放された連中もいるもんで、ヴァチカンからの要請もあるんだ。なーに、足手まといにはならねぇ人材だから安心しろ」

 

「まあ、良い。好きにしろ」

 

疑いつつも幽神兄弟初の護衛任務が始まる事となった

 

 

―――――――――――――――

 

 

翌日の朝、幽神兄弟はアザゼルに指定された待ち合わせ場所に来ていた

 

場所は緑の看板が目印たるコンビニ―――ファミルーマート

 

2人は少し早めに集合し、朝食に買ったカップ麺を(すす)っている

 

ちなみに味は正義がイカスミパスタ味、悪堵がタコ焼き味だった

 

「兄貴、堕天使の元総督が言ってた人材って誰なんだ?」

 

「その点は俺も分からん。足手まといにはならないとは言っていたが……ただ……」

 

「ただ?」

 

「心なしか嫌な予感がする。あの時―――ヤツの目に面白がる悪意が見えた」

 

正義は研ぎ澄まされた警戒心の高さから、アザゼルの目に潜む悪意を見抜いていた

 

その証拠にアザゼルは当然の如く来ていない

 

合流してくる人物の正体も告げてない時点から、正義はアザゼルに対する不信感を(つの)らせていた

 

カップ麺を食べ終わり、空き容器をゴミ箱に捨てる幽神兄弟

 

「ただ1つ手掛かりがあるなら、ヴァチカンの要請もあったと言っていた。つまり―――何処ぞの教会から派遣されると言う事だろう」

 

「げーっ、教会出身かよ……。今の俺らが1番苦手なタイプじゃねぇか」

 

お尋ね者の兄弟に教会出身の助っ人と言う珍妙な組み合わせ

 

あまりにも似つかわしくない予想図に嫌気を顔に出していると―――幽神兄弟に声をかける者が現れる

 

「あのー、スンマセン。緑色のファミルーマートってヤツはここで良いんスか?」

 

随分と間の抜けた声に振り返る幽神兄弟

 

そこにいたのは……どう見ても普通じゃない感じの少女だった

 

白と黒が混じった髪をアップスタイルに纏め、体のラインが浮き彫りになる黒い戦闘服を着込み、その上からマントを羽織っている

 

正義の第六感が危険の警鐘を鳴らす中、少女はメモらしき紙を取り出し―――メモ、幽神兄弟に見比べるように視線を送る

 

「あー、やっぱり間違いないっスね。アザゼルの旦那が言った通り人相ワルワルっス。見た目で判断するのは失礼かもしれないんですけど、お陰でソッコー分かりましたよ」

 

『……アザゼルが言っていた同伴者とはコイツの事か……っ』

 

正義の嫌な予感がズバリ的中

 

少女はメモをしまってペコリとお辞儀をする

 

「えー、自己紹介がまだでしたね。自分はヴァチカンとアザゼルの旦那より(めい)を受けて、お二人のサポートに参りました―――リント・セルゼンっス。どもども、よろしくお願いしまっす」

 

軽い口調でありながら礼儀正しく接してくるリント・セルゼンに、幽神兄弟も簡単に自己紹介をする

 

「……幽神正義(ゆうがみまさよし)だ。こっちは弟の悪堵(あくど)

 

「イエスイエス、正義パイセンに悪堵パイセンですな」

 

「「パ、パイセン……?」」

 

「“先輩”を逆から読んでパイセンっス。自分、初めての共同作戦なもんで、パイセンのお二人からご指導もいただけたら良いなーとも思っております」

 

リント・セルゼンの飄々とした口調とノリについていけず、毒気を抜かれそうになる幽神兄弟

 

―――ここで正義のスマホに着信を知らせる振動音が鳴る

 

通話をオンにすると、アザゼルが『オッス、おらアザゼル!』とふざけた挨拶が飛び込んできた

 

「殺すぞ」

 

『だから、いきなり殺意を浴びせないでくれよ。本当に冗談が通じない男だな』

 

「冗談を言ってる暇があるなら説明しろ。貴様が寄越した同伴者―――あれは女じゃないか」

 

『あの胸とボディラインを見て女じゃなかったら、それはそれで問題だろ?実力だけじゃない、結構出るところも出てるから逸材だぞ』

 

「そういう事を言っているんじゃない。俺達に女を組ませるとはどういうつもりだと訊いている……ッ!」

 

幽神兄弟は女性に対して極端に免疫力が低く、それは女性のスカートが風で(めく)れると言う瞬間だけでも鼻血を大噴射してしまう程……

 

正義の問いに対して、アザゼルは―――

 

『これを機に鼻血癖を少しでも抑えられればと思ってな。(……ぷぷっ)、お前らにも根性を付けてやりたいと言う俺の心遣いだ』

 

「今、不愉快な笑い声が聞こえてきたが?」

 

『あ、バレた?単に面白くなりそうだから組ませてみた。ワリィ☆』

 

バキバキッッ!

 

アザゼルの余計な一言により正義の怒りは頂点に達し、スマホが粉々に握り潰される……

 

恐らくこの任務が終わった後、アザゼルは鬼と化した正義から報復を受ける事になるだろう……

 

スマホの破片をゴミ箱に捨てた正義は一旦気持ちを落ち着かせる

 

「……とりあえず、アスタロト家とヴァサーゴ家のもとに行くぞ」

 

「ラジャーっス」

 

 

――――――――――――――

 

 

『『気まずい……』』

 

アスタロト家とヴァサーゴ家の潜伏先へ向かう道中、幽神兄弟は終始無言だった

 

何せ相手は女子……女性関係に滅法弱い彼らは何を話せば良いのか、見当もつかない

 

リント・セルゼンはトコトコと幽神兄弟の後ろをついてくるだけ……

 

『兄貴、この空気を何とかしてくれよ……。もう俺には耐えられねぇ』

 

『無茶を言うな……っ、俺だって同じだ……!クソ……ッ!』

 

正義は脳をフル回転させ、この気まずい空気を解消できないか模索する

 

『……そう言えば、“セルゼン”と言う姓―――聞き覚えがあるな。それにこの女を見た途端、あの不愉快な神父の顔が頭の中に(よぎ)った……』

 

正義は“セルゼン”の姓から探りを入れる事を思い付き、リントに話を振る

 

「おい、リント・セルゼン」

 

「いえいえ、リントで良いっスよ。正義パイセン」

 

「……じゃあ、リント。お前は確かヴァチカン出身と言ったな」

 

「イエスイエス、正確にはヴァチカンの戦士育成機関の1つだったところ、フリードのアニキやジークのセンセと一緒でございやす」

 

「―――っ。やはり、そうか。お前はフリード・セルゼンの縁者(えんじゃ)……報復にでも来たか」

 

正義は警戒心を一層強めるが、リントは手を左右に振った

 

「おっと、気にしないでくださいな。自分は自分、アニキやセンセはアニキやセンセなんで。報復とか復讐心とか、これっぽっちもございやせん。あー、2人が迷惑をかけた事に関しては、あの機関を代表して謝ります。すみません、すみません」

 

軽口のまま頭を下げるリントに正義は警戒心を鎮める

 

「スマない、嫌な訊き方をしてしまった。忘れてくれ」

 

「ラジャーっス」

 

そこから無言の時間が(しば)し流れ、リントが口を開く

 

「自分が所属していたのは『シグルド機関』と言うところでしてね。英雄シグルドの血を引く者達の中から魔帝剣(まていけん)グラムを扱える『真のシグルドの末裔』を生み出すのが目的だったわけですわ」

 

「じゃあ、アンタとフリード・セルゼンは兄妹(きょうだい)って事か?」

 

悪堵の問いにリントは首を傾けて答える

 

「うーん、複数の遺伝子パターンから作られているんで、兄妹と言えば兄妹ですし、親戚と言えば親戚のような……。あー、フリードのアニキとはほぼ同一の遺伝子なので、同一人物と言えばその通りでもあるかなーって」

 

「同一の遺伝子か……。どうりで面影があるわけだ」

 

話から察するに、信徒である教会やヴァチカンが遺伝子を(いじ)ると言う非人道的な(おこな)いをしていたのが見えてくる……

 

バルパー・ガリレイの例もあり、今更ではあるが教会の闇は想像以上に深くエグいものだった

 

現在はだいぶ改善する方向で進んでおり、次々と怪しい研究をしていた機関は解散―――研究員には別の組織を紹介している

 

「いわゆる試験管ベイビーってやつっスな。機関は人工的にシグルドの末裔を作ろうとしていたと言う事っスわ」

 

「遺伝子の改良……神とやらを崇拝する組織が、神をも恐れぬ所業をしでかすとは、世も末だな」

 

刺々しい指摘を浴びせる正義だが、リントは豪快に笑うだけだった

 

「いやー、ははは、三大勢力同盟前はヴァチカンも混沌していましたからなー。たとえ教えに反しても結果的に天の為、神の為になるのならって言う狂信者、強欲に駆られたお偉いさんが跋扈(ばっこ)しておりましたってやつですわ」

 

「そんなに明るく教会の闇を語って良いのかよ⁉」

 

「重い話の筈なのに、軽く聞こえてしまうのが解せんな……」

 

リントは想像以上にぶっちゃけてしまう娘のようです……

 

「結果的にジークのセンセが一抜けでグラムを扱えてしまいましてね。基本的にその時点で機関の長年の宿願は完遂。ま、ジークのセンセはその後で意気揚々とヴァチカンからおさらばして、テロりまくっていましたけれども」

 

リントが話を続ける

 

「グラムを扱えるヒトが出ちゃったんで、機関は残された自分らに対して方針を変えて、『英雄シグルドの子孫が何処までやれるのか試してみよう作戦』に切り替えましたのです。―――と思ったら、今じゃそのグラムも持ち主変更と言うお知らせ」

 

「そうか。……ところで、セルゼンの姓を名乗っているのは何故だ?機関にいた頃、上に与えられたからか?」

 

正義は次なる疑問を彼女にぶつけてみた

 

フリード・セルゼンは教会や悪魔、三大勢力にとっても迷惑極まりない存在だった

 

セルゼンの姓を名乗ったら関係を疑われる上に強く警戒されてしまい、彼女にとって良い事は無い筈である

 

「うーん、まあ、色々な意味がありますな。ま、同じ遺伝子を持つ自分ぐらいは、ヤンチャしておっ()んだフリードのアニキの分まで生きてやろーかなってのと、同アニキが(おこな)った悪さの数々を(つぐな)えればなーと」

 

償いの為に生きる……幽神兄弟にとっては耳が痛くなる言葉だった

 

彼女自身が悪さを働いたわけじゃないのに、リントはフリードが犯した罪を償おうとしている

 

その事を当然のように言い切り、何1つ怨み(つら)みを吐かない

 

『……コイツもアーシア・アルジェントと考えが近しいな』

 

話をしている内にアスタロト家とヴァサーゴ家の潜伏先―――山奥の別荘に到着する

 

名家だけあって別荘もそこらのとは違い、豪勢な造りだった

 

『……こいつら潜伏の意味を分かってなくね?』

 

『堂々と紋様が(かざ)してある辺り、世間知らずにも程がある』

 

アスタロト家とヴァサーゴ家の紋様を確認しながらヒソヒソと耳打ちする幽神兄弟

 

インターホンを鳴らすとメイドと思われる女性が出て、「お待ちしておりました。お入りください」と告げられる

 

扉を開けて中に入るときらびやかな内装が視界に映り、メイドの案内で大広間に進んでいく

 

周りを見渡す正義、唖然と天井を見上げる悪堵

 

リントは「ほへ~、凄いっスねぇ」と(つぶや)いてキョロキョロ見回す

 

ソファーに座って待っていると、アスタロト家の“元”当主、つまり―――ディオドラの父親が入室してきた

 

(かしこ)まった様子でソファーに腰掛け、メイドがお茶を持ってきたと同時に話を始める

 

「この度は遠くまでお越しいただいて、ありがとうございます。アスタロト家“元”当主です。まずは私の息子―――ディオドラの起こした悪事が皆さま方にご迷惑を掛けた事を深く、深くお詫び申し上げます」

 

深々と頭を下げるアスタロト家の元当主

 

正義は心中で“謝る相手を間違えているだろ”と毒づくが、その点は後回しにするべく聞き流した

 

元当主が頭を上げる

 

「アザゼル殿よりお話は(うかが)っております。息子の1件が火種で我々アスタロト家とヴァサーゴ家は、過激思想の教団に命を狙われております。身から出た錆ゆえ、民や他の貴族からの非難は覚悟していましたが……私の認識が甘かったようです。友人のヴァサーゴ家当主と妻は心労で倒れ、使用人も次々と去ってしまい、今は人間界の辺境の地で隠居している身分です……。しかし、私ならともかく―――妻や子供達に危害が及ぶのは耐え難いものです。どうか、皆さま方の力をお貸しください」

 

アスタロト家元当主は再び頭を下げて懇願する

 

『ディオドラってヤツと違って、父親はまともじゃねぇか。どう間違えたらあんなクソ野郎が生まれてきやがるんだ?』

 

『相棒、言いたい事は分かるが抑えておけ』

 

コソコソと悪堵を(いさ)める正義

 

リントが胸をポンッと叩いて言う

 

「お任せくださいな。その為に自分らが派遣されてきたものでして」

 

「よろしくお願いします。そうだ、せっかくですから娘達にもご挨拶を」

 

『『……娘、達……?』』

 

急激に嫌な予感が走る

 

そして、その予感は再び的中してしまう……

 

アスタロト家元当主が立ち上がろうとした矢先、奥の一室から2人の小柄な少女が出てくる

 

「アスタロトのおじさま、こんにちは」

 

「ん、そこの3人は誰なの?」

 

「やあ、ウェンディ、シャルル。皆さま、紹介しましょう。彼女達はヴァサーゴ家の双子の姫君(ひめぎみ)です。ほら、2人とも挨拶しなさい」

 

アスタロト家元当主に(うなが)され、青い髪をツインテールに纏めた少女が挨拶をする

 

「はじめまして、ウェンディ・ヴァサーゴです。こっちは双子のお姉ちゃんの―――」

 

「シャルル・ヴァサーゴよ。アンタ達、誰なのよ?」

 

白い長髪を(なび)かせる少女―――シャルル・ヴァサーゴが不機嫌そうな表情と声音で簡素に訊ねてくる

 

正義と悪堵は嫌な予感が的中してしまった為、言葉が出せなかった……

 

そこでリントが2人の代わりに答える

 

「どもども。自分はアザゼルの旦那よりそちらさん方をお守りしに来ました、リント・セルゼンっス。んで、こちらのお二人も自分と同じガードマンの―――」

 

「……幽神正義」

 

「……幽神悪堵だ」

 

「あらら、何かテンション低いっスね。どうしましたか?」

 

首を(かし)げるリント、目線を逸らす幽神兄弟

 

その原因は―――やはりヴァサーゴ姉妹だった……

 

彼女達はお揃いのワンピース姿で露出もやや有り、シャルルは更に黒のパンストも穿()いている

 

幽神兄弟にとっては目に毒物のオンパレード……

 

再びシャルルが不機嫌そうに訊ねる

 

「ちょっとアンタ達、さっきならその目線は何処を向いてるの?ウェンディに変な視線を向けないでよね」

 

「……壁を見ているだけだ」

 

「そっちは床なんだけど?」

 

「シャ、シャルル……。そんな失礼な事言っちゃダメだよ。私なら気にしてないから……」

 

「もうっ、ウェンディ!アンタはいつもそうやって弱気だから、いつまでもディオドラの事で悪く言われるのよ!言われっぱなしで良いわけ⁉アンタは何も悪くないのに!」

 

「はぅぅ……っ、それはそうだけど……」

 

シャルル・ヴァサーゴの一方的な言葉攻めに発展してしまい、1秒でも早くこの場から離脱したい衝動に駆られる幽神兄弟

 

だが、この事態は序章に過ぎなかった……

 

ザワザワザワ……ッ!ザワザワザワ……ッ!

 

『―――ッ!な、何だ……この怖気(おぞけ)が混じった嫌な予感は……ッ⁉』

 

正義が不意に感じた悪寒(おかん)、その正体を確かめるべく視線が階段の方に向いてしまう

 

「お父さま、お客様ですか?」

 

「ちょうど良かった、キミもこちらの方々にご挨拶をしなさい」

 

階段を降りて来たのは―――ヴァサーゴ姉妹とは逆にスタイル抜群の美少女だった

 

ゆるふわのウェーブが掛かった青い髪

 

黒い帽子と黒い服装に身を包んでいても主張してくる2つの爆乳

 

(くび)れた腰に深いスリットから見える色白の美脚

 

彼女の美貌は正義の息の根を止めんとする程の威力だった

 

1段、また1段と階段を降りる度に彼女の爆乳が揺れる

 

『……ば、爆乳(ばくだん)が迫ってくる……ッ』

 

蛇に睨まれた蛙の如く固まる正義

 

アスタロト家元当主は自慢げに紹介する

 

「あの子はジュビア・アスタロト、私の娘であり―――ディオドラの姉です」

 

「ごきげんよう」

 

ジュビアの挨拶に対し、正義は無言で会釈した

 

そんな様子の正義を見たジュビアは―――

 

(……ポッ)




今回は女性キャラの登場多し!まずはリント・セルゼン!これは以前から提案がありました。

次にオリジナルキャラとなるヴァサーゴ姉妹とディオドラの姉!

察しが良い人は名前から分かるかと思います(笑)

そうです、三者ともフェ○リーテイルのキャラを元にしました


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。