ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

210 / 263
短編騒動編、開始です!


第15章 短編騒動のデイリーとシリアス
家族団欒のホームグルメ


「……………………」

 

時刻は夜19時25分、新は馴染みの酒場のカウンター席で酒を飲んでいた

 

いつもなら気分が少し高揚したりするものだが、今の新はとてもそんな気分にはなれなかった

 

理由は―――三大勢力間で流出された“神風の消滅”と言う見せしめ映像

 

新が注目したのはその映像に映っていた“あの男”だった……

 

泣き叫ぶ神風を見下ろし、嘲笑うユナイト・キリヒコ

 

更には神風を(おとしい)れた真の黒幕、元凶であった事も知り、ますます得体の知れなさと恐ろしさを深く認識する事となった

 

『……「禍の団(カオス・ブリゲード)」はほぼ活動停止、闇人(やみびと)も敵勢力は瓦解した。その漁夫の利を得て、今度はキリヒコやシド―――「造魔(ゾーマ)」の勢力が動き出す……。今まで静観してた組織が出張(でば)ってくるとなると―――』

 

「どうしたどうした、新。お前さんらしくもない。いつもなら3、4杯飲んでるのに今日はまだ1杯しか進んでないじゃないか」

 

深刻な表情を気取(けど)ったのか、新の向かいでシェイカー(カクテル等を作る為の調理器具)を振っている壮齢(そうれい)の男性が話し掛けてくる

 

行きつけの酒場のマスターであり、新が気軽に話せる数少ない人物―――イスルギ・タスク

 

裏社会の情報にも詳しく酒とツマミも好評なので、新は昔から通い詰めていた

 

「冥界での騒ぎも収まって、親父さんも釈放されてきたってのにまだ不平不満を(かか)えてるのか?」

 

「そりゃそうだろ。あの騒ぎが収まっても、また次の火種が上がりそうなんだよ。今なら延々と愚痴をこぼしそうだ。マスターだって知ってるだろ?」

 

「……ああ。三大勢力間で拡散されたんだっけ?あれは酷いな。一般社会に公開しないってのがまだ(あく)どい。……(ほとん)ど宣戦布告と見て間違いないだろう」

 

マスター・イスルギも“見せしめ映像”を見たようで、苦々しい顔つきをしていた

 

中級悪魔昇格試験、冥界での魔獣騒動が終息したのも束の間―――間髪入れずに悩みの種が芽を出そうとしている

 

「……マスター、ユナイト・キリヒコって奴の情報は持ってないか?『造魔(ゾーマ)』でも何でも良い、とにかく今は情報が欲しいんだ」

 

生憎(あいにく)、こっちも仕入れられる情報には限界があってね。今はお前さんの欲している情報が無いんだよ」

 

「そうか……」

 

「そもそも『造魔(ゾーマ)』に関しての情報がまだ少ないと言うか……たとえ入手しても殆どが口を閉ざしてしまうからな」

 

造魔(ゾーマ)』の情報入手は思った以上に(かんば)しくなく、更には報復を恐れて誰も口に出そうとしない……

 

“やはり、自分の足で情報を集めるしかない……”

 

“危険を(おか)して集めるべきか?”

 

“奴らが大きく動いたところで情報を集めるか?”

 

脳裏にそんな考えが(よぎ)り、何度も自問自答を繰り返す

 

新の表情が険しくなる中、マスター・イスルギがシェイカーを置いて言う

 

「……変わったよな、お前さん」

 

「ん?突然何だよ?」

 

「お前さんが真面目に考え込む姿なんて、今まで見た事無かったからさ。昔の新は酒を飲んでギャンブルしまくって、賞金首を仕留めて荒稼ぎしてたってのに。いつの間にか悪魔に転職して仕事熱心ときたもんだ。不定期なフリーターがブラック企業の社員にジョブチェンジってか?」

 

「おいおい、これでもまだ現役のバウンティハンターだぜ?本業が副業になっちまっただけだ。それに俺の何処が変わったんだよ?」

 

マスターに疑問を投げつけ、グラスの酒を飲み干す新

 

マスター・イスルギが話を続ける

 

「お前さんが一匹狼を気取らなくなったところ、かな?以前は報奨金優先で任務をこなしたり、同業者と結託したりもしていた。リアス・グレモリーって嬢ちゃんの眷属になってからは、すっかり丸くなっちまってる。毒気が抜けて年相応の感じになったなぁと思って」

 

「ふ~ん」

 

確かに昔の新は今じゃ考えられない程の落伍者だった

 

儲けた金で酒を飲み、競馬やギャンブルに(つい)やし、ダラダラと自由奔放に毎日を生きてきた

 

しかし、それと引き替えに彼は孤独だった……

 

唯一話が出来る同じ仲間も過去の事件が切っ掛けで確執が生まれ、その果てに死んでしまい、その自責の念に苦しんできた

 

孤独に耐えられる者などいない……

 

リアス・グレモリーと出会った事で新の人生は180度変わった

 

心の底から信頼できる仲間がいる事で、やっと本当の自分を出せる……

 

笑ったり、泣いたり、時には叱られたりと……バタバタした毎日を送っている

 

そこで感じられる幸せは嘘偽りの無いものだった

 

マスター・イスルギがグラスにカクテルを注ぎながら言う

 

「若い内は悩むのも成長の秘訣だが、あんまり悩み過ぎると早く歳を取ってしまうぞ?俺みたいなオッサンにならんようにな。俺から言える事はただ1つ―――今は素直に楽しめ。楽しむ時は楽しんで、仕事する時は気を引き締める。そうじゃないと人生を損するぞ」

 

「…………そうだな。マスターの言う通りだ。最近は気苦労が絶えないせいで、愚痴ってばかりだ。ガス抜きも大事ってか……」

 

少し気が楽になった新はグラスに注がれたカクテルを一気に飲み干す

 

まだ先の見えない『造魔(ゾーマ)』の情報集めは一旦保留、今は気を休める事にした

 

「マスター、いつもいつも愚痴を聞かせてゴメンな。お陰でスッキリしたぜ。また何か情報入手したら教えてくれ」

 

「おう、頑張れよ」

 

新はカウンターに代金を置いて、酒場をあとにしていった

 

 

―――――――――――――――

 

 

「それでね、私が不妊体質だから総ちゃんに迷惑かけちゃったのぉ……。でも、今は幸せ!総ちゃんも新ちゃんもいるし、いーっぱい女の子が増えたんだも~ん♪」

 

「え~っと……こいつはどういう事だ?」

 

新が自宅に着いてリビングに入った時、目の前に広がっていたのはカオスだった

 

テーブルにはカラッポのボトルが何本も散乱しており、リアス達も当惑している様子だった

 

「ヤーヤーヤー、私の息子のご帰還だよ~♪私の出所祝いを祝いたまえ~♪」

 

「わ~い♪新ちゃんだ~♪」

 

テーブルに座っているのは先日釈放された新の父親―――竜崎総司(りゅうざきそうじ)と、幼い姿を維持し続けている新の母親―――竜崎梓(りゅうざきあずさ)

 

今日は総司の出所祝いで新の家に飛び込んで来たらしい

 

2人とも酒が入ったせいか、いつも以上に陽気となっていた

 

「……おい、リアス、説明を頼む」

 

「あなたが少し外に出てる間、私達は夕食の準備をしようとしていたの。……その前にこの有り様よ」

 

「食前酒でこの量か……っ」

 

額に手を当て、ガックリと(こうべ)を垂れる新

 

竜崎夫婦だけではない……レイナーレ、カラワーナ、ミッテルトもこの食前酒飲みに当然参加しており、空けたボトルは総計で100本を超えていた……

 

「アラタ、遅かったじゃない」

 

「この2人、なかなかの酒豪だ。特にお前の母親はペースが早いぞ」

 

「おかえりぃ、アラタ~♪早速だけど何かおつまみ作ってぇ~♪」

 

完全に飲ん兵衛集団である……

 

リアス達もまだ夕食の準備が出来ておらず、手がつけられない状態となっていた

 

新はこの惨状を見て溜め息を吐き、ポリポリと頭を掻く

 

「仕方ねぇ、面倒だが久々に腕を振るうか……」

 

「新、あなた料理できるの?」

 

「簡単な酒のつまみなら作れるぞ。俺があいつらの相手をしておく。このままじゃ家の中にある酒が全部潰されちまうからな」

 

そう言って新はイソイソと冷蔵庫の中から食材を取り出す

 

取り出したのは角切りのクリームチーズと酒盗(しゅとう)(鰹の内臓の塩辛)

 

クリームチーズの上に酒盗を乗せ、あっという間に(さかな)の1品を完成させた

 

それをテーブルの上に置くと、酒豪軍団は揃って箸を伸ばす

 

酒盗の塩辛さとクリームチーズのマイルドさが互いの良さを引き立て合う

 

「さてと、次は……」

 

次に取り出したのは獅子唐(ししとう)

 

それからゴマ油、醤油、みりん、かつお節、酢等の調味料

 

まずは獅子唐を洗ってヘタを取り、切れ込みを入れる

 

フライパンにゴマ油を敷いてから獅子唐を焼く

 

その間、ボウルに醤油、みりん、かつお節、酢を入れてかき混ぜ、しんなりしてきた獅子唐を入れる

 

後は小皿に移せば―――獅子唐の焼き浸しが完成

 

「は、早いわね……」

 

「酒の肴は手軽に作れるものが丁度良いからな。とは言え……少し本気を出すか」

 

そう言った新の背中から黒いオーラが噴出、6本の漆黒の巨腕を形成

 

自前の腕と合わせて計8本、それぞれの腕で一気に肴の調理に入った

 

数分後……揚げ出し豆腐とゴボウ揚げとアジのなめろうを完成させ、テーブルに並べる

 

肴が到着したのを見て飲ん兵衛集団は大喜び

 

更に総司は意気揚々と焼酎のビンを取り出し、グラスに氷を入れてから注ぐ

 

「諸君、私の息子が作ったおつまみ達が到着したぞ~♪私がこれから美味しい食べ順を教えてしんぜよう」

 

「美味しい食べ順~?」

 

「焼酎のロックをより美味しく飲む為の秘訣さ☆まずは―――なめろう!」

 

総司はアジのなめろうに箸を伸ばし、口に運ぶ

 

なめろうを一口食べてから焼酎を飲む

 

それを見て堕天使3人娘も同じようになめろうを食べ、焼酎を飲む

 

「ぷは~っ。()みるな~♪相性バッチリ☆さて、お次は獅子唐!獅子唐の焼き浸しで口に残ったなめろうの臭みをリセットするのだ!」

 

獅子唐の焼き浸しを頬張り、口の中がサッパリしたところで―――カリカリのゴボウ揚げを食べる

 

細切りにされ、油で揚げられたゴボウの程好い食感を楽しみ―――すかさず焼酎を飲む!

 

「ぷは~っ!美味い!さすが新、自慢の息子だよ♪」

 

「この揚げ出し豆腐、ウマウマ~♪」

 

「クセになるわね」

 

新が作った肴は飲ん兵衛集団の心を鷲掴み、ここでメインの肴を仕上げる

 

作ったのは酒の肴の定番―――鶏の唐揚げ

 

それをテーブルの上に置き、飲ん兵衛集団が箸を伸ばす

 

新が作った唐揚げに舌鼓(したつづみ)を打つのを見て、リアスも思わず手を伸ばし―――食べてみる

 

噛んだ瞬間、外の衣はサクッと小気味良い音を立て、中はジューシーかつ肉汁を溢れさせる

 

つまりは――――

 

「……美味しい……っ⁉私や朱乃が作ったのより美味しい……っ!」

 

「常温の油で二度揚げしたからな。揚げ物は高温で一気に揚げるより、中火の油で二度揚げする方が美味くなるんだよ。その中でも唐揚げが良い例だ。2分くらい揚げたら一旦冷まして、もう一度軽く揚げる。一旦冷ます事で衣がサクサクの食感を生み出すんだ」

 

「奥が深いのね、唐揚げって……」

 

「俺が作れるのは酒のつまみ程度だが、ちょっとした工夫で何とかなる。……俺が通い詰めてる酒場のマスター請け売りだ」

 

新は唐揚げを1つ摘まんで口に放り込む

 

「……なあ、リアス」

 

「どうしたの、新?」

 

「やっぱり、何だかんだ言っても家族って良いよな……。こうして同じ場所で飯を食って、ワイワイ話して、温かいものだなって再認識できる……。独りでやってた時とは全然違う幸せだ」

 

以前はシビアに、そして堕落した日々を送っていた新

 

ここまで大きく変われたのもリアスや朱乃、一誠達との日々が長く凍てついた新の心を溶かしていったからだろう

 

造魔(ゾーマ)』やキリヒコの事で頭がいっぱいだったが、今は目の前の幸せが訪れている事を染々(しみじみ)と安堵する

 

リアスはそんな新に身を寄せた

 

「あらあら、羨ましい状態ですわね」

 

突然の声に振り向く両者

 

そこにはいつの間にか朱乃がいて、彼女も新に抱きついてくる

 

「リアスってば、新さんを独り占めしてズルいわ。私だって新さんの温もりを感じたいのに」

 

「朱乃!今は私が幸せに浸ってたのに邪魔しないで!」

 

「やーですわ。それより、新さんの唐揚げが美味しいって聞きましたわよ?私にも1つ貰えないかしら?勿論、新さんの口移しでね……」

 

「欲しいなら自分で摘まんで食べなさい!そう言って新の唇を独り占めする気なんでしょ⁉させないわ!」

 

「それはこっちの台詞よ!口移しで貰う勇気が無いヒトは黙っててくれる⁉」

 

「言ったわね⁉もう昔の私とは違うのよ!新!口移しするなら私にしなさい!主の命令よ!」

 

「またそうやって『(キング)』を主張して!いつまで『(キング)』の権利を行使するつもりなのよ!リアスのアンポンタン!」

 

「何よ!朱乃のおたんこなす!」

 

リアスと朱乃―――女同士のバトルが白熱し始めた……

 

ヤバい空気を悟ったのか、新は避難しようとするが……ガシッと2人に捕獲されてしまう

 

「何処へ行こうとしてるの、新?」

 

「逃がしませんわよ?」

 

「い、いや……俺が口を挟むのも余計だし……久々に飲んだくれようかな~って」

 

「そう、新も話したかったのね。良いわ、向こうでゆっくり話し合いましょう。私と朱乃、どちらを先に口移しするか決めてもらうわ」

 

「うふふ、そうですわね」

 

リアスと朱乃の黒い笑顔に危険を察知した新は何とか逃げようとするが、虚しく引きずられていくだけだった……

 

そこへ「ちょっと待ってもらおうか」とゼノヴィアが乱入してくる

 

「今、新が口移しすると聞いたんだが。そういう話なら私も参加させてもらおう!私に口移しするのは私だ!」

 

「事態が更に悪化!話をややこしくするな!」

 

「……その話、興味あります」

 

「三角関係じゃなくて四角関係に発展⁉ドラマの中だけだと思ってた世界が目の前で起こるなんて!」

 

「きょ、教師としてそう言った話題は本来止めなければなりませんが……立会人という形で聞くとしましょう」

 

「わ、私もロスヴァイセさんと同意見ですわ!」

 

いつの間にか小猫だけでなく、イリナ、ロスヴァイセ、レイヴェルまでも集結していた

 

もはや新に逃げ場は無い……

 

「さあ、新。皆の前でゆっくり語り合いましょう?どちらが先か決めるまで」

 

「うふふ、今夜は寝かせませんわ♪」

 

「い、嫌だ!この話は薮蛇だから無し()だだだだだだだだだっ!腕を引っ張るな!チクショウ!なんでお前らはこういう時だけ力が強くなるんだぁぁぁぁぁぁ⁉」

 

連れていかれた新を見て総司は「青春だねぇ」とにこやかに傍観するだけだった……

 

 

―――――――――――――

 

 

『―――と言うわけで、あなたには引き続きグレモリー眷属とシトリー眷属両方の動向を監視、駒王町(くおうちょう)周辺に転移型侵入装置の構築をお願いしたいのです』

 

「了解、こっちとしても黙認できないレベルに達してしまってね。監視は大いに結構だが、侵入装置の構築となると必然的に妨害工作をしなきゃならない。その辺は俺に任せてもらっても良いか?」

 

Oui(ウィ) Oui(ウィ) Oui(ウィ)。寧ろ、そちらの方が好都合です。グレモリー眷属は興味深いデータの集まりですからね。お好きになさってください―――Monsieur(ムッシュ)スターク』

 

「OK。それを聞いて俄然やる気が出てきたよ。それにしても……遂に『造魔(ゾーマ)』が動き出す時が来るとはねぇ。悪魔の学生さんらには悪いが、今度ばかりは勝ち目なんか無いよ。何しろ自分達がいる国―――日本そのものを敵に回すようなもんだからな」

 

『しかし、あなた方にとっても良い機会なのでは?』

 

「まあ、悪く言ってしまえばそうだな。日本に派遣されて何年も経つが……年甲斐もなく楽しみにするなんて久しぶりだ。こうなりゃトコトン遊んでやろうかね」

 

『遊ぶのは結構ですが、あまりやり過ぎてしまっても困りますよ?では、Adieu(アデュー)

 

ピッ………………

 

「悪いな、新。夢を見る時間はもう終わっちまった。これからは社会の裏―――ドロドロした黒い世界を見てもらう事になる。グレモリー、シトリー、堕天使の元総督さんにも悪いが―――ここまで来てしまった以上、あんたらに勝ち目は無いよ。スイートタイムはおしまい、真っ黒な現実で目を覚ます時だ。夢ばかり追い掛けてるような腑抜けには良い薬かもしれんがね」




不穏な動きが同時に押し寄せてくる……!

今章は日常と次の章に繋がる回を描いていきます!

次回は新が新能力でライザー眷属と再戦します!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。