パンッ!
雨の音に混じって乾いた音が響く
祐斗がリアスに叩かれたからである
今日は球技大会で、競技はオカルト研究部の優勝に終わったのだが……1人だけ終始非協力的な人物がいた
それが祐斗だった
リアスに叩かれても祐斗は無表情
新と一誠は明らかに祐斗の様子がおかしいと勘づく
「もういいですか?球技大会も終わりました。球技の練習もしなくていいでしょうし、夜の時間まで休ませてもらってもいいですよね?少し疲れましたので普段の部活は休ませてください。昼間は申し訳ございませんでした。どうにも調子が悪かったみたいです」
「木場、お前マジで最近変だぞ?」
「あぁ。何つーか、自分1人だけの世界に入り込んでる感じだ」
「君逹には関係ないよ」
新と一誠の問いに祐斗は作り笑顔で冷たく返す
「俺だって心配しちまうよ」
「心配?誰が誰をだい?基本、利己的なのが悪魔の生き方だと思うけど?まあ、主に従わなかった僕が今回は悪かったと思っているよ」
祐斗の態度が気に入らなかったのか、新は舌打ちをする
「チーム一丸でまとまっていこうとしていた矢先でこんな調子じゃ困る。この間の一戦でどんだけ痛い目に遭ったか、俺ら感じ取った事だろう?お互い足りない部分を補うようにしなきゃこれからダメなんじゃねぇかな?仲間なんだからさ」
一誠の言葉に祐斗は陰りの表情を見せる
「仲間か」
「そう、仲間だ」
「君は熱いね。……イッセーくん。僕はね、ここのところ、基本的な事を思い出していたんだよ」
「基本的な事?」
「ああ、そうさ。僕が何のために戦っているかを」
「リアス部長のため、じゃ無さそうなのは顔を見て分かった。じゃあ何のために?」
「僕は復讐のために生きている。聖剣エクスカリバー―――――。それを破壊するのが僕の戦う意味だ」
この時、新と一誠は初めて、祐斗の本当の顔を見た
―――――――――
「祐斗は聖剣計画の生き残り……か」
部活動を終えた直後、リアスから話を聞かされた
聖剣計画とは数年前までキリスト教内で存在した、聖剣エクスカリバーが扱える者を育てる計画
聖剣は対悪魔にとって最大の武器、悪魔が聖剣に斬られたら成す術なく消滅させられる
神を信仰し、悪魔を敵視する使徒には究極とも言える兵器である
そして、中には一誠の『
一番有名なのはイエス・キリストを殺した『
「聖剣エクスカリバー、聖剣デュランダル、そして日本の
新は先程の話から、祐斗の
祐斗の『
以前見た『
「エクスカリバーと適応するために人為的に養成を受けたが、聖剣に適応出来なかった。しかも、祐斗以外の人間全員が適応出来ず、教会関係者から『不良品』として処分された……『聖剣に適応出来なかった』って理由だけで……」
"教会の者達は私達悪魔を邪悪な存在だと言うけれど、人間の悪意こそが、この世で一番の邪悪だと思う"
新はリアスから聞かされた言葉に心を痛めた
新は悪魔になった今でもバウンティハンターの仕事をしている
賞金首の中には、悪事から足を洗った者も少なからず存在する
だが、一度広まった悪名は何をしようと払拭出来ない
例え相手が人間であっても……賞金首になってしまっては、バウンティハンターにとって金の成る樹にしか見られない
新も今までそうやって生きてきた
賞金首だから、自分が生きる為だからと言う理由で捕まえたり、殺したりしてきた……
「俺も結局は、賞金首と言う養分を吸って生きている様なモンだよな」
「考え過ぎですよ?新さん」
「何でまたここに!?」
ソファーに身を乗せながら、新に抱き付く朱乃
また勝手に侵入してきた様だ
「新さんは今まで、賞金首とは全く関係の無い人を巻き込んだ事がありますか?」
「無い……けど」
「だったら、悩む必要は無いんじゃないですか?警察や他では手に負えない犯罪者を捕まえて、普通の生活を送っている人達を守ってきた事に変わりはありません」
「……そう、だよな。そうだよな。俺ってば、らしくない事を考えてた。俺が捕まえてるのは、一般人の生活を脅かす犯罪者だ」
新は朱乃の言葉で悩みを断ち切った
「人間や人外の悪意を完全に無くす事は出来ないが、減らす事は出来る。それも俺達……バウンティハンターの役目なんだ」
「うふふ。新さんらしさが戻って良かったですわ」
「サンキュー朱乃さん。お陰で目が覚めた――――――ぜ?」
朱乃がいきなり人差し指で新の口を塞ぐ
「新さん。そのお礼としては何ですが――――――朱乃って、名前で呼んでくれません?」
「っ?朱乃。これで良いの――――――おわぁっ!?」
新は朱乃に押し倒され、朱乃の顔が目の前まで近づく
「ようやく名前を呼んでくれましたね。皆さんを下の名前で呼ぶのに、私だけ"さん"付けだなんて……仲間はずれみたいな気分を味わっていました……」
「あ、いや……朱乃さん―――――朱乃は年上で先輩だからさ」
「リアスだって年上じゃないですか」
言葉に詰まる新
どうしたら機嫌を直してくれるんだろうと考えた結果、やはり下の名前で呼ぶしか無いかなと諦めた
「分かった、俺も男だ!これからは朱乃って呼ぶ!何度でも呼ぶ!呼ぶから退いてくれないか?」
朱乃は実に嬉しそうな表情になり、新の頬に唇を付けた
「えっ?えっ!?い、今キスを」
「うふふ。今はこれだけで許してくださいね?いつか、いつか新さんに……私の処女をあげますから」
"なんて芯が強く、優しい女なんだろう……絶対他の男に渡したくない"
新はそう誓った
―――――――――
翌日、新は教会に来ていた
聖剣計画を聞かされてから妙に教会関連が気になってしまう
教会は悪魔にとって敵地
"絶対に近づいてはいけない"とリアスに固く言われた筈なのに……何故か来てしまった
「何が正義で、何が悪なのか――――――メンドクセェ時代になっちまったな」
「神のご加護を受けに来たのですか?」
新の背後から聞こえてきた声の主は、白いローブを羽織った青い髪の女性だった
一緒にいるのは同じローブを羽織った栗毛の女性
一目で教会関係者だと分かる十字架を首からぶら下げている
「ヒュウッ♪ピチピチの美人か……その妙な得物が無かったら、是非喫茶店でお茶を頂きたかったぜ」
袋に入った長い"何か"から聖なる力を感じ取り、新は警戒体勢となった
「イリナ。この男の力の波動―――――悪魔だ」
青髪の女性が袋から何かを取り出す
それは悪魔の苦手な武器――――――聖剣だった
「滅せよ悪魔」
青髪が聖剣を持って斬りかかってくる
新はすぐに『闇皇の鎧』を展開し、籠手から飛び出した剣――――
「ぐっ……!防げるのは防げるが、闇皇の状態でも聖なる力は応えるか……!」
「姿が変わった!?今までとは違う悪魔ね!」
「相手が悪魔なら容赦はしない。今すぐ神の名のもとに断罪してやる」
「神、神、神って。やっぱ教会関係者は頭が固い連中ばっかりなんだな。それに……何かくだらねぇ」
新は聖剣を弾いて距離を取る
「悪いが、俺は目の前にある物―――――自分の目に映った物しか信じない男なんだよ。目の前にいない偶像を信仰するなんざ―――――メンドクセェし、くだらねぇ」
「何だと!貴様、神を愚弄するのか!」
「どうやら口で言っても分からねぇみたいだな。良いぜ?素っ裸にして分からせてやるよ」
「な、なんてスケベな悪魔なの!ああ、神よ!この猥褻な発言をした悪魔に聖なる裁きを!」
「イリナ、この男は私が滅する。性欲に溺れた悪魔など――――――」
ゴォッ!
新は魔力を放出して威嚇する
青髪の女性は新の気迫に気圧されてしまう
剣の刀身に赤い魔力が注がれ、新は動かずに構えを取る
「何だ今の力は……悪魔にしては変わった波動だった。貴様はこの場で滅さなければならないようだ!」
襲ってきた聖剣を回避し、新は一降りの剣技を放つ
バババッ!
白いローブごと服が消し飛び、青髪の女性は素っ裸を公開した
「きゃあ!ゼノヴィア!」
「はい終了」
新は剣をブンッと振る
ゼノヴィアと呼ばれた女性は、現状について不可思議な顔をしている
「……傷ひとつ付いていない?数奇な男だな。敵である私にトドメを刺さず、ただ服を脱がすだけとは」
「ちょっとゼノヴィア!?聖職者なんだから隠して!汚れた悪魔に裸を見られて何とも思わないの!?」
「今はまだ戦いの最中だ。そんな事をしていたら隙を突かれてしまう。一瞬の油断が命取りになる事だってあるんだぞ」
「なにぃ……!?裸にしてやったっつうのに、平気な顔をしてやがる……!?俺は今、ピンクの乳首を見てるのに……」
新は今までに無かった反応に敗北感みたいなモノが沸き上がる
ゼノヴィアは裸体を一切隠さず、聖剣を構える
「欲望の深い悪魔らしい行動だな。さぁ来い。まだ私は戦えるぞ」
「あぁもう!少しは恥じらいなさい!」
栗毛の女性―――――イリナが自分のローブを外して、ゼノヴィアの裸体を隠すように巻き付けた
新は『闇皇の鎧』を解除する
「こんな敗北感は初めてだ……まさか、これで戦意喪失しない女に出会うとは……」
「……っ?どうした悪魔」
「あ〜……ワリィけど、俺はもう戦う気が失せたっつーか、元々マジで戦う気は無かったんで逃げるわ」
「おい待て」
「……何か用か?」
「悪魔にしては拍子抜けだが、名前を聞いておいてやろう。お前の名前は何だ?」
「竜崎新だが……」
「竜崎新か……では竜崎新。次に会う時は断罪してやるから、覚悟しておけ」
「へいへい、ご自由に」
新はすっかりやる気を無くしてしまい、哀愁を漂わせながら逃げた
「ゼノヴィア!あんなハレンチ悪魔なんて、すぐに裁くべきよ!追い掛けるわよ!」
「待てイリナ。見てくれ……私の手が震えている。悪魔を断罪してきた、私の手が」
「えっ?」
「魔力の波動を感じて分かった。あの男は、ただの悪魔じゃない。得体の知れない何かを宿している……」