ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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いよいよ12巻編ラスト!少し長めです!


魔獣騒動後日談

豪獣鬼(バンダースナッチ)』と『超獣鬼(ジャバウォック)』の殲滅に成功した事がアザゼルのもとに届いたのを切っ掛けに、冥府の緊張状態も収束の方向に向かいつつあった

 

アザゼル(いわ)く、ハーデスとの睨み合いは吐き気しか出てこないらしい

 

勝利の報告を知ったサーゼクスも滅びの魔力を消して、元の姿に戻っている

 

この1件に乗じた旧魔王派のテロ、闇人(やみびと)の奇襲もほぼ鎮圧しつつある

 

最悪の結果だけは(まぬが)れたようだ

 

ヴァーリチームはその報告を受ける前に颯爽と退散、闇人の『2代目キング』こと大牙も仲間を連れて退散していった

 

アザゼルが呼んだ刃狗(スラッシュ・ドッグ)退散させており、少なくともハーデスを消滅させるような事態にならずに済んだ

 

ハーデスに文句と警告だけ述べて帰り支度しようとした時、死神(グリム・リッパー)が1名ハーデスに報告する

 

≪ハーデスさま、神殿内の死神の大多数が……凍り漬けにされております≫

 

≪……貴様の仕業か、ジョーカー≫

 

ハーデスが眼孔を危険な色に輝かせる

 

とうのデュリオは溜め息をつきながら自身の肩を揉んでいた

 

「まあ、これぐらいはしないとミカエルさまに怒られてしまうんで。怪しそうな気配の死神さんだけ凍らせちゃおうと思ったんスけどね。めんどいんで、神殿内にいるのは出来るだけ凍らせてみましたよ。すんません、手癖がクソ悪いんスよ。どーも、アーメン」

 

飄々とした態度と軽口だが、天界の切り札と言われているだけあって強さは折り紙付き

 

彼が操る神滅具(ロンギヌス)―――『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』は天候を操り、あらゆる属性をも支配できる上位神滅具(ロンギヌス)

 

使い方次第では臨機応変に対応が出来る

 

何はともあれ、ハーデスの横槍を未然に防いだ

 

「ま、サマエルの件はおいおい追及させてもらうぜ?何せ、英雄派の正規メンバーを生きて捕縛したからよ」

 

アザゼルの宣告にハーデスは何も答えなかったが、去り際にサーゼクスが口を開く

 

「ハーデス殿、これで失礼致します。今回は突然の訪問、まことに申し訳なかった」

 

サーゼクスは丁寧に非礼を詫びた後、強烈なプレッシャーを放って告げる

 

「それでも敢えて言わせていただく。―――2度めは無い。次はあなたを消滅させる」

 

それを受けてハーデスは楽しげに笑いを漏らした

 

≪ファファファ、良い目をしよるわ。ああ、よく覚えておこう≫

 

「ま、俺もここに来るのは2度とゴメンだ」

 

 

―――――――――――

 

 

冥界と冥府を繋ぐゲートに辿り着いたところで、サーゼクスが改まった顔をしてアザゼルを呼ぶ

 

「アザゼル」

 

「何だよ。改まって」

 

「私は最近常々思う事がある。私やアジュカのような魔王の時代は終わりが近いのかもしれない―――と」

 

アザゼルが黙って聞いているとサーゼクスは続ける

 

「私達が魔王になれた最大の理由は『力』だ」

 

魔王の血筋以外から生まれてしまった強大な力を有した特異な悪魔―――それが現四大魔王

 

三大勢力が争った大戦の終結以降、そのような悪魔が何名か誕生した

 

サーゼクスは拳を握りながら悲しげな表情を浮かべる

 

「どれだけ強くとも『個』の力では、(くつがえ)せないものがある。反発するものを生み出してしまう」

 

現政府は力で旧政府を打倒して冥界を変えた

 

その先頭に立ったのがサーゼクスや現四大魔王などの強力な悪魔だった

 

その結果、追いやられた悪魔達はサーゼクスの力を妬み、呪った

 

今に至るクーデターの単純明快に砕いた理由である

 

「だが、アザゼル。『個』の力とは違う、大きなものがある。それが今の悪魔の世界にあるのだ」

 

「それは何だよ?」

 

「それは『輪』の力だ。我が妹リアスと義弟アラタくん、イッセーくんはそれを持って生まれてきた。たとえ『個』の力に限度があろうとも己の周りに集まる力―――『輪』によって、力と絆を確かなものとする。その結果、どのような限界、壁をも突き崩して成長していく。リアス達だけではないな。滅びを持てなかったサイラオーグも夢を抱き、信念を(つらぬ)く事で信頼する仲間を得ている。それもまた『輪』だろう」

 

「―――なるほど、『輪』か。サーゼクス、イッセーと新は遂にオーフィスまで引き込んだ。闇人(やみびと)も中枢勢力がこちら側に傾いていると言っても良い。―――もう、いろんなものがあいつらを無視できないだろう」

 

「うむ。それは『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を超越したヴァーリにも言える事だろう。―――『無限の龍神』と二天龍、そこに集う龍王達。そして呪われた竜の一族の末裔。―――やはり、この世界の流れを、力の奔流を動かすのはドラゴンとなるか」

 

ドラゴンは力の塊

 

そして、人間もドラゴンを力の象徴として(いにしえ)より崇めてきた

 

どうやっても強いドラゴンは強者を引き寄せてしまうのかもしれない……

 

「あ、じゃあ、俺はここで帰ります。ミカエルさまに報告する事があるので」

 

ジョーカー・デュリオは天使の翼を羽ばたかせて、簡素にアザゼル達へ別れの挨拶を告げる

 

「では、どうも。今日は楽しかったです。―――『輪』!」

 

頭の上で両手で丸サインしながら飛んでいくデュリオ

 

案外お茶目なところもあるようだ……

 

去っていくデュリオを眺めながらアザゼルは息を吐いた

 

「さーて、俺も再就職口を見つけないとな」

 

アザゼルの言葉を聞いてサーゼクスは目を細めた

 

「……やはり、そうなるか」

 

「ああ、オーフィスや『初代クイーン』を独断でイッセー達に会わせたのはどう考えても免職を免れない事柄だ。俺は―――総督を降りる」

 

各勢力に黙ってオーフィスと『初代クイーン』をリアス達に会わせた事は、どう見繕っても条約違反

 

糾弾されるのは必然だった

 

「それにうちの組織の異分子―――奴らに手を貸していた連中も大方締め上げたしな」

 

アザゼルの組織内の裏切り者はヴァーリの他、中間管理職に位置する者達だった

 

特に上位クラスの堕天使の一部がかなり情報を横流しにしていたらしい

 

既にその者達の身柄を確保して裁くところまで話は進んでいるが、逃げた者もいる

 

「……俺の組織も潮時かね」

 

アザゼルがボソリと呟くとサーゼクスは何とも言えない表情をするだけだった

 

「天界の方でも裏切り者を把握して、裁いたそうだよ」

 

「逃げた連中は堕天使と化して『禍の団(カオス・ブリゲード)』に合流か。ま、奴らに協力している間、よく堕天しなかったもんだな。その上級クラスの天使どもは」

 

「神がいないと言う裏をかいて、天界の各種システムに穴が生まれているのは聞いている。そこを突かれたのだろう。何処も一枚岩ではないな」

 

悪魔側も旧魔王派とのイザコザが今後も散発的に起こるだろう

 

だが、今回の1件で旧魔王派の実力者も相当消えた筈

 

よほどの事が起きない限りは鳴りを潜めて静観するだろう

 

「堕天使は天界の『御使い(ブレイブ・セイント)』システムのように要員を増やす事はしないのか?」

 

サーゼクスはそう訊くが、アザゼルは首を横に振った

 

「良いさ。俺らみたいな悪党天使さまは俺らだけで充分。これは俺だけの意見じゃなくてな。残った幹部連中も同意なんだわ。三大勢力が和平組んでいるなら、もうこれ以上組織を肥大化したって仕方ねぇんじゃねぇかってな。現状維持だけで良い。まお空の天使が堕ちるなんて事があるならいつでもウェルカムだけどな」

 

「……しかし、グリゴリの―――アザゼルの功績であるオーフィスと『初代クイーン』がこちらに来た事実は大きな事態だ。我らの歴史に残ってもおかしくない偉業なのだよ、アザゼル。それを促したのは―――紛れもないあなただ」

 

「今頃改まって『あなただ』とか言うなよ。恥ずかしい。だがな、サーゼクス。俺は悪党どもを率いるボスだ。聖書に刻まれても冥界の歴史に残っちゃいけないのさ。―――これからの冥界の歴史に残るのはお前やリアス、イッセー、新で充分だ。俺は堕ちた天使の親玉で良いんだよ」

 

「アザゼル……」

 

アザゼルは頬を掻きながら悪戯な笑顔で言う

 

「なーに、ちょっと肩書きが変わるだけだ。俺は俺だよ。それと俺も前線に行くのは引退する。お前やミカエルのお陰で良い教え子がたくさん出来たからよ。そいつらの面倒を見るだけで余生を過ごせるさ」

 

それを聞いてサーゼクスはおかしそうに吹き出した

 

「急に年寄り臭くなってしまったな」

 

「見た目若いけど、年寄りだぜ俺?お前が生まれる前から存在するんだからな。そこはキミ、年長者を立てたまえ」

 

「そうだな。今後はそうしたいと建前上は言っておこう」

 

「まー、とりあえず、これで今回の事件は終わりだ」

 

 

堕天使組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』総督アザゼルが総督を辞する事は各勢力の上層部に伝達される事となる

 

数々の殊勲、戦績を残すが、何よりも1番の功績は異例の成長を遂げる現赤龍帝(せきりゅうてい)と歴代最強と称される現白龍皇(はくりゅうこう)

 

そして長年天敵として君臨してきた闇人(やみびと)の力を宿し、呪われた竜の一族の末裔である現闇皇(やみおう)

 

この三者を指導した事だと各勢力の要人は後に語り継ぐ……

 

 

―――――――――――――――

 

 

「ぶっざまだなぁ、曹操。あれだけ準備しておいて裏切りだー想定外だーで英雄派の計画はぜーんぶオジャンってか?上位神滅具(ロンギヌス)を3つも潰されやがった」

 

「……これは帝釈天(たいしゃくてん)さま、下界にまでお越しになられるとは」

 

禁手(バランス・ブレイカー)に至った神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)使いも再起不能じゃねェか。お前とゲオルクとレオナルドも動く事もできねェし?―――で、どうすンのよ?」

 

「……立て直しますよ。新しいオーフィスが生まれますから、それを中心に新しい『禍の団(カオス・ブリゲード)』を結成します。―――だが、今回の件であまりに戦力が削がれてしまった。少しの間、身を潜めます」

 

「そうかねぇ。今のお前のツラは、そう言うのじゃねェなァ。―――心を折られた野郎のツラだ。お前、二天龍どもと闇皇に潰されたな?サマエルの毒だ、解呪(かいじゅ)できても後遺症が残るぜ?お前、人間だもンな、ただの」

 

「…………二天龍と闇皇に潰された、か。……否定はしませんよ」

 

「だせェな、お前。結局何になりたかった?英雄か?勇者か?それとも悪役か?いや、全部になろうとして欲張ったンか?」

 

「……英雄の子孫でありながら最強の槍を持って生まれた俺は、これ以外の道なんて無かった。異形達の毒と言う選択肢しか―――」

 

「ハハハハハハハハッ!クソガキくん、神仏様からのあんまりありがたくもねェ言葉を聞いとけや。良いか?お前みたいに普段B級だが本気出せばS級なんて奴はな、案外結構いるんだよ。問題は普段も本気もB級なのに、決める時にSSS(トリプルエス)級を叩き出すイカレた野郎だ。こいつが1番厄介だ。絶対に勝てる勝負をわけの分からねェもんで(くつがえ)してくる。―――お前も実感したろ?ああ、赤龍帝(せきりゅうてい)闇皇(やみおう)ってやつがこれだよ」

 

「…………」

 

「赤龍帝と闇皇みてェなタイプに勝ちたかったらよ、運命ねじ曲げるぐらいの力を見せなきゃよ。何せ聖槍(せいそう)のお前の同期神滅具(ロンギヌス)所有者はあの赤龍帝とあの白龍皇(はくりゅうこう)だ。―――お前、生まれてくる時代を間違えたンじゃねェか?」

 

「次は―――」

 

「次?HAHAHAHA!―――ねぇよ。お前はここまでだ。その槍に拒否され、呪いで動けない状態のお前なンて価値が無くなったも同然だぜ?」

 

「……俺をどうするつもりだ?」

 

「なーに、お前とゲオルクとレオナルドは仲良く揃って冥府送りだ。あそこで蜘蛛の糸でも垂れてくるのを待ってりゃ良い。―――ま、お前らの神滅具(ロンギヌス)は全部俺がいただくけどな。3つとも禁手(バランス・ブレイカー)状態で引き抜けるなんて、涙が出るほど嬉しいZE!」

 

「……さすが、酷い神仏だ」

 

「裏で色々と画策して俺や他の神どもを手玉に取ろうとしていたのは何処のどいつよ?ま、バチが当たったのさ。―――冥府から帰還でも出来れば聖槍を返してやンよ。英雄ならそんくらいやってみせてこそだぜ?赤龍帝と闇皇は似たような事をやってのけたンだからよ?」

 

 

―――――――――――――

 

 

冥界での騒動から幾日か経った後、新達は部室で“ある事”をアザゼルから聞かされていた

 

「そ、総督を更迭された⁉マジっスか⁉ええええええええええええええっ!」

 

「お前のアホ面も板についてきたな。ゲゲオの鬼太郎のズーネミ男に似てんぞ」

 

一誠が顔芸で驚き、それにツッコミを入れる新

 

そう、“ある事”とはアザゼルが総督を辞職した件についてだった

 

理由は言うまでもなく、オーフィスと『初代クイーン』を新達に会わせた件

 

アザゼルは耳をほじりながら嘆息する

 

「うるせぇな。仕方ねぇだろ。うるさい連中に黙ってオーフィスや『初代クイーン』なんざをここに引き連れて来たんだからな」

 

「じゃ、じゃあ、今の先生の肩書きは……?」

 

一誠がそう聞くとアザゼルは首を(ひね)

 

「三大勢力の重要拠点の1つであるこの地域の監督ってところか。グリゴリでの役割は特別技術顧問だな」

 

「総督から監督?変わったような変わってねぇような感じだな」

 

「ま、そう言う事だ。グリゴリの総督はシェムハザがなったよ。副総督はバラキエル。あー、さっぱりした!ああいう堅苦しい役職はあいつらみたいな頭の堅い連中がお似合いだ。俺はこれで自分の趣味に没頭できる」

 

そう言うアザゼルは以前よりも開放的な表情となっていた

 

総督と言う肩書きと役職を取り払った事でアザゼルの自由度はますます上昇するかもしれない……

 

などと、浮かれていたアザゼルが書類を4通取り出した

 

「先日の中級悪魔昇格試験なんだが、先程合否が発表された。忙しいサーゼクスの代わりに俺が代理で告げる。まず、木場。合格!おめでとう、今日から中級悪魔だ。正式な授与は後日連絡があるだろう。とりあえず、書類の面だ」

 

「ありがとうございます。慎んでお受け致します」

 

書類を手に取り、頭を下げる祐斗

 

「次に朱乃。お前も合格。中級悪魔だな。一足早くバラキエルに話したんだが、伝えた瞬間に男泣きしてたぞ」

 

「……もう、父さまったら。ありがとうございますわ、お受け致します」

 

赤面しながら書類を受け取る朱乃

 

2人とも無事に中級悪魔へ昇格を果たした

 

「次に新。お前も文句なしに合格だ。それともう1つ朗報がある。先日の魔獣騒動で新の親父さんの功績が認められてな、近々釈放されるそうだ。ダブルでおめでとう、中級悪魔の闇皇が誕生だ」

 

「マジか……親父も釈放……。んじゃ、遠慮なく受け取るぜ」

 

口の端を吊り上げて書類を受け取る新

 

彼の父―――竜崎総司(りゅうざきそうじ)の釈放も決まり、内心で爆発しそうな喜びをグッと抑え噛み締める

 

「最後にイッセー」

 

「は、はい!」

 

先の3人と違ってガチガチに緊張している一誠

 

心中でアレコレ考えている内にアザゼルは早々と言った

 

「お前も合格だ。おめでとさん、中級悪魔の赤龍帝が誕生だ」

 

「や、やったぁぁぁぁあああああっ!今日から俺も中級悪魔だ!やった!マジ嬉しいっス!」

 

つい両手を上げて大声を張り上げてしまう一誠

 

皆から賛辞が贈られる中、アザゼルが指を突きつけてくる

 

「て言うか、お前らはあの危機的状況から自力で戻ってこられる程のバカ野郎だからな。お前ら2人の復活劇は既に上役連中の間で語り草になってるぜ?何せ、現魔王派の対立派閥はお前らに畏怖し始めたって話だ」

 

「ど、どうしてですか?」

 

「当然だろう。文字通り、殺しても死なないんだぞ?こんなに怖い存在はねぇだろう?サマエルの毒で死なない上にグレートレッドの力借りて体新調してきて自力で次元の狭間から帰還しただなんてどんだけだ。どんだけだよ!新、お前も『初代キング』の力を喰った上に、自力で戻ってきてるんだから更にどんだけだ!お前ら、本っ当におかしいぞ?頭もそうだが、存在がだ」

 

一連の流れを改めて語られるとおかしな事のオンパレードであるのは頷ける……

 

冥界では偶然現れたグレートレッドと共にルシファー眷属と新、一誠が共闘して『超獣鬼(ジャバウォック)』を倒したと言う内容で報道されている

 

一誠がグレートレッドと合体した事は一般の悪魔には伏せられており、一誠とグレートレッドとの間で起きた事は極秘にすべき事柄らしい

 

危機的状況だった事も伏せられていた

 

「ま、お前らの強者を引き寄せる力はもはや異常を通り越して、何でもござれ状態だからな。もう、あれだ。各世界で悪さする奴らもお前らが倒せ。そうすりゃ俺もサーゼクスも楽が出来る」

 

「マジで勘弁してください!強い連中が襲い掛かってくるなんて懲りごりっスよ!俺は平和な日常が送りたいんです!」

 

「つーか、何でもかんでも丸投げしてくんじゃねぇ!」

 

新が毒づいていると、一誠が気になる事を口に出す

 

「あの、先生、『禍の団(カオス・ブリゲード)』―――英雄派のその後の動きはどうなんですか?」

 

「ハーデスや旧魔王派、神風一派の横槍もあってか、正規メンバーの中枢がやられたからな。奴ら英雄派が(おこな)っていた各勢力の重要拠点への襲撃も止んだよ。それにお前らのお陰で正規メンバーを何名か生きたまま捕らえる事も出来たし、今締め上げて色々尋問しているところだ。曹操達神滅具(ロンギヌス)所有者は……ロクな事になっていないだろうな。奴らが負ったものはフェニックスの涙や『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』で完治できるほど生やさしいものじゃない。ただ、天界では奴らが保有する神滅具(ロンギヌス)の消失が確認されていない為、生存しているのではないかとの見解だ」

 

アザゼルは息を吐きながらそう答えてくれた

 

ヘラクレスとジャンヌは冥界に捕縛

 

曹操、ゲオルク、レオナルドの神滅具(ロンギヌス)所有者は戦闘での深傷で再起不能―――しかし、神滅具(ロンギヌス)は消えていない

 

同様の神滅具(ロンギヌス)は同時に存在できず、所有者が亡くなれば次の宿主となる新生児に移り変わる

 

消失が確認されていないので、曹操達は生存している可能性が高い

 

しかし、アザゼルは合点がいかないような表情をしていた

 

「……奪われた、って事はないのかしら?曹操達神滅具(ロンギヌス)所有者が重傷なら、強力な神滅具(ロンギヌス)を横から奪う(やから)が出てもおかしくないわ。あの集団は派閥が生じていて内部抗争も激しそうだもの」

 

リアスがそう口にする

 

確かに神器(セイクリッド・ギア)を抜き出して保存したり、他の者に移す技術はグリゴリが既に開発している上に、その技術は『禍の団(カオス・ブリゲード)』に合流した裏切り者の手によって流れているだろう

 

アザゼルもリアスの意見に頷いていた

 

「まあ、その線が浮かぶって事になるよな。……そうだとして、俺が考え得る最悪のシナリオが今後起きない事を願うばかりなんだが……」

 

険しい顔つきをするアザゼルだったが、途端に苦笑いする

 

「ま、あいつらの最大の失点はお前らに手を出した事だな。見ろ、奴らを返り討ちにしやがった。成長率が桁違いのお前らを相手にしたのが英雄派の間違いだ。神風一派も同様だ。触らぬ神に祟りなしってな。あ、この場合は触らぬ悪魔に祟りなし、かな?」

 

「上手い事言ったつもりか?」

 

「腫れ物のように言わないでくださいよ!俺達からしてみれば襲い掛かってきたから応戦しただけです!なあ、皆!」

 

一誠が皆に訊くが、返ってくるのはいずれも過激発言オンリーだった……

 

「そうだな、修学旅行で襲撃してきた恨みは大きい」

 

「ミカエルさまのエースだもの!襲ってきたらギチョンギチョンにしちゃうわ!」

 

ウンウンと頷くゼノヴィアとイリナ

 

「……来たら潰す。これ、最近のグレモリーの鉄則ですから」

 

小猫からは恐ろしい一言が飛んでくる

 

「私が上級悪魔になる為のポイントがあちらから来てくれているのではないかと最近思うようになりました。このメンバーで戦う分には強敵来襲がおいしいですよね」

 

ロスヴァイセも都合の良いように解釈していた

 

皆の意見を聞いてアザゼルが豪快に笑う

 

「さすがグレモリー眷属だ!こりゃその内伝説になるぞ。『奴らに喧嘩を売ったら生きて帰れない』―――とかよ」

 

アザゼルの冗談にリアスが嘆息していた

 

「私達は怨霊や悪霊ではないのよ?変な風に言わないでちょうだい」

 

「うふふ。けれど、実際襲われたらやっちゃうしかありませんわ」

 

朱乃は微笑みつつもSっ気を表情に見せていた……

 

アザゼルが話を続ける

 

「だがな、『禍の団(カオス・ブリゲード)』はまだ活動をしている。1番大きい派閥『旧魔王派』と2番目に大きい派閥『英雄派』も幹部を失い活動停止したと見て良い。三大勢力の裏切り者もある程度粛清が済んだ。だが……それでも俺達の主張に異を唱える奴らはそこに残っている。2つの派閥の陰に隠れていた連中も浮上してくる筈だろう」

 

話によれば魔法使いの派閥もあるらしく、その連中が襲い掛かってくる可能性も考慮される

 

だが、それとは別に闇人(やみびと)側には進展が見られた

 

魔獣騒動後、『2代目キング』こと大牙は『初代クイーン』など残った中枢格を連れて京都に向かった

 

京都にて九尾の八坂姫と和平案を持ち込み、長らく刻まれていた妖怪や三大勢力との溝を埋める事に繋がった

 

いくつかの誓約・制限はあるものの、穏健派に属する大牙達は京都を主な拠点として三大勢力との確執を少しずつ埋めていくとのこと

 

不案な事もあるが喜ばしい戦果も得られたと言うわけだ

 

アザゼルは部屋の隅に視線を送る

 

「とりあえず、元ボスがこっちにいるからな」

 

新達もアザゼルの視線の先に目を向けると―――そこにはオーフィスの姿があった

 

一誠と目が合うとオーフィスは言う

 

「我、ドライグと友達」

 

「俺、ドライグじゃなくて、兵藤一誠って名前があるんだよ……。友達は俺の事を『イッセー』って呼ぶんだ」

 

「わかった。イッセー」

 

「俺の呼び方はそれで良し」

 

一誠とオーフィスのやり取りを見ていたアザゼルが言ってくる

 

「言っておくがイッセー、お前が将来上級悪魔になったとしてもオーフィスは眷属には出来ないぞ。理由は話さなくても分かるな?」

 

「はい、オーフィスはここにいない事になっているから、ですよね?」

 

そう、オーフィスは世間的には“いない”事になっている

 

曹操に奪われたオーフィスの力が、現在の『禍の団(カオス・ブリゲード)』にとっての「オーフィス」となっているようだ

 

アザゼルが続ける

 

「そいつはテロリストの親玉だった奴だ。いくらこちら側に引き込めたからと言って、それを冥界の連中に知られてはまずい。現にそいつの力は幾重にも封印を施して、ちょっと強すぎるドラゴン程度に留めてある。と言うよりも神格クラスは『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の転生対象外だった筈だ。半神のヴァルキリーは可能だったようだが」

 

ただでさえ、サマエルに力を吸い取られて相当弱まっているが……下手な奴よりは強い

 

それにオーフィスは次元の狭間で一誠を助けてくれた

 

それだけで一誠はオーフィスを仲間だと思っている

 

オーフィスを狙う者がいれば、一誠は全力で守る所存だろう

 

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』に奪われたオーフィスの力がどうなるか、それが気になるところですね」

 

祐斗がそう口にしていた

 

曹操はそれを使って新しいウロボロスを作ると言っていたが、肝心の英雄派は崩壊していた

 

その事についてアザゼルが言う

 

「……それは俺を含め、事情を知っている連中の中でも意見が割れているな。ただ、そのまま計画が進行しているって意見だけは一致している。……どんな形になろうとも近い内に(まみ)えるかもしれない。それだけは覚悟しておけ」

 

『……覚悟って。ああ、またそう言うのに関わるのかな、俺達……』

 

『いくら気にしても仕方ねぇだろ』

 

項垂(うなだ)れる一誠を他所にリアスは話題を切り替える

 

「いつ来るか分からないものに対する備えも大事だけれど、私の当面の目的は三点。一点はギャスパーね」

 

リアスの視線がギャスパーに注がれる

 

とうのギャスパーは相変わらずアワアワするだけだった

 

冥界では新と一誠の死と言う誤報を聞いた直後、バケモノじみた力を発揮してゲオルクを圧倒した

 

一方的な場面を見た連中にそれを問いただしても表情が険しくなって、ただ一言「凄かった」としか聞けなかった

 

リアスが続ける

 

「今まで他の事情が立て込んでいて静観していたけれど、あれを切っ掛けにそろそろ本格的に(うかが)っても良いと思ったわ」

 

「ギャスパーについて、か?」

 

新の問いにリアスが頷く

 

「―――ヴラディ家、いえ、ヴァンパイアの一族にコンタクトを取るわ。あのギャスパーの力はきちんと把握しなければ、ギャスパー自身―――私達にもいずれ(るい)を及ぼすでしょうね」

 

「……す、すみません。ぼ、僕にそのような力があったなんて全く知らなくて……この眼だけが問題だと思っていたものですから……」

 

ギャスパーが恐縮しながらそう言う

 

ギャスパー自身はその時の記憶が全く無かったようだ

 

ギャスパー自身も知らない、無意識に存在する隠された力……

 

リアスはギャスパーが家を追い出された理由がそこにあると踏んでいるようだ

 

「ヴァンパイアも今内部で相当もめている。……閉鎖された世界だが、だからこそ変な事情に巻き込まれなければ良いんだが」

 

アザゼルが嘆息しながら言う

 

吸血鬼も色々と立て込んでいるらしい

 

触れたくないところだが、ギャスパーの謎の力もこのまま放置しておくわけにはいかない

 

どちらにしろ解明の為に行くしかなかった

 

「ご、ご迷惑おかけします……。で、でも……家のヒト達とはあまり……」

 

ギャスパーが言葉をつぐんでしまった

 

どうやらギャスパー個人としては家族に会いたくないようだ

 

朱乃があごに指をやりながらリアスに言う

 

「ギャスパーくんの事と、後は魔法使いかしら?」

 

リアスは頷いて続けた

 

「そうよ。そろそろ魔法使いから契約を持ちかけられる時期でもあるの」

 

「それって、本とかに書かれてる魔法使いとの関係性とか言うやつですか?」

 

一誠の問いにリアスが首を縦に振る

 

「ええ、そうよ。魔法使いは悪魔を召喚して、代価と共に契約を結ぶ。私達は必要に応じて力を貸すの。一般の人間の願いを叶えるのとはちょっと様式が違うわね。名のある悪魔が呼ばれるのが常だけれど、若手悪魔にもその話は来るわ」

 

「俺達にもその話が飛び込んでくると、そう言うわけか?」

 

新の問いにリアスが頷き、アザゼルが紅茶をすすると話を続ける

 

「先日、魔術師の協会が全世界の魔法使いに向けて若手悪魔―――お前達の世代に関するだいたいの評価を発表したようだ。奴らにとって若手悪魔の青田買いは早い者勝ちだ。特に評価が高いであろうグレモリー眷属は格好の的。魔王の妹たるリアスを始め、赤龍帝のイッセー、闇皇の新、聖魔剣の木場、バラキエルの娘で雷光の巫女である朱乃、デュランダルのゼノヴィアなどなど、そうそうたるメンツだ。―――大挙して契約を持ちかけられるぞ?契約する魔法使いはきちんと選定しろよ?ろくでもない奴に呼ばれたらお前達自身の価値を下げるだけだからな」

 

魔法使いとの契約も悪魔の活動範囲内

 

契約を持ちかけられれば、それだけ自分の評価にも繋がる

 

『……ぐふふ、色気ムンムンの魔女さまに呼ばれて契約するのも良いかもなぁ』

 

『一誠、もうお前“兵藤ズーネミ”に改名しとけ。顔が気色悪くなってきた』

 

『誰がズーネミだよ⁉あと顔が気色悪いって!』

 

顔芸連発の一誠、それを笑う新の頭をポンと叩くのは―――リアスだった

 

「ところで新。試験前に約束した事覚えているかしら?それが私の当面の目的の最後の一点なのだけれど?」

 

リアスはほんのり頬を赤く染めていた

 

無論、新は約束を覚えている

 

「ああ、デートだろ?今度の休日にしようか」

 

新の答えにリアスは満面の笑みを見せる

 

「ええ、楽しみにしているわ、(いと)しの新」

 

「ちょっと待ってください」

 

突如として異議を申し立ててくる者がいた

 

それはムムッと顔を膨らませるロスヴァイセだった

 

「新さん、私との約束も忘れていませんよね?」

 

新の背中に痛烈に走る嫌な予感……っ!(カ○ジ風)

 

それを聞いたリアスが悪戯な笑みを見せる

 

「そう言えば、ロスヴァイセともデートの約束を取り付けていたけれど―――当然、私が先よね?」

 

「リ、リアスさんっ!私が先に約束したんですから私が先です!そればかりは譲れませんっ!」

 

「私だってこればかりは譲れないわ。ロスヴァイセ、悪いけどあなたは私の次にデートしてもらってちょうだい」

 

「納得いきません!私が先に約束したのに後から……っ!新さん!私が先ですよね⁉」

 

「新!私が先よね⁉」

 

ズイッと新に詰め寄るリアスとロスヴァイセ

 

鬼気迫る迫力に新は気圧(けお)され、冷や汗を垂らす

 

この窮地を切り抜ける策は無いかと模索していると、ゼノヴィアが自身を指差す

 

「新、部長とロスヴァイセさんの後でも構わない。その次は私とデートをしてくれ」

 

「あー、ずるいわ!次は私よね!私だって、新くんとデートしてみたいわ!」

 

更にはイリナまで申し出てきた

 

「ちょっ!待て!今の状況分かってる⁉」

 

混沌としてきた空気に小猫が歩み寄り―――

 

「じゃあ、私もです」

 

「私もですわ!日本を満喫させてください!」

 

負けじとレイヴェルも申し出てくる

 

退路を絶たれてしまった新を他所に一誠は―――

 

「……凄い事になってきたな。けど、俺は何もシテヤレマセンっ」

 

「はぅぅ……。皆さん、大胆です……。イッセーさん、あの……」

 

「アーシア、俺達は俺達でデートしようか」

 

「は、はいっ!」

 

一誠はアーシアとデートの約束を取り付ける事にした……

 

新が「この裏切り野郎ッ!」と毒づくも、一誠は聞こえないフリをする

 

ますます窮地に追い詰められてしまった新

 

「あらあら、それなら私は全員終わった後、ベッドの上でデートしますわ」

 

「朱乃!少しは助けてくれよ!」

 

「私が先よね、新!」

 

「私が先です!新さん!」

 

これからも大変だが、今だけはこの幸せを喜び合おう

 

新と一誠の心中でそう思っていた

 

……だが、ここにいる誰もがまだ知らなかった

 

想像以上に大きな脅威が爪を研ぎ澄まし、新達に牙を突き立てようとしているなど……

 

 

―――――――――――――

 

 

「……チク、ショウ……!チクショウ……ッ!こんなところでっ、終わって……たまるかよ……ッ!ボクは……ボクは『3代目キング』に……!王になるんだ……!」

 

何処の地か分からず、名前も知らない冥界の果て

 

憎々しげに歯を食い縛りながら地べたを這いずり回るのは―――新と一誠の同時砲撃によって吹き飛ばされた神風

 

神風はまだ消滅していなかった……!

 

(かろ)うじて消滅は免れたものの、とても満足に動ける状態ではなかった

 

今も尚、ボロボロの体で亀のようにゆっくりと這う事しか出来ない

 

今の神風を動かしているのは怒りと憎しみだけだった……

 

「ふざけんなよ……ッ!あのクソ野郎ども……ッ!まだ終わっちゃいない……、終わっちゃいないんだ……!この傷を治したら、ソッコーでブチ殺してやる……ッ!このボクに恥をかかせて、ただで済むと思うなよ……ッ!」

 

新と一誠への怨恨、怨嗟を吐き連ねながら這いつくばる神風

 

そんな彼の前にゆっくりと現れる1人の人影……

 

Oh(オー) la() la()(みにく)い有り様ですね。逸材かと思った筈の元人間がここまで短絡化してしまうなんて」

 

「……ああ……ッ?」

 

唐突な言い草に神風は敵意をむき出しにして睨んだ

 

目の前にいる人物が誰なのか、当然知らない

 

「『初代キング』が見込んだと言うので、どの様な異変を遂げるか見届けたかったのですが―――Ma puce(マピュース)。あなたは闇の深淵に辿り着く事が出来なかった。そればかりか、怒りと憎しみに溺れるのみ……それで王になろうなど―――もはや愚物(ぐぶつ)と言う他ありませんね」

 

「……誰だか知らないけどさ……今のボクに話し掛けんな……ッ!ブチ殺すぞ……ッ!」

 

「……Je vois(ジュヴォヮ)、結論から言ってしまえば―――あなたは王の器ではなかった。あなたの時代はここで終わりです」

 

人影―――ユナイト・キリヒコは右手に装置(デバイス)を展開し、毒々しいオーラを神風に吹き付けた

 

その瞬間、神風は絶叫を上げてもがき苦しむ

 

「ああァァァァァァぁアアアアアアアアあっ!な、何を……!ボクに何をしたァァァァァァァァァァぁアアアア⁉」

 

「“冥土の土産”と言うのでしょうか、最期に教えて差し上げましょう。あなたに吹き付けたのは―――私がこれまでに集めてきた“死のデータ”です。それを多量に吹き付けられたヒトは―――死にます」

 

「…………ッ!し、死ぬ……っ?この、ボクが…………死ぬ……っ⁉」

 

Oui(ウィ)。壊れたオモチャは捨てる―――でしたっけ?私から見れば、あなたは既に壊れたオモチャです。せめてもの情けに……一片も残さず消去してあげます。肉体も、魂も……全て虚無と言う闇に(ほうむ)ってあげましょう。Au revoir(オルボワール)―――神宮風太(じんぐうふうた)

 

「…………ッ⁉な、なんで……ボクの本名を……お前が……っ⁉」

 

得体の知れない奴が自分の事を何故事細かに知っているのか……?

 

驚く神風を見てキリヒコはせせら笑う

 

「私はあなたの事なら知っていますよ?闇人(やみびと)に転生した元人間である事も。貧しい村に生まれ、人並外れた知能を発揮した事も。―――村に山賊が襲ってくると老人から聞いて、村を守る為に山賊を殺した事も。本当に……“しがないお年寄り”の助言を聞いてくださってMerci(メルシィ)

 

途中でキリヒコの声が老人の声に変質した途端、神風の脳裏に衝撃が走った……

 

忘れもしない記憶……自分がバケモノと言われる前に聞いた老人の声……っ

 

“あの時の声……ッ!”

 

そう……あの時、『山賊が村を襲う』と進言したのは―――老人に化けたキリヒコだったのだ……!

 

神風の知能の高さに目を付けたキリヒコは端金(はしたがね)で山賊を雇い、村の連中に神風を孤立させ―――周り全てを憎ませるよう仕向けた

 

「私の目論(もくろ)み通り、あなたは見事なまでに堕ちてくれました。本当に……笑ってしまうくらいにね」

 

「ア……、ア……ッ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

「フフフッ、実にTrés bien(トレビアン)な表情ですね。悔しいでしょう?私が憎いでしょう?しかし、残念ですが……無能に成り下がったあなたにはもう時間がありません。ただ1つだけ、言わせていただきます。あなたは惨めな自分と決別する為に生き延び、王になろうとした。ですが、あなたは王にはなれなかった。何故なら―――あなたは最初から私によって操られていた、ただの道化だったからです!」

 

突きつけられた事実に神風は嗚咽を漏らし始め、涙もボロボロと溢れていく

 

“自分の人生は最初から壊されていた……”

 

“目の前にいるコイツが、ボクの人生を壊していた……”

 

「グ、ギギギギギギギギ……!キ、サ、マァァァァァァァァァァァァァァァアアアア……ッ!」

 

「そして、操られていた糸が切れたあなたは呆気なく壊れた。さあ、王を目指す道のりは楽しめましたか?では、そろそろピエロに戻る時間です。―――あなたには哀しい道化の方がお似合いです」

 

冷淡、冷酷、無慈悲に吐き捨てるキリヒコ

 

神風の体は既に半分以上が消えていた……

 

神風の内に恐怖、恐怖、恐怖がどんどん押し寄せてくる

 

何も残らず消え逝く恐怖……

 

今の神風の精神がそれに耐えられる筈などなかった……

 

「…………嫌だ……!嫌だイヤだいやだ……ッ!嫌だァァァァァァぁアアアアアアアアあっ!死にたくないっ!死にたくないよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!助けてぇ!誰か助けてぇェェェェエエエエエエ!」

 

子供のように泣きじゃくり、周りに助けを求めるが……周りには誰もいない

 

地を掻きむしり、叩き、転がり回る神風

 

どんなに暴れたところで助かる(すべ)も無い……

 

「パパぁ……!ママぁ……!ごめんなさい……!ごめんなさい……ッ!これからは良い子になるからぁ……ッ!良い子になるから助けてぇ……ッ!赤龍帝ぇ……!闇皇ぉ……!グレモリーのお姉さぁぁん……!誰でも良いから……誰かボクを助けてよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!正義の味方なんでしょ……⁉謝るからぁ……!今までしてきた事ゼンブ謝るから……っ!もう悪い事はしません……ッ!良い子になります……ッ!だから、だから助けてぇぇぇエエエエエエエエエエエエエエ……ッ!」

 

幼児退行までしてしまった神風の命乞いは届く筈も無い……虚しく響くだけ……

 

「嫌だァァァァァァぁ……!嫌だァァァァァァぁアアアアアアアアァァァァァァぁアアアアアアアアァァァァァァぁアアアアアアアアァァァァァァぁアアアアァァァァァァぁッッ!」

 

その言葉を最期に神風は跡形も無く消滅した……

 

今まで闇人(やみびと)のビショップとして動き、裏切りと謀略を重ね、王に上り詰めようとしていたが―――その願いが成就する事は無かった……

 

神風が消えた後、キリヒコは空を見上げて息を吐く

 

「さて、そろそろ私達が(みずか)ら動く時がやって来ましたね」

 

キリヒコは右手から黒いモヤ―――濃密な闇を発する

 

闇人(やみびと)と言う古き闇は終わりを告げた。Mon pauvre(モンプーヴァ)……、生み出した私が言えたものではありませんが―――何とも情けない限りです」

 

キリヒコの周りに漂う闇が生物のように(うごめ)く……

 

「所詮、放牧した家畜は身勝手に生きる―――と言ったところでしょうか。またご挨拶に(うかが)いますよ。―――Monsieur(ムッシュ) 闇皇(やみおう)。今は『造魔(ゾーマ)』として……いずれは私達と同じ―――『深淵の喰闇(ダーク・ロード)』として会いましょう。それまで一時(ひととき)の幸せをお楽しみください。―――Bonne chance(ボヌシャンス)

 

 

数日後、見せしめと言わんばかりに神風の消滅を記録した映像が三大勢力間に流出され、その悲惨かつ(むご)い結末は冥界・天界全土を震撼させた……




遂に……遂に12巻編を終える事が出来ましたぁぁぁぁぁぁ!長かった……っ

そしてアニメ4期も放送開始されてwinwin!

4期の作画を見てふと感じました。顔芸したイッセーがねずみ男に見える、と……

まあ、とにもかくにもヒーローズ編を終えましたが……やはり安心はできないようで、早くも次の敵が牙を向く……

さて、次回からは日常短編を交えての章になります。タイトルは“短編騒動のデイリーとシリアス”です!


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