ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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1ヶ月もかかってしまい、申し訳ありません……


幽神兄弟VS神風一派

神風一派、バリーとガーラントの策略によって結界に閉じ込められてしまったリアス達

 

幽神兄弟の乱入で何とか助かったものの、まだ油断は出来ない状況下にいた

 

幽神兄弟と神風一派の睨み合いが続き―――

 

ドンッッ!

 

刹那、凄まじい衝撃音が鳴ると同時に両陣営のつばぜり合いが始まった

 

バリーの刃を正義が左足で受け止め、蛇に変化させたガーラントの両腕を悪堵が右拳で止める

 

荒れ狂う衝撃波の渦中(かちゅう)、正義とバリーは互いに飛び出しての空中戦

 

悪堵とガーラントは地上での打ち合い合戦を始めた

 

地上と上空で開始された激戦……爆音、破砕音、衝撃波がその場を駆け巡る

 

バリーの銃撃と剣戟を足技でいなしていく正義

 

隙を見て蹴りを叩き込むが、決定打と言えるダメージをなかなか与えられずにいる

 

悪堵も同じく―――ガーラントに対して拳の乱打を入れているが、思った以上のダメージを与えられない様子

 

彼らも“ブラックウィドウ”で強化されている為、身体能力が飛躍的に上がっているからだ

 

『……とは言うものの、この2人の力は俺達と互角―――いや、少し上か。いずれにしても長くは()たない。……リアス・グレモリーの眷属ではないにしろ、戦力を読み違えた俺達側のミス……。見事に足を(すく)われたようだな』

 

どうやら実際は幽神兄弟の方に軍配が上がっていたようだ

 

バリーとガーラントが使用した“ブラックウィドウ”はアドラスやメタルの分と違い、近衛兵用の特別製

 

技の強化だけでなく、肉体その物の強度も飛躍的に上がる代物だった

 

しかし、幽神兄弟の攻撃はジワジワと肉体強度を

削ぎ落としていたのだ

 

顔には出さねど、そのダメージは肉体を確実に(むしば)んでいた

 

本来ならリアス達全員を結界に閉じ込めれば労せず討ち取れたのだが……“ブラックウィドウ”を寄生させた事により、慢心が生まれた

 

自分達の現時点での力を誇示する為、渉達を見せしめの材料にしようと“敢えて”彼らを結界に閉じ込めなかった

 

それもその筈―――多かれ少なかれリアス達は『禍の団(カオス・ブリゲード)』との交戦で力を消耗し、万全の状態ではない

 

“ブラックウィドウ”で強化し、この魔獣騒動で消耗したリアス達なら楽に(ほふ)れる……そう考えた

 

否―――考えてしまった……

 

ゆえに不測の事態と対面してしまい、目論みが完全に外れた……

 

『……情けない話だ。“ブラックウィドウ”によって強化されたと思っていたが、この様な欠陥を生むとは……』

 

痛恨の皮肉―――通常ならば受け入れたくても受け入れ難い汚点だろう

 

それでもバリーは失態を噛み締め、眼前の敵の対処に戻る

 

―――とは言え、『魔鬼化(アビス・ブレイク)』した正義は一筋縄にはいかない

 

隙を作ろうと思考を巡らせ、バリーは一瞬の賭けを打つ事にした

 

左腕の銃に禍々(まがまが)しきオーラをチャージしていく

 

正義もそれに気付いて警戒を高めるが、バリーの狙撃目標は別にあった

 

―――銃口をアーシアに向け、弾幕射撃を開始した

 

思わぬ虚を突かれた正義は体が勝手に動き、アーシアを庇うように割り込んだ

 

全ての銃弾を蹴りで弾き返したが、コンマ1秒の遅れと行動が隙を作ってしまった

 

弾幕射撃に紛れてバリーの右腕―――剣の凶刃が正義の心臓を刺し貫こうと迫ってくる

 

バリーは先程の戦いから正義の思考・行動を読み、アーシアに向けて銃弾を放った

 

正義が咄嗟に彼女の盾になろうとする事を予測して……

 

その読みは見事に的中、コンマ1秒でも隙を作れば―――後はそこを全力で突くのみ

 

バリーの賭けは(おおむ)ね当たっていた……ただ一点、正義の捨て身を読み違えていなければ……

 

銃弾を弾き返しても剣による刺突を避けきれないと踏んだ正義は―――(みずか)らの手で凶刃を止めた

 

ただし、突き出した左手から肩を貫通させると言った無謀な方法で……

 

(てのひら)、肘、肩、左腕の全関節を貫かれ、肩口から凶刃が顔を出す

 

腕から脳に走り抜ける激痛、貫通箇所から滲み、噴き出てくる血

 

それでも正義は逃がすまいと貫かれたまま凶刃を握る

 

剣と同化した腕を掴まれている事でバリーには逃げる(すべ)が無い

 

正義は(みずか)らの足に体から噴出したオーラを纏わせる

 

鬼に憑かれたような右足が敵を睨み―――(くう)を走る!

 

「―――『鬼神の蹴脚(ディアブル・スマッシュ)ッッ!』」

 

―――“一撃必殺”―――

 

まさにその言葉が相応しい蹴りだった……

 

空を走った鬼の蹴りは目の前の(バリー)を上下に分断

 

呼応するかの如く剣も銃も砕け散る……!

 

絶叫すら上げられない……一瞬の足技……

 

千切(ちぎ)れた上半身と下半身が地に落ち、正義がそれを見下ろす

 

「……アーシア・アルジェントに何をする?」

 

鬼の眼孔が上半身のみとなったバリーを捉え、怒気を孕んで威圧する

 

並々ならぬ殺意がオーラとして正義の足に転移―――バリーを殺すべく蹴り下ろされた

 

『……見事にしてやられたな。神風、油断するなよ……』

 

グシャ……ッッ!

 

不快な音が響くと同時にバリーの頭が踏み潰され、届かない警告を最期にバリーは絶命した

 

飛び散った多量の血が地面を赤く染め、ゆっくりと上がる正義の足からも返り血が(したた)り落ちる

 

「―――ッ!バリーの旦那……⁉チィッ!」

 

舌打ちするガーラントは悪堵だけでも仕留めるべく躍起になる

 

全身から無数の蛇を生み出し、悪堵に仕向けた

 

襲い掛かってくる無数の蛇に対し、悪堵はステップを踏み始める

 

「兄貴が(つえ)ぇからって、俺が(よえ)ぇとは限らねぇぜ?」

 

降り注いでくる巨大な蛇の群れを(ことごと)(かわ)していく悪堵

 

攻撃が1つも当たらない事にガーラントは苛立ちを(つの)らせ、更に攻撃の勢いが増す

 

しかし、冷静さを欠いた者の攻撃ほど避けやすいものはない

 

それだけでなく、彼もまた“正義()”の技を自分なりに会得していた……

 

無数の蛇を(かわ)しつつ右腕を擦らせ、摩擦熱を帯びていく

 

やがて右腕は灼熱の輝きを放ち―――蛇の1体を掴みに入った

 

ジュウゥゥゥゥゥゥゥ……ッ!

 

肉と皮が焼け焦げる異臭

 

悪堵の灼熱の握力に捕まった蛇は奇声を発して(もだ)え苦しみ、その熱はガーラント本人をも苦しめる

 

ブチブチッ!と悪堵は捕まえた蛇を引き千切(ちぎ)り、ガーラントが悲鳴を上げた隙に灼熱の右腕を打ち込んだ

 

「―――『鬼神の殴拳(ディアブル・フィスト)』ォォッ!」

 

燃え盛る右拳がガーラントの腹部に深々と突き刺さり、その熱がガーラントの肉、皮、骨の全てを焼き尽くす

 

「アッヂィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!」

 

絶叫するガーラント、それでも灼熱の拳は止まらない……

 

悪堵は右拳のガーラントに食い込ませたまま、猛然と突き進む

 

その先に待ち受けているのは―――同じく鬼神と化した兄・幽神正義……

 

正義は再び鬼のオーラを(みずか)らの足に纏わせ、その場を跳び出した

 

鬼の幻影が可視される程の蹴撃(しゅうげき)がガーラントの背後から迫り来る

 

並々ならぬ殺意を感じ取れたガーラントが背後に視線を向けると―――そこには既に鬼がいた

 

「まっ、待って―――」

 

命乞いも許さない……

 

そんな2匹の鬼の所業が無慈悲な挟撃(きょうげき)としてガーラントを挟み潰し―――

 

グヂャ……ッ!

 

正義の蹴り、悪堵の拳が前後同時に炸裂

 

その衝撃でガーラントの体が木っ端微塵に砕け散る……

 

肉、皮、骨、臓物が幾重もの破片となって飛び散り、血と共に汚く撒き散らされる

 

肉片と血を浴び、互いに背を向けた2人の鬼が空を見上げる

 

「「汚い雨だ」」

 

 

―――――――――――――――

 

 

「……?あ~りゃりゃ。バリーとガーラントの気配が消えちゃったよ。まったく、役に立たない兵を持つと苦労しちゃうよ。まあ、良いけどね。どうせ今のグレモリー眷属じゃあ、天地がひっくり返ってもボクには勝てないからさ。キヒヒヒヒッ♪『禍の団(カオス・ブリゲード)』も冥界の連中も、『初代キング』もマヌケばっかり。正面からぶつかるとかマジでダサいっての。不意打ちでも何でも最後に勝てば良いんだよ」

 

 

―――――――――――――

 

 

「はぁ……はぁ……っ。……こいつら、しつけぇな……っ」

 

「こっちは急いでるってのに……!あと何匹いやがるんだ……⁉」

 

「……何百、何千残っているなんて考えるだけ無駄だ。どの道、こいつらを蹴散らさなきゃリアス達の所に戻れやしねぇよ」

 

「それもそうだな……っ。こいつらをぶっ倒して……あいつを―――神風の野郎もブッ飛ばすッ!あんな卑怯者に仲間を殺されてたまるかよ……ッ!」

 

「その通りだ。これまで散々煮え湯を飲まされてきた……そのツケを一気に払わせる……!奴の傲慢、脆弱(ぜいじゃく)な卑劣、策略だけで生きてきたようなヤツに思い知らせてやる……!」

 

 

――――――――――――――――

 

 

新と一誠が神風の仕向けた闇人(やみびと)群に悪戦苦闘している中、バリーとガーラントを倒した幽神兄弟はリアス達を囲う結界の破壊を(こころ)みた

 

結界は術者であるバリーとガーラントを倒しても消えず、壊そうとしても壊れない

 

恐らく神風が事前に仕組んだ術式が作用しているのだろう

 

“バリーとガーラントが殺られても消えないように”と―――

 

やはり結界を破壊するには神風を倒す他無い……

 

とりあえず正義はバリーの剣に貫かれた左腕の止血処置を受ける事に

 

祐希那の神器(セイクリッド・ギア)能力で傷口を凍らせ、応急措置を終える

 

「とりあえず、これで血は止まったわ」

 

正義は「そうか」と淡白に答えて背を向ける

 

先程の鬼神の如く戦いぶりを見てしまったリアス達は何も話す事が出来ずにいた

 

幽神兄弟も何も話さず、ただ黒幕が出てくるのを待つばかり……

 

『ねえ、祐希那』

 

『何よ、渉?』

 

『あの幽神正義(ゆうがみまさよし)さんって人、アーシアさんの事が好きなのかな?』

 

『ブッ!いきなり何を言い出してんの⁉』

 

『いや、あの人、何となく一誠さんと似てるなぁっと思って』

 

『どこが?』

 

『アーシアさんを悪く言われると凄く怒るところ』

 

『…………』

 

当たっているだけに祐希那は何も言えなかった

 

更に2人のコソコソ話を“実は聞こえていた”正義も“自分が一誠に似ている”と言う指摘に(しか)めっ(つら)となるが―――

 

『否定できんかもしれないな。俺がアーシアを侮辱した時、奴も同じ感情を(いだ)いていた。そして、爆発的に強さを増した。……実に良い皮肉だ』

 

正義は反論もせず、ただ黙して認める

 

そんな他愛も無いやり取りも直ぐに終わりを迎えた

 

異様な気配を察知し、上空に視線を向ける面々

 

「あ~あっ、やっぱり殺られちゃってるよ。ん?何か知らない奴らがいるね。ま、どうでも良いけど」

 

空から地上に降り立ってきたのは神風一派の纏め役にして魔獣騒動の主犯格

 

幾度となくリアス達に猛威を振るってきた最悪の闇人(やみびと)―――ビショップ神風

 

既に神々(こうごう)しくも禍々(まがまが)しい騎士のような風体―――超魔身態(ちょうましんたい)となっており、戦闘準備万端だった

 

「黒幕のお出ましか」

 

「キヒヒッ♪そっ、ボクが黒幕で~す♪」

 

相変わらず悪怯(わるび)れる様子を微塵も見せない神風に、リアス達は嫌悪感を表す

 

神風は息絶えたバリーとガーラントの亡骸(なきがら)を見るや否や、それを踏みつけた

 

「ったく、何やってんだよ。このウスラバカはさぁ!」

 

神風は声を荒らげ、亡骸をグシャグシャに踏みつける

 

既に死んだ者に対して更なる追い打ち……外道の極み……

 

「勝手な事して死にやがって。役立たずにも程があるんだよ!だからお前らは能無しなんだよ!誰のお陰でここまで来れたと思ってんだ⁉せっかく英雄派が消えたってのに、今までの苦労が台無しじゃないか!このクズ!ゴミ!カス!能無し!虫ケラ!オケラ!死骸になっても不愉快なんだよ!アドラスもメタルも神代剣護(かみしろけんご)も―――どいつもこいつも役立たず!クズ!クズ!クズクズクズッ!クゥゥゥゥゥゥズッ!」

 

神風は左腕から雷撃の矢を幾重にも撃ち出して、亡骸を焼き払う

 

鬼畜以下の悪逆非道ぶりに誰もが嫌悪を通り越し、リアスがいの一番に猛抗議した

 

「いい加減にしなさいっ!いったい何処まで外道なの……⁉自分の仲間をそこまで侮辱して……その上焼き払うなんて……っ!鬼畜以下の外道だわ!自分の仲間に……どうしてそんな事が出来るのよっ⁉」

 

リアスの怒号を聞いた神風はおかしそうに笑うだけだった

 

「キヒャヒャヒャヒャヒャ♪んなもん決まってんでしょぉ?仲間だと思ってないからだよ!所詮あいつらは使い捨ての道具!オモチャさ!オモチャが壊れたらどうするの?捨てるに決まってんだろッ!そんな事も分からないんですかぁ~?ボランティア精神にまみれた偽善者のお姉さん♪世の中には2種類の生き方が存在するの。1つは他人を利用する生き方、もう1つは奴隷みたいに利用される生き方。ボクはねぇ……利用されたくないから利用する生き方を選んだんだよ!この世の中、常に利用する側が勝ち組だと知ったからこそ、仲間なんてものはいらないのさッ!要するに勝てば官軍!どんな手段を使っても、どんだけ道具を使い捨てても勝てば良いんだ!それが地獄を見てきたボクが見つけた唯一の答えなんだよッ!信じられるのは自分だけ!たとえ親だろうが何だろうが、使えないとか怖いとか分かったら簡単に見捨てる!切り捨てる!ボクはそんな扱いを受けて生きてきたんだよッ!」

 

先程とは一変、狂気に満ちた表情で叫ぶ神風

 

いつもとは違った様子の神風にリアス達は気圧(けお)されてしまう……

 

息を切らす神風だが、再びいつもの嫌味を孕んだ哄笑を上げる

 

「温室育ちの坊っちゃん嬢ちゃんには想像もつかないだろうね。世の中の(みにく)さ、浅ましさは。ボクの大好きなお菓子みたいに甘くないし、キミ達が思っている以上にドス黒く薄汚いんだよ。おバカなキミ達の為に教えてあげようかな?―――面白おかしい話をね」

 

……遥か昔、とある村で1人の男の子が産まれた

 

産まれた子は普通の子と違う点があった

 

それは―――人並み外れた知能を持っていた事

 

幼少の頃から好奇心旺盛、知識欲に溢れ、物作りに精通してきた

 

(くわ)や鎌などの農具から始まり、椅子や机などの家具を自作

 

“興味を持てば”、“作りたい”と思ったら即座に行動した

 

材料は廃棄寸前の木材や鉄屑、果ては古くなった家電品から部品を拝借してきた

 

両親は子供の並外れた物作りの才能に目を付け、生活に必要な物を作ってもらうよう頼んだ

 

子供は両親の言う事を素直に聞き、言われた通りの物を作った

 

当人にとって物作りは楽しい遊びだった

 

その“遊び”で作った物がパパとママを喜ばせる

 

子供は褒められるのが嬉しくて、物作りに一層励んだ

 

やがて8歳を迎えた頃、子供の物作りの才能は村中に知れ渡った

 

村の人々も必要な物を作ってもらうよう頼み込んでくるようになり、子供は言われるがまま作った

 

両親と同じく人々は子供に感謝、次第にはそれが資金源にもなった

 

―――“ボクの作った物がパパとママを、村の人達を喜ばせている”―――

 

それが堪らなく嬉しかった子供は作り続けた

 

ある日、放浪してきたと思われる老人が“ある事”を村に教えてくれた

 

―――“明後日(みょうごにち)、この村に山賊がやって来る。用心しなさい”―――

 

老人はそう告げて去っていき、村の人々は不安に駆られてしまう

 

人々も両親も山賊の存在に怯え、他の村に移り住む事を考えた

 

山賊の話を聞いた子供は持ち前の頭脳を活かし、山賊を撃退する策を単独で考えた

 

まずは武器の製作に取り掛かった

 

1番手っ取り早いのは弓矢―――しかし、普通の弓矢では太刀打ちできないと考えた子供は恐ろしい事を思い付いた

 

機関銃の如く連射できる弓矢を開発、(やじり)には有毒植物から抽出した毒を塗り付けた

 

子供は短期間で連射式の弓矢―――(すなわ)ちボーガンを完成させてしまい、山賊が来る日を待った

 

そして、とうとう村に山賊が現れ、村の人々に金品や食料を渡せと要求してきた

 

子供は隠れながら射程距離を計り、自作したボーガンを山賊に向ける

 

震える指で引き金を引き、毒矢が幾重にも山賊の体に突き刺さった

 

頭に突き刺さった者、目に突き刺さった者は即死

 

急所を外れた山賊もいたが……鏃に塗られた毒によって命を落とす

 

残った1人も足を射られたせいでまともに動けず、子供は好機とばかりに飛び出し―――トドメの矢を撃ち込んだ

 

……これが初めての殺人である

 

山賊を倒した事に子供は無邪気に喜び、“これでパパとママも、村の人達も褒めてくれる”とはしゃいだ

 

しかし、子供に向けられたのは感謝ではなく―――畏怖の視線だった

 

“人を殺す道具まで作った”

 

“人を殺したのにはしゃぎ回っている”

 

“悪魔の知恵を持った化け物だ”

 

村の人々がその子供に恐怖し、(さげす)み、嫌悪し、石を投げた

 

子供は理解できなかった……

 

“どうしてボクに石を投げてくるの?”

 

“どうしてボクを褒めてくれないの?”

 

“どうしてパパとママもボクを怖がってるの?”

 

“どうしてパパとママはボクを化け物って呼ぶの?”

 

“どうして皆がボクを追い出そうとするの?”

 

どうして……?どうして……?どうして……?

 

ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?

 

ネエ…………ドウシテ……?

 

村を追い出された子供は尽きない疑問を口ずさみながら彷徨(さまよ)った

 

着いた先はゴミ溜め……生ゴミや木屑(きくず)鉄屑(てつくず)が転がり、辺り一帯に虫が沸いて出てくる

 

悪臭も酷く、普通の人間なら直ぐにでも逃げ出す劣悪極まりない環境……

 

だが、行く宛も帰る宛も無い子供はそこに住み着くしかなかった

 

汚水や泥水を(すす)り、腐った食物を(むさぼっ)て飢えを凌ぐ毎日……

 

廃材で小屋を作り、退屈しのぎに鉄屑で物作り

 

誰にも頼らず、誰も近寄らない場所での生活を何年も続けた……

 

月日が流れ、子供に転機が訪れる

 

自分とは違った異形の化け物が目の前に現れた

 

子供はもう喰い殺されても良いと諦めていた……

 

しかし、異形の化け物は子供に語りかける

 

『実に良い卑屈な目をしておる。己以外の物を信じない濁り腐った目だ。人間でありながら、化け物と同じ目付き。早々に出来るものではない』

 

異形の化け物が子供の頭に手らしき物を乗せる

 

『貴様のような者にこそ相応しい道が存在する。問うぞ、小僧。―――憎いか?怨めしいか?悔しいか?己を認めぬ(やから)が、この世の全てが』

 

異形の化け物が手から黒い塊―――闇を生み出す

 

『滅ぼしたいものがあるなら、復讐する力を欲するなら―――これを喰え。喰って人間を捨てろ。我らと同じ闇人(やみびと)となりて、この世の全てを喰らい滅するが良い』

 

異形の化け物が手から出した闇を子供の目の前に突きつける

 

子供はその闇をジッと見つめ…………勢い良く(むさぼ)った

 

殺したい奴……?

 

ソ ン ナ ノ ヤ マ ホ ド イ ル……ッ!

 

復讐する力……?

 

ホ シ イ ニ キ マ ッ テ ル……ッ!

 

ボクは……ボクは……バ ケ モ ノ ト ヨ バ レ

タ……ッ!

 

だったら……ダッタラ……ホ ン ト ウ ノ バ ケ

モ ノ ニ ナ ッ テ ヤ ル……ッ!

 

闇を喰らった子供の眼が妖しく輝く

 

『……問うのは野暮だったようだな。気に入ったぞ、小僧。余は闇人(やみびと)の王にして絶対の闇―――バジュラ・バロム。貴様の名を聞こうか』

 

ボクのナマエ……

 

ボクのナマエは……

 

“神” 宮 “風” 太(じんぐうふうた)

 

 

―――――――――――――――

 

 

「こうして、(みずか)ら化け物になった子供は自分を捨てた村の連中を残らず皆殺しにしちゃいました♪めでたしめでたしぃ~☆どう?面白かったでしょぉ?パパとママも例外なく殺した子供は面白おかしく実験を続けて、今もあらゆる生き物を殺し回ってま~すっ!」

 

嬉々として語った神風

 

リアスはその話の全貌を聞いて得心した

 

「それじゃあ、その子供と言うのは……!」

 

「キヒッ♪分かっちゃった?そぉでぇすっ。その子供は人間時代の名前を捨てて、改名しました。―――“神宮風太”から“神風”にね……ッ。お姉さんが察した通り―――ボクは人間から転生した闇人(やみびと)だったのさ……ッ!」

 

驚愕の事実が発覚……!

 

神風は元々人間だった

 

そして、『初代キング』バジュラに遭遇した事で自ら闇人(やみびと)に堕ちた

 

しかも、持ち前の頭脳と無邪気な残虐性は生来のものだった……

 

誰もが言葉を失う中、神風は未だに哄笑を上げ続ける

 

「お陰でボクは世の中の理不尽と仕組みを理解したと同時に、強大な力を手に入れた!『初代キング』はボクを手足のように使おうと考えてたみたいだけど、そんなの真っ平ゴメンだね!ボクは今までが酷すぎた!散々利用された挙げ句に捨てられるなんざ、もう金輪際味わいたくないね!だから、今度はボクが奴らを利用するのさ!その為に研究・実験・強化を続けて、ここまで上り詰めたんだ!『初代キング』が殺られた今、ようやく千載一遇の大チャンスが巡ってきた!キミ達をぶっ殺して、冥界と三大勢力に大打撃を与える!そして、未だに隠遁(いんとん)している闇人(やみびと)も纏める!そうすれば―――今度はボクがキングッ!『3代目キング』に就任ってわけさぁっ!キィィィィヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャァッ!」

 

神風はとうの昔から誰も信じていなかったようだ……

 

自分を闇人に転生させた『初代キング』さえも……彼は利用していた……

 

いずれ自分が『キング』の座に就く為に……

 

「ボクが苦しんできた分の屈辱、痛みをお前ら全員に与えてやる!冥界中の奴らも殺してやる!そうさ、ボクは『キング』になるんだ!そして、お前らは『キング』を楽しませる為の餌だ!闇人(やみびと)と言う猛獣どもに追い回され、喰い殺される餌になってもらうよ!ボクはそれを特等席で面白おかしく眺めて―――思いっきり笑ってやるのさァッ!キィィィィヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャァッ!」

 

―――狂ってる……

 

いや、もう狂ってると言う表現さえ生易しい……

 

完全な人格破綻者……

 

狂気の沙汰と取れる神風の言動にリアス達は戦慄せざるを得ない……

 

そんな中、1人の男の言葉が神風を一蹴する

 

「くだらん」

 

「あ?」

 

怒気を孕んだ神風が睨みを利かせるが、幽神正義は怯む事なく答えた

 

「くだらんと言ったまでだ。利用された?苦しんできただと?笑わせるな。貴様はただ(みずか)らゲスな本性をさらけ出し、周りに愛想を尽かされた。更にはその自業自得を周りに八つ当たりしているに過ぎない。何百年、何千年生きてきたかは知らんが、貴様は今でもガキのままだ。心身共に成長してない―――単なるワガママなガキだ。そんな奴に負ける道理など無い」

 

「ハァァァァァァァァ?随分と偉そうな事言ってくれるじゃない。何?何なの?キミがボクに勝てるとでも言いたいわけぇ?」

 

「いや、俺は戦わん」

 

「ププーッ!ナニソレ?結局ビビってるだけじゃんか!それを棚に上げといて偉そうに言うなっつーの!」

 

「勘違いするな。貴様を倒すのは俺の役目ではない」

 

「は?」

 

正義が遠くの空を見上げる

 

「貴様を倒したいと思ってる赤龍帝(ヤツ)がもうすぐ現れる。俺はそいつに出番を譲るだけだ」

 

正義の視界の先に小さな豆粒のような人影が映り込む

 

それがどんどん近付いてくる……

 

赤い閃光と共に見えてくる2人のヒーロー

 

たとえ傷だらけでボロボロになっても、体中から血を流していても駆け付けてくるヒーロー

 

冥界を巻き込む騒動を引き起こした黒幕の眼前に―――闇皇(アラタ)赤龍帝(イッセー)が参上した

 

神風にとってはあまりにも面白くない現状……

 

「……あ~あっ、やっぱ最後の最後までキミ達が邪魔してくるんだね。ホンッットに何処までもムカつく―――クソッタレなヴァカだよねェェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエッッ!」

 

憤怒と憎悪を撒き散らす神風に対し、新と一誠は共に拳を向けて言い放つ

 

「「決着をつけるぞ、このクソ野郎ッッ!」」




いよいよ最終決戦が始まります……!

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