ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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新と一誠の帰還回です!


2人のヒーロー

『―――夢?』

 

「ああ、寝ているうちに変な夢を見たんだよ。大勢の子供達が泣いてんだ。聞いたらさ、でっかいモンスターが怖いって泣いてんだよ。だから、俺はその子達に言ったんだ。指で円を描いて真ん中を押して、ずむずむいやーんってやっていれば俺がそのうち必ず戻っていくからってさ」

 

一誠の話を聞いてドライグは嘆息する

 

『……あれほど他者にやられたら嫌がっていたその仕草をお前がやるとはな……』

 

「仕方ねぇだろ!あんなに大勢の子供を励ますにはそう言うポーズみたいなのが必要だと思ったんだよ!……でもさ、俺がそうやったら、夢の中の子供達の不安な顔が消えてたよ。おっぱいってすげえよな」

 

『……はぁ、そうだな。―――で、どうだ、新しい体は?』

 

確認してくるドライグ

 

一誠は繭から取り出したばかりの自分の体に魂を移し替えてもらっていた

 

以前の体と寸分違わず、手を握って感触も確認する

 

「よっしゃ!これでアーシアのおっぱいが揉める!……あ、でも、前の体と何が変わったんだ?」

 

『姿形と一部基本は人間のままだ。普段通りに生活できるだろう。ただし、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)が消失している事で、現在お前は人型のドラゴンと言える。オーフィスの協力があってこそとはいえ、受肉に成功したのがグレートレッドの体なのだからな。小さな真龍(しんりゅう)とも言えるだろう』

 

「つまり、今の俺はグレートレッドの子供みたいなもんか」

 

『そこにウロボロスの力が加わっている。この状態でも以前の体より多少は身体能力が向上している。……まあ、元が悪かったからその程度しか強化できなかったとも言えるんだが……』

 

「元が悪くてごめんなさいね!どうせ、元々はただの男子高校生でしたよ!」

 

『メリットは今述べた身体能力向上と真龍と龍神の力が加わった事で、今後どのような成長が起こるか予測が立てられなくなった事だろうな。あと、もうグレートレッドから離れても大丈夫だ』

 

「もともと俺の成長なんて予測できなくねぇか?乳力(にゅうパワー)やら何やらでさ」

 

『まあ、それはそうなんだが……。デメリットはこれも先程話した通り、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)から得ていた各種能力が無くなった事、グレートレッドとオーフィスの力を得ている為に以前よりも龍殺し(ドラゴンスレイヤー)による危険性が増した事だろうか』

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』についてはもう一度リアス達に出会ってから対応するので問題ないが、龍殺し(ドラゴンスレイヤー)のダメージが増してしまったのは痛手である

 

龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の痛みは耐え難いものだから、2度と食らいたくないだろう……

 

一誠はこれからどうするかを考えた

 

次元の狭間にいても停止状態のゴーレム―――ゴグマゴグぐらいしか見つかる物がない

 

どうやって皆のもとに帰ろうかと思慮している時だった

 

耳に懐かしいメロディが聞こえてくる……

 

『……見ろ、相棒』

 

一誠はドライグに促されて次元の狭間の空を見る

 

万華鏡の中身のような空に―――冥界の子供達の笑顔が次々と映されていく

 

子供達は指で円を描き、真ん中を指でつつきながら大きな声で“あの歌”を歌っていた

 

 

とある国の隅っこに

 

おっぱい大好きドラゴン住んでいる

 

お天気の日はおっぱい探してお散歩だ☆

 

ドラゴン ドラゴン おっぱいドラゴン

 

もみもみ ちゅーちゅー ぱふんぱふん

 

いろいろなおっぱいあるけれど

 

やっぱり おっきいのが一番大好き

 

おっぱいドラゴン 今日も飛ぶ

 

 

とある町の隅っこで

 

おっぱい大好きドラゴン笑っていた

 

嵐の日でもおっぱい押すと元気になれる☆

 

ドラゴン ドラゴン おっぱいドラゴン

 

ポチッとポチッと ずむずむ いやーん

 

たくさんおっぱい見たけれど

 

やっぱり おっきいのが一番大好き

 

おっぱいドラゴン 今日も押す

 

 

『―――冥界中の子供達の思いをここに投射しているとグレートレッドは言っている』

 

冥界中の子供達の呼ぶ声に一誠は嬉しさで胸がいっぱいになった……

 

『グレートレッドは、夢幻(むげん)(つかさど)る……。誰かが抱いた夢を、誰かが見た夢を、誰かが思い描いた夢を、それらを俺達に見せているのだろう。もしかしたら、今際(いまわ)(きわ)にお前が家に帰りたいと思った強烈な願い―――夢に反応してグレートレッドは姿を現したのかもしれない』

 

「ああ、だけど、これはきっと本物だ。子供達が歌ってくれてるんだ……っ!それがここに届いた……っ!俺に届いてきたんだ……っ!」

 

一誠は子供達の笑顔とその歌を聴いて、込み上げてくるものを抑えきれずにいた

 

『……不思議だ。あんなにも不快に感じていたあの歌が……今は力強く感じる。……ククク、俺も本格的に壊れてきたか』

 

「いや、良いんじゃねぇかな、ドライグ。これはきっとそう言うあったかい歌だ。そうさ、俺はとある町の隅っこで、笑いながら、天気の日でも、嵐の日でも、おっぱい探して飛んでいく―――おっぱいドラゴンだ……っ!おっぱいが大好きだからよっ!皆のところに帰らなきゃダメなんだよなっ!」

 

『ああ、帰ろう、相棒。―――グレートレッド、頼めるか?この男をあの子達のもとに帰してやってくれないか?』

 

ドライグがそう頼むと―――グレートレッドが一際大きい咆哮を上げる

 

前方の空間に歪みが生じて、裂け目が生まれていく

 

そこから大都市の町並みが一望できた

 

冥界の都市らしき景色から懐かしいオーラを感じ取れる

 

大事な仲間のオーラ、愛する女性(ひと)のオーラ

 

一誠は隣にいるオーフィスに言った

 

「オーフィス、俺は行くよ。俺が帰られる場所へ―――」

 

「そうか。それは……少しだけ羨ましいこと」

 

寂しげなオーフィスに一誠は手を差し伸ばした

 

「―――お前も来い」

 

その行為と言葉にオーフィスは驚き目を見開いていた

 

一誠は笑顔を浮かべて言う

 

「俺と友達だろう?なら、来いよ。一緒に行こう」

 

その時、最強と称された存在(ドラゴン)は微笑んだ

 

「我とドライグは―――友達。我、お前と共に行く」

 

手を取り合う一誠とオーフィス

 

一誠はオーフィス、グレートレッドと共に次元の裂け目を超えていった

 

 

―――――――――――――

 

 

「気分は如何ですか、Monsieur(ムッシュ)

 

「どうもこうも、今でも信じられねぇよ……。嘘みたいに虚脱感が無くなってやがる」

 

黄泉の国にて、キリヒコ曰く“調整”とやらを終えた新は自身の体の復調具合に驚いていた

 

藁にもすがる思いで受けたキリヒコの調整―――その効果は悔しくも覿面(てきめん)、今まで(さいな)まれていた虚脱感、震え、寒気、吐き気、痛みなどの症状が全て消えた

 

唯一復調していない部分は自ら切り落とした右手のみ

 

その他の機能はいつもと変わらぬ感覚だった

 

キリヒコは右腕に着けた装置(デバイス)で回収した(データ)をチェックする

 

興味深そうに(データ)を見つめた後、新に向かって会釈する

 

Merci(メルシィ)、とても興味深いデータが取れましたよ」

 

「あぁ、そうかい。用が済んだなら、さっさと俺をここから出してくれねぇか?いい加減向こうがどんな様子なのか気になるんだよ」

 

Oh(オー) la()la()。相変わらずせっかちなヒトですね。時間にルーズな方は嫌われてしまいますよ?」

 

「良いから早くしろ」

 

「……はぁ、Oui(ウィ) Oui(ウィ)。ブラッドマン、お願いします」

 

「承知した。黒翼(こくよく)と竜の血混ざりし悪魔の帰還、か」

 

ブラッドマンが宙に(てのひら)を向ける

 

直後、ブラッドマンの腕や足、全身から得体の知れない粒子が滲み出てくる

 

まるでこの世とあの世、幾つもの世界から吐き出された怨嗟、悔恨、怨念、あらゆる負の感情が牙でも向けるように……

 

あまりの気迫に新は硬直してしまい、手から嫌な脂汗が出てくる

 

ブラッドマンは自身の体から出てきた粒子を使用して宙に亀裂を刻み込む

 

ブラッドマンの粒子によって()じ開けられた次元の裂け目

 

そこから目に映ったのは―――冥界の都市らしき景色、それと同時に懐かしいオーラも新は感じ取れた

 

冥界の独特な空気、大事な仲間達のオーラ、共に練磨していく赤龍帝(なかま)のオーラ

 

そして、自分の生き方を変えてくれた愛する(ひと)のオーラも……

 

「さあ、これで帰還準備は整いましたよ?後はご自由に」

 

「ちょっと待て」

 

新は思わず口をついて“ちょっと待て”と言ってしまった

 

冥界への帰還口が目の前にあるにもかからわず、新は咄嗟に湧いた疑問をぶつける

 

「キリヒコ、お前は……いや、お前らはいったい何者なんだ……?」

 

Pardon(パルドン)?」

 

「言葉の通りだ。お前らはいったい何者なんだ。この黄泉の国っておぞましい所に平然としていられるわ、俺の体に巣食ってた闇をあっという間に回収するわ、挙げ句の果てには簡単に次元の裂け目を作ったりするわで頭がついていかねぇ。……本当に、お前らは何者なんだ」

 

戦慄しつつもキリヒコに問いただす新

 

その問いに対し、キリヒコは軽く笑い―――人差し指を自分の口元にあてがう

 

「誰でも秘密を抱えているものですよ?Monsieur(ムッシュ)であろうと、我々であろうと……ね」

 

「気味ワリィ奴だな。とりあえず、今回だけは礼を言っておく。だが、忘れるなよ。テメェは敵だ。今度ふざけた真似をしたら―――遠慮無く殺す」

 

そう言い残して新は次元の裂け目を飛び出していった……

 

少しして次元の裂け目が閉じて消え、キリヒコは(きびす)を返す

 

「では、(しばら)くしたら我々もここから出ましょうか。高みの見物です。冥界の危機とやらを止めようとする彼ら、そして……“英雄”の名を(かた)る無法者達の悪あがきを」

 

「俺達は参戦しなくて良いのか?『禍の団(カオス・ブリゲード)』は俺達が造ろうとしている新世界には無用な組織だろう」

 

Oui(ウィ)、今は彼らに任せるとしましょう。『禍の団(カオス・ブリゲード)』に遅れを取るようなら、そこまでの実力しかなかったと踏ん切りがつくでしょう?」

 

「……食えぬ男だ、お前は。傀儡(かいらい)どもを手玉に取りし、深淵の闇の伝道師か」

 

Non(ノン) Non(ノン) Non(ノン)、彼らなら私をこう言うでしょう。……諸悪の根源―――と」

 

 

―――――――――――――

 

 

次元の狭間からグレートレッド達と共に抜け出た一誠は、目の前の光景に度胆(どぎも)を抜かれた

 

“自分の視線の先にドデカい怪獣がいる”―――と

 

シャルバが外法で作ったアンチモンスターだと直ぐに得心し、後方の都市部と遠目に確認する

 

アンチモンスターの周辺は既に破壊し尽くされた後であり、地面には大きなクレーターが無数に点在し、山も森も建物も全部無惨に崩壊している

 

『なんて奴だ……!本当にロクでもない魔王とやらだったな、シャルバの野郎!ぶっ倒して正解だ!』

 

「ったく、なんて事だ。シャルバって奴は死んで正解だったな」

 

「ああ!全くその通……………………り……?」

 

一誠は突如聞こえてきた声に間の抜けた声を上げてしまい、その方向に視線を向ける

 

聞き覚えのある声質……そこには冥界中の誰もが知り、赤龍帝(イッセー)と並ぶもう1人のヒーローがいた

 

一誠は自然とその者の名を口にする

 

「あ、アアアアアアアアア新ァァァァァァァァァァァァァァ……ッ?」

 

「よ、一誠。しばらくぶりじゃねぇか。変顔に磨きが掛かってるぞ」

 

「そりゃ変顔にもなっちまうわぁ!あの時マジで死んだと思ったんだぞ!それなのに平然と帰ってこられたら驚くっつーの!」

 

「俺だって驚いてんだよ。次元の裂け目から出たと思えばこいつ―――前に見たグレートレッドじゃねぇか。オーフィスもいる上にこんな巨大生物と一緒に帰還してくる方が規格外だろ」

 

「それはそうだけど……まあ、なんだ、とにかく無事で良かった!」

 

「……ああ、お前もな」

 

再会をひとまず喜び終えた2人は現状を確認

 

超巨大なアンチモンスター『超獣鬼(ジャバウォック)』をどうするか考え込んでいると、2人の視界にグレイフィアが映り込む

 

今グレイフィアは凄まじいオーラを漂わせる者達と一緒にアンチモンスターと戦っていた

 

グレイフィアと共に戦っているのはまごう事なくサーゼクスのルシファー眷属

 

新撰組の羽織を着た侍や神の獣と称されし麒麟もいる

 

『あれは相当な手練ればかりだな……。全員尋常じゃない力量の持ち主だ』

 

ドライグが感嘆するように言う

 

しかし、悪魔の中でも最強と名高いルシファー眷属でさえ、アンチモンスター『超獣鬼(ジャバウォック)』に苦戦している……

 

―――と、ここでアンチモンスターが新と一誠が乗っているグレートレッドに気付き、6つの目玉を全て向けてくる

 

認識した途端に敵意むき出しの視線を送るアンチモンスター

 

『…………何だと?それは本気で言っているのか……?』

 

「ん?ドライグ、どうかしたのか?」

 

『……ああ、グレートレッドが「ガン付けられたのであのモンスターが気に入らない」と言うのだ……』

 

どうやら『超獣鬼(ジャバウォック)』の視線は赤龍神帝(グレートレッド)の怒りに触れたらしい

 

『それでだな、相棒。グレートレッドが手を貸すから、あのモンスターを倒そうと言うのだ』

 

「エエッ⁉倒す⁉あのでっかいのを⁉しかも俺も数に入ってますか⁉」

 

「俺は入ってなくて助かったような……そうでないような……」

 

グレートレッドが進言してきたあまりにも無茶苦茶な注文に一誠は嫌な汗が止まらず、新は陰でホッとしていた

 

オーフィスが言う

 

「大丈夫、ドライグとグレートレッド、合体すればいい。今のドライグの体、真龍とある意味で同じ。合体できる」

 

ドライグ、つまり一誠とグレートレッドな合体

 

冗談なのか本気なのか、オーフィス達の言葉に判断がつかない一誠だが……突如、グレートレッドの体が赤く神々しいオーラを発していく

 

赤いオーラが一帯を赤く赤く染め、一誠の体もその膨大な赤い光に包まれていった

 

新は“何かヤバい!”と察知して高速で空高く飛び上がった

 

赤い光が止むとそこにいたのは―――超巨大な禁手(バランス・ブレイカー)状態となった一誠だった……

 

その壮大な光景に呆気に取られた新は「…………は?」としか言葉が出なかった

 

『気付いたか、相棒』

 

『……ん?ああ、気付いたけど、どうして目の前にあの怪物そっくりなのがいるんだ?しかも俺と同じぐらいのサイズ』

 

『それはそうだろう。―――お前が巨大になったのだからな』

 

ドライグの報告に一瞬言葉を失い、驚愕する一誠

 

足下や自分の全身、後方の都市部にも目を配らせ―――

 

『俺、でっかくなってんのぉぉっぉぉぉぉおおおおっ⁉』

 

「うるせぇぇぇぇぇえええええええええっ!」

 

驚愕の声音を響かせる一誠と耳を押さえて怒り叫ぶ新

 

グレイフィア達も巨大化した一誠に気付いたようだ

 

『ああ、そうだ。やっと理解したか。グレートレッドがお前に力を貸してくれると言ってただろう?あれはこう言う事だ。グレートレッドのサイズでお前を再現させたんだよ。オーフィスが言う通り、合体だな。しかも巨大化でな』

 

『クソ!合体するならアーシアと合体したかったよ!』

 

ゴアアアアアアアアアアアアアッ!

 

眼前の怪物が咆哮して一直線に一誠へと突進していく

 

『クソッタレ!どうすりゃ良い⁉教えろ、ドライグ!』

 

『要領は同じだ。いつも通りに体を動かせる。グレートレッドは基本の動きをこちらに委ねてくれているようだ。ただ体が大きくなっただけだと思えばいい』

 

『なるほど、分かりやすい限りだ!』

 

一誠は突っ込んでくるモンスターに向かって右のストレートを撃ち放つ

 

モンスターの顔面にクリーンヒットし、モンスターはその一撃で体をよろめかせる

 

顔を伏せたと思いきや、牙むき出しの口内から危険な火の揺らめきが見えた

 

『炎を吐く気か!』

 

『相棒、その炎が後方の都市部に向かったら被害が出るだろう。避けるのはまずいんじゃないのか?』

 

『んな事は分かってるよ!避けるのが無理なら―――』

 

一誠は右手を前に突き出してドラゴンショットの構えを取る

 

怪獣の口から大質量の火炎球が吐き出される

 

『いっけぇぇっ!』

 

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)‼』

 

増大させた魔力の一撃が火炎球目掛けて放たれる!

 

火炎球とドラゴンショットがぶつかる手前で一誠は『曲がれぇぇぇえぇっ!』と念じる

 

一誠の叫びに呼応するようにドラゴンショットは軌道を変えて下に曲がり―――

 

『今度は上がれっ!』

 

右手を上方向に突き上げ、ドラゴンショットが真上に軌道を変えていく

 

一誠が密かに練習していた―――撃ち出したドラゴンショットを操る方法である

 

火炎球の下にドラゴンショットが潜り込み、一気に上へ押し上げる

 

激しい衝突音を響かせ、火炎球は上空に持ち上げられた

 

2つの強大な魔力は空を裂き、遥か上空の彼方で弾け―――空を爆炎一色に染めた

 

怪獣は更に咆哮を上げて再突進

 

しかし、一誠は一切恐れなかった

 

一誠は突進してきた怪獣の顔面に拳打を撃ち込み、更に側頭部に回し蹴りも入れた

 

―――と、怪獣の目が妖しく輝き出す

 

『目から光を放つ気か!』

 

ドライグがそう叫び、一誠は直ぐに体を捻ってその光をやり過ごす

 

怪獣の6つの目から光の帯が体を掠めて、後方の地に一直線に掃射されていく

 

刹那―――大きな爆音と共に地が激しく揺れ、遥か地平の彼方まで大きな裂け目が生じ、そこから大質量の火炎が巻き起こっていた

 

『……相棒、グレートレッドから良い報せがある』

 

『んだよ、早く言ってくれ!』

 

『決め技はある。それが決まれば確実に勝てる―――と』

 

『良いねぇ!そう言うのが欲しかったんだよ!』

 

『だが、問題はそれをここで放てば、ここいら一帯が全て消滅してしまうそうだ。―――破壊力がバカげていると言っている』

 

『マジか!……よっぽどのものなんだろうな。やるとしたら、上空にぶん投げて上に向かって使うって感じかな?』

 

『ああ、それしかないだろうな』

 

「その役回り、俺に任せてもらえるか?」

 

作戦を練ろうとした一誠に新が進言してくる

 

『出来るのか?』

 

「なーに、こっちには俺だけじゃない―――グレイフィアさんだっているんだぜ?出来ないわけないだろ」

 

『だよな!じゃあ、頼むぜ!』

 

新は直ぐにグレイフィアのところまで飛んでいった

 

「グレイフィアさん!」

 

「新さん……?すると、あの巨大な赤龍帝は一誠さんですね?お二人とも無事で何よりです。しかし、この巨大化はいったい?」

 

「説明は後にしてくれ。今はあのモンスターを倒すのが先だ。―――倒す(すべ)がある。協力してくれ」

 

新の言葉にグレイフィアは一転して戦士の顔付きになった

 

「聞きましょう。私は―――いえ、私達は何をすべきか?」

 

「俺達でヤツを上空に跳ね上げる。それが出来れば、後は一誠が上に向けて特大なのをぶっ放す―――それだけだ」

 

「なるほど。分かりやすい作戦です。そして、何よりあなたの『特大』と言う言葉は心強いわ。―――やりましょう。それぐらい出来ないで、何がルシファー眷属の『女王(クイーン)』か!」

 

同意したグレイフィアが濃密なオーラを身に纏って飛び出し、新撰組の羽織を着た侍に指示を飛ばす

 

「総司さん!『超獣鬼(ジャバウォック)』の足を両断してください!」

 

「了解です、グレイフィア殿」

 

侍は神速で怪獣の足下に詰め寄り、腰に帯刀する日本刀に手をかけた

 

一瞬の静寂の後、怪獣の右足は膝から両断されていた

 

地響きを立てながら倒れていく怪獣へ近付き、ヤツを中心に魔法陣を展開し始める

 

新はその間に左手に魔力のオーラを集め、追撃準備を整えた

 

―――黄泉の国でキリヒコに“調整”とやらをしてもらったお陰か、今までに無い大質量の魔力をスムーズに練り込めている……

 

怪獣の斬られた足が既に再生を始め、膝から下の断たれた部分を引き寄せようとしていた

 

その間にグレイフィアを中心にした術式は完成、怪獣の下に巨大な魔法陣が輝き出した

 

「上にあげますよ!」

 

「ああ!俺も特大の一撃でサポートする!」

 

刹那、巨大な怪獣は魔法陣からの衝撃を受けて、遥か上空に投げ出される

 

 

景気づけだとばかりに新は左手を前に突き出し―――黒い火竜を解き放った

 

巨大な禁手(バランス・ブレイカー)と化した一誠よりも一回り小さいが、大質量かつ濃密なオーラを吹き荒らす黒い火竜……

 

それが怪獣の腹に直撃し、更に上へと跳ねあげていった

 

『よっしゃ、ドライグ!その特大な必殺技を用意しろ!』

 

『応ッ!任せろ!』

 

ドライグが応じて直ぐに鎧の胸部分が音を立てながらスライドしていき、何かの発射口が現れる

 

『……ロンギヌス・スマッシャー。本来、得てはいけない忌々しき技だ』

 

ドライグが低い声音でそう呟く

 

静かな鳴動、信じられない程の質量のオーラが胸の砲口に集まっていく

 

上空の怪獣は顔を向けて目と口から、それぞれ光と炎を吐き出そうとしていた

 

だが、一誠の方が速い―――

 

『ロンギヌス・スマッシャァァァァアアアアアアアアアアアッ!』

 

叫びと共に極大な赤いオーラの砲撃が放射されていく

 

怪獣の光線と火炎球が今まさに吐き出されそうだったが、グレートレッドの絶大なオーラが丸ごと飲み込んでいった……

 

空一面が赤いオーラに染め上がる程の広範囲で膨大な威力―――それによって『超獣鬼(ジャバウォック)』は跡形もなく消し去っていた

 

“すげえ……”と口ずさんだ刹那、一誠の体が赤く輝き、元の等身のサイズに戻る

 

新も一誠のもとへ合流し、2人の頭上にはグレートレッドの姿があった

 

グレートレッドの目が輝くと、空に歪みが生じていく

 

その歪みはグレートレッドが潜れる程の大きさとなり、グレートレッドはドライグ……一誠を視認すると大きな口を開ける

 

それは初めて耳にするグレートレッドの声だった

 

<―――ずむずむいやーん>

 

「「――――ッ!」」

 

新と一誠は絶句するしかなかった……

 

まさかグレートレッドまでこんな事を言うとは……

 

<ずむずむいやーん、ずむずむいやーん>

 

ただひたすら“ずむずむいやーん”を連呼しながら次元の穴に消えていくグレートレッド

 

『聞こえん。僕には何も聞こえないもーん』

 

ドライグに至っては口調が変わるほど現実逃避していた……

 

「ずむずむいやーん」

 

いつの間にか2人の近くにいたオーフィスまで“ずむずむいやーん”と言ってくる

 

「んもー!なんで伝説のドラゴンやそれに関わった連中はそんなのが大好きなんだよぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「……そりゃ、あれだ。お前が……悪いんだ……」

 

赤龍神帝との酷い別れ方に一誠は嘆き、新は諦めたようにツッコミを入れるしかなかった


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