ハイスクールD×D ～闇皇の蝙蝠～

ヒーロー帰還の前兆

サイラオーグと大牙がヘラクレスとメタルを倒し、渉達がジャンヌと戦っている中、残る相手はゲオルクだけとなっていた

無論、曹操が何処から現れるか分からないから油断は出来ない

遠目で極大の雷光と氷の魔力、金色のオーラが高層ビル群の間で暴れているのが見える

未だジャンヌとの交戦が続いているようだ

力を増した渉達がまだここに現れないのもジャンヌが『魔人化(カオス・ブレイク)』を使用したからであろう

リアス達はサイラオーグ、大牙を含め相当な戦力

ゲオルクが『魔人化(カオス・ブレイク)』を使用したとしても勝機は望める

ゲオルクが遠目に倒れるヘラクレスとメタルを一瞥して笑んだ

「強い。これが現若手悪魔か。バアルのサイラオーグ、そしてリアス・グレモリーが率いるグレモリー眷属。まさか、先日会ったばかりで力を増してくるだなんて……。闇人(やみびと)の『２代目キング』も予想以上の力だ。この調子では、そちらの猫又やヴァンパイアも得ている情報通りにはいかないか」

グリゴリに行っていたギャスパーはともかく、疑似空間での戦いから小猫は目立った強化があったわけではない

彼女はこれからだろう

話によれば、姉の黒歌から仙術と妖術を習うつもりでいる

軋轢(あつれき)のあった姉から教わるのだから、小猫の決意は揺るがないものになっているだろう

ゲオルクから視線を向けられたギャスパーは―――表情を青ざめさせていた

「……ギャスパー、どうかしたの？」

眷属の変化に気付いたリアスは怪訝そうにしていたが……ギャスパーは次第に表情を崩していき、ポロポロと涙を流し始める

「……すみません、皆さん。……僕……僕！グリゴリの研究施設に行っても……強くなれなかったんです！」

ギャスパーの告白にこの場にいる眷属全員が驚き、彼は嗚咽を漏らしながら吐露する

「皆さんのお役に立ちたかったから……強くなりたかったのに！……今のままではこれ以上は、強くなれないってグリゴリの方に言われて……僕は女の子も守れない……グレモリー眷属男子の恥なんです……っ！」

その場で泣き崩れるギャスパー

ギャスパーの姿を見てゲオルクはつまらなさそうに息を吐く

「亡き赤龍帝も亡き闇皇もこの後輩の情けない姿を見たら浮かばれないだろう」

その一言を聞いたギャスパーは顔だけ上げてキョトンとした様子で漏らした

「……亡き……赤龍帝？……亡き……闇皇？」

ギャスパーは周囲を見渡す

新と一誠がここにいない理由をギャスパーはまだ知らない

「……イッセー先輩は……？新先輩は……？お二人がここにいないのはあの大きな怪物を止めに行っているからじゃないんですか……？」

「ギャスパー、新とイッセーは―――」

真相を知らないギャスパーにリアスが告げようとするが―――サイラオーグがリアスに視線を配らせて首を横に振った

リアスもそれを確認して、言いかけた口を閉ざす

敢えて真実を教えない……この行為の真意は何なのか？

『王(キング)』２人の視線の応答に気付いていないゲオルクは口元を笑ましてギャスパーに話し始めた

「そうか。キミはまだ知らなかったのか。赤龍帝と闇皇は旧魔王の―――いや、今更言い訳をしても仕方ない。俺達『禍の団(カオス・ブリゲード)』と戦い、戦死した。究極の龍殺し(ドラゴンスレイヤー)とされるサマエルの毒を受けて、だろう。まあ、俺達もその場にいたわけではないから詳しい死因は分からないが、あの赤龍帝と闇皇が死んだとするなら、それだ」

英雄派はまだ一誠が次元の狭間で魂のみの状態で存在する事を知らない

同時に新も死んでいない事を知らない

普通ならサマエルの毒をくらったドラゴンは死ぬのだから当然だろう

リアスが敢えて真実を伝えない事に小猫やアーシア、ロスヴァイセも何となく気付いたようだ

勿論、その真意までは測れないが……

未だゲオルクの言葉は続き、それを耳にすればする程にギャスパーの表情は死んでいく

「悔やむ事はない。あのオーフィスと白龍皇ヴァーリですらサマエルに打倒されたのだから。如何に赤龍帝だろうと、あの呪いには打ち勝てない」

ゲオルクはそう告げた後、軽く笑った

「……イッセー先輩が……死んだ……？」

呆然とするギャスパーの頬を一筋の涙が伝う

全身が震え、視線もおぼろげになっている

尊敬する先輩の死を受けて、思考が絶望に塗り変わっていく……

顔を伏し、沈黙を続けるギャスパー

少し前のリアス達と同様の感情が今ギャスパーを襲っている……

あまりの光景に居たたまれなくなり、小猫が近寄ろうとした時だった―――

ギャスパーはふらついた体を上げ、伏せていた顔も徐々に上げた

ギャスパーの表情は感情の宿っていない生気の抜けた状態……だが、ゾクリと冷たいものが背筋を駆け抜けていく

彼は小さく口を開くと一言だけ呟く

それはとても低く、この世のものとは思えない呪詛めいたものだった

≪―――死ね≫

その瞬間、一瞬でこの区域全てが暗黒に包まれた

地面、空、景色、その全てが暗く冷たく、光すら消失してしまう程の暗闇に包まれていく……

ギャスパーの体から暗黒が滲み出ていき、それが周囲を黒く染め上げていった

「……何だ、これは……ッ！」

突然の現象にゲオルクは驚き、周囲を見渡し始めた

先程まで建ち並んでいた建物群は消えて無くなり、リアス達以外の全てが漆黒の闇に変貌していた

「……暴走？禁手(バランス・ブレイカー)……？いえ、これは違う！ヴァンパイアの力……？でも、これはあまりにも……桁違いな……ッ！」

この光景に魔法に秀でているロスヴァイセも驚くばかりだった

暗黒の領域と化した中央で、より一層闇に包まれた人型が異様な動きをしながらゲオルクに近付いていく

首をあらぬ方向に折り曲げ、肩を痙攣させ、足を引きずりながら１歩ずつゲオルクとの間合いを詰めていく

その双眸は赤く赤く、ただ不気味に輝いていた……

≪コロシテヤル……ッ！オマエラ全員、僕ガ殺シ尽クシテヤル……ッ！≫

発せられた声はギャスパーのものではなく、呪詛、怨嗟、怨念、それらを全て含んだ危険な声だった

サイラオーグが目を見開いて言う

「……赤龍帝の死、闇皇の死と言う切っ掛けがあれば化けるのではないかと踏んでいた。ギャスパー・ヴラディが屈辱に塗(まみ)れる男の目をしていたからだ。何か吹っ切れる事柄が被さればグリゴリでも解放できなかったものが解き放たれると思ったのだ。あの総督の組織が単純に力を目覚めさせられなかったと言うのは考えられないからな」

サイラオーグの言う通り、数々の研究を行(おこな)っているグリゴリがギャスパーを相手にただ何も出来なかったと言うのは考えにくい

何かに目覚めつつあるが、その切っ掛けが見つからずに帰した―――と言うのが正しいだろう

サイラオーグは眉間を険しくしながらリアスに言った

「リアス、ギャスパー・ヴラディの内に眠っていたものは―――俺達の想像を遥かに超えるものだったようだ。これは―――バケモノの類(たぐい)だ。……お前は、いったい何を眷属にした……？」

「……ヴァンパイアの名門ヴラディ家がギャスパーを蔑(ないがし)ろにしていたのは……停止の邪眼ではなく、これを知っていたから……？恐怖から……城を離れさせた……？」

リアスは声を震わせながらそう漏らしていた

眼前で黒い化身となったギャスパーが手らしきものを突き出した

ゲオルクが直ぐに反応して魔法陣を展開するが―――その魔法陣が闇に喰われていく

「……ッ！何だ、これは！魔法でもない！神器(セイクリッド・ギア)の力でもない！どうやって我が魔法陣を消した⁉」

ギャスパーの行動に驚愕するゲオルクは距離を取り、無数の攻撃魔法陣を宙に展開した

あらゆる属性、魔法術式が入り乱れた砲撃がギャスパーに降り注いでいくが……

暗黒の世界に幾つもの赤い眼が縦横無尽に出現して妖しく輝いた刹那、撃ち出された無数の攻撃魔法は空中で全て停止してしまう

停止した魔法の数々が闇に喰われて消失していく

その結果に驚くゲオルク、徐々に顔色が恐怖に彩られていた

歩みを再開する暗黒の化身、現世の生物とは思えない異様な存在感と動きで少しずつゲオルクに近付いていく

ゲオルクは手元に霧を集めていった

『絶霧(ディメンション・ロスト)』の霧でギャスパーを祓うつもりだろう

霧を操ってギャスパーを包み込もうとするが、その霧もまたギャスパーを覆う闇、影、漆黒に喰われていった

≪……喰う……くう……クウ……喰ってヤッた……おマエの霧モ魔法も……効かナイぞ……。全部、クッてやっタぞ……≫

言動がもはやリアス達の知っているギャスパーではない……

上位神滅具(ロンギヌス)の霧でも常闇の存在と化したギャスパーを制する事が出来ないどころか、霧使いのゲオルクがまるで相手になっていない

ギャスパーに割り振られた『変異の駒(ミューテーション・ピース)』―――今ならその意味が理解できる

ギャスパーはこれだけの潜在能力を秘めており、バアル戦での一戦がギャスパー自身を劇的に変えた

それが新と一誠の死と言う情報を切っ掛けに爆発した―――

その結果が闇の化身……

『……イッセーくん、新くん、もしかしたら、グレモリー眷属の男子で１番の成長株はギャスパーくんかもしれないよ……。これは……この姿は常軌を逸していると言うレベルではない。悪魔でもドラゴンでもない……ヴァンパイアと分類して良いのかさえ分からない。―――あれは違うモノだ』

ゲオルクは思いつく限りの魔法と霧の能力をギャスパーに放っていく

それらも闇に喰われ、また無数の『眼』によって停止されていった

攻撃を全て打ち払われる中、結界空間を作ろうと霧で形成用魔法陣を展開させようともしていたが―――悉(ことごと)く闇に喰われていき、成形が失敗する

ゲオルクの周囲の闇が蠢(うごめ)き、獣のような形に作られていく

１つ目の狼、 五翼ある巨鳥、顔に口が２つも付いているドラゴン、足が20本以上ある蜘蛛

そのどれもが生来の生物を逸脱したフォルムだった

異様な生物の群れがゲオルクを囲む

「くっ！我が霧が……ッ！魔法が効かぬッ！何だ、こいつは！いったい何だと言うんだ⁉」

ゲオルクの表情は既に絶望に包まれており、戦いはどう見てもギャスパーの圧勝……

否、もはや勝負と呼べるものではない……

「……これがギャーくんの本当の力……」

呆然と眺めるしかない小猫はそれだけを何とか口から絞り出していた

友達の変化は明らかに様々なものを逸するからだ

「くっ……一時引くしかない！」

ゲオルクは正体と能力が測りきれないギャスパーの相手を諦め、転移酔うの魔法陣を足下に出現させる

ゲオルクの体が魔法陣の輝きに包まれ、飛ぼうとする瞬間―――ゲオルクの体から黒い炎が現れる

黒い炎は執拗なまでにゲオルクに絡み付き、逃さないようにしていた

祐斗はふいに匙の方に振り返る

匙は意識を取り戻したのか、上半身だけ起こしてゲオルクを睨み付けていた

「……逃がさねぇよ。お前ら、俺のダチをやったんだ。―――ただで済むわけねぇだろ！」

ドスの利いた声音で匙は手を突き出す

ゲオルクを捕らえる黒い炎が大蛇を思わすシルエットを作りながら―――怨嗟の呪法と化してゲオルクを包み込んでいく

匙―――黒き龍王の炎をその身に受ければ、命を吸われ、燃え尽きるまで絡み付く……

懐(ふところ)からフェニックスの涙を取り出すゲオルクだったが、その小瓶をも黒き炎は飲み込んでいく

「……ヴリトラの……呪いか……ッ！」

解呪に成功したと思われた黒い炎は消えていなかった

ゲオルクに闇から生み出された異様な獣達が襲い掛かっていく

上位神滅具(ロンギヌス)を所有する絶大な魔法使いは―――闇に喰われていった……

―――――――――――――

闇が晴れて元の風景―――首都リリスに戻った時、ギャスパーは路面に横たわっていた

ゲオルクの姿は無い……

祐斗はギャスパーに歩み寄り、顔を覗き込んでみるが、スヤスヤと安らかな寝息を立てているだけだった

先程の危険な雰囲気が微塵も感じられない、力を出し切って気絶したのだろう

リアスはギャスパーを抱き寄せて髪をそっと優しく撫でた

「……この子について、ヴァンパイアに訊かなくちゃならない事がいろいろ出来たわね。けれど、ただでさえ吸血鬼は悪魔を嫌う。ヴラディ家が私の質問に答えてくれるかは分からないけれど……。以前に話を持ちかけた時は丁寧に断られたわ」

吸血鬼は悪魔以上に階級を大事にしており、純血とそれ以下を完全に区別している

簡単に言えばグレモリー眷属のような仲間を想いやれる者がいないに等しい

純血と貴族主義、不老不死で夜の支配者

「ヴァルハラに戻った時、興味深い話が聞けました。―――なんでもとある吸血鬼の名家が神滅具(ロンギヌス)所有者を保有した事で、吸血鬼同士で争いが勃発してしまった、と」

ロスヴァイセがそう話してくれた

吸血鬼の業界は未だ悪魔や他勢力と交渉すらしない閉鎖された世界らしい

その種族が神滅具(ロンギヌス)所有者を得た……

冥界の危機の裏でもただ事ではない事件が起きているようだ

「……それもそうですが、今後は魔法使いにも気をつけた方が良いでしょう」

目覚めたソーナがそう漏らしていた

「どういう事？」

リアスの問いに、ソーナはメガネの位置を直しながら続けた

「……彼ら魔法使いは実力、才能主義です。その中でも今あなた達が倒した霧使いのゲオルクはトップクラスの実力者でした。そのゲオルクを倒したあなた達に魔術協会が興味を抱いてもおかしくない。ただでさえ、あなた達は強い事で有名なのだから。彼ら魔法使い―――主に召喚系の使い手は実力のある悪魔と契約するのをステータスの１つとしています。特に将来性のありそうな若手悪魔は交渉の場に呼び出されやすい。名うての悪魔は既に先客がいるか、取り引きできたとしても高値となりますから、手のつけられていない若手悪魔を買い漁(あさ)る魔法使いも少なくないのです。先物買いと言えるでしょうね。―――近い将来、必ずコンタクトを取ってくる筈です」

『魔法使い、か。彼らも彼らで厄介な存在だ。悪魔と魔法使いの関係は古(いにしえ)より続くものだけどね。……僕らが彼らの契約対象として見られる……？』

その時、遠目に飛んでくるゼノヴィアとイリナの姿が見えてきた

ゼノヴィアとイリナは翼を畳んでリアス達のもとに降り立つ

「待たせたな、木場」

「ゼノヴィア、イリナさん。……そちらも勝ったようだね」

祐斗の言葉にゼノヴィアとイリナは下唇を噛むように口を閉ざす

祐斗はゼノヴィアが持っているエクス・デュランダルの変化に気付き、同時に戦いの結末を察する

“神代剣護は恐らく死んだのだろう”―――と

慰みの１つでも言うべきかどうか悩む中、ゼノヴィアが口を開く

「……木場、お前の考えている通り、私達が勝った後、剣護さんは死んだ……。でも、今はそれを悔やんでいる場合じゃない。少しでも早くこの騒動を治めるのが先だ。そうしないと、また剣護さんに怒られるからな」

ゼノヴィアもイリナもかつての上司の死を真摯に受け止め、目の前の問題に切り替えていた

彼女達の強い信念を感じ取れた祐斗もコクリと頷く

その時、背後から気配を感じた

「あらら、ヘラクレスがやられてしまったようね。ゲオルクも……？これはまいったわ」

そこに現れたのはジャンヌ、全身傷だらけで満身創痍の様子だった

よく見ると、ジャンヌは小さな男の子を脇に抱えていた

「コラー！待ちなさーい！」

「卑怯よあんた！子供を人質に取るなんて！」

「……やられましたわね。まさか、あんな所に逃げ遅れた親子連れがいたなんて」

渉、祐希那、そして朱乃が苦渋に満ちた表情で合流する

どうやら戦いの形勢は渉達の優勢だったが、ジャンヌが子供を盾にしてここまで逃げてきたと言ったところだろう

対峙するリアス達とジャンヌ

ジャンヌは手に持つ聖剣の切っ先を子供の首もとに突き立てる

『……悪魔の僕が言える事じゃないが、卑劣だね』

「卑怯だな」

「卑劣な女め、貴様らにはプライドとやらが無いのか」

サイラオーグと大牙は揃って祐斗が心中で抱いていた感想を素直に述べる

ジャンヌがそれを聞いておかしそうに笑う

「悪魔と闇人(やみびと)が言うものではないのではないかしら？ま、義理に厚そうなあなたならそう言うかもしれないわね。バアルの獅子王さん。―――とりあえず、曹操を呼ばせてもらうわ。あなた達、強すぎるのよ。私が逃げの一手になるなんてね。てなわけで、この子は曹操がここに来るまでの間の人質。OK？」

曹操がここに来てしまったら形勢が不利になってしまう……

サイラオーグや大牙がいてくれるのは心強いが、それでも曹操が持つ聖槍(せいそう)に届くかどうかは分からない

「あら、ボク、案外静かね。怖くて何も言えないのかしら？」

ジャンヌが人質に取っている子供の様子を見てそう漏らしていた

彼女が言うように人質の子供はこの様な状況でも平気な表情だった

「ううん。ぜんぜんこわくないよ。おっぱいドラゴンとダークカイザーがもうすぐきてくれるんだ」

その言葉は一切の怯えも無い、純粋で安心しきったものだった

「ふふふ、残念ね、ボク。おっぱいドラゴンは死んだわ。お姉さんのお友達がね、倒してしまったの。だから、もうおっぱいドラゴンはここには来られないわ」

ジャンヌはそう言うが、彼女自身も心の中でダークカイザー=新が来ない事を残念に思っていたりする

しかし、男の子はそれでも笑みを絶やさない

「だいじょうぶだよ。ゆめのなかでやくそくしたんだ。ぼくがね、おっきなモンスターをみてこわいっておもってねていたら、ゆめのなかにでてきてくれたんだよ」

男の子は元気に、ただ嬉しそうに語った

「もうすぐそっちにいくから、ないちゃダメだっていってたんだ。まほうのじゅもんをとなえたら、かならずもどってきてくれるっていってたんだよ！」

男の子は人差し指を突きだして、宙に円を描いていく

「こうやって、えんをかいて、まんなかをゆびでおすの！ずむずむいやーんって、これをやればかならずもどってきてくれるって！みんなもおなじゆめをみたんだよ！フィーラーくんもトゥラスちゃんもぼくとおなじゆめをみたんだ！となりのクラスのこもおなじゆめをみたんだ！みんなみんなおなじゆめをみたんだよ！」

“冥界の子供達が皆同じ夢を見た”

疑問の尽きない祐斗の前で子供は空に向けて歌を歌い出す

「とあるくにのすみっこに～、おっぱいだいすきドラゴンすんでいる～♪」

―――その時、首都の上空で快音が鳴り響いた

見上げるとそこには―――宙に次元の裂け目が生じようとしていた……それも２つ……

開いていく空間の裂け口、そこから懐かしいオーラが感じ取れた

それは―――まさに子供達が待ち望んでいる英雄(ヒーロー)２人の帰還だった