「木場祐斗、ヤツも
「ええ、京都で対峙した
祐斗の言葉通り、メタルも京都で対峙した時とは違う姿になっていた
アドラス同様に目の色が表裏反転しており、全身が更に鋭利かつ刺々しい鎧の鱗と化している
赤い砂時計型の痣―――彼の胸にも邪道に満ちた強化の証明が刻まれていた……
メタルは嬉々とした声音で言う
「今宵の私は幸運に満ちている。若手悪魔の中でも名高き獅子王サイラオーグ・バアルだけでなく、それを打ち破ったリアス・グレモリーとその眷属、果ては『2代目キング』にまで会えるとはね。人生を長く生きていると、こうも素晴らしい体験が出来る!私は今、歓喜に打ち震えているよ!」
メタルは手を広げて演説を終えた後、両の拳を
メタルの能力は肉体強化の術だが……以前とは比較にならない程、凶悪さが増していた
「私の相手になってくれたまえ。最近は歯応えの無い奴らばかりで餓えていたところなんだ……ッ!獅子王、『2代目キング』、私を満たしてくれ!“戦い”と言う名のスリルで!“力”と言う名のサスペンスで!」
狂喜に満ちたメタルが歩み寄ろうとした際、メタルの足が倒れ伏しているヘラクレスに当たる
その事に気付いたメタルは視線をヘラクレスに向け―――敗者と見るや否や踏みつけ始めた
メタルの所業にサイラオーグと大牙は目元を細くする
「これはこれは。いつぞやの能無し木偶の坊くんではないか。この無様な姿を見る限り、彼らとの勝負に負けたのだろう。何とも情けない姿だな、それでも英雄のつもりかね?」
メタルは倒れているヘラクレスを更に踏みつける
1度だけでなく2度、3度……意識の無い敗者を蹴り続ける
「敗者、負け犬、クズ、ゴミカスにはお似合いの格好だ!この際、私が介錯してやろうか⁉」
「やめろ」
サイラオーグの低い一喝にメタルは足を止め、サイラオーグに視線を向ける
「そいつにはもう意識が無い。貴様は既に倒れた者すら
「強者にとって当然の権利なのだよ。弱者や負け犬は徹底的に淘汰される、それがこの世の現状さ。獅子王、キミにも分かる筈だ。力無き者として生まれてしまった悲しき
メタルは自分の過去について話し始めた
メタルは元々リザードマンと呼ばれる種族の出身、リザードマンは知能に優れた分、戦闘能力に乏しい難点を抱えていた
ゆえに他の種族から標的にされやすい
狩り、差別、ありとあらゆる迫害や理不尽を受け、幾度となく
「私は呪ったよ。何故こんな弱い種族として生まれてきたのか、何故こんなに力が弱いのか、毎日毎日……訪れる夜の数だけ憎しみが芽生えたよ」
そんな時に現れたのが……あの神風だった
メタルは憎しみの一心で神風の甘言を躊躇無く受け入れ、
「そこから先は一転、人生が薔薇色に輝いていったよ。まずは私を侮辱した者達を片っ端から殴り殺してやった。肉を潰し、骨を砕き、
それからもメタルは復讐劇を続け、やがて……それが終わると今度は戦いに執着するようになった
もっと強い者と戦いたい……もっと強い者を潰したい……もっと戦いを楽しみたい……
そんな暗い欲求を抱えて現在に至る
「“力”―――それさえ手に入れれば何だって出来る。腐りきったクズどもを根こそぎ潰し、私をもっと高みへと導いてくれる……ッ!獅子王、キミもその為に“力”を手に入れたのだろう?ならば、この気持ちを理解できる筈だ!滅びの力を持たずに生まれてしまい、長きにわたって虐げられてきたキミなら―――」
「貴様と一緒にするな」
メタルの言葉を強く遮ったサイラオーグ
鋭い睨みを放ち、ヘラクレスの時と同様にメタルの思想を断ずる
「俺が強くなったのは“夢”を叶える為だ。己の夢、冥界の子供達の夢―――それらを叶える為に我が体、我が拳を鍛え続けてきた。貴様のようなエゴの塊とは違う。貴様はただ暴力に取り憑かれただけに過ぎない。真っ向から戦う事もせず、理不尽な力を手に入れ、理不尽な暴力を行使した挙げ句、危険な殺戮思想で己を塗り潰してしまった。―――今の貴様は暴力に縛られた、生きた亡霊だ」
サイラオーグは拳を構える
「その歪みきった思想ごと、貴様を打ち砕く」
「……悲しいね。“力”を手に入れた者同士で分かり合えると思っていたのだが、残念でならないよ。では……この場で
メタルは全身から殺気を
大牙は「ここは使い時だな」と言ってから『
細剣を呼び出し、刀身を鞭のように伸ばして振るう
しなる刀身がメタルの体を切り裂こうとするが、メタル自身は全く意に介さない
“ブラックウィドウ”―――神風が作り出した生物兵器によって、より強固な防御力を得たのだろう
迫り来るメタルにサイラオーグは拳に闘気を纏わせ、拳打を放り込んだ
メタルの拳と衝突し、凄まじい衝撃と音が一帯を震撼させる
バキィン!と快音が鳴ると同時にメタルが後方へ飛び退く
見てみると―――武装を固めたメタルの拳が無惨に破壊されていた……っ
たった一撃での破壊、破砕に驚くリアス達
だが、サイラオーグの拳からも血が
「なるほど、どうやら口先だけではなさそうだ」
「当たり前だよ、獅子王。私はそこでくたばっているウドの大木とは違う。久々にフルパワーまで出せそうじゃないか!楽しませてくれたまえ!」
メタルが更なる強化を始める
両足の装甲が鋭利さと強固さが増し、メタル自身の速度も上がる
大牙は細剣の刀身を鞭のようにして、メタルを捕獲するが……メタルは力任せの回転力で大牙を空中へ放り投げる
飛び上がり、無防備となった大牙の頭を掴んで―――そのまま彼を地面へ投げつける
土煙が舞い、地面へ叩きつけられた大牙
そこへメタルが急降下して襲い掛かっていく
凶刃と化した足で串刺ししようとした刹那、サイラオーグが高速で距離を詰め、メタルごと足を殴り飛ばす
骨を砕かんとするような音が鳴り、殴り飛ばされたメタルは瓦礫の山に突っ込む
「すまん、助かった」
「なに、気にするな。今は共闘中だ」
サイラオーグのサポートに礼を言う大牙
直ぐにメタルが瓦礫を押し退けて戻ってくる
「ハハハハハハハハッ!良い!イイッ!実に良いぞォッ!強き者の“力”と“力”がぶつかり合う感触!スリル!それらが私を
狂喜に満ちた哄笑を上げるメタルは更なる強化術を発動
全身から無数の刃が生え、攻撃力と凶悪性が増す
その拳を連打で繰り出し、サイラオーグと大牙も応戦する
無数にも見える拳が火花と血を撒き散らし、衝撃の余波が周囲の地を破壊していく
「これなら―――どうだぁぁぁぁぁああああっ⁉」
吼えるメタルは両拳をスクリュー状に回転させ、サイラオーグと大牙の腹にそれぞれ打ち込んだ
肉を抉り、肝を潰し、骨を砕くと言わんばかりの拳打……
手応えありとメタルはニヤケるが……サイラオーグと大牙は戦意に満ちた目を輝かせる
そして、両者揃ってメタルの顎に渾身のアッパーを撃ち放った
顎を打ち抜かれたメタルは宙を舞い、そのまま背面から地面に落ちる
鎧の鱗から血が滲み出し、衝撃と痛みで痺れる体を無理矢理起こす
「くは……っ。フハハハッ、ハハハハハハハハッ!やはり素晴らしい!獅子王のパワー!『2代目キング』のパワー!獅子と蛇の競演ッ!この様な形で相対できる事に私は多大な感謝を与えよう!」
「貴様に感謝される筋合いなど無い」
メタルの言葉を一蹴するサイラオーグ
「そんな拳では俺は倒れん。貴様は己の娯楽の為だけに拳を振るっているだけだ」
「それがどうしたのだ?それの何が悪い⁉圧倒的な力で弱者を潰し、砕き、踏み
確かにサイラオーグもレーティングゲームでグラシャラボラスの次期当主候補を相手にし、心を折って再起不能にしてしまった
“痛い所を突いてやった”と思ったメタルだが、サイラオーグは再び断ずる
「確かに俺の拳で再起不能にしたのは事実だ。しかし、俺は夢を叶える為に負けられなかった。負けられなかったから、全力で向かっていった。ただ、それだけだ」
一瞬でサイラオーグの姿が消え、メタルの眼前に現れる
「全力で向かった末の結果を後悔しない」
サイラオーグの拳がメタルの顔面を捉える
「貴様は遊び心を満たすように力を振るっている!」
サイラオーグの拳がメタルの腹に深々と突き刺さる
「理不尽な暴力は破壊しか生み出さない!だから、俺は―――ッ!」
サイラオーグの拳がメタルの顎を撃ち抜く!
「そんな理不尽が横行しない冥界を作ってみせるッ!」
サイラオーグの拳がメタルを後方のビルへ吹き飛ばすッ!
ビルは倒壊し、めり込んだビルから離脱したメタルはよろめいて膝をつく
もう全身が血だらけとなっており、勝敗が決しようとしていた……
それでもメタルは体を動かし、狂ったように哄笑を上げた
「良いぞ……ッ!イイゾォ……ッ!もっと力を振るいタマエ……ッ!もっと私に打ち込んでキタマエ……ッ!もっと、モットォ、もっと私に戦いの刺激をォォォォォォォオオオオオオオオオッ!」
メタルの全身から膨大かつドス黒いオーラが噴き上がり、異変が始まる……
手足が肥大化し、胴体も巨大化、頭部もサイズに合わせるよう大きくなり、口元が裂けていく
全身から生える刃がより凶悪なものと化し、変貌を遂げたメタルが天に向かって咆哮する
『ギュガロロロロロロロロロロォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
鼓膜を破らんばかりの雄叫び……
目の前にいるメタルは20メートルを超える巨躯の怪物と化していた……
「アドラスの時と同じだ……っ。彼も“ブラックウィドウ”の力で姿形を変えたが……これはあまりにも異常過ぎる……ッ!」
メタルの常軌を逸した変貌ぶりに畏怖する祐斗
これも“ブラックウィドウ”が引き出す性能の1つなのだろう……
「これはさすがにヤバいな。どうする、サイラオーグ・バアル」
「……正直、ここまで凶悪なものになるとは思わなかった。やむを得ん―――レグルスッ!」
サイラオーグが呼ぶと金色の獅子―――レグルスが駆け寄り、光の奔流となってサイラオーグを包み込む
サイラオーグは高らかに叫んだ
「我が獅子よッ!ネメアの王よッ!獅子王と呼ばれた
光が弾けた直後、サイラオーグは金色に輝く獅子の鎧を身に纏っていた
『
レーティングゲームで新と一誠を相手に互角に渡り合った“力”の権化が再び豪誕した
「―――ッ。凄まじい闘気の塊だ。ならば、俺も見せてやらんとな。―――
サイラオーグの気迫に当てられた大牙も自身の強化形態―――
背に4枚の翼が広がり、
水晶の如く煌めく
獅子王と蛇神皇が降臨し、眼前に
『フハハハハハハハッ!それでこそ戦い甲斐があると言うものだッ!』
メタルは狂ったように笑いながらサイラオーグと大牙に向かって巨大な拳を振り下ろす
獅子王、蛇神皇も拳を構え―――真っ向からメタルの拳を打ち砕く
極大の衝撃と破砕音が一帯に響き渡り、メタルの拳を覆っている鎧の鱗が無惨に砕け散る
腕の至る所から裂傷が開き、血が噴き出すのだが……
ジュゥゥゥウウウウウウ……ッ!
不気味な音がグシャグシャとなったメタルの腕から聞こえてくる
音の方に視線を向けると―――先程砕かれたメタルの腕が修復されていくのが見えた
僅か数秒足らずでメタルの腕が完治、当人もその様子に驚くが、直ぐに口元をニンマリと笑ませる
『オオオオ……素晴らしい……ッ。砕かれた腕が再生する程にまで力が上がっているのか。以前なら最強の形態で殴ればダメージがフィードバックしてきたのだが……これは良い!力を使い放題ではないかッッ!』
歪んだ歓喜に震えるメタルは再び巨大な拳を振り下ろした
1発、2発、3発と乱打で繰り出していく
激しい粉塵が舞い上がり、サイラオーグと大牙の姿さえ見えなくなってしまう
メタルはトドメとばかりに巨大な両手を合わせ、より巨大な拳を形成し―――豪快に振り下ろした
地面が
苛烈極まりない暴力を終えたメタルは狂喜に満ちた雄叫びを上げる
『ハハハハハハハハッ!愉快だ!痛快だッ!爽快過ぎるッッ!惜しむ事無く力を振るえる!何と言う心地よさだろうかッッ!あの獅子王と「2代目キング」を全く寄せ付けないッ!これで潰れてしまうのは残念だが、私は嬉しいぞッ!“ブラックウィドウ”の素晴らしさが証明されたのだからなッ!』
哄笑を上げ続けるメタルだったが―――突如、足下の地面から腕が飛び出してくる
崩壊した地面の中から出てきたのは―――獅子王と蛇神皇の2人だった
鎧は破損し、全身から血が出ているものの……彼らは一切臆する事無く、鋭い眼力でメタルを睨み付けていた
その眼力にメタルは一瞬戦慄した
『……ッ!何だ、その目は……ッ。その強い眼差しは……ッ!』
「やはりな。所詮は他人の手によって得た力、貴様自身の力ではない」
サイラオーグがメタルの得た“力”について全否定する
「“力”とは己を鍛えた末に、手にするものだ。“力”を持たなかったのなら―――何故貴様は己の拳で進まなかった?何故他人の“力”にすがり付いた?その時点で貴様の強さなど皆無だ」
サイラオーグと同じように大牙もメタルの“力”を否定する
「ヒトの手で加えられた“力”には限度がある。それすら理解できなかったお前は―――ただ飼い主に尻尾を振るだけの犬だ。
グギギギギギギギ……ッ!
壮大な歯軋りがメタルの口元から聞こえてくる
核心を突かれたせいか、その表情は怒りに
『ギュガガ……ッ!口では何とでも言えようッ!虚勢も張れようッ!しかぁし!それも幕引きとさせてもらうぞッ!本当はもう少し楽しんでから出そうと思っていたが、これ以上キミ達を苛めるのも可哀相なんでなッ!私の最強技で引導を渡してやろうッッ!』
そう言ったメタルは全身から殺意を
四つん這いの体勢となり、鎧の鱗が刺々しく、更に
不気味な唸り声を上げつつ、眼前の
その姿はまるで自我を持った要塞型の怪物、以前の姿の面影は微塵も無い……
変貌しきった鱗から頭部がせり上がり、サイラオーグと大牙を見据える
『サア、吹キ飛ブガ良イッ!打ちたければ打つガイイッ!獅子王モ、「2代目キング」モ、グレモリー眷属モッ!全員マトメテ、我が力のマエニ砕け散れェェェェェエエエエエエエエエエエエッッ!』
異形の要塞と化したメタルが
それに対してサイラオーグと大牙は―――闘気とオーラを
無謀とも思える
そして、異形の要塞による突撃がサイラオーグと大牙を強襲……!
莫大な爆風、衝撃、破砕が一帯を蹂躙し、大規模の粉塵が舞い上がった
突撃に手応えありと感じたメタルは元の姿に戻り、勝利を確信した歓喜の雄叫びを上げる
「ハハハハハハハハッ!獅子王と言えど、『2代目キング』と言えど、これをくらってしまっては一溜りもないだろうッ!何も出来ずに砕け散ったようだなッ!キミ達の真の実力を見れなかったのは非常に残念だが、その勇敢な態度だけは私の胸に留めておくとしようッ!」
嘲笑い続けるメタル―――その刹那、立ち込める爆煙の中から2人の影が見えてきた……
それは威風堂々とした風格を表す獅子の王と蛇の皇……
視界に捉えたメタルは固まり、絶句した
「なん、だと……ッッ⁉」
目の前にいるのは紛れもなくサイラオーグと大牙
先程の攻撃で鎧は大きく破損し、血も流れているが……戦意が宿った眼を一切曇らせていなかった
メタルの渾身の一撃を受け止めた事でリアス達にも被害は出ず、サイラオーグと大牙はゆっくりと拳を構える
メタルはワナワナと戦慄し、信じられない物を見るような口調で狼狽する
「な、何故だ……⁉何故あの攻撃をまともにくらって生きている……⁉いや、それ以前に何故攻撃を受け止めた⁉何故キミ達は攻撃を仕掛けなかった⁉私を倒したいのだろう⁉」
「ああ、倒す。だが、今の攻撃を避けるまでもないと思ったまでだ。ヒトの手で造られた見せかけの力などに―――屈しはせん」
「お前は力の使い方を大いに間違えた。己の事しか考えてない“力”など、すぐに脆く崩れ去る」
「「貴様は最初から眼中に無かったんだッッ!」」
ドゴンッッッッッッッッッッ!!
かつて無いほど破壊力に満ちた2つの拳がメタルに撃ち込まれた
筋肉、骨、血管、臓器、ありとあらゆる物を破壊し尽くす一撃……ッ
その衝撃にメタルは耐えられる筈も無く―――彼の心臓が爆発した
口元から大量に血反吐が吐き出され、全身の至る所から傷が裂け、鎧の鱗も粉微塵に砕け散る
文字通り何もかも粉砕されたメタルは……自嘲するように笑った
「ギュガ……ッ、ギュハハハ……ゴプ……ッ!なる、ほど……っ!わたし……では、キミ達に……敵う筈も無かったの、か……ッ!ソレっ、デモ……私は……ッ!」
メタルは機能が停止しつつある体を無理に動かし、手を伸ばそうとする
「すばらしぎ……たた、かいの……日々……ッッ!…………ッ」
最期まで戦いと力に取り憑かれた
サイラオーグは
「貴様はあまりにも“力”に固執し過ぎた。肝心な事を何1つ見ようともしなかった……それが貴様の敗因だ。もっと違う生き方をしていれば、“力”の本当の意味に気付けたかもしれんな」