ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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今回は少し長めです!


獅子の王と蛇の皇

魔王領にある冥界(悪魔側)の首都―――リリス

 

今その首都は危機に直面しており、規格外の魔獣『超獣鬼(ジャバウォック)』が接近しつつある

 

もし到達すれば首都は壊滅的打撃を受け、機能を失うだろう

 

現在、ルシファー眷属―――グレイフィアを始めとするサーゼクスの眷属達が『超獣鬼(ジャバウォック)』の相手をしていた

 

その戦況は今のところ五分(ごぶ)のようで、決定打を与えぬまでも足止めには成功している

 

グレイフィアの放った魔力の波動は想像を絶する規模であり、地形その物を消してしまえる程の破壊力だった

 

だが、『超獣鬼(ジャバウォック)』はそのグレイフィア率いるルシファー眷属でも打倒できない……

 

それ程にまで怨恨が込められた怪物……

 

しかし、ルシファー眷属の足止めのお陰で都民の避難はほぼ完了している

 

シトリー眷属などの若手悪魔は残った人々がいないかどうかを確認する為に派遣されており、中でもサイラオーグは首都で暴れている旧魔王派おやび闇人(やみびと)を相手にしているらしい

 

グレモリー眷属とイリナはグレモリー城の地下にある大型転移用魔法陣からジャンプをし続けて、首都の北西区画に出た

 

レイヴェルは本来客分で戦闘に介入させてはならないので、現在グレモリー城に残っている

 

その事はリアス達もレイヴェル自身も認識しており、レイヴェルは役に立てない事を心底残念がっていたが、言い分を素直に聞き入れてくれた

 

転移魔法陣でのジャンプで辿り着いたのは区域の中でも1番高い高層ビルの屋上

 

シトリー眷属に追いつこうとした時、リアス達を呼び止める者がいた

 

「み、皆さん!よ、よかった!ここにいれば皆さんが来るって堕天使の方々に言われたんですけど、来なくて寂しかったんですぅ!」

 

涙目のギャスパーがようやく合流し、あとは新と一誠が駆けつければグレモリー眷属は全員揃う

 

「ギャスパー、トレーニングの成果、期待するわよ!」

 

リアスにそう言われるギャスパーだったが―――何やら伏し目がちで顔色が悪かった

 

「……は、はい、期待に添えるよう頑張りますぅ。……あれ?イッセー先輩と新先輩は?」

 

ここにいない新と一誠をキョロキョロと探すギャスパー

 

どうやらまだ伝わっていないようだ

 

祐斗がギャスパーに詳細を説明しようとした時、「……あれ!」と小猫がとある方向を指差す

 

そちらの方角に視線を送ると―――遠目に黒い巨大なドラゴンが黒炎を巻き上げて暴れている様子が見えた

 

全員がそれを視認すると、そのまま翼を広げて空に飛び出していった

 

 

――――――――――――

 

 

龍王と化した匙の姿が見えた場所―――高層ビル群が建ち並ぶ区域の広い車道に降り立ったリアス達

 

そこは既に戦火に包まれており、建物や道路、公共物に至るまで大きく破損されていた

 

被害は酷いが、この区域の避難はほぼ完了しているようだ

 

「グレモリー眷属!」

 

聞き覚えのある声に引かれてそちらに振り向くと―――タイヤが外れた1台のバスを守るようにして囲むシトリー眷属女性陣の姿があった

 

バスの中には大勢の子供達が乗っていた

 

「状況は?」

 

リアスがシトリー眷属の『騎士(ナイト)巡巴柄(めぐりともえ)に問う

 

「このバスを先導している最中に英雄派と出くわしてしまいまして……。相手はこちらがシトリー眷属だと分かると突然攻撃を仕掛けてきたんです。バスが軽く攻撃を受けて機能を停止してしまったのでここで応戦するしかなくて……会長と、副会長と、元ちゃんが……っ!」

 

涙混じりにそう言う巡

 

その直後にロスヴァイセが右手側を指差す

 

ショップが立ち並ぶ歩道で英雄派の巨漢ヘラクレスに喉元を掴まれている匙の姿が映り込んできた

 

既に匙は身体中が血だらけとなっており、意識も失いかけている

 

その近くで路面に横たわるソーナ、英雄派のジャンヌと戦っている真羅椿姫(しんらつばき)の姿も目に入った

 

ヘラクレスは匙をつまらなそうに放り捨て、倒れているソーナの背中を踏みつける

 

悲鳴を上げるソーナ、ヘラクレスは嘲笑い吐き捨てるように言う

 

「んだよ、レーティングゲームで大公アガレスに勝ったって言うから期待してたのによ。こんなもんかよ」

 

「ふざけないでッ!子供の乗ったバスばかりを執拗に狙ってきたくせに!それを庇う為に会長も匙も実力を出し切れなかったのよッ!そうするように仕掛けたのはあなた達じゃないのッ!」

 

椿姫が涙を流しながら激昂、その表情は悔しさと怒りに染め上がっていた

 

その理由は……ヘラクレスが子供達の乗っているバスを狙った卑劣な攻撃

 

あまりにも卑劣なヘラクレスに祐斗は内心で爆発しかけていた

 

この場にいる敵はヘラクレスとジャンヌのみ、曹操とゲオルクの姿は無い

 

椿姫を聖剣で突き返すジャンヌが嘆息する

 

「私はそんな事するのやめておけばって言ったけど?まあ、ヘラクレスを止める事もしなかったけれどっ!」

 

ジャンヌが周囲に聖剣の刃を幾重にも発生させて、椿姫の足場を破壊する

 

体勢を崩した椿姫のもとにジャンヌの剣が襲い掛かり、祐斗は瞬時にその場を駆け出した

 

一瞬で間合いを詰めた祐斗は鋭く放たれたジャンヌの一撃を抜刀したグラムで防ぐ

 

「いい加減にしてくれないかな」

 

祐斗は低い声音でそう言い、ジャンヌは祐斗が手にしている得物を見て仰天する

 

「……グラム⁉まさか、ジークフリートが⁉」

 

「ああ、僕達が倒した。このグラムは僕を新しい主に選んだらしい」

 

祐斗の腰にはグラムの他、ジークフリートが持っていた魔剣全てが鞘に収まっている

 

ジークフリートを倒した後、他の魔剣達も祐斗を主として認めたのだ

 

「へっ!こんな奴らに負けるなんてあいつもたかが知れてたってわけだ」

 

ヘラクレスはジークフリートを嘲笑うだけだった

 

どうやら英雄派に仲間意識は(ほとん)ど無いようだ……

 

「英雄派の正規メンバーがやられ続きか。グレモリー眷属にこれ以上関わると根こそぎ全滅しかねないな」

 

後方から第三者の声

 

霧と共に現れたのは霧使いのゲオルク

 

台詞からすると、『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の使い手レオナルドも再起不能と見て取れる

 

「悪いな、ヘラクレス、ジャンヌ。そのヴリトラの黒い炎が予想よりも遥かに濃かったものだから、異空間での解呪に時間が掛かった。解呪専用の結界空間を組んだのは久し振りだ。―――伝説通り、呪いや縛りに長けた能力のようだヴリトラめ」

 

「はっ!未成熟とは言え、龍王の一角をやっちまうなんてな!さすがは神滅具(ロンギヌス)所有者ってところだな、ゲオルク!」

 

ヘラクレスがゲオルクを称賛する

 

祐斗は右手にグラム、左手に聖魔剣を出現させて、2本の剣を振るう

 

剣から発生した攻撃的なオーラがジャンヌとヘラクレスに向かっていく

 

両者は軽々と避けるが―――そのお陰で隙が生まれた

 

祐斗は素早く近くの椿姫を抱えて、倒れるソーナと匙のもとに駆け寄った

 

「速いな!」

 

ゲオルクの手元に魔法形式の魔法陣が出現

 

祐斗は聖魔剣を手元から消し、周囲に龍の騎士団を出現させた

 

騎士団にソーナ、匙、椿姫を運んでもらうよう命じ、騎士団は3人を抱えるとそのままリアス達のもとに向かっていく

 

あとはゲオルクが放つ炎の球体

 

祐斗はグラムを両手で握り締め、襲い来る炎の球体を縦に両断した

 

祐斗の一連の動きを見てゲオルクが驚嘆の言葉を漏らす

 

「……強い。我ら3人を相手にして尚、仲間も全て救うとは……。これが聖魔剣の木場祐斗か。あの赤龍帝(せきりゅうてい)闇皇(やみおう)の陰に隠れがちだが、リアス・グレモリーは恐ろしいナイトを有しているな」

 

「お褒めに預かり光栄……と言えば良いのかな。僕は影で良いのさ。ヒーローはイッセーくんと新くんだ。僕はただのリアス・グレモリーの剣で良い」

 

「しっかりしてください!」

 

アーシアがソーナと匙の回復を始めた

 

アーシアを中心に緑色の淡いオーラが発生していく

 

「……子供が大事に握り締めてたんだ……おっぱいドラゴンの人形を……ダークカイザーの人形を……ここで……あの子達にケガさせちまったら……俺はあいつらの背中を2度と追いかけられなくなる……」

 

回復される匙は微かな意識でそう漏らし、心底悔しそうに涙を浮かべていた

 

「椿姫、私達が彼らの相手をするわ。その間にバスにいる子供達の避難をお願いできないかしら」

 

リアスが椿姫にそう言う

 

椿姫は相手、リアス達、子供達を交互に見る

 

「……けれど」

 

「お願いします。副会長。あなた達が受けた分は僕達が返しますから」

 

「……木場くん。はい、分かりました」

 

椿姫は祐斗の進言を応じてくれた

 

後は英雄派を倒すのみ

 

ゼノヴィアが1歩前に出る

 

「さて、やるか。せっかくデュランダルを鍛え直したんだ。暴れさせないとダメだろう」

 

ゼノヴィアは持っている得物から布を取り払う

 

そこにはエクス・デュランダルの姿があった

 

曹操に破壊されたデュランダルを元に戻し、更に天界で『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』もプラスして鍛え直した

 

圧縮された濃密な聖剣のオーラが静かに刀身を覆っていた……

 

「こっちも良いものを貰ってきたんだから!」

 

イリナが腰に帯剣していた剣を抜き放つ

 

抜刀されるまで正体不明だった剣は―――なんと聖魔剣だった

 

驚く祐斗を見てイリナが微笑む

 

「ええ、そうよ。これは三大勢力が同盟を結ぶ時に悪魔側が天界に提供した木場くんの聖魔剣から作り出した量産型の聖魔剣なの!これは試作の1本!天使が持てるようにかなりカスタマイズされて作られたようだけれどね。木場くんの聖魔剣ほど多様で強くはないけれど、天使が持つ分には充分だわ!」

 

祐斗の聖魔剣は思いがけないところで三大勢力の役に立っていた

 

ゼノヴィアは剣の切っ先をジャンヌに向ける

 

「ジークフリートに借りがあったんだが、木場や部長達が倒してしまったのなら、仕方がない。―――まずはお前からだ、ジャンヌ」

 

ゼノヴィアの挑戦的な物言いにイリナも同意する

 

「そうよそうよ!いくら聖人の魂を受け継いだとしても、あなたはダメダメよ!」

 

イリナもゼノヴィアの真似をして聖魔剣の切っ先をジャンヌに向ける

 

良いコンビだなと思ったその時―――

 

「なるほどな。じゃあ、お前らはもっとダメダメなんだろうな?ゼノヴィア、イリナ」

 

ゼノヴィアとイリナを侮蔑する男の声

 

そこに現れたのはゼノヴィアとイリナの上司であり、『灼熱の邪聖剣(デスカリバー・イグニッション)』の使い手―――今や神風一派の一員となった神代剣護(かみしろけんご)だった

 

彼の登場にゼノヴィアとイリナは目を見開く

 

「剣護さん……っ」

 

「この騒ぎの真っ只中にいれば会えると思ってたが、こんなに早く会えるとは好都合だ。今度こそてめぇらを切り刻み、焼き殺してやる」

 

「ちょっとちょっと、そこの熱そうなお兄さん?あの子達は私を指名してるんだから邪魔は―――」

 

言いかけたジャンヌに剣護は鋭い睨みを利かせる

 

体からも有無を言わさんばかりの殺気を放っていた

 

「悪いがこいつらは俺の獲物だ。欲しけりゃ力ずくでやるんだな。その時はてめぇも焼き殺す」

 

「…………はいはい。お好きにどーぞ」

 

「―――と言うわけだ。てめぇらの相手は俺がしてやる」

 

剣護はそう言ってデスカリバーの柄に付いている十字架を取り外し、自らの顔に装着

 

十字架から黒いオーラが(ほとばし)り、彼の顔と全身を鎧が包み込む

 

黒十字(こくじゅうじ)の鎧』を纏った剣護

 

それでもゼノヴィアは怯まない

 

「剣護さん、もう私は迷わない。敵が立ち塞がるなら、それら全てを斬る。たとえ、あなたが相手であってもだ」

 

「ガキが。お前にそれが出来んのか?」

 

「このエクス・デュランダルには7つに分かれたエクスカリバーの能力が全て付加されている。使いこなせば私は更なる強さを手に入れられる。だが、残念ながら私はバカだ。今すぐにテクニック云々(うんぬん)となっても能力を使いこなせないだろう。だからこそ、これだ」

 

ゼノヴィアがエクス・デュランダルを振るう

 

激しい破砕音と共に彼女の前方の路面に大きなクレーターが生まれた

 

「―――破壊のエクスカリバーとデュランダルのパワーで、あなたを倒す!」

 

『…………ゼノヴィア、もう少しテクニックの方にも目を向けてくれないかな……』

 

祐斗の視線を感じたのか、ゼノヴィアは不満げな表情となる

 

「むっ、木場。今お前はパワーバカだと思ったな。だが私から言わせれば、グレモリーのテクニック芸はお前だけで良いと思うんだ。だから私は破壊力だけに費やす!」

 

『お願いだ!テクニックにも目を向けてくれないかな⁉うちの眷属はパワータイプばかりでテクニックタイプ不足なんだ!僕だけにテクニックタイプを求めるなんてパーティ構成的に間違っているよ!』

 

「……眷属一の苦労人、祐斗先輩」

 

「聖魔剣、パワーバカが相手だと苦労するだろ?俺も昔は手を焼いたものだ」

 

「……あなたも苦労してたんですね」

 

「まあな。さて、無駄話は終わりだ。ゼノヴィア、イリナ、向こうでケリをつけてやる」

 

そう言って剣護は素早く別の場所に移動し、ゼノヴィアとイリナも翼を広げて彼を追っていった

 

相手を取られて不貞腐(ふてくさ)れていたジャンヌが言う

 

「で、私の相手は誰がしてくれるのかしら?」

 

「僕達があなたの相手をしましょう」

 

今度はリアス達の後方から聞き覚えのある声

 

後ろを向くと―――そこには(しばら)く離れていた八代渉(やしろわたる)高峰祐希那(たかみねゆきな)の姿があった

 

人工飛竜ワイバーンの持つど○でもドアでやって来たのか、紋様が描かれた扉が閉まると同時に消える

 

「渉くん!よくここが分かったね」

 

「はい、ワイバーンにリアス先輩達がいる場所をお願いして、移動先を直結してもらいました。遅くなってすみません」

 

「遅くなった分はこれから取り戻すわ。渉、修行の成果をあいつらに見せてやるわよ」

 

「うん、そうだね」

 

渉は直ぐに『光帝(こうてい)の鎧』を纏い、祐希那は手元に氷の神器(セイクリッド・ギア)―――『全凍結の氷斧(フリズド・クレバス)』を出現させる

 

「あらあら、じゃあ私も参戦して良いかしら?―――あれを持っているでしょうから、1人でも多い方が良いわ」

 

朱乃もジャンヌを相手にするようだ

 

恐らく『業魔人(カオス・ドライブ)』化を用心して申し出たのだろう

 

朱乃は両手のブレスレットを金色に輝かせると、背に六翼の羽を出現させる

 

堕天使化―――今はブレスレットによる補助が必要だが、いずれは無くても堕天使化が出来るようになるだろう

 

渉、祐希那、朱乃からの挑戦にジャンヌは不敵な笑みを見せた

 

「へー、3人も相手をしてくれるんだ。それにそちらのお姉さんは荒れを知ってるようね。面白いわ!『禁手化(バランス・ブレイク)』!」

 

力のある言葉を発し、ジャンヌの背後に聖剣で形作られたドラゴンが出現する

 

ジャンヌが使う『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』の亜種禁手(バランス・ブレイカー)

 

「ついてらっしゃい!悪魔に闇人(やみびと)に堕天使だなんて!私はモテモテね!」

 

ジャンヌは嬉々としながら聖剣で作られたドラゴンの背に乗る

 

ドラゴンはジャンヌを背に乗せると、近くにある高層ビルの壁に手足を引っ掛けて高速で駆け上がり始めた

 

渉、祐希那、朱乃も翼を広げて追い―――直ぐに空高くで激しいぶつかり合いが始まった

 

残るはヘラクレスとゲオルク

 

祐斗はゲオルクに問う

 

「何故あのバスを狙った?と言うよりも何故首都リリスにいるんだい?」

 

「まず後者の方から答えようか。―――見学だ。曹操があの超巨大魔獣が何処まで攻め込む事が出来るか、その目で見てみたいと言うのでね」

 

ここに来た理由は見学、もしくは見学に来たと言う曹操の付き添い

 

しかし、その肝心の曹操がいない……何処かで高みの見物でもしているのだろうか?

 

「では、何故バスを狙った?」

 

祐斗が再度訊くと、ゲオルクは嘆息するだけだった

 

「偶然、そのバスと出くわしてな。そうしたら、ヴリトラの匙元士郎とシトリー眷属が乗っていたのだ。あちらもこちらの顔を知っている。まあ、相対する事になってしまうのも否めないだろう」

 

偶然の相対と言い分を述べるゲオルクだが、ヘラクレスは挑戦的な笑みを見せる

 

「俺が煽ったって面もあるぜ?偶然、あのヴリトラに出会ったんだ。魔獣の都市侵略の見学だけじゃ、物足りなくなってな。『子供を狙われたくなけりゃ戦え』って言ったんだよ。―――で、戦闘開始ってわけだ」

 

あまりにも稚拙でふざけた理由……匙はそれを受け、子供達を守る為に傷だらけとなった

 

怒りの感情が祐斗の中で抑えきれない程になったその時―――

 

「英雄派は異形との戦いを望む英雄の集まりだと聞いていたが……どうやら、ただの外道がいたようだ」

 

「全くその通りだな。見るに耐えん」

 

そう言いながら対峙するリアス達の間に現れる男2人

 

1人は金色の獅子を引き連れ、極大なまでのパワーを有する男

 

『力』の権化、己の体術だけで祐斗、ゼノヴィア、ロスヴァイセ、一誠、新の5人と打ち合った男―――サイラオーグ・バアル

 

もう1人は蒼く煌めく蛇の幻影を背に発する男

 

新と一誠を相手に互角の勝負をした『2代目キング』―――蛟大牙(みずちたいが)

 

獅子王と蛇神皇(じゃしんおう)が彼らの前に現れた……っ

 

「首都で暴れ回っていた旧魔王派の残党を一通り(ほふ)ったところでな、遠目に黒いドラゴン―――匙元士郎の姿が見えた。ゲームでの記録映像でしか見た事の無い姿だったが、直ぐに理解した。―――強大な何かと戦っていると」

 

サイラオーグは大牙に視線を向ける

 

「貴様が闇人(やみびと)の『2代目キング』とやらか。噂には聞いている。闇人には珍しく人望に溢れているらしいが」

 

「獅子王サイラオーグ・バアルか……。力を体現した悪魔、会えた事を光栄に思う」

 

「ここに来た目的は何だ?火事場荒らしにでも来たとは思えん」

 

「こんな状況で小悪党のような真似をすると思うか?オレ達は横槍などで名を馳せるつもりは毛頭無い。それに―――」

 

大牙はハッキリと告げた

 

「グレモリー眷属、赤龍帝、闇皇は魔獣にも英雄派にも、ましてや神風にもくれてやる相手ではない。オレの好敵手たる相手を消させはしない。自らの手で倒してこそ『キング』の名に相応しい。だから、今はその為に停戦し―――共通の敵を打ちのめすべきと判断したまでだ」

 

大牙の『キング』の在り方……それは自分自身の手で新や一誠を超える事

 

他者の横槍を受けてまで王の座に居座るつもりはない

 

サイラオーグは不敵な笑みを見せ、こう告げる

 

「いずれ貴様とも打ち合ってみたいものだ」

 

「オレも俄然興味が湧いてきたぞ。サイラオーグ・バアル」

 

初見かつ短時間でありながら“獅子王&蛇神皇”と言う呉越同舟が成立してしまった……

 

サイラオーグはレグルスをその場に留めさせ、上着を脱ぎ捨てて前に出る

 

大牙も蛇の幻影を内にしまい、蒼いオーラを揺らめかせる

 

ヘラクレスに視線を向けるサイラオーグ

 

ヘラクレスも彼からの戦意を受けて、嬉しそうな笑みを浮かべた

 

「バアル家の次期当主に闇人(やみびと)の『2代目キング』か。バアルの方は知ってるぜ?滅びの魔力が特色の大王バアル家で、滅びを持たずに生まれた無能な次期当主。悪魔のくせに肉弾戦しか出来ないって言うじゃねぇか。ハハハ、そんなわけの分からねぇ悪魔なんざ初めて聞いたぜ!」

 

ヘラクレスの煽りを聞いてもサイラオーグは微塵も表情を変えない

 

この程度の戯れ言など、彼の半生からするに幾重にも浴びた罵詈雑言の1つに過ぎないのだろう

 

「英雄ヘラクレスの魂を引き継ぎし者」

 

「ああ、そうだぜ、バアルさんよ」

 

ヘラクレスの方にゆっくりと足を進めながらサイラオーグは断ずる

 

「―――どうやら、俺は勘違いしたようだ。貴様のような弱小な(やから)が英雄の筈がない」

 

それを聞いてヘラクレスの顔に青筋が浮き上がる

 

今の一言でヘラクレスのプライドが沸き立ったのだろう

 

「へっ、赤龍帝と闇皇との殴打合戦を繰り広げたらしいじゃねぇか。だせぇな。悪魔っていや、魔力だ。魔力の塊、魔力での超常現象こそが悪魔だと言って良い。闇皇はともかく、それが一切無い赤龍帝とあんたは何なんだろうな?」

 

ヘラクレスがいくら煽ろうとサイラオーグは眉1つ動かさない

 

その様子を静観していた大牙は「煽るしか能が無いのか……?」と呟く

 

それでもヘラクレスの煽りは続く

 

「元祖ヘラクレスが倒したって言うネメアの獅子の神器(セイクリッド・ギア)を手に入れているって言うじゃねぇか。―――皮肉だな、俺と会うなんてよ。それを使わなきゃ俺には勝てないぜ?」

 

ヘラクレスの物言いをサイラオーグは再び断ずる

 

「使わん」

 

「は?」

 

更にコメカミに青筋を浮かび上がらせ、ヘラクレスは怒りの口調で問い返すが……

 

「貴様ごときに獅子の衣は使わん。どう見ても貴様が赤龍帝と闇皇どころか、たった今知り合ったばかりの『2代目キング』よりも強いとは思えないからな」

 

サイラオーグはただそう断ずるだけだった

 

それを聞いたヘラクレスは哄笑を上げる

 

「ハハハハ!俺の神器(セイクリッド・ギア)で爆破できないものはねぇのよ!たとえ、あんたが闘気に包まれたってな!俺の神器(セイクリッド・ギア)にかかれば造作もねぇのよ!」

 

ヘラクレスが飛び出し、手に危険なオーラを纏わせる

 

サイラオーグの両腕を掴むと―――神器(セイクリッド・ギア)による爆破攻撃を始めた

 

ヘラクレスの神器(セイクリッド・ギア)―――『巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)』は攻撃と同時に対象物を爆破する能力

 

爆音と共にサイラオーグの両腕が()ぜる

 

「次はてめぇの番だっ!」

 

ヘラクレスは大牙にも拳を放ち、打撃と同時に爆破攻撃を見舞った

 

大牙の体も爆破攻撃によって爆ぜる

 

―――だが、サイラオーグと大牙は平然としていた

 

「なるほど。―――こんなものか」

 

「何をするかと思えば、ただの花火か」

 

肉が爆ぜ、血が噴き出ても彼らは表情を変えなかった

 

ヘラクレスは完全に激怒した様子で両手のオーラを更に高まらせる

 

「へへへ、言ってくれるじゃねぇか。じゃあ、これならどうよッ⁉」

 

そのまま路面に向けて拳を連打で繰り出した

 

その瞬間、路面ごと大規模な爆破が巻き起こり、サイラオーグと大牙の全身を包み込む

 

煙、塵と埃、粉塵が渦巻いて辺り一面を激しく覆う

 

路面は完全に崩壊して瓦礫の山となり、瓦礫の上でヘラクレスが再び哄笑を上げる

 

「ハハハハハハハハッ!ほら、見たことかよ!何も出来ずに散りやがった!これだから魔力もねぇ悪魔は出来損ないってんだよ!たかが体術だけで何が出来るって―――」

 

そこまで言ってヘラクレスの口が止まる―――その表情は驚愕に包まれていた

 

煙が止んだ車道の中央で獅子王(サイラオーグ)蛇神皇(大牙)は何事も無いように立っていたのだから……

 

全身に軽度のダメージを負い、血を流そうとも両者は表情を一切変えていなかった

 

「―――こんなものか?」

 

「さっきより派手になっただけだな」

 

全く薄れない闘気を目の当たりにしたヘラクレスの表情が軽く戦慄する

 

「……舐めんな、クソ悪魔がッッ!クソ蛇がッッ!」

 

毒づくが先程の余裕は無い

 

そのヘラクレスへ、遂にサイラオーグと大牙は進撃を開始する

 

重圧を放ちながら、ヘラクレスとの間合いを詰めていく

 

「英雄ヘラクレスの魂を引き継ぎし人間と言うから、少しは期待したのだが……。どうやら、俺の期待は(ことごと)く裏切られたようだ」

 

ヘラクレスが再び両手を構えるが―――サイラオーグの姿が瞬時に消え去り、ヘラクレスの眼前に現れる

 

「俺の番だ」

 

ドズンッ!

 

重く、低く、鋭いサイラオーグの拳打がヘラクレスの腹部に深々と突き刺さり、その衝撃はヘラクレスの体を通り抜けて後方のビルの壁を難無く破壊する

 

「――――ッッッ⁉」

 

予想以上の破壊力だったのか、ヘラクレスは当惑した表情を浮かべた後、苦悶に包まれていく

 

その場に膝をつき、腹部を手で押さえ、口から血反吐が吐き出される

 

たった一撃で形勢が逆転してしまった……

 

「今度はオレの番だ」

 

次に大牙がヘラクレスの眼前に現れ、右の拳打をヘラクレスの顎に打ち込む

 

ガゴンッ!と重く鈍い音と共にヘラクレスは宙を舞い、路面に落ちる

 

こちらも生身での拳……『蛇神皇(じゃしんおう)の鎧』を発動していない

 

サイラオーグと大牙がヘラクレスを見下ろして言う

 

「どうした。今の一撃はただの拳打だ。お前がバカにした赤龍帝はこれを食らっても一切怯まずに立ち向かってきたが?」

 

「こちらもまだ生身のままだぞ。そんな一撃を受けただけで怯むとは情けないな」

 

それを聞いてヘラクレスはくぐもった声音で不気味な笑いを発し、同時に激情に駆られた憤怒の形相で立ち上がる

 

「…………ふざけるな……ッ!ふざけるなよ、クソ悪魔ごときがァッッ!クソ蛇ごときがよォォォォォッ!魔力もねぇ!神器(セイクリッド・ギア)も使えねぇ!ただの打撃でこの俺が―――」

 

激昂するヘラクレスは全身を輝かせ、体を包み込む光がミサイルの様な突起物を形成させていく

 

―――禁手化(バランス・ブレイク)

 

「やられるわけねぇだろうがよォォォォォォォォォォオオオオオッ!」

 

叫びながらヘラクレスは全身のミサイルを縦横無尽に放出していく

 

リアス達は身の危険を感じて回避の体勢となった

 

無数のミサイルが町中の至るところを破壊していく

 

その1発がサイラオーグに真っ直ぐ飛んでいったが―――サイラオーグはそのミサイルを拳だけで弾いて吹き飛ばす

 

大牙のもとに飛んでいったミサイルも―――大牙拳や蹴りで弾かれ爆散する

 

向かってくる全てのミサイルを彼らは体術だけで弾いていく……

 

撃ち出されたミサイルの1つが避難を始めていた子供達のもとに飛来していく

 

刹那、子供達の前にロスヴァイセが入り込み、前方に強力な防御魔法陣を展開させてミサイルの爆撃を完全に防ぎきった

 

「―――新しい防御魔法です。私は『戦車(ルーク)』ですので、それならば特性―――防御力を高めようと思いまして。故郷で強力な防御魔法をあらかた覚えてきました。特性を活かしつつ魔法を使えば禁手化(バランス・ブレイク)して破壊力に特化した神器(セイクリッド・ギア)の攻撃でも余裕で耐えられるようです。これは大きな成果ね」

 

ロスヴァイセが故郷の北欧に帰還した理由は自らの特性を高める為

 

強固な防御魔法を覚える事によって自身の防御力を底上げした

 

『グレモリー眷属はどんどん強くなっているよ、イッセーくん!新くん!』

 

仲間の強化に喜ぶ祐斗の目に子供達の姿が映り込んだ

 

「ライオンさん!がんばってぇぇぇっ!」

 

「ライオーンッ!負けないでぇぇぇっ!」

 

ヘラクレスと対峙するサイラオーグに向けての声援

 

サイラオーグはその声援が予想外のものだったのか、キョトンとした表情を浮かべていた

 

更に―――

 

「……ヘビさんも、ライオンさんのおともだち?」

 

1人の子供がヘビさん―――大牙にそう訊いてくる

 

大牙はどう答えたら良いのかさっぱり理解できなかったが……

 

「あー……まあ、今は味方……だな、多分」

 

“今は味方”―――その言葉を聞いた子供達は揃ってウンと頷き……なんと大牙にも声援を贈り始めた

 

「ヘビさんもがんばれぇぇぇっ!」

 

「ライオーンッ!ヘビさぁぁぁんっ!」

 

サイラオーグ以上にキョトンとした表情を浮かべる大牙

 

子供とはいえ、まさか敵対している筈の悪魔から声援を贈られるなど思わなかったのだろう

 

子供達からの声援を受けたサイラオーグは嬉しそうに笑いを上げる

 

「ふはははははははっ!」

 

サイラオーグの闘気が勢いを増した

 

「あの子達から『がんばって』と、『負けないで』と言われてしまった。心地よいものだな、兵藤一誠、竜崎新。これが子供達から貰える力か。『2代目キング』、まさかお前にも声援を贈られるとは思わなかったぞ」

 

「正直言って、戸惑っている。戸惑っているが……不思議と嫌な気分じゃない。(むし)ろ気持ちが(たかぶ)ってくる。こんな感覚は初めてだ―――悪くない」

 

自然と笑みをこぼす大牙とサイラオーグは揃って言い放った

 

「「貴様に負ける道理は一切無くなったぞ、英雄ヘラクレスよ」」

 

「あぁ⁉ガキにピーチクパーチク言われただけで喜んでんじゃねぇよォォォッ!脳無し大王と腐れ蛇がッッ!」

 

吼えるヘラクレスの顔面に闘気に満ちたサイラオーグの拳と、蛇のオーラに包まれた大牙の拳が撃ち込まれる

 

顔の穴と言う穴から血飛沫(ちしぶき)を撒き散らしてヘラクレスは地に膝をつけた

 

「……何だよ……このパンチは……ッ」

 

獅子の王と蛇の皇、両者の拳を受ければ受ける程、相手は怯える一方だった

 

ただのパンチが相手の肉体と精神を(えぐ)ってくる

 

それも深く、芯に届く程に……

 

「子供から声援すら貰えない者が英雄を名乗るな……ッ!」

 

「今の貴様には英雄の誇りなど微塵も感じられないな。肩書きだけの英雄などこの世には存在しない。英雄とは―――民から言われて初めて成り立つものだ。それすら理解できんとは哀れだな」

 

サイラオーグと大牙が迫力に満ちた顔をヘラクレスに向けていた

 

ヘラクレスは力でも精神でも2人に敵う見込みが無いと悟ったのか、絶望しきった表情となっていた

 

しかし、(ふところ)に手を入れて何かを取り出す

 

それはピストル型の注射器―――『魔人化(カオス・ブレイク)』とフェニックスの涙だった

 

フェニックスの涙で全快し、更に『魔人化(カオス・ブレイク)』を使用すればヘラクレスの力は何処まで高まるか分からない

 

「く、くそったれめがッ!」

 

毒づきながらヘラクレスは注射器の先端を首もとに持っていくが―――その手には迷いがあった

 

その状況を見てサイラオーグは問う

 

「どうした、それらを使わないのか?察するに強化できるのだろう?使いたければ使え。俺は一向に構わんッ!それで強くなるのなら、俺は喜んで受け入れようッ!俺はそのお前を超えていくッ!」

 

堂々たる大王の風貌を見せるサイラオーグ……

 

そして、獅子王だけでなく―――

 

「オレも構わん。あらゆる強者を正面から打ち倒してこそ、『キング』の座に君臨する者の責務―――オレ自身の哲学だ!それを証明せずに『キング』を名乗るなど一族の恥!さあ、かかってこい!オレは逃げも隠れもしないッ!」

 

蛇の皇も自身が掲げる『2代目キング』の矜持を放った……

 

ヘラクレスは悔しさに表情を歪ませ、目には涙が浮かぶ程だった

 

「ちくしょぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

大声を張り上げて泣き叫ぶヘラクレスは―――『魔人化(カオス・ブレイク)』とフェニックスの涙を路面に捨てた

 

そのまま拳を構えてサイラオーグと大牙に向かっていく

 

魔人化(カオス・ブレイク)』とフェニックスの涙を捨てると言うあまりに予想外の展開……

 

サイラオーグと大牙はその姿を見て、初めて相手に構えを取った

 

「最後の最後で英雄としての誇りを取り戻したか。悪くない」

 

「ああ、オレ達なりに敬意を表しよう」

 

飛び込んでくるヘラクレスに対し、サイラオーグと闘気、大牙はオーラを(たぎ)らせ―――

 

「「この一撃で果てるが良いッ!」」

 

ヘラクレスの腹部に獅子王と蛇神皇の拳が打ち込まれた!

 

小気味の良い音が一帯に木霊する

 

完全に意識を絶たれたヘラクレスが路面に突っ伏していく……

 

獅子王(サイラオーグ)蛇神皇(2代目キング)―――両者の拳は外道に身を落とした相手のプライドを(よみがえ)らせた

 

ヘラクレスを圧倒したサイラオーグと大牙の姿は雄大に映った

 

パチ……パチ……パチ……パチ……

 

突如鳴り響く拍手の音

 

音がする方向に視線を向ければ―――またもや乱入者の影が……

 

「いや~、素晴らしいものを見せてもらったよ。まさしく力による圧倒。こんなものを見せられてしまっては―――私も出る他ないだろう」

 

嬉々として姿を見せたのは神風一派の一員、リザードマンの闇人(やみびと)―――メタル・D・アズールだった

 

 

――――――――――――

 

 

リアス達のいた場所より離れ、崩壊した車道に降り立つゼノヴィアとイリナ

 

彼女達の前にはかつての上司―――神代剣護がいた

 

ゼノヴィアとイリナは得物を構え、剣護を鋭く見据える

 

「……剣護さん、最後にもう一度だけ訊きます。考えを改めるつもりは無いんですか?」

 

「改心なんざ、とうの昔に捨ててんだよ。今更なにを言ってやがる。分かりきった事だろう。―――今日こそてめぇらを焼き殺してやる」

 

漆黒の鎧に覆われた剣護は、兜の奥から殺意に満ちた眼孔を妖しく輝かせる

 

―――もう、この人に言葉は届かない……

 

そう悟ったゼノヴィアとイリナは腹を括り、それぞれの剣の切っ先を剣護に向ける

 

2人の弟子(ゼノヴィア、イリナ)上司(神代剣護)による死闘が始まろうとしていた……っ




ハイスクールddの4期が4月から放送開始するようです!

素晴らしい朗報にテンションアガリマス!

次回は神代剣護とのバトルになります!

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