僅かな静寂……そしてジークフリートの体が脈動する
それは次第に大きくなっていき、体そのものにも変化が現れ始めた
奇っ怪で鈍い音を立てながら、ジークフリートの背に生える4本の腕が太く肥大化していく
五指も徐々に形を崩し始め、持っていた魔剣と同化していった
ジークフリートの表情は険しくなり、顔中に血管が浮かび上がる
地に手が届く程にまで長く太く巨大化した4本の腕を背に生やす怪人
その姿は既に阿修羅ではなく、蜘蛛のバケモノの様なシルエットだった
変貌したジークフリートは顔面に痙攣を起こしながら口元を笑ました
『―――「
低く重い声質、既に声すらも変調したジークフリート……
それを見てアジュカ・ベルゼブブが語る
「素晴らしい。人間とは、時に天使や悪魔すらも超えるものを作り出してしまう。俺はやはり人間こそが可能性の塊なのだと思えてしまうよ」
人間でありながら神が作り出したものを肥大化させ、魔王の血肉すらも利用する
“人間は何処までも欲望を進化させてしまう”
時に神以上に、悪魔以上に……
魔人と化したジークフリートが1歩足を踏み出す
それだけでこの場の空気が一変し、
魔剣と同化して異常な進化を遂げた4本の腕が大きくしなる
一瞬で攻撃が来ると判断した祐斗は攻撃を視認するよりも前に駆け出した
祐斗がいた場所に渦巻き状の鋭いオーラと氷の柱が生まれ、更に地が抉れて次元の裂け目まで生じていた
各魔剣の相乗攻撃……一瞬でも判断が遅ければ五体が弾け飛んでいただろう
祐斗は前方から感じる異様な寒気を察した
その場で聖魔剣を聖剣に変化させ、
それを空中で蹴って距離を取る
その瞬間、祐斗がいた空間に極大で凄まじいオーラの奔流が通り過ぎていった
空中で足場にした甲冑騎士は跡形も無く消え去っていく
ジークフリートの方に視線を向けると―――グラムを振るった後だった
攻撃の余波だけでもグラムの一撃は祐斗の全身に痛みを走らせる
もし直撃すれば完全に消滅するだろう
「ヒャハハハハハッ!それが最強の魔剣グラムってヤツの威力か。
ジークフリートに当てられ、興奮したアドラスの全身からドス黒いオーラが噴き上がり、眼前で凶悪な様相の円盤が円を描くように回転を始める
巨大な炎のリング中央から高密度の黒炎が噴き出し、祐斗とジークフリートを纏めて焼き尽くそうとする
祐斗は直ぐに横っ跳びで回避、ジークフリートはグラムを振るって先程と同じオーラの奔流を飛ばす
グラムのオーラと極大の炎が衝突し、爆散する
双方の威力はほぼ互角と言ったところだ……
『へぇ、どうやらキミも僕みたいにドーピングを施してるようだね』
ジークフリートの指摘にアドラスは大口を開けて言い放つ
「あぁ、そうともよ。覚えてるか?京都で九尾の大将をバケモノに変えたブラックウィドウをよぉ」
“ブラックウィドウ”―――それは神風が独自に製造した生物兵器
寄生した相手の力を限界まで引き上げて暴走させる……
「神風はそいつを更に改良して、オレ様の体に寄生させたんだよ。それがこの形態―――『
狂ったように哄笑を上げるアドラスは宙に黒炎の球体を4つ出現させ、半数を祐斗に、残りの半数をジークフリートに向かって飛ばす
祐斗は持ち前の速度で振り切ろうとするが、炎の球体はしつこく追尾してくる
一方、ジークフリートに放たれた炎の球体はグラムと魔剣の斬撃によって掻き消され、祐斗を追っていた炎の球体も巻き添えを食らって消失する
祐斗は手元の剣を聖魔剣に戻して瞬時にジークフリートに詰め寄る
横薙ぎの斬撃を放つが軽々と魔剣の1本で受け止められてしまう
極太の腕4本から繰り出される剣戟は破壊力に満ちており、直撃すれば祐斗の体は容易に砕け散るだろう……
唯一、ジークフリートが左手に構える光の剣は光を喰らう聖魔剣で消失させたものの―――魔剣5本はそう簡単に消す事など出来ない
アドラスが放つ黒炎の弾幕が降り注ぐ中、祐斗とジークフリートの剣戟合戦は
残像を生みながら高速で動く祐斗の攻撃をジークフリートは全て魔剣で防いでいく
時折、振るわれてくるグラムのオーラが祐斗の体を端々から痛めつける
アドラスもそのオーラの余波を食らっているのだが、全く平然とした様子で黒炎の弾幕を撃ち続ける
グラムの波動は地を抉りながら後方まで走り抜け、屋上庭園は幾重ものグラムの波動と黒炎の弾幕によって荒れ地へと様変わりしていた
これだけ多くの攻撃をされても尚ビルが健在なのはアジュカ・ベルゼブブがここを魔力などで堅固に補強しているからだろう
5本の魔剣の刃が一斉に祐斗目掛けて刺し込まれてくる
祐斗はそれらを避けるついでに足先に聖魔剣を創り出し、相手の脇腹に蹴り込む
無論、聖魔剣の仕様は
その結果を見てジークフリートが不敵に笑む
『―――どうやら、強化された僕の肉体はキミの
脇腹に一撃入れた祐斗の足をジークフリートが掴み、そのまま宙に高く持ち上げ―――勢いに任せたジークフリートの剛力が祐斗を地面へ叩きつけた
更にそこへ魔剣が一振り放たれる
全身を押し潰されていく様な重い衝撃は祐斗の体を突き抜け、地面に巨大なクレーターを生み出した
言い難い激痛が全身を駆け巡り、口から吐き出された大量の血反吐が庭園の緑を赤く染める
地面に叩きつけられた衝撃と魔剣の一撃によって体の各部位が深刻なダメージを受けて痙攣を起こし、骨も相当な数がダメになっているだろう……
それでも祐斗は懸命に意識を繋ぎ止めて足を動かした
その場から一時的に退避した後、体勢を立て直して斬り込んでいく
ジークフリートは2本の魔剣をクロスして祐斗の剣戟を難無く制した
『防御の薄いキミでは、今の一撃で相当な傷を負ったんじゃないかな?』
ジークフリートが低い声音で笑い、クロスした魔剣ごと祐斗を突き押す
体を弾かれた祐斗は足下をふらつかせるが、体中から残った力を総動員させて、ふらつきを止める
ふらつきが止まったと思った矢先―――祐斗の足先が氷に包まれていた
直ぐに聖魔剣を炎の属性に変化させて氷を溶かそうとしたが……地面から突き上がってきた2本の氷柱が祐斗の両足を貫く
そこにジークフリートは更なる魔剣を振り下ろした
足を封じられて避けようの無い祐斗は体を捻り、手元に聖魔剣を複数創造して盾のようにする
しかし、束となった聖魔剣は破壊され―――祐斗の左腕が肩口から切り落とされてしまった……
片腕を切り落とされながらも祐斗は足場の氷を炎の聖魔剣で振り払い、後方に飛び退いた
失った左腕の肩口から大量の血が流れ出てくる……
剣を氷の聖魔剣に変更し、肩口と両足の傷口を凍らせた
応急処置に過ぎないが、止血程度にはなるだろう
祐斗の体は既にボロボロで、自慢の両足にも穴を開けられ無様に膝をついている
「祐斗……ッ!」
沈痛な表情でリアスが祐斗の名を呼ぶ
黒く染まった新の右手を両手で握り、何かを待ち望んでいるようだった……
『……部長、そうやってイッセーくんや新くんを頼ろうとしても彼らはここに来られないんですよ?……あなたが立ち上がらないでどうするんですか。あなたが戦う意志を失えば、眷属にも影響が出てしまう……』
現に朱乃も小猫もハラハラと見ているだけで動けない状態にいる
新と一誠を失って皆が戦う意志を無くしてしまった……
先程の殺意は一時的なものに過ぎず、己の体を突き動かすまでには至ってない
『こんな状況の僕らでは冥界の危機を救うなんて到底出来やしませんよ、サイラオーグ・バアル……ッ!……僕にもイッセーくんや新くんのように誰かを激しく鼓舞できる程の要領があればと思ってならないよ……っ』
「……木場さんまで死んでしまう……。いや……もう、こんなのはいやです……」
アーシアは恐慌状態に陥り、手からは弱々しいオーラが出現するだけでいつもの出量が放出できない
彼女も一誠を失ったショックで
「そらよぉ!」
アドラスが重ねた円盤から黒炎の鞭を出し、ジークフリートの体を滅多打つ
ジークフリートは魔剣で炎の鞭を弾き返し、アドラスを睨み付ける
『さっきからキミは横槍を入れるのが好きなようだね。木場祐斗を後回しにして、先に僕を消そうって腹積もりなのかな?』
ジークフリートの指摘にアドラスはニンマリと口の端を吊り上げた
「あぁ、そうともよ。そこのクソ剣士はもう放っといても問題ねぇとこまで弱ってんだ。後でじっくり痛めつけて殺す事にした。てめぇがよっぽど殺したがってるらしいじゃねぇか?クソムカつくてめぇが喜ばねぇように、てめぇを先にぶち殺してやろうって思ったわけよ。そこのクソ剣士とクソ眷属の首がオレ様とてめぇ、どっちかの賞品だ」
『やっぱりキミ達
「そいつはてめぇらも同じだろ、クソ人間」
完全に祐斗を眼中から外し、グレモリー眷属の首の賞品取り合戦に移行しようとしていた
かつてない程の屈辱を味わう祐斗……
リアスと朱乃が何とか攻撃を加えようと魔力を放つが―――その勢いと威力はあまりにも弱々しく、ジークフリートの一振りに難無く払い除けられ、アドラスに至っては腕さえ振るわずに攻撃を受け止める始末……
小猫の闘気もレイヴェルの炎の翼も力が陰り、能力を発揮できずにいた
祐斗はルヴァル・フェニックス氏から貰ったフェニックスの涙を1つ取り出して傷口にかけていく
瞬時に痛みが和らぎ、傷も塞がっていくが―――左腕の再生には至らない
傷は治ったものの、流血による体力の消耗は著しく、足にも力が入らない
祐斗の状態を見てジークフリートは嘲笑した
『酷いな。先日出会った時のグレモリー眷属とは思えない。先程良い殺気を放ってくれたから、木場祐斗との戦いに乱入でもしてくれるものかと期待していたんだけどね。まさか、この程度とは……』
「言ったろ?そこのクソ剣士も、クソ眷属も今やただのゴミカス程度だ。気休めになりゃしねぇんだよ」
痛烈な不甲斐なさが身に染みる……
普段ならいる筈の新と一誠がいない……
彼らと共に戦えない事の
『兵藤一誠は無駄死にをしたよ。出涸らしとなったオーフィスを救う為にあの空間に残り、シャルバと相討ちになったんだろう?あれからシャルバの気配が消えたからね。生きていれば僕達に堂々と宣戦布告して、冥界にも旧魔王派の力を宣言しているところだろうから。あのまま兵藤一誠がオーフィスを放置して帰還すれば、今頃態勢を整えて再出撃できただろうに。オーフィスはともかく、シャルバは後で討てた筈だよ。自分の後先を考えないで行動するのは赤龍帝の良くないところだった』
「ヒャハハッ、
……ジークフリートとアドラスの台詞を聞いて祐斗の思考は一瞬真っ白になり、次の瞬間にはドス黒いものが体の奥底から沸き上がってきた
――――ヒョウドウイッセイ ハ ムダジニ シタヨ
――――ヤミオウ モ マヌケ ツクヅク バカ
『……ふざけるな。……ふざけるなよ……ッ!』
祐斗の心を支配したのは……悔しさ、悲しみ、彼らとの約束した事だった
全身を震わせながらも祐斗は足に力を込めていき、徐々に足が上がり始めた
情けなく震える両足で立ち上がり、喉まで上がってきたものを遠慮無しに天に向けて放った
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
自分でも信じられない程の声量腹の底から、心の底から噴き出してきた……
親友の声が祐斗の脳裏に
“木場、俺達はグレモリー眷属の男子だ”
『ああ、分かっているよ、イッセーくん!』
“どんな時でも立ち上がって、皆と共に戦おうぜ”
『そうだね、新くん。どんな相手だろうと、立ち向かっていかなければならないッ!』
1歩、また1歩と祐斗はジークフリートとアドラスに近付いていく
手元に聖魔剣を創り出しながら―――
「まだだ!まだ戦えるッ!僕は立たないといけないッ!あの男達のようにッ!グレモリー眷属の兵藤一誠と竜崎新はどんな時でも、どんな相手でも臆せずに立ち向かったッ!赤龍帝と闇皇はあなた達が貶していい男じゃないッ!僕の親友をバカにするなッ!」
涙混じりの咆哮を解き放つが、それは勢いしか無い……
ジークフリートはきっぱりと断ずる
『無駄だっ!あの赤龍帝と闇皇のようにいこうとも、キミでは限界がある!ただの人からの転生者では、いくら才能があろうとも肉体の限界が―――ダメージがキミを止める!』
アドラスが大口を開けて下卑た哄笑を上げる
「ヒャハハハハハッ!弱っちいザコがいくら吠えたところで何も変わらねぇんだよッ!クズのゴミカスがそいつらの真似をしても、ただ見苦しいだけだぜ!悪足掻きは止めて、おとなしく死んどけよッ!」
もう祐斗の肉体は限界、剣を握る力すら満足に無い―――だが……
『イッセーくんと新くんはそれでも立ち向かえる筈だ!宿れ!少しでも良いから宿ってくれ……!2人を突き動かしていた意地と気合よ!どうか、少しでも僕に宿ってくれ!』
剣を構えて前に飛び出していこうとしたその時―――視界の隅に紅い閃光が映り込んでくる
そちらに視線を送ると―――
「……イッセーさんの駒が……」
アーシアが手にする一誠の駒が紅い光を発していた
そこから1個だけ『
その駒が祐斗のもとに飛来し、弾けるように光を深めた
あまりの光量に一瞬だけ眼を伏せる祐斗
彼が次に目にしたのは宙に浮かぶ1本の聖剣―――アスカロンだった
「……イッセーくんの駒が……アスカロンに……?」
―――行こうぜ、ダチ公
聞こえてきた一誠の声に涙が溢れる……
「……キミはなんてお人好しなんだろう。たとえ駒だけでも、キミは仲間を……僕を……ッ!」
「ゴチャゴチャうるせぇんだよっ、クズがァァッ!」
アドラスが祐斗にトドメを刺すべく突っ込んできた
黒炎の刃に変えた腕を振り下ろそうとした―――その時、再び何かが祐斗のもとに飛来し、黒炎の刃を止めた
「―――新の腕が」
リアスの声に導かれ、祐斗が視線を向けると―――リアスが手にしていた新の右手が目の前にあった
“新の右手”は一誠の駒と同じように紅い輝きを発しながら、アドラスの黒炎の刃を止めている
更に驚くべき事態が……右手しか無い筈の新の姿が徐々に浮かび上がってくる
「―――ッ⁉何なんだ、こいつは⁉」
『……ッッ!バカな……ッ!』
目の前の事態にアドラスもジークフリートも仰天していた
新の幻影は黒炎の刃を振り払い、その紅く輝く右手でアドラスの腹部に重い一撃を放った
輝きを放つ拳によってアドラスの体が曲がり、屋上庭園の端まで吹っ飛ばされる
その後、新の幻影は宙に浮かぶアスカロンを掴み、祐斗に手渡す
―――行け、祐斗。お前ならやれる筈だ
祐斗がアスカロンを受け取った直後、新の幻影は消え去り、右手がリアスのもとに戻っていく
アスカロンから伝わる勇気を貰い、祐斗の体に信じられない程の活力が沸き上がってきた
「そうだね、イッセーくん。新くん。行こうよ!キミ達となら、僕は何処までも強くなれるんだからさッ!キミ達が力を貸してくれるならッ!どんな相手だろうと切り刻めるッ!」
自然と足の震えは止まり、アスカロンを握る手にも力を込めて、祐斗はジークフリートに斬りかかる
祐斗の一撃を受け止めながらジークフリートは驚愕に包まれていた
『……ッッ!バカな……ッ!立つと言うのか……ッ!血をあれだけ失えば自慢の足も動かなくなる筈だ……ッ!』
「行けってさ。立てってさ。この剣を通してイッセーくんと新くんが僕に無茶を言うんだ。じゃあ、行かなきゃダメじゃないか……ッ!」
アスカロンから膨大なオーラが解き放たれていく
体から異様な煙を上げ、表情も苦痛にまみれていた
『……何だ、その聖剣から感じる……力は……ッ!』
アスカロンがジークフリートを苦しめている……
『
更にジークフリートが手に持つグラムが輝きだす
その輝きは攻撃的なものではなく、まるで祐斗を迎え入れるかの様な輝きだった
『―――っ!グラムが!
尋常ならざる焦りを見せるジークフリート
驚くべき事に―――この土壇場でグラムは持ち主を再度選び直したのだ……
祐斗はグラムを真っ正面から捉えて叫んだ
「―――来い、グラム!僕を選ぶと言うのなら、僕はキミを受け入れよう!」
祐斗の言葉を受けたグラムがいっそう輝きを解き放つ
その輝きは持ち主であったジークフリートを拒絶するかのように手を焦がしていく
グラムは宙に飛び出し、祐斗の眼前の地面に突き刺さった
それを見たジークフリートは首を横に振って、起きた事を信じられないように言う
『こんな事が……ッ!こんな事があり得るのか⁉駒だけでも赤龍帝はッ!腕だけでも闇皇はッ!戦うと言うのか⁉この男を立たせると言うのか⁉』
せっかくのグラムも片腕だけでは扱う事が出来ない
そう思っていたら、祐斗に近付く者がいた
アーシア、小猫、レイヴェルの3人
小猫が切り落とされた祐斗の腕を持って、肩口に当てる
そこへアーシアが手を向けて淡い緑色のオーラを放出し、レイヴェルが祐斗の体をしっかりと支える
優しい回復のオーラを受けた祐斗の腕は徐々に繋がり、機能を回復させていく
「……イッセーさんが『アーシアも戦え』って、駒を通して言ってくれた様な気がしたんです」
アーシアは必死に泣くのを耐えながら微笑んでいた
「……『仲間を助けてやってくれ』って、新先輩が言ったような気がします」
小猫もそう微笑み、手から仙術による治療の気が送られる
2人のオーラは優しく、慈愛に溢れていた
「私にも聞こえた気がしましたわ。新さまの声が……『小猫や皆を支えてくれ』と。本当、眷属でもない私にまで……優し過ぎますわよ……っ!」
レイヴェルは涙を拭い、笑顔を浮かべてそう漏らす
「―――『皆と共に戦ってくれ』、か。そうよね。あのヒトなら、そう言うに決まってるわ」
リアスが“新の右手”を持って前に立つ
涙に濡れながらも瞳には戦意の火が灯っていた
「さあ、私のかわいい下僕悪魔達!グレモリー眷属として、目の前の敵を消し飛ばしてあげましょうッ!」
リアスのいつもの口上が戻る
アーシアのお陰で切り落とされた腕が完全に繋がり、祐斗は眼前に突き刺さったままのグラムを抜き放った
魔帝剣グラムから絶大な力が伝わってくる……
グラムとアスカロンの
祐斗は2本の剣を構えて足に力を注ぐ
「さあ、もう一度戦おうか。けれど、さっきとは違う。―――こちらは僕だけじゃなく、グレモリー眷属だっ!」
リアス、アーシア、小猫、レイヴェルがジークフリートを鋭く見据える
リアスが手から強大な滅びの魔力を解き放ち、それと同時に祐斗も前に飛び出していく
『まだだよ!それでも僕は英雄の子孫として―――』
言いかけたジークフリートの頭上で稲光が閃き、夜空を裂くような極大の雷光がジークフリートの全身、その周囲まで飲み込んだ
宙に視線を向けると―――そこには6枚にも及ぶ堕天使の黒い翼を広げる朱乃の姿があった
「―――これが私の最後の手。堕天使化ですわ。父とアザゼルに頼んで『雷光』の血を高めてもらったの」
朱乃の両手首に光るのは魔術文字が刻まれたブレスレット、魔術文字が金色に輝いて浮かび上がっていた
恐らくそれが本来眠っていた堕天使の血を呼び覚まさせたのだろう
「ゴメンなさい、新。『いつもの笑顔を見せて』―――あなたの残してくれた想いまで私は……押し殺そうとしていた……っ!もう大丈夫ですわ。私も戦えます!」
朱乃が決意の眼差しでそう宣言する
グレモリー眷属の「二大お姉さま」が完全復活を果たした
特大の雷撃をまともにくらったジークフリートは全身が黒焦げと化していた
体の至るところから煙を上げている
『
そこに追撃とばかりに先程リアスが放った滅びの一撃が襲い掛かった
ジークフリートの肥大化していた龍の腕が全て弾け飛び消滅していく
「これがトドメだよ、ジークフリートッ!」
祐斗の持つ聖剣アスカロンと魔剣グラムが正面からジークフリートに深々と突き刺さった
ジークフリートは口から血の塊を吐き出す
『……この僕が……やられる……?』
ジークフリートは自身を裏切ったグラムをソッと撫でるが、魔剣は拒絶するように彼の手を焦がすだけだった
それを見てジークフリートは自嘲していた
「勝ったよ、イッセーくん。新くん」
祐斗はそれだけ呟き、2本の剣をジークフリートの体から抜き放つ
ジークフリートの体からは既に血が流れる事はなく―――2本の
体の至るところにヒビが走り、やがて崩れていく
煙を上げながら崩れていく最中、ジークフリートは目を細めて小さく笑った
『……ははっ……兵藤一誠は……竜崎新は……殺しても戦い続ける……ッ!』
ジークフリートは祐斗とリアス達を見据えるが、既に顔にも崩壊の裂傷が生まれていた
「どうしてフェニックスの涙を使用しないんだい?キミ達英雄派は独自のルートで入手できるんだろう?」
確かに所持していてもおかしくないのだが、体が崩壊しつつある現状でもジークフリートは使う素振りすら見せない
ジークフリートは首を横に振る
『……この状態になると、フェニックスの涙での回復を受け付けなくなってしまう……。……理由は未だに不明だけどね……』
つまり極度のパワーアップが出来る反面、回復が一切望めないらしい
『……やっぱりそうさ。……あの戦士育成機関で育った教会の戦士は……まともな生き方をしないのさ……』
それだけを言い残し、ジークフリートの体は脆くも崩れ去っていった
その直後、屋上庭園の端が
そこから現れたのは―――新の幻影に吹き飛ばされたアドラス
よほど頭にキテるのか、憎悪の形相で祐斗達を睨み付けていた
「コノヤロォォォッ……ふざけやがってェェェェェェェェェッ!てめぇら纏めてぶっ殺してやるッッ!」
アドラスの眼前で円盤が高速で回転し、巨大な円を描く
その中央で極大の黒炎が渦巻いていく
それを見てリアスと朱乃が身構える
「死ねェェェェッッ!クソどもがァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
アドラスの怒りの咆哮と共に巨大な円の中央から極大の黒炎が解き放たれた
周りを焼き焦がしながら襲い掛かってくる黒炎に対し、リアスと朱乃も攻撃を放つ
極大の滅びの魔力と雷光が空を走り、アドラスの黒炎と正面衝突
その後、双方の攻撃が互いの威力によって相殺され四散した
「―――ッッ⁉なん、だと……ッ⁉オレ様の最強技があんなクソ女どもに消された……ッ⁉」
驚愕1色に包まれるアドラス
好機を逃すまいと祐斗が駆け出していく
膨大なオーラを
アスカロンの刃と黒炎の刃が正面からぶつかるが……アスカロンの刃は黒炎ごとアドラスの腕を切り飛ばした
切り飛ばされた腕は空中で消滅し、アドラスが苦痛にまみれた表情と化す
祐斗はオーラを解き放つグラムで横一閃、更にアスカロンで縦一閃に振り切った
夜空の暗闇に描かれる太刀筋はアドラスの体を十字に裂いた
「……んだよ、こいつらの爆発力は……ッ!ふ、ざ、けん、な……ッ!」
怨恨めいた目で祐斗とリアス達を見据え、アドラスは跡形も残らず消滅していった……