ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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獅子王の檄

祐斗がフロアに戻ってくると丁度テレビには首都の様子が映し出されていた

 

避難が続く状況、大勢の人々が冥界の兵隊によって安全な場所に導かれていく

 

ふいにテレビに首都の子供達が映し出され、レポーターの女性が1人の子供に尋ねた

 

『ぼく、怖くない?』

 

レポーターの質問に子供は笑顔で答える

 

『へいきだよ!だって、あんなモンスター、おっぱいドラゴンとダークカイザーがきてたおしてくれるもん!』

 

満面の笑顔でそう応える子供の手には―――『おっぱいドラゴン』と『ダークカイザー』を模した人形が握られていた

 

画面の端から元気な顔と声が次々と現れていく

 

『そうだよ!おっぱいドラゴンとダークカイザーがたおしてくれるよ!』

 

『おっぱい!かいざー!』

 

子供達は不安な顔をしないばかりか、(ダークカイザー)一誠(おっぱいドラゴン)が助けてくれると信じ切っていた

 

『はやくきて、おっぱいドラゴン!ダークカイザー!』

 

子供達の元気な姿を見た祐斗は口元を押さえ、必死に込み上げてくるものを(こら)えていた

 

『……見ていてくれているかい、イッセーくん、新くん。キミ達を待ち望む子供達の姿……。皆、不安な顔1つ見せていないよ?皆、キミ達が助けてくれると心から信じ切っているんだ……。だからさ、来ないとダメじゃないか……っ!ここにいなきゃ、ダメじゃないか……っ!どうして、キミ達はそこに行けないんだ……っ!キミ達はこの子達のヒーローじゃないか……っ!応えてくれよ、イッセーくん、新くん。この子達を裏切っちゃダメだろう……っ!』

 

「俺達が思っている以上に冥界の子供達は強い」

 

突然の声、いつの間にか隣にその(おとこ)はいた

 

「あなたは!」

 

「兵藤一誠と竜崎新はとてつもなく大きなものを冥界の子供達に宿したのだな。―――久しいな、木場祐斗。リアスに会いに来た」

 

その(おとこ)の名は―――サイラオーグ・バアル

 

 

―――――――――――――

 

 

ソーナに呼ばれたと言うサイラオーグは祐斗を連れてリアスの部屋の前に到着する

 

「入るぞ、リアス」

 

それだけ言ってサイラオーグはリアスの部屋に堂々と入っていく

 

室内を進むと……ベッドの上で体育座りをしているリアスの姿があった

 

表情は朱乃以上に虚ろであり、目元は赤く腫れ上がっていた

 

あれからずっと泣いていたのだろう……彼女の(かたわ)らには黒ずんだ新の右手が置かれている

 

サイラオーグは近づくなり、つまらなそうに嘆息する

 

「情けない姿を見せてくれるものだな、リアス」

 

彼の態度を見て、リアスは不機嫌な表情と口調で訊く

 

「……サイラオーグ、何をしに来たの……?」

 

「ソーナ・シトリーから連絡を貰ってな。安心しろ、プライベート回線だ。大王側にあの男達が現在どのような状態か一切漏れてはいない」

 

大王側の政治家に新と一誠の死が伝われば、どの様な手段で現魔王政権に食ってかかるか分からない

 

2人は既に冥界にとって大きな存在となっているからだ

 

サイラオーグはリアスに真っ正面から言い放つ

 

「―――行くぞ。冥界の危機だ。強力な眷属を率いるお前がこの局面に立たずにしてどうする?俺とお前は若手の最有力として後続の者に手本を見せねばならない。それに今まで俺達を守ってくださった上層部の方々―――魔王さまの恩に(むく)いるまたとない機会ではないか」

 

もっともな意見を口にするサイラオーグ

 

普段のリアスならそれを聞いて奮起するのだが、リアスは黒ずんだ新の右手を持って顔を(そむ)けるだけだった

 

「……知らないわ」

 

「……自分の男が行方知れずと言うだけでここまで堕ちるか、リアス。お前はもっと良い女だった筈だ」

 

サイラオーグの一言を聞き、リアスは枕を投げて激昂する

 

「彼がいない世界なんてッ!新がいない世界なんてもうどうでも良いのよッ!……私にとって彼は、あのヒトは……誰よりも大切なものだった。あのヒト無しで生きるなんて私には……」

 

再び涙を浮かべて表情を落ち込ませようとするが―――サイラオーグがリアスに大きく言い放つ

 

「あの男が……闇皇の竜崎新が愛した女はこの程度の女ではなかった筈だッ!あの男はお前の想いに応える為、お前の夢に殉ずる覚悟で誰よりも勇ましく前に出ていく強者だったではないかッ!主のお前が、あの男を愛したお前が、その程度の度量と器量で何とする⁉」

 

サイラオーグの言葉を聞いてリアスは驚いているようだった

 

構わずにサイラオーグは続ける

 

「立て、リアス。あの男はどんな時でも立ったぞ?前に出た。ただ、前に出た。赤龍帝と共にこの俺を真っ正面から殴り倒した男を、お前は誰よりも知っている筈だッ!」

 

好敵手(ライバル)だからこそ分かる事がある……

 

レーティングゲームでの激戦でサイラオーグは新と一誠の生き様を認識したのかもしれない

 

「それにお前はあの男達が本当に死んだと思っているのか?」

 

サイラオーグの問いにリアスだけでなく祐斗も一瞬言葉を失い、その反応を見てサイラオーグは苦笑する

 

「それこそ滑稽だ。あの男達が死ぬ筈が無い。竜崎新はお前を愛した。兵藤一誠にもそう言った女がいる筈だ。そんな奴らが愛した女を放って死ぬものか。それが『おっぱいドラゴン』と『ダークカイザー』だろう?」

 

それは根拠も無い不確かな事だが、サイラオーグのその言葉は他の何よりも説得力があるように感じた

 

サイラオーグは(きびす)を返す

 

「俺は先に戦場で待つ。―――必ず来い、リアス。そしてグレモリー眷属!あの男達が守ろうとしている冥界の子供達を守らずして何が『おっぱいドラゴン』と『ダークカイザー』の仲間かッ!」

 

それだけ言い残すとサイラオーグは部屋から去っていった

 

ソーナの言う「打ってつけ」とは、こう言う事だったのかもしれない

 

『……そうだ、彼らが生きている可能性をもっともっと模索しても良いじゃないか。駒だけになったとしても、腕だけになったとしても復活を探す事をしても良いじゃないか!どうして、そんな簡単で分かりやすい事に僕は―――僕達は辿り着けなかったんだろう……』

 

リアスの瞳に少しだけ光が戻り、祐斗の心中にも少しだけ希望が戻った

 

拳だけで戦い抜いてきた(サイラオーグ)だからこそ、彼だけに分かるものがある

 

祐斗達にはそれが確かに伝わった

 

 

―――――――――――――

 

 

城内に“ある人物”が現れたと聞いた祐斗は城内地下の一室に向かった

 

そこにいたのはヴァーリチーム

 

疑似空間での一戦後、ヴァーリが不調な事もあってグレモリーの当主はサーゼクスとアザゼルの進言で彼らを秘密裏に(かくま)っていた

 

勿論、テロリストである彼らをグレモリー城に置くのは重大問題だが、リアス達を助けてくれた事実のお陰でグレモリーの現当主は一時的な保護を決めたのだ

 

ヴァーリが身を休めている部屋に入ると、ヴァーリチームの面々と小柄なご老体の姿が視界に入る

 

その人物は初代孫悟空、祐斗が今会いたかった人物だ

 

初代孫悟空はベッドで上半身だけを起こしているヴァーリの体に手を当てて、仙術の気を流しているところだった

 

白く発光する闘気に満ちた手を腹部から胸、胸から首、そして口元に移していく

 

ゴボッとヴァーリの口から黒い塊が吐き出され、初代孫悟空はそれを透明な容器に入れて蓋をした

 

その上から呪符らしき物を貼って封印する

 

取り出されたのはヴァーリの体に巣食っていたサマエルの毒だろう

 

初代孫悟空が口元を笑ます

 

「身に潜んでおった主な呪いは仙術で取り出せたわい。これで体も楽になるだろうよぃ。まったく、大馬鹿もんの美猴(びこう)が珍しく連絡なぞ寄越したと思ったら、白い龍(バニシング・ドラゴン)の面倒を見ろとはのぉ」

 

ベッド横の椅子に座る美猴が半眼になっていた

 

どうやら初代孫悟空を呼び寄せたのは美猴のようだ

 

誰よりも初代孫悟空に対して苦手意識を持っていたのだが、ヴァーリを救いたい一心で呼んだのだろう

 

「うるせぃ、クソジジイ。―――で、ヴァーリは治るんかよ?」

 

「ま、こやつ自身が規格外の魔力の持ち主だからのぉ。(わし)が切っ掛けを与えりゃ充分だろうて」

 

不調だったヴァーリの体は今の治療で快復に向かいそうだ

 

「……礼を言う、初代殿。これで戦えそうだ」

 

ヴァーリが初代孫悟空に敬意を払って礼を口にしていた

 

初代孫悟空が美猴の頭をポンポン叩きながら言う

 

「呪いが解けて直ぐに戦いの事を考えるなんぞ、まったくどうして、どうしようもない戦闘狂じゃい。―――さての、儂もそろそろ出掛けさせてもらうぜぃ。バカの顔も見られた事だしのぅ」

 

「ジジイ、どっか行くのか?」

 

美猴の問いに初代孫悟空は煙管を吹かす

 

「そりゃ、儂はこれでも天帝んところの先兵じゃからのぉ。ちょいと冥界にお遣いじゃわい。―――テロリスト駆除ってやつよ。年寄り使いの荒い天帝じゃしのぉ」

 

初代孫悟空も今回の1件に力を貸してくれるらしい

 

これ程心強い申し出もないものだが、引っ掛かるものがあった

 

祐斗の心中をヴァーリが代弁する

 

「……初代殿、天帝は曹操と繋がっているのだろう?京都の1件―――妖怪と帝釈天(たいしゃくてん)側の会談を邪魔したと曹操と言う図式は天帝の中ではどういう位置付けになっている?」

 

ヴァーリの質問に初代孫悟空は愉快そうに笑むだけだった

 

「さーての。儂はあくまで天帝の先兵兼自由なジジイじゃてな。あの坊主頭の武神が何処まで裏で企んでいるかなんて興味も無いわい。ただのぅ、天帝は暴れんと思うぜぃ?これから先の事は分からんがねぃ。どちらかと言うと、高みの見物だろうよぃ。ま、今回はハーデスがやり過ぎたんだろうぜぃ」

 

やはりハーデスが今回の1件を操っていたと見て間違いなさそうだ

 

ヴァーリ達と初代孫悟空の話が一段落ついたところで祐斗が話を切り出した

 

「初代、おひとつお訊きしたい事があってここに来ました」

 

「なんだい、聖魔剣(せいまけん)の。このジジイで良ければ答えられる範囲で答えてやるぜぃ?」

 

「今サマエルの呪いに触れたあなたに訊きたいのです。―――この呪いを受けたドラゴンが生き残るとしたら、どのような状況なのかを」

 

仙術と妖術を極めたと称される大妖怪であり、仏にまで神格化された斉天大聖(せいてんたいせい)孫悟空

 

『エデンの蛇』サマエルの呪いに触れてどう感じたのか、祐斗はそれが訊きたかった

 

「肉体はまず助からねぇだろうねぃ。この呪いの濃度じゃ最初に肉体が滅ぶ。次に魂だ。肉体と言う器を無くした魂ほど脆いものはねぇやねぃ。こいつもちっとの時間で呪いに蝕まれて消滅しちまうだろうよ。さて、問題はここからだぜぃ。―――じゃあ、なんで魂と連結しているであろう悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は呪いを受けてなかったか?赤龍帝の事はこのジジイの耳にも入ってるぜぃ。主のもとに駒だけは戻ってきたんだろぉ?」

 

「はい、駒だけが召喚に応じました」

 

「その駒からサマエルの呪いは検出されたんかぃ?」

 

「いいえ、検出されませんでした。サマエルのオーラを感じ取れたのは龍門(ドラゴン・ゲート)からのみです。彼の駒はサマエルの呪いに掛かっていませんでした」

 

そう、一誠の駒が帰還した後、アザゼルがその駒を調査した結果―――サマエルの呪いは掛かっていなかった

 

それを知ったアザゼルは目を細め、そのままグリゴリ本部に戻ったらしい

 

もしかしたら、その時から一誠の死に疑問の片鱗があったのかもしれない

 

祐斗を含め誰もが駒だけの帰還―――そのケースが生じた場合が例に違わず戦死となる事、新と一誠を失った悲しみ、それらの事実を突きつけられて可能性を捨てきってしまっていた

 

祐斗の答えを聞いた初代孫悟空は煙管を吹かし、口の端を笑ました

 

「―――て事はだ、赤龍帝の魂は少なくとも無事な可能性があるって事だぜぃ。今あのエロ坊主がどんな状況になっているかは分からんけどねぃ、案外次元の狭間の何処かでひょっこり(ただよ)っているかもしれんぜ」

祐斗はその言葉を聞き、内側から湧き上がるものを懸命に抑え込んだ

 

『まだだ。まだ早い。まだ歓喜するには早いじゃないか……っ!けれど、可能性がある!僕の親友が生きている可能性がある!』

 

一誠の方は生きている可能性が示唆されるが、まだもう1人の問題が拭い去れていない……

 

「けどよ、ジジイ。闇皇の方はどうなんだよ?」

 

「んーむ、蝙蝠坊主の方はまだ分からんのぉ。何せそっちは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)じゃのぅて、腕だけ帰ってきたんじゃろ?ここへ来る途中、『初代クイーン』とやらに事情を聞いたぞぃ。涙と鼻水を垂れ流して聞き取るのに手間取ったがの……」

 

新が生存している可能性は限りなく低いと見られている……無理もなかった

 

しかし、初代孫悟空は口の端を笑ます

 

「ま、そっちの蝙蝠坊主も案外肝っ玉じゃから、赤龍帝と同じく次元の狭間のどっかを漂ってるってオチかもしんねえぜぃ?―――と、美猴はこれからどうすんだぃ?おめえさん達、各勢力からも『禍の団(カオス・ブリゲード)』からも手配されてんだって?」

 

美猴の横で黒歌が挙手して言う

 

「私はリーダーについていくにゃん。何だかんだでこのチームでやっていくのが1番楽しいし?」

 

魔法使いのルフェイも頷く

 

「はい、私も皆さまと共に行きますよ!アーサーお兄さまは?」

 

静かなオーラを漂わせるアーサーは笑顔のまま口を開く

 

「英雄派に興味や未練は微塵もありません。今まで通りここにいた方が強者と戦えるでしょうしね。少なくとも私は曹操よりもヴァーリの方が付き合いやすいですよ」

 

彼らの言葉を聞いて美猴が改まってヴァーリに言う

 

「俺っちも今まで通り、お前に付き合うだけだぜぃ?俺らみてぇなハンパもんを指揮できるのなんざおめぇだけさ、ヴァーリ」

 

チームメンバー全員の残留を聞いたヴァーリは小さく口元を緩ませた

 

「……すまない」

 

「らしくねぇし!謝んな、ケツ龍皇(りゅうこう)!」

 

「やめろ、アルビオンが泣く。ただでさえカウンセラー希望の状態だ」

 

その光景を見ていた初代孫悟空は煙管を吹かす

 

「赤龍帝は民衆の心を惹き付け、白龍皇は『はぐれ者』の心を惹き付ける。二天龍、表と裏。お主ら、面白い天龍じゃて」

 

それだけ言い残して初代孫悟空は退室していった

 

それを確認してから祐斗はヴァーリに改めて問う

 

「ヴァーリ・ルシファー、キミはどうするんだい?」

 

「……兵藤一誠と竜崎新の(かたき)討ちと言えばキミは満足するのかな、木場祐斗?」

 

「いや、ガラじゃないと吐き捨てるだけさ。それに仇がいるとするのなら、それは僕達の役目だ。いいや、僕が討つ」

 

「なるほど、その通りだ。―――俺は出し切れなかった力を誰かにぶつけたいだけだ。なに、俺が狙う相手と俺を狙う相手は豊富だからな」

 

ヴァーリはバトルマニアらしい戦意に満ちた不敵な笑みを見せる

 

 

―――――――――――――――

 

 

ヴァーリ達がいる部屋から出て少し歩くと、見知った人物が祐斗の視界に映る

 

腕を組み、壁に背を預けているのは―――思いもよらぬ兄弟だった

 

「――――ッ。キミ達は……っ!」

 

「久しぶりだな。冥界中が騒いでるお陰で城内に忍び込むのは簡単だった」

 

そこにいたのは『地獄兄弟(ヘル・ブラザーズ)』と呼ばれる2人組―――幽神正義(ゆうがみまさよし)幽神悪堵(ゆうがみあくど)

 

危険度が高い賞金首に認定されている兄弟の登場に祐斗は警戒心を明らかにする

 

そんな祐斗に正義は制止を掛けた

 

「殺気を鎮めろ。俺達は貴様らの上司からこの場所を聞いて、やって来ただけだ」

 

「……アザゼル先生が、キミ達を……」

 

幽神兄弟を呼んだのがアザゼルである事を知った祐斗は“とりあえず”攻撃色を緩める

 

警戒心を残しておき、正義に(たず)ねる

 

「何をしに来たの?」

 

「……兵藤一誠が死んだそうだな」

 

「……先生が喋ったの?」

 

「いや、奴の口からは聞いていないが―――ここへ来る途中、アーシア・アルジェントの様子を見た。……とても声を掛けられる様子じゃなかったが、それを見て大体の事情を把握した」

 

一誠の死がこの兄弟にも伝わっている……

 

顔をしかめる祐斗に正義はこう言ってきた

 

「貴様は本当に兵藤一誠が死んだと思うか?」

 

その言葉に眉根を潜める祐斗

 

“生きている可能性はある”―――初代孫悟空に提示された可能性を言おうとした祐斗の言葉を正義は先に(さえぎ)った

 

「俺は奴が死んだなどと微塵も思っていない。少なくとも―――俺の目で確かめるまではな」

 

「――――ッ」

 

それは“一誠の死”を真っ向から否定する発言

 

サイラオーグと同じく根拠も何も無い―――強い意志が感じられるものだった……

 

祐斗は自然と口を開いた

 

「……キミもそう思うのか」

 

「当たり前だ。俺のいない間に勝手に死ぬなど認めん。兵藤との決着がまだついていない。たとえ何処にいようが、この俺が目の前に引きずり出してやる」

 

正義の持論に祐斗は“このヒトもサイラオーグ・バアルと同じ事を言ってくれるな……”と心中で打ち震える

 

根拠が無くとも一誠の死を否定する発言は一縷の希望を宿してくれる

 

祐斗は真っ直ぐな目で幽神兄弟に言い放った

 

「……イッセーくんは生きている。可能性が無いわけじゃないんだ。それを信じて僕達は待つよ。―――彼が帰ってくる事を」

 

祐斗はそれだけ言い残して地下から去っていった

 

祐斗が去った後、弟の悪堵が正義に訊く

 

「兄貴、兵藤が死んだと思わないって事をあの女に言わなくて良かったのか?」

 

「今はそっとしておいてやろう。俺達が言ったところでどうにもならん。今は俺達に出来る事をやれば良い」

 

そう言った直後、正義の全身から殺気めいたオーラが滲み出てくる

 

鬼気迫る兄の姿を見て冷や汗を流す悪堵

 

次の瞬間、正義の左足に脚甲が展開され―――地下の壁に強烈な蹴りの一撃が加えられる

 

大きな破砕音と共に“怒”の一文字が地下の壁に刻み込まれた

 

「アーシア・アルジェントにあんな顔をさせた奴らを―――見つけ次第、片っ端から蹴り殺す……!相手が誰であろうと、骨の髄まで蹴り砕くぞ、相棒……!」

 

「あ、ああ……勿論だぜ、兄貴」

 

怒らせてはならない(幽神正義)の気迫は、もはや身内にすら止められないものだった……

 

 

――――――――――――

 

 

地下から戻った祐斗は初代孫悟空からの助言を元に“ある人物”への連絡を取り付けようとしていた

 

「祐斗さん、こちらにいたのね」

 

背後から祐斗を呼び止めたのはグレイフィアだった

 

いつものメイド服ではなく、髪を1本の三つ編みに束ね、ボディラインが浮き彫りになる戦闘服を身に着けていた

 

一目で魔王眷属として出陣する為だと理解できてしまう

 

「グレイフィアさま。……前線に?」

 

「ええ、聖槍の手前、サーゼクスが出られない以上、私とルシファー眷属で魔王領の首都に向かう魔獣―――『超獣鬼(ジャバウォック)』を迎撃します。最低でもその歩みを止めてみせます」

 

他の迎撃部隊も強大な魔獣達を凍り漬けにしたり、強制転移、巨大な落とし穴を作り上げて進行を止めようとした

 

だが、それら全て失敗に終わっている……

 

強制転移などの魔力や魔法の類が通じず、それらの術式に対して無効化の呪法も組み込まれているらしい

 

そこまで凶悪な形式を生み出したものに付与できる……やはり『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の持つ可能性は危険極まりないものだった

 

しかし、それでも悪魔の中でも最強と名高いルシファー眷属なら魔獣を止められるかもしれない

 

ちなみに祐斗の剣の師匠もルシファー眷属の『騎士(ナイト)』らしい

 

「これをリアスに渡してもらえますか?サーゼクスとアザゼル総督からの情報です」

 

グレイフィアが祐斗に1枚のメモを渡す

 

それには悪魔文字で『アジュカ・ベルゼブブ』、『拠点』と走り書きされていた

 

「現ベルゼブブ―――アジュカ・ベルゼブブさまがいらっしゃる現在地です。アザゼル総督からの伝言も伝えます。『イッセーの駒と新の右手を見てもらえ。あの男なら、その2つに残された何かを解析できるだろう』―――と。リアス達を連れてここに(おもむ)きなさい、祐斗さん。アジュカさまならば僅かな可能性でも拾い上げてくれるでしょう」

 

アジュカ・ベルゼブブは『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を制作した張本人であり、祐斗が連絡を取りたかった人物でもある

 

アザゼルはこの状況下でもいち早く情報を集めていた

 

グレイフィアが微笑(ほほえ)

 

「私の義弟(おとうと)になる者がこの程度で消滅など許される事ではありませんから。早く生存の情報を得てリアスを奮い立たせておあげなさい。力のある若手がこの冥界の危機に立たずして次世代を名乗るなどおこがましい事です。私は義妹(リアス)義弟(アラタさん)が冥界を背負える程の逸材だと信じていますから」

 

ルシファー眷属の『女王(クイーン)』は優しくも厳しいヒトだった




次回からバトル展開です!

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