ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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12巻編、ようやく突入シマシタ!




第14章 補習授業のヒーローズとブラックウィドウ
赤龍帝、闇皇不在のグレモリー眷属


中級悪魔の昇格試験日から2日程経過した昼頃、木場祐斗はグレモリー城のフロアの一角にいた

 

グレモリー城は慌ただしく、使用人だけでなく私兵もバタバタと動いていた

 

理由は現在冥界が危機に瀕しているからだ

 

旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブと闇人(やみびと)の『初代キング』の外法(げほう)によって生み出された『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の超巨大アンチモンスターの群れは冥界に出現後、各重要拠点及び都市部への進撃を開始した

 

フロアに備え付けられている大型テレビではトップニュースとして、進撃中の巨大な魔獣が映し出される

 

『ご覧ください!突如現れた超巨大モンスターは歩みを止めぬまま、一路都市部へと向かっております!』

 

魔力駆動の飛行船やヘリコプターからレポーターがその様子を恐々と報道している

 

冥界に出現した巨大なアンチモンスターは全部で13体、どれも100メートルを超える巨獣である

 

テレビにもそれら全ての様子が克明に報道される

 

疑似空間では黒いオーラに包まれた人型のモンスター群だったが、冥界に現れてから姿を変えたものがいる

 

人型の巨人タイプもいれば、四足歩行の獣タイプもいるが―――姿形は1体として同じものがいない

 

人型タイプは二足歩行であるものの、頭部が水棲生物であったり、眼が1つであったり、腕が4本も生えているタイプもいる

 

一言で表せば合成獣(キメラ)のようだ

 

四足歩行型の魔獣達も同様にあらゆる生物、魔獣のパーツで体が構成されていた

 

アンチモンスター群はゆっくりと1歩ずつ歩みを止めぬまま進撃し続けている

 

このままで行けば重要地点に1番近い魔獣は今日中、他の魔獣達もほぼ明日には都市部に辿り着くだろう

 

更に厄介なのは―――この魔獣達が進撃をしながら小型のモンスターを独自に生み出している点だ

 

魔獣の体の各部位が盛り上がり、そこから次々と肉を破って小型モンスターが誕生していく

 

大きさは人間サイズだが、とにかく数が多い

 

1回で数十体から100体程生み出され、通り掛かった森、山、自然を破壊し、そこに住む生き物を喰らい尽くしていく

 

進撃先にあった町や村の住民は今のところ最小の被害で避難できているようだが、町村その物は丸ごと蹂躙されていった

 

奴らが通った後は何も残らないと言う凄惨な状況に変わる……

 

同じ創造系の神器(セイクリッド・ギア)を持つ祐斗も畏怖するばかりだった

 

上位神滅具(ロンギヌス)―――神に匹敵すると称される異能、世界を滅ぼせるだけの能力、その凶悪さを現在進行形で見せつけている

 

その異形の中でも群を抜いて巨大なのが、冥界―――魔王領にある首都リリスに向かっている規格外の魔獣だ

 

人型であり、他の魔獣よりも一回り大きく、背中に蜘蛛の脚を生やした巨体を有している

 

『初代キング』がブラックウィドウを寄生させた一際巨大なその魔獣を冥界政府は『超獣鬼(ジャバウォック)』と呼び、その他12体の巨大な魔獣は『豪獣鬼(バンダースナッチ)』と呼称された

 

これらはアザゼルがルイス・キャロルの創作物にちなんで名付けたものである

 

テレビの向こうで『豪獣鬼(バンダースナッチ)』を相手に冥界の戦士達が迎撃を開始していた

 

黒き翼を広げ、正面、側面、背面からほぼ同時攻撃で魔力の火を撃ち込んでいく

 

周囲一帯を覆い尽くす質量の魔力が魔獣に直撃

 

強力な攻撃を繰り広げる迎撃チームは最上級悪魔とその眷属

 

普通の魔獣ならば、これだけの攻撃を受ければ間違いなく滅ぼされているだろう

 

しかし――――

 

『何という事でしょうか!最上級悪魔チームの攻撃がまるで通じておりません!』

 

戦慄しているレポーターの声……

 

魔獣は最上級悪魔チームが放った絶大な攻撃を全く意に介してなかった

 

体の表面にしかダメージを与えられておらず、致命的な傷は一切加える事が出来なかった

 

迎撃に出ている各最上級悪魔チームはどれもがレーティングゲームの上位ランカー

 

それでも効果のある迎撃が出来ずじまい……

 

次々と生み出される小型モンスターを壊滅させるだけで手いっぱいだった

 

各魔獣の迎撃には堕天使が派遣した部隊、天界側が送り込んできてくれた『御使い(ブレイブ・セイント)』、ヴァルハラからは戦乙女(いくさおとめ)たるヴァルキリー部隊、ギリシャからも戦士の大隊が駆けつけ、悪魔と協力関係を結んだ勢力からの援護を受けている

 

それによって現状最悪の状況だけは脱している

 

だが、問題は山積みとなっていた

 

1つは『超獣鬼(ジャバウォック)

 

昨夜、レーティングゲーム王者―――ディハウザー・ベリアル率いる眷属チームが迎撃に出たのだが……『超獣鬼(ジャバウォック)』にダメージこそ与えられたものの、歩みを一時(いっとき)しか止められなかった

 

超獣鬼(ジャバウォック)』はダメージを速効で再生、治癒してしまい、何事も無かったかの様に進撃を再開させた

 

その事実は衝撃的なニュースとして冥界中を駆け回り、民衆の不安を煽る結果となってしまった

 

誰もが「あの王者とその眷属が出撃すれば強大な魔獣も倒れるだろう」と内心で信じきっていた

 

皇帝(エンペラー)ベリアルと眷属の力は疑いようの無いものだが、それでも止められなかった……

 

もう1つの問題はこの混乱に乗じて、各地で身を潜めていた旧魔王派によるクーデターの頻発、更にそこへ便乗してきた闇人(やみびと)の襲撃だ

 

魔獣群の進撃に合わせて現在各都市部で暴れ回っているのだろう

 

そちらの迎撃にも冥界の戦士達が派遣されており、悪魔世界は混乱の一途を辿っていた

 

更にこの混乱によって冥界の各地で上級悪魔の眷属が主に反旗を(ひるがえ)したと言う報告も届いていた

 

無理矢理悪魔に転生させられた神器(セイクリッド・ギア)所有者がこれを機に今までの怨恨をぶつけているのだろう

 

アザゼル風に言えば各地で禁手(バランス・ブレイカー)のバーゲンセール状態、こちらにも各勢力の戦士達が向かっている

 

だが、魔獣群の進行阻止が最優先の為、これ以上戦力を()く事は出来ない

 

都市部と重要拠点が機能を失えば、敵対組織には打ってつけの侵略条件になるからだ

 

今まさに冥界は深刻な危機に直面している……

 

旧魔王派のクーデターによる超巨大魔獣の進撃―――それを裏で(うなが)したのは冥府の神ハーデス

 

禍の団(カオス・ブリゲード)』英雄派、闇人(やみびと)―――主に神風一派も現在どこで暗躍しているか分かったものではない

 

疑似空間では英雄派がハーデスと旧魔王派、闇人(やみびと)に利用されたようだが、計画外の現在でも何をしでかすか危惧しなければならない

 

魔獣の迎撃に強大な力を持つ神仏や魔王達が(おもむ)く事が出来ないのも、曹操が何処で狙っているか予想が出来ないからである

 

彼が持つ聖槍は神仏や魔王を容易に滅ぼせる

 

この1件で神仏や魔王が1名でも滅ぼされたら、今後の各勢力情勢に何が起こるか分からない

 

(さいわ)いなのは各地域の民衆の避難が最優先で(おこな)われており、大きな死傷者が出ていないところだ

 

悪魔がこれ以上の打撃を受ければ、種の存続が本格的に危ぶまれる

 

シャルバ・ベルゼブブ―――旧魔王派が現冥界政府に(いだ)いた怨恨は想像以上のものだった……

 

「『超獣鬼(ジャバウォック)』と『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の迎撃に魔王さま方の眷属が遂に出撃されるようだ」

 

突然の声に祐斗が顔を向けると―――そこにはライザー・フェニックスがいた

 

ライザーは息を吐く

 

「兄貴の付き添いでな、ついでにリアスとレイヴェルの顔でも見に来たんだが。やっぱり状況が状況だからな。……察するぜ、木場祐斗」

 

眉をひそめ、深刻な表情をするライザー

 

どうやら新と一誠の死は既にライザーにも届いているようだ……

 

グレモリー眷属はこの1件の発端となった事件で新と一誠を失ってしまった

 

2人はシャルバ・ベルゼブブに拉致されたオーフィス、『初代キング』に捕らわれた『初代クイーン』マヤを奪還するべく疑似空間に残り、元の世界に戻った祐斗達は龍門(ドラゴン・ゲート)を開いて彼らを呼び寄せようとしたのだが……

 

戻ってきたのは黒ずんだ新の右手を持った『初代クイーン』、一誠の『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』―――『兵士(ポーン)』の駒7つのみだった

 

それらと共に龍門(ドラゴン・ゲート)からサマエルのオーラも少量ながら感知された為、シャルバとの戦闘中にサマエルの呪いを受けたのだと直ぐに得心した

 

“魔力に不得手な一誠ではサマエルの呪いを受ければ助かる見込みはまず無い”

 

アザゼルからもハッキリとそう告げられた

 

駒だけが召喚に応じる現象は過去にもあったらしく、その場合も確実に本人は生きていない

 

天界にも赤龍帝の魂がどうなったのか、調査してもらっていた

 

宿主が死ねばドライグの魂は自動で次の所有者を求めるらしく、情報は天界にある神器(セイクリッド・ギア)システムのデータベースに登録されるのだが……現世の神滅具(ロンギヌス)所有者の特定が過去よりも非常に困難になっているせいで、それに関する情報がまるで現れなかったと言う……

 

グリゴリの方でも現在進行形で調査しているが、詳しい情報の期待は薄い

 

そして、同行していたであろうオーフィスも行方が知れないでいた

 

そのまま次元の狭間に留まっているのか、またはサマエルの呪いで滅びたか……

 

龍神の調査は継続中だが、シャルバの手によってハーデスのもとに行った可能性は低いとされていた

 

何故なら……一誠がシャルバを仕損じる筈が無いからだ

 

一誠なら命を()してでも確実にシャルバを仕留める

 

祐斗を含め、誰もがそれを信じきっていた

 

新の方は現に『初代クイーン』マヤが帰還してきた

 

それゆえに『初代キング』を討ち取ったのだと直ぐに得心できた

 

だが、どれだけ調べても新と一誠の死を(ぬぐ)い去るものが出てこない……

 

彼らの死は報道されず、一部の者にしか伝えられていない

 

「痛み入ります。―――部長に会う事は出来ましたか?」

 

頭を何とか切り替えた祐斗の問いにライザーは首を横に振る

 

「無理だったな。部屋のドアを開けてくれなかったぜ。呼んでも反応も無かった。……ま、会える状況でもないだろう。愛した男がああいう形になってしまったんだからな」

 

「……お茶、どうぞ」とフロアに備えてあるテーブルにティーカップを置く小猫

 

いつもと変わらぬ表情の小猫はフロアの隅にある椅子に座った

 

「良いかね、レイヴェル。とにかく元気を出すのだよ?」

 

フロアに更に2名が姿を現す

 

1人はレイヴェル、もう1人はフェニックス家の長兄にして次期当主―――ルヴァル・フェニックス

 

レーティングゲームでもトップ10内に入った事もある男性で、近々最上級悪魔に昇格するとも噂されている

 

どうやらライザーは彼の付き添いでここに来たようだ

 

ルヴァル氏は妹であるレイヴェルを励ました後、祐斗を確認する

 

「リアスさんの『騎士(ナイト)』か。この様な状況だ。キミで良いだろう」

 

ルヴァル氏は祐斗に近づき、(ふところ)から数個の小瓶―――フェニックスの涙を取り出した

 

「これをキミ達に渡すついでに妹とリアスさんの様子を見に来たのだよ。こんな非非常時だ、涙も各迎撃部隊のもとに出回りこれしか用意できなかった。有望な若手であるキミ達に大変申し訳無く思う。―――もうすぐ私は愚弟を連れて魔獣迎撃に出るつもりでね」

 

フェニックスの兄弟も魔獣の迎撃に出るようだ

 

確かに不死身のフェニックスは前線の心強い戦力となるだろう

 

ライザーは「……愚弟で悪かったな」と口を尖らせていた

 

フェニックス家は現代の上級悪魔にしては珍しく多い4兄弟

 

長男と三男がゲームに参加し、次男がメディア報道の幹部らしい

 

祐斗はルヴァル氏からフェニックスの涙を受け取る

 

「リアスさんもリアスさんの『女王(クイーン)』も彼らの死で酷く落ち込んでいる。こんな時に冷静であるべきは恐らくキミだろうね。情愛の深い眷属でありながら、仲間の死に耐える―――。見事だよ」

 

「ありがとうございます」

 

そう言われるものの、正直祐斗もいっぱいいっぱいだが……それでも耐えなければならない

 

何故なら、この場にいないリアスと朱乃がルヴァル氏の言うようにまともな状態ではないからだ

 

リアスは城の自室に新の右手を持ったまま閉じこもってしまった

 

朱乃も心の均衡を失い、虚ろな表情でゲストルームのソファに座っている

 

2人とも話しかけても一切反応を示さない……

 

新に依存していた2人の心中はあまりあるものだろう……

 

アーシアも一誠の駒を手に持ち、ゲストルームでずっと泣いている

 

「……今すぐにイッセーさんのもとに行きたい……。……でも、私がイッセーさんを追ったら……イッセーさんはきっと悲しむから……。……ずっと一緒だって、約束したんです……。それなら、私もそこに行ければずっと一緒だと思ってしまって……。……イッセーさん……私はどうすれば良いんですか……?」

 

彼女もまた必死に悲しみと戦っていた

 

ゼノヴィアとイリナは未だ天界にいるが、新と一誠の死が伝えられているかどうかは分からない

 

天界の『システム』に影響を与えるであろうゼノヴィア(神の不在を知る)が天界にいられるのは、アザゼルや北欧神話の世界樹―――ユグドラシルの協力で『システム』がある程度補強されたのだが、それでも短期間しかいられない

 

ギャスパーとロスヴァイセ、渉と祐希那も強化を図る為に出掛けたまま連絡が無い

 

……少し前まではこれ以上無い程に最高のチームだったグレモリー眷属

 

今ではその面影すら無い……

 

チームの(かなめ)だった新と一誠を失ったのは大き過ぎる……

 

ルヴァル氏は言う

 

「我が家としてもレイヴェルを闇皇くんの眷属にしていただきたかったのだよ。出来る事ならそのまま彼のもとに送り出したかった」

 

「はい、それは存じております」

 

「……レイヴェルの今後をどうするかはこれからだが、今はここに置いてくれないだろうか?せっかく友人も出来たようだし。小猫さんとギャスパーくん、それに渉くんに祐希那さんだったかな?連絡用の魔法陣越しによく彼女達の事を話してくれていた。とても楽しそうだったよ」

 

「はい、レイヴェルさんは僕達がお預かり致します」

 

祐斗の一声にルヴァル氏は笑んだ

 

「うむ、では行くぞ、ライザー。お前もフェニックス家の男子ならば業火の翼を冥界中に見せつけておくのだ。これ以上、成り上がりとバカにされたくはないだろう?」

 

「分かっていますよ、兄上。じゃあな、木場祐斗。リアス達を頼むぜ」

 

ルヴァル氏とライザーはそれだけ言い残してこの場を去っていった

 

再び静まり返るフロア

 

レイヴェルが小猫の隣に座り―――途端に目元に涙を溜めて顔を手で覆う

 

「……こんなのってないですわ……。ようやく、心から敬愛できる殿方のもとに近づけたのに……」

 

小猫がボソリと呟く

 

「……私は何となく覚悟はしていたよ。……激戦ばかりだから、いくら新先輩やイッセー先輩、祐斗先輩が強くても、いつか限界が来るかもしれないって」

 

……小猫は心中で既に覚悟を決めていたようだ

 

あれだけ多くの死線に直面すれば、そう考えるのは当然

 

小猫の一言を聞いたレイヴェルは立ち上がり、涙を流しながら激昂した

 

「……割り切り過ぎですわよ……ッ。私は小猫さんのように強くなれませんわ……っ!」

 

同級生からの激情を当てられた小猫

 

いつもの無表情が徐々に崩壊し、震えながら涙を流していく

 

「……私だって……っ。……いろいろ限界だよ!やっと想いを打ち明けられたのに、死んじゃうなんてないもん……っ!新先輩……バカ!バカです……ッ!」

 

嗚咽を漏らしながら、小猫は制服の袖口で目元を隠した

 

相当無理をしていたのだろう

 

懸命に堪えていたものが一気に崩れたかの如く泣き崩れていく

 

レイヴェルはその小猫の姿を見て、優しく抱き締めた

 

「小猫さん……ごめんなさい」

 

「……うぅ、レイヴェル。つらいよぉ、こんなのってないよぉ……」

 

1年生2人にとって、新の死はあまりにも大きかった

 

祐斗はそれでも耐えた

 

ここで泣いても何も変わらない……

 

「木場祐斗くんか」

 

第三者の声、振り返れば―――そこには堕天使幹部『雷光(らいこう)』のバラキエルと朱乃の母、姫島朱璃(ひめじましゅり)の姿があった

 

 

―――――――――――――――

 

 

「そうですか、朱乃は……」

 

祐斗はフロアに現れたバラキエルと朱璃に状況を説明しながら廊下を進む

 

連れていく先は朱乃がいるゲストルームだ

 

バラキエルと朱璃も沈痛な表情で、事情を知った上で悲しんでいるのだろう

 

フロアにいた小猫とレイヴェルにはアーシアのフォローを頼んでいる

 

正直なところ彼女達もその様な状態ではないのだが……

 

祐斗は彼女達の前で新や一誠の代わりになれない事を情けなく思っていた

 

朱乃が滞在する部屋の前に到着し、ドアをノックする

 

返事は無いが、祐斗とバラキエル、朱璃はドアを開いて入室していく

 

部屋の中は明かりを灯しておらず、暗がりのままだった

 

部屋の隅にあるソファに朱乃が座っているが、彼女の双眸は虚ろなままだった……

 

バラキエルが1歩前に出て、娘の肩を揺する

 

「……朱乃」

 

父親の声を聞いたからか、朱乃が初めて反応を示す

 

「……とう、さま……かあ、さま」

 

父と母の顔を確認して呟く朱乃

 

バラキエルはただ黙って頷き、朱乃を抱き締めた

 

「話は聞いている」

 

その一言を聞いて朱乃は表情を戻し、父親の胸に顔を寄せた

 

「父さま……母さま……私……」

 

涙混じりの声、朱璃は娘の頭を優しく撫でる

 

「今は泣いて良いのよ、朱乃。あなたが泣き止むまで、私達はずっとここにいますから」

 

「……うぅ、新ぁ……どうして……」

 

嗚咽を漏らす朱乃

 

バラキエルと朱璃がいれば、少しでも回復できるかもしれない

 

祐斗はこれ以上いても邪魔になると感じて、静かに部屋を去っていった

 

 

―――――――――――

 

 

「―――匙くん」

 

祐斗がフロアに戻る道中、廊下で匙と出会(でくわ)

 

「よ、木場」

 

「どうしてここに?」

 

「ま、会長がちょいとリアス先輩の様子を見に来たってところかな。その付き添い。表ですれ違い様フェニックスのヒト達にも会ったけどさ」

 

「そっか、ありがとう」

 

ソーナもリアスの様子を見に来ていたようだ

 

祐斗は匙と共にフロアまで歩き、その中で匙が決意の眼差しで言う

 

「木場、俺も今回の1件に参加するつもりだ。都市部の一般人を守る」

 

シトリー眷属も冥界の危機に立ち上がったようだ

 

実力のある若手悪魔には召集が掛けられており、間違いなく大王バアル眷属と大公アガレス眷属も出るだろう

 

本来ならば祐斗達も今回の1件に参加しなければならない

 

祐斗は「僕達も後で合流するつもりだ」と言うが、匙は心配そうに訊いてきた

 

「……リアス先輩達は戦えるのか?」

 

今のリアス達を知ればそう言う感想を抱くのは当然

 

まともに戦える状態ではない……だが、それでも行かなければならない

 

「戦うしかないさ。この冥界の危機に力のある悪魔全てに召集が掛けられているのだから。僕達は力のある悪魔だ。―――やらなきゃダメさ」

 

祐斗は自分の心情とグレモリー眷属のあるべき姿を重ねてそう吐露した

 

匙が笑みながら「だよな」と大きく(うなず)

 

笑みを浮かべていた彼だったが、一転して表情を怖くする

 

「兵藤と竜崎を殺した奴は分かるか?」

 

迫力に染まった瞳で訊いてくる匙に対し、祐斗は答えた

 

「分かるけど、もうこの世には存在しないよ。―――その者はイッセーくんと新くんが倒しただろうからね」

 

一切の疑いも無く信じきった祐斗の答えに匙は一瞬だけ目元を緩ませた

 

「そうか。相討ち。いや、負けるわけがねぇ。勝って死んだんだよな?あいつらが負ける筈がねぇんだッ!」

 

匙は目元から大粒の涙を流し、心底悔しがっていた

 

気迫に満ちた表情のまま匙が言う

 

「あいつらを殺した奴らはもういないんだな。だったら、そいつらが属していた『禍の団(カオス・ブリゲード)』と闇人(やみびと)の奴らをぶっ倒せば良いだけか」

 

「匙くん、キミは……」

 

「俺の目標だったんだ、あいつらは。あいつらのお陰で俺はここまで頑張れた。アガレスとの戦いでも活躍できた……ッ!身近に同じ『兵士(ポーン)』のあいつらがいたから俺はどんな(つら)いトレーニングでも耐えてこられた!」

 

新と一誠の背中をずっと追いかけていた匙にとって、同期である2人の存在は何者よりも大きかったのだろう

 

匙は憎悪に包まれた言葉を吐き出す

 

「俺の目標を―――俺のダチを殺した奴らは絶対に許さない。全員、ヴリトラの炎で燃やし尽くしてやる……ッ!俺の炎は死んでも消えない呪いの黒炎。たとえ刺し違えても命だけは削りきってやるさ……っ!」

 

匙は凄まじいオーラを内部から(たぎ)らせ、今まさに爆発しそうな力を懸命に抑え込む

 

「死んでもらっては困りますよ」

 

声がした方に振り向けば、そこにはソーナの姿があった

 

「会長」

 

「サジ、感情的になるのは分かりますが、だからと言ってあなたに死んでもらっては困ります。―――やるのなら、生きて相手を燃やしなさい」

 

「はいっ!」

 

ソーナの言葉に匙は涙を袖で拭い、大きく頷いた

 

ソーナの視線が祐斗に移る

 

「私達はこれで失礼します。魔王領にある首都リリスの防衛及び都民の避難に協力するようセラフォルー・レヴィアタンさまから(おお)せつかっていますので」

 

最上級悪魔クラスの強者は各巨大魔獣の迎撃に回っている為、政府は有望な若手悪魔に防衛と民衆の避難を要請している

 

祐斗達も本来そこに行かなければならない

 

「部長にお会いになられたんですね?」

 

祐斗の問いにソーナは静かに頷いた

 

「部屋にこもったきりです。私が問い掛けても反応はあまりありませんでした」

 

リアスの親友であるソーナでもダメだったようだ……

 

「代わりにこう言う時に打ってつけの相手を呼んでおきました」

 

「打ってつけの相手?」

 

祐斗が(いぶか)しげに問い返しても、ソーナは薄く笑みを見せるだけでその者の正体を教えてくれなかった

 

いったい誰を呼んだのだろうか……?

 


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