ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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ようやく闇人勢力の登場です!


狂喜のシャルバ

ぺんぺん草どころか雑草すら生えない程にまで荒廃しきったフィールド

 

新、一誠、リアス―――おっぱいデルタフォースまたはバストトライアングル(アザゼル命名)のパワーは遂に死神の大群を退(しりぞ)け、残るはジークフリート、ゲオルク、プルートのみとなっていた

 

だが、この戦果の代償はあまりにも大きかった

 

―――“リアスの乳は既にぺったんこ”―――

 

乳力を新と一誠に送り続けた結果……リアスの乳は消耗され尽くし、豊満なおっぱいは見る影も無かった

 

休めばいずれ元に戻るらしいのだが、新と一誠にとっては耐え難いものなのだろう

 

「これじゃ、小猫ちゃんと変わらないじゃないか……!」

 

「言うな、一誠。小猫が俺に何か投げてきてる」

 

ホテルの30階にある後衛の部屋から物を投げつけてくる小猫

 

遠いから聞こえる筈もないのだが、何かを感じ取ったのだろう

 

プルートと距離を取ったアザゼルが新達のもとに降り立ち、同様にプルートもジークフリートの側に降り立つ

 

「さて、ジークフリート、ゲオルク、チェックメイトだな」

 

光の槍の切っ先を彼らに向けるアザゼル

 

「……相変わらずバカげた攻撃力だな、赤龍帝、闇皇」

 

そう言いながら肩で息をするゲオルク

 

駐車場の結界装置は未だ健在

 

小規模で強固な防御結界をゲオルクが作り出しており、先程の連続砲撃でも破壊する事は出来なかった

 

だが、守備に全力を費やしたせいでゲオルクは息切れしていた

 

装置を覆う結界も歪みだしている

 

上位神滅具(ロンギヌス)の所有者と言えど限界はある

 

このまま押し切れば突破は可能だ

 

ジークフリートも苦渋に満ちた表情を浮かべる―――その時だった

 

この空間にバチバチと快音が鳴り響く

 

見上げれば空間に歪みが生じて穴が空きつつあった

 

敵側の援軍かと思ったが、ジークフリート達も(いぶか)しげな表情を浮かべていた

 

どうやら奴らにも想定外の乱入者らしい

 

次元に穴を空けて侵入してきたのは軽鎧(ライト・アーマー)にマントと言う出で立ちの男

 

見覚えのある男が新達とジークフリートの間に降り立つ

 

「久しいな、赤龍帝。―――それとヴァーリ」

 

男は一誠を睨み付け、後衛―――ホテル上階の窓際にいるヴァーリも睨み付けた

 

アザゼルが目を細める

 

「シャルバ……ベルゼブブ。旧魔王派のトップか」

 

そう、現れたのはディオドラ・アスタロトを裏で操っていた旧魔王ベルゼブブの子孫―――シャルバ・ベルゼブブ

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』と化した一誠に葬られたと思っていたが、実は生き延びていたのだ

 

ジークフリートが1歩前に出る

 

「……シャルバ、報告は受けていたけど、まさか本当に独断で動いているとはね」

 

「やあ、ジークフリート。貴公らには世話になった。礼を言おう。おかげで傷も癒えた。……オーフィスの『蛇』を失い、多少パワーダウンしてしまったがね」

 

「それで、ここに来た理由は?」

 

「なーに、宣戦布告をと思ってね」

 

大胆不敵にそう言うシャルバは醜悪な笑みを浮かべて指を鳴らす

 

すると、再び疑似空間に生じた裂け目から何者かが姿を現す

 

それもまた、見覚えのある人物だった

 

骨のみで構成された肉体に目玉が不気味に(うごめ)く左籠手

 

京都で対峙した骸骨ドラゴン―――『初代キング』バジュラ・バロム

 

「久しいな、悪魔と英雄のガキども」

 

旧魔王派だけでなく闇人(やみびと)のトップの登場に全員がざわつく

 

更にその(かたわ)らには1人の少年

 

瞳が陰り、操られている様子だった

 

その少年とは―――英雄派に属する神滅具(ロンギヌス)魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の使い手レオナルド

 

何故、彼がシャルバや『初代キング』と共にいるのか……?

 

ジークフリートとゲオルクが驚愕する

 

「……レオナルド!」

 

「シャルバ、その子を何故ここに連れてきた?いや、なぜ貴様と一緒にいるのだ⁉それも闇人(やみびと)の『初代キング』と共に!レオナルドは別作戦に当たっていた筈だぞ!連れ出してきたのか⁉」

 

面食らっている2人にシャルバは大胆不敵に言った

 

「今件で双方の利害が一致したのでな。少しばかり協力してもらおうと思ったのだよ。―――こんな風にね!」

 

ブゥゥゥンッ!

 

シャルバが手元に禍々(まがまが)しいオーラの小型魔法陣を展開させると―――レオナルドの体にそれを近付ける

 

魔法陣の悪魔文字が高速で動き―――レオナルドが叫んだ

 

「うわぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああっ!」

 

絶叫を張り上げて苦悶の表情を浮かべるレオナルド

 

それと同時に彼の影が広がっていき、フィールド全体を覆う程の規模となっていく

 

その場で空中に浮き始めたシャルバが哄笑を上げる

 

「ふはははははははっ!『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』とはとても素晴らしく、理想的な能力だ。しかも彼はアンチモンスターを作るのに特化していると言うではないか!闇人(やみびと)のビショップと共に英雄派の行動を調べ、人間界で別働隊と共に動いていた彼を拉致してきたのだよ!別働隊の英雄派構成員に多少抵抗されたので殺してしまったがね!それでは作ってもらおうか!現悪魔どもを滅ぼせるだけの怪物をッ!」

 

レオナルドの影から何かが生み出されていく

 

影を大きく波立たせ、巨大なものが頭部から姿を現していく

 

規格外の頭部、胴体、腕、それらを支える圧倒的な脚

 

フィールドを埋め尽くす程に広がった影から生み出されたのは―――

 

『ゴガァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!』

 

鼓膜を破る様な声量で咆哮を上げる―――200メートルサイズの超巨大モンスターだった

 

更にそれよりサイズが一回り小さい巨大モンスターも何体かレオナルドの影から生み出されていく

 

100メートルを超えるモンスター軍団の出現……

 

その光景を見た『初代キング』もシャルバと同じく哄笑を上げる

 

「これは面白い!所有者の力量次第でどんな魔獣でも生み出せると聞いていたが、これ程とはな!良い物を見せてもらった!余と神風からの餞別をくれてやろう!」

 

そう言って取り出したのは―――赤い砂時計型の痣を持つ黒い蜘蛛

 

それは神風が開発した強化型生物兵器―――ブラックウィドウ

 

それを1番巨大なモンスターの背中に投げつけた

 

背中に着地したブラックウィドウは直ぐ様モンスターに寄生し、体内へ潜り込む

 

その直後、巨大モンスターに異変が生じる……

 

腹と背中から蜘蛛の脚が幾重にも肉を突き破り、頭部に巨大な目玉が出現する

 

ただでさえ凶悪とも言える魔獣が更に凶悪性を増してきた……っ

 

その規格外の怪物達の足下に今度は巨大な転移型の魔法陣が出現する

 

シャルバが哄笑しながら叫んだ

 

「フハハハハハハッ!今からこの魔獣達を冥界に転移させて、暴れてもらう予定なのだよ!これだけの規模のアンチモンスターだ、さぞかし冥界の悪魔を滅ぼしてくれるだろう!」

 

魔法陣が輝き、巨大なアンチモンスターの群れが転移の光に包まれていく

 

「止めろォォォォッ!」

 

アザゼルの指示のもと、新達は巨大なアンチモンスター達に攻撃を放つが―――全くびくともしない

 

攻撃も虚しく終わり、巨大なモンスター達は全て転移型魔法陣の光の中に消えていった

 

怪物達が消えた途端、フィールドが不穏な音を立て始める

 

白い空に断裂が生まれ、ホテルなどの建造物も崩壊していく

 

強制的な怪物の創造と転移に疑似空間が耐えられなくなったのだ

 

ゲオルクがジークフリートに叫ぶ

 

「装置がもう保たん!シャルバめ、所有者のキャパシティを超える無理な能力発現をさせたのか!」

 

「……仕方ない、頃合いかな。レオナルドを回収して一旦退こうか。プルート、あなたも―――」

 

ジークフリートはそこまで言いかけ、既に姿を消していた死神に気付いた

 

それを知り、ジークフリートが何かを得心した様な表情となる

 

「……そうか、シャルバに陰で協力したのは……。あの骸骨神の考えそうな事だよ。嫌がらせの為なら、手段を選ばずと言うわけだね。『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の強制的な禁手(バランス・ブレイカー)の方法もシャルバに教えたのか……?あんな一瞬だけの雑な禁手(バランス・ブレイカー)だなんて、どれだけの犠牲と悪影響が出るか分かったものではない。僕達はゆっくりとレオナルドの力を高めようとしていたのにね……。これでは、この子は……」

 

それだけ漏らしたジークフリートとゲオルクは気絶したレオナルドを回収し、そのまま霧と共に消えていった

 

「ったく、あいつら逃げる時はソッコーだな」

 

新が毒づいていると、今度はホテルの方から爆音が鳴り響く

 

見上げれば、シャルバが後衛のメンバーに魔力の攻撃を放っていた

 

「どうしたどうした!ヴァーリィィィィィィッ!ご自慢の魔力と!白龍皇(はくりゅうこう)の力は!どうしたと言うのだァァァァァッ!フハハハハハハッ!所詮、人と混じった雑種風情が真の魔王に勝てる道理が無いッ!」

 

シャルバはヴァーリを攻撃していた

 

今のヴァーリではシャルバに対抗できない

 

防御の魔法陣を展開させ、防戦一方だった

 

「……他者の力を借りてまで魔王を語るお前には言われたくない」

 

(かんば)しくない状況でもヴァーリはシャルバを言葉で切り捨てる

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハヒハハハッ!最後に勝てば良いのだよ!さて、私が欲しいのはまだあるのだ!」

 

オーフィスの方に手を突き出すシャルバ

 

オーフィスの体に悪魔文字を表現した螺旋状の魔力が浮かび、縄の如く絡み付いた

 

「ほう!情報通りだ!今のオーフィスは力が不安定であり、今の私でも捕らえやすいと!このオーフィスは真なる魔王の協力者への土産だ!パワーダウンした私に再び『蛇』も与えてもらおうか!いただいていくぞ!」

 

更に『初代キング』も後衛の『初代クイーン』に向けて濃密な闇を放ち、彼女の華奢な体を捕らえていた

 

「今の余はあの時とは違う。貴様のおかげで失った分以上の力を手に入れた!今こそ貴様を取り込み、完全なる力を持って悪魔どもを滅してくれるわァッ!」

 

「んぐ……っ!ダメ、です……!そんな事は……!」

 

「黙れ!種族の(こころざし)を失った貴様の話など聞く耳持たぬわ!闇人(やみびと)とは他の種族を喰らい生きる事が本能!その餌と馴れ合う貴様はもはや種にあらずッ!せめて余の中でその光景を見て後悔し続けるが良いッ!」

 

「「させるかよッ!」」

 

新と一誠はドラゴンの翼を広げて、一気にシャルバと『初代キング』に詰め寄る

 

シャルバは醜悪な笑みを浮かべて言い放った

 

「呪いだ!これは呪いなのだ!私自身が毒となって、冥界を覆い尽くしてやる……ッ!私を拒絶した悪魔なぞ!冥界なぞ、もはや用無しだっ!もうどうでも良いのだよッ!そう、冥界の覇権も支配も既にどうでも良い!フハハハハハハッ!このシャルバ・ベルゼブブ、最後の力を持って魔獣達と共にこの冥界を滅ぼす!」

 

狂喜に包まれたシャルバはもうまともな目をしていなかった……

 

思想も何もかも破綻したシャルバは一誠に指を突きつけてきた

 

「……そうだな、貴殿が大切にしている冥界の子供も我が呪い―――魔獣どもによって全滅だよ、赤龍帝!我が呪いを浴びて苦しめ!もがけ!血反吐(ちへど)を吐きながら、のたうち回って絶息しろッ!フハハハハハハッ!傑作だな!下級、中級の低俗な悪魔の子供を始め、上級悪魔のエリートの子息子女まで平等に悶死(もんし)していく!ほら!これがお前達の(のたま)う『差別の無い冥界』なのだろう?フハハハハハハッ!」

 

もはやシャルバは復讐の鬼と化していた……

 

自分を認めなかった冥界に未練も誇りも捨て、全ての悪魔を滅ぼそうとしていた

 

そうこうしている内にフィールドの崩壊は進んでいく

 

遂に壁に複数の穴が空き、フィールドの瓦礫を吸い込みだした

 

ホテルの室内にいる黒歌が叫ぶ

 

「もう、このフィールドは限界にゃん!今なら転移も可能だろうから、魔法陣を展開するわ!それで皆でここからおさらばするよ!」

 

魔法陣を展開する黒歌のもとにグレモリー眷属達が集結

 

シャルバの攻撃で傷を負ったヴァーリにアーシアが回復のオーラを当てる

 

未だに哄笑を上げるシャルバ、その近くには捕らえられたままのオーフィス

 

捕らえた『初代クイーン』を睨み付ける『初代キング』

 

新と一誠はそれを見て―――互いに目線を合わせた

 

「新!イッセー!転移するわ!早くこちらにいらっしゃい!」

 

リアスがそう告げてくるが―――新と一誠は魔法陣の方には行かなかった

 

怪訝に思っているであろうリアスとグレモリー眷属に新と一誠は告げた

 

「リアス、悪いが俺はここに残る。ここで『初代キング』を倒す」

 

「俺もオーフィスを救います。ついでにあのシャルバもぶっ倒します」

 

新と一誠の言葉に全員が度肝を抜かれた

 

「僕も戦うよ!」

 

「2人だけ格好つけても仕方ないのよ⁉」

 

祐斗、朱乃がそう言ってくるが、新と一誠は首を横に振った

 

「いや、俺達だけで充分だ。皆はあの魔獣どもの脅威を冥界に伝えてくれ。どっちにしろフィールドはもう()たないだろう」

 

「それに俺と新なら鎧を着込んでいればフィールドが壊れても少しの間、次元の狭間で活動できる筈だ。ヴァーリもそうやって次元の狭間で活動していた頃があるんだろうから。……今、シャルバを見逃す事も、オーフィスを何者かの手に渡す事も出来ません」

 

これは自分達にしか出来ないと思ったのだろう

 

アザゼルの疑似禁手(バランス・ブレイカー)も限界まで来ている

 

ここでシャルバと『初代キング』を討たなければ犠牲が増えるのは必然

 

「もう限界にゃん!今飛ばないと転移できなくなるわ!」

 

黒歌がそう叫ぶ

 

「兵藤一誠」

 

アザゼルに肩を貸してもらっているヴァーリ

 

先程のシャルバの攻撃が体に響いたのか、ツラそうな表情だった

 

「ヴァーリ!お前の分もシャルバに返してくる!」

 

一誠の言葉を聞いてヴァーリは口の端を笑ました

 

「イッセー!新!後で龍門(ドラゴン・ゲート)を開き、お前らとオーフィスを召喚するつもりだ!それで良いんだな?」

 

アザゼルの提案に新と一誠は(うなず)いた

 

龍門(ドラゴン・ゲート)とはドラゴンを召喚する際に使用される魔法陣の事で、それぞれ対応する色がある

 

ちなみに新も元々はドラゴンの欠片より創られた者なので、龍門(ドラゴン・ゲート)に適応できる事が判明したのだ(色は赤と黒である)

 

新と一誠はドラゴンの翼を展開させる

 

「新!イッセー!」

 

リアスの声に振り向く2人

 

「必ず私のところに戻ってきなさい」

 

「ああ、勿論だ」

 

「必ず戻ります!」

 

それだけ告げて新は『初代キング』の方へ、一誠はシャルバの方へ突っ込んでいった

 

同時に転移の光が一層膨らんで弾ける

 

皆の転移は成功したようだ

 

「一誠!死ぬなよ!」

 

「分かってる!そっちこそ絶対に死ぬんじゃねぇぞ!」

 

互いに檄を飛ばし、それぞれの相手に向かっていった

 

 

――――――――――――――

 

 

ホテル上空で哄笑するシャルバの眼前に辿り着く一誠

 

フィールドは既に半分以上が消失している

 

シャルバは一誠を視界に映すと途端に不快そうな顔となる

 

「ヴァーリならともかく、貴殿の様な天龍の出来損ないごときに追撃されるとはな……ッ!どこまでもドラゴンは私をバカにしてくれる……ッ!」

 

『……どんだけ他者を見下しているんだ、こいつは』

 

「私を追撃するのは何が目的だ⁉貴殿も真なる魔王の血筋を(ないがし)ろにするのか⁉それともオーフィスに取り入る事で力を求めるのか⁉天龍の貴殿の事だ、腹の底では冥界と人間界の覇権を狙っているのだろう⁉」

 

『……こいつの考える事は血筋だとか、覇権だとか、そんな事ばっかりかよ』

 

一誠は息を吐いて言う

 

「難しい事を並べられても俺には全く分からん。オーフィスもどうしたら良いか分からないし、覇権がどうたらなんてのも興味ねぇ。―――ただな」

 

一誠はシャルバに指を突きつけた

 

「あんた、さっき悪魔の子供達を殺すって言っただろう?それはダメだろ」

 

一誠の言い分にシャルバは嘲笑う

 

「それがどうした!当然なのだよ!偽りの魔王が統治する冥界で育つ悪魔など、害虫以下の存在に過ぎない!成熟したところで真なる魔王である私を敬う事も無いだろう!そんな悪魔どもは滅んだ方が良いに決まっているのだ!だから、あの巨大な魔獣でゼロに戻す!あの魔獣どもは『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の外法(げほう)によって創られた悪鬼のごときアンチモンスターなのだ!闇人(やみびと)の力も得て圧倒的な破壊をもたらしてくれるであろう!穢れの無い冥界が破壊によって(よみがえ)るッ!それこそが冥界なのだよッ!」

 

「……あんたの妄想はやっぱりよく分からねぇや。―――けど、悪魔の子供を殺そうとしているんだろう?」

 

一誠は内部のオーラを全面に押し出して言った

 

「じゃあ、ぶっ倒さなきゃなっ!俺、子供達のヒーローやってるからよッ!あんたみてぇな子供の敵は絶対に許しておくわけにはいかないんだよッ!俺は『おっぱいドラゴン』だからなッッ!」

 

一誠の言葉を聞いてシャルバの笑みが止まる

 

「―――っ。……貴殿からのプレッシャーが跳ね上がった。分からん理屈で動く天龍だ。まあ、良いだろう!ならば我が呪いを一身に浴び、この狭間で果てろ、赤い龍ッッ!」

 

「それはてめえだ、三流悪魔がッッ!」

 

一誠は体内の駒を紅く爆発させ、呪文を唱える

 

真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)』―――サイラオーグが命名した真の『女王(クイーン)』形態

 

「―――我、目覚めるは王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり!」

 

歴代所有者達の声も聞こえてくる

 

『行こう!兵藤一誠!』

 

『ああ、そうだ!未来を―――我らは皆の未来を守る赤龍帝なのだ!』

 

『紅き王道を掲げる時だッ!』

 

「無限の希望と不滅の夢を(いだ)いて、王道を()く!我、紅き龍の帝王と成りて―――(なんじ)を真紅に光り輝く天道へ導こう―――ッ!」

 

Cardinal(カーディナル) Crimson(クリムゾン) Full(フル) Drive(ドライブ)!!!!』

 

一誠の体を紅いオーラが包み込み、鎧を紅く染めていく

 

「―――ッ!紅い……鎧だと⁉何だ、その変化は⁉紅……ッ!あの紅色の髪を持つ偽りの男を思い出す忌々(いまいま)しい色だッ!」

 

そう憎々しげに吐き捨てるシャルバ

 

鎧の形状が変わると同時に一誠の全身からパワーが溢れ出す

 

まだ成長途中ではあるが、この場では充分

 

シャルバが一誠に向けて手を突き出すと空間が歪み、そこから大量の(はえ)らしきものが出現していく

 

周囲一帯が蝿の群れに埋め尽くされた

 

「真なるベルゼブブの力を見せてくれようッ!」

 

吼えるシャルバは大量の蝿を操り、幾重もの円陣を組ませて極大の魔力の波動を無数に撃ち出した

 

Star(スター) Sonic(ソニック) Booster(ブースター)!!!!』

 

一誠はそれらを瞬時に(かわ)していき、一気に距離を詰めてシャルバの腹部に拳の一撃を入れた

 

Solid(ソリッド) Impact(インパクト)

Booster(ブースター)!!!!』

 

右腕を紅いオーラが覆い、巨大な拳を形成する

 

肘の撃鉄(げきてつ)を打ち鳴らし、渾身のボディブローがシャルバの腹部に深く食い込む

 

「ぐはっ!」

 

その威力にシャルバは堪らず血を吐き出した

 

「この、下級ごときがぁぁぁぁぁぁっ!」

 

シャルバは幾重にも魔法陣を展開し、そこから様々な属性の砲撃を放つ

 

一誠はそれに対して真っ正面から立ち向かっていった

 

「こんなもの……ッ!避けるまでもあるかよ……ッ!」

 

シャルバの放った魔力を拳で打ち落とし、再び神速で距離を詰める

 

Solid(ソリッド) Impact(インパクト)

Booster(ブースター)!!!!』

 

グゴンッ!とシャルバの顔面に巨大な拳が直撃

 

一誠のパンチを受けて、シャルバは顔中から血を垂れ流した

 

それを見た一誠は一言つまらなそうに漏らす

 

「こんなもんか」

 

それを聞いたシャルバのこめかみに青筋が幾重にも浮かび上がる

 

「……何だと……?」

 

憤怒の形相となったシャルバに一誠は構わず言う

 

「魔王って言うから、サーゼクスさまやヴァーリみたいな強さがあるのかと思った。ヴァーリと戦った事のある俺だから、『ルシファー』―――魔王って強さがよく分かる。けど、あんたからはあれ程の重圧は感じない」

 

シャルバは顔を引きつらせて高笑いする

 

「言ってくれるものだな……ッ!(けが)れたドラゴンごときが……ッ!塵芥(ちりあくた)と同義である元人間の分際で真の魔王を愚弄するとはな……ッ!」

 

「俺は二天龍の『赤い龍』―――赤龍帝ッ!あんたみたいな紛い物の魔王なんかにやられはしねぇッ!」

 

「ほざけッ!腐れドラゴンめがァァァァッッ!」

 

シャルバが魔力を放てば一誠はそれを拳で叩き落とし、一誠が拳打を放り込めばシャルバは大きく仰け反る

 

不気味なオーラを漂わせる蝿の群れもドラゴンショットで打ち消していく

 

圧倒的なまでに一誠の方が優勢だった

 

『……こんなもんか。こんなものなのかよ!冥界を語った男―――サイラオーグさんはこんなの喰らっても平気だったんだぞ⁉』

 

サイラオーグは一誠のパンチを受けても何度も立ち上がり、己の夢の為に進んできた

 

それに対してシャルバはただ仰け反るのみ……

 

己の身体を突き動かすものが一切感じられない……

 

「シャルバ、あんたには莫大な才能と魔力があるんだろうさ。俺よりも強大なものを持って生まれてきた」

 

「そうだ!私は選ばれた悪魔なのだよ!魔王だ!真の魔王だ!」

 

「でも、ダメだ。あんたの攻撃は……己の拳だけで、己の肉体だけで向かってきた(おとこ)に比べたらカトンボ以下だ!そんな攻撃じゃ、俺を倒せやしねぇんだよォォォッ!」

 

ドゴンッ!

 

今度は手応えを感じる一撃が決まり、シャルバの表情がかつてないほど苦悶に満ちた

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』無しでもこの実力差……

 

『何が真の魔王だ!何が「冥界をゼロに戻す」だ!俺が出会い、戦ってきた冥界の男達はこいつほど甘くはなかった!皆、誰よりも強くて厳しかった!』

 

「クソ天龍が!これならどうだァァァァッ!」

 

シャルバが血を撒き散らしながら手元から魔法陣を展開―――そこから1本の矢が飛び出す

 

高速で一誠に飛来し、鎧を貫通させて右腕に突き刺さった

 

一誠はその矢を引き抜こうとしたが……途端に激痛が走る

 

腕を通して全身に言い難い苦痛が広がり、同時に力も抜けていく

 

「フハハハッハハハハッ!苦しいであろう!(つら)いであろう!当然だ!その矢の先端にはサマエルの血が塗り込んである!ハーデスから借り受けたものだ!いざと言う時のヴァーリ対策用に持っていたのだが……まさかゴミの様な貴殿に使う事になろうとはな……。まあ良い。これで形勢逆転だ。ヴァーリのように魔力が高ければ多少は耐性があるのだろうが……魔力の素養が無さそうな貴殿では直ぐに死ぬぞ」

 

初めて受ける龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の痛み……

 

一誠の全身に痛み、寒気、震えが駆け巡る

 

『こちらにまで響いてきたぞ、相棒。意識が時々途切れそうになる程の力だ……』

 

魂のみのドライグにもサマエルの呪いが届いているようだ

 

口から血を吐き出す一誠だが、ギリギリのところで意識を(たも)

 

過去に聖槍(せいそう)の痛みも受けているので今だけは何とか意識を失わずにいる

 

一誠はドラゴンの両翼を広げ、シャルバに向かって飛び出していく

 

それを見てシャルバは仰天した

 

「呪いを受けている筈だ!何故に動く⁉何故に恐怖しない⁉死が怖くないと言うのか⁉」

 

「うるせぇな……!怖いに決まってんだろう……ッ!だがな、お前を生かしておくともっと怖い事が起こりそうなんだよ!だから、まずはお前をぶっ倒す!」

 

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)!!』

 

一誠は思い付く限りの拳と蹴りのコンボをシャルバに叩き込む

 

一誠の攻撃を受けたシャルバはホテルの屋上に落下し、這いつくばった

 

「バカな……ッ!私は真の魔王だぞ⁉人間やハーデス、闇人(やみびと)に助けを求めてまで、屈辱を、恥辱に(まみ)れながらも復讐を遂げようと……ッ!吐き気を(もよお)すような英雄派の実験にまで付き合ったと言うのに……ッ!下劣な闇人(やみびと)のビショップに頭を下げ、不愉快極まりない罵詈雑言を浴びせられても耐え忍んだと言うのに……ッ!なぜ貴様やヴァーリの様な天龍が立ち塞がるのだ⁉大した理念も無い低俗なドラゴン風情が!何故に私のような高みに臨む存在を(ないがし)ろにしようとする⁉理解不能!理解不能だァァァァッ!」

 

シャルバは捕らえられたままのオーフィスのもとに辿り着くと懇願する

 

「オーフィス!オーフィスよ!あの『蛇』をもう一度私にくれ!そうすれば再び私は前魔王クラス以上の力を得られる!この者を倒すにはあの『蛇』が必要なのだ!」

 

「今の我、不安定。力を増大させるタイプの『蛇』、作れない」

 

オーフィスの言葉にシャルバは絶望しきった表情となった

 

一誠はシャルバの眼前に降り立つ

 

震えながら見上げるシャルバに対し、一誠は正面から言い放った

 

「あんたは子供達から笑顔を奪おうとした―――。ぶっ倒される理由はそれだけで充分だろッ!俺はな!俺はッ!子供達のヒーローやってる、『おっぱいドラゴン』なんだよッ!あの子達の未来を奪おうとするなら、ここで俺が消し飛ばすッ!」

 

一誠は翼からキャノンを展開させ、砲撃の準備を始める

 

静かに鳴動し、砲身に強大な魔力がチャージされていく

 

シャルバは翼を広げて空に逃げようとするが―――

 

「吹き飛べェェッ!クリムゾンブラスタァァァァァァアアアアアアアアアアッ!」

 

Fang(ファング) Blast(ブラスト) Booster(ブースター)!!!!』

 

砲口から紅色の極大のオーラが解き放たれた

 

「フハハハハハハッ!どうせ貴殿もサマエルの毒で死ぬのだッ!赤龍帝ェェェッ!」

 

絶叫するシャルバは紅いオーラに呑み込まれ、跡形も無く消し飛ばされた―――

 




シャルバを圧倒した一誠!

次は新と『初代キング』の戦いデスワ!

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