ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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脱出作戦は計画的に

「えーと、これであと何人だ。赤龍帝、闇皇、白龍皇、アザゼル総督を倒した今、大きな脅威は無くなったかな。後は聖魔剣の木場祐斗、ミカエルの天使とルフェイ、闇人と言ったところか」

 

曹操の圧倒的な力にルフェイはどう出て良いのか分からずにいた

 

イリナも光の剣を構えたまま怒りの涙を流す

 

「……よくも!ゼノヴィアを!新くんを!私の仲間をッ!」

 

「ダメよ、イリナ!闇雲に出れば殺される!」

 

リアスが今にも飛び出していきそうなイリナを制する

 

「あの七宝と言うものをどうにかしなければ、攻撃は全てカウンターとしてこちらに返ってくるわ。7つの球体はどれも同じ大きさと形をしているから、何が飛んでくるか読みにくい上に複数でこられたら対応も極めて難しくなる。能力を同時に発動までされたら……。次の手がここまで読みにくい能力に出会ったのは初めてだわ。それらを意図して能力を発現させたとしたら恐ろしいまでの鬼才。―――新やイッセー達をあれだけ簡単に(ほふ)れる相手よ。気がおかしくなるぐらいに私達を研究し尽くしてきた強敵だわ……ッ!」

 

リアスはこれまでの戦闘から状況を把握していたようだ

 

そう、新は曹操の読みの鋭さに、イッセー達は七宝の持つ特異な能力にやられた

 

それだけならまだしも、曹操自身の身体能力、聖槍、邪視(イーヴィル・アイ)も加えた凶悪なコンボを見せつけられた

 

「イッセーさん!ゼノヴィアさんの治療が終わりました!次はイッセーさんに!」

 

アーシアが駆け寄るが、一誠は「先に黒歌を頼む」と告げてきた

 

新や一誠よりも黒歌の方が重傷と見たようだ

 

アーシアは一瞬当惑するが、コクリと頷いて直ぐに黒歌のもとに向かう

 

曹操はアーシアを追撃しようともしない

 

もう勝利が揺るがないと確信していた

 

ギィィィンッ!

 

突如、金属音がロビー内に響き渡る

 

祐斗が聖魔剣で、闇人化(やみびとか)したダイアンが仕込み刀で斬り込んでいた

 

曹操は2つの剣戟を聖槍で難なく受け止める

 

「あなたは強すぎる!しかし、一太刀ぐらい入れたいのが剣士としての心情だっ!」

 

「よくも俺のダチをやってくれたNA()!Kill You!」

 

「良い剣だ、木場祐斗。ジークフリートに届きうる才能か。正直言うと、俺との相性で1番無難に戦えるのはキミだ。強大なパワーは無いが、どんな状況でも臨機応変に振る舞える聖魔剣は特性を突き詰めれば非常に厄介になる。―――だが、成長途中の今のキミなら難なく倒せるさ。そちらの闇人(やみびと)くんも彼と同じく速度系の剣士か。何処まで届くか楽しみだ」

 

曹操が横薙ぎに聖槍を振るう

 

2人は瞬時に後方へ飛び退き、祐斗は聖魔剣を消失させて聖剣を創り出した

 

直ぐに龍騎士団を出現させて曹操の方に向かわせる

 

ダイアンは仕込み刀を鞘にしまい、居合いの構えを取る

 

「新しい禁手(バランス・ブレイカー)か!是非見せてくれ!良いデータとなる!」

 

狂喜する曹操は球体を自在に操って龍騎士団を破壊していく

 

「―――『牙流転生(がりゅうてんせい)』ッッ!」

 

ダイアンが居合いの構えから刀を抜き放ち、魔力を帯びた刀身が幾重にも分散して曹操に向かっていく

 

曹操は龍騎士団を破壊したのと同じ様に、7つの球体を縦横無尽に飛ばし、飛来してくる全ての刀身を弾き飛ばした

 

新達を死守するように構える祐斗とダイアン

 

曹操が祐斗とダイアンに向けて聖槍を構えるが―――頭を振って槍を下ろした

 

「―――やるまでもないか。直ぐに特性は理解出来た。速度はともかく、技術は反映出来ていない状態だろう?そちらの闇人(やみびと)くんも速度はなかなかのものだった。2人とも良い技だ。もっと高めると良いさ」

 

息を吐いて断ずる曹操

 

それを聞いた2人は屈辱にまみれた憤怒の形相となっていた

 

仲間を死守するつもりで剣を構えたのに、相手はそれを意にも介さなかった……

 

剣士としての誇りを持つ祐斗とダイアン、2人が受けた侮蔑、屈辱、心中は計り知れない……

 

仲間をバカにされた事に、倒れ伏している一誠も心中でキレていた

 

「どれだけ取れた?」

 

曹操がゲオルクに訊ねる

 

「四分の三強程だろうな。大半と言える。これ以上はサマエルを現世に繋ぎ止められないな」

 

そう漏らすゲオルクの後方でサマエルを出現させている魔法陣が輝きを徐々に失っていく

 

どうやらサマエルの召喚には時間制限があるようだ

 

ゲオルクの報告を聞いて曹操が頷く

 

「上出来だ。充分だよ」

 

再び指を打ち鳴らすと、オーフィスを包んでいた黒い塊は四散

 

繋がっていたサマエルの舌も口に戻り、役目を終えたサマエルが魔法陣の中に沈んでいく

 

苦悶に満ちた呻き声を発しながら、ヴァーリすらも軽々と(ほふ)った究極の龍殺し(ドラゴンスレイヤー)は魔法陣の中へと消え、その魔法陣も消滅していった

 

塊から解放されたオーフィスは以前と変わらぬ姿だが、オーフィスは曹操に視線を向ける

 

「我の力、奪われた。これが曹操の目的?」

 

―――“オーフィスの力が奪われた”―――

 

その事態に驚愕する一同、曹操は愉快そうに笑む

 

「ああ、そうだ。オーフィス。俺達はあなたを支配下に置き、その力を利用したかった。だが、あなたを俺達の思い通りにするのは至難だ。そこで俺達は考え方を変えた」

 

曹操は聖槍の切っ先を天に向ける

 

「あなたの力をいただき、新しい『ウロボロス』を創り出す」

 

血を吐きながらアザゼルが言う

 

「―――ッ!……そうか!サマエルを使ってオーフィスの力を削ぎ落とし、手に入れた分を使って生み出す―――。……新たなオーフィスか」

 

アザゼルの言葉に曹操は頷いた

 

「その通りですよ、総督。我々は自分達に都合の良いウロボロスを欲したわけだ。グレートレッドは正直、俺達にとってそこまで重要な存在でもなくてね。それを餌にご機嫌取りをするのにうんざりしたのがこの計画の発端です。そして、『無限の存在は倒し得るのか?』と言う英雄派の超常の存在に挑む理念も試す事が出来た」

 

「……見事だよ、無限の存在をこう言う形で消し去るとはな」

 

「いえ、総督。これは消し去るのとはまた違う。やはり、力を集める為の象徴は必要だ。オーフィスはその点では優れていた。あれだけの集団を作り上げる程に力を呼び込むプロパガンダになったわけだからね。―――だが、考え方の読めない異質な龍神は傀儡(かいらい)にするには不向きだ」

 

「……人間らしいな。実に人間らしいイヤらしい考え方だ」

 

「お褒めいただき光栄の至りです、堕天使の総督殿。―――人間ですよ、俺は」

 

曹操はアザゼルの言葉に笑みを見せ、ゲオルクが満身創痍の新達に視線を向ける

 

「曹操、今ならヴァーリと兵藤一誠、竜崎新をやれるけど?」

 

「そうだな。やれる内にやった方が良いんだが……。3人ともあり得ない方向に力を高めているからな。将来的にオーフィス以上に厄介なドラゴンとなるだろう。だが、最近勿体無いと思えてなぁ……。各勢力のトップから二天龍と闇皇を見守りたいと言う意見が出ているのも頷ける。―――今世に限って成長の仕方があまりに異質過ぎるから。それは彼らに関わる者も含めてなんだが……データとしては極めて(まれ)な存在だ。神器(セイクリッド・ギア)」に秘められた部分を全て発揮させるのは案外俺達ではなく、彼らかもしれない

 

そこまで言った曹操は後光輪と球体を消失させ、(きびす)を返してロビーを去ろうとする

 

「やっぱり止めだ。ゲオルク、サマエルが奪ったオーフィスの力は何処に転送される予定だ?」

 

「本部の研究施設に流すよう召喚する際に術式を組んでおいたよ、曹操」

 

「そうか、なら俺は一足早く帰還する」

 

戻ろうとする曹操

 

ヴァーリが全身から血を垂れ流しながら立ち上がる

 

「……曹操、何故俺を……俺達を殺さない……?禁手(バランス・ブレイカー)のお前ならばここにいる全員を全滅出来た筈だ……。女の異能を封じる七宝でアーシア・アルジェントの能力を止めれば、それでグレモリーチームはほぼ詰みだった」

 

一旦足を止める曹操が言う

 

「作戦を止めると共に殺さず御する縛りも入れてみた……では納得出来ないか?正直話すと聖槍の禁手(バランス・ブレイカー)はまだ調整が大きく必要なんだよ。だから、この状況を利用して長所と短所を調べようと思ってね」

 

「……舐めきってくれるな」

 

「ヴァーリ、それはお互い様だろう?キミもそんな事をするのが大好きじゃないか」

 

曹操が自身に親指を指し示す

 

「赤龍帝の兵藤一誠、闇皇の竜崎新。何年掛かっても良い。俺と戦える位置まで来てくれ。将来的に俺と神器(セイクリッド・ギア)の究極戦が出来るのはキミらとヴァーリを含めて数人もいないだろう。―――いつだって英雄が決戦に挑むのは魔王か伝説のドラゴンだ」

 

挑戦的な物言いに新も一誠も“必ず追い付いてやる!”と固く決意した

 

曹操がゲオルクに言う

 

「ゲオルク、死神(グリムリッパー)の一行さまをお呼びしてくれ。ハーデスは絞りかすのオーフィスの方をご所望だからな。……それと、ヴァーリチームの者がやってみせた入れ替え転移、あれをやってみてくれ。俺とジークフリートを入れ替えで転移出来るか?後はジークフリートに任せる」

 

「1度見ただけだから上手くいくか分からないが、試してみよう」

 

「流石はあの伝説の悪魔メフィスト・フェレスと契約したゲオルク・ファウスト博士の子孫だ」

 

「……先祖が偉大過ぎて、この名にプレッシャーを感じるけども。まあ、了解だ。曹操。……それとさっき入ってきた情報なんだが……」

 

ゲオルクが何やら険しい表情で曹操に紙切れを渡す

 

それを見た曹操の目が細くなっていく

 

「……なるほど、助けた恩はこうやって返すのが旧魔王のやり方か……。いや、分かってはいたさ。まあ、充分に協力してもらった」

 

あちら側に想定外の事が起きたように思えるようなやり取りの後、ゲオルクは魔法陣を展開させて何処かに消えていった

 

曹操が新達の方に振り返る

 

「ゲオルクはホテルの外に出た。俺とジークフリートの入れ替え転移の準備だ。まあ良い。1つゲームをしよう、ヴァーリチームとグレモリーチーム。もうすぐここにハーデスの命を受けてそのオーフィスを回収に死神の一行が到着する。そこに俺の所のジークフリートも参加させよう。キミ達が無事ここから脱出できるかどうかがゲームのキモだ。そのオーフィスがハーデスに奪われたらどうなるか分からない。―――さあ、オーフィスを死守しながらここを抜け出せるかどうか。是非挑戦してみてくれ。俺は二天龍に生き残って欲しいが、それを仲間や死神に強制する気は更々無い。襲い来る脅威を乗り越えてこそ、戦う相手に相応しいと思うよ、俺は」

 

それだけ言い残し、曹操はロビーから去っていった

 

『……ゲームだと……?ふざけやがって……ッ!』

 

何処までも舐めきった態度の曹操に新と一誠は怒りの感情が止まらなかった

 

 

―――――――――――――

 

 

「……駐車場に死神が出現していました。相当な数です」

 

様子を見に行っていた祐斗が待機場所のホテルの一室に戻り、そう報告する

 

「……ハーデスの野郎、本格的に動き出したってわけか!」

 

アザゼルも憎々しげに吐いていた

 

曹操との戦いの後、怪我人続出のグレモリー眷属、イリナ、アザゼル、ヴァーリ、黒歌、ルフェイ、オーフィス、ダイアン、『初代クイーン』マヤは疑似空間のホテル上階に陣取っていた

 

60階まであるホテルの真ん中―――30階まで移動し、その階層を丸ごとルフェイの強靭な結界で幾重にも覆って陣地とした

 

同じ階層の別室に怪我人を休ませ、アーシアの治療を待つ

 

傷を負った新、一誠、ゼノヴィア、アザゼルは既に完治している

 

黒歌は治療を終えたが、大事を取って別室で休んでいる

 

そこにはレイヴェルと小猫が一緒にいる

 

サマエルの呪いを受けたヴァーリは怪我が治っても呪いが解けず、別室で激痛に耐えていた

 

ルフェイの話によれば解呪(かいじゅ)の術はかけたが、サマエルの呪いはあまりにも強力な為―――並大抵の術では解けないらしい

 

最善の処置はしたので後は自然に呪いが解けるのを待つしかないのだが……その間、ヴァーリは呪いによる苦痛に(さいな)まれる

 

ヴァーリですらその状態、新や一誠が受けたら高確率で死んでいただろう……

 

アーシアは連続での治療で疲労が溜まり、隣の部屋で仮眠を取っている

 

今は少しでも寝て体力を温存した方が良い

 

まずはここから脱出する為の作戦を立てなければならない

 

アザゼルの話によればこの空間は絶霧(ディメンション・ロスト)を持つゲオルクが作り出した空間

 

絶霧(ディメンション・ロスト)禁手(バランス・ブレイカー)―――霧の中の理想郷(ディメンション・クリエイト)は霧を用いて固有の結界を創り出す事が出来る

 

以前、嵐山周辺と二条城を中心にした京の町を再現した空間もその禁手(バランス・ブレイカー)で創った結界疑似空間らしい

 

景色だけでなく建造物の内部を細かく再現もある程度は可能だ

 

休憩または看病しているメンバー以外の者が集結している部屋でルフェイが嘆息した

 

「本部から正式に通達が来たようです。砕いて説明しますと―――『ヴァーリチームはクーデターを(くわだ)て、オーフィスを騙して組織を自分のものにしようとした。オーフィスは英雄派が無事救助。残ったヴァーリチームは見つけ次第始末せよ』だそうです」

 

ルフェイの報告に全員が驚いた

 

「そう言う事になったのか。英雄派に狙われていた上に、オーフィスの願いを叶えようとしたヴァーリチームの末路がこれか。難儀だな」

 

アザゼルが息を吐く

 

今回の1件でヴァーリチームは『禍の団(カオス・ブリゲード)』から一方的に裏切り者されてしまったようだ

 

オーフィスも“サマエルで奪った力の方”が既に『本物』とされ、残ったオーフィスは用済みもしくは偽物と言う事にされてしまった

 

ルフェイはガックリと項垂(うなだ)れる

 

「私達はグレートレッドさんを始め、世界の謎とされるものを調べたり、伝説の強者を探し回ったり、時々オーフィスさまの願いを叶えたりしていただけなのですが……。英雄派の皆さんは力を持ちながら好き勝手に動く私達が目障りだったようです。特にジークフリートさまは私達の事が相当お嫌いだったそうです。何より、元英雄派でライバルだった兄のアーサーがこっちに来たのがお気に召さなかったようでして……」

 

「そんなイザコザもあったのか。大変だな」

 

「世界の謎ってナンだ?それに伝説の強者ってのも分かんないんたけど」

 

一誠がルフェイにそう訊ねる

 

「はい、次元の狭間を泳ぐグレートレッドさんの秘密に始まり、滅んだ文明―――ムー大陸やアトランティスの技術、それに異世界の事について調査していました。北欧神話勢力の世界樹(ユグドラシル)も見てきましたし。そして、伝説の強者とは逸話だけを残して、生死不明となっている魔物や英雄の探索です。時折、組織の仕事(テロ)もこなしてました」

 

「テロはついでかよ……」

 

「……(ほとん)ど冒険家みたいだな」

 

「はい、大冒険の毎日ですよ!その末に強者とも戦ってきましたから。ヴァーリさまはドラゴンと言う存在が何処から発生したのか、それを調べようともしているのです。あと二天龍が封じられる切っ掛けとなった大喧嘩の原因も調査してます。それと新しい神滅具(ロンギヌス)が発見できないか、それも調査の対象でした!」

 

爛々と楽しそうに語り出すルフェイ

 

『『……こいつらただの暇人じゃねぇか!』』と心中でシンクロする新と一誠だった……

 

ルフェイは最後に「ヴァーリさまの探求心は総督さまの影響だと思います」と付け加える

 

それを聞いてアザゼルは息を吐いて目元を細めた

 

まるでいたずら小僧の報告を受ける父親の顔の如く……

 

「それにしても総督さま、ここ最近は神滅具(ロンギヌス)祭りですね。―――グリゴリにいらっしゃる『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』の方はお元気なのですか?」

 

ルフェイに話を振られたアザゼルは顔を天井に向ける

 

「……『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』、刃狗(スラッシュドッグ)か。あいつには別任務に当たらせている。そちらもそちらで充分に厄介な事件だ。あいつ、ヴァーリの事が嫌いでなぁ」

 

「はい、お話はうかがっております」

 

ルフェイがクスクスと笑う

 

その可愛い笑顔に気持ちが少し和らぎ、一誠はアザゼルにふとした疑問を投げ掛ける

 

「そういや、先生。1番強い神滅具(ロンギヌス)を曹操が持っているなら、誰かが2番目に強い神滅具(ロンギヌス)を持っているんですよね?」

 

「ああ、『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』。それが2番目に強い神滅具(ロンギヌス)だ。上位神滅具(ロンギヌス)とは、『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』『絶霧(ディメンション・ロスト)』の4種の事を指す。『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』に関しても既に所有者も割れているし、主に天界が制御しているが……。イリナ、それで奴は―――『御使い(ブレイブ・セイント)』のジョーカーはどうしている?」

 

話を振られたイリナは首を捻りながら答える

 

「デュリオさまですか?各地を放浪しながら、美味しいもの巡りをしていると……」

 

その答えにアザゼルは絶句した

 

「な……っ。仮にもセラフ候補にも選出されるかもしれない転生天使きっての才児だろうがっ!切り札役(ジョーカー)だぞ⁉ミカエルは、セラフの連中はどうしているんだ⁉」

 

アザゼルの質問にイリナも困り果て「そ、それは私に言われても……」と呟いていた

 

一誠が「そのヒトもやっぱり強いんですか?」とアザゼルに訊くと、真っ先にルフェイが反応した

 

「ヴァーリさまの戦いたい方リスト上位に載ってる程の方です。教会最強のエクソシストだそうです」

 

「教会最強のエクソシスト……やっぱり相当な使い手か」

 

ここで元教会の聖剣使いであるゼノヴィアが反応する

 

「デュリオ・ジェズアルド、教会でも有名な存在だった。直接の面識は無かったが、人間でありながら凶悪な魔物や上級悪魔を専門に駆り出されていたよ。……剣護(けんご)さんにも負けず劣らずの腕前だったそうだ」

 

“剣護”と言う名前が出た途端、ゼノヴィアの表情が(かげ)

 

何故なら剣護―――神代剣護 (かみしろけんご)はゼノヴィアとイリナの嘗ての上司であり、今は教会を見限って闇人(やみびと)の勢力―――神風一派に身を置く男

 

灼熱の聖剣(エクスカリバー・イグニッション)』の持ち主でもあるが、その聖剣は今や邪悪な聖剣へと改造されてしまっている……

 

アザゼルが嘆息する

 

神滅具(ロンギヌス)所有者、か。神滅具(ロンギヌス)とは―――『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』、 『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』、 『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』、 『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』、 『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』、 『蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)』、 『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』、 『絶霧(ディメンション・ロスト)』、 『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』、 『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』、 『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』、 『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』、 『究極の羯磨(テロス・カルマ)』、この13種の事だ。イッセー、よーくメモしとけ 」

 

はいと返事しつつも、メモする物が無い事に気付く一誠……

 

今までに出会った神滅具(ロンギヌス)は……まだ半分程度でしかない

 

アザゼルが突然何か閃いたように立ち上がった

 

「あ!今俺は現世の神滅具(ロンギヌス)所有者の共通点を見つけたぞ。―――どいつもこいつも考えている事がまるで分からん!おっぱい脳に戦闘狂、妙な野望を持った自分勝手な奴らばかりだ!これは後でメモしてやるぞ、くそったれ!」

 

「……期待した俺がバカでした」

 

「さりげなくディスられてるな、一誠(おっぱい脳)(笑)」

 

「(笑)を付けるな!」

 

「それともう1つ、共通点を見つけた。―――神滅具(ロンギヌス)の使い方が従来通りじゃない。殆どの連中が歴代所有者とは違う面を探して力を高めてやがる。……現代っ子は俺達の範疇を超えているのか……?いや、しかし……」

 

再び独りで考え込むアザゼルだが、途中で何かに気付いて思考タイムを中断する

 

その理由は―――オーフィスがこの部屋に戻ってきたからだ

 

オーフィスは先程「この階層を見て回る」と言って出掛けていた

 

それが今ようやく戻ってきた

 

「―――で、具合はどうだ、オーフィス」

 

アザゼルがオーフィスに問う

 

「弱まった。今の我、全盛期の二天龍より二回り強い」

 

「それは……弱くなったな」

 

「おい待て、弱くなったなの基準値がおかしいだろ」

 

「封じられる前のドライグ達よりも二回りも強いんでしょ?それで弱くなったって……以前はどれだけ強かったんですか……」

 

アザゼルの「弱くなったな」発言に突っ込む新と一誠

 

特に二天龍の一誠の立場が無い(笑)

 

「そりゃ全勢力で最強の存在だからな」

 

「「ソウデシタネー」」

 

もはやまともに答えるのすらバカらしくなってしまった……

 

ここで一誠がオーフィスに訊ねる

 

「なあ、オーフィス。訊きたい事があるんだ。なんで、あの時アーシアやイリナを助けてくれたんだ?」

 

ロビーに着いて直ぐに曹操達がアーシアとイリナに放った火炎攻撃

 

それをオーフィスは壁になってアーシア達を守ったのだが、一誠はそれが不可解でならなかった

 

オーフィスは基本的にグレートレッドとドライグ以外のものに対して興味を示さない

 

攻撃をしてきた曹操も意に介さなかった程だ

 

オーフィスは一言だけ答える

 

「紅茶、くれた。トランプ、した」

 

「紅茶とトランプって、俺の家での事か?」

 

オーフィスは一誠の言葉に頷くだけだった

 

「そ、それだけで?」

 

再び問うも、やはりオーフィスはコクリと頷くだけ

 

『……こいつ、悪い奴じゃないんじゃないか……?』

 

一誠はそんな考えを頭に(よぎ)らせ、イリナもオーフィスに礼を言う

 

オーフィスからの状態を聞いてアザゼルが顎に手をやる

 

「……しかし、二天龍よりも二回り強いぐらいか。妙だな。曹操は絞りかすと今のオーフィスを蔑んでいたが、正直これだけの力が残っていれば充分とも言える」

 

オーフィスは無表情で挙手する

 

「曹操、たぶん、気付いてない。我、サマエルに力取られる間に我の力、蛇にして別空間に逃がした。それ、さっき回収した。だから今は二天龍よりも二回り強い」

 

オーフィスの言葉に全員が度肝を抜かれ、アザゼルが叫ぶ

 

「お前、この階層を見て回ってくるって出ていったのは別空間に逃がした自分の力を回収する為か⁉」

 

オーフィスは頷き、それを見たアザゼルがクククと含み笑いを始めた

 

「曹操め、あいつはサマエルでオーフィスの力の大半を奪ったと言っていたが、オーフィスは力を奪われている間に自分の力を別空間に逃がしていた。それをさっき回収して力をある程度回復させた。それが全盛期のドライグの二回りときたもんだ。オーフィスを舐め過ぎたな、英雄派」

 

アザゼルを尻目にオーフィスは指先に黒い蛇を出現させる

 

「力、こうやって蛇に変えた。これ、別空間に送った。それ、回収した。でも、ここからは出られない。ここ、我捕らえる何かがある」

 

力は回復させたものの、オーフィス捕らえる絡繰りがあるらしい

 

アザゼルは途端に笑いを止めて息を吐く

 

「ま、死神がここに来たって事は、ある程度オーフィスの抵抗を想定しての事だろう。それに今のオーフィスは無限じゃない。有限だ。あちらはサマエル以外でオーフィス封じの策があるだろうさ。俺達が依然として慎重になるのは当然だな」

 

ここでアザゼルがルフェイに訊く

 

「ルフェイ、お前さんは黒歌と同様、空間に関する魔法に(ひい)でていたな?どうにかして外に助けを呼ぶ術は無いものか?もしくは少人数だけでもここから抜け出させる事の出来る方法とかよ」

 

「ある事はあります。―――ですが、黒歌さんが倒れた今、私だけでは限界があります。私と共にこの空間を抜け出る魔法がありますが……共にこの場から離れられるのはお二人が限界だと思われます。1度、ヴァーリさまとフェンリルちゃんの入れ替え転移をしたのであれからここの結界は強固になっているでしょうから。入れ替え転移をもう一度(おこな)うのも恐らく無理でしょう。ゲオルクさまはこちらの術式をある程度把握したと思われますので。とっておきの転移魔法をしたとしてもチャンスはあと1度だけです」

 

脱出できてもルフェイを入れて3人の上、チャンスは1度きりのみ

 

厳しい条件だった……

 

「死神と戦いながらオーフィスを逃がすんですか?」

 

一誠の問いにアザゼルは首を横に振る

 

「それは無理だ。さっきのオーフィスの話ではこの空間はオーフィスを捕らえる特別な結界のようだ。どうやって生み出したか是非ともご教授願いたいところだが、オーフィスだけは脱出できないだろうな。結界をどうにかして破壊して共に脱出するしかない。それと死神は想像以上に危険だ。実力的にはお前達の方が上だろうが、あの鎌に斬られるとマズい。死神の鎌はダメージと共に生命力を刈り取る。生命力を回復中のイッセーが攻撃を受け続ければ、寿命が尽きて死ぬ事になる。オーフィスだって今は有限だ。鎌に斬られ続ければ弱ってしまうだろう。オーフィスは死守しなければならない。こいつの力をこれ以上他に流出させたら、問題はもっと肥大化する。特に相手があのハーデスならな。……かと言って外に助けを呼びに行くメンバーは出した方が良い」

 

アザゼルの視線がイリナを捉えた

 

「―――イリナ、お前だけは先に行け。行ってサーゼクスと天界に英雄派の真意とハーデスのクーデターを伝えろ」

 

「で、でも!先に出るのはレイヴェルさんの方が良いと思います!」

 

「レイヴェルは脱出できたとしても自分を優先しなくても良いとさっき言っていた。―――俺達の方が基本的に不利だ。あいつらは確実にオーフィスとヴァーリ、そしてイッセーを葬りに来る。奴らにとって龍神と二天龍は消しておきたいものなんだよ。こっちのオーフィスをハーデスに悪用されたら、この世界に何が起こるか分からん!」

 

アザゼルの言葉にイリナは何か言いたげな様子だったが、言葉を飲み込んで頷いた

 

恐らく最後まで一緒に戦いたかったのだろう

 

次にアザゼルはゼノヴィアに視線を向ける

 

「護衛としてゼノヴィアを連れていけ。エクス・デュランダルの機能をやられてしまったが、デュランダル自体はまだ何とか使えるだろう。結界の外で英雄派の構成員か、死神が待機している可能性があるからな」

 

「……護衛か」

 

目を細めるゼノヴィア

 

アザゼルが言うようにエクス・デュランダルは破壊されている

 

鞘となっていたエクスカリバーの部分は元となっていた6つの聖剣の芯を残して砕け散り、デュランダルの刀身にも細かな傷が入っていた

 

この状況下でゼノヴィアは本来の力を発揮出来ない

 

それは理解しているのだが……それでも悔しそうな表情を浮かべていた

 

「護衛も立派な任務だ。―――それに、そろそろ天界であれの研究が1つの結論を出す頃だ。それも打診してこい。ついでにデュランダルの修理もな。その事もあるからお前を先に脱出させる。ここの戦いだけで終わりそうにないからな、さっさと直してこい」

 

アザゼルにそう言われ、ゼノヴィアは静かに頷いた

 

こうしてルフェイと共にゼノヴィアとイリナが疑似空間から一足早く脱出し、外部に危機的状況を知らせる事となった

 

ルフェイが転移魔法陣の術式を構築する為、別室に移動

 

共にゼノヴィアとイリナの基本情報を術式に組み込む為、一緒に別室へ移動する

 

部屋を出る直前、ルフェイがイリナに鞘に収まった1本の剣を手渡す

 

「こ、これは!」

 

驚くイリナにルフェイは微笑(ほほえ)

 

それはアーサー・ペンドラゴンが手にしていたエクスカリバー―――『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』と呼ばれるものだった

 

「これを持っていってください。兄から預かっていたものです。お渡しするタイミングが掴めずにいたのですが、良い機会だと思いまして。私達にとって、それは既に用が済んだものなのです」

 

「良いのか?」

 

「フェンリルちゃんは手に入れました。制御する為にフェンリルちゃんの力はだいぶ下がってしまいましたが、それでもあれ以上の魔物はいません。―――デュランダルの修理にエクスカリバーを全て使われてもよろしいのではないでしょうか?」

 

イリナは深く頭を下げた

 

「……あ、ありがとうございます!ルフェイさん!英雄の血を引く方って、怖い人ばかりだと思ってましたけど、良い人もいるんですね!」

 

「ふふふ、恐縮です。兄と共に変人とは言われますけど」

 

ルフェイはそう苦笑し、イリナ、ゼノヴィアと共に脱出魔法陣の術式を組む為、別室に移動した

 

エクスカリバー7本を使用したデュランダルの復活が待ち遠しくなりそうだ

 

アザゼルが膝を叩く

 

「さて、リアス。脱出作戦を構築するぞ。オーフィスを連れて全員生き残るのが目的だ」

 

「ええ、当然よね」

 

策士2人が不敵に笑み、作戦タイムが始まった

 

全員が生存して疑似空間を抜け出す為に―――

 

 

―――――――――――――――

 

 

「英雄派と死神の一行が動き出したようだぞ。俺達も行くのか、神風?」

 

「キヒヒヒッ♪ま~だ出るのは早いよ。今はグレモリー眷属と英雄派、死神どもが潰し合うのを見物する程度にしておこうよ。ボクら―――『初代キング』の本命は『初代クイーン』だもん♪ボクらは後で美味しいトコだけ(すす)り取ってやるのさ」

 

「相変わらず卑怯な奴だな」

 

(かしこ)い奴だけが勝ち組になれるんだよ。バカ正直に真っ向から戦っても疲れるだけ♪横取り、背後からメッタ刺しにしてやれば良いのさ。キヒヒヒッ♪」


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