ホテル内のレストランを飛び出していく新達
建物内の
京都で2度も体験した“あの霧”と全く同一の現象……
新の隣に位置したゼノヴィアが叫ぶ
「新、これはまさか!」
「ああ、ゼノヴィア。こいつは間違い無くあの霧―――『
思い当たる霧使いの人物を脳裏に
刹那、そこから球状の火炎が飛び込んでくる
狙いはアーシアとイリナ
しかし、その火炎は2人に衝突したなかった
何故なら―――オーフィスとマヤが2人の壁になって火炎を難なく打ち消したからだ
「あ、ありがとうこざいます」
「いえいえ、どういたしまして♪」
アーシアの礼に笑顔で返すマヤ、対してオーフィスは無反応
ソファーに視線を戻す
見覚えのある学生服にローブを羽織った青年と―――同じく学生服の上から漢服を着た黒髪の青年が新達を見据えていた
漢服の青年は座ったまま槍で肩を軽く叩くと新達に向けて言う
「やあ、久しいな、
「やっぱりテメェらか」
「……
新は曹操を睨み付け、一誠がその男の名を叫ぶ
『
京都で襲撃してきた主犯格、新と一誠が負わせた目の傷は綺麗さっぱり無くなっていた
失明してもおかしくない傷の完治に新は警戒心を強め、曹操は拍手する
「この間のバアル戦、良い試合だったじゃないか。
「テロリストの幹部に褒めてもらえるなんて、光栄なのかしら?複雑なところね。ごきげんよう、曹操」
リアスは最大に警戒しながらも皮肉げな笑みを見せる
「ああ、ごきげんよう。京都での出会いは少ししかなかったから、これが本当の初めましてかな。あの時は突然の召喚で驚いたが。いやー、なかなかに刺激的だった」
「言わないで!……思い出しただけでも恥ずかしいのだから!」
曹操の言葉にリアスは手を前に出して「やめて!」と最大限に強調
とんでもない召喚法で京都に呼び出されたのだから無理も無い
その発生源は新と一誠……2人は互いに顔を見合わせて苦笑していた
「それで、またこんなフィールドを別空間に作ってまで俺達を転移させた理由は何だ?どうせろくでもない事なんだろう?」
アザゼルがそう訊くと曹操は視線を新達の後方に向けた
視線の先にいたのはオーフィス
「やあ、オーフィス。ヴァーリと何処かに出掛けたと思ったら、こっちにいるとは。少々虚を突かれたよ」
オーフィスの前に黒歌が立つ
「にゃはは、こっちも驚いたにゃ。てっきりヴァーリの方に向かったと思ったんだけどねー」
「あっちには別動隊を送った。今頃それらとやり合っているんじゃないかな」
両者の意味深な会話内容を怪訝に思っていると、ルフェイが笑顔で挙手
コホンと咳払いすると、嬉々として説明を始め、それと同時に彼女の陰からフェンリルが現れて曹操達を鋭く睨み出した
「えーとですね。事の発端は2つありました。1つはオーフィスさまが赤龍帝『おっぱいドラゴン』さんに大変ご興味をお持ちだった事。それを知ったヴァーリさまが独自のルートで『おっぱいドラゴン』さんとの出会いの場を提供されました」
1つめの発端とやらを話したルフェイは1本だけ出していた指を2本にする
「2つめ、オーフィスさまを陰で付け狙う方がいると言う情報をヴァーリさまが得たので、確証を得る為、いぶり出す事にしたのです。運が良ければオーフィスさまを囮役にして私達のチームの障害となる方々とも直接対決が出来る―――と。……えーとつまりですね」
遠慮がちにルフェイが曹操達に指を突きつけた
「そちらの方々がオーフィスさまと私達を狙っているので、ヴァーリさまがオーフィスさまをアジトからお連れして動けばそちらも動くでしょうから、狙ってきたところを一気にお片付けしようとしたのです。ただ、オーフィスさまを危険に晒す事も無いので、
ルフェイの言葉を聞いて一誠は曹操、オーフィス、アザゼルへと視線を配り、新は驚きながらも事態の真相を察知した
“オーフィスを狙っている脅威とは―――曹操達の事だった”
驚愕しているグレモリー眷属達を尻目に、曹操は頷きながら槍で肩を叩く
「ま、ヴァーリの事だから、オーフィスをただ連れ回すわけもないと踏んでいた。どうせ俺達と相対する為にオーフィスを囮にするんだろう―――と。だが、ヴァーリの事だ。オーフィスを無闇に囮にする筈も無いと思った。オーフィスが今世野赤龍帝と白龍皇の変異に興味を抱いているのも知っていたものだから、もしやと思って二手に分かれて奇襲をかける事にした。一方はヴァーリを追う。そして俺とゲオルクは赤龍帝側に探りを入れる。―――案の定、こちらにオーフィスがいたと来た。それで、この様な形でご対面を果たす事にしたんだよ」
つまり、ヴァーリが本物のオーフィスを危険に晒す事無く偽のオーフィスを囮にして曹操を
オーフィスが静かに口を開く
「曹操、我を狙う?」
「ああ、オーフィス。俺達にはオーフィスが必要だが、今のあなたは必要ではないと判断した」
「分からない。けど、我、曹操には負けない」
「そうだろうな。あなたはあまりに強すぎる。正直、正面からやったらどうなるか。―――でも、ちょっとやってみるか」
曹操は立ち上がると
それと同時に曹操の姿が消え、次に現れた時は曹操の槍がオーフィスの腹部を深々と貫いていた
予備動作無しに致命傷の一撃……曹操は槍を持つ手に力を込めて叫ぶ
「―――輝け、神を滅ぼす槍よっ!」
突き刺したと同時に膨大な閃光が槍から溢れ出していく
「これはマズいにゃ。ルフェイ」
黒歌がそう言うと、ルフェイと共に何かをボソボソと
「光を大きく軽減する闇の霧です。かなりの濃さなので霧をあまり吸い込まないでくださいね!体に毒ですから!でもこれぐらいしないと聖槍の光は軽減出来ません!」
「しかも私とルフェイの二重にゃ」
ルフェイと黒歌がそう説明した瞬間、聖槍から発生する膨大な光の奔流がホテル内に広がっていく
暗い霧の中でも聖槍が放つ光は凄まじく、霧が無ければ攻撃の余波で致命傷とも言えるダメージを受けていただろう
聖槍の光が止んで闇の霧も消え去り、腹部に槍を刺されたままのオーフィスの姿がハッキリと浮かぶ
しかし、オーフィスの腹部から鮮血が溢れるどころか……顔が苦痛に歪む事すら無かった
曹操はゆっくりと槍を引き抜き、オーフィスの腹部は血すら噴き出さずに穴が空いているだけだった
その穴も何事も無かったかの如く塞がり、曹操が呆れ顔で言う
「悪魔なら瞬殺の攻撃。それ以外の相手でも余裕で消し飛ぶ程の力の込めようだったんだが……。この槍が弱点となる神仏なら力の半分を奪う程だった。見たか、赤龍帝、闇皇?これがオーフィスだ。最強の
オーフィスその物が無限ゆえに、聖槍でどんなに攻撃しても無意味に終わる
これが無限を
曹操が更に話を続ける
「攻撃をした俺に反撃もしてこない。理由は簡単だ。―――いつでも俺を殺せるから。だから、こんな事をしてもやろうともしない。グレートレッド以外、興味が無いんだよ。基本的にな。グレートレッドを抜かした全勢力の中で五指に入るであろう強者―――1番がオーフィスであり、2番目との間には別次元とも言える程の差が生じている。無限の体現者とはこう言う事だ」
ここで1つの疑問が生じる
“なら、こいつらはその無限をどうするつもりなんだ?”
倒すにしても無理がある上に、今の口ぶりから曹操自身も勝てないと公言しているようなものだった
疑問が尽きない新達の視界にまばゆい光が映り込む
黒歌とルフェイの足下に転移型魔法陣が発生しており、黒歌が笑みながら言った
「にゃはは、余興をしてくれている間に繋がったにゃ。―――いくよ、ルフェイ。そろそろあいつを呼んでやらにゃーダメっしょ♪」
魔法陣の中心にフェンリルが位置すると、魔法陣の輝きは一層強くなり弾けていく
光が止んだ時、そこにフェンリルの姿は無く、代わりに1人の男が出現していた
ダークカラーが強い銀髪に
「ご苦労だった、黒歌、ルフェイ。―――面と向かって会うのは久しいな、曹操」
ヴァーリと対峙する曹操は彼の登場に苦笑する
「ヴァーリ、これまた驚きの召喚だ」
ルフェイが魔法の杖で宙に円を描きながら言う
「フェンリルちゃんとの入れ替わりによる転移法でヴァーリさまをここに呼び寄せました」
「フェンリルには俺の代わりにあちらにいる美猴達と共に英雄派の別動隊と戦ってもらう事にした。曹操がこちらに赴く事は予想出来たからな。保険は付けておいた。―――さて、お前との決着をつけようか。しかし、ゲオルクと2人だけとは剛胆な英雄だな」
ヴァーリの物言いに対し、曹操が不敵に笑む
「剛胆と言うよりも俺とゲオルクだけで充分と踏んだだけだよ、ヴァーリ」
「強気なものだな、曹操。例の『
ヴァーリの言葉に曹操は首を横に振る
「違う。違うんだよ、ヴァーリ。『
それを聞いたローブの青年―――ゲオルクが言葉を発する
「曹操、良いのか?」
「ああ、頃合いだ、ゲオルク。ヴァーリもいる、オーフィスもいる、赤龍帝もいる、闇皇もいる。無限の
「了解だ。―――無限を食う時が来たか」
口の端を吊り上げたゲオルクが後方―――広いロビー全体に巨大な魔法陣を出現させた
それと同時にホテル全体を激しい揺れが襲い、ドス黒く
ゾッとする程の寒気、魔法陣から
『……これは、この気配は。ドラゴンにだけ向けられた圧倒的なまでの悪意……っ!』
一誠の籠手に宿るドライグも何かを感じたのか、声が震えていた
新も背中から嫌な汗が噴き出し、震えを必死に抑えようとする
禍々しい魔法陣から巨大な何かが徐々に姿を現していく
十字架に
目元にも拘束具があり、隙間から血涙が流れている
下半身は蛇や東洋のドラゴンに似た長細い姿、上半身は堕天使
両手や黒い羽、尻尾など、全身のあらゆる箇所に太い釘が打ち込まれていた
その姿はまるで罪を犯した罪人の様だった……
『オオオオオォォォォォオオオオオオオオォォォォォォォオ……』
磔の罪人の口から不気味な声が発せられ、ロビー一帯に響き渡る
血と共に唾液が吐き出され、苦しみ、妬み痛み、恨み、ありとあらゆる負の感情が入り交じったかの様な低く苦悶に満ちた声
アザゼルが目元を引くつかせ、憤怒の形相と化す
「……こ、こいつは……。なんてものを……。コキュートスの封印を解いたのか……ッ!」
曹操が1歩前に出て詩を詠む様に口ずさむ
「―――
拘束具を付けられた堕天使ドラゴン―――サマエルの名を聞いて、新と一誠以外の誰もが驚愕していた
「……先生、何ですか、あれ……。俺でもヤバいって見ただけでも分かるんですけど」
「アダムとイブの話を知っているか?」
「え、ええ、それぐらいは」
「蛇に化け、アダムとイブに知恵の実を食わせる様に仕向けたのがあれだ。それが『聖書に記されし神』の怒りに触れてな。神は極度の蛇―――ドラゴン嫌いになった。教会の書物の数々でドラゴンが悪として描かれた由縁だよ。奴はドラゴンを憎悪した神の悪意、毒、呪いと言うものをその身に全て受けた存在だ。神聖である筈の神の悪意は本来あり得ない。ゆえにそれだけの猛毒。ドラゴン以外にも影響が出る上、ドラゴンを絶滅しかねない理由から、コキュートスの深奥に封じられていた筈だ。あいつにかけられた神の呪いは究極の
もはや説明だけで相当危険な代物だと言う事が理解出来る……
究極の
「冥界の下層―――冥府を司るオリュンポスの神ハーデスは何を考えてやがる……?―――ッ!ま、まさか……っ!」
アザゼルの得心に曹操が笑んだ
「そう、ハーデス殿と交渉してね。何重もの制限を設けた上で彼の召喚を許可してもらったのさ」
「……野郎!ゼウスが各勢力との協力態勢に入ったのがそんなに気にくわなかったのかよッ!」
アザゼルが憎々しげに吐き捨てた
話から察するに、どうやらハーデスが英雄派に手を貸したようだ
冥府神ハーデスは確かに悪魔や堕天使を嫌っていたが、これは明らかに他勢力との間に混乱を招く所業である
曹操は聖槍を回して矛先を新達に向けた
「と言うわけで、アザゼル殿、ヴァーリ、赤龍帝、闇皇、彼の持つ呪いはドラゴンを食らい殺す。彼はドラゴンだけは確実に殺せるからだ。
「それを使ってどうするつもりだ⁉ドラゴンを絶滅させる気か⁉……いや、お前ら……オーフィスを……?」
アザゼルの問いに曹操は口の端を愉快そうに吊り上げた
そして指を鳴らし「―――喰らえ」と一言だけ告げる
その刹那、新達の横を何かが高速で通り過ぎていき―――バグンッ!と何かを飲み込む奇怪な音が発せられた
振り返ると―――オーフィスがいた場所に黒い塊が生まれていた
黒い塊には触手のような物が伸びており、それはサマエルの口元に繋がっていた
―――サマエルがオーフィスを飲み込んだ―――
あまりにも突然の事に当惑するが、英雄派のやる事はまともじゃないのは理解した
「おい、オーフィス!返事しろ!」
一誠が黒い塊に話し掛けるが返事は無し
「祐斗!斬って!」
リアスの指示で祐斗が手元に
しかし、黒い塊は聖魔剣を飲み込み、刃先を消失させる
「……聖魔剣を消した?この黒い塊は攻撃をそのまま消し去るのか?」
祐斗はもう1本創り、今度はサマエルに繋がる触手―――舌を斬ろうとするが……先程と同じ結果になるだけだった
『
ヴァーリが背中から光翼―――『
あらゆる物を半分にする半減能力だが、黒い塊とサマエルには全く効果が無かった
次にヴァーリは手元から魔力の波動を撃ち込むが―――それも黒い塊に飲み込まれてしまう
「なら、消滅魔力で!」
リアスが消滅魔力を放つが、それすらも意に介さなかった
ゴクンゴクンと不気味な音が鳴り、触手が盛り上がってサマエルの口元に運ばれていく
まるで黒い塊の中にいるオーフィスから何かを吸い取っている様だった
「それなら、
一誠は素早く
オーフィスを包み込む黒い塊に殴りかかろうとした時、アザゼルが強く止めてくる
「イッセー!絶対に相手をするな!お前にとって究極の天敵だ!ヴァーリや新どころじゃないぞ!あれはお前らドラゴンを簡単に
「……あのサマエルってヤツには文字通り手も足も出せないって事かよ……クソッ!」
「そんな事言ったって、オーフィスが奴らに捕らえられたら大変な事になるんでしょう⁉」
毒づく新と叫ぶ一誠の横でゼノヴィアが素早く飛び出し、デュランダルをサマエルの方に振り放った
絶大な聖剣の波動がサマエルに向かっていくが、それを曹操の聖槍が横薙ぎに振り払う
「またキミは開幕から良い攻撃をしてくれるな、デュランダルのゼノヴィア。だが、2度はいかないさ」
「絶妙なタイミングで放ったつもりだが……私の開幕デュランダルは分かりやすいのか?」
「京都でもやったから警戒されたんだろ。つーか、ゼノヴィア。お前は不意討ち大好き娘か?」
新が思わずツッコミを入れていると、ヴァーリが白い閃光を放って鎧姿となる
「相手はサマエルか。その上、上位
ヴァーリの一言に黒歌とルフェイも戦闘の構えを取り、新も闇皇へと変異
他のメンバーも戦闘態勢に入り、アザゼルもファーブニルの黄金の鎧を身に纏った
黒い塊と舌に攻撃が通じないなら、サマエル本体に直接攻撃するしかない
とにかく、曹操達にオーフィスを奪われるのは絶対に阻止しなければならない
「レイヴェル、お前は1番後方に下がってろ。大事なマネージャーを死なせるわけにはいかない」
新の頼みにレイヴェルはコクリと頷き、後方に下がった
フェニックス婦人にレイヴェルを任せられた以上、何があろうとも彼女に危害を及ばすわけにはいかない
無論、自分達が死ぬつもりも、誰も死なせるつもりも無い
新達の戦闘態勢を見て、曹操が狂喜に
「このメンツだとさすがに俺も力を出さないと危ないな。何せハーデスからは1度しかサマエルの使用を許可してもらえてないんだ。ここで決めないと俺達の計画は頓挫する。ゲオルク!サマエルの制御を頼む。俺はこいつらの相手をしよう」
「1人で二天龍と闇皇、堕天使総督、グレモリー眷属を相手に出来るか?」
「やってみるよ。これぐらい出来なければ、この槍を持つ資格なんて無いにも等しい」
その直後、曹操の槍がまばゆい閃光を放った―――
「―――