試験日当日、新達は兵藤家の地下にある転移用の魔方陣に集結していた
駒王学園の制服に身を包み、試験に必要な物を入れた鞄も持っている
試験会場となる昇格試験センターに行くのは新、一誠、祐斗、朱乃、レイヴェルの5人
リアスやアザゼル、他の皆も冥界に付いてくるのだが、会場近くのホテルで待機する予定らしい
転移は手順はまず新達受験者が会場まで行き、その後でリアス達がホテルにジャンプ
グレモリー領にジャンプしてから、車か他の移動手段で向かうのかと思いきや、そうもいかないようだ
理由は新達の人気の高さもあるが、それ以上に新とリアスの関係が向こうではなかなかの注目度らしく、人目に付く場所に出るのは避けた方が良いとの事
サイラオーグとのレーティングゲーム中、大衆の面前で告白してしまったのだから無理も無い
マスコミが『身分を超えた真剣恋愛!』と一斉報道し、冥界の住民から注目されていた
それゆえに少しでも外に出るとマスコミに囲まれてしまう
リアスはグレモリーの姫君且つ魔王の妹
相手の新は
「純血であり、姫でもあって、魔王の妹であるリアスと、それの眷属下僕悪魔であり、
アザゼルはそう言っていたが、冥界ではどちらかと言うと応援ムードらしい
「お兄さまのもとにもマスコミが取材を申し込んできていて大変な事になっているそうですわ」
レイヴェルもそう言っていた
彼女の兄、ライザーはリアスの元婚約者
当時、破談の1件は上流階級の間で有名になっただけでマスコミもそこまで注目していなかった
しかし、今は違う
人気者になってしまった新達のもとに冥界のメディアは挙って集まってくるだろう
そう言う事も考慮して試験会場に直接転移と言う形になった
既にメディアは新達が試験を受けると言う情報を掴んで会場周辺に集まっているらしい
―――と、ここで一誠がキョロキョロと辺りを見渡し、ギャスパーだけがいない事に気付く
「ギャスパーは見送りに来ていないのか」
「あいつなら一足早くここで転移して、冥界―――グリゴリの
「―――っ。あいつ1人で、ですか?」
思ってもみなかった答えに驚く一誠
アザゼルは頷き、経緯を話す
「バアル戦が終わって直ぐにな。あいつ、泣きながら俺の所に来たんだよ」
『先輩達の様に強くなりたいんです!もう、守られるだけじゃ嫌です……!僕はグレモリー眷属の男子だから、情けない姿だけはもう嫌なんです……!』
ギャスパーはそう言ってアザゼルに懇願してきたらしい
「引きこもりの上に臆病だったあいつが、それだけの決心をして1人でグリゴリの門を叩いたんだ。生半可な決断じゃないだろう。今頃、研究員指導のもと、自分の
知らない間に基礎トレーニングだけじゃなく、自分の能力にも向き合う決意を固めていた
堕天使の研究施設にまで行く程に切羽詰まっていたのだろう
ギャスパーの事はひとまずグリゴリに任せるとして、新の視線がオーフィス、『初代クイーン』、黒歌達に向く
「アザゼル、こいつらはどうするんだ?」
「俺達と共にホテル行きだ。さすがに会場まではマズいだろう。それにな。お前らの試験が終わったら、1度サーゼクスのもとにオーフィスと『初代クイーン』を連れていくつもりだ。良い機会だからな。オーフィスと『初代クイーン』もお前らが行くなら付いていくと言っている。だから、お前達も試験が終わったら、その足でサーゼクスの所に行くぞ」
アザゼルは既に先の事まで計画しているようだ
「オーフィスと『初代クイーン』をサーゼクス様に会わせる。―――それには大きな意味があるんだな?」
「ああ、少しでも良い方向に向かわせたいからな。無理だと思われていた話し合いが可能かもしれない。大きな1歩だ。『初代クイーン』はこの提案に友好的だが、オーフィスは何を考えているか分からない。だからこそ、戦いを避けられるかもしれない。上手くいけば敵の組織自体を瓦解させ、分散出来るだろう。そうすれば各個撃破も可能となる。―――オーフィスの『蛇』を失えば、奴らの打倒も予想以上に早まるだろうさ。この案件を申し出てきたヴァーリに感謝したいところだ」
「あいつもあいつで何を考えているんでしょうか。わざわざオーフィスをこちらにけしかけてくるなんて」
一誠の言葉にアザゼルは目を細めて呟く
「……オーフィスを隠そうとしたのかもな。―――脅威から」
気になる台詞を吐いたアザゼル
確かにテロリストの親玉ゆえに狙われるのは当然だが、オーフィスは最強の存在だから下手に手は出せない
しかし、ヴァーリは“その脅威”からオーフィスを隠そうとした
見当も付かないが、それはまた試験の後で考える事に
先に新、一誠、祐斗、朱乃、レイヴェルで試験会場へ転移しようとした時だった
「待って」
リアスが新達を引き留める
新のもとに来ると―――頬にキスをした
「おまじないよ。新、必ず合格出来るって信じているわ」
「……最高のおまじないを貰っちまったな。合格したら、デートしようか」
「うん、デートしましょう。―――約束よ。私、待ってるから」
リアスは満面の笑みを見せてデートの誘いに答えた
「……ったく、人前でイチャイチャしやがって……若いって良いね!」
アザゼルは面白くなさそうに嘆息し、新達は一時の別れを告げて転移の光に包まれていった
――――――――――――――――
光が止むとそこは何処かの広いフロアだった
「ようこそ、お出でくださいました。リアス・グレモリー様のご眷属の方々ですね?話は
正装をしたスタッフが新達に確認を求めてきた
新達は推薦状と紋様の入った印を見せる
推薦状と印を確認したスタッフに「こちらにどうぞ」と案内され、石造りの廊下を進む
「ここはグラシャラボラス領にある中級悪魔の昇格試験センターなんだよ」
「戦術家でもあるファルビウム・アスモデウスに
祐斗と朱乃が歩きながらコッソリと教えてくる
「どちらかと言うと術式に精通したアジュカ・ベルゼブブさまのアスタロト家の領地に試験センターがあるイメージだな」
「アスタロトの領地にも試験センターはあるよ。冥界の各地に昇格試験センターはあるけど、冥界でその筋1番の権威と言えば本来アスタロトで
「ふーん、そうなのか。じゃあ、なぜ今回はグラシャラボラス領に?」
「ただ、先日の1件でアスタロト家の権威は失墜してしまったからさ……」
小声でそう漏らす祐斗
やはりディオドラ・アスタロトの1件が尾を引いているようだ……
奴のせいでアスタロト家は危機的状況になった
術式プログラムの第一人者たるアジュカ・ベルゼブブの影響もあって、最悪の事態だけは避けられたが……他の冥界住民や貴族からの目が厳しくなり、アスタロト家の現当主は解任、次期魔王の輩出権利も失ってしまった
更にはアスタロト家と懇意にしている名門ヴァサーゴ家も非難や侮蔑が飛び火してしまい、両家の評判はすこぶる悪くなってしまった……
スタッフに連れて行かれて辿り着いたのは受付らしき場所
窓口がいくつか開かれており、受験者達が受付のスタッフと話していた
「そこの受付で必要事項に記入の上、受験票を受け取ってください。それが終わりましたら、そのまま上階の受験会場に向かってくださって結構です。試験は第一部が筆記、第二部が実技です。お持ちのレポートも筆記試験の前に担当の試験官に提出してください。では、私はこれで。良い結果を」
それだけ言って去っていくスタッフ
レイヴェルは「記入する書類を持ってきますわ」と言うや否や、パタパタと走っていった
「……あんま受験者いないようだな」
「そりゃね。昇格試験に臨める悪魔なんて、今の冥界では少ない方だよ。上級悪魔の試験センターなんてもっと空いているんじゃないかな」
祐斗はそう答える
現在は戦も無いから、悪魔稼業やレーティングゲームで活躍しない限り昇格出来るものではない
特に前者が難しく、後者が主流だ
「イッセーくん、新くん、試験の開始前に1つ」
祐斗が新と一誠の前に立ち、真剣な表情を浮かべる
「どうした?改まって」
「キミ達と出会えて良かった」
「……キモい事を平然と言うようになったな、お前」
一誠が嫌そうな顔で言い、祐斗も半笑いする
「ハハハ、でも、キミ達がいなければ僕は昇格なんて出来なかったと思うよ」
「そうか?お前、充分強いじゃないか。昇格なんて遅かれ早かれだっただろう」
「いや、僕はキミ達の生き様―――戦いを見たからこそ、今ここに立っている。僕に無いものをキミ達は見せてくれた。それを知らなかったら、僕はここにいないよ」
一誠は頬を掻きながら息を吐く
「よく分かんねぇや。イケメンの考える事なんざ、俺には理解不能だ。―――ただ、一緒に合格しようぜ?俺達、グレモリー眷属の男子だもんな。だろ?ダチ公」
「勿論。どうせならこのまま最上級悪魔まで目指そう。僕も目標が出来たんだ。―――最強の『
祐斗が2人に握手を求め、それに応じて新と一誠は笑った
「ああ、分かりやすくて良いぜ」
「何千年の付き合いになるか分からないけど、冥界に轟く男になろうぜ」
3人の重なった手に朱乃も手を重ねてきた
「うふふ、熱い友情ですわね。―――皆で必ず合格しましょう」
「皆さん、書類を取ってきましたわ!あちらのスペースで記入しましょう!」
レイヴェルに先導され、新達は受付用の書類に必要事項を記入していった
――――――――――――――――
「頑張ってきてください!ここでお待ちしておりますわ」
2階に続く階段でレイヴェルと一時の別れを告げ、新達は上階へ上がっていく
悪魔文字で『中級悪魔昇格試験・筆記試験会場』と書かれた立て札が見え、教室内に入る
皆それぞれ受験票が書かれた番号の席に座っていく
新が「009」、朱乃が「010」、祐斗が「011」、そして一誠が「012」
4人が並んで席に着くと―――周囲の受験者からヒソヒソと声が聞こえてくる
「……あれって、グレモリー眷属の?
「あのサイラオーグ・バアルを倒した『おっぱいドラゴン』と『ダークカイザー』か!」
「魔王さまからの昇格推薦の噂は本当だったんだな……」
「だから外にカメラを持った奴が何人もいたのか……」
嬉し恥ずかしの内容だが、中にはこんな会話も飛んでくる
「知ってるか?あのダークカイザーなんだが……実は滅びた竜の一族の末裔らしい」
「おお、噂で聞いたぞ!その昔、四大魔王によって封印された一族だとか!」
「
「だが、そんな危険な一族の末裔だと冥界政府が放っておかないのでは……?」
やはりサイラオーグ戦で新の正体は露見しているようだ
不安を感じさせる話もチラホラ聞こえてくるが、今となっては仕方無い
そうこうしてる内に受験者が集まり、試験会場は昇格試験に臨む悪魔で席が埋まっていく
元人間の悪魔に加え、
数は新達を含めて40人前後
その後に試験官が入室し、試験官の先導のもとにレポートを提出していく
筆記用具を机の上に出し、試験用紙が配られる
「時間です。開始してください」
開始の声と同時に受験者は試験用紙を表に返し、テストを始めた
―――――――――――
「あー、あの問題とか卑怯だよなー。んだよ、『レヴィアたん』の第1クールの敵幹部の名前とかさ……」
「こちとら必死に詰め込んできたってのに……あのふざけた問題出た瞬間、机をひっくり返してやろうかと思ったぜ……」
センター内の食堂にて、新と一誠はテーブルに突っ伏して愚痴をこぼしていた
悪魔についての基礎問題などは
更には『おっぱいドラゴン』や『ダークカイザー』についての問題まで出てくる始末……
「冥界は真面目なのかふざけてんのかイマイチ分からん……」
「新さま、お茶のおかわりをいただいてまいりましたわ」
レイヴェルがお茶のおかわりを差し出すと、新はゴクゴクとそれを飲み干す
「サンキュー、レイヴェル。お前のお陰で筆記試験は何とか壊滅せずに済んだ」
「と、当然ですわ!私がマネージャーをしているのですから、合格してもらわないと困りますわ!」
相変わらずのツンツンぶりにクスッと笑う新
次は実技試験、センター内の屋上で
体をほぐす祐斗と「チョー得意分野だ!」と意気込む一誠
新はその様子を見て一誠の肩をポンッと叩く
「一誠、あまり力を入れ過ぎない方が良いぞ」
「え?でも、せっかくの試験だし。俺的に1番点数が取れる―――」
「生真面目過ぎんだよ。……ったく、お前がそうしたいなら別に良いんだけどな」
新達4人は再びレイヴェルと別れて、ジャージに着替えて屋内会場に向かった
広い体育館の様な場所で、受験者がそれぞれ動きやすい服装で準備運動をしていた
新達も各自ストレッチを開始、その後に試験官が集まってくる
受験番号のバッジが付けられ、試験官の1人が説明を始めた
「実技試験は至ってシンプルです。受験者の皆さんで戦闘をしてもらいます。この後、皆さんに抽選してもらい、それによって戦う相手を決めてもらいます。戦闘は総合的な戦闘力などを見るので、相手に負けたとしても合格の目が無くなる訳ではありません。勿論、勝利をしてもらった方が得点は高いです。しかし、戦闘の中身も見ますので、心技体、規定を満たしていればそれ相応の点数を得られます。出来るだけ良い試合をするようにしてください!ルールは簡単です。持てる力で相手と戦ってください。武器の使用は原則的に許可しております。相手を死亡させた場合は失格となりますが、事故による死亡は我々試験官による審議によって是非が決まります。事故死による項目はお手元の参考資料を参照してください。次に―――」
『要は殺さない程度の力量で戦えって事か』
ある程度ルールを把握した新
一方、一誠は“戦闘の中身”と言う事に頭を悩ませていた
基本的にゴリ押しの殴り合いしかしてなかったので、こう言った戦闘はどう
そんな事態でも試験官の補足説明がされる
「なお、『
「へー、センター特例の承認カードなんてあるんだな」
「アジュカ・ベルゼブブさまはプロモーション用の特例カードをこう言う所に発行していると聞くよ。勿論、ベルゼブブさまでなければその特例カードを作成も出来ないし、ましてやコピーなんて無理と言われる程の代物だけどね」
祐斗がそう説明する
つまり、アジュカ・ベルゼブブ本人でなければ、そう言った
「実技試験のルールも基本相手を殺さないように戦えば良いみたいですね。中級悪魔の試験は上級悪魔のと違って、戦術―――タクティクス試験が無いので案外シンプルですわね」
朱乃の台詞から上級悪魔の試験には戦術面の試験があるらしい
『
試験官の説明も終わり、ここからは抽選
箱の中に手を突っ込み、番号の振られた玉を取る
新の引いた玉は『1』、一誠は『4』
2人とも序盤の試合になるようだ
ちなみに祐斗は『26』、朱乃は『32』
全員分かれたお陰で同属対決は避けられた
「試合は二組ずつ
早くも新と一誠の試合順番が回ってきた
祐斗と朱乃から応援を貰いつつ、新と一誠はそれぞれのバトルフィールドに向かっていく
一誠は緊張した状態でいるが……新は慣れている為に緊張は一切無し
そうこうしてる内にそれぞれの相手となる悪魔がフィールドに現れる
一誠の相手は中肉中背の男性、新の相手は5メートルクラスの魔物系だ
「どちらも準備は大丈夫ですね?」
確認した後に試験官の手が上げられ、下ろされた
「始めてください!」
開始と同時に新は
飛んでくる火炎を拳で霧散させ、その場を駆け出して蹴りを食らわせる新
相手は魔力で防御魔方陣を展開したが、魔方陣ごと新の蹴りで吹き飛ばされ―――会場の壁を突き破っていった
スタッと着地した直後、一誠の方も相手の悪魔を拳打で吹き飛ばしていた
試験官が吹っ飛んでいった相手のもとに向かい、試合を見ていた他の受験者の声が聞こえてくる
「…………じょ、冗談じゃない!なんてパワーだ!」
「なるほど、一般的な下級悪魔のレベルを遥かに超越してますね」
「対戦者は不幸と言うしかない。バケモノじゃないか……ッ」
「……パワーだけなら、上級悪魔の上クラスじゃないのか……?」
「これが悪神ロキ、サイラオーグ・バアルを倒した
―――などと言う声が届き、空いた壁の穴から試験官が戻ってきた
それぞれの試験官が首を横に振り、確認した担当の試験官が高らかに告げた
「『1』番、竜崎新選手の勝利です!」
「『4』番、兵藤一誠選手の勝利です!」
あっという間に終えてしまった実技試験
新は軽く首を鳴らし、一誠は難なく勝ち取った勝利にポカーンとしていた