ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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昇格試験の話

朝食時、リアスを筆頭に下宿している女子の多くがテキパキと動いてテーブルに朝のメニューを置いていく

 

今日のメニューは卵焼きと味噌汁、焼き鮭と言う和食の定番だった

 

ローテーションしながら料理を振るってくれるので、新は毎朝美味い朝食を腹に収めている

 

今までは自分独りで用意し、簡易で(いろど)りも無い朝食を摂っていた

 

その殆どが10秒チャージのパックゼリー、リンゴもしくはバナナ+コーヒーだけと言ったラインナップ

 

昔の自分とは180度違う朝に染々(しみじみ)と幸せを噛み締めている

 

「新のお弁当はこれね♪」

 

満面の笑みを浮かべながらリアスが昼飯用の弁当を新の前に置く

 

昼の弁当はリアスと朱乃の交代制、時折レイヴェルも手伝いに参加している

 

小猫、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセ、レイナーレ、カラワーナ、ミッテルトは主に食べる係なので参戦しない

 

普段はリアスと朱乃が交代制で作っているのだが、当面はリアスに一任されたそうだ

 

弁当の中身もハートの形に乗せた桜でんぷを定番に、手間を掛けたおかずが目白押(めじろお)

 

ついでに言うと一誠の弁当もアーシアが毎日作っているらしく、昼飯時に広げれば揃って「愛妻弁当かよ!」と松田(ハゲ)&元浜(メガネ)に言われたりする

 

「さしずめ『正妻弁当』と言ったところでしょうか……。私もいずれは祖国流のお弁当を披露する時が来るかもしれませんね」

 

ロスヴァイセが顎に手を当てながらそう言っていた

 

ヴァルハラ式の弁当の中身とはいったいどんな物なんだろうか?

 

そんな事を考えている新の視界にレイヴェルが映り込み、彼女は弁当箱に料理を詰め込んでいた

 

「レイヴェル、その弁当は誰のだ?」

 

「これはギャスパーさんへの差し入れですわ。お一人で朝練をしているそうですから」

 

「朝練?あのギャスパーが?」

 

疑問の声を上げる新の隣にリアスが腰を下ろして説明する

 

「サイラオーグ戦、リュオーガ族との1件で自分の力不足を強く感じてしまったと言って、あなた達との合同訓練の他にも自主メニューでしているようなのよ。ハードワークにならない程度に体を1から鍛え始めたの」

 

その話に朱乃も続く

 

「力を使いこなして、あの領域に至りたいと気合を入れてましたわ。その為には体を1から作り直すと、朝から筋トレと走り込みをしているそうです。それに渉くんと祐希那(ゆきな)ちゃんも(しばら)く鍛練に(いそ)しむそうですわ」

 

どうやらギャスパーは神器(セイクリッド・ギア)禁手(バランス・ブレイカー)にしたいようだ

 

サイラオーグ戦での試合を相当気にしているからこそ、自分の力量の足りなさを許せなかった

 

ゼノヴィアも真剣な眼差しで言う

 

「うん。あいつは男だ。きっと強くなるに決まっているさ」

 

身近でギャスパーのサポートを実感したのはゼノヴィアであり、あの試合で隙を突かれてピンチに陥った彼女を救ったのもギャスパーだった

 

渉の方もリュオーガ族との1件で力不足を実感したのだろう

 

強くなりたいと思い、自ら動くのはとても良い事だ

 

「……小猫さん?顔色が(すぐ)れませんわよ?」

 

レイヴェルが小猫の顔を覗き込んでいる

 

彼女が言うように小猫の顔色があまり良くない

 

顔が赤く、若干ツラそうな顔をしている

 

小猫本人は「……何でもない」と簡素に返すが、それでもレイヴェルは心配そうに小猫の額に手を当てる

 

「でも、ちょっとお顔が赤いですわ。風邪ではなくて?そうですわね……、フェニックス家に伝わる特製のアップルシャーベットを作ってあげますわ。実家から地元産のリンゴが届きましたの。それを使って特別にこの私が作ってあげますわね!」

 

小猫はレイヴェルの手を()けると一言告げる

 

「……ありがた迷惑」

 

それを聞いてレイヴェルは頭の縦ロールを回転させる程の勢いで怒り出した

 

「んまー!ヒトの好意を即否定だなんて!猫は自由気ままで良いですわね!」

 

「……鳥頭には言われたくない」

 

「……と、鳥頭って!確か日本では鳥頭とは物忘れの激しい方を指しましたわよね……?」

 

「よく勉強しているようだから、褒めてあげる」

 

「んもー!この猫娘は……ッ!」

 

小猫とレイヴェルの口喧嘩もすっかり日常の一部となっていた

 

事ある度に言い合いをするものの、仲が悪い訳ではない

 

小猫も日常面でレイヴェルを助けているし、レイヴェルも小猫を頼っている

 

謂わば良いケンカ友達のようだ

 

2人の微笑ましい風景を見ている新にゼノヴィアが口を開く

 

「ところで新」

 

「何だ、ゼノヴィア」

 

「そろそろ子供の名前について考えないか?」

 

ブフッ!

 

新の口から盛大に何かが吹き出し、()せながらゼノヴィアに物申す

 

「いきなり何を言い出してんだ⁉」

 

「だって、私と新はもう子作りをした仲じゃないか。流石に1回で子供を宿すとは思っていないさ。だが、これからの事を踏まえて、子供の名前を考えるぐらいはしても良いと思うんだ」

 

さも当然の様に言ってくるゼノヴィア

 

確かに新は修学旅行の時にゼノヴィアとセッ○スしたが、あまりにも突然過ぎる発言に脳の処理が追い付かない

 

横で聞いていたイリナもその時の記憶を思い出してしまい、顔を真っ赤にして湯気を噴き出す

 

「男の名前として候補に挙げているのは『新一(しんいち)』と『新介(しんすけ)』、女なら『希望(のぞみ)』と『歩夢(あゆむ)』だな。男の方は両方とも“新”の名を取り入れてみた。女の方は新の“新しい人生を歩めるように”と似た様な意味を付けてみた。希望を捨てない『希望(のぞみ)』と夢に向かって歩くと言う意味を踏まえた『歩夢(あゆむ)』。どちらも1週間掛けて考えた名前だ」

 

「だから、そう言うのは早すぎんだよ!あと飯時(めしどき)に振る話題じゃねぇ!」

 

その会話を聞いてリアスは顔を真っ赤にしており、他の皆もクスクスと笑っていた

 

「リアス部長も新と性交をしたなら、子供の名前を考えておいて損は無い。洋名なら私の考える和名と(かぶ)らなくて済む」

 

「そ、そうね……。わ、私も考えておこうかしら……っ」

 

「おい、リアス!無理に話題に乗っからなくて良いんだよ!」

 

「……そう言った話はあまりしないでくださいね。学校でもいつも通りにするように」

 

コーヒーを飲みながらロスヴァイセが冷静なツッコミを入れてくる

 

騒がしいやり取りの中、小猫は新とリアスを見つめ―――途端に(うつむ)いた

 

「……子供……赤ちゃん……」

 

 

――――――――――――――――

 

 

その日の深夜、兵藤家上階のVIPルームにて場所を移し、サーゼクス、グレイフィア、アザゼルと言うお偉方が集結してきた

 

そのメンツが真面目な顔でグレモリー眷属を全員集め、話を切り出した

 

「先日も話した通り、新くん、イッセーくん、木場くん、朱乃くんの4名は数々の殊勲を挙げた結果、私を含めた四大魔王と上層部の決定のもと、昇格の推薦が発せられる」

 

そう、新、一誠、祐斗、朱乃に昇格の話が持ち上がってきたのだ

 

実際に話を振られたのはサイラオーグ戦が終わって直ぐだったのだが、度重なるゴタゴタのせいで詳細を聞けずにいた

 

悪神ロキや『禍の団(カオス・ブリゲード)』、闇人(やみびと)と戦っていた事が大きな功績になったらしい

 

「昇格なのだが……本来、殊勲の内容から見ても中級を飛び越えて上級悪魔相当の昇格が妥当なのだが、昇格のシステム上、まずは中級悪魔の試験を受けてもらいたい」

 

「上級⁉俺達、上級悪魔相当なんすか⁉」

 

「一誠、さっきから百面相が絶えないな」

 

隣で座っている祐斗と朱乃も驚いているが、一誠程の狼狽っぷりではない

 

新も驚きつつ冷静に一誠を諌めていると、アザゼルがグラスの酒を飲みながら言う

 

「イッセーと新と木場と朱乃は殊勲だけ考えれば上級悪魔になってもおかしくないんだが、悪魔業界にも順序があるらしいからな。特に上がうるさいそうでな。お前らに特例を認めておきながらも順序は守れと告げてきたそうだ。―――とりあえず中級悪魔になって、少しの間それで活動しろ。その内、再び上から上級悪魔への昇格推薦状やらが届く筈だ。なーに、中級の間に上級悪魔になった時の計画を練り出せば良い」

 

「ちゅ、中級とか、じょ、上級悪魔……っスか!お、俺にそんな資格があると……?」

 

一誠の問いにサーゼクスが笑顔で(うなず)

 

「うむ。テロリストと闇人(やみびと)、悪神ロキの撃退は大きな功績だ。そしてバアル戦でも見事な戦いぶりを見せてくれた。何よりも新くんとイッセーくんは冥界の人気者『蝙蝠皇帝ダークカイザー』と『乳龍帝(ちちりゅうてい)おっぱいドラゴン』でもある。昇格の話が出てもおかしくないのだよ。いや、寧ろ当然の結果だろう」

 

「昇格推薦おめでとう、新、イッセー、朱乃、祐斗。あなた達は私の自慢の眷属だわ。本当に幸せ者ね、私は」

 

リアスも心底嬉しそうな笑みを浮かべていた

 

自慢の眷属が評価されて最高の喜びを感じているのだろう

 

「イッセーさん、新さん、木場さん、朱乃さん、おめでとうございます!」

 

「うん、めでたいな。自慢の仲間だ」

 

「中級悪魔の試験とか、とても興味があるわ!」

 

「ぼ、僕も先輩に負けないように精進したいですぅ!」

 

アーシア、ゼノヴィア、イリナの教会トリオも喜び、ギャスパーも前向きなコメントを発する

 

「私も早く昇格して、高給で安定した生活が欲しいところです」

 

「ライザーお兄さまのチームではもう太刀打ち出来ない程の眷属構成になってしまいましたわね」

 

相変わらず堅実な目標のロスヴァイセ、レイヴェルも賛辞を贈る

 

「フェニックスの所は長男がトップレベルのプレイヤーじゃないか。あそこのチームはバランスが良い」

 

「うちの長兄は次期当主ですもの、強くなくては困りますわ。それはともかく、流石リアスさまのご眷属ですわ。短期間で4人も昇格推薦だなんて。ね、小猫さん?」

 

レイヴェルが小猫にそう投げ掛ける

 

「……当たり前。―――おめでとうございます、新先輩、イッセー先輩、祐斗先輩、朱乃さん」

 

笑顔を見せる小猫だが、心なしか若干テンションが低い

 

新達の昇格の話は純粋に喜んでいるようだが……新は(いぶか)しげに小猫の表情を見る

 

「ま、その4人以外のグレモリー眷属にも直に昇格の話が出るさ。お前らがやってきた事は大きいからな。強さって点だけで言えばほぼ全員が上級悪魔クラス。そんな強さを持った下級悪魔ばかりの眷属チームなんざレア中のレアだぜ?」

 

アザゼルが言うように他のメンバーにも昇格が大いに有り得る

 

あれだけの死線を越えてきたのだから当然と言えば当然だろう

 

祐斗と朱乃が立ち上がり、サーゼクスに一礼した

 

「この度の昇格のご推薦、まことにありがとうございます。身に余る光栄です。―――リアス・グレモリー眷属の『騎士(ナイト)』として謹んでお受け致します、魔王サーゼクス・ルシファーさま」

 

「私もグレモリー眷属の『女王(クイーン)』として、お受け致します。この度は評価していただきまして、まことにありがとうございました」

 

祐斗と朱乃はしっかりと厚意を受け取る

 

サーゼクスが「新くんとイッセーくんはどうだろうか?」と聞き、まず一誠が深々と頭を下げた

 

「勿論、お受け致します!本当にありがとうございます!……正直、夢想だにしなかった展開なので驚いてますけど、目標の為に精進したいと思います!部長の期待にも応えられて満足です!」

 

次に新も立ち上がって素直な心境を述べる

 

「俺も受けます。俺もリアスの……リアス・グレモリー眷属でいる事を誇りに思います」

 

「おやおや、新くん。私の手前でもリアスの事は名前で呼んでくれて構わないよ」

 

「え、良いんすか?」

 

「ハハハ、寧ろ呼んでくれたまえ!私も嬉しいし、見ていて幸せな気持ちになれる」

 

「も、もう!お兄さま!茶化さないでください!」

 

リアスは顔を赤く染め、立ち上がってプンスカ怒る

 

サーゼクスがグレイフィアに話を振ると、彼女はいつもと変わらないクールな表情のまま言った

 

「私風情が分に過ぎた事など言えません。……ですが、この場の雰囲気ならば名前で呼び合っても差し支えないかと」

 

「……グレイフィア……お義姉(ねえ)さままで」

 

流石のリアスもグレイフィアにそう言われては顔を赤くして黙るしかなく、サーゼクスはウンウンと頷いていた

 

「よしよし。それならばついでに私の事も義兄上(あにうえ)と呼んでくれて構わないのだよ!さあ、呼びたまえ!新くん!お義兄(にい)ちゃんと!」

 

「俺はそんなキャラじゃありません」

 

即座に“お義兄ちゃん”呼びを一蹴する新とハリセンでサーゼクスの頭を叩くグレイフィア

 

隣でその様子を笑って見ていたアザゼルは息を吐くと改めて言う

 

「てな訳で来週、イッセー、新、朱乃、木場の4人は冥界にて中級悪魔昇格試験に参加だ。それが1番近い試験日だからな」

 

「来週ですか、早いですね」

 

想像以上に早い日程に祐斗がそう言い、朱乃も続く

 

「中級悪魔の試験って、確かレポート作成と筆記と実技でしたわよね?実技はともかく、レポートと筆記試験は大丈夫かしら」

 

「マジかよ、レポートに筆記試験?勉強ものは苦手だ……」

 

試験内容に気を落とす新と不安になる一誠

 

「心配するな。筆記は朱乃と木場なら全く問題無いだろう。悪魔の基礎知識と応用問題、それにレーティングゲームに関する事が出されるが、今更だろうしな。レポートは……何を書くんだ?」

 

アザゼルがグレイフィアに訊ねると、グレイフィアは1歩前に出て説明し始めた

 

「試験の時に提出するレポートは砕いて説明しますと、『中級悪魔になったら何をしたいか?』と言う目標と野望をテーマにして、『これまで得たもの』と絡めて書いていくのがポピュラーですね」

 

「何だか、人間界の試験みたいですね」

 

「つーか、人間界の試験その物っぽいな」

 

新がそう言うとサーゼクスが頷く

 

「中級悪魔に昇格する悪魔の大半は人間からの転生者なのだよ。その為、人間界の試験に(なら)った物を参考にして、昇格試験を作成している」

 

最近は転生悪魔も多く、昇格するのも元人間ばかりなので、それに合わせて試験内容を決めているのだろう

 

アザゼルが膝を叩くと新達を見渡す

 

「何はともあれ、レポートの締め切りが試験当日らしいから、まずはそれを優先だ。だが、イッセー!新!」

 

「は、はい?」

 

「何だよ?」

 

アザゼルが新と一誠に指を突きつけて言う

 

「お前らはレポートの他に筆記試験の為の試験勉強だ!基礎知識はともかく、1週間で応用問題に答えられる頭に仕上げろ!安心しろよ。お前らの周りには才女、才児が何でもござれ状態だ」

 

2人の肩に手を置くリアス

 

「任せない、新、イッセー。私が色々と教えてあげるわ」

 

「イッセーくん、僕も改めて再確認したいから一緒に勉強しよう」

 

「あらあら。じゃあ、私も一緒に勉強ね」

 

試験勉強面での心強い味方に安堵する中、一誠が残りの試験について言う

 

「えーと、じゃあ実技の方は?」

 

その途端にアザゼル、サーゼクス、グレイフィアがキョトンとした表情で顔を見合わせた

 

新はいち早くその理由を察し、アザゼルが「それは必要ないんじゃないか?」とごく当たり前のように言う

 

「え……でも、俺的に1番得点を稼げそうな所なんで是非ともトレーニングとか欲しいところなんですけど!」

 

一誠がそう言ってもアザゼルは手を横に振るだけだった

 

「だから、いらないって。ぶっつけ本番にしとけ。そこは試験当日じゃないと分からないかもな。新、朱乃、木場、お前らも実技の練習はいらんからレポートに集中しとけよ」

 

アザゼルの言葉に朱乃と祐斗は返事をし、不安に駆られる一誠が恐る恐る手を上げて質問する

 

「あのー、最後に1つだけ。……まことに恥ずかしい話なんですけど、もし落ちたらどうなるんですか?推薦取り下げですか?」

 

「いいや、そんな事は無いよ。1度挙げられた推薦は、仮に来週の試験で落ちても受かるまで何度でも挑戦出来る。よほど素行の悪い事でも無い限りは推薦の取り下げは起こらないよ」

 

とりあえず安心出来る条件のようだ

 

サーゼクスが力強く言う

 

「それに私は新くんとイッセーくんが次の試験で合格すると確信している。突然の事で不安かもしれないが、全く問題無いのではないかな」

 

魔王からの太鼓判を貰った新と一誠は気合を入れ直す

 

「俺、頑張ります!絶対に中級悪魔になります!そして、いずれ上級悪魔にもなります!」

 

「俺もです。上級悪魔だけじゃなく、プロのバウンティハンターも目指していきます」

 

新は上級悪魔とバウンティハンターのトップを、一誠はハーレム王への野望を改めて再燃させる

 

そんな時、ふとロスヴァイセが立ち上がった

 

「さて、話が纏まったところで、私は少しばかり出掛けようと思います」

 

「そう言えば、さっきからスーツ姿で気になってたんだが……何処に行くんだ?」

 

新が訊くとロスヴァイセは遠くに視線を送るようにして言う

 

「―――北欧へ。一旦帰ろうと思います」

 

「例の件ね?」

 

リアスの言葉にロスヴァイセは静かに頷く

 

「ええ、このままでは力不足だと思いますから。グレモリー眷属は強者と戦う機会が多い。今のままでは、私は役立たずになりかねません。―――『戦車(ルーク)』の特性を高めようと思います」

 

どうやら『戦車(ルーク)』の特性を高めるべく、北欧に戻るらしい

 

アザゼルが訊く

 

「ロスヴァイセ、ヴァルハラにアテがあるのか?」

 

「はい、そちら専門の先輩がいましたので。……ヴァルキリー候補生時代、攻撃魔法の授業を重点に単位を取っていたのがここに来て(あだ)になりました」

 

ロスヴァイセもバアル戦やリュオーガ族戦後、思う事が多かったようで、実力を発揮しきれなかった事を悔いていた

 

ちなみに魔力と魔法は似ているようで違うらしい

 

魔力は悪魔が自らの力で超自然現象を起こす力で、具現化出来るだけのイメージ力がとても必要とされる

 

複雑または強力な魔力をイメージして具現化すれば、その分だけそれを操るだけの高い技術も必要となる

 

対して魔法は超自然現象を発生させる法則を術式、法式で操る力

 

魔方陣を展開させ、術式と法式を常に計算出来るだけの演算能力が重要となる

 

「リアスチームのバランスを見ると魔法の使い手はいた方が良い。出来る事なら『兵士(ポーン)』か『僧侶(ビショップ)』でロスヴァイセの長所を伸ばした方が良かったかもしれないけどな。リアスの眷属は圧倒的に火力が高いが、全体的に見ると防御面が薄く、テクニック―――ハメ技にやられやすい。過去、実戦でもゲームでもそれにつけ込まれているからな。要はチーム全体的に脳みそまで筋肉傾向なんだよ。『やられる前にやれ』ってな。それを魔法で補うのは良い事だ」

 

アザゼルからの評価に全員が苦笑い……リアスも恥ずかしそうに顔を赤く染めていた

 

確かに新達は特攻タイプばかりでテクニックタイプに翻弄されてばかり

 

新も多少は心得ているが、最近は手数よりもゴリ押し戦法が目立ってきている……

 

そこでサーゼクスがこんな事を言い出す

 

「だが、そちらの方が好みだと言うファンはとても多い。戦術タイプのチームやテクニック重視のチームだと一目では判断が付きづらく、派手さも少なめな為か、玄人のファンが好むからね」

 

「だな。リアスとサイラオーグのチームは派手さを売りにしつつ、戦術を高めた方が将来のプロ戦で盛り上がるぞ。何はともあれ、そのパワーを補う力は必要だ。ロスヴァイセがヴァルハラに行っても良いんだろう、リアス?」

 

アザゼルの問いにリアスは同意する

 

「ええ、自ら伸ばしたい点があるのなら、断る理由は無いわ」

 

「ありがとうございます。あ、それと学園の中間テストの方は既に問題用紙を作成しておきましたのでご心配なく」

 

ロスヴァイセの報告に新と一誠が“ヤバい!”と焦った顔をする

 

「やべぇ!そうだ、中間テストもあるんだった!」

 

「体育祭に修学旅行、学園祭、これだけでも手一杯だったってのに……リュオーガ族の1件と任務もあったからな。勉強なんざ、する暇もねぇよ……」

 

特に新はバウンティハンターの職も抱えている為、通常よりも忙しさが倍以上になっていた

 

ゲンナリした様子で(こうべ)を垂れる新をよそに、サーゼクスがレイヴェルに言う

 

「レイヴェル、例の件を承諾してくれるだろうか?」

 

「勿論ですわ、サーゼクスさま!」と即座に快諾するレイヴェル

 

例の件とは何か、新がサーゼクスに訊くと―――

 

「レイヴェルに新くんのアシスタントをしてもらおうと思っているのだよ。いわゆる『マネージャー』だね」

 

「マネージャー?」

 

「新くんもこれから忙しくなるだろう。人間界での学業でも、冥界の興行でも。グレイフィアはグレモリー眷属のスケジュールを管理しているが、それでも身は1つだ。どうしても(まかな)えきれない部分も今後増えるだろう。特に細かい面で。それならば、今の内から新くんにはマネージャーを付けるべきだと思ってね。そこで冥界に精通し、人間界でも勉強中のレイヴェルを推薦したのだよ」

 

確かに今後はそう言う物も必要になってくるだろう

 

冥界でも人気があるのだから、需要は高まってくる

 

「早速で悪いのだが、レイヴェル、中級悪魔の試験について新くんをサポートしてあげてほしい」

 

サーゼクスからの申し出にレイヴェルは立ち上がり、自信満々に手を上げた

 

「分かりました。このレイヴェル・フェニックスめにお任せくださいませ。必ずや新さまを昇格させてみせますわ!早速、必要になりそうな資料などを集めてきます!」

 

言うや否やレイヴェルは部屋を飛び出していく

 

「レイヴェルにとっちゃ、将来の自分の生き方にも大きな意味を持つからな、お前の昇格は」

 

「スケジュール管理ねぇ……俺の苦手分野が勢揃いだな」

 

新が苦い顔付きで愚痴をこぼす

 

基本的にその場(しの)ぎの生活で生きてきたのだから、苦手意識が強いのだろう

 

しかし、マネージャーの存在は生活を見直す良い切っ掛けにもなる

 

「小猫、油断しているとお前の大好きな先輩がレイヴェルに取られちまうぞ?」

 

アザゼルがニヤニヤ顔で小猫を煽る

 

新はアザゼルを止めようとするが、当の小猫は顔を(うつむ)かせ、心ここにあらずの状態だった

 

小猫の無反応ぶりに皆が一様に首を(かし)げる

 

『小猫、やっぱり何か変だよな……』

 

 

――――――――――――

 

 

「はぁ……中間テストに中級悪魔の試験、連続発生とか萎える……っ。ただでさえ苦手なモンばっかりだってのに……いっその事、中間テストを捨ててやろうか」

 

「聞き捨てなりませんよ、新さん?」

 

「あ、ロスヴァイセ。聞いてたのか……」

 

「ダメですよ、せっかく用意したんですから。文句を言わずにちゃんと試験勉強もして下さい」

 

「へいへい、分かりましたよーだ」

 

「もうっ、生返事ばかり。私はこれからヴァルハラに()つんですから、もう少し―――」

 

「分かってるって。真面目にやりますよ、ロスヴァイセ先生」

 

「……もう少し、お話に付き合っていただけませんか?大事な話があります」

 

「ん?ああ、良いけど」


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