ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

177 / 263
11巻編、スタートです!ここに至るまで長かった~


第13章 進級試験のウロボロスとダブルクロス
動き出す各々の道


学園祭、リュオーガ族との戦い、シド・ヴァルディの転入、新興勢力造魔(ゾーマ)の判明

 

様々なイベントが織り成して直ぐの事だった

 

彼から“ある話”を持ちかけられたアザゼルは滅多にない程間の抜けた顔を出していた

 

「……そいつは本気なのか、ヴァーリ」

 

彼―――ヴァーリ・ルシファーからアザゼル宛てに開かれたプライベート回線

 

通信用の小型魔方陣を介して彼の元気そうな顔が見える

 

『ああ、彼―――今は彼女か。彼女はそれを望んでいてね。俺としても興味があるので便宜を(はか)りたい』

 

ヴァーリから出されたのは実にトンでもない話で、それは勢力図が塗り替えられてもおかしくないレベルだった

 

「……お前の事だ。それだけじゃないんじゃないか?」

 

アザゼルの言葉にヴァーリは苦笑する

 

『相変わらず鋭い。ゆえに他の勢力からも(うと)まれ始めている訳か』

 

「余計なお世話だ」

 

『その「余計なお世話」を振り撒き過ぎて「何かを企んでいるのではないか?」と思う者も少なくないと聞くが?』

 

確かにアザゼルは各勢力の上層部に疎まれている

 

堕天使の総督と言う肩書きだけでも胡散臭い上、当人から各勢力との和平・和議を持ち掛けてきたのだから

 

端から見ればいらぬお節介焼き……教え子たる一誠からもそう言われていたりする

 

「……性分だ。それで背中を狙われるのなら、それはそれで受け入れるさ」

 

アザゼルが嘆息しながらそう言う

 

ヴァーリも呆れた様な表情をした後、不意に呟いた

 

『……彼女を狙う者がいてね』

 

「そりゃな、当然だろう。それこそ星の数だ。だが、滅する事が叶わないからどいつも歯痒い思いをしているんだがな」

 

『それはそうなんだが、身内から出そうでね。いや、そろそろ仕掛けてくるかな』

 

アザゼルの脳裏に聖槍を持った男が(よぎ)る……

 

「―――いぶり出す気か?」

 

『俺の敵かどうか、ハッキリさせるだけさ。まあ、敵だろうな。―――ケリをつけるには頃合いか』

 

最高に楽しそうな笑みを浮かべるヴァーリ

 

彼はどうしようもない程のバトルマニアなようだ

 

 

――――――――――――――――

 

 

とある山奥の洞穴(ほらあな)

 

人どころか動物の気配が微塵も感じられない様な場所で話をする者達がいた

 

1人は青い髪を持つ青年―――蛟大牙(みずちたいが)

 

三大勢力に疎まれている魔族(まぞく)闇人(やみびと)の『2代目キング』である

 

彼もまたヴァーリから話を持ちかけられたアザゼル同様、想像もしなかった話に衝撃を受けていた

 

「……それは本気なのか?」

 

「ええ、それが今後の私達の為にもなる最善の道だと考えます」

 

「だが、それは神風や父さん―――『初代キング』だけじゃない。逃げ延びている全ての闇人(やみびと)の反感を買う事になるぞ。実際、俺の(もと)(つど)ってくれた闇人(やみびと)は少ない。大半は今も何処かに息を(ひそ)み、俺の方針にも反対している。その状況で今言った事を実行すれば間違いなく―――」

 

「大牙、(あやま)ちと言う物は誰もが歩む道です。大切なのは過ちを認め、学び、そこからどう進んでいくかです。歩みを止めてしまえば、そこで道は途絶えてしまいます」

 

真剣な面持ちで危険を警告する大牙を(いさ)める女性の声

 

声の主が薄暗い洞穴の奥から姿を現す

 

金髪で非常に小柄な少女の姿をしており、頭の中央にピョコンと跳ねたアホ毛、両脇には羽の様な飾りが付いている

 

「時代と共に生きとし生ける物の概念は自然と変化していきます。今の私達はその流れに取り残され、逆らおうとしてる状態です。風に(あお)られ続ける樹木と同じ、いずれは亀裂が生じて倒壊します。最悪の事態を避ける為にも……敢えて死地に飛び込まないといけない時だってあります」

 

「ならば、俺が行けば良いだけの話だろう。あなた(みずか)ら危険を侵す必要性なんて無いじゃないか。『初代クイーン』……いや―――母さん」

 

『初代クイーン』―――自分の母親を睨み付ける大牙

 

『2代目キング』たる責任感から、そう言った役目を負うのは自分だけで充分だと考えているのだろう

 

しかし、彼の母親―――『初代クイーン』は首を横に振った

 

「私は今まで隠れて生き延びながら、あなた達が変わっていくのを見てきました。それだけじゃ分からない事だってあります。自分の目で確かめ、自分の耳で聞き、自分の心で感じなければ変える事も変わる事も出来ません。私はそれを確かめたいんです」

 

「だったら尚更―――」

 

「大牙にはまだ未来があります。封印されていたあのヒトが出てきてしまった以上、私も動かなきゃいけないと思ったんです。そして、今この時こそ最初で最後のチャンスなんです」

 

「……自分の命を捨ててまでする事なのか?」

 

「私だってそんなにおバカじゃありませんっ。出来る限り生き延びる方法を考えて行動します」

 

母親の決意と言葉に大牙は黙り込むしかなかった

 

『2代目キング』としての認識が甘く、現状に不満を抱く闇人(やみびと)の数の多さ、怨恨の深さを把握しきれていなかった

 

彼の下に集まる闇人(やみびと)が少ないのも、そう言った認識不足が招いた事態なのだろう

 

大牙は腕を組んで(しばら)く考え、後に腕組みを解いて決心した様な顔付きとなる

 

「……分かった。ならば、気取られない様に俺が奴らの注意を逸らす。念の為、母さんには護衛役を1人同行させてくれ。あいつなら赤龍帝(せきりゅうてい)と交流が深いから頼りになる」

 

「ふふっ、親孝行ですね~、大牙は」

 

「俺も母さんと同じく確かめたくなっただけだ。……俺達闇人(やみびと)の行く末を」

 

 

―――――――――――――――

 

 

その朝、竜崎家の1日は寝床での一戦から始まっていた

 

目を覚ますと、新のベッド近くで睨み合うリアスと朱乃の姿が見えた

 

彼女達は既に制服に着替えている

 

「私の新に朝のキスだなんて!……と、言いたいところだけれど、昨夜はたっぷり甘えさせてもらったから許してあげる」

 

「あら、それは結構な事ですわね。新さんったら、凄い事をしていたのね?」

 

朱乃が口元に手を当てながら興味深そうに訊いてくる

 

しかし、昨夜はそこまでエロい行為に発展したわけではなく……ただ寝る前にお互いキスした後、密着しながら寝ただけと言うシンプルなものだった

 

普段通りに思える光景の様だが、リアスとも両想いになってから彼女の甘えっぷりの破壊力が増したらしい

 

『新がキスしてくれないと寝られないの……。ね?お願い。キスして』

 

『優しく抱き締めて。新、大好き』

 

―――等と言った艶々な甘え声で寂しがりな猫の如く甘えてくる

 

それには流石の新も緊張を隠し切れず、直ぐにでも○○○(ピー!)してやりたいらしい……

 

「リアスったら、意外と冷静なのね。もっと嫉妬の炎を燃やしてくれるものだと思っていたのだけれど……。ちょっと反応が面白くないですわ」

 

「それはゴメンなさいね。けれど、彼は私の新だから、それだけは揺るがないわ」

 

サイラオーグ戦前の不安定な様子は一切無く、いつもの自信に満ち溢れた調子だった

 

「あらあら、正妻の余裕ってものを見せつけられてしまいましたわ」

 

朱乃がそう言い、リアスは小さく笑むと新の頬にキスしてくる

 

“ご飯よ、下に下りてきなさい”と一言だけ残して退室していった

 

いつもなら火花どころか魔力のオーラを飛び散らせるのだが、今回は特に怒る様子を見せなかった

 

「ああ見えて少し無理をしている所もあるのよ、彼女」

 

「無理?リアスに何か遭ったのか?」

 

新がそう訊くと朱乃はベッドに腰を下ろして呟く

 

「実はレーティングゲーム、最終戦であまり活躍出来なかったのがリアスにとって尾を引く結果になってしまったようです」

 

サイラオーグとの一戦、リアスは自律する神滅具(ロンギヌス)―――『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』の獅子と戦い、致命傷を受けてしまった

 

「……あなたの枷になってしまったのがとても許せないと、リアスは凄く悩んでいるのです」

 

「それはただ……相手が悪かっただけなんじゃないのか?リアスも決して弱い訳じゃない。戦術も前以(まえもっ)て作戦を考えていたんだろ?」

 

「……戦術面では、同時期に(おこな)われたソーナ会長とアガレスの戦いの方が注目されましたわ。あっちの旗取り合戦―――スクランブル・フラッグは派手さや認知度こそ低かったものの、批評家から見れば隠れた名勝負として高い評価を得たそうです」

 

勿論、最近出た冥界雑誌で大きく報道されたのは新達とサイラオーグチームとの一戦だが、批評家が書いた記事では長々とシトリーVSアガレスに対するゲームの感想が高評価で掲載されていた

 

「リアスとしてもこれから『(キング)』として覚える事が多いでしょうけれど、まずはお兄さまの―――サーゼクスさまからのアドバイスを聞いて、滅びの力について本格的に研究し始めたそうですわよ」

 

「修行とはまた違った感じか?」

 

「リアスとサーゼクスさまの滅びの力は同じ魔力でも性質―――性格とも言うのかしら。それが違うのです。サーゼクスさまの力はテクニック、ウィザードタイプの究極と言われています。あれだけ絶大な消滅魔力を手足の様に自在に操るのですから、その技術は悪魔の中でも1、2を争うとまで言われます。逆にリアスの力はウィザードタイプのパワー寄りだから、技術的なものよりも威力に恵まれていると言えます。けれど……」

 

「決定打の不足―――簡単に言えば『必殺技』と呼べる決め手が無いのか」

 

新の言葉に朱乃は小さく頷く

 

ただ放つだけでも充分過ぎる程に威力があるのだが……確かに新達がよく遭遇する強者が相手だと考えると、そう言った技を持つべきなのかもしれない

 

実際、サイラオーグ戦の後で起こったリュオーガ族との一戦でも新の兄―――ラース・フレイム・ドラグニルに対して消滅魔力が効いていなかった

 

更にシド・ヴァルディ、ユナイト・キリヒコ、その2人が属する造魔(ゾーマ)と言った強敵が続々と出現している

 

この先、必殺技たる決め手が無ければ相当ツラいだろう……

 

「それを模索しているようですわよ。……私もバアル戦では情けない姿を見せてしまいましたし……」

 

朱乃が沈んだ声音でそう漏らすが、新は首を横に振って言う

 

「いや、相手の『女王(クイーン)』は相当な手練れだったぞ」

 

(ホール)』と呼ばれる能力を使うアバドン家の『女王(クイーン)』―――クイーシャ・アバドン

 

若手上級悪魔の眷属『女王(クイーン)』の中でもトップクラスの使い手と言う噂も立っており、朱乃との試合でも雷光(らいこう)を『(ホール)』の中で雷と光に分解して勝利を収めた

 

「新さんは彼女を相手に一瞬で勝負を決めてしまったけれど……」

 

「あー、あの時は俺も少しキレてたからな……」

 

仲間が次々とリタイヤしていくのを見た新は手加減もあったとは言え、怒りの猛攻で相手『女王(クイーン)』を圧倒した

 

こう言った点は将来『(キング)』になった場合、足枷になってしまう事が多い

 

冷静さを維持するのも大事な要素だ

 

リアスと朱乃の向上意欲に対し、新自身も思う所はあった

 

リュオーガ族との戦いで竜の力を解放させたと言えど、まだまだ未熟な点を(かか)えている

 

ユナイト・キリヒコ、シド・ヴァルディの2人に圧倒されてしまった新も彼らに対抗出来る(すべ)を身に付けるべきだと考えた

 

『このままじゃダメだよな……。闇皇(やみおう)の力、竜の力、それらをもっと上手く使いこなさねぇと……』

 

自身の向上について模索していると、朱乃が顔を近付けてきた

 

「どうしました、新さん?」

 

「いや、俺も少し思う所があってな。リアスや朱乃と同じく―――自分の力について模索しようと思ってんだ。この先、険しい事態が続くだろうし……。俺の為にも、お前達を守る為にももう少し先へ踏み込むべきなんだろうなって」

 

「……新さんなら、きっと出来ますわ。リアスが夢中になるヒトなんですから」

 

そう言って朱乃は新の鼻先にキスをする

 

「朝はこれで充分ですわ。うふふ♪」

 

朝から朱乃の微笑みに癒され、新も1階に下りようかと思った矢先―――扉の陰から顔を覗かせるゼノヴィアと視線が合った

 

「ぬっ、朱乃副部長が朝から猛攻撃をしているぞ!」

 

「何ですって⁉嘘!そう言うのって朝っぱらからでも良いの⁉」

 

いつの間にかイリナも顔を覗かせて驚いている様子だった

 

“朝からテンション(たけ)ぇな~”と今まで得られなかった幸せを感じつつ、リアス達のパワフルな猛攻に苦笑する新

 

色々あるけど、この幸せをいつまでも味わっていきたいと(せつ)に思う朝だった




修学旅行編以来、長らく登場していなかった闇人勢力が大きく動きます!

『初代クイーン』の登場……ちなみにイメージモデルはメイビス・ヴァーミリオンですっ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。