不審な点が多い少年―――シド・ヴァルディが
緊急の上、危険な任務なので最低限の荷物と回復用のポーション一式も持ってきてもらうようリアスに伝えている
今は荷物とイリナが来るのを待っている最中だ
待ってる間、新は協会経由で届いた黒い依頼書を見直す
「……懐かしい場所だな。まさか、ここから依頼が来るとは」
物思いに
「新くん、お待たせ~」
「お待たせって……何なんだ、そのデカい荷物は?何を持ってきたんだ?」
「何って旅の必需品よ。着替えにパジャマ、歯ブラシにシャンプー、リンス、石鹸。それから……乙女の
「いらねぇよ!何泊するつもりなんだ⁉明らかに最低限のレベルを超えた量だろ!」
「でもでも!下着ぐらいは良いでしょ⁉これでもかなり減らしたんだから!」
「ほぉ……んで、リュックの中には何着入ってんだ?」
「えっと……20着ぐらい?」
「そんなにいるかァッ!」
出発前から体力を使ってしまいそうなやり取りに新は頭を痛め、リアスから自分の荷物を受け取る
「任務が終わり次第、連絡入れてから飛行機で戻ってくる。ただ、何日掛かるかは分からないが……なるべく急ぐ」
「でも、よほど危険な任務なんでしょ?気を付けるのよ」
「安心しろ、死んだりしねぇから」
「なら……無事に帰ってくるおまじないをしてあげる」
リアスは新の頬に手を添え、そのまま自分の唇を重ねた
突然のキスを目撃したイリナは顔を赤くして呆然とする
リアスは舌で彼の唇を優しく舐めた後、自分の唇に人差し指を添えて言う
「……足りないなら、何度でもしてあげるけど?」
「これ以上したら飛行機に乗り遅れちまうよ。帰ってきたら、また頼むぜ?」
新は荷物と共に嬉しいおまじないを受け取り、イリナにチケットを渡してゲートに向かっていった
「新くん……さっきリアスさんとキスしてたでしょ?」
「キス?いいえ、単なるおまじない痛たたたたたっ!脇腹をつねるな!地味に痛いっ、地味に痛いっ!」
―――――――――――――
離陸してから約3時間半、2人はようやく目的地である異国に到着した
空港を出て依頼書に同封されていた地図を確認、目的の場所―――とある教会を目指して足を進める
肌寒い風が吹く中、道中でホットコーヒーなどを買って飲む
「フゥ……ここのコーヒーは相変わらず美味いな。昔のままだ」
「新くん、この国に来た事あるの?」
「バウンティハンター時代、任務でよく駆り出されたからな。色々な国を飛び回ったが、その中でもここは頻繁だった。これから向かう所は俺がよく立ち入ってた教会だ」
「ふ~ん、それにしても……お酒まで買っちゃって。もしかして、仕事中に飲むの?ダメだよ、一応未成年―――」
「いや、こいつは手向け用だ」
“手向け”……主に神仏や死者に対して使われる言葉にイリナの口が止まる
この地で果てた者への供物なのか……?
そうこうしてる内に地図に記載されていた教会に着くが、新は教会へは入らず裏の方へと進む
教会の裏に足を進め、そこで見たのは―――
「…………お墓?」
「そうだ、この教会の裏は―――この国で死んだ奴らを
新とイリナの目には
かなり年代が古い物もあれば、真新しい墓標もある
新は端の方へ進み、5つ並んだ墓標の前で足を止めた
買ってきた酒の封を開け、右から順番に注いでいく
名前は右の墓標から『ノクス・レギオン 享年20』、『スピット・イグニルス 享年24』、『グラント・イーグリード 享年32 』、『アゼム・ロフト 享年21』、『ミツルギ・ディスカビル 享年19』と刻まれている
中身が空っぽになると酒瓶を置き、静かに瞑目及び合掌する
「新くん、このお墓は?」
「あぁ、昔の仕事仲間だ。俺がまだAクラスだった頃によくつるんでた。腐れ
「じゃあ、この人達も事故か病気で……?」
「いや……殺された。その内の1人は―――俺が殺した……」
新の口から出てきた凄惨な過去
それに呼応するかの如く、冷たいそよ風が頬を撫でる……っ
――――――――――――――――
時を
Aクラスになったばかりの新は協会からの依頼でとある地に足を運び、人々に害を成す魔物の討伐を
持ち前の『
「はぁ……はぁ……チクショウ!どれだけいるんだよ、こいつらは⁉」
数の多さと鬱陶しさに怒る新
魔物数匹が雄叫びを上げて飛び掛かろうとしたその時―――頭上より剣の群れが出現して魔物を串刺しにする
一瞬呆気に取られるが、直ぐに攻撃の主を見つける
「随分と手こずってる様だな。Aクラスになったのを良い事に、足元が
現れたのは黒髪の青年
彼の周りには多種多様な剣が浮遊しており、全ての切っ先が魔物達に向けられていた
青年の名はノクス・レギオン
新と同じAクラスのバウンティハンターで
召喚魔術のタイプは2種類に分かれ、1つは契約を交わした魔物などを使役するタイプ
もう1つは彼の様に武器などの物体を瞬時に呼び出すタイプがある
ノクスは召喚した武器を巧みに操り、魔物を掃討していく
「やっぱ俺、武器召喚に関しては最強ってか?」
「何だよ、人の手柄を横取りしてんじゃねぇ」
「うっわ!助けてやったのにそんな態度を取りますかね⁉相変わらず感じ悪っ」
不機嫌そうにするノクスの背後から魔物の1匹が迫り来るが―――魔物は彼に届く前に分断される
2つに裂かれた魔物の間に映ったのは刀を鞘に収める眼鏡の男
逆立てた茶髪に
その男は切れ長の目でノクスを睨み付ける
「言ったそばから、お前も疎かになってるぞ。背後の魔物に気付かんとは情けない」
「そん時はお前がサポートしてくれんだろ?ニルス」
スピット・イグニルス―――それが男の名前だ
彼もまたAクラスのバウンティハンターであり、こちらは剣術の使い手
鮮やかな抜刀術で次々と魔物を斬り
少し離れた地点では豪快な音が響き、魔物の群れが宙へと吹っ飛ぶ
「ヌハハハハハハッ!仲良き事は良いじゃないか!だが、ニルスの言う通り、もう少し自分も気を付けた方が良いぞ!」
巨大な盾を豪快に振り回す
実に分かりやすい典型的なパワーファイターだ
彼の後ろでは金髪の青年がハンドガンとショットガンで魔物を仕留めていた
「そうだよっ。僕達に美味しいトコ持ってかれちゃっても良いのかなー?」
銃使いの青年はアゼム・ロフト、主に後方支援を担当している
更に違う地点では貴族服を着た青年が1本の剣で魔物の群れを斬り倒す
「我が友―――ア・ラータとは言え、独り占めはやめてもらおう!この俺こそがバウンティハンターの頂点に立つ男だからな!さあ、有象無象の魔物達よ!我が
テンション高めで魔物の討伐に没頭しているのはミツルギ・ディスカビル
元々は名門貴族の出身だが、退屈な貴族暮らしに飽きてバウンティハンターに転職を果たした奇人且つナルシストである
彼らは皆Aクラスのバウンティハンターであり、良くも悪くも新が知り合った中で唯一気を許せる“仲間”
当の本人は“単なる腐れ縁”としか見ていなかったようだが、それでも心強い者達だ
やがて魔物の掃討が完了し、新は鎧を解除する
「……ったく、また報酬が山分けされるのかよ。このハイエナどもが」
「それ失礼じゃね?お前1人で片付けられる数じゃなかっただろ」
「実際、単独で仕留め切れるではなかったからな」
「チッ」
「ヌハハハハハハ!そんなに嫌そうな顔をするな!お陰で手っ取り早く片付いたじゃないか!」
「そうそう♪今日の晩飯はパァ~っと豪勢な物でも食べようよ」
「ならば、俺オススメのレストランに行こうではないか!」
新の都合など全く無視の上、やたらと干渉してくる5人に新は表面上は嫌そうな顔になるものの……内心では悪くないと感じていた
これも1つのチームの形であろうと思っていたが…… ある日を
その要因は“新の親友兼ライバル”を自称するミツルギ・ディスカビル―――彼の持つ魔剣スコルピオスが引き金となった
スコルピオスはただの魔剣ではなく、正確には
これにより所有者の身体能力を何倍にも向上させるのだが―――大きな落とし穴が存在した……
それは毒に適応出来ない者が使うと徐々に毒に犯され、最後には自我を失った怪物になってしまうと言う副作用だ……
ミツルギはそれに気付かず魔剣スコルピオスを使い続け―――遂に己の身を
単独任務終了後、全身に激痛が走り……ミツルギの体を異形へと
「な……っ⁉そ、そんな……俺が、俺が怪物に……っ⁉」
右腕は魔剣と同化し、左腕からも化け物じみた爪が生える
意識も
僅かに残っている理性が消えない内に今すぐ来るよう伝え、携帯機器を投げ捨てる
数分後、やって来た新はミツルギの異変に絶句
彼の肉体は殆ど人間の原型を留めておらず、顔の左半分だけが残されていた……
「何なんだよ、これ……っ。いったい何が遭ったんだ⁉ミツルギッ!」
「お、おお……我が友よ……っ。見ての通り……俺は怪物になってしまったんだ……。魔剣スコルピオスを制御出来なくて、このザマだ……っ。いずれ、俺は人としての意識を失うだろう……。だから、最期に……友であるお前に頼みがある……っ」
消え逝く意識の中、彼が残す遺言は―――
「俺を……お前の手で
「……ッ!……ふざけんなよ……っ。何勝手な事を言ってやがんだ!そんなの出来る訳無いだろ!」
「俺は
僅かに残ったミツルギの眼から流れる涙
悔しげに思いの丈を吐露する彼にはこうするしか方法が無かった……
「頼む……アラタ……っ。俺は最期まで……“人間”でいたい……っ」
自分の手が誰かの血で汚れる前に……彼は心だけでも“人間”としての領域を守りたいのだろう
彼の思いを聞いた新は唇を噛み締めた
血が出る程に、歯が割れそうになる程に悔しさを表す
そして……決意を固め終えた新は『
「…………分かったよ。腐れ縁、だもんな……。ミツルギ……お前の最期の望み……俺が叶えてやる……っ。友として……ッ!」
「………………それで良い…………我が友よ…………っ
その台詞を最後にミツルギは完全な異形の怪物と化し、呻き声を上げた
新は手元に剣を出現させ、赤いオーラを纏わせる
変わり果てた友に向かって歩み寄り、徐々に足を早めて剣を振り
「アアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアっ!」
抑え込んでいた絶叫を放ち、赤い剣がかつての友を真っ二つに切り裂いていった……
――――――――――――――――
「ミツルギを殺した俺は……勿論咎められたよ。怒り狂ったノクスにタコ殴りにされて、人殺しだの面汚しだの言われた。そこからあいつらとは疎遠になって、俺はこの国での任務を全て放棄したんだ。
「……………………っ」
イリナはなんて声を掛ければ良いのか分からなかった
こんな壮絶な仲間殺しの過去を話されては無理もない……
しかし、イリナは精一杯声を絞り出す
「新くん、その……魔剣の方はどうなったの……?」
「魔剣スコルピオスは忽然と消えちまったよ。俺がミツルギを殺して、泣き
「………………」
「仲間殺しの罪に背を向けたせいで、俺はあいつらも死なせた……。だから、2度とそんな事にならないように―――俺はもう逃げない。過去も今も受け止めて、俺はリアス達と共にいたい」
話を終えた新はイリナの肩に手を置く
「今回の任務、頼りにしてるから、お前も俺を頼ってくれよ?」
「も、勿論よ!私に任せちゃって!」
いつもの調子に戻ってくれた新に合わせてイリナも沈んだ気持ちを切り替え、教会の正門に戻っていった
今回出てきた仲間はFF15の主要キャラと仮面ライダーカブトの神代剣を元ネタにしております。
FF15ネタのキャラは以前から提案が来てたので、今回思いきって登場させてみました!
次回はいよいよ教会からの依頼、待ちに待ったあのキャラも出しちゃおうかと♪