ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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竜人の誇り

夜空の下に揺らめく草原で熾烈な合戦が(おこな)われていた

 

月影(げつえい)の間』の主―――長光重蔵(ナガミツ・ジュウゾウ)VSグレモリー・シトリー陣営

 

双方の攻防は更に激しさを増していた

 

ジュウゾウは日本刀からの斬撃と自身の左手から繰り出す三日月型の波動で殲滅を図る

 

祐斗、イリナ、巡は素早い動きを駆使して(かわ)し、ゼノヴィアと由良は飛んでくる斬撃と波動を得意のパワーで弾き返していく

 

“先程まで憔悴していた筈の奴らが、急に自分と拮抗状態になってきている”

 

ジュウゾウは目の前の現状に腹を立て、更に攻撃の度合いを上げる

 

「ちょこまかウロチョロと―――鬱陶しいんじゃあァッ!」

 

左手から放たれる(おびただ)しい数の三日月波動は上空に舞い上がり、豪雨の如く降り注ぐ

 

それを見てゼノヴィアはデュランダルを横に掲げ、莫大な量の聖なるオーラを解き放つ

 

気合いと共に振り抜かれるデュランダル

 

振り抜いた余波と聖なるオーラによって三日月型の波動が全て霧散していった

 

ジュウゾウは更に腹を立て、八つ当りするかの 如く日本刀を一振りした直後―――再び姿を消した

 

高速移動での直接攻撃に切り替えたのだろう

 

「木場、また奴が消えたぞ!」

 

ゼノヴィアの呼び掛けに祐斗は1度頷いた後、瞑目して集中力を高める

 

動きを肉眼だけで追おうとしても力で押され消耗戦になれば、いずれは動きについていけなくなってしまう

 

そこで祐斗は精神を落ち着かせて、最小限の動きでジュウゾウの凶刃(きょうじん)を捉えようと考えた

 

その場から動かず、奴が“斬り掛かってきた瞬間”を捉える……

 

微かな風がジュウゾウの殺気を運び、祐斗は瞬時に動いた

 

ガギィィィンッ!

 

自身の真後ろを振り抜き、そこから響いた金属同士の打ち付ける音

 

―――祐斗の刃を日本刀で受け止めるジュウゾウがいた

 

憎々しげに舌打ちをするジュウゾウに対し、祐斗は次なる一手を仕掛けた

 

「―――『魔剣創造(ソード・バース)』ッッ!」

 

ザシュッ!

 

足元から突き出てくる聖魔剣の刃が―――ジュウゾウの右足の甲を貫いた

 

更にダメ押しとばかりに祐斗は自らの右足、正確には靴底に短い聖魔剣を創り、残ったジュウゾウの左足をソレで刺し貫いた

 

完全にジュウゾウの動きを封じ、最大の好機が生まれる

 

「今だ!」

 

「ああっ!」

 

ゼノヴィアが聖なるオーラを濃縮させたデュランダルを振りかざし、ジュウゾウを横に薙ぎ払おうとする

 

相討ち覚悟かと思われた矢先、ゼノヴィアの後ろから翼を生やしたイリナが先回りして祐斗を確保

 

寸分の狂いが無いタイミング―――祐斗自身がデュランダルの圏内から離脱した刹那、ジュウゾウの腹にデュランダルの刃が深々と食い込んだ

 

ジュウゾウ血の塊を吐き散らし、豪快に後方へと吹き飛ぶ

 

「……やってくれたのう……っ、ガァキ共ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

「皆っ、畳み掛けるんだ!一瞬たりとも(いとま)を与えては勝ち目が無い!この少ないチャンスを逃がすなぁっ!」

 

降り立つ祐斗の一声で全員の士気が上がり、一気に攻勢に転じた

 

イリナの放った光輪や光の槍がジュウゾウに命中し、爆煙を生む

 

その煙の中から飛び出した巡の剣戟がジュウゾウの前面を切り裂き、彼女の後ろから来た由良の重い打撃がジュウゾウを打ち抜く

 

滑りながら煙から出てきたジュウゾウに剣戟を加える祐斗

 

指1本、まばたき、呼吸の動作すら与えない程の連続攻撃を仕掛けていき……最後にゼノヴィアが飛んでくる

 

「くらえぇぇぇぇぇえええええええええっ!」

 

濃密なオーラを纏ったデュランダルによる一撃がジュウゾウを斬り、余波はジュウゾウの周囲を大きく抉り取る程の威力だった

 

ジュウゾウも斬撃や三日月型の刃を飛ばすも、波に乗った彼らを捉える事は出来なかった

 

「が……っ、何でじゃあ……っ。このワシがぁ……たかが悪魔ごときのぉ、半人前のガキ共に押されとるやとぉぉ……ッ!」

 

「確かに僕達は個人的な実力なら、あなた達より遥かに劣っている。だけど、独りの力だけでは限界がある。足りないなら、補えば良い。自分の力だけで足りないなら、誰かに支えてもらえば良い。それが―――僕達がここまで来れた強みだ!」

 

祐斗の言葉にジュウゾウは怒りに震えた

 

歪んだ思想しか持たない彼らにとってその言葉は“自分達の生涯を全否定する”様なものだからだ

 

リュオーガ族は他種族から拒絶されてきたのに対し、眼前の悪魔達は受け入れられ、他種族と共存している

 

更に自分と渡り合える程の実力を身に付けている

 

強さこそ全てのジュウゾウにとって、これ程の屈辱は他に無かった……っ

 

「ガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」

 

憤怒の雄叫びを上げるジュウゾウから爆発する様にオーラが噴き出し、空間その物を震撼させる

 

「ここで……オドレらごときにぃ、殺られてたまるかァァァァァアアアアアアッ!」

 

ジュウゾウはオーラを流した日本刀を掲げ、円を描いていく

 

先程祐斗達に食らわせた竜奥義(りゅうおうぎ)―――『満月一閃(まんげついっせん)』の初動作だ

 

ただし、今回のは少し……否、大幅に違う点があった

 

背後に映る満月の輝きがおどろおどろしくなり、ジュウゾウの周囲に出現する刃の数も増加

 

更にはその刃と日本刀から滲み出てくるオーラが怨恨めいた顔の様な物を形成していた……

 

明らかな怒りと殺意を孕ませた一撃

 

尋常ならざるプレッシャーに嫌な汗がドッと吹き出る……

 

だが、それでも退く訳にはいかない

 

向こうで待っている仲間達の為にも……

 

祐斗達は1ヶ所に(つど)い、それぞれの武器を合わせて力を高める

 

ジュウゾウに対抗する合わせ技の下準備を(おこな)い―――時は満ちた

 

「死ねやァァァァァァァァァァァァァアアアアアアッ!」

 

ジュウゾウが渾身の力で日本刀を振り下ろすと、周りに出ていた刃の群れは一斉に向かっていった

 

怨恨、怨念を(ともな)った刃は口を裂きながら祐斗達を喰らおうと襲ってくる……

 

祐斗達も聖なるオーラと魔力を合わせた斬撃を放った

 

2つの超絶とも言える斬撃が正面衝突し、凄まじい衝撃波と爆発が辺り一帯に広がる

 

威力は殆ど互角と言った所だろう

 

拮抗状態が続く中、ゼノヴィアが更なる切り込みを入れた

 

聖なるオーラを(ほとばし)らせたデュランダルを1度引き、強い輝きを伴った刃を上に掲げる

 

「デュランダルッ!奴の刃を―――全て斬り払えぇぇぇぇぇえええええええええっ!」

 

振り下ろされたデュランダルから極大の聖なるオーラが噴き出し、先に放った合わせ技の斬撃と混じり合う

 

威力が格段に底上げされた斬撃は怨念の刃を次々と蹴散らし、その主までも飲み込んでいった

 

獣の咆哮にも似た断末魔を上げるジュウゾウ

 

聖と魔のオーラに全身を焼かれ、斬撃が消えた頃には既に勝敗はついていた

 

黒い煙と血が噴き出しており、日本刀を杖代わりにして立つ事すらままならない

 

だが、それでも奴は向かってくる……

 

途中で何度も(つまず)き転んでもお構い無し

 

「ま、まだじゃァ……っ、ワシはぁ……まだ、負けとらんぞぉ……っ」

 

いったい何処からそんな執念が沸き出るのだろうか?

 

並々ならぬジュウゾウの気迫に戦慄する一同

 

しかし、もう勝負は見えたも同然

 

祐斗はせめてもの情けと一太刀、ジュウゾウの前面を斬り払った……

 

斬り傷から噴き出る血が草原を真っ赤に染め、ジュウゾウの体が後ろに下がる

 

膝をつき、今度こそ勝負は決したと思ったが―――

 

「ま、まだ、まだじゃァ……っ」

 

「――――ッ!?」

 

なんとジュウゾウはまだ向かってくる……っ

 

戦意を消さず、体を起こして祐斗達の前に立ち塞がる

 

祐斗の肩を掴む左手には、もはや力などある筈も無い

 

しかし、奴の眼だけは戦いを止めようともしていなかった

 

祐斗は戦慄しながらもジュウゾウの左手を斬り飛ばした

 

宙を待った異形の左手は地に落ち、ジュウゾウはより一層苦しむ

 

もうこれ以上の追撃は無用……と言うよりは酷なものだ

 

消えかけた命を更に踏み(にじ)るなど、悪魔でも躊躇(ためら)う所業だろう……

 

そんな気も知らぬジュウゾウはしぶとく祐斗達に突っかかっていく

 

「……もう、やめましょう」

 

祐斗は堪らず発した

 

その一言にジュウゾウは足を止め、震えながら問う

 

「何でじゃあ……っ、ワシは……まだ動いとるぞ……っ。いつまで良い子ぶるつもりじゃぁ……っ」

 

「今のあなたに勝ち目はありません。これ以上向かってきても、ただ命を削るだけです」

 

「訳の分からん事をほざくなや……っ。敵にトドメ刺さんと、勝ったつもりでいるんか……っ?たかだか数年しか生きとらんクソガキがぁ……」

 

片腕を失った状態にもかかわらず、ジュウゾウは怒りに満ちた眼と日本刀を祐斗に向ける

 

「それで情けを掛けたつもりか!?敵の首を()らん悪魔が何処におるんじゃぁ!」

 

「僕達は弱った相手を痛めつけるなんて悪趣味を持ち合わせていない。それに……そんな事をしても意味が無い」

 

「意味が無い、やと……?」

 

「ええ。あなたがどれだけ戦意を向けようと、肉体がソレについていけない程のダメージを受けている。そんな相手を斬るのは剣士の主義に反する」

 

祐斗は聖魔剣をしまい、先に続く扉の方へ歩みを進める

 

他の皆も先を急ぐべく祐斗の後を追った

 

だが、祐斗の取った行為はジュウゾウにとってプライドを著しく傷付けられ、踏み(にじ)られるものだった……

 

「……こんの……クソガキがぁ……っ、待たんかい……っ」

 

ジュウゾウの呼び掛けに振り向く一同

 

ジュウゾウは手に持っている日本刀を自身の前に掲げ―――

 

「……オドレらに、ワシを殺る覚悟が無いなら……せめて目に焼き付けとけ……っ。これが―――ワシなりのケジメじゃぁ……ッ!」

 

次の瞬間、止めようとした祐斗の目の前でジュウゾウは自ら日本刀を顔面に突き刺した

 

度肝を抜く光景に祐斗とゼノヴィアは絶句、イリナと巡はあまりの凄惨さに目を逸らした

 

後頭部から突き出た刀身を伝い、ポタポタと血が流れ落ちていく

 

刀を顔面に突き刺したまま、ジュウゾウは祐斗達に言い放つ

 

「……ワシらリュオーガ族にとって……敵の情けを受けて生きるのは最大の恥や……っ。そんなもんで誇りを腐らせるぐらいやったら―――(いさぎよ)く死んだ方がマシじゃ……ボケがぁ……っ」

 

足取りをふらつかせ、ジュウゾウは最期の言葉を(のこ)

 

「この先……そんな甘ったれた根性で、生き残れると思わん方がええぞ……っ。ワシらも大概やが……この世には、オドレらの想像を遥かに超えた奴らがウヨウヨいるんじゃ……っ。精々、足を(すく)われんように……しとけよ……っ」

 

事切れたジュウゾウは前のめりに倒れ、その肉体が灰となって消えて逝く……

 

『月影の間』の主の死を悟ったのか、夜空の中で輝く満月も次第に色を失い……部屋が不気味な暗さに包まれる

 

不本意ながらジュウゾウの最期を見届け、リュオーガ族の歪みきった思想と誇りを知った祐斗達は気持ちを切り替えて先へと進む

 

『誇りを腐らせるぐらいなら死んだ方がマシ……?どうしてそんな歪んだ考えしか持てないんだ。地を這って、血反吐(ちへど)を吐いてでも生き延びようとしている者だっている……。僕だってその1人だ。生き方はそれぞれある、その生き方を否定して壊す権利は誰にも無い筈だよ……』

 

僅かに映った灰を見上げる祐斗は、ジュウゾウに対して静かな怒りを表した

 

『あなたは自ら死ぬ事で誇りを保つと言うなら―――僕は最期までグレモリー眷属の剣として生きる。それが僕の誇りだ』




ジュウゾウ戦は決着がつきました!
次はいよいよラース戦です!

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