「や、やりましたねっ、僕達の勝ちですぅっ!」
「……今回はギャーくんの大金星」
「そうですね。かなり苦戦を強いられましたが……ようやく先へ進めます」
「先輩達の分まで頑張りましょう!」
『血溜りの間』で勝利を収めたギャスパー、小猫、ロスヴァイセ、仁村の4人は奥へと続く扉を見付け、先へ進もうと歩み出す
その途中、後ろでズズ……ッと何かを引きずってくる様な音が聞こえてくる
「ま、待てよ……っ」と彼女達を呼び止める声
声の主は先程猛攻を受けたばかりのニトロだった
驚異的な生命力にギャスパーは身震いしてしまうが、当の本人はもう戦える状態ではない
全身から血を流し、足取りもフラフラ
尻尾も思い通りにならず引きずったままである
「あれだけの攻撃を受けて、まだ動けるのですか?」
「ヘヘッ、安心しな……っ。お前らの勝ちだよ……っ。言い訳なんざ一切しねぇ……。ただ、なんでそのまま部屋を出ようとするんだ……?」
「……どういう事?」
小猫の問いにニトロが出した答えは―――
「勝った奴の権利さ……。なんで負けた俺を殺そうとしねぇんだ……?おかしいだろ」
ニトロの言葉に全員の表情が固まり、話が続けられる
「……?なに固まってんだ?当然だろ。負けた奴に生きる価値なんかありゃしねぇ。それがリュオーガ族の掟だ……。このまま生きてても、いずれラースやジュウゾウが俺を殺す。いつ死のうが同じって事だ。だからよ、俺の命をお前らにくれてやんのさ……」
“負けた者は死”―――それは古来より定められたリュオーガ族の掟
竜の力を扱えない者や生き残れなかった者に価値など無い
ゆえに彼らは身内であろうと負けた者、力を扱えない者を自らの手で裁いてきたのだ
そしてニトロもギャスパー達に敗北、負け犬の仲間入りを果たしてしまった
そうなれば道は1つ、死ぬしかない……
掟を遵守した結果、彼らの種族は少数しかいないのだ
自ら死を受け入れる体勢のニトロにギャスパーは納得がいかない様子を浮かべた
「……どうした?早く殺れよ。お前らだって邪魔な奴らは殺してきたんじゃねぇのか?単にその数が増えるだけだ。俺らは所詮、誰からも忌み嫌われ、誰からも好かれない呪われた一族……。そんな奴らが死んだところで悲しむ奴はいやしねぇ……。―――あ、レモネード嬢だけか?悲しんでくれるのは……。けど、掟は大事だからな。花ぐらい添えてくれるだろう……」
ブツブツと呟くニトロに対し、ギャスパーは意を決した表情で歩み寄り―――ニトロの頬を叩いた
パチンっと乾いた音が小さく響き、ギャスパーのビンタに小猫達はおろか―――ビンタを食らったニトロさえも驚きを隠せなかった
一瞬呆然とするニトロ
ギャスパーはニトロの頬が思いの
「僕達はあなた達を殺しに来たんじゃありませんっ!ソーナ会長とセラフォルー様を助ける為に来たんですっ!それに……そんな事で“死ぬ”とか“殺して欲しい”とか言っちゃダメですっ!そんな事を言い出したら……僕なんか100回ぐらい死んじゃってますっ!」
「…………」
「僕だって最初は自分の力を使いこなせなくて、人に迷惑ばかり掛けて……何もかも嫌になって消えてしまいたいって思ってました……っ。でも、イッセー先輩はそんな僕を励まして、力をコントロールする練習にも熱心に付き合ってくれました!部長さんも僕を温かく迎え入れて、今……凄く幸せなんです。だから……イッセー先輩の為にも、部長さん達の為にも、僕は頑張っているんですっ!あなたにも心配してくれる人がいるなら―――その人の為を思って生きなきゃダメですぅっ!」
誰かに励まされ、叱咤激励を受けてきたギャスパーが珍しく相手に異を唱える
暫く呆然としていたニトロだが、脱力から尻餅をついて小さく笑った
「……まさか、敵側のベイビーちゃんにそんな事を言われるとは―――“死んじゃダメ”だなんて説教されるとは思わなかったぜ。……
心身共に敗北を認めたニトロは出口の扉を示し、奥に進むよう促す
ギャスパー達は扉を開いて奥の広間へ進んでいった
パタリと扉が閉まり、部屋で独り
「……ただ、ラースとジュウゾウ相手には説教なんざしないでくれよ……。あいつらは俺みたいなバカと頭の出来が違うし、強さも半端じゃねぇ……。俺なんて、あの2人に比べりゃ赤ん坊みてぇなもんさ……」
―――――――――――
ドゴォォォォンッ!ドゴォォォォンッ!
けたたましい爆音が鳴り響く『
この部屋に当たった祐斗、ゼノヴィア、イリナ、由良、巡の5人は逃げの一手に専念し切っていた
……と言うのも、『月影の間』の番人―――
巨大な爪を振り
大振りの攻撃を中断したジュウゾウは立ち止まり、退屈を体現するかの如く首を回す
「つまらんのう、ワレェ……。こんなんでワシらに啖呵切んなや。クソガキが」
只でさえドスの利いた声音に苛立ちの色も混ざり、ジュウゾウは唾を吐き捨てる
「ガキの遣いに付き合うつもりは無いんじゃ」
子供扱いされる祐斗達だが、隙を取れない相手ゆえに反論も出来ない
どうにか突破口を開けないか、思考を重ね続ける
そこでゼノヴィアがデュランダルを大きく掲げ、聖なるオーラを溜め始めた
「付き合うつもりが無いのはこちらも同じだ。お望み通り、一撃で沈めてやる」
「減らず口だけは一人前やのう」
攻撃の手を待つ程ジュウゾウはお人好しではない
巨大な2本の角から雷を
祐斗は直ぐに雷の
投げられた聖魔剣が輝きを放つと、雷が全て聖魔剣に吸収されていく
雷の聖魔剣が避雷針代わりとなって雷を防いだ
遠距離攻撃を防がれたジュウゾウは直接ゼノヴィアを叩く事に
巨大な爪を持った両腕を広げて突進していく道中、上空からイリナ、前方から由良と巡が壁となって立ち塞がる
更に祐斗も聖魔剣から聖剣に得物を変え、
ジュウゾウの周囲を取り囲み、龍騎士団を総突撃させる
上空から降り注ぐイリナの光撃、龍騎士団の手数、由良と巡のコンビネーションプレイにジュウゾウはすっかり翻弄されてしまう
素早い標的を捉えられず、時間だけが過ぎていく
「よしっ、チャージ完了だ!」
後方からゼノヴィアの呼び掛けが聞こえてくる
見てみれば、デュランダルは夜空を突き刺さんばかりの聖なるオーラを噴き上がらせていた
イリナ、由良、巡は一斉にその場から離れ、祐斗はジュウゾウを押さえるよう龍騎士団に指示を出す
ジュウゾウは力任せに1体ずつ引き剥がしたり、頭を砕いたりして龍騎士団を排除するが……
「これで―――終わりだッ!」
ゼノヴィアが一気にデュランダルを振り下ろすと、蓄積された聖なるオーラが轟音と共に放出された
まばゆい光を伴うオーラの奔流に飲み込まれていくジュウゾウ
その威力は夜空に漂う雲を全て霧散させる程凄まじいものだった……
膨大な一撃を放った為、ゼノヴィアは疲労から肩で息をする
一気に勝負が決まったかに思えたが―――世の中そんなに甘くはない……っ
聖なるオーラの奔流が過ぎ去った後、ジュウゾウは体から煙を噴かせながらもその場に現存していた
並大抵の者なら
衝撃の事態に目を見開く一同、ゼノヴィアも皮肉げに吐き捨てる
「……本当にバケモノだな、アレを耐えるとは」
その場で静止していたジュウゾウはゆっくりと首を鳴らし、肩も回す
煙を噴かしていた体や顔にヒビが入り、破片がポロポロと落ちる
「今のはええ威力やったわ。ええ威力やったが……精々ワシの贅肉と皮を剥がす程度やな」
ジュウゾウが“贅肉および皮”と表す全身の外殻が剥がれ落ち、中から灰色1色に染まった細身の竜人が姿を見せた
重厚なマッシヴスタイルから一変、スマートなフォルムを描いたジュウゾウは指を開閉させる
「それが貴様の正体か」
「せや、9割の奴らはこの姿を見せる前に潰してきたからのう。退屈しとったんや、久々に暴れさせてもらうで」
ジュウゾウが右手を地に向けてオーラを出すと―――そこから一振りの日本刀が出現
鮮やかな色合いなど皆無な日本刀を握り、試しとばかりに1回、2回と
恐らくここからがジュウゾウの本領発揮だろう
祐斗達は目を逸らさず身構える
そよ風が足元の草原をざわつかせた刹那―――ジュウゾウの姿が一瞬でその場から消え去った
「―――っ⁉消えた⁉」
突然の消失に驚く一同、全員が周囲を見渡してもジュウゾウの姿は何処にも無い
そんな中、祐斗は感覚を研ぎ澄ませて消えたジュウゾウを探しに掛かる
すると、一瞬だけブレた姿が見えたのか、神速の足でゼノヴィアの横に滑り込んで聖魔剣を斜めに振るう
ガキンッと金属音が鳴ったと同時にジュウゾウが姿を現した
一瞬で間合いを詰め、ゼノヴィアを切り払おうとしていたのだろう
祐斗以外の4人は全く見えなかった為か、驚愕せざるを得なかった
「ほう、ワシの動きについてきよったか。ガキの割には大したもんやな」
「これでもグレモリー眷属の『
「ふんっ、冥土の土産として受け取れや」
ジュウゾウは風を切る様な音を発すると共に姿を消す
再び高速移動で斬りかかってくるのだろう
ジュウゾウを追うべく祐斗も速度には速度で対抗
2人の姿が消えた草原で火花が散り、金属音が鳴り響く
夜空の下で超高速の剣戟合戦が繰り広げられている……
時折、2人の姿が見え隠れしたりするが、基本的に肉眼だけで見極めるのは不可能だろう
高速の剣戟合戦が一旦終わり、離れた位置で2人の姿が現れる
ジュウゾウはまだまだ余裕がありそうだが、祐斗は苦しい表情を浮かべていた
それもその筈、祐斗は手数と速度に特化している分―――腕力は然程無い
ゆえに剣の一撃一撃は軽く、なかなかダメージを与えられない
一方でジュウゾウは腕力、速度、技量も充実した上にドラゴンの性質からか、耐久力も優れている
剣戟の威力は圧倒的に上回っており、紙耐久しか無い祐斗は一太刀でも浴びれば一貫の終わりだろう……
ジュウゾウは日本刀に妖しげなオーラを流し、円を描く様に一周させる
夜空を照らす満月がそれに応えるかの如く輝きを増し、軌跡上に刃状のオーラが幾重にも出現していく
「
豪快に日本刀を振り下ろすと、周囲に浮遊していた刃状のオーラが祐斗達目掛けて一斉に襲い掛かっていった
祐斗はすかさず自分とゼノヴィア達の前に多量の聖魔剣を創造し、防御壁を張ったが……
ジュウゾウの放った剣戟波は予想を遥かに超えた威力ゆえ―――容易く突破されてしまった
多大な爆撃を生み出し、祐斗達を切り刻んでいく
竜奥義が止んだ後、ジュウゾウは日本刀を肩に乗せて一息入れる
祐斗達は全身傷だらけになりながらも何とか立ち上がり、戦闘の意思を消さずにいた
「ワシの奥義をまともに食らっても、まだ倒れへんか。根性だけは一人前やのう」
「こんな所で……止まってる暇は無い……ッ!私達は先へ進まなければならないんだ……っ!」
「イッセーくんも、新くんも……待ってるからね……っ。ここで足止めを食らってるようじゃ、彼らと並べないよ……っ」
「ふんっ、さっきから聞いとりゃ随分と連れに執心しとるようじゃのう。ワシに言わせりゃあ―――群れとる事自体くだらんのじゃ」
祐斗達の言動に強い嫌悪感を表すジュウゾウ
それは彼らリュオーガ族がこれまで他種族から受けてきた仕打ちから成るものだった
ドラゴンは元来より最強最悪の魔物として世界中に知れ渡っており、その力を有するだけで
自壊した者もいれば、他種族によって駆逐された者もいる
誰からも拒まれ、受け入れられる事など無かった
“周りの者全てが敵”
いつしかリュオーガ族にはそんな危険思想が刷り込まれていった
「ワシらは元から拒絶されとったんや。そんな奴らがいる世界なんぞ―――ぶち壊したるわ」
「その為にこんなバカげた事を……」
「バカげた?甘チャンのガキがよぉ言うわ。オドレらも結局同じやんけ。自分らに害を与えるモンに牙向けてきたんちゃうんかい」
ジュウゾウの言い分に祐斗達は言葉を詰まらせた
確かに自分達も平和な生活を壊したくないゆえに、歯向かってきた者達を討伐してきた
はぐれ悪魔、
自分達や周りを脅かす存在と敵対し続け、滅ぼした事もしばしば
「オドレらは正義を気取っとるつもりやろうが、結局根本的な考えはワシらと変わらん。いつまでも害を与えてくる奴らは―――消すしか無いやろ?薄っぺらい上っ面だけで誤魔化す生き方しか知らんガキがほざくな。
「……確かに、僕達も似た事をしてきましたよ。それは否定したくても出来ません。……でも、あなた達のように最初から拒絶して、ひねくれた考えを改めようとしない者ほど―――タチが悪いものはありません」
祐斗は真っ直ぐ剣の切っ先を向けて言い放つ
「それに……僕達はソーナ会長とセラフォルー様を助ける為にここへ来た。その気持ちを変えるつもりは無い!」
「…………」
祐斗の一喝にジュウゾウは舌打ちし、祐斗と同じ様に日本刀を突きつけて言う
「せやったら、その考えごとぶった斬ったるわ。甘ったれた考えだけで生き残れると思うなや。悪魔も人間も―――ワシらの手で残らず狩り
怒号を共に飛び出すジュウゾウ
祐斗達も負けじと一斉に走り出していく
満月が彩る夜空の下で今一度剣戟が鳴り響いた……
今回出てきた細身ジュウゾウのイメージはドラゴンオルフェノク・龍人体、技のイメージは牙鬼萬月の『牙凌道・満月斬』です。