最近忙しすぎです……
「嘘、だろ……?新がお前らと同じ……リュオーガ族……っ?」
衝撃の事実発覚に一誠も混乱していた
新の左腕に刻まれたドラゴンの痣、同じくアノンの首元に刻まれた痣がリュオーガ族の出自である事を証明
新は己に突きつけられた事実をどうしても信じられなかった……
ワナワナと震える新にアノンは話を続ける
「ありゃりゃ~?今でも信じられないって顔をしてるニャ。でも、その痣が何よりの証拠だし、君がリュオーガ族と言う事実を曲げる事は出来ないんだニャ」
ゆっくりと歩み寄って新の顔を覗き込むアノン
新の顔は困惑、混乱、疑心によって完全に平常心を失っていた
「ほらほら、せっかく同じ仲間と再会出来たんだから、もっと嬉しそうにして欲しいニャ♪」
「……ふ……ふざけんな……っ。だったら、なんで俺が“今”ここにいるんだよ……?お前らリュオーガ族はサーゼクス様、四大魔王に封印されたってのに……。なんで俺だけが……」
「それは当事者に聞くのが1番手っ取り早いニャ。ラース」
アノンが指を鳴らすと空中に映像が現れ、ラースの姿が映る
「ラース、お望みの切り札―――君の弟とご対面だニャ」
『フフッ、やはり“あの男”は詰めが甘かったようだね。僕の思惑通りに事を運んでくれて嬉しいよ。そして……やっと会えたね。我が弟―――ゼノン・ブラック・ドラグニル』
「黙れ……っ。俺は……俺は……」
『だいぶ混乱してるようだね。まあ、無理も無いか。でもね、君がリュオーガ族であり僕の弟である事実は明白なんだよ。全ては“あの男”が招いた結果なのさ。ここは僕よりも彼に聞くのが良い。それに皆にも聞かせてやろうじゃないか』
ラースの申し出にアノンは異を唱えるまでもなく了承、他の部屋の映像も映し出す
特に一回り大きい映像の中には―――大広間で待機しているアザゼル達の姿があった
勿論、竜崎総司の姿も……
ラースは皆に聞こえるよう、総司に“新=リュオーガ族”の真相をバラす
『やあ、竜崎総司。見えるかい?君1番恐れていた事態が発生したよ』
『…………ッ!』
「……親父……俺が、俺がこいつらと同じ種族だって……本当なのか……?」
放心状態で訊ねてくる新に総司は目を泳がせ、顔を逸らす
何も語らない総司に対して新は困惑、疑心から一転して怒りの色を強くする
「……いい加減にしろ……ッ!いつまで隠し事を作れば気が済むんだよ……ッ!?俺はいったい何なんだよッ!?言えよッ!そうやって黙ってるつもりかッ!?」
『…………っ』
「俺はぁ……ッ!俺はいったい……誰なんだよ……ッ!わけ分かんねぇよ……ッ!何が本当で!何が嘘なんだよッ!俺の人生は……テメェの嘘で踊らされてたのかよ……ッ!?」
総司への憎しみと悲しみを孕んだ新の言葉が映像を通して響き渡る……
平常心を失った新はすっかり心神喪失に陥り、自分の父親どころか何も信じられなくなっていた……
自分の正体、存在さえも……
『おい、これで良いのか?いつまで隠したまま逃げるつもりなんだ?』
居ても立ってもいられなくなったアザゼルが総司の胸ぐらを掴み、自身も怒りをぶつける
『これがお前の見たかったものか?新が―――自分の息子があんな状態になる事を望んでいたのか⁉嘘っぱちも大概にしろよ!今まで隠し続けてきた結果が今の状況なんだぞ!このままアイツが壊れても良いってのか⁉』
激昂するアザゼルに対し、総司は
しかし、口を閉ざせば閉ざすだけ不信感が強まり、自分に対する新の目も光を失っていく
そして、遂に――――
『…………もう、これ以上は限界みたいだね……。分かった……全て話すよ……』
とうとう観念したのか、総司は新の出生について重く閉ざしていた口を開いた
―――――――――――
時を
当時35歳、
しかし、彼らの力は常軌を逸する程の凶悪さを誇り、三日三晩の死闘も苦戦を強いられっぱなしだった
体力も限界に近く、状況は非常に
『くっ……まさか、彼らがこれ程の力を有していたとは……っ!』
『ゼクスくん……っ。このままジリ貧状態が続けば、いずれ押し切られてしまうよ……!』
相手に聞こえないよう会話するサーゼクスと総司
他の四大魔王も疲労はピークに達しており、殺られるのも時間の問題
そこで総司は最後の賭けを思い付き、サーゼクスに耳打ちする
それは―――総司が単独でラースを押さえ、四大魔王で残りの4人を押さえつつ封印術を施すと言ったものだった
四大魔王は四方からリュオーガ族を取り囲んで総司に魔力を流し込み、総司が
これならリュオーガ族を封印出来るのだが、一瞬たりとも気を抜けない上に僅かなミスでも犯せば
封印の
『―――っ!総司さん、いくらなんでも無茶が過ぎます……!それではあなたが危険に―――』
『今、ゼクスくん達を失えば冥界にとって大打撃になるだろ?心配無用さ、きっと成功する。いや……成功させなきゃダメだ!このまま奴らを野放しにしたら、人間も、悪魔も、全ての生物が滅ぼされてしまう……!ここ一度だけ腹を括ってくれ!』
総司の必死の説得により最後の賭けを承諾したサーゼクス
セラフォルー・レヴィアタン、アジュカ・ベルゼブブ、ファルビウム・アスモデウスら他の四大魔王にも通信用の小型魔方陣で作戦を伝える
全員の了解を得て、総司は全身から極大のオーラを放出させた
「何をするつもりか知らないけど、無駄だよ。君達には勝ち目など無い」
ラースを先頭にリュオーガ族が攻撃を仕掛けていった
5人全員が竜型の波動を解き放ち、総司を最初の亡き者にしようとする
総司は自ら突っ込んでいき、リュオーガ族が放った波動の中に飛び込む
正気の沙汰とは思えない行動……
怪訝そうに
竜型の波動の中からボロボロの総司が飛び出し、ラースの両手を封じた
ラースは即座に手を振り払おうとするが、総司の手から鎖状のオーラが出現してラースの手、足、体にまとわりつく
他の4人も総司の目論見を阻止する寸前、四方にいた四大魔王が放った縄状の魔力に捕まり、動きを封じられる
総司を中心に封印の魔方陣が徐々に描かれ、強い輝きがリュオーガ族を包み込んでいく
「……これで……君達も終わりだ……っ!」
「終わり?」
「そうさ……っ。この封印術で君達をこの砂漠の奥底に閉じ込める……っ!一瞬でも動きを止められれば、発動条件は満たせる……っ!」
総司は全身から放出したオーラを封印の魔方陣の紋様に流し込み、力強く封印の言葉を唱えた
「―――我らが定めし
それが引き金となり、リュオーガ族の足が封印の魔方陣に飲み込まれていく
ラース以外の4人は抜け出そうと
残るはラースただ1人……
彼もまた
否、正確には“抗う素振りすら見せなかった”と言った方が正しいか……
抵抗の意思を微塵も見せないどころか、寧ろ余裕を保っていた
あまりにも不審な彼の態度を怪訝そうに窺っていると、ラースは総司にしか聞こえないように話し掛けてきた
「フフフッ、本当にこんな封印術で僕達を封じ込めるとでも思っているのかい?詰めが甘かったね。僕達を封印しても無駄、君達の終わりが長引くだけさ」
「……どういう意味だ?」
「君にだけ教えてあげるよ。ここから北西に約100㎞地点に小さな
ラースの言葉を聞いて総司は絶句した
ここまで自分達を苦しめ、他の生物を滅ぼしてきた種族が新しい命を作った……
だが、どうにも解せない事がある
ラースは何故このタイミングで総司に話したのか……
自ら手の内を晒すような真似をしたのか……
それが気掛かりでならない総司はラースに問い詰めた
「何故、何故その事を私にだけ教えるんだ……?自分の首を絞めるのと同じだぞ……っ」
「心配ご無用。僕達が封印されようとも新たなリュオーガ族がいずれ君達を殺すさ。たとえしくじろうと……力さえ発動すれば僕達も
ラースの体が完全に沈む直前、最後にこう言い残す
「それに―――君は“人間”だろ?人間ごときが目の前の命に対してどう動くのか、少し興味があるのさ。……楽しみにしているよ」
意味深な台詞を残し、ラースは砂の奥底に消えていった
捨て台詞とは到底思えない内容に固まる総司
リュオーガ族の封印が完了し、多大な疲労感から全員がその場にへたり込んだ
「はぁ~……危なかったよぉ~……」
「全く……恐ろしい奴らだったな」
「ぜぇ……ぜぇ……もう、ダメ……っ。動けないよ……」
セラフォルー、アジュカ、ファルビウムの3人は息切れ必至
サーゼクスも肩で大きく息をしていた
これで平和を保てるだろうと安堵するのだが、固まっている総司を怪訝そうに窺う
声を掛けられた総司はハッと我に返り、サーゼクスの方を向く
「ど、どうしたんだい、ゼクスくん?」
「それはこちらの台詞ですよ。切羽詰まった様な顔をしてどうしたんですか?」
「い、いやな~に、今日が妻の誕生日だった事をすっかり忘れててね。たった今思い出してプレゼントをどうしようかと悩んでいたんだ。じゃあ私はこれで。妻は心配性で泣き虫だから、早く帰ってやらないと大泣きしてしまうんでね」
「そ、そうですか。大変ですね」
総司は急ぐように鎧を修復し、その場から飛び去っていった
確かに今日は彼の妻―――
全速力で空を飛び、雲すら蹴散らしながら社を目指す
飛行を初めて数時間、ようやく社に到着した総司はそこで“ある物”を見つけた
祭壇らしき石の上に
否、漆黒の卵と言った方が正しい
「……これが、新たなリュオーガ族の……」
恐る恐る近付いていくと……卵に亀裂が生じる
ヒビはどんどん広がっていき、亀裂の隙間から微かな光が漏れる
小さな手がゆっくりと卵の殻を破り、徐々に姿を現していく
卵から生まれたのは―――小さな赤ん坊だった
姿形は人間の赤ん坊と全く変わらない
しかし、この赤ん坊こそが紛れも無いリュオーガ族の切り札
それもラースが言っていた『
「ァゥゥゥっ?ゥゥゥっ」
生まれたばかりの赤子は外の世界が珍しいのか、頻りに首を動かして周りの景色を眺める
総司は祭壇へ歩み寄り、その赤ん坊をジッと見つめた
他の生物を無慈悲に殺し、自分達を散々苦しめたリュオーガ族の新しい勢力
“今ここで殺さなければ……”
そう直感した総司は右籠手に爪状のオーラを形成させ、ゆっくりと頭上へ掲げる
「……ンゥゥゥっ?」
勿論、赤ん坊は総司の行動の意味を全く理解していない
ただ首を少し傾けて総司を見つめているだけ……
「……ッ!…………ッ!」
総司の心は揺らいでいた
たとえ怨敵リュオーガ族と言えど、目の前にいるのは生まれたばかりの赤子
何も知らない純真無垢の赤ん坊を殺す―――それはまともな人間が成せる
心中で葛藤が続き、やがて爪状のオーラが輝きを失い―――遂には消えた
地面に膝をついて兜を解除する総司
「……出来る訳っ、無いだろ……っ。この子は……この子には何の罪も無い……!生まれたばかりの赤ん坊をっ、一瞬でも“殺さなければ”って……考えてしまった……!」
のし掛かってくる罪悪感に負け、振り上げた拳を諌めた総司だが……このままにしておく訳にもいかない
冥界政府で保護してもらう事も考えたが、恐らく上役は直ぐに危険と判断して処分と言う最悪の手段を取るだろう
このまま逃がすのも難しく、危惧していた力もいずれ目覚めてしまう……
悩んだ末に総司は覚悟を決め、ある決断をした
「私に宿る『
総司が取った方法とは―――自身の体に宿っている『
異形の力を他の異形の力で抑え込むと言う前代未聞の方法……
しかし、リュオーガ族の力を抑えられたとしても『
敵対する
過酷な運命の重荷を背負わせない為とはいえ、あまりにも理不尽な押し付け……
しかし、総司は後悔などしなかった
「生まれたばかりの命を消す外道になるぐらいなら……私は敢えて―――この子を守る
総司は自らの体から放出された
『
光が止み、移植は無事に終了したが―――総司の体に異変が生じる……っ
「ぐっ!ぐあっあぁぁぁぁぁぁぁ……!や、やはり……私の体をっ、蝕んでいたのか……!」
そう、これまで『
普通の人間が異形の力を宿せば侵食されるのは必然
今までその兆しが見られなかったのは鎧自体が蓋の役割を果たしていたから
だが、その蓋を外した途端―――蝕んでいた力が一気に爆発
総司の体をとてつもない速度で人間から異形へと変貌させていった……
「ぐあああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
絶叫を解き放つ総司の腕が、足が、体が人の形を崩し―――彼を異形の
自我を失わなかったにしろ、人間の領域から踏み外した総司は自分の手を眺める
「……ハハッ、これで私もバケモノの一員か……っ。こんな恐ろしい姿、梓には見せられないなぁ……」
ガクリと気を落とす総司
そんな彼の手に触れる小さな手……
「ァゥゥゥッ、ダッ、ゥゥゥっ」
無垢ゆえの行動か、赤ん坊は異形と化した総司の手に触れ―――指をキュッと握り締める
この行動に特別な意図は無い
だが、今の総司にとってはこれ以上無い励ましだった
無垢な赤ん坊の手が総司の傷心を癒す
自然と涙を流す総司は赤ん坊を優しく抱きかかえ、嗚咽を漏らした
「……ありがとう……っ。ありがとう……っ!励ましてくれて……!」
総司は
腕の中に抱えた赤ん坊と共に……
――――――――――――――
「梓、ただいま」
「あ~っ!総ちゃんっ、おかえりなさ~い!遅いから心配しちゃった~!あれ?その子はどうしたの?」
「うん、帰る途中で見つけたんだ。この子……捨て子なんだ」
「優しい総ちゃん素敵っ☆もしかしてその子、新しい家族になるの!?」
「そのつもりだよ。ダメ、かな……?」
「ううん!嬉しい!私のお誕生日に赤ちゃんが出来るなんて最高~!で、で、名前は?まだ決まってないの?」
「実はもう決めてあるんだ。この子の名前は―――
「新ちゃん、良いお名前っ☆ね、ね、私にも抱っこさせて~」
「うん、良いよ」
「はぁ~い。今日からあなたは新ちゃんよ~。宜しくね~」
「ァゥゥゥっ♪」