ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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リュオーガ族戦、始まります!


人形使いレモネード

リュオーガ族による『竜獄の宴(ドラゴニック・ヘルズ)』が開始されて早々、動きがあった『人形の間』

 

椿姫、花戒、草下の3人は思いがけない事態に苦戦を強いられいた……

 

突如、匙が敵側に寝返り攻撃を仕掛けてきたのだ

 

バケモノ人形と共に取り囲み、椿姫達の退路を断つ匙

 

「元ちゃんっ!どうしちゃったの!?目を覚ましてっ!」

 

「私達は味方だよっ!?」

 

花戒と草下が必死に呼び掛けるが、匙は一向に返事をしない

 

ただ苦しそうに顔を歪め、(いびつ)な動きをするだけ……

 

そんな匙の後方で悠々と高みの見物をしているレモネード

 

“彼女が何らかの方法で匙をコントロールしているのではないか?”

 

椿姫はそんな疑念を脳裏に浮かべるが、どの様にしてコントロールしているのか……その方法が分からない

 

次々と襲ってくるバケモノ人形の攻撃を回避しながら頭を働かせるが、この苦しい状況が思考を鈍らせる

 

『いずれにしても、何とか匙を解放させなければ……っ!しかし、どうやって匙を……?』

 

バケモノ人形の猛攻に耐え続ける椿姫、花戒、草下の3人をただ眺める事しか出来ない匙

 

そう、椿姫の読み通り―――彼は自分の意思での行動を封じられていた……っ

 

言葉を発せず、指1本すら自分の意思で動かせない

 

『クソ……ッ!クソ……ッ!チクショウ……ッ!口どころか指1本動かせないなんて……ッ!こんなの有りかよ……っ!?副会長や花戒、草下に伝える事も出来ず、操られて自滅だなんて……ッ!ふざけんなよ……っ!』

 

悔しさ、嘆き、(いきどお)りを心中で吐露し続ける匙

 

言葉と行動を封じられ、操作されてはいるが―――思考だけは己の物だった

 

しかし、それらは相手に伝えられなければ意味が無い……

 

どれだけ心中で叫んでも、結局届かない

 

主犯であるレモネードを睨み付けようにも、それすら叶わずただ操られる……

 

惨めな程の愚かさ、不甲斐なさ、まさに今の匙はレモネードの操り人形―――道化だった

 

『……クスクスクス、無理よ。あなたはもう自分の意思ではどうにも出来ない。全部、私の思いのまま……』

 

レモネードの指に呼応して躍り続ける哀れな道化()

 

匙の心中を読み取り、面白がる

 

『……どう?これが私の竜奥義(りゅうおうぎ)―――「道化の遊戯(サイコ・ストリングス)」。目に見えないほど細いオーラの糸で相手を操れる』

 

そう、匙はやはりレモネードによって操られていた

 

彼女の指から伸びたオーラの糸が匙に接続し、意のままに操っていたのだ

 

更にオーラの糸は視認が難しいほど細い

 

周りにいるバケモノ人形達もこの能力で動かしていた

 

レモネードは『道化の遊戯(サイコ・ストリングス)』で幾多の戦士、強者達を(ほうむ)ってきた

 

単独ならばその者の動きを止め、バケモノ人形で(なぶ)り殺し

 

複数なら、その内の1人を操って同士討ちさせる

 

彼女自身は(みずか)ら手を汚す事無く、相手同士の共食いによって自滅

 

操られ、仲間を(ほふ)り、惨めな最期を遂げる……

 

哀れな道化人形を演じる舞台、それがこの『人形の間』

 

彼女の前ではどんな戦士だろうと―――たちまちオモチャにされ、操り人形と成り下がり……最終的には死に果てる……

 

『……クスクスクス、どんなに抵抗しても無駄。あなたは私の操り人形。私の為に踊って、遊んでね?』

 

『クソォ……ッ!クソォ……ッ!クソッ、クソッ、クソッ!チクショウッ!』

 

腹の底で怒りを(あらわ)にする匙だが、自分の意思ではどうする事も出来ない

 

その間にも椿姫達はバケモノ人形の猛攻で傷付いていく

 

衣服が薄皮と共に斬られ、彼女達の肢体が徐々に(あらわ)になってきた

 

匙は思わず釘付けになってしまい、顔を赤らめる

 

元から女性に対しての免疫力が低い匙にとって今の状態は死活問題

 

視線すら自力で逸らす事も出来ないのだから椿姫達の肢体を直視してしまう……

 

そんな匙の心境に気付いたレモネードは口元を押さえてクスクスと笑う

 

『……あなた、見掛けによらず純情さん。女の子とまともに手を繋いだ事も無いのね』

 

『……ッ!?な、何でそんな事が……ッ!?』

 

『……私とあなたは今、繋がってる。この糸を介して、あなたの心も分かるの。「道化の遊戯(サイコ・ストリングス)」は相手を操るだけじゃない。その人の心中まで暴いちゃうの。……あなたの心が手に取る様に分かる』

 

『ひでぇよっ!プライバシーの侵害だっ!』

 

匙の心中を隅々まで暴いたレモネードは何を思い付いたのか、バケモノ人形の動きをストップさせる

 

力無く停止するバケモノ人形を不審に(うかが)う椿姫達に操られた匙が襲い掛かる

 

両手に黒炎(こくえん)を纏わせた匙の拳を何とか回避するものの、やはり攻撃する事が出来ない

 

椿姫に向かって繰り出される黒炎の拳を花戒と草下が防御魔方陣で止めようとする

 

拳が防御魔方陣に直撃し、バチバチと魔力が(ほとばし)

 

「元ちゃんっ!お願いっ、もうやめてっ!」

 

花戒が必死に呼び掛けるが、その願いは今の匙には届かない

 

レモネードは指を動かし、匙にもう一度黒炎の拳を繰り出させて防御魔方陣を壊す

 

破壊された防御魔方陣の破片が花戒と草下の肌を斬り、再び彼女達の肌の露出度が上がる

 

レモネードは好機と見て匙を花戒の眼前まで動かし―――

 

モニュゥッ

 

―――花戒の胸を鷲掴みさせた

 

一瞬、何が起こっているのか分からなかった花戒だが……数秒後に正常な思考を取り戻し現状把握

 

顔がみるみる赤く染まっていき、絶叫した

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁああああああっ!げ、元ちゃんっ!?ななななななんで何でっ!?」

 

「さ、匙っ!?こんな時に何をやっているんですかっ!」

 

『んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!ち、違うチガウチガウっ!俺の意思じゃないんですよ!って言っても伝えられないんだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっ!やめろォッ!俺の体で遊ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!』

 

心の中で叫べど、届く筈も無い上にレモネードも止めるつもりは毛頭無い

 

『……クスクス。どう、初めて触った感触は?』

 

レモネードの操作によって匙は花戒の胸を揉み続ける、揉み続ける、揉み続ける(笑)

 

次第に花戒の息遣いが(なまめ)かしくなっていき、紅潮の色が強くなる

 

「げ……元ちゃん……っ。ダメぇ……ダメよぉ……っ。副会長達も見てるのに……っ。こんな……竜崎くんみたいに……エッチになっちゃ……」

 

『ぬおおおおおおおっ!誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっ!俺の意思じゃないのにぃぃぃぃぃぃぃぃっ!』

 

屈辱のあまり血涙(けつるい)まで流れてきた匙

 

しかし、そんな抵抗も虚しく空振り、おっぱいの感触が匙に言葉に出来ない心地好さを与える

 

『…………ああ……っ、操られているのは分かっているのに、この状況をもっと味わいたいって思ってる俺がいる……っ!情けねぇ……っ、情けねぇのに……っ。これが、これが兵藤の言ってたおっぱいの素晴しさなのか……っ』

 

ムニュムニュと形を歪める花戒のおっぱいを直視、鼻血まで垂れてくる始末

 

レモネードは葛藤する匙を見てクスクスと笑い、更なる追い討ちを掛ける

 

花戒のおっぱいから手を放させ、今度は草下のおっぱいを匙に揉ませた

 

「ぃやあぁぁっ!げ、元ちゃん……ダメだよぉぉ……っ。―――ぁんっ。そ、そこはぁ……っ」

 

『チクショォォォォォッ!憎い!抵抗すら出来ない自分が憎いっ!でもチョー気持ち良いとか思っちまうよォォォォォッ!』

 

「匙っ!いい加減にしなさいっ!」

 

見るに見兼ねた椿姫が薙刀の柄で匙の頭を横殴り

 

匙は草下から離れるが、直ぐに体勢を立て直す

 

『……クスクスクス、今度はあの人にしようね』

 

『―――ッ!よ、よせ……っ、やめろ!やめてくれ!副会長は洒落にならない!殺されるゥゥゥゥゥゥゥ!』

 

レモネードの企みに心中では(あらが)うものの、どうにもならない

 

不規則な動きで椿姫に近付いていき―――隙を突いて彼女のおっぱいに顔を(うず)めた

 

「……っ!?こ、この……っ!」

 

椿姫は薙刀で斬ろうとするが、匙は彼女にまとわりつく様に回避し、薙刀の届かない背後に回って再びおっぱいを鷲掴みにした

 

もはやただの痴漢行為である……

 

「やっ、やめなさい匙っ!ぁ……っ、何処に手を入れて……ゃん……っ!」

 

『ヤバいヤバいヤバいヤバい……っ!殺される!絶対後で殺されるゥゥゥゥゥゥゥ!』

 

『……クスクスクス、あなた可愛い♪』

 

レモネードは空いた手で口元を押さえつつ笑い、匙から滝の様な冷や汗が流れてくる

 

花戒と草下が駆け寄って引き離そうとするが、匙はなかなか離れない

 

悪戦苦闘する2人の目に“ある物”が映り込む

 

それは―――僅かに光を反射する糸

 

ユラユラとオーラを漂わせる糸が匙から伸びている

 

それを追っていくと頭上から、そして頭上からレモネードの方へ伸びている事に気付く

 

遂に匙が乱心したカラクリを見破った

 

「副会長!これです!この変な糸が元ちゃんを操っていたんです!」

 

「糸……っ?やはり、彼女が操っていたのね……っ。……魔術や暗示の(たぐい)ではなく、直接コントロールしていたなんて……っ。しかし、元凶さえ分かれば!」

 

椿姫は持っている薙刀にオーラを集め、切れ味を高めた薙刀を匙の頭上へ振るう

 

プツッと何かを斬った感触もあり、同時に匙が操り地獄から解放された

 

「あ、あぁ、動ける!自由だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!自由になれたんだぁぁぁぁぁっ!そしてスンマセンしたっ、副会長!」

 

「匙、お喋りは後にしなさい!好き勝手にされた分、返してやりなさい!」

 

椿姫の叱咤を受けて敬礼する匙は直ぐに臨戦態勢を取る

 

一方、レモネードは停止状態だったバケモノ人形達を再び動かし、突撃させる

 

匙は先程のお返しとばかりに大質量の黒炎を解き放ってバケモノ人形達を焼き尽くす

 

呪いの黒炎はバケモノ人形を焼き払うだけでなく、それらを操っていたオーラの糸を伝っていく

 

レモネードは直ぐにオーラの糸を切り離して黒炎の追撃を防ごうとするが、匙は周囲に黒炎の壁を敷き詰めた

 

レモネードの周りを取り囲んで退路を断ち切る黒炎

 

「よくも好き勝手に操ってくれたな!くらえぇぇぇぇぇぇっ!」

 

積年の恨みを込めた様な極大の黒炎が放たれ、一直線にレモネードへ向かっていく

 

周囲を囲まれ、正面からも向かってくる黒炎にレモネードは動揺1つ見せない

 

やがて黒炎は周囲の黒炎と合わさってレモネードを飲み込んでいった

 

轟々(ごうごう)と燃え盛る『黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)』ヴリトラの黒炎

 

一矢報いた匙は(きびす)を返して椿姫達に土下座する

 

「本当にスンマセンした!マジでスンマセンした!ただ、あれは俺の意思じゃなくて―――」

 

「え、ええ。それは分かっています。だから、もう顔を上げなさい」

 

コホンと咳払いする椿姫と苦笑する花戒、草下

 

何はともあれ、これで『人形の間』での戦いが終わり―――

 

ギュオォォォォォォォォォォォ……っ

 

否、終わっていなかった……っ

 

不気味な音がレモネードのいた場所から響いてくる

 

見てみると―――匙の放った黒炎が独りでに渦巻き、レモネードの口へと吸い込まれていた……っ

 

想像だにしてなかった事態に度肝を抜かれ、絶句する

 

何が起きたのか全く理解出来ず、黒炎は急速な勢いでレモネードに吸い尽くされた

 

チュルッと黒炎の端を(すす)り、舌を出して苦い顔をする

 

「……この黒い炎、美味しくない」

 

「な、何で……何で俺の炎が……っ?」

 

「……私達リュオーガ族には“竜の呼吸法”がある。その呼吸法を習得すれば、こんな風に炎や水を吸い込んで―――返す事も出来る」

 

クスクスと笑みを浮かべるレモネード

 

彼女の背中からドラゴンの両翼が広がり、一気にオーラの質が高まる

 

更にレモネードの口から閃光を放つ炎が出現し、それがどんどん大きくなっていく

 

危険を感じた椿姫は全員で防御魔方陣を展開するよう指示

 

椿姫自身も『追憶の鏡(ミラー・アリス)』を展開して攻撃を跳ね返す準備を整える

 

だが……っ

 

「―――『火竜の息吹(フレア・ブレス)』」

 

ゴオォッ!!

 

華奢な少女の口から吐き出された極大の炎が『人形の間』全体を閃光で覆った……

 

 

――――――――――――

 

 

ドオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!

 

『人形の間』の扉が大きく吹き飛び、極大の炎の帯が城の壁を突き破って空の彼方へと消えていく

 

突然の爆音に身構えるアザゼル

 

「な、何だ!?今の爆発は!?」

 

不穏な空気がアザゼル達を支配し、嫌な予感を(よぎ)らせる

 

その嫌な予感は見事に的中してしまう……

 

爆煙の中から複数の人影が飛び出し、アザゼル達の前に落ちる

 

それは血と傷にまみれ、死に体寸前となった匙、椿姫、花戒、草下の4人だった……

 

あまりにも酷い状態に絶句するアーシアとレイヴェル

 

扉の前にはレモネードが(たたず)み、つまらなそうに吐き捨てる

 

「……その人達、弱かった。それに、探してる人もいない。ハズレ」

 

「何、だと……っ!?」

 

激しい敵意を孕んで睨み付けるアザゼルだが、今は匙達の治療を優先させなければならない

 

放心しているアーシアに回復を呼び掛け、ハッと我に返ったアーシアは急いで回復を施す

 

その間にレモネードは城の上部に浮遊しているフィールドへ登っていく

 

各部屋の勝者はそこへ上がり、最終戦が始まるまで待機するらしい

 

初戦はいきなり黒星を付けられてしまった……

 

大事な教え子をボロボロにされたアザゼルは拳を氷の床に叩き付け、亀裂を入れる

 

 

――――――――――

 

 

「フフフッ、どうやら早くも決着がついたようだ。それも君達にとって悪い知らせのようだ」

 

場面変わって『竜星(りゅうせい)の間』

 

レモネードの勝利を確信したラースは嫌な笑みを浮かべて報告し、リアス達の戦意を削ぎ落とそうとする

 

しかし、リアス達は逆に仲間の仇と言う形で戦意を高めた

 

「そう……なら、その分をあなたにぶつけてやるわ!」

 

リアスは怒りで底上げした特大の消滅魔力を放ち、朱乃も特大の雷光を解き放つ

 

渉は魔狼剣(まろうけん)フェンリオスを逆手に持って上空から急降下、祐希那も肥大化させた氷の斧を横薙ぎに振るう

 

ラースは慌てる事無く、背中から展開した両翼で消滅魔力と雷光を切り裂いた

 

次に自身の両腕を赤い鱗に覆われた皮質に変化させ、左右の手で魔狼剣フェンリオスと氷の斧を掴んで止める

 

余裕綽々のラース・フレイム・ドラグニル

 

「この程度だと残りの部屋も直ぐに終わりそうだね。精々哀れに踊って散り果てるが良いさ、下等生物(あくま)ども」

 

 

――――――――――

 

 

再び場面が変わって『泉の間』

 

この部屋の主であるアノン・アムナエルと交戦中の新と一誠は先程の爆音に気を取られていた

 

どの部屋で誰がどうなったか知る(すべ)も無く、一誠は不安に駆られる

 

その様子を見ていたアノンはステッキをくるくると回して笑う

 

「ニャハハハハッ♪早くも脱落者が出ちゃったのかニャ~?そう心配しなくても、直ぐにお友達の所へ逝かせてあげるニャ」

 

「うるせぇ!部長や俺達がお前らなんかに負ける訳ねぇだろ!」

 

憤慨した一誠は禁手(バランス・ブレイカー)―――『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』を展開

 

背中のブースターを噴かして飛び出し、アノンにオーラのこもった拳打をくらわせようとした

 

しかし、アノンが指を鳴らした瞬間―――アノンの姿が忽然と消え、空振(からぶ)った一誠の一撃はただ岩を破壊しただけで終わった

 

周りを見渡すと別の方向からアノンが出現

 

すかさず新も『闇皇(やみおう)の鎧』を展開して剣で斬りかかる

 

だが、その剣戟もアノンの体を素通りしてしまい……斬った筈のアノンは揺らめきながら消えていく

 

幻影―――(すなわ)ち偽物

 

今斬ったのは偽物だった

 

再びアノンの高笑いが聞こえ、今度は正面にその姿を現す

 

2人が再三の攻撃を(こころ)みた刹那―――アノンが1人、2人、3人……否、無限に増えていく

 

(おびただ)しい数のアノンが新と一誠を取り囲む

 

『どうかニャ?これが僕の竜奥義(りゅうおうぎ)―――『魔術師の幻影(トリッキー・レディオ)』だニャ。本物の僕はこの中にいるけど、見つけられるかニャ~?』

 

一斉に喋り出す幻影アノンの群れ

 

その中に本物のアノンも混じっている

 

見た目だけで見分けるのはまず不可能

 

「だったら……全部ぶっ倒すまでだ!」

 

「俺と一誠の得意分野をナメるなよ」

 

偽物の群れに本物が混ざっているなら全て薙ぎ払う―――2人はそう言う結論を出した

 

口で言うのは簡単だが実際は難しい

 

ましてや相手は四大魔王ですら苦戦したリュオーガ族

 

アノンの群れは高笑いと共に空中を縦横無尽に飛び回り、2人に攻撃を仕掛けていった

 

オーラを纏わせたステッキでの刺突(しとつ)や打突、ステッキから噴き出る炎、アノン自身の蹴りも飛んでくる

 

幻影アノンの群れによる手数は圧倒的に多く、対処しようにもキリが無い

 

その上、攻撃して幻影を消しても本体が直ぐに新しい幻影を生み出していく

 

向こうの攻撃は食らうのに新と一誠の攻撃は全て通じない……

 

消えては現れ、消えては現れを繰り返す悪循環の無限ループ

 

更にアノンはマントを(ひるがえ)して消えると2人の死角から現れ、背中や腹をステッキで突きまくる

 

瞬間移動マジックの様な移動術を駆使した不意討ち

 

手品の如く多彩な技と手数で新と一誠を圧倒していく

 

幻影の群れに苦戦する新と一誠の死角からステッキを構えるアノン

 

ステッキに螺旋状のオーラが宿り、凶悪な刺突武器と化す

 

その標的に狙われたのは一誠だった

 

「弱そうな奴からご退場願うニャッ!」

 

急加速で滑空し、ステッキで串刺しにするべく向かっていく

 

当の一誠は幻影アノンの対処に精一杯で背後から向かってくる本物のアノンに気付いてない

 

それを見た新は幻影アノンをはね除け、滑空してくるアノンを迎撃しようと斬りかかる

 

だが……アノンは軽やかに(かわ)し、逆に新の左腕をステッキで串刺しにした

 

ステッキから(ほとばし)るオーラが新の左腕を焼き払い、その部分の鎧を粉微塵に砕く

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ニャハハハハッ。他人なんか守ってバカだニャッ!」

 

その後、アノンはステッキを横薙ぎに振って新を泉に殴り飛ばす

 

新はそのまま泉に落下、大きな水飛沫(みずしぶき)を打ち上げる

 

新がやられた事に憤慨した一誠はドラゴンショットの構えを取るが……アノンはステッキを勢い良く伸ばして妨害

 

急速に伸びたステッキが一誠の鎧を砕き、腹に深々と食い込ませた挙げ句―――そのまま地面に叩きつけた

 

一誠の口から血反吐 (ちへど)が飛び散る

 

恐らく今の一撃で肋骨が1本折れたのだろう……

 

負傷した腹を押さえながらユラユラと立ち上がる一誠

 

そのすぐ後に泉から上がってくる新

 

「ぐ……っ!あの野郎……完全に遊んでやがる……!」

 

「こっちは全力で攻撃してるってのに……全然通用しない……っ。マジでバケモンだな……」

 

余裕綽々の態度を見せるアノンに苛立つ新と苦い顔となる一誠

 

新は貫かれ、ステッキのオーラで焼かれた左腕を押さえていると―――ある違和感に気付く

 

不自然に捲れた皮膚に注目してみると……左腕の皮膚の下から“何か”が見えている

 

「こいつは……人工皮膚?」

 

人工皮膚とは文字通り自身の細胞組織から作られた皮膚ではなく、主に牛や豚のコラーゲン等を用いて作られた皮膚であり、重度の火傷や傷痕を隠す為にある

 

新は気になって人工皮膚をむしり取ってみる

 

人工皮膚の下から出てきたのは―――1つの痣だった

 

まるで口を開けたドラゴンの様な形をした痣

 

何故自分にこの様な痣があるのか疑問に思っていると―――

 

「ニャ、ニャ、ニャニャニャニャニャニャニャニャニャァァァァッ!?そ、その痣は!?」

 

初めて余裕を崩し、素っ頓狂な声を上げるアノン

 

新の左腕に刻まれたドラゴンの痣に見覚えがあるのだろうか……?

 

新だけでなく一誠もドラゴンの痣に注目する中、アノンは何かを洞察するかの如くブツブツと独り言を唱え―――何かに至った様に笑い始めた

 

「……そうか、そうか。ラースが言ってたのはこの事だったんだニャ。……ニャハッ♪ニャハハハハッ!なんて運命の巡り合わせなんだニャ!最高だニャ!」

 

突然狂った様に笑い出し、新に歩み寄っていくアノン

 

新と一誠は(いぶか)しげに見る

 

アノンは新の肩に手を置いてウンウンと頷く

 

「嬉しいニャ、嬉しいニャ♪まさか、こんな所で会えるなんてニャ~♪」

 

「放せ!急に馴れ馴れしくしてきやがって。何のつもりだ?この変な痣がテメェらに関係あるのかよ」

 

「そ・れ・が♪関係大有りなんだニャ~。だってさ―――ほら」

 

アノンが襟元を広げると―――彼の首にもドラゴンの痣があった……っ

 

目を見開いて驚く新と一誠に更なる事実が告げられる

 

「ニャハハッ、驚くのも無理は無いニャ。その痣は僕達と同じ―――リュオーガ族の者である証なんだニャ」

 

「……リュオーガ族の……証だと……っ?」

 

その言葉とリュオーガ族の証たるドラゴンの痣―――2つの事実が1つの結論に至らせる

 

信じ(がた)く、信じたくない事実が……

 

新の考えを代弁するかの様にアノンが口を開く

 

「その通り、君の本当の名はゼノン・ブラック・ドラグニル。僕達リュオーガ族の一員であり―――ラースの弟なんだニャ」


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