リュオーガ族の拠点とも言うべき氷の城―――フローズンパレス内で響き渡った絶叫
ラースの放った『
黒焦げになった全身から血が噴き出し、総司の肉体が
倒れ伏す総司、父親の名を叫んで駆け寄る新
一誠はアーシアに緊急治療を施す様に言い、アーシアは直ぐに総司の治療に取り掛かった
ラースの非道な
「フフフ……ッ、本当に愚かだね、その男は。
「……ッ。テメェ……ッ!」
「思ってた以上に外道ね……っ。四大魔王に直接挑まず、関係者から殺そうとするなんて!」
「それじゃあ意味が無いよ。言っただろ、最大級の屈辱と悔しさを与えてやらないと気が済まないって」
ラースの言動に新は勿論、リアス、一誠、その他のメンバーはキレる寸前
ラースは鬼気迫る殺気を当てられても毅然とした態度のまま、話を続ける
「僕達が憎いか?ならば、今から
ラースが指を鳴らすと新達の前にボックスが出現する
テレビ番組のくじ引き等で使われるようなボックスだ
「その箱の中には僕達5人がそれぞれ守護する部屋の名を記した紙が入っている。君達はそれを引いて部屋に入り、僕達と戦う。参加人数は自由に決めて良いよ。部屋から出られるのは勝利者側のみ、敗者は即座にこの広間へ追い出される。まあ、このルールが適用された相手はいないけどね。何せ……今まで招待した客は全員が弱すぎて死んでしまったから。そして、最後は勝ち残った者同士で戦う。―――これが『
「つまり、お前ら1人1人に対して複数で挑んでも文句無しって事か。随分と余裕ぶってやがるな」
「その通りさ、ド腐れ堕天使。君達を殺すなんて余裕なんだよ。僕達にとっては。精々シラケさせない程度には足掻いて欲しいものだね」
度重なるラースの挑発に不快感を見せるアザゼル
ラースはアノンとレモネードを呼び寄せ、それぞれの部屋に戻るよう指示
残ったラースも自身の部屋へと戻っていった
残された新達はラースが用意したボックスの前に立つ
「まずは参加する人数を決めなきゃな」
「部長、メンバー編成はどうします?」
「そうね……。まずアーシアとレイヴェルはここに残しておきましょう。回復要員を参加メンバーに入れても、彼らには絶好の標的になるわ。それを踏まえるとここで負傷者の治療に専念してもらう他無いわ。アーシア、レイヴェル、頼めるかしら?」
「は、はい!皆さんの治療はお任せください!」
「私も異存はありませんわ!少しでも皆様のお役に立てるなら!」
「なら、念のため俺も残るとするか。万が一の保険って事で」
「先生、アーシアとレイヴェルをお願いします」
大広間に残るのは未だ治療を受けている戦闘不能状態の総司、回復要員のアーシアとレイヴェル、そして護衛役にアザゼル
それ以外のメンバーが『
さあ、いよいよ部屋割りの始まり
まずは新がボックスの中から1枚引く
引いた紙には何も書かれていなかったが、徐々に文字が浮かび上がってくる
新の行く部屋は―――『泉の間』
次にリアスが1枚引く
リアスが引いたのは―――『
更に一誠達も続いてボックスから紙を引いていく
数分後、全ての部屋割りが決定した
『
『泉の間』……兵藤一誠、竜崎新
『
『
『人形の間』……
「ぼ、ぼ、僕達の部屋だけ嫌なネーミングですぅぅぅぅ!何ですかっ、何が血だらけになっちゃうんですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
涙目で訴えてくるのはギャスパー
確かに『血溜りの間』は名前から嫌な予感しか漂ってこないが……
「文句言うな、ギャスパー。ここでグダグダ言っても始まらないぞ?」
「小猫とロスヴァイセもいるんだ。俺達に比べればマシだろ」
「ふぇぇぇぇっ、先輩達のポジティブさが羨ましいですぅぅぅ……っ」
嘆いていても決まったものは仕方無い、全員がそれぞれに割り当てられた部屋の前に立ち―――扉を開けて中に入る
凍てつく氷の城で悪魔と忌まわしき竜人達による恐怖の宴が始まる……っ
―――――――――――
「ここが『
小さく輝く星が無数に散りばめられた部屋はリアス、朱乃、渉、祐希那が引き当てた『
まるで宇宙空間にでもいる様な部屋で、様々な星座が薄暗い光景の中で映えていた
ゆっくり部屋を散策していると、柱の陰から1つの人影が……
「ようこそ、僕が守護する『
「……なるほど。ここはあなたの部屋って事ね」
リアスが睨む視線の先にいたのはラース・フレイム・ドラグニル
ラースの存在を確認するとリアス達は即座に臨戦態勢に入った
ラースは不適な笑みを浮かべ―――背中から大きな両翼を広げる
「フフッ、僕の部屋を引き当てた事を後悔するんだね。君達は所詮、リュオーガ族復活を記念する
――――――――――――
「ここが『泉の間』か?」
「何か随分と穏やかな場所だな」
新と一誠が引き当てた『泉の間』は、これから死闘が始まると言うのにあまり似つかわしくない場所だった
並列した木々に囲まれた泉、空を飛び交う鳥達
仄かに漂ってくる花の香りが先程まで
「それより、この部屋の主は5人の内の誰だ?一向に姿が見えねぇな」
「ズバリ!あのレモネードって
一誠がバカな妄想をしていると「残念だったニャ~♪」と特徴的な声が聞こえてくる
2人の目の前で空間が歪み、そこからこの部屋の主―――アノン・アムナエルが姿を現した
「この『泉の間』は僕の部屋なんだニャ。レモネードは別の部屋にいるニャ」
「ちくしょぉぉおおおおおおっ!俺の密かな期待を裏切りやがってぇぇぇぇっ!」
「密かどころか思いっきり下心にまみれてんじゃねぇか。まあ、世の中そんなに甘くねぇって事だ」
「それにしても僕の相手はお二人だけかニャ。これはもう勝ったも同然だニャ。」
アノンはステッキを器用に回し、先端を新と一誠に向ける
「『
―――――――――――
「ここが私達が引き当てた『血溜りの間』ですか」
ロスヴァイセ、小猫、ギャスパー、仁村が引き当てた『血溜りの間』
そこは広大な荒野と言った様相であり、名前ほど恐ろしい場所には見えない
その筈なんだが……ギャスパーは未だに『血溜りの間』と言う不吉なイメージに囚われ、ビクビク震えている
すると、遠方から土煙が発生してこちらに向かってくる
先程聞いたエンジン音と共に鋼鉄のバイクから『血溜りの間』の主が勢い良く降り立つ
「
ビシバシとポーズを決めて大地を震わせる様な大声で叫ぶ『血溜りの間』の主―――ニトロ・グリーゼ
最早“ついていけない”を通り越して“ウザい”ハイテンションぶりに小猫は顔をしかめて「……うるさいです」と毒づく
しかし、当人はそんな事を一切気にせず自分の相手になる小猫、ギャスパー、ロスヴァイセ、仁村を見渡す
「―――フッ、やっぱりな。だからベイビー達は俺の部屋を引き当てたんだな」
「……?」
4人全員が疑問符を浮かべていると、ニトロが小猫、ギャスパー、仁村の3人に指を差してこんな事を言う
「そこのベイビー達―――俺に惚れてんだろ?」
一瞬で空気が凍結する一言……
何故そう言う話になるのか全く意味が分からなかった……
対応に困惑するギャスパーとドン引きする仁村、そして侮蔑の視線を向ける小猫
それでもニトロは独自の脳内展開を語り始めた
「隠さなくても良い、俺には分かる。ベイビーちゃん達は素直になれないだけのツンデレ後輩キャラだ。なかなか本音を言い出せない、そうだろ?だが、安心しな。俺はそんなベイビーちゃん達も包み込む。愛ってのは―――ぶつけてナンボだ」
「……キモい」
過去最上級の罵倒を浴びせる小猫だが、ニトロは全く動じない―――と言うより全く聞いていなかった……
しかも、男の娘であるギャスパーにも目を光らせており―――ニトロはキラリとウインクし、大量の☆マークを3人に浴びせようとした
危険を察知した小猫は即座にギャスパーを盾にして回避、盾にされたギャスパーは☆マークを全て被弾してしまう……
「フギャッ!」と悲鳴を上げて仰け反るギャスパー
ニトロの爆走、もとい―――暴走魂が駆け足と共に加速していく……
「さあっ!俺と愛を
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃっ!な、何か怖いですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
――――――――――
薄暗い夜の下、巨大な満月が舞台となる草原を照らす『
巨大な満月を背後にあぐらをかいて座り込むのは『月影の間』の主―――
この部屋を引き当てた祐斗、ゼノヴィア、イリナ、由良、巡の5人はジュウゾウの静か威圧感に押され気味になっていた
ゼノヴィアはデュランダルを取り出して一気に斬りかかろうとするが、険しい表情を浮かべる祐斗に止められる
「皆、もう少し後ろに下がって」
「木場、どういう事だ?」
「あのヒト、無防備に座っている様に見えるけど……隙が無い。もし、僕達が一歩でも攻撃範囲に足を踏み入れたら―――間髪入れずに殺られる……」
祐斗の言葉に緊迫感が走り、全員が固唾を飲み込む
安易に攻めてこないのを気取ったジュウゾウはゆっくりと立ち上がった
「迂闊に飛び込んでくるアホやあらへんか。少しは頭の切れる奴もおるようやのう」
「そんな人達は嫌と言う程見てきたものでね。気配ぐらいは読みますよ」
「ほぉ……毛ぇ生えた程度のガキにしちゃあ、えぇ度胸しとるやないか。その方が殺し甲斐もある。丁度えぇ、久々に骨のある奴と手合わせしたかった所や。―――暴れさせてもらうで」
ゴウッッ!
ジュウゾウは挨拶代わりに全身から殺気を放ち、祐斗達にプレッシャーを与える……
―――――――――――
「ここが『人形の間』ですか」
椿姫、匙、花戒、草下の4人が足を踏み入れた『人形の間』
そこは他の4つと違ってかなりファンシーな造りになっていた
部屋のあちこちに置かれた熊やパンダ、犬、猫などのヌイグルミ
童話に出てくる様相のベッド
まるでおとぎ話のお姫様が住んでいるような部屋だった
匙達は早速部屋の主を探そうとするが、何処にも見当たらない
何処かに隠れているのだろうか?
警戒しながら辺りを見回していると“ミシ……ッ”と何かが軋む音が聞こえた
音のした方向に視線を移すと―――いつの間にかベッドに『人形の間』の主が座り込んでいた
この部屋の主はゴスロリ少女―――レモネード・フォールン
一同は気配も無く現れた彼女に驚く
「い、いつの間に!?」
「……私の部屋へいらっしゃい。遊びましょう?」
レモネードはスッと右手を前に掲げる
その直後、匙達は妙な視線を浴びせられている事に気付き、ゆっくりと後ろを振り返ってみると―――先程見たヌイグルミ達が独りでに歩き始めた
それだけならまだしも、異変は終わらない……
可愛らしいヌイグルミ達がプルプルと震え、不快な音を立てながら肥大化していく
まるで水を吸い続けてふやけた水死体の様な体躯に成り果て、可愛らしい要素は完全に消え去ってしまった……
醜悪なバケモノと化した人形達を前に匙達は身構え、レモネードはクスクスと不気味に微笑む
「……私の可愛いお人形、いっぱい遊んであげてね?」
――――――――――――
場面は大広間へ戻り、回復要員として残ったアーシアとレイヴェル
お目付け役のアザゼルに先程ラースの『
総司の傷はアーシアとレイヴェルの治療によって何とか回復し、意識を取り戻したものの体力は消耗していた
新達がいない事に気付き、同時にアザゼルから『
それを聞いた総司は顔を青ざめ、止めに入らんとばかりに体を動かそうとした
「おい、怪我人はジッとしてろよ。大体、あんな奴らを1人で相手にしようとしてたのか?自殺行為だぞ」
「ダ、ダメだ……ッ!ダメなんだ……ッ!君達は彼らの恐ろしさを全く分かっていないッ!この『
激しく狼狽する総司
リュオーガ族の恐ろしさを知っており、皆の命を思って止めに行こうとするが……体が思うように動かない上、アーシアとレイヴェルに止められてしまう
だが、総司の思惑はそれだけではなかった
『それに―――もし、新が“アレ”に気付いてしまったら……自分の正体を知らされたら―――ッ!』
そんな一悶着しているとアザゼル達の前にスクリーンが出現し、『竜星の間』の様子が映し出される
画面の中に映るラースがアザゼルに告げてくる
『不参加の君達にはお友達が公開処刑されるのをそこでゆっくり見物すると良いよ』
「今の内に大口叩いてな。後悔するのはどっちか、すぐに分かるからよ」
『フッ、ド腐れ堕天使は随分と自信満々だね。僕はね……君の様な自信家の鼻っ柱をへし折るのが大好きなんだ。ここだけじゃなく、他のお友達が嬲り殺しにされるのを見て後悔するが良いさ』
そう言っているとラースが何らかの気を察知したのか、フムフムと小さく頷き始める
その後に口の端を吊り上げた
『どうやら早くも動きがあったみたいだよ。その映像を映してあげるよ』
ラースが指を鳴らすと別のスクリーンが出現し、徐々に部屋の様子が明らかになっていく
画面に映り込んだのはバケモノと化した人形を相手に奮闘している椿姫達
中継されているのは『人形の間』
人形達に攻撃を仕掛けていくが、どれも決定打を与えられず……時折防戦を強いられる場面も目立つ
そんな中、匙が
少しは優勢になるだろうと思った矢先―――信じられない光景を目撃してしまう……
匙の黒炎付き拳打によって吹き飛ばされたのは―――椿姫の方だった……っ
その光景に言葉を失うアザゼル
しかも、椿姫だけじゃなく花戒と草下にも黒炎を放つ
何故、匙が味方を攻撃している……っ!?
アザゼルの顔から先程までの余裕が消え、アーシアも信じられない光景を見て口元を手で覆ってしまう
「な、何やってんだよっ、あいつは!?そっちじゃねぇだろっ!」
『無駄だよ、君達の声は聞こえやしない。僕が聞こえないように設定してるのさ。逆に言えば、僕が好き勝手にいじれば聞こえるように出来る。でもね、今はそんな事しないよ。そこでおとなしく見て―――絶望するんだね』
「貴様……ッ!」
憤慨するアザゼルを他所に、画面の中の匙は椿姫達を次々と攻撃していく
椿姫達は相手が匙であるがゆえに反撃も出来ず、ただ人形と匙の攻撃を凌ぐしかなかった
次第に疲弊も増していき、人形達に囲まれてしまう
何故、匙は味方に牙を向くのか……?
いったい、何が彼をそうさせるのか……?
アザゼル達は何も分からぬままま、この残酷な光景を見届けるしかなかった……っ