ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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凍てつく居城、フローズンパレス!

『…………』

 

「…………」

 

時刻は23時30分、場所はオカルト研究部の部室にて

 

全員の治療が終わった後、アザゼルは通信魔方陣でサーゼクスを呼び出していた

 

総司の確保、彼と因縁があるリュオーガ族の襲来、そしてセラフォルーとソーナが拉致された経緯も伝える

 

通信魔方陣に映ったサーゼクスは険しい表情をしていた

 

自分自身にも隠し事をされていた事に対する不満、セラフォルーとソーナがリュオーガ族に拉致されたと言う(かんば)しくない現状……

 

様々な要因が交錯したせいで終始顔をしかめている

 

『……総司さん。あなた知っていたんですか?彼らが地上に出てきた事を』

 

「…………」

 

『どうしてそれを私達に伝えなかったんですか?』

 

「…………」

 

サーゼクスの質問に全く応じようとしない総司

 

サーゼクスは瞑目して首を振り、セラフォルーとソーナの救出を優先させようと話を切り出した

 

そこでリアスから質問が飛ぶ

 

「お兄さま、あのリュオーガ族とは何者なのですか?“四大魔王に封印された”と言っていましたが」

 

『……こうなってしまった事も含め、総司さんが話さない以上、私から話す他無いだろう。彼ら―――リュオーガ族とは我々四大魔王と総司さんが命懸けで封印した悪しき竜の一族だ』

 

「―――ッ!お、お兄さまが命懸けで……っ?」

 

規格外の強さを誇る四大魔王が命懸けで封印した一族……

 

衝撃の事実に困惑する一同

 

サーゼクスはリュオーガ族を封印した経緯も話し始めた

 

まずリュオーガ族とは様々なドラゴンの血と力を受け継いできた亜人であり、ある1匹のドラゴンによって創造された古代の一族である

 

そのドラゴンとは―――『災厄の漆黒竜(インフェルニティ・ドラゴン)』オニキス

 

悪魔、天使、堕天使だけでなく、同じドラゴンからも忌み嫌われた異質な存在だった……

 

冥界が保管している資料によると、そのドラゴンは大昔に滅ぼされ、リュオーガ族の人々も次第に数を減らしていったらしい

 

寿命を迎えた者、(やまい)で倒れた者、己の力に耐えきれず自壊(じかい)した者……

 

その様な経緯を経て―――残ったのがたった5人

 

リアス達が対峙したあの5人だ

 

彼らはリュオーガ族の中でも(たぐ)(まれ)なる戦闘力の高さと凶悪さを持ち合わせており、名のある人間や悪魔、天使、堕天使のみならず、あらゆる種族を滅ぼそうと暗躍

 

悪行を嗅ぎ付けた四大魔王は総司の協力を得てリュオーガ族を止めに掛かった

 

しかし、リュオーガ族の力は想像以上のもので……四大魔王及び全盛期の総司でさえも苦戦させられる始末……

 

激しい死闘は三日三晩、お互い飲まず食わずで続けられたが―――倒す事は出来なかった

 

そこで総司と四大魔王は彼らが油断した一瞬の隙を突いて特殊な封印術を施し、リュオーガ族を砂漠の奥底に封じ込めた……

 

『―――とまあ、こんな所だ』

 

「その封印ってのは自然に解かれたのか?」

 

アザゼルがサーゼクスに訊くが、サーゼクス曰く―――“総司さんと我々の5人(がか)りで施したのだから、そう簡単には解かれない”らしい

 

アザゼルは“封印が何故解かれたのか?”と訊くものの、理由は不明……

 

誰かが解いた線が無い以上―――封印は自然に解かれた事になってしまう……

 

何が切っ掛けで封印が解かれたのだろうか……?

 

時刻は23時45分、宣告された時間まで残り15分

 

一先(ひとま)ず封印に関しての問題はさておき、セラフォルーとソーナの救出を最優先する事に

 

リアス達は転移魔方陣を開いてリュオーガ族が指定した地―――南極へと飛ぶ準備をする

 

「竜崎総司、アンタも来てもらうぜ?一応、向こうのご指名があったんだからな」

 

「……分かってるよ」

 

総司以外の全員が転移魔方陣の中に入る中、総司は最後に“皆に聞きたい事がある”と言ってきた

 

下唇を噛み締める様な表情の後、総司は重く閉ざしていた口を開く

 

「……この先、何が起ころうと―――新を任せても良いんだね?」

 

「どういう意味?」

 

「言葉の通りさ。リュオーガ族はゼクスくん達や私でさえ封印するので精一杯だった。恐らく、君達が今まで出くわした中で最悪の相手になるだろう……。何が起こってもおかしくない。だから……どんな事態になっても新だけは見捨てないでくれ……っ。たとえ、私が死ぬ事になってもね……」

 

今までに無い程真剣な面持ちの総司

 

まるで自ら命を絶つ様な宣言にリアス達は言葉を失う

 

しかし、総司の言葉にサーゼクスは異論を飛ばす

 

『総司さん、まさかとは思いますが……死ぬ前提で向かおうとしているのですか?』

 

「……今の私に出来る事は―――もうこれぐらいしか無いんだ。せめてリアスちゃん達だけでも生きて帰れるよう努める……。この問題に巻き込んでしまった私の責任だからさ。その為なら、私は命を捨てられる……」

 

罪滅ぼしのつもりなのだろうか……総司はこれから始まろうとするリュオーガ族との戦いで命を捨てるつもりらしい

 

だが、サーゼクスは“それは許さない”と一蹴した

 

『総司さん、ご自分の命を捨ててまで守ると言うのは―――あなたのエゴに過ぎない。嘘にまみれたまま、リアスや私達に嘘をつき続けたまま死ぬのは許さない』

 

「ゼクスくん……?」

 

『―――生きて帰ってきてください。あなたの償いは生きて帰って、我々に真実を話してもらう事です。勿論、相応の罰は受けてもらいます。生きて……自分の(あやま)ちや罪と向き合う。それが正しい償い方です。……死んでも罪は消えません』

 

“死んでも罪は消えない”―――確かにその通りだ……

 

犯した間違いや罪はいつまでも当人の心だけでなく、(こうむ)った者の心にも残る

 

総司の“命を捨てる償い”はただの自己満足、根本的な償いには至らない……

 

不明点を残したまま消え逝くのは逃避行と同じ

 

本当に償いたいなら―――生きるしか無い

 

生きて自分の(あやま)ちと向き合い、心を浄化する

 

それが罪を犯した咎人(とがびと)を解放する唯一の行為……

 

総司は今まで嘘をつき、逃げてきた自分を恥じた

 

「……分かったよ。約束しよう。ごめんね、ゼクスくん。そして……ありがとう」

 

軽く会釈してから転移魔方陣の中に入り、新達は南極へ転送されていった

 

サーゼクスは通信魔方陣を介して見届ける……

 

 

―――――――――

 

 

時刻は23時52分

 

新達は無事南極に辿り着いた

 

大きな吹雪も無く、まるで歓迎するかの如く夜空の下で輝くオーロラ

 

神秘的な光景に目を奪われつつも、リュオーガ族が指定した居城を探す

 

「でもさ、こんな所に城なんてあるのか?」

 

一誠が素朴な疑問を口に出してから暫く辺りを見渡していると―――新が「あったぞ」とある方角に指を差す

 

その先に(そび)え立つ氷の城

 

西洋の地で見掛けるようなデザインをした門の周辺にドラゴンの氷像が並列している

 

恐らくこれがリュオーガ族の拠点だろう……

 

その時、氷の地に似つかわしくない音が響いてくる

 

マフラーから煙を噴かすエンジン音

 

鋼鉄の(バイク)に跨がった異形が新達に近付いてくる

 

目の前で停車し、バイクから華麗に飛び降りて着地

 

そしてピストルサインをした右手を新達に突きつけた

 

「待たせたな、ベイビー。リュオーガ族の黒き弾丸、爆進帝王(ばくしんていおう)爆進熱血漢(ばくしんねっけつおとこ)剛力無制限(ごうりきむせいげん)、ニトロ・グリーゼ様のお出迎えだァッ!」

 

ビシッとポーズを決めるニトロだが、新達は冷めきった反応だった……

 

冷めた視線に気付いたのか、ニトロは軽く舌打ちする

 

「んだよ、その反応は。ノリが悪い奴らだぜ。ここは形だけでも拍手すんのが礼儀じゃねぇのか?」

 

「そんな気分になれると思ってるの?私達はセラフォルー様とソーナを取り返しに来たのよ」

 

リアスは怒りを孕んだ声音で一蹴するも、ニトロは全く臆せず「あぁ、そうだったな」と軽く受け流す

 

「安心しな、“今は”無事だ」

 

「今は……?どういう意味?」

 

「あの嬢ちゃん2人はこれから始まる“パーティーの賞品”って事さ。万が一お前らが生き延びれば、嬢ちゃん2人は解放。負ければThe() End(エンド)―――嬢ちゃん共々死んでもらうって寸法だ」

 

「てめぇ……ふざけやがって!」

 

「会長もセラフォルー様もお前らの道具じゃねぇんだよっ!」

 

激昂する一誠と匙はニトロに殴りかかろうとするが、新に制止される

 

こんな所で始めても意味が無い上にセラフォルーとソーナが人質に取られている

 

下手に動けば2人の安全は保証されない……

 

新は一誠と匙にその事を説明して2人を落ち着かせた

 

一方、ニトロは品定めするかの如くリアス達を眺めている

 

特に小猫、ギャスパー、仁村留流子(にむらるるこ)に対する視線には妙な熱があった

 

『……ッ。な、何か凄く嫌な予感がしますぅ……』

 

「さて、そろそろ案内するぜ。ついてきな。ラース達も待ちくたびれてる頃だろうよ」

 

ニトロは再びバイクに跨がってエンジンを噴かし、ゆっくりと城の方に向かっていく

 

新達もニトロの後を追い、城門の前まで辿り着いた

 

「おーい、開けてくれ!」

 

ニトロが声を掛けると大きな音を立てて門が開き、中へ案内される

 

城の中までも氷一色で占め尽くされていた

 

床、壁、柱、天井、あらゆる装飾全てが氷で作られており、幻想的な美しさを引き立てる

 

そこへ螺旋階段からコツコツと降りてくる人影

 

「……ようこそ、私達の居城―――フローズンパレスへ」

 

やって来たのは胸元の開いたゴスロリ服に身を包んだツインテールの少女―――レモネード・フォールン

 

にこやかな微笑みを見せ、スカートの裾をたくし上げて一礼する

 

「おう、レモネード嬢。ラース達は?」

 

「……ラースとアノンはおもてなしの準備、ジュウゾウは先に自分の部屋で待機してる」

 

「そっか。じゃあ、後は大広間へ案内するだけだな。任せても良いか?俺は愛機のメンテナンスをしてやらねぇといけねぇからよぉ」

 

「……大丈夫。後はやっとくから準備してて」

 

ニトロはレモネードにバトンタッチした後、「頼むぜ」と一言告げてからバイクで螺旋階段を駆け上がっていく

 

恐らく“自分の部屋”に向かうのだろう

 

案内を請け負ったレモネードは「……こっち」と呟いて新達を先導し、新達も彼女の後に続く

 

「……あの()、只者じゃないな」

 

ふと一誠がそんな事を言い出した

 

新は直ぐに一誠の意図を察し、匙と渉は疑問符を頭に浮かべる

 

「兵藤、あいつらの力が半端じゃないのはさっき知ったばかりだろ?何でいちいち―――」

 

「分かってないな、匙」

 

「……?どういう事ですか、一誠さん?」

 

未だに疑問が解けない匙と渉に対し、一誠はレモネードを見ながら“只者じゃない理由”を説明する

 

「見てみろ、あの()の服―――あんなに背中を露出させてるじゃないか」

 

「…………は?」

 

思わず間の抜けた返事をする匙

 

一誠の言う通り、レモネードのゴスロリ服は胸元だけでなく背面も大きく開いており、腰辺りまで露出していた

 

一誠は更に熱弁を続ける

 

「しかも!あの()のおっぱいは恐らく小猫ちゃん以上アーシア未満のサイズ!そんなサイズであるにもかかわらず、胸元と背中の開いたゴスロリ服を着こなしている!ああ言ったエロい服は普通なら巨乳の美少女かお姉さんが着る物だ!成長途中のおっぱいを持つ女の子はまず恥じらって着ない!着てくれない!その原因はおっぱいの小ささを気にしてしまうからだ!だが……あの娘は毅然(きぜん)としてる上にこれでもかってぐらい見せてくれているッ!これは自分に自信が無いと到底出来ない事なんだよッ!」

 

「……お前、そんな事考えてたのか?」

 

「そんな事とは何だッ!もし、あの服を会長さんが着たらどうなると思うっ!?」

 

一誠の力説に匙はゴスロリ服を着たソーナの姿を思い浮かべ―――

 

「ぐはっ!た、確かにスゲェ破壊力だ……ッ!いつも清楚な会長があんな露出度の高い服を着たら……とんでもない事になっちまう!」

 

「そうだろそうだろ!?うちのアーシアちゃんにも言えるぞ!いつも控えめなアーシアが積極的な小悪魔に……くぅっ!思い浮かべただけでたまらんッ!」

 

「兵藤、お前アーシアさんにあんな服を着せようと……!?」

 

「アーシアがエロい服を着てくれるなら、俺はどんな苦行にも耐えてみせるッ!それが男ってもんだろ!?」

 

「くそぉ……!お前は何処まで先を行くつもりなんだ……ッ!同じ『兵士(ポーン)』なのに……ッ!」

 

「盛り上がってる所に水を差すようで悪いが、そろそろ止めないと―――始まる前に死ぬぞ?」

 

一誠と匙は声のした方向を見る

 

そこには新が小猫の折檻を食らっている姿……

 

腕があらぬ方向に(ひね)り上げられ、関節の可動域を超えていた

 

恐らく一誠の“あの娘のおっぱいは恐らく小猫ちゃん以上アーシア未満のサイズ!”が彼女の地獄耳に入り、新は八つ当たりの(にえ)にされてしまったのだ……

 

半眼でジロッと睨む小猫

 

一誠と匙は身の危険を感じ、これ以上の話はするまいとばかりに口を塞いだ

 

そんなバカなやり取りをしてる間に大広間へ到着

 

レモネードが「……座って」と巨大かつ豪華なテーブルの周りに並び立つ椅子へ先導する

 

新達は言われるがまま席に着いた

 

そこへやって来たのは―――ラース・フレイム・ドラグニルとアノン・アムナエル

 

ラースは軽い会釈で挨拶する

 

「ようこそ、下等生物(あくま)の諸君。寒い中ご足労いただいてありがとう」

 

「俺らを(ねぎら)ってるつもりか?いくら取り繕ってもクセェ憎悪がプンプン匂ってきやがるぜ」

 

アザゼルが挑発の意を込めて言うが、ラースは冷笑を浮かべるだけだった

 

「1番臭いのは穴だらけの脳みそと不細工なヒゲを蓄えた君だと思うよ。腐れ堕天使ごときがリュオーガ族のおもてなしを汚さないでくれ」

 

「……早速(ほころ)びを出しやがったな、このゲス野郎」

 

「リュオーガ族のおもてなしを受けるのは腐れ下等生物の義務さ。腐敗に(ただ)れて腐りきった頭でしか考えられないド腐れ堕天使には理解出来ないだろうね」

 

敵意どころか殺意を沸騰させるラースの言動

 

アザゼルは何とか堪えて様子を(うかが)い、今度はリアスが訊く

 

「セラフォルー様とソーナは無事なんでしょうね?」

 

「おっと、下等生物の腐れ悪魔はお友達の心配かな?アノン」

 

「OK~。テジ・ナ~・ニャッ!」

 

アノンがステッキを振るうと“ボンッ!”と言う音と共に大きな鳥カゴが出現した

 

その中にはセラフォルーとソーナの姿が……

 

「あ!リアスちゃん!皆~っ!」

 

「セラフォルー様!ソーナ!」

 

「この通り無事だよ。そもそも四大魔王を簡単に殺しちゃったら、つまらないじゃないか。君達のもがき苦しむ姿を見せつけてから殺す。そうしないと面白くないし、気が晴れないからね」

 

吐き気を(もよお)すラースの嗜好にグレモリー眷属とシトリー眷属のボルテージが上がる

 

今ここで始めるのかと思いきや、ラースが(てのひら)を向けて首を横に振る

 

「やれやれ、前座すら始まってないのにコレか。如何にも下等生物と言える短絡的な思考だよ。まずは―――僕達のおもてなしを味わってもらわないと」

 

ラースが指を鳴らすとアノンとレモネードが何かを宙に浮かべて運んでくる

 

1つ1つ丁寧に置いていくそれは―――綺麗に盛り付けられた料理の数々

 

見栄えはフランス料理の如く豪華さを強調していた

 

突然の料理提供に全員が少し困惑気味の表情となり、配り終わるとラースは得意気に口を開く

 

「1人につき6皿ずつ用意している。手前の左から『トリュフとマッシュルームのゼリー寄せ』、『牛フィレ肉とフォアグラのロッシーニ』、『舌平目(したびらめ)のムニエル、パプリカ達のピュレー添え』。奥の3品は左から『エスカルゴのソテー、ガーリックとバジルのソース』、『オマール海老を夕暮れの海に浮かべて』、そして最後が『男爵イモのビシソワーズ』。リュオーガ族自慢の歓迎料理さ。本番を始める前に歓迎料理を振る舞う―――それがリュオーガ族の習わしだよ」

 

「敵に料理を食わせるなんざ、変な習わしだな。毒でも入れてんじゃねぇだろうな?」

 

疑り深くアザゼルは探りを入れるが、ラースは淡々と返す

 

「そんな事はしないよ。(みずか)ら恥を晒す様な真似で君達を殺せば、リュオーガ族の汚点になる。それでも気に召さないなら―――腐れ堕天使の分だけ下げても構わないね?」

 

「まあ待て、もう少し様子を見させてもらおうか」

 

ラースが“アザゼルの分だけ”下げようとした瞬間、アザゼルは“やめてくれ”と言わんばかりに料理を死守する

 

食い意地の張った弁明に呆れ顔のリアスが小猫に訊く

 

「小猫、どう?」

 

「……毒の(たぐい)が入ってないのは確かです」

 

猫又モードの小猫が慎重に匂いを嗅いだ結果、ラースの宣告通り毒は入ってない様子

 

とりあえず料理を食さないと先へ進めない

 

新達はナイフとフォークを手に取り、恐る恐る料理を口に運ぶ

 

各々がリュオーガ族の歓迎料理を一口ずつ食べた……

 

ゴキュッとなる喉の音

 

その直後――――絶叫が氷の城内に響いた

 

「「「「美味(うま)ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァいッ!」」」」

 

新、一誠、匙、アザゼルはあまりの美味さに歓喜の雄叫び

 

リアスを始め、全員が料理の美味さに言葉を失いかけていた

 

「……ッ。ほ、本当に美味しいわ……っ」

 

「マジで……マジで美味いぞコレ!?」

 

「お、俺こんな美味い料理食った事無いぞ!?」

 

「先生、ヤバイって……!コレ美味すぎる!……あれ?何か……涙が出てきた……っ」

 

数多くの美食を味わってきたであろうアザゼルすらも絶賛

 

一誠と匙に至っては美味過ぎて涙が出てしまう程だった

 

「……(とろ)けます……にゃぁ……」

 

「ぼ、僕!エスカルゴって初めて食べましたぁぁぁ!こ、こんなに美味しいんですかぁぁ!?感動ですぅぅぅ!」

 

小猫の猫耳が蕩ける様に垂れ下がり、ニンニクを克復中のギャスパーも感極まる

 

他の者達もあまりの美味さに悶絶寸前となっていた……

 

「そ、そんなに美味しいの!?」

 

その様子を食い入る様に見ていたセラフォルー

 

匙が震えながら料理の美味さを実況しようとするが、美味過ぎた為に思考力と言語がおかしくなる

 

「か、会長!セラフォルー様!ヤバいっすよ……ッ!もう……に、肉がニクの29(にく)NIKU(にく)荷九仁区弍久煮苦ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 

「落ち着きなさい、匙!言語がおかしくなってますよ!?」

 

おかしいと言うよりもはや発狂である……

 

セラフォルーは「あぁ~んっ!私も食べた~いっ!」と手足をバタつかせて駄々をこねる

 

どうやら料理はパーティーの参加者分しか用意されていないらしい

 

ムスッと拗ねるセラフォルーを他所に料理を食べ終えたリアス達

 

その殆どが心地良さそうな表情になっていた

 

「どう?リュオーガ族のおもてなしは堪能してくれたかい?」

 

「料理は悪くなかった。これで終わってくれるなら最高なんだが……そうじゃないんだろ?」

 

アザゼルの探りを掛けた言葉にラースは“当然だよ”冷笑を浮かべる

 

「料理を振る舞ったのはあくまで前座に過ぎない。パーティーを始める前に最期の晩餐を満喫させてあげようと気遣ってあげたんだ。ここからが僕達リュオーガ族の主催するパーティーの始まりだ」

 

ラースは先程と同じ様に指を鳴らす

 

すると、奥の扉が独りでに開き―――中から呻き声が聞こえてくる

 

重厚な足音と共に現れたのは……全身が氷で覆われた巨大なドラゴン

 

生暖かい吐息が牙の隙間から漏れ、鋭い眼孔が新達を睨み付ける

 

まさに天国から地獄と言う表現が相応しい……

 

「僕達が飼っている『氷結竜(アイス・ドラゴン)』さ。並の上級悪魔も余裕で殺せる。今まで招待してきた奴らも殆どコイツの餌になっちゃったよ。……君達はどうかな?」

 

何処までも悪趣味なラースのやり口にリアスは怒りを孕み、自ら挑もうとしたが……今まで沈黙してきた総司が前に出る

 

「リアスちゃん、ここは君達が出る時じゃない。まだ後にラース達が控えている。私が行くよ」

 

「……親父?」

 

「せめてこんな時ぐらい、君達の助け船になってやりたいんだ。ここから先は……君達に任せるよ」

 

そう告げた後、総司は全身からオーラを(ほとばし)らせ―――闇人(やみびと)の姿と化した

 

「おや?竜崎総司、その姿はどうしたんだい?」

 

「私は既に引退した身なんでね。その代わりと言うべきかな」

 

「ふぅん。まあ、ド腐れ悪魔どもと組んでた時代よりは良い姿じゃないか」

 

ラースが再三指を鳴らすと同時に氷のドラゴンが雄叫びを上げて突っ込んでいった

 

城の床にヒビを入れながら突進してくるドラゴン

 

総司は両手に赤いオーラを集束させ、刃物状に研鑽する

 

頭上から振り下ろされる爪の一撃を十字受けで防ぎ、横薙ぎに切り払った

 

5本の指が宙を舞い、氷のドラゴンが苦痛に叫ぶ

 

その隙に総司が両手でドラゴンの腹を突き刺し、力を込めた刹那―――赤いオーラが背中を突き破り、氷のドラゴンは(はかな)い音を立てて崩れ落ちていく……

 

巨大なドラゴンを一撃で滅ぼした総司

 

実力はやはり折り紙付きで衰えていなかった様だ

 

破片の崩落によって舞い上がる氷霧

 

その僅かな隙間から―――ラースが右手を構えていた……っ

 

狙いは……リアス達……っ

 

「―――『火竜の咆哮(デリート・プロミネンス)』」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

皆を嘲笑い、ラースの手から放たれた火柱は文字通り火竜の形となって襲い掛かる

 

総司は氷霧で視界を奪われた新達の前に割り込み―――火竜に呑み込まれた……っ

 

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああっ!」

 

「……ッ!親父ィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」

 

氷の場内に親子の絶叫と無慈悲な火竜の咆哮が延々と響き渡る……っ




ラース、書いててやっぱ酷いわ……

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