ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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遂にサイラオーグ編のラストです!
原作の最新刊も買ってきましたよー!


赤龍帝!闇皇!獅子王!大・団・円!

紅い光に包まれた新

 

真っ暗だった視界が少しずつ鮮明に映り、(ほの)かな温もりも感じてくる

 

覚えのある甘い香りが鼻腔(びこう)をくすぐり、新は意識を取り戻していく

 

「……リアス……?」

 

「―――ッ!新……ッ」

 

新の目覚めに感極まったのか、彼をギュッと強く抱き締めるリアス

 

窒息しそうになる程の圧迫感に(さいな)まれるが、リアスのおっぱいの心地よさの方が(まさ)っているので何も文句を言わない

 

『おおっと!闇皇(やみおう)がスイッチ姫のおっぱいフラッシュを浴びて、奇跡の大復活を果たしたーーーーっ!』

 

実況が叫び、観客席も大歓声に満ち(あふ)れる

 

新が復活したところで一誠がフゥッと息を吐く

 

「新、1人だけ羨ましい思いしやがって!シャキッとしろよ!」

 

「んぁ……一誠?お前は後でアーシアにやってもらえば良いじゃねぇか。さてと……」

 

新はリアスの胸から離れて起き上がり、首や肩、手をコキコキと鳴らす

 

先程のおっぱいフラッシュが効いたのか、体中の傷が癒えていた

 

「ようやく起きたか、闇皇(やみおう)。やはりそう来なくては面白味に欠けると言うものだ」

 

不敵に笑みながら言うサイラオーグ

 

復活早々、新は全身からオーラを解き放って闇皇(やみおう)と化し、赤いオーラが全身を覆っていく

 

「惚れた女の前で無様な格好を晒す訳にはいかねぇんだよ。リアスは、リアス・グレモリーは俺が惚れた女だ。惚れた女を勝たせる、守る、その為に戦う。俺は―――」

 

赤いオーラが『真・女王(クイーン)』の形態を形成し、新はその最中に天高く叫んだ

 

「惚れた女の目の前でお前を倒すッ!俺はリアス・グレモリーが好きだッ!好きな女の夢を叶える為に―――サイラオーグッ!俺は―――俺達はお前を倒すッ!」

 

新の告白を聞いたリアスは今までに無いくらい顔を真っ赤にさせ、一誠は「妬けるぜ、こんちくしょうっ!」と地団駄を踏む

 

サイラオーグは豪快に笑った

 

「ハハハハハハハハハハハッ!リアスの胸が発する光を浴びて何かに目覚めたようだな。ならば俺はそのお前達を倒し、我が夢の(かて)とするッ!」

 

「行くぞ、一誠ッ!」

 

「当たり前だ!新こそ気合い入れてけよッ!」

 

新と一誠は莫大なオーラを纏って神速で飛び出していった

 

Star(スター) Sonic(ソニック) Booster(ブースター)‼‼』

 

真・『女王(クイーン)』と化した一誠のスピードは凄まじいもので、飛び出した余波だけで周辺の風景が吹き飛びそうになっていた

 

サイラオーグも全身に闘気をみなぎらせる

 

Solid(ソリッド) Impact(インパクト) Booster(ブースター)‼‼』

 

攻撃力と防御力もトリアイナ版『戦車(ルーク)』と同格のポテンシャルを出せる上に消費も従来の物と比べて少ない

 

どちらも伸びしろに余裕がありそうだ

 

『相棒!まだこの状態での鎧の防御力が安定していない!脱皮直後の蟹みたいなものだ!無理をすると本体に膨大なダメージが伝わるぞ!』

 

ドライグからの説明を受けるが、今は後先の事など考えてる暇は無い

 

一瞬たりともそんな事を考えてはサイラオーグに勝てないのだ

 

新も両手両足に高密度のオーラを集束させ、一誠と共にサイラオーグを殴った

 

三者によって始まった壮絶な打撃合戦

 

バカげる程に単純で威力に満ち溢れ、防御など知ったことかと言わんばかりの殴り合いがフィールドを大きく震わせ、大地を裂き、次元に穴を開けていく

 

己の魂を懸けた殴り合いに実況が叫んだ

 

『殴り合いですッ!壮絶な殴り合いがフィールド中央で(おこな)われておりますッ!華麗な戦術でもなく、練りに練られた魔力合戦でもなく、超々至近距離(ちょうちょうしきんきょり)による子供のような殴り合いッ!殴って、殴られて、ただそれだけの事が頑丈なバトルフィールド全体を壊さんばかりの大迫力で続けられておりますッ!観客席は総立ち!スタンディングオベーション状態となっておりますッ!ただの打撃合戦に老若男女が興奮していますッ!よくやるぜ、お前らァァァァッ!』

 

「「「「「「「「「「サイラオーグゥゥッ!サイラオーグゥゥッ!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「おっぱいドラゴンッ!おっぱいカイザーッ!」」」」」」」」」」

 

不器用な殴り合いが全ての観客を沸かせた……

 

『相棒!「女王(クイーン)」の状態はまだ完全にお前の体に浸透しきっていない!力の上昇もこれからが本番だが、それ以上にこのままでは禁手(バランス・ブレイカー)の状態が解ける!』

 

「そこを何とか食い繋いでくれよ、ドライグ!もう少しなんだ!」

 

―――負けない―――

 

新と一誠の頭にはその一言しか無かった

 

この勝負に勝って先へ進む……

 

リアスの為に……自分達の為に……

 

「俺達はッ!あんたを倒して上に行く……ッ!」

 

一誠の右腕が紅いオーラに包まれ、トリアイナ版『戦車(ルーク)』の腕が形成される

 

肘の撃鉄(げきてつ)を打ち鳴らして威力を倍増させた

 

Solid(ソリッド) Impact(インパクト) Booster(ブースター)‼‼』

 

サイラオーグの腹部に一誠の拳が突き刺さり、獅子の鎧が砕けて生身にも食い込んでいく

 

そこをすかさず新も追撃を加える

 

灼熱のオーラを纏わせた拳をサイラオーグな顔面に打ち込み、地面へ叩き付ける様な勢いで打ち抜いた

 

2人のコンボを食らったサイラオーグが膝をつく

 

「どうした、足よ!何故震える⁉まだ!まだこれからではないか!」

 

地を大きく踏み込んで立ち上がるサイラオーグ

 

まだ全身に闘気を纏わせてくるが、先程よりも質量が減ってきている

 

―――この男に勝てる!―――

 

新と一誠は勝利が近付いている事を感じた

 

()て、保て俺の体よ……ッ!この様な戦い、今心底味わわずに大王バアル家の次期当主が名乗れると思うのか……ッ!」

 

迫り来るサイラオーグに一誠が拳を繰り出し、新は足に強烈なローキックを放つ

 

この極限状態で2つの同時攻撃を処理するのは至難の技

 

一瞬だけ隙が生じたサイラオーグの足に新のオーラを纏ったローキックが炸裂

 

鎧ごと相手の足を破壊し、間髪入れずに一誠の拳がサイラオーグの顔面に鋭く突き刺さった

 

拳の勢いで後方に吹き飛ばされるサイラオーグ

 

新は左腕の盾から剣を取り出し、一誠は両翼からキャノン砲を展開した

 

双方共に魔力をチャージしていく

 

「一誠ッ!決めるぞ!」

 

「当たり前だ!」

 

新と一誠の魔力チャージが完了し、2人の技が同時に解き放たれた

 

「ブレイジング・バーストォォォォォォォォォオッ!」

 

「クリムゾンブラスタァァァァァァァァァアッ!」

 

Fang(ファング) Blast(ブラスト) Booster(ブースター)‼‼』

 

紅色のオーラと灼熱の剣戟波(けんげきは)が放射され、サイラオーグを飲み込んだ

 

強大な爆発を生み出した後、煙が止み、地を大きく抉って出来たクレーターの中央にサイラオーグが倒れていた

 

その瞬間、会場が歓声に満ち溢れる

 

もう立てないだろうと勝利を確信したその時―――2人の視界に女性が1人出現し、サイラオーグの傍らに立って何かを話しかけていた

 

しかも、新と一誠以外は気付いておらず、その女性は2人にしか見えていないようだった

 

『―――なさい』

 

女性は静か且つ確かな口調で言葉を発してきた

 

その時―――信じられない事にサイラオーグの体が僅かに動いた……っ

 

そしてボロボロの顔を上げる

 

目は虚ろだが、瞳の奥にはまだ強い意志が残っている

 

『サイラオーグ』

 

女性がサイラオーグを呼び続ける

 

2人はその女性の顔に見覚えがあった

 

それもその筈、現れた女性はサイラオーグの母親―――ミスラ・バアルだった

 

まるで寄り添う様に息子のサイラオーグを見守っている

 

その口が新と一誠にだけ聞こえる声で静かに言葉を発する

 

それは必死に戦う息子を(ねぎら)い、心配する母親の優しい激励―――ではなかった

 

『立ちなさい。立ちなさい!サイラオーグ!』

 

サイラオーグの母親の表情は厳しく、誇り高く、気丈なもの

 

放たれたその声は応援などではなく、息子を叱咤するものだった

 

『あなたは誰よりも強くなると私に約束したでしょう?』

 

再びサイラオーグの体が動く

 

その動作は徐々に確かになっていき、手から腕、足が動いて体も持ち上がり始めた

 

『夢を叶えなさい!あなたの望む世界を、冥界の未来の為に、自分が味わったものを後世に残さない為に、その為にあなたは拳を握り締めたのでしょう!』

 

その言葉がサイラオーグに届いているのか、もしかしたら聞こえていないのかもしれない

 

だが、それでもサイラオーグの体が動いていく

 

『たとえ生まれがどうであろうと結果的に素晴らしい能力を持っていれば、誰もが相応の位置につける世界―――。それがあなたの望む世界の筈です!これから生まれてくるであろう冥界の子供達が悲しい思いを味わわないで済む世界―――ッ!それを作るのでしょう!』

 

徐々に消えていく中、サイラオーグの母親は最後に一瞬だけ微笑みを浮かべた

 

自慢の息子を見る母親の顔……

 

『さあ、行きなさい。私の(いと)しいサイラオーグ。あなたは―――私の息子なのだから』

 

その刹那、地を大きく踏み締め、血を撒き散らしながら眼前の(おとこ)が完全に立ち上がる

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ‼」

 

獅子が咆哮を上げた……

 

それは雄々しいが、何処か悲哀にも感じる

 

透き通る程に見事な獅子王の咆哮……

 

会場が大きく震え、新と一誠も心底打ち震えた

 

恐怖や戦慄とは違う……高揚、興奮と矛盾するかの様な感情が渦巻き、両者の細胞を沸き立たせた

 

―――まだ戦えるッ!―――

 

そう考えるだけで力が沸き上がり、全身を駆け巡っていく

 

兵藤一誠(ひょうどういっせい)ッ!竜崎新(りゅうざきあらた)ッ!負けんッ!俺はッ!俺には叶えねばならないものがあるのだッ!」

 

ボロボロの状態でサイラオーグが向かってくる

 

新と一誠もそれに呼応して飛び込んだ

 

「俺だって!負けられねぇんだよォォォォォォッ!」

 

再び始まった殴り合い

 

2人は全身全霊の拳を振るうが、何度殴ってもサイラオーグは倒れない

 

戦意に満ちた双眸 (そうぼう)を薄めないまま、新と一誠に拳を打ち込む

 

ダメージが蓄積している筈なのに、その威力は2人の気力と体力を根こそぎ奪っていくような一撃ばかり

 

「クソッタレ……ッ!何処にこんな力が眠ってやがるんだ……ッ⁉」

 

新と一誠が何度打ち込んでもサイラオーグは一瞬たりとも攻撃の手を緩めない

 

滅びを持たない大王―――サイラオーグ

 

滅びの魔力を持たずとも、ここまで恐ろしい者は後にも先にもこの(おとこ)だけだろう

 

これまで新と一誠は数々の強敵と出くわしてきた

 

白龍皇(はくりゅうこう)ヴァーリ・ルシファー

 

闇人(やみびと)の『2代目キング』蛟大牙(みずちたいが)

 

『ビショップ』神風(かみかぜ)

 

禍の団(カオス・ブリゲード)』英雄派の首魁―――曹操

 

復活した闇人(やみびと)の『初代キング』バジュラ・バロム等々……

 

サイラオーグは腕力、速力、防御も強いが今まで戦ってきた相手とは違う決定的な差がある

 

それは―――勝利への執念

 

“負ければ全て終わる”

 

“2度目は無い”

 

“今日死んでも良い”と言う覚悟

 

夢の為に全てを賭けた(おとこ)の意地

 

後退と言う選択肢を捨てた強靭な精神がこの(おとこ)の背中を後押ししている……

 

―――俺には肉体(これ)しか無かった。だから、負ければ全部失う。ここまで積み上げてきた物が崩れるだろう。家が持つ『消滅』の魔力を受け継げなかった俺にとって、勝ち続ける事こそが唯一の道だった。だから俺は(これ)で勝つしかない。

 

―――格好は悪いが、それが不器用な俺のお前達との戦い方だ。

 

「……サイラオーグ。今のお前は誰よりも強く、誰よりも勇ましく、誰よりも誇りに思える男だ……ッ。だからこそ―――俺は、俺達はそんなお前に勝ちたいッ!どれだけの悔しさ、歯痒さを噛み締めながら積み上げてきたかは分からねぇッ!だがな、それでも同情なんかしねぇッ!」

 

「全力でぶつかる事がサイラオーグさんへの礼儀で、俺の―――俺達の意地だッ!俺にだって夢があるッ!部長をゲーム王者にして……俺もいずれ王者になる……ッ!誰よりも強くなる!俺は!最強の『兵士(ポーン)』になるんだァァァァァアアアァァァァッッ!」

 

2人とも鎧を維持する力を失いつつも、サイラオーグに拳を打ち込む

 

芯にまで響く程の一撃

 

サイラオーグはふらつき、体を揺らすが……まだ倒れない

 

追い討ちを掛けるように新と一誠のよろいが強制的に解除される

 

両者共にふらつきながらも、最後の力を振り絞って生身で向かっていく

 

生身の拳でサイラオーグに立ち向かおうとした時だった

 

赤龍帝(せきりゅうてい)……闇皇(やみおう)……もういい……』

 

サイラオーグの鎧の胸部にある獅子が声を発してきた

 

『……我が主は……サイラオーグ様は……』

 

獅子が目の部分から涙を溢れさせる

 

その事を不審に思い、サイラオーグに視線を移すと―――サイラオーグは拳を突き出し、新と一誠に向かおうとしたまま意識を失っていた……

 

意識を失っても瞳は戦意に満ちており、ギラギラしたものを浮かべていた

 

『……サイラオーグ様は……少し前から意識を失っていた……』

 

「……何だって……っ。じゃあ、どうして前に進もうと……?」

 

『それでも……嬉しそうに……ただ嬉しそうに……向かっていった……。……ただ、真っ直ぐに……あなた方との夢を賭けた戦いを真に楽しんで……』

 

「……意地だけで戦ってたのか、この獅子王(おとこ)は……」

 

意識を失ってまで、ただ前に―――

 

夢を叶える為に―――

 

新と一誠は知らない内に頭を深く下げていた

 

ボロボロの状態でありながら、戦意を消さないその獅子王(おとこ)に敬意を示して……

 

「……サイラオーグ。俺はあんたを誇りに思うよ。あんたは―――真の(おとこ)だ……」

 

「……ありがとう……、ありがとうございましたぁぁあッッ!」

 

『サイラオーグ・バアル選手、投了。リタイヤです。ゲーム終了、リアス・グレモリーチームの勝利です!』

 

最後のアナウンスが伝えられ、会場が熱気に包まれる

 

それと同時に新の視界が真っ暗になった……

 

 

――――――――――――

 

 

「……ここは?」

 

目が覚めると見知らぬ天井が見えた

 

一誠は周囲を見渡し、自分が包帯姿で個室のベッドにいる事を理解する

 

「起きたか」

 

聞き覚えのある声

 

隣を見てみると包帯姿のサイラオーグがいた

 

更に逆隣には同じく包帯姿の新がいるが、こちらは未だに眠ったままである

 

怪我はともかく、消耗し過ぎたので無理もない

 

「サイラオーグさん……。と、隣のベッドだったんですね」

 

「偶然にもな。病室なら余っているだろうに。サーゼクス様かアザゼル総督か、体力が回復するまでの話し相手としてマッチングしてくれたのかもしれないな」

 

「ははは、流石にベッドでまで戦いたくありませんよ……」

 

そんな世間話の後にサイラオーグは「……負けたか」と呟く

 

彼の表情は実に晴れやかなものだった

 

「……悪くない。こんなにも充実した負けは初めてかもしれないな。だが、最後の一瞬はよく覚えていない。気付いたらここだった」

 

「俺も……正直、記憶が飛び飛びで」

 

「1つだけハッキリしている。―――とても最高の殴り合いだった」

 

「俺も新もボコボコになって、ボコボコにしてやって、変に気分が良いです」

 

お互いに包帯姿で笑みを見せていると、サーゼクスが入室してきた

 

「失礼するよ」

 

「サーゼクス様」

 

「やあ、イッセーくん、サイラオーグ。本当に良い試合だった。私もそう強く思うし、上役も全員満足していたよ。将来が実に楽しみになる一戦だった」

 

サーゼクスが2人に激励を送った後、近くの椅子に腰を下ろす

 

「さて、イッセーくんにお話があるんだ。サイラオーグ、暫し彼と話して良いだろうか?」

 

「俺は構いません。……席を外しましょうか?」

 

「いや、構わないよ。キミもそこで聞いておいて損は無いかもしれない」

 

サーゼクスが真面目な顔で話を始めた

 

「イッセーくん、キミ達に昇格の話があるのだよ」

 

一誠は今言われた言葉の意味を理解出来なかったが、サーゼクスは話を続ける

 

「正確に言うとキミと新くん、木場くんと朱乃くんだが。ここまでキミ達はテロリストや闇人(やみびと)の攻撃を防いでくれた。三大勢力の会談テロ、旧魔王派のテロ、神のロキですら退(しりぞ)けた。そして先の京都での一件と今回の見事な試合で完全に決定がされた。―――近い内にキミ達4人は階級が上がるだろう。おめでとう。これは異例であり、昨今では(まれ)な昇格だ」

 

「へ……?しょ、しょ、昇格ぅぅぅぅっ⁉お、俺が昇格⁉え⁉プロモーションとかじゃなくてですか⁉」

 

一誠の問いにサーゼクスが笑む

 

「それだけの事をキミ達は示してくれた。まだ足りない部分もあるが、将来を見込んだ上でと言う事だよ」

 

「受けろ、兵藤一誠。お前はそれだけの事をやって来たのだ。出自など関係無い。お前は―――冥界の英雄になるべき男だ」

 

「そ、そんな事を言われても俺は……」

 

混乱する一誠を見てサーゼクスも苦笑する

 

「うむ。詳細は今後改めて通知しよう。キチンとした儀礼を済まして昇格といきたいのでね。会場の設置や承認すべき事柄もこれから決めていかないといけないのだよ」

 

ふとサーゼクスが未だに眠っている新に視線を移した

 

『今、問題なのは“彼”の方だな……。イッセーくんにも話しておいた方が良いだろうか?……いや、いっぺんに話し過ぎても混乱するだけだ。アザゼルからの連絡を待ってみよう』

 

サーゼクスは少し考えた後、「では、これで失礼する」と言い残して退室していった

 

 

―――――――――――

 

 

「アザゼル」

 

「ああ、サーゼクスか」

 

「随分と機嫌が悪そうみたいだが」

 

「機嫌も悪くなるさ。あのインドラ―――帝釈天(たいしゃくてん)が曹操と通じていたのを自分からバラしやがったからな。胸くそ悪いったらありゃしねぇ。オマケに新の親父さんにも逃げられる始末だしよ……っ」

 

「連絡やメディアの情報で聞いたよ。―――新くんが突然、漆黒のドラゴンに変貌したらしいね」

 

「ああ、その事で問い詰めようとしたら『私はこれから虹色の角を持つ巨大牛を探しに行くんだ!』ってふざけた言い訳抜かしたんで捕まえようとしたんだ。そしたら、バカみたいに癇癪玉(かんしゃくだま)を投げ付けて逃げたってオチだ」

 

「やはり先手を打ってきたようだね、総司さん」

 

「サーゼクス、お前は何か知っているのか?」

 

「……アザゼルには話しておいた方が良い、と言うより隠しきれないな。昔、私は総司さんと共にあの力を持つ者達と会った事がある」

 

「あの力を持つ者達?」

 

「ああ、決して野放しにしてはいけない呪われし一族―――ドラゴンの血を受け継いだ竜人(りゅうじん)の一族だ」

 

「呪われた竜人の一族……それが新とどう関連してるんだ?」

 

「そこは総司さんに直接確かめたい。アザゼル、何とか総司さんの足取りを掴んでもらえないだろうか?非常に嫌な胸騒ぎがしてならない」

 

「分かってる、最初からそのつもりだ」

 

 

――――――――――――

 

 

迎えた駒王学園(くおうがくえん)の学園祭当日

 

旧校舎を丸ごと使ったオカルト研究部の出し物は大盛況だった

 

喫茶店、占いとお祓いの館、お化け屋敷は長蛇の列

 

激戦の後で忙しいコーナーを行ったり来たりと疲労が溜まっている体に鞭を打ち付けた

 

あの激戦の後、負けたサイラオーグは上層部のパイプを失った事を聞かされた

 

敗者にいつまでも群がる程、お人好しじゃない

 

悪魔は本来合理的な生き物、利用価値が無いと判断すればあっさりと切り捨てられる……

 

ただ大王家次期当主の座は変動しなかった

 

今回の一件で大王家がどう動くかは分からないが、無下にする事はまず無いだろう

 

その報せだけは唯一の救いとも言える

 

勝者は得る物を得られるが、敗者は失う

 

これが悪魔業界の厳しさだ……

 

そんなこんなで学園祭は終盤に差し掛かり、キャンプファイヤーが焚かれた校庭で男女が楽しく踊っていた

 

新と一誠は疲れた体で部室に戻る

 

部室にはウェイトレス姿から制服に着替えたリアスやアーシア、オカルト研究部の面々が揃っていて打ち上げ用のケーキを切り分けていた

 

「新、イッセー、お仕事お疲れ様」

 

「レイヴェルさんが作ってくださったケーキ、皆さんで食べましょう」

 

そう言ってアーシアが切り分けたケーキを乗せた皿を新と一誠に配る

 

和気藹々(わきあいあい)とした空気で打ち上げが始まろうとしたその時、部室の扉が開かれ―――意外な人物が入室してきた

 

「ん?……あれ?幽神(ゆうがみ)?」

 

一誠が入室してきた人物の名を呼ぶ

 

そう、やって来たのは以前一誠と対峙した男であり、『地獄兄弟(ヘル・ブラザーズ)』の兄―――幽神正義(ゆうがみまさよし)

 

思わぬ人物の登場に皆は一瞬身構えるが、殺気らしき気配が微塵も感じられない

 

そればかりか正義はアーシアの方をチラチラと(うかが)っている

 

ドアの陰から彼の弟―――幽神悪堵(ゆうがみあくど)がヒョコッと顔を出して「じゃあ兄貴、後は頑張れよ」とだけ言ってその場から去る

 

いったい何が始まるのだろうかと怪訝に見ている中、正義はアーシアの前に立つ

 

「ア、アーシア……きょ、今日もお日柄が良くて光栄だな……」

 

「あ、はい。どうもありがとうございます。来てくださったんですね」

 

「お前がやってる喫茶店とやらは入れなかったが、まあ……その……来た」

 

妙に挙動不審ぶりが目立つ正義の様子に首を(かし)げる一誠

 

事態を把握し思わずニヤける新

 

正義はボロボロのコートのポケットから何かを取り出そうとしたが……決意を固めた表情でそれを元に戻す

 

「アーシア・アルジェント。今日はお前に言いたい事があって来た」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「単刀直入に言う。…………俺はお前の事が好きだ」

 

正義の突然の告白に一誠は顔芸のまま固まり、他の面々も呆然とする

 

「「「「「えぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええっ⁉」」」」」

 

一誠を含めたオカルト研究部の殆どが驚愕の声音を発した

 

突然の告白を受けたアーシアは顔を赤く染めて「え……?え……?」と尋常じゃない程の困惑ぶりを見せる

 

そんな状況でも正義は告白を続けた

 

「アーシア、俺はお前が好きだ。俺に人としての感情を(よみがえ)らせてくれた。心の底から好きだ。嘘偽りの無い俺の本心。だから、だからこそ……俺は……惚れた女には幸せになって欲しい」

 

「…………?」

 

「お前の気持ちは分かっている。だが、それでも俺はこの気持ちを伝えたかった。これは俺のケジメであり、惚れた女に送る言葉だ。―――ありがとう、アーシア」

 

アーシアの想い人を知っているからこそ、この気持ちを留めたままにしてはいけない

 

彼なりのケジメ、告白……

 

正義はアーシアに自分の気持ちを伝えた後、一誠の方を向いた

 

「兵藤、必ず、必ずアーシアを幸せにしろ。もし出来なかったら―――その時は貴様を許さないからな。覚えておけ」

 

正義は(きびす)を返して部室から去っていき、固まっていた一誠が正気に戻る

 

「え、え?幽神⁉ちょっと待て、何この居たたまれない空気は⁉」

 

「おーおー、スゲェな」

 

あたふたする一誠とニヤケる新

 

「……ある意味、男らしい告白ね。大勢いる中で堂々と……」

 

「あらあら♪」

 

思わず顔を赤くするリアスと微笑む朱乃

 

「は、初めて見たぞ。これが噂の三角関係とやらか……」

 

「なんてドラマチックなの!イッセーくんに恋のライバル出現ね!」

 

()頓狂(とんきょう)な事を言い出すゼノヴィアとイリナ

 

他の面々も苦笑したりアワアワしたりと反応は様々

 

一方、アーシアは顔と頭から湯気を噴き出して今にも倒れそうになっていた

 

「これ、なんて羞恥プレイ⁉トンでもない爆弾落として逃げんなよぉぉぉおおおおおおっ!」

 

一誠はこの場から立ち去った幽神正義に羞恥の慟哭(どうこく)を放ったのでした……

 

 

――――――――――

 

 

「兄貴、どうだった。フラれた感想は?」

 

「心のつっかえが取れたせいか、妙に清々(すがすが)しい気分だ」

 

「そう言っておきながら泣いてるじゃねぇか」

 

「ん?……ああ、良いさ。人としての感情が甦った証だ」

 

「ったく兄貴の恋の花は見事に散っていったってか……」

 

「相棒、俺達は元から花じゃない。花を支えるだけの地面だ。何も無い地面など虚しいだけ。花があるからこそ地面も映えるし、地面があるから花も綺麗に咲ける。俺達は地面、アーシアは花。そして、兵藤は花を輝かせる太陽みたいなものだな」

 

「んで、結局苦労して書いた手紙は渡せなかったのかよ?」

 

「あそこまで来たら成り行きでそうなってた。いや、そうした方が良かったと言うべきか。……さて、そろそろ行くか」

 

「その前にカップ麺買って行こうぜ。奢るから」

 

「すまないな、相棒。なら、期間限定の『ちょっとしょっぱい塩レモン味』を頼む」

 

「ハハハ、失恋の味ってか?」

 

 

――――――――――――

 

 

「総督殿」

 

「よー、打撃王」

 

アザゼルは冥界の用事ついでにシトリー領の病院に足を運び、院内の売店で花を物色しているサイラオーグと会った

 

「……一からか」

 

アザゼルの問いにサイラオーグが頷く

 

「ええ。問題ありません。慣れていますのでね」

 

「うちの一誠(バカ)は心配してたけどな」

 

「伝えておいてください。―――直ぐに追い付くと」

 

負けたにもかかわらず、清々しさに満ちた笑顔で答えるサイラオーグ

 

彼なら直ぐに追い付き、再び良い試合を見せてくれるだろう

 

そこに執事らしき者が息を切らしながら姿を現した

 

その表情は歓喜の涙に濡れている

 

「どうした?」

 

「サイラオーグ様……ミスラ様が……」

 

 

―――――――――――

 

 

その病室に駆け付けてきていた医師や看護師が驚愕の表情を浮かべ、口々に「奇跡だ」「信じられない」と漏らしていた

 

ベッドを覗けば―――そこには長い眠りから目を覚ました女性が窓から風景を眺めていた

 

サイラオーグは体を震わせ、下の売店で購入した花を床に落としながらベッドに近付いていく

 

それに女性―――サイラオーグの母親、ミスラ・バアルも気付いた

 

「……母上、サイラオーグです。お分かりになりますか?」

 

「……ええ、分かりますよ……」

 

息子の頬を撫でようとする母の手

 

震えるその手をサイラオーグの大きな手が取った

 

「……私の愛しいサイラオーグ……。……夢の中で……あなたの成長をずっと見続けていたような気がします……」

 

母親は静かに笑み、一言だけ続けた

 

「……立派になりましたね……」

 

「…………っ」

 

母親のその一言を聞いたサイラオーグの目から一筋の涙が(こぼ)れた

 

「……まだまだです、母上。……元気になったら、家に帰りましょう。あの家に……」

 

 




遂に終わりを迎えたサイラオーグ編!長かった……。

しかし、ホッとするのも束の間!

次回はオリジナル章を書いていきます!


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