「新、何処に行ってたの?……急にいなくなったから心配したのよ」
「……さっきトイレで出すものを出してきた所だ」
トイレから戻ってきた新は平静を
だが、リアスは新の様子がおかしい事に気付いていた
―――“彼の体から明らかな殺意が発せられている”―――
その矛先は言わずもがな……サイラオーグに向けられていた
『さあ、
実況に促され、リアスは台の前に立ってダイスを転がす
出た目は5、サイラオーグの方は4
合計数字は9となった
サイラオーグ側は勿論『
「……よしっ、部長、ここは俺が―――」
出場を申し出ようとした時、一誠がドンッと突き飛ばされる
突き飛ばした犯人は―――新だった
転移魔方陣の前まで歩みを進め、一誠が新に声を掛ける
「お、おい、新!何すん―――」
「俺が出る。邪魔するな」
一誠は異を唱えようとしたが、新の異様な気迫と
その様子にリアスとアーシアも小さく体を震わせていた
新は何も言う事無く、バトルフィールドへ転送されていく
――――――――――――
転送されたバトルフィールドは
相対するように現れたのはサイラオーグの『
無言で
「
「…………あぁ、嬉しいぜ。美人なら大歓迎だ」
新はわざとらしい笑みを浮かべる……が、直ぐに溜め息を吐いて打ち明ける
「―――と言っても、実は結構いっぱいいっぱいなんだ。ここまで試合を見てきて、仲間がやられていくのを見て……正直叫びたかった。さっきまで本当にギリギリだったんだ……。歯を食い縛り過ぎて口の中がズタズタ、胃も掻き回されたように狂っちまって……トイレで
明かされた新の心中にリアス達は言葉を失う……
新はここにいる誰よりも悲しみ、怒りを内に秘めていたのだ
それを表に出さず、ここまで堪えてきた
「出来る事なら、このやり場の無い怒りをあんたにぶつけてやりたい。だが、それはただの八つ当たりになっちまう。どうせなら……敵の総大将に一気にぶつけてやりてぇんだ」
『第7試合、開始してください!』
試合開始が告げられ、クイーシャ・アバドンは特に何もせずに新の行動を待った
「
強い覚悟を見せるクイーシャ・アバドン
新は一拍置いてから
「我、目覚めるは闇と
背中から6枚の炎の翼が生え―――
「無限の欲望を喰らい、不屈の闘志を
足も炎に包まれ、猛禽類の爪が鋭利に伸びる
「我、闇に染まりし
左手に宝玉付きの盾が出現し、兜のマスクが赤いバイザーに覆われる
―――『
京都で発現した『
展開された6枚の翼を収納し、盾の宝玉から剣を取り出す
「さあ、お望みの姿になってやったぜ。ただ……先に言っといてやる。この姿でも俺は―――あんた相手には本気を出さない」
「―――っ。何ですって?」
「“本気の姿”にはなったが、“本気を出す”とは言ってない。あんたじゃ今の俺には勝てないからな」
「……言ってくれますね。私の『
舐められてると思ったのか、言葉に怒気を含ませるクイーシャ・アバドン
しかし、それでも新は意に介さずこう言った
「甘く見てねぇよ。……けどな、それでもあんたは俺には勝てない。ただ、それだけの事だ」
新は取り出した剣に高密度の魔力を走らせ、更に炎を纏わせて引くように構える
クイーシャも全身から魔力のオーラを
新は高密度の魔力と燃え盛る炎を帯びた剣を振り下ろした
X字の軌道を描くように2度斬り、最後にバチバチと魔力を帯びた剣で地面ごと斬り払う
「ブレイジング―――バーストォォォオオオオオッ!」
斬り払った瞬間、Xを描いた炎の
突き進む度に地面を破壊し尽くし、眼前のクイーシャ・アバドンを飲み込まんと向かっていった
「無駄です!」
クイーシャはすかさず前方に巨大な『
……だが、『
『
「ど、どうして……っ!私の『
「どんな魔力だろうがキャパシティ―――限界って物があるだろ?あんたの限界を超える攻撃をしたまでだ」
新は左手の盾から炎の球体を出現させ、剣でそれを突く
「ブレイジング―――シュートォォォォオオオオッ!」
剣で突かれた炎の球体は真っ赤に燃え
2つの
やがて……全ての『
目の前で起きた信じられない現象にクイーシャは戦慄する
「そんな……私の『
「言っただろ。あんたじゃ今の俺には勝てないって」
距離を詰めた新がクイーシャの眼前に力一杯剣を振り下ろす
刹那、
剣圧による破壊が止み、新は眼前のクイーシャを睨み付ける
一方、クイーシャは新との実力差にすっかり萎縮していた
「あ……あ……」
声を震わせ、足も動かせず、ただ石像の様に立ち尽くすだけ……
自分の裸体にも気が回らない程、目の前の
新は剣を収め、激昂のオーラを滲ませながら言う
「分かったろ?俺はこの怒りをあんたじゃなく、サイラオーグにぶつけてやりたいんだ。だから……邪魔なんだよ」
いつになく冷徹で残酷な発言をする新
今の彼には余裕など微塵も無いのだろう
“これ以上、邪魔するな”と言う最終警告とも取れる言葉にクイーシャは遂にへたり込んでしまった
「……申し訳ありません、サイラオーグ様……っ」
クイーシャの弱々しい声にサイラオーグも映像越しに『いや、気に病む事はない。よく頑張った』と慰みの言葉を贈り、
『サイラオーグ・バアル選手の「
クイーシャのリタイヤが決定された直後、新は兜のバイザーとマスクを解除して大きく息を吐いた
「あんたには悪い事をしたな。今のはリタイヤしていった仲間達の分って事で許してくれ」
「……恨むつもりはありません。私の方があなたを舐めていたのかもしれませんね。過信ゆえの敗北……情けない限りです」
「まあ、状況が状況だし、俺も冷静じゃなかったからな。それと―――なかなか良いおっぱいしてるぜ」
新の言葉にようやく自分の裸体に視線を向けたクイーシャ・アバドン
顔を赤く染め、
「……先程までの気迫が嘘みたいですね」
「と言っても、まだ怒りを収めちゃいないがな」
クイーシャ・アバドンの体がリタイヤの光に包まれ、バトルフィールドから消えていった
モニターの映像にサイラオーグが映り込み、新はそちらに視線を向ける
『……万が一にもクイーシャが殺されると感じれば、強制的にリタイヤさせるつもりだったんだが。冷静だな、
「冷静?そう見えるか?ようやくお前と戦えるんだ。遠慮無く怒りを吐き出させてもらうぜ……ッ!」
全身から怒りのオーラを溢れさせたまま、モニターに映るサイラオーグを睨み付ける
やはり、まだ怒りを鎮めてはいなかった……
それを理解したサイラオーグは嬉しそうに笑んだ
『……なんて目を向けてくれる……ッ!殺意に
サイラオーグはカメラ目線で訴え始める
『
サイラオーグの提案に会場の観客席がどよめく
一拍空けて戦闘を再開させるよりは、継続したテンションのままで決闘に持ち込みたいと言う思惑だろう
サイラオーグとしても片方だけではなく、
それならば、次を団体戦にした方が分かりやすい上にこのテンションを継続出来る
「私もそれで良いのなら、それで構わないわ」
リアスも団体戦の提案を承諾し、そこから数分間の時間が流れ―――実況席に一報がもたらされる
『え、はい。今、委員会から報告を受けました!―――認めるそうです!次の試合、事実上の決定戦となる団体戦です!両陣営の残りメンバーの総力戦となります!』
その報告に会場が沸き上がった
『―――だそうだ。やり過ぎてしまうかもしれん。死んでも恨むなとは言わんが、死ぬ覚悟だけはしてくれ』
「俺も一誠も殺す気で行くぜ。そうじゃないとお前に勝てないし―――リタイヤしていった仲間に顔向け出来ないんだよ」
『たまらないな……ッ』
――――――――――――
実況が声を震わせる
『さあ、バアルVSグレモリーの若手頂上決定戦も遂に最終局面となりました!サイラオーグ選手によってもたらされた提案により、団体戦となった最終試合!バアル側は「
「こっちの紹介ひでぇな!」
「おい実況!勝手な肩書き作ってんじゃねぇ!なんだ、おっぱいカイザーって!?」
紹介は酷かったものの、観客席の子供達からは応援が飛び交う
ちなみにアーシアは陣地に置いてきた
回復役は真っ先に狙われる為、試合のメンバーに入れておくにはリスクが高過ぎる
その上、敵はサイラオーグと駒消費7の『
集中砲火を受ければ大ダメージは確実なので、今回ばかりアーシアは控えに回してきたのだ
『……では、開始してください!』
遂に背後の試合が始まり、一誠と相手の『
新、一誠、リアスは構えるが、サイラオーグは小さく笑うだけだった
「リアス、先に言っておく事がある。お前の眷属は素晴らしい。妬ましくなる程お前を想っている。それゆえに強敵ばかりだった。こちらは俺とそちらの『
サイラオーグが新と一誠の前に立つ
「兵藤一誠、竜崎新。遂にだな」
「あぁ、グレモリー城の地下でやり合って以来だ。あの時は
「恨みはありません。妬みもありません。これはゲームですから」
一誠はサイラオーグに指を突きつける
「―――けど、仲間の仇を取らせてもらいます。俺達の大事な仲間を
「サイラオーグ、今までの
新と一誠の台詞を耳にしたサイラオーグは心底打ち震えている様子だった
「極限とも言える台詞だ……ッ!だろうな。お前達は少なくとも仲間の敗北に耐えられる男ではない。よくぞ、ここまで耐えた。爆発させろ。ああ、それで良い。それでこそ、決着と思える戦いの始まりに相応しいッ!」
ゴオオオオオォォォォォッ!
まず一誠が背中のブーストを最大にまで噴かして正面からサイラオーグに向かっていく
サイラオーグも全身に膨大な闘気を纏わせ、地面を蹴って飛び込んできた
クロスカウンターの要領でお互いの拳が顔面に直撃
鎧越しにでも中身を吹き飛ばしそうな衝撃と激痛が頭部に伝わり、兜も破壊される
しかし、一誠の拳打はこれだけでは終わらない
『
増大されたパワーが拳に宿り、インパクトの勢いを底上げする
辺り一帯に乾いた音が木霊する程、一誠のパンチは小気味良く打ち込まれた
サイラオーグの鼻から血が噴出し、口の端からも血が流れ出る
その直後、続くように新も拳と足に絶大な魔力を宿して飛び出す
一瞬で距離を詰め、赤黒く輝く拳をサイラオーグの顔面に打ち込む
打ち抜いた際に体を回転させ、すかさず顔面に魔力を宿した蹴りを入れた
サイラオーグの体が少しよろめき、口元の血を拭う
「双方共に練り上げられた拳だ……ッ!気迫が体に入り込んでくるようだ。悪魔になって少ない月日の中、どれだけ自分を
そこから新と一誠、サイラオーグの殴り合いが始まった
近距離での拳と蹴りの乱舞
「実戦で練られた攻撃か!余念が無い分、的確に確実にこちらの中心点を狙ってくるな!」
何度かの近距離戦を終え、一定の距離を保ったところで相手側の『
リアスと対峙している『
新や一誠と歳があまり変わらないであろう少年の顔
しかし、それは直ぐに変貌する……
ボゴッ!ベキッ!
体中から音を発して少年の体が盛り上がっていき、姿を違う物に変化させていった
金色の体毛が全身から生えていき、腕と脚が肥大化
口が裂けて鋭い牙を覗かせ、尻尾も生えてくる
ガゴォォォォォォォォオオオオオンッ!
そこに現れたのは巨大な1匹のライオンだった
5~6メートルありそうな巨体、額には宝玉のような物が埋め込まれている
金色のライオンは
『おおおっと!バアルチームの謎の「
『まさか、ネメアの獅子か!!いや、あの宝玉はまさか……!』
アザゼルが何かを得心して驚きの声音を発し、実況が尋ねる
『……元々はギリシャ神話に出てくる元祖ヘラクレスの試練の相手なんだが……。聖書に記されし神があの獅子の1匹を
驚くばかりの展開だが、サイラオーグは首を横に振る
「いや、残念ながら所有者は死んでいる。俺が『
サイラオーグの母の実家ウァプラは獅子を司る一族
まさに運命の出会いだったと言う事だ
『……所有者抜きで単独で意志を持って動く
アザゼルは解説の立場をすっかり忘れて研究者としての顔となっている……
「所有者無しの状態のせいか、力がとても不安定でな。このゲームまで、とてもじゃないが出せる代物ではなかった。敵味方見境無しの暴走状態になっては勝負どころじゃなくなるからな。今回、出せるとしたら俺と組めるこの様な最終試合だけだった。いざと言う時、こいつを止められるのは俺だけだからな」
サイラオーグがそう話す
どうやら『
出すとしても制止出来るサイラオーグと共に出なければならない……
「……どちらにしても、私の相手はその
新と一誠、リアスがアイテニ向かっていく
新と一誠がサイラオーグに拳を繰り出し、リアスが滅びの魔力を獅子に撃ち込む
サイラオーグとの打撃合戦、2人がかりで打ち込み続けるが……サイラオーグは倒れる様子を見せない
両者共に殴られ蹴られ、口の中に血が溜まっていく
更に攻防を繰り返す中で、2人はサイラオーグのちょっとした異変に気付いた
「新、サイラオーグさんの右からのパンチ―――左に比べて若干遅い様な気がするぞ……」
「あぁ、それに威力も左より少し低い気が……」
サイラオーグの右腕の異変に2人は先程の試合の経緯が脳裏に
“デュランダルで切断された時の影響が出始めている……?”
どうやらフェニックスの涙でも回復しきれていなかったようだ
―――最高の状態であなたを赤龍帝と闇皇に送り届けるッ!
あの時に言った祐斗の台詞が再生され、一誠は鎧の中で涙を溢れさせる
再びサイラオーグが右の拳を放った時だった
「俺の仲間はッ!弱点の無いあんたに弱点を作ったッ!その右腕の事だッ!」
サイラオーグの右ストレートが伸びきった瞬間を狙って、一誠は右腕にパンチを放つ
『
増大した一撃がサイラオーグの右腕の勢いを奪い、その体を少しだけよろめかした
「
『
赤いオーラが膨れ上がり、一誠の体が肉厚の鎧に包まれた
極大サイズの拳でサイラオーグにアッパーを打ち込み、撃鉄も撃ち込んで威力を上げた
派手な爆発音と共にサイラオーグの体が空高く投げ出される
「景気付けだァッ!」
新も炎の翼を広げて舞い上がり、両手両足に魔力を促す
無防備となったサイラオーグに拳打と蹴りの嵐を見舞っていった
拳、蹴り、肘打ち、膝と
更に新がサイラオーグを蹴り上げた直後、追撃とばかりに一誠が内の駒を変化させる
「
『
通常の鎧に戻り、背中にバックパック、肩にキャノンが形成され、砲口をサイラオーグに向ける
「ドラゴンブラスタァァァァァァァァッ!」
ズバァァァァァァンッ!
絶大なオーラの砲撃が解き放たれ、サイラオーグは空中で体勢を立て直して翼を展開し、左キャノンの砲撃を
空中で煙を上げながらゆっくりと地に降り立つサイラオーグ
全身にかなりの怪我を負ってはいるが、決定打と呼べるものではない……
砲撃が当たる直前、闘気で全身を包み込んでダメージを
サイラオーグは満足そうな笑みを浮かべる
「―――強い。これ程のものか……ッ!」
新と一誠の攻撃に満足そうだった
生半可な攻撃では倒せない以上、次はどう攻めようかと考慮していた……その時、「キャッ!」と言う悲鳴が上がる
リアスの悲鳴だ
そちらに視線を向けてみると―――地面に膝をつく血染めのリアスの姿が……っ
次回、いよいよ新の黒い感情が爆発しますよぉ……ッ