ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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新のストレスが最高潮を迎える回です……


怒りの咆哮

第4試合を終えて残った眷属はグレモリーチームがリアス、朱乃、祐斗、ゼノヴィア、アーシア、ロスヴァイセ、新一誠の8名

 

バアルチームはサイラオーグ、『女王(クイーン)』、仮面の『兵士(ポーン)』のみとなっていた

 

『さあ、戦いも中盤(ミドルゲーム)を超えようとしているのかもしれません!サイラオーグ・バアル選手のチームは残り3名!対するリアス・グレモリー選手は8名となっています!グレモリーチームが有利ですが、バアルチームも残りのメンバーが強力です!巻き返しとなるか!』

 

「木場、相手方の『兵士(ポーン)』は駒消費7だったか?」

 

一誠が祐斗に確認を取ると、祐斗は頷いた

 

「うん。不気味だね。少なくとも今まで出てきたバアル眷属よりも強敵なのは確かじゃないかな」

 

第5試合の出場選手を決める為のダイスシュートが始まり、合計数字が9となる

 

「あちらも遂に3人。9と言う事は『女王(クイーン)』か『兵士(ポーン)』しか出てこられないわ。……『兵士(ポーン)』はまだ出さないと私は思うの」

 

「……何か根拠はあるのか?」

 

新の問いにリアスは答える

 

「サイラオーグはあの『兵士(ポーン)』を出来るだけ使いたくないと思っているような気がするわ。まるで出てくる気配が感じられない。温存しているとしても温存し過ぎよ。『兵士(ポーン)』が出られる試合は何度もあったし、ロスヴァイセと小猫が戦った第2試合に投入してきても良いと思ったわ」

 

「となると、相手は次に『女王(クイーン)』ですか、部長」

 

「ええ、祐斗。サイラオーグの『女王(クイーン)』―――クイーシャ・アバドン。『番外の悪魔(エキストラ・デーモン)』アバドン家の者が来るでしょうね」

 

サイラオーグが次に出す選手―――クイーシャ・アバドンは『番外の悪魔(エキストラ・デーモン)』アバドン家の出身

 

強力な悪魔の一族らしく、レーティングゲームの現役トップランカー3位もアバドン家

 

家自体は現政府と一定の距離を取っていて、冥界の隅でひっそりと住んでいるらしいが……

 

「―――私が行きますわ」

 

朱乃がリアスにそう進言する

 

「―――朱乃、良いの?相手の『女王(クイーン)』はアバドンの者よ?記録映像を見る限りでも相当な手練れだったわ」

 

リアスの言う通り、クイーシャ・アバドンはグラシャラボラス戦で絶大な魔力とアバドン家の特色―――『(ホール)』を使って他者を圧倒していた

 

(ホール)』とはどんな物でも吸い込む厄介極まりない代物で、その先は異界に続いているらしい

 

「俺が行きましょうか?勝てる算段はあるんですけど」

 

一誠がそう言うが、朱乃は首を横に振った

 

「それは例のトリアイナを使ったものでしょう?まだ出してはダメよ、イッセーくん。もっと大きな数字が出た時―――終盤(エンドゲーム)で見せてこそですわ。それまでは私が何とか相手戦力を削りましょう。後ろに祐斗くんやゼノヴィアちゃん、ロスヴァイセさん、そして部長とイッセーくん、新さんが控えてくれているからこそ、出来る無茶もあるんです」

 

笑顔で言う朱乃だったが、新は内心では気が気でなかった

 

しかし、そこまで言われてしまったら返す言葉も思い付かない……

 

「……分かったわ、朱乃。お願いするわね」

 

「ええ、リアス。勝ちましょう、皆で」

 

「……朱乃。やっぱり、ここは俺が―――」

 

新が寸前で朱乃を呼び止め、代わりに出場すると申し出ようとするが―――朱乃が人差し指を新の唇に押し当て、発言を止める

 

「ご心配してくださってありがとうございます。ですが、私は負けません。必ず勝ちます。リタイヤしていった小猫ちゃんとギャスパーくんの為に出来る事は―――勝利を持ち帰る事です」

 

それは以前、新がライザーとのレーティングゲームでリアスに放った言葉だった

 

もう少しで勝利を収められそうだった時、リアスが投了(リザイン)した事で新は激怒し、『(キング)』と言う立場の責任を諭した……

 

自分が放った言葉が―――今度は自分の心中に突き刺さる……

 

その後、新は何も言えず、転送される朱乃を見送るしか出来なかった

 

朱乃が着いた場所は無数の巨大な塔が並び立つフィールドだった

 

眼前の塔の頂上にはバアルチームの『女王(クイーン)』―――クイーシャ・アバドン

 

「やはり、あなたが来ましたか、雷光(らいこう)の巫女」

 

「ええ、ふつつか者ですが、よろしくお願い致しますわ」

 

審判(アービター)が出現して両者を見据える

 

『第5試合、開始してください!』

 

試合開始が宣言された瞬間、朱乃とアバドンは翼を羽ばたかせて空中へ飛び出していき―――魔力による壮絶な撃ち合いが始まった

 

朱乃が炎を魔力を大質量で撃てば、相手は氷の魔力でそれを相殺する

 

更に朱乃が水を使えば、相手は風で相殺

 

魔力による空中戦は殆ど互角だった

 

しかし、まだ油断は出来ない……

 

相手はアバドン家の特色―――『(ホール)』を使っていないからだ

 

朱乃が魔力で空に暗雲を作り出し、そこから大質量の雷光を放った

 

閃光が走り、アバドンを雷が包んでいく―――寸前で空間に歪みが生じて『(ホール)』が開かれ、大質量の雷光は()(すべ)無く『(ホール)』に吸い込まれていく

 

「ここですわ!これならどうでしょう!」

 

朱乃はこの機会を狙っていたのか、更に天に雷光を走らせる

 

大質量かつ幾重もの雷光が周囲一帯を襲い、周りの塔を次々と吹き飛ばしていく

 

フィールドの大半を覆う程の雷光がアバドンに襲い掛かる

 

直撃を受ければ致命傷は必至、しかも今度は避ける場所が無い

 

皆が朱乃の勝利を確信した―――が、アバドンが『(ホール)』を広げ、更に複数の『(ホール)』を周囲に展開させた

 

巨大な『(ホール)』と周囲に現れた複数の『(ホール)』が朱乃の雷光を全て飲み込み、その光景を見て朱乃は絶句していた

 

アバドンが冷笑を浮かべて言う

 

「私の『(ホール)』は広げる事も、幾つも出現させる事も出来ます。そして『(ホール)』の中で、吸い込んだ相手の攻撃を分解して放つ事も出来るのです。―――この様にして」

 

朱乃を取り囲む様に無数の『(ホール)』が現れる

 

「雷光から雷だけを抜いて―――光だけ、そちらにお返ししましょう」

 

ビィィィィィィィィッ!

 

無数の『(ホール)』から朱乃に向けて幾重もの光の帯が撃ち放たれた……

 

悪魔にとって光は猛毒にして必殺……

 

朱乃は光に包まれていく

 

『リアス・グレモリー選手の「女王(クイーン)」、リタイヤです』

 

無情に告げられるアナウンスに新は拳を握り締め、歯を食い縛った―――血が出る程に……

 

 

――――――――――

 

 

「吸い込むだけではなく、あの様にカウンターにも使えるのか」

 

祐斗が絞り出した声音でそう言う

 

朱乃を失った事でグレモリーチームは衝撃を受けていた

 

あの雷光が決まれば勝っていたのだが、アバドンの『(ホール)』を甘く見ていたのが敗因となった……

 

『……クソッ!やっぱり、あの時に俺が出ていれば良かったんだ……ッ!無理にでも止めていれば……ッ!』

 

新は朱乃を向かわせてしまった事を激しく後悔していた

 

「……気を取り直しましょう。終盤(エンドゲーム)に差し掛かっているのだから、気は抜けないわ」

 

リアスは自分にも言い聞かせる様にそう言った

 

第6試合の出場選手を決めるダイスシュート

 

合計数字は―――遂に最大の12が出た

 

『出ました!遂に12が出ました!この数字が意味する事は、サイラオーグ選手が出場出来ると言う事です!』

 

実況の声に観客が大いに沸き上がり、それに呼応するかの様にサイラオーグが陣地で上着を脱いだ

 

戦闘用に用意した黒い戦闘服、鍛え抜かれた体格が浮き彫りとなっていた

 

サイラオーグの戦意に満ちた双眸(そうぼう)が新達に向けられる

 

「イッセーくん、新くん。この試合、僕とゼノヴィアとロスヴァイセさんでサイラオーグさんと戦うよ」

 

騎士(ナイト)』2人で6、『戦車(ルーク)』1人で5、合計は11

 

「出来るだけ相手を消耗させるつもりだ。キミと新くんと部長の為に」

 

「祐斗!あなた、まさか……」

 

リアスが言わんとする事を察して祐斗は頷いた

 

「僕単独ではサイラオーグ・バアルには勝てません。そんな事は重々承知です。では、僕の役目は?簡単です。出来るだけ相手の戦力を削ぐ。この身を投げ捨ててでも―――。ゼノヴィア、ロスヴァイセさん、付き合ってくれますか?」

 

祐斗のゼノヴィアとロスヴァイセが当然と言わんばかりに頷く

 

「ああ、勿論だ。新とイッセーと部長が後ろに控えていると言うだけでこんなにも勇気が持てるとはな。朱乃副部長の想いがよく分かる」

 

「役目がハッキリしている分、分かりやすくて良いですね。―――出来るだけ、長く相手を疲弊させましょう」

 

3人とも覚悟が決まった顔をしていた

 

そんな彼らを見て新は必死に自分の中に沸き上がってくる感情を抑え込む

 

“行かせたくない”

 

“出来るなら自分も出て戦う”

 

そう進言しようとしたのだが、ここで彼らの覚悟を無下にしてはいけない……

 

「……なら、せめて新を加えるか、イッセーと祐斗か、ゼノヴィアが組めば―――」

 

リアスがそう言うが、祐斗は首を横に振る

 

「ダメです。イッセーくんと新くんをここで出す訳にはいきません。出してしまえばルール上、2人の内どちらかが連続で出場する事が出来なくなってしまいます。だから、次の次の試合はアーシアさんを出して直ぐにリザインする。そうすれば、後続の2人に繋げる事が出来ます。だからこそ、ここが正念場です。―――僕達がサイラオーグ・バアルの力を削ります」

 

「それにやれるなら倒す!」

 

「そうだね、そのつもりでもある」

 

リアスは覚悟を決めたのか、大きく息を吐いた

 

「お願いするわ、3人とも。サイラオーグに少しでも多くダメージを与えてちょうだい。……ゴメンなさい。さっき心中で覚悟を決めたばかりなのに、またあなた達に教えられてしまったわ……。本当に私は甘くて、ダメな『(キング)』ね」

 

リアスの自嘲に祐斗は首を横に振った

 

「僕達は部長と出会って救われました。ここまで来られたのも、部長の愛があったからこそなんです。―――あなたに勝利を必ずもたらします。僕達で」

 

祐斗はそれだけ言い残し、ゼノヴィアとロスヴァイセと共に転移魔方陣へ向かっていき、バトルフィールドへと転送された

 

 

―――――――――――

 

 

3人が到着したのは湖の湖畔だった

 

腕組みをして先に待機していたサイラオーグが3人を見て笑う

 

「リアスの案か?」

 

どうやらサイラオーグはグレモリー側の思惑を認識していたのだろう

 

祐斗達は何も答えないが、サイラオーグは感心するように口の端を吊り上げる

 

「そうか。リアスは一皮剥けたようだ」

 

組んだ腕を解いてサイラオーグが3人に告げる

 

「お前らでは俺に勝てん。良いんだな?」

 

「ただでは死にません。―――最高の状態であなたを赤龍帝(せきりゅうてい)闇皇(やみおう)に送り届けるッ!」

 

「良い台詞だッ!お前達は何処までも俺を高まらせてくれる……ッ!」

 

審判(アービター)から試合開始が宣言された刹那―――サイラオーグの四肢に奇妙な紋様が浮かび上がる

 

「これは俺の体を縛り、負荷を与える枷だ。―――これを外させてもらおう。全力でお前達に応えるッ!」

 

淡い光がサイラオーグの四肢から漏れて紋様が消失した瞬間、サイラオーグを中心に周囲が弾ける

 

風圧が巻き起こり、足下が激しく揺れてクレーターと化す

 

湖の水も大きく波立っていた

 

クレーターの中心で白く発光するサイラオーグの体

 

まるで闘気でも纏っているかのようだった

 

『……なんて奴だ。闘気を纏ってやがる。しかもここまで可視化する程の濃厚な質量……』

 

『となりますと、サイラオーグ選手は気を扱う戦闘術を習得していると?』

 

『いや、サイラオーグが仙術を習得していると言う情報は得ていない』

 

アザゼルの解説に皇帝(エンペラー)べリアルも続く

 

『はい、彼は仙術を一切習得していませんよ。あれは体術を鍛え抜いた先に目覚めた闘気です。純粋にパワーだけを求め続けた彼の肉体はその身に魔力とは違う、生命の根本と言うべき力を纏わせたのです。彼の有り余る活力と生命力が噴出して、可視化したと言って良いでしょう』

 

サイラオーグは過酷な修行の果てに魔力とは違う、純粋なパワーの波動を身に付けたのだ

 

サイラオーグから放たれるプレッシャーに3人も表情を険しくする

 

「一切、油断をしないッ!貴様達は取られても構わない覚悟を決めた戦士だ。生半可な相手じゃない。―――取られても良い覚悟で戦うッ!それこそが俺であり、相手への礼儀だ!」

 

その場の地面を大きく削ってサイラオーグの姿が消える

 

「させません!」

 

ロスヴァイセが縦横無尽に魔方陣を展開させ、魔法のフルバーストを撃つ体勢となった

 

祐斗はサイラオーグの動きを捉えたのか、「ロスヴァイセさん、そっちです!」とその方向に聖魔剣(せいまけん)の切っ先を向ける

 

そこへロスヴァイセのフルバーストが撃ち込まれ、その先にサイラオーグが出現した

 

様々な属性の魔法とゼノヴィアの聖なる波動も混ざる様に乱れ飛んでいくが―――

 

「ふんっ!」

 

空を殴り付ける音と共にサイラオーグが魔法攻撃を次々と拳で打ち返した

 

サイラオーグは高速で魔法と聖なる波動の雨を掻い(くぐ)り、ロスヴァイセとの距離を一気に詰めていく

 

回避行動もままならず、サイラオーグの拳がロスヴァイセの腹部を直撃

 

その瞬間、周辺一帯の空気が振動する程の鋭い一撃だった……

 

ヴァルキリーの鎧がその勢いで無惨にも砕け散り、ロスヴァイセは拳の勢いによって湖の遥か彼方まで吹っ飛ばされてしまった

 

同時に体がリタイヤの光に包まれ、湖に落ちる……

 

「―――まずは1人」

 

「うおおおおおおっ!」

 

ロスヴァイセが消えていく中、ゼノヴィアがサイラオーグに正面から斬り掛かる

 

サイラオーグは一瞬で姿を消してゼノヴィアの背後に現れ、そのまま蹴り飛ばそうとするが、ゼノヴィアは身をよじって蹴りを(かわ)

 

回避しても蹴りの勢いは空気を大きく震わせ、前方の湖を真っ二つに割る程の風圧を見せつけた

 

「―――相手の動きが速すぎるッ!」

 

「まずはちょこざいな魔法の使い手から撃破(テイク)したが……さて、剣士が2人。しかも聖剣の使い手だ」

 

不敵に笑むサイラオーグを見たゼノヴィアと祐斗が全身からオーラを(ほとばし)らせる

 

「木場―――ッ!こいつはヤバいッ!全力中の全力でなければ勝てないぞッ!」

 

「分かっているよ、ゼノヴィア!後先考えるのはよすべきだ!余力を残すなんて事を頭の片隅に浮かべただけでやられる……ッ!それ程の相手だッ!」

 

2人の緊迫ぶりを見てサイラオーグは満足そうな笑みを見せた

 

「それで良い。俺の拳を止めてみせろッ!」

 

サイラオーグはその場を勢い良く飛び出し、闘気を纏わせた拳で祐斗に殴り掛かる

 

祐斗は前方に聖魔剣を幾重にも張り巡らせて壁を作るが―――拳の一撃で呆気なく破壊されていく

 

「―――ッ!聖魔剣がッ!」

 

「やわいな。これでは俺の攻撃は止められんぞ」

 

近距離は危険だと感じた祐斗はその場を高速で駆け出すが、サイラオーグも追い掛ける

 

バキンッ!

 

鈍い金属音―――祐斗が聖魔剣ごとサイラオーグの一撃を食らってしまい、聖魔剣も(はかな)く折れていく……

 

「長所を伸ばしつつ、技術への探求も忘れない、か。何よりも主への、仲間への想いが強い。―――良い『騎士(ナイト)』だ。リアス、お前が妬ましくなる程の『騎士(ナイト)』だよ、こいつは。……だが、防御。唯一お前の弱点だったな、木場祐斗。しかし、この一撃を不覚と思う事はない。―――この拳はお前でなくとも耐えられないものだからな」

 

「デュランダル―――ッ!」

 

祐斗の窮地にゼノヴィアがデュランダルを振るい、サイラオーグ目掛けて複数の聖なる波動を放った

 

「聖剣の波動かッ!面白い!俺の覇気と伝説の聖剣が生み出す波動!どちらが上か勝負ッ!」

 

サイラオーグが身に纏う闘気をより強く盛り上げ、デュランダルの波動を真っ正面から受けた

 

その結果は―――無傷

 

サイラオーグの闘気は微塵も薄まる気配を見せない……

 

その様子にゼノヴィアは全身を震わせる

 

「―――っ。真っ正面からのあの攻撃で無傷。……バケモノだ」

 

「良い波動だ。だが、俺を止めさせるにはまだまだ足りない」

 

「ゼノヴィア、コンビネーション行くよ!」

 

祐斗がゼノヴィアにそう告げて、2人がかりでサイラオーグに剣を放つ

 

聖魔剣とエクス・デュランダル、二振りによる高速の剣戟(けんげき)をサイラオーグは最小限の動きで避けていく

 

祐斗は距離を取って素早く聖魔剣から聖剣にチェンジ、禁手(バランス・ブレイカー)の龍騎士団を出現させた

 

「行けぇぇっ!」

 

祐斗の命を受けて複数の龍騎士団が高速でサイラオーグに向かっていく

 

「新しい禁手(バランス・ブレイカー)かッ!是非もないッ!」

 

サイラオーグは真っ向から龍騎士団を迎え撃ち、高速の斬戟(ざんげき)を掻い潜りながら龍騎士団を次々と破壊していく

 

「数が多く、速さもある!だが、俺が相手では硬さが足りない!」

 

龍騎士団を拳と蹴りだけで全て破壊したサイラオーグ

 

流石の祐斗もサイラオーグの常軌を逸した体術に戦慄していた

 

「才気溢れる動きだ。可能性に満ち溢れた攻撃を感じる。―――しかし、この場では俺の方が上だ」

 

2人の斬戟を避けきったサイラオーグの掌底(しょうてい)がゼノヴィアの腹部に入り、回し蹴りが祐斗の脇腹に入った

 

2人の体からメキメキと耳障りな音が発せられ……その場で血を吐いて地面を転がる

 

―――“力の権化”―――

 

闘気を纏い、2人の前に立ち塞がるサイラオーグの姿はまさに鬼神の如く……

 

祐斗が血を吐きながらも小さく笑った

 

「……イッセーくんと新くんはこんな1発を受けて、まだ真っ直ぐに進めたのか……。やっぱり、凄いや……」

 

そう言いながら祐斗は軋む体に鞭を打って立ち上がっていく

 

「……体はまだ動く……。良かった、まだ戦える。まだ相手を削れる……ッ!」

 

手元に聖魔剣を創り出す祐斗

 

それに応じてゼノヴィアもよろめきながら立ち上がった

 

「……まだ、寝てはいられないか」

 

「さあ、削ろうか、ゼノヴィア。少しでもイッセーくんと新くんの為に、部長の為に、剣を振るおう」

 

剣を構える2人に闘気を纏った鬼神(サイラオーグ)は最高の笑みを浮かべていた

 

「まだ楽しませてくれるのか……ッ!」

 

「ああ、楽しませてやるさ……!」

 

ゼノヴィアがそう言う中―――なんと彼女の背後からロスヴァイセが出現した!

 

その手には透明な刀身の剣が握られている

 

「油断しましたね!近距離からの魔法フルバーストならどうです!?」

 

ロスヴァイセが魔法陣を無数に展開し、近距離から魔法を撃ち放った

 

けたたましい炸裂音と共にサイラオーグの体から爆煙が上がる

 

実は先程サイラオーグが倒したロスヴァイセはデュランダルの鞘と化しているエクスカリバーの1つ―――擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)が化けたもので、今出てきたのが本物のロスヴァイセである

 

所持者をも透明に出来るようになった透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)の力を活用したのだ

 

持ち主であるゼノヴィアの合意さえあれば、聖剣因子が無い者でも短時間だけ各エクスカリバーの恩恵を受けられる

 

いつ、この様な作戦の下準備が行われていたのか?

 

それはロスヴァイセが魔法のフルバーストをサイラオーグに放っている最中―――ゼノヴィアも聖なる波動を撃ち込んでいたあの時、波動の中に擬態と透明のエクスカリバーを紛れ込ませていたのだ

 

それらをロスヴァイセが上手く手に取って自分の擬態を作り、本人は透明と化してサイラオーグの隙を狙っていた

 

即席にもかかわらずこの見事な連携攻撃

 

近距離から魔法のフルバーストをまともに受けたサイラオーグは体の表面に血を滲ませながらも体勢を立て直す

 

「……アナウンスが無いので怪しくは感じていた。リタイヤするかどうかのギリギリの状態で、光に包まれながら湖の底で気絶しているだけかと思っていたのだが……。―――見事だ、お前達」

 

サイラオーグが3人の連携を褒めていたが……その直後に眼光が鋭さを増す

 

右の拳を強く握り締め、ゆっくりと引いていく

 

全身を覆う闘気が拳に集中していき、一気に右腕が盛り上がる

 

「敬意を払うと共に、これを送りたい」

 

危険を察知したのか、3人がその場から急いで退避するが―――

 

ドォォォオオオオオオオオォォォォンッ!

 

サイラオーグの拳が放たれた瞬間、前方の地面が遥か先まで大きく抉られていた

 

『リアス・グレモリー選手の「戦車(ルーク)」1名、リタイヤ』

 

「―――ッ!?」

 

今の一撃でロスヴァイセがリタイヤとなった……

 

拳圧によって生まれた腕の煙を振り払い、サイラオーグが再び拳を構える

 

「……こいつはかすっただけでも相手に致命傷を与える拳打だ。生半可な攻撃ではこいつを止められん!」

 

闘気を大きく纏った右ストレートが再び解き放たれ、祐斗とゼノヴィアが同時に斬りかかった

 

狙いは―――サイラオーグの右腕

 

祐斗の聖魔剣がサイラオーグの右腕に振り下ろされるが、闘気のみで刀身を砕かれていく

 

ゼノヴィアのデュランダルも闘気に相殺されて、深くまで斬り込む事が出来なかった

 

歯噛みするゼノヴィアだが、デュランダルの柄を祐斗も握り締め―――その瞬間にデュランダルが莫大な閃光とオーラを解き放ち、サイラオーグの右腕を切断

 

闘気を纏ったままの右腕は切断されても消滅せず、地面に落ちただけだった

 

「見事だ。右腕はお前達にくれてやろう。これで俺は否応なくフェニックスの涙を使わねばならない。―――万全の態勢で決戦に臨みたいからな」

 

それだけ言ってサイラオーグはゼノヴィアを蹴り上げ、宙に浮いたところを左拳と蹴りの連打を浴びせ―――最後に地面へと叩き付ける

 

ゼノヴィアの目からは完全に光が消え去り、意識を持っていかれた……

 

祐斗もその空中コンボを目の当たりにして距離を取ろうとするが、サイラオーグに顔面を掴まれる

 

サイラオーグは祐斗を地面に勢い良く叩き付け、そのまま走り出す

 

祐斗の体で地面を抉りながら突き進み、宙に蹴り上げたところで左の正拳突きを腹部に深々と突き刺した

 

その一撃は周辺の空気を震わせる程豪快な音を発し、正拳の余波は祐斗の体を突き抜けて後方の湖を大きく弾けさせた

 

「……僕達の役目は……これで充分だ。……後は……、僕の主と、僕の親友があなたを(ほふ)る……」

 

それだけ言い残し、祐斗とゼノヴィアは光に包まれていった……

 

「―――見事としか言いようが無い。お前達と戦えた事に感謝する」

 

サイラオーグが切断された右腕を拾いながらそう言う

 

その言葉には一切の偽りが無く、感謝の念が含まれているようだった

 

『リアス・グレモリー選手の「騎士(ナイト)」2名、リタイヤです』

 

無情のアナウンスが告げられる中、グレモリーの陣地から新の姿が消えていた……

 

「……ッ。新……?」

 

 

―――――――――――

 

 

ゲボォ……ッ!

 

ゴボビチャァ……ッ!

 

ゲボガボゲボォ……ッ!

 

新は今、陣地の外にあるトイレで口から大量の血を吐き出していた

 

次々と仲間がやられていく姿を目の当たりにした結果―――耐え難い怒りと憎しみ、助けに行けない自分の不甲斐なさと悔しさで胃の中は掻き回され、ズタズタになっていたのだ……

 

内容物と共に流れる大量の血

 

新は歯軋りも止められなかった

 

「……ッ!……ッ!レーティングゲームには……ルールがある……ッ!ルールがあるから、縛りがあるから助けに……行けない……ッ!分かってはいた……ッ!分かっていた筈なのに……ッ!アアァァアアアアアアアアアアッ!」

 

ガシャァンッ!

 

新は堪らず洗面台の鏡を全て叩き割り、壁や床、個室トイレまでも破壊していく……

 

単なる八つ当たりなのは分かっている

 

こんな事をしても無駄なのは分かっている

 

分かっているが……それでもドス黒い感情の爆発を止められない

 

血が出るまで殴り続け、壁に額を連続でぶつける新

 

額からも血が流れ、顔も憤怒に歪んでいた

 

「……こんな事を耐えなきゃならないのか……ッ!?こんな苦痛を……ッ!」

 

ヤッテラレルカ

 

モウ タエタクナイ ハキダシタイ

 

コノ イカリ ヲ コノ ニクシミ ヲ

 

スベテ ブチマケテ ヤリタイ

 

コロシテ ヤリタイ

 

ナカマ ヲ ウバッタ アイツ ヲ

 

コ ロ シ テ ヤ ル

 

ブ チ コ ロ シ テ ヤ ル !

 

新の中で再び黒い感情と呪詛が駆け巡る……

 

「……朱乃、こんな時でもお前は……笑顔で言えるのか……?皆の為に勝利を持ち帰るって……」

 

悲しみに暮れる新は天井に視線を流す

 

確かにリタイヤしていった者達の為に出来る事はそれしか無い

 

その者達の覚悟を無駄にしない為にも……

 

それでも……それでも許す事が出来ない……出来る筈も無い

 

新はキッと自ら叩き割った鏡を見つめ、蛇口から出た水で顔を洗う

 

「……何が起ころうと、何があろうと、俺は勝ってみせる。たとえ俺が俺でなくなったとしても―――サイラオーグに勝つ……ッ!覚悟しとけよ、サイラオーグ……ッ!」

 

トイレの扉を勢い良く開け、リアス達がいる陣地に戻っていく新

 

彼の背後に映る影はよりハッキリと禍々しい形を現し、翼と手の様なものを広げ―――新自身にも聞こえない咆哮を解き放った……




いよいよクライマックスですが、新の状態がヤバすぎる……っ

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