ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

134 / 263
ようやく来ました第10巻、サイラオーグ編です!お待たせしましたぁぁぁぁ!


第10章 学園祭のライオンハートとブラックドラゴン
不死鳥と光帝、転入する!


「ずむずむいやーん!」

 

「「「「「「「「ずむずむいやーん!」」」」」」」」

 

ステージに立つ一誠の掛け声に客席の子供達も最高の笑顔で反応した

 

学園祭をもくぜんにして、新達は冥界の旧首都―――ルシファードにある大型コンサート会場のステージ中央でショーを繰り広げていた

 

乳龍帝(ちちりゅうてい)おっぱいドラゴン&蝙蝠皇帝ダークカイザー」のコラボショーである

 

通常は代役がコスチュームを着て()(おこな)っているのだが、サーゼクスからのオファーで本物が出演する事になった

 

流石に魔王直々のオファーを断れる筈も無く……

 

「行くぜ、ドラゴンキック!」

 

「「「「「「「「キーーーーーーックッ!」」」」」」」」

 

「くらえ、カイザーパンチ!」

 

「「「「「「「「パーーーーーーンチッ!」」」」」」」」

 

敵役の怪人に新がパンチ、一誠が蹴りのアクションをすると子供達も大きく反応してくれる

 

子供達の反応には自然と高揚感が溢れてくる

 

会場は満員御礼、ステージには派手な舞台装置と演出が施されており、アクションをする度に爆発が起こったりする

 

新と一誠の他にもリアスことスイッチ姫や悪役ダークネスナイト・ファングの祐斗がステージ上に立っていた

 

リアスが手を振ると子供達やファンの男性陣が歓声を上げ、祐斗の方には子供達のお母さん方を始めとする多くの女性ファンがついていた

 

「「「「「「「おっぱいドラゴーーーーーンッ!」」」」」」」

 

「「「「「「「ダークカイザーーーーーッ!」」」」」」」

 

それでもやはり……子供達の声援には(たま)らないものがあると2人はステージ上でほくそ笑む

 

ヒーローショーで大方の出演を終えた新と一誠は舞台裏で一息つく

 

「ふぅー。無事にショーが終わって良かったな」

 

「あぁ。こう言う事は初めてやったが……案外悪くないな」

 

今までギスギスしたシビアな世界に入り浸っていた新にとってこう言ったショーは新鮮

 

子供達から声援を受けるなんて事は皆無だった

 

改めて自分の人生観が変わって良かったと染々(しみじみ)噛み締める

 

そんな時、通路の方から「やだぁぁぁぁぁっ!」と子供が大声で泣き叫ぶ声が聞こえてくる

 

壁の隅から顔を覗かせてみると……裏口で子連れのお母さんがスタッフと話していた

 

「おっぱいドラゴンとダークカイザーにあいたいよ!」

 

子供が地団駄を踏んでぐずり、お母さんもどうして良いのか分からないようだ

 

「すみません。握手とサイン会の整理券配布は既に終わってまして……」

 

スタッフが謝りながらそう告げる

 

恐らく握手とサイン会の整理券配布に間に合わなかったのだろう

 

「そ、そうなんですか……。もう終わっちゃったんだって」

 

お母さんが子供にそう告げると、子供は一層目に涙を溜めて「やだぁぁぁぁぁっ!」と泣き叫んだ

 

手には鎧装着時の2人を模した人形を大事そうに持っていた

 

泣き叫ぶ子供を見て一誠は居た(たま)れなくなり、解いたばかりの鎧を再形成する

 

本来ならこの様な特例をしてはいけないのだが、一誠の姿を見た新は「やれやれ、仕方ないな」と言葉少なに呟いて自身の鎧を形成

 

再びそれぞれの鎧を着込んだ新と一誠は裏口の方へ出ていく

 

「どうかしたんですか?」と一誠が声を掛けると母子とスタッフが振り返った

 

「おっぱいドラゴンとダークカイザーだっ!」

 

子供は先程の泣き顔から一転して笑みを見せ、スタッフが新と一誠に事情を説明する

 

「あ、兵藤さん、竜崎さん。いえ、こちらのお母さんとお子さんがサイン会の整理券配布に間に合わなかったようでして……」

 

一応の確認を取った後、一誠は子供の前で片膝をついて訊く

 

「キミ、名前は?」

 

「……リレンクス」

 

「リレンクス、俺達に会いに来てくれてありがとう。えーと、何か書く物ありますか?」

 

スタッフに訊くとマジックペンを受け取り―――

 

「この帽子。俺のデザインが入った帽子、これにサインしても良いかな?」

 

一誠がリレンクスの帽子を指差すと、リレンクスは3度も頷いた

 

帽子にサインを書き終えた一誠は新にもペンと帽子を渡す

 

「新も書いてあげなよ」

 

「あぁ。そうだな」

 

新もリレンクスの帽子にサインを書き、そのままリレンクスの頭に被せた

 

輝くような笑顔でリレンクスは帽子を何度も脱いでは被るを繰り返す

 

お母さんが「ありがとうございます!」とお礼を言い、一誠はリレンクスの頭に手を置いて告げる

 

「リレンクス、男の子が泣いちゃダメだぞ?転んでも何度も立ち上がって女の子を守れるぐらい強くならないとさ」

 

「僕にも出来る?」

 

リレンクスの問いに新も強く告げる

 

「諦めなかったら強くなれる。俺もおっぱいドラゴンもそうして強くなっていったんだ。泣いてばかりじゃ強くなれない。それを忘れるなよ?」

 

「うんっ!」

 

そう言った後、2人はスタッフと共にその場をあとにした

 

スタッフは困惑した表情をしながら苦言を口にする

 

「兵藤さん、竜崎さん。なるべくこう言うのは控えてください。全ての方に応対するのは無理なのですから……特例を作ってしまうとちょっと……」

 

「すみません。気を付けます」

 

「本当にすまない」

 

新と一誠は頭を下げてスタッフに謝る

 

スタッフもそれを分かってくれたのか、それ以降は何も言わず持ち場に帰っていった

 

「格好良かったわよ、2人とも」

 

リアスの声が聞こえ、視線を送るとリアスの姿があった

 

リアスは歩み寄って新と一誠の頬を撫でる

 

「少し軽率だったけれど、それでもあの子の夢をあなた達は守ったわ」

 

「はいっ、ありがとうございます!」

 

「何か照れ臭くなっちまうな……」

 

「あら?ごきげんよう、リアス、新さん、一誠さん。ここで何をしているのかしら?」

 

通路の奥から見知った女性が姿を現す

 

亜麻色(あまいろ)の髪のリアスにそっくりな女性―――ヴェネラナ・グレモリー

 

「お、お母さま!ミリキャスまで!いらっしゃってたの?」

 

母親の登場が予想外だったのか、リアスは()頓狂(とんきょう)な声を上げて驚いていた

 

その横には小さな紅髪の少年ミリキャス・グレモリーもいた

 

「ええ、1度グレモリーが主催するイベントを(じか)に見ておきたかったものですから。ミリキャスも見たいと言っていたのです。新さん、一誠さん、盛り上がっていましたわね。良いショーだったと思いますわ」

 

「そ、そうすか……どうも」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

新は頬を掻きながら軽く会釈し、一誠は豪快に頭を下げて礼を言う

 

ヴェネラナはヒールをコツコツ鳴らしながら歩み寄る

 

「新さんと一誠さんを模した特撮番組は我がグレモリー家の財政を(にな)う大切な産業となる事でしょう。そして、冥界の子供達にとっても大切な物になっていますわ。これからもグレモリーの一員として冥界の為、我が家、我が娘の為に奮闘してもらえると助かります」

 

「勿論です、粉骨砕身の精神で頑張りたいと思います!」

 

「ここまで大事(おおごと)になった以上、無下にはしませんよ。ヴェネラナさん」

 

「ふふっ、良いお返事ですわ。さすがグレモリー家の男子です。けれど―――新さん」

 

ヴェネラナが優しげな瞳を向けながら人差し指で新の(あご)(さす)

 

その色っぽい仕草に新の片眉がピクッと動く

 

「『ヴェネラナさん』と言うのはいただけないわね。私の事はお義母(かあ)さまか、母上と呼ぶこと」

 

「え……い、いや……どうもその呼び方は慣れてなくて……」

 

「何も失礼な事などありませんわよ?寧ろ共に社交界に出た時、その様な呼び方ではグレモリー家全体が恥をかきます。リアス、教えがなっていないのではなくて?」

 

ヴェネラナの表情が一転して厳しいものになり、ヴェネラナの睨みを受けてリアスが言う

 

「申し訳ございません、お母さま。ですが―――」

 

「そこで『ですが』が入るだなんて……。(ともな)う男子を入れるのですから、そこをちゃんとしないでどうするの?殿方がそれを望むのだから、そこを管理するのも当主たるあなたの役目です。他にも増えるとしたら、今からキチンとしなければダメよ。お父様の時はキチンと私が手綱を握ったものです。強く魅力的な女性が心を奪われるのは世の常。サーゼクスは魔王ゆえにグレイフィアのみでしたが、彼は別に魔王を目指しているわけではないのよね?ならば問題も無いでしょう。……まさか、まだ決め手を欠いているのかしら?もう、強引な所は私に似たと思ったのに、最後の最後で詰めが甘いだなんて……。1度そう言う関係になれば周囲の女性の主導権も得られるでしょう。リアス、最後まで私やグレイフィアが介入しなければ進められないのですか?」

 

ヴェネラナの不満のマシンガントークにリアスは困惑している様子だった

 

(しばら)く続き、コホンと咳払いした所でヴェネラナは説教を終えたが……今度はリアスと内緒話をする

 

『リアス、前にも言いましたよね?新さんの心の拠り所になってあげなさいって。ここであなたがしっかりしなくてどうするの?』

 

『そ、それはそうですけど……』

 

『思い切って誘ってみなさい。女にとって恋の勝負時(しょうぶどき)は日常から始まってるのよ?このまま朱乃さんやゼノヴィアさん達にリードを許して良いの?』

 

『うぅ……っ』

 

『まったく……我が娘ながら情けないですね。私なら迷わず新さんにアタックするのに』

 

『お、お母さま!?』

 

『あなたが出来ないと言うのなら、代わりに私が新さんの相手をしてあげようかしら?ふふっ、若い男の人の腕に抱かれるのも乙と聞きますし♪』

 

『もうっ、お母さま!ご冗談はやめて!』

 

暫く男子禁制とも取れる内緒話が続き、リアスが赤面した顔でコホンと咳払いする

 

「……さ、さて、帰ったら学園祭の準備よ?」

 

スタスタと急ぎ足でその場をあとにするリアス

 

新と一誠もついていき、ヴェネラナは(リアス)のウブな反応にクスクスと微笑んでいた

 

 

―――――――――――

 

 

翌日、新と一誠は学校の1年生の教室前にいた

 

小猫とギャスパーのクラスにレイヴェル、そして別のクラスだが渉と祐希那もこの学園に転入してきたのだ

 

2人は生粋のお嬢様育ちであるレイヴェルの事が気になり、休み時間を利用して様子を見に来た

 

「あら、新とイッセーも様子見?」と声が聞こえたので振り返ってみると、リアスも来ていた

 

「ぶ、部長もですか?」

 

「ええ、ちょっと気になって」

 

「だろうな。見てみろ、早速取り囲まれて質問攻めをくらっている」

 

レイヴェルの性格だから高圧的な物言いをしてるのかと思いきや……言い寄ってくる女子達にどう対応したら良いのか四苦八苦しているようだ

 

返答はしどろもどろ且つ視線も泳ぎまくる

 

そんなレイヴェルの視線が新達の方に向かれ、途端に「失礼しますわ」と席を立って新達の方に近付いていく

 

レイヴェルは新とリアスの手を取るとそのまま廊下まで進み、曲がった所で手を離す

 

「どうした、レイヴェル?」

 

新が(いぶか)しげに訊くと、レイヴェルは気恥ずかしそうな表情で頬を染める

 

「……て、転校が初めてですので……ど、どう皆さんと接したら良いか分からなくて……。わ、私、悪魔ですし、人間の方々との話題が見つからなくて……」

 

確かに悪魔―――それも上級悪魔のお嬢様が人間界の平民が通う学校に転校してくれば話題も見つかりづらい

 

新は直ぐに1つの案を思い付く

 

「そう言う事なら小猫に―――」

 

「……呼びましたか?」

 

「はやっ」

 

新の近くに小猫とギャスパーがいた

 

どうやら新達を追ってきたようだ

 

直ぐ様新は小猫に頼み込む

 

「小猫、レイヴェルの話し相手と言うか……学校生活でのフォローをしてくれ。同じ学年で同じクラスだろ?頼むよ」

 

新の頼み事に何故か若干不機嫌そうな顔になる小猫

 

眉根を寄せ、三角口になっているが少し考えた後に言う

 

「…………。……新先輩がそう言うなら、別に良いですけど……」

 

「サンキュー、小猫。そう言う訳でレイヴェル、これから小猫がフォローをして―――」

 

「……ヘタレ焼き鳥姫」

 

新の言葉を遮って小猫がそう呟く

 

一瞬空気が凍り、レイヴェルのコメカミに青筋が浮かび上がる

 

「い、今、何とおっしゃいましたか……?」

 

「……ヘタレ」

 

「あ、あ、あなたね!フェニックス家の息女たる私にその様な物言いだなんて……!」

 

「……そんな物言いだから、いざと言う時にヘタレるんじゃないの?もっと決心を持って人間界に来たと思ったのに……。新先輩の手を(わずら)わせるなんて……世間知らずの焼き鳥姫」

 

ブチン!

 

レイヴェルから何かがキレる音が聞こえてきた……

 

不気味なオーラを(ただよ)わせ、ロール状の髪もウヨウヨと動き始める

 

「むむむむむむ!わ、私は新さまの手を煩わせるような事なんて……!こ、この猫又は……!」

 

「……焼き鳥」

 

2人の背後で猫と火の鳥が激しく睨み合ってる様な映像まで見えてくる……

 

“犬猿の仲”ならぬ“猫鳥の仲”と言う新しい方式が完成してしまった

 

「あぅぅぅぅぅぅっ……こ、怖いですぅ!」

 

ギャスパーは小猫とレイヴェルの迫力に恐れて一誠の背後に隠れた

 

一誠も冷や汗を垂らしながらビビっている

 

新はやれやれと首を横に振り、間に入って2人の頭を優しく撫でるが……目だけは強い睨みを利かせていた

 

「初日から喧嘩すんな」

 

「「……すみません」」

 

とりあえず恐々とする雰囲気を(いさ)めた新だが、小猫とレイヴェルはプイッとお互いに顔を逸らした……

 

そこへ隣のクラスから見知った男女がやって来る

 

言うまでもなく、レイヴェルと同じ様に転校してきた八代渉と高峰祐希那だ

 

「新さん、一誠さん、皆さん、こんにちは」

 

「外が騒がしいから見に来てみれば、やっぱりね」

 

「よう、渉。夫婦揃っての登場か」

 

新の茶化し言葉に渉は“?マーク”を頭に浮かべるが、祐希那は顔を真っ赤にして反論する

 

「ふ、夫婦じゃないしっ!いや、聞こえは良いんだけど……そう言う誤解される様な事を平然と言わないでくれる!?」

 

「世話好き女房が今更何を言ってんだか。何処からどう見ても夫婦にしか見えねぇぞ(笑)」

 

「―――っ!(声にならない呻き声を発している)」

 

「新、あまり彼女を困らせないで」

 

リアスが嘆息しながら新に注意すると、新は「へいへい」と生返事をして茶化すのを止めた

 

 

―――――――――――

 

 

放課後、オカルト研究部はレイヴェル、渉、祐希那の入部挨拶の後、学園祭の準備作業に入った

 

オカルト研究部が学園祭で披露する出し物は「オカルトの館」

 

旧校舎全体を使って様々な(もよお)しをすると言う案になった

 

お化け屋敷や占い部屋、喫茶店からオカルトの研究報告等々……皆が出した案を採用しての出し物である

 

今は旧校舎を学園祭仕様に改装している

 

魔力を使えば短時間で完成するが、リアスは出来るだけ手作りでやりたいと言っていた

 

その意見に賛同して新達も準備作業に入っている

 

女子は主に衣装作りや部屋の模様替えを担当

 

新、一誠、祐斗、渉は男手として旧校舎の外で大工作業を担当する事になった

 

トンカチやノコギリを使って木材を切り分け、組み合わせたりしている

 

「ところでイッセーくん、新くん。ディハウザー・ベリアルって知ってるかい?」

 

「名前だけなら。王者だろ?レーティングゲームの」

 

一誠の答えに祐斗は頷く

 

「そう、正式なレーティングゲームのランク1位。現王者(チャンピオン)。ディハウザー・ベリアルだよ。ベリアル家現当主であり、ベリアル家始まって以来の怪物。もう長いこと頂点に君臨し続ける本物のゲーム覇者。―――皇帝(エンペラー)ベリアルと称されている方さ」

 

皇帝(エンペラー)か、御大層な呼び名だな」

 

「ランキングが20位から別次元と言われ、トップ10(テン)となれば英雄とさえ称される。その中でもランキング5位から上は不動とも言われていて、ほぼ変動が無い状態で業界に長期間君臨しているんだ。特に3位のビディゼ・アバドン、2位のロイガン・ベルフェゴール、1位のディハウザー・ベリアルは現魔王に匹敵する力量を持つ最上級悪魔の中の最上級悪魔だよ。お三方は大規模な戦争でも起きない限りは動かないと言われてはいるんだけどね。ゲームの特性で研磨され、数多くの試合の末に生み出された結晶だって褒め称えられているよ」

 

レーティングゲームが生み出した結晶―――それが現魔王クラスの実力を持つ3人……

 

将来レーティングゲームでの制覇を目指しているリアスや新達にとって大きな壁となるだろう

 

「アバドンとベルフェゴールって聞いた事無い御家の名前だな」

 

疑問を口にする一誠に祐斗が再び答える

 

「それはそうだね。番外の悪魔(エキストラ・デーモン)だから。彼らは現政府に関わりたくないのが御家の特色だけど、中には異端もいたって事だよ。家とはほぼ縁切(えんき)り状態でゲームに参加しているみたいなんだ」

 

特殊な事情を(かか)えながらも参戦している悪魔もいる

 

それだけレーティングゲームに魅力があると言う事だろう

 

「でもよ、サーゼクス様や他の魔王様もゲームに参戦出来ればランキングは変わっていたんだろうな」

 

「仕方無いよ。ゲームのルール上、魔王は参戦出来ないからね。魔王の眷属ならば参戦出来るけど、その方々もその気が無いって話だから。あくまで魔王の眷属として生きると言うのが四大魔王眷属の皆さんの理念だそうだよ。それに実戦とゲームは似て非なるもの。悪魔の実戦不足を補う為に設置されたゲームだけど、ゲームはゲームで特殊なルールも多いし、実戦とは戦術、戦略の巡らせ方も違う物だと僕は思う。だから、実戦で強くてもゲームでは成績が上がらないなんて珍しくないと感じるんだけどね」

 

「確かにそうだ。実戦にルールなんて制限は存在しないが、ゲームにはルールがある。それらを踏まえた上で戦っていかなきゃならない。実戦で出来る事がゲームじゃ出来なくなるからな」

 

新の言葉に祐斗も頷いた

 

実戦経験は豊富かもしれないが、ゲームでの特殊ルールには全く慣れていない

 

そう言う点がシトリー戦では顕著に出ていた

 

「どちらにしても部長やキミ達が将来ゲームで覇者を目指すなら、ディハウザー・ベリアルは避けては通れない大きな壁。悪魔の世界で上へ行くつもりなら、現トップランカーは全て倒すべき存在と想定していた方が良いね。まあ、部長の『騎士(ナイト)』である僕もいずれ、その世界に飛び込まないといけない訳だけどさ」

 

「その前にサイラオーグとの試合だ。本格参戦がまだ先である以上、まずは眼前の試合に臨まねぇとな」

 

新の言葉に一誠も祐斗も大きく頷く

 

―――と、ここで新が作業の効率化を上げる為に一旦作業を中断し、電動工具を取りに用具室へ向かう

 

新校舎に到着して数分、用具室で電動ドリル等の工具を一式拝借してきた新

 

その道中、女子2人に呼び止められる

 

振り返ってみると……そこにいたのは同じクラスの剣道部女子―――村山仁美(むらやまひとみ)片瀬奈緒(かたせなお)だった

 

「ん、どうした?何か用か?」

 

「う、うん……っ。あ、あのね……竜崎くん……」

 

「こ、これ……受け取ってください……っ」

 

新は2人から差し出された1通の手紙を素直に受け取る

 

手紙を新に渡した村山と片瀬は顔を真っ赤にしたまま立ち去っていく

 

工具を置いて手紙の内容を確認する新

 

それは紛れもなくラブレターだった

 

「“私達の気持ちを伝えたくて、このお手紙を書きました。明日の夜19時、学園の剣道場に来てください。お待ちしています。村山仁美と片瀬奈緒より”―――か……。参ったぜ、こりゃ」

 

「何が参ったのかしら?」

 

突然の声に新は“ンゴプッ!?”と意味不明の言葉を発して慌てふためく

 

己の背後を見てみるとリアスが腕を組んで仁王立ちしていた……

 

しかも、その眼はジッと睨み付けている……

 

「リ、リアス……どうしてここに?」

 

「あなたにも話があるから、イッセーと祐斗に聞いてここまで来たのよ。それより……これは何かしら?」

 

ヒョイッと新から手紙を奪い取るリアス

 

手紙の内容を確認するや否や、ユラユラと全身から危険なオーラが滲み出てくる……

 

眼だけが笑っていない笑顔を作り、ズカズカと新に歩み寄る

 

「これってラブレターよね?しかも、2人の女子からお誘いを受けるなんて良い御身分ね、新」

 

「え?ま、まぁな……。モ、モ、モテる(さが)ってヤツ……?アハハハハハ……」

 

「もっと嬉しそうにしても良いのよ?あなたの性格上、私は全っ然気にしてないから」

 

「しょれなりゃ頬をちゅねるな、イテテテテテテテテテッ!」

 

リアスから制裁を受ける新の頬が伸びる伸びる(笑)

 

不機嫌そうな顔をしていたリアスだったが……一頻りつねり終えた後で手を離し、少し寂しげな表情となる

 

「……明日あなたにも来てもらいたいと思っていたのだけれど、そのお誘いを断る訳にもいかないでしょう……?」

 

「何か遭ったのか?」

 

「サイラオーグの執事がね、個人的に私と新とイッセーにお願いがあるんですって。さっき連絡を貰ったのよ。でも……」

 

「おいおい、俺がリアスみたいな良い女からの誘いをほったらかすと思ってんのか?心外だな」

 

「……えっ?」

 

「俺はな、女からのお誘いは滅多に断らねぇタチなんだよ。村山と片瀬の誘いも受けるが、リアスの頼み事も聞く。どちらか片方の誘いを捨てるなんて選択肢は俺の中には存在しねぇ」

 

新の答えにポカーンと口を開けるリアス

 

直ぐにクスッと笑い、自然と笑みがこぼれる

 

「もう、本当にあなたって自由気ままなんだから。……でも、それが新なりの答えなのね……。ありがとう、じゃあ明日はあなたも同行してくれる?」

 

「勿論だ、リアス。じゃ、作業の続きを済ませるか」

 

新は工具を持ち直して作業の続きをするべく旧校舎の方へ向かう

 

「……はあ……悩み過ぎていた自分がバカみたいに思えてならないわね……。でも、お陰で決心がついたわ。私もいい加減踏み出していかなきゃ……」

 

 

―――――――――――――

 

 

「……また戻ってきてしまったか、この町―――駒王町(くおうちょう)に……」

 

「兄貴、ま~だあのアーシアって女の事が気になってんのかよ。俺達は一応お尋ね者の『地獄兄弟(ヘル・ブラザーズ)』なんだぜ?」

 

「分かってる。分かってはいるが……自然とここに足を運ばせちまったんだよ、相棒」

 

「恋は盲目ってか?ったく、何処ぞの黒足コックかっつぅ話だよ。そんなに好きならさっさと(コク)って兵藤から奪い取りゃ良いんじゃねぇの?」

 

「そんな単純に出来れば苦労などしない。だいたい……どう伝えたら良いのかさえ分からんのに……」

 

『ねえ、仁美。とうとう渡しちゃったけど……大丈夫なの?何だか不安になってきたわ……』

 

『きっと大丈夫よ、奈緒。雑誌に載ってたもん。“緑のインクで書いたラブレターを渡せば、想いは実る”って』

 

「…………緑のインクで書いたラブレター……?」

 

女子供(おんなこども)のおまじないかよ、くだらねぇなぁ。あんなもん迷信に決まってんだろ。なあ、兄貴。……兄貴?」

 

『いらっしゃいませ~。何かお探しですか~?』

 

『ああ、緑色のインクってあります?』

 

「思いっきり信じてんのかいっ!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。