ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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今回も割りと長めに書きました


大混戦!グレモリーVS英雄派VS神風一派

「嘘、だろ……?」

 

一誠が声を震わせてそう呟く

 

助けに来て早々、八坂が撃たれ……九重が泣き叫びながら母親の体を揺する

 

悲痛な叫びを上げて泣きじゃくる娘

 

一誠達は言葉を失い、新は顔を引きつらせた後に憤慨する

 

「曹操ォォォオオオオッ!」

 

怒りの咆哮を曹操に解き放ち、激昂したまま問い詰めた

 

「テメェッ!いきなり殺るとはどういうつもりだ!?これがテメェらの言ってた“実験”とやらか!?ふざけんなァッ!」

 

英雄派の連中までもが硬直している中、曹操が口を開いた

 

「……違う。こんな事、俺達の予定には無かった。俺達じゃないとすれば―――奴らか」

 

曹操が銃声のした方角を見上げる

 

先程まで空を漂っていた人影が闇夜の世界に降り立つ

 

数は5人……その者達は―――神風一派

 

「キヒヒッ♪こんばんわ~、グレモリー眷属と英雄派の皆さ~ん♪」

 

一派のリーダー格―――『ビショップ』神風がわざとらしい笑みを浮かべて挨拶してくる

 

彼の周りには渡月橋で対峙した闇人(やみびと)のアドラス、メタル、ガーラントの他、『ポーン』の称号を持つ闇人(やみびと)―――バリー・デスペラードがいた

 

八坂を銃撃した首謀者の登場に新も一誠達も怒りの色を濃くする

 

「どう?どう?どう~?驚いちゃったぁ?突然の九尾のお姫様銃・撃ッ!グレモリー眷属は予想通りの反応だね~♪助ける相手を殺されてぇ、激おこプンプン丸ですか~?キャハハハハハハッ!」

 

「キミが噂に聞く闇人(やみびと)の『ビショップ』とやらか。……噂以上の外道ぶりだな。せっかく我々が捕まえてきた九尾の御大将を殺してしまうとは」

 

曹操の言葉に神風はベロリと舌を出して嘲笑う

 

「褒めてくれてどうもありがと~♪でも、残念~。殺したんじゃなくてぇ、君達の実験とやらに拍車を掛けてやろうと思ってお手伝いをしたの」

 

“実験に拍車を掛ける”

 

意味深で不気味な言葉に全員が目を細めた

 

その直後、銃撃によって倒れた八坂に異変が起きる……ッ

 

「う……うぅ……っ!」

 

「……母上?母上……!お怪我は……っ、お怪我はありませんか!?」

 

「く、九重……っ!離れよ……っ!離れるのじゃ……っ!はや、く……っ!」

 

八坂の体が大きく脈動を始め、八坂は苦しそうに呻きながら九重に離れるよう警告する

 

九重は首を横に振って拒否するが……八坂はやむを得ないとばかりに九重を突き飛ばした

 

尻餅をつく九重

 

八坂の体から邪悪で禍々(まがまが)しいオーラが滲み出てきた

 

「キヒヒッ♪突然だけどグレモリー眷属と英雄派の皆さん。ブラックウィドウって知ってるかなぁ?」

 

“ブラックウィドウ”……聞き慣れない単語に訝しげな顔付きとなり、神風が得意気に説明し始める

 

その手にはカサカサと(うごめ)く蜘蛛がいた……

 

不気味な漆黒の体が赤い砂時計模様を映えさせている

 

「ブラックウィドウってのは黒後家蜘蛛(くろごけぐも)の英名さ。強力な神経毒を持ってる上に、こいつのメスは交尾した後でオスを喰らうんだよ。交尾した相手のオスを自ら喰らう残虐性から『黒衣の未亡人』と呼ばれているの。酷いよね~♪交尾した相手を喰うなんて。だ・け・ど♪ボクはそこに目をつけてもっともっと恐ろしい物に改良しちゃいました~♪バリーがさっき九尾のお姫様に撃ち込んだのはぁ―――それを弾丸に変えた物でぇす♪」

 

神風の言葉を聞いて直ぐ様八坂に視線を移す面々

 

八坂の胸にブラックウィドウと同じ赤い砂時計模様が浮き上がってきた……

 

「キヒヒッ!ブラックウィドウは寄生した相手の潜在能力を極限まで引き出して暴走させるのさッ!命が尽きるまでねぇっ!キャハハハハハハッ!まさにオスを無慈悲に喰らう『黒衣の未亡人』らしい作用でしょ~!?」

 

「何だとッ!?」

 

仰天してる間に八坂の様子がどんどん危うくなっていき、(しま)いには絶叫を上げた……

 

「う……うぅぅ、うああああああああっ!」

 

八坂の体から莫大な黒いオーラが放出され、着ていた着物が全て弾け飛ぶ

 

ドス黒いオーラが八坂を覆い隠し、徐々に姿を変貌させていく

 

9つの尻尾が膨れ上がり、大きさも増していく

 

夜空の下に現れたのは―――狐の上半身と9つの尻尾を持った巨大な蜘蛛の怪物だった……

 

デカさは10メートル程だが、9つの尻尾がある分、より大きく見える

 

狐の瞳は感情を灯しておらず、下半身を担当する蜘蛛の眼は妖しく輝いていた

 

想像を絶する鬼畜な所業によって生み出された怪物……

 

絶句する新達を他所に神風は哄笑を上げて言う

 

「キャハハハハハハッ!どうですか、英雄派の皆さ~ん!君達の実験の目的も調査済みさ!この京都は存在自体が強力な気脈で包まれた大規模な術式発生装置!各名所のパワースポットが霊力、妖力、魔力に富んでいて、都市その物が巨大な『力』になってる!だから、色んな異形や妖怪が集まってくる訳だね~!疑似空間にもかかわらず、気脈のパワーを流し込む辺りは流石(さすが)だよ!そして、九尾の狐は妖怪の中でも最高クラス!京都と九尾は切っても切れない関係だからね♪ここならではの実験なんでしょ~?」

 

神風の問いに曹操は息を吐いて“実験の目的”を吐露し始めた

 

「その通りだよ。―――都市の力と九尾の狐を使い、この空間にグレートレッドを呼び寄せる。本来なら複数の龍王を使った方が呼び寄せやすいんだが、龍王を数匹拉致するのは神仏でも難儀するレベルだ。―――都市と九尾の力で代用する、それが今回の実験の目的さ」

 

たった今明らかになった英雄派の目的……

 

“拉致した八坂の力と京都の力を使ってグレートレッドを呼び寄せる”

 

スケールのデカさに新達は言葉を失うばかりだった

 

英雄派の行動を調べていたらしい神風は愉快そうに笑う

 

「キヒヒッ。グレートレッドって確か次元の狭間を泳ぐだけで、実害は無いんだよねぇ?そんな奴を呼び寄せてどうするのかな~?」

 

「ああ、あれは基本的に無害なドラゴンだ。―――だが、俺達のボスにとっては邪魔な存在らしい。故郷に帰りたいのに困っているそうだ」

 

ボスとはオーフィスの事だろう

 

新と一誠の脳裏にゴスロリ少女姿のオーフィスが思い出される

 

「……それでグレートレッドを呼び寄せて殺すのか?」

 

一誠の問いに曹操は首を(ひね)

 

「いや、流石にそれはどうかな。とりあえず、捕らえる事が出来てから考えようと思っているだけさ。未だ生態が不明な事だらけだ。調査するだけでも大きな収穫を得るとは思わないか?例えば『龍喰者(ドラゴンイーター)』がどれぐらいの影響をあの赤龍神帝(せきりゅうしんてい)に及ぼすのかどうか、とか。まあ、どちらにしろ1つの実験だ。強大な物を呼べるかどうかのね」

 

―――ドラゴンイーター―――

 

また初めて聞く単語に新と一誠は(いぶか)しくなり、今度は曹操が神風に問う

 

「それで、俺達の実験を利用しようとしてる闇人(やみびと)の『ビショップ』くん。キミ達の目的も聞かせてくれないか?―――と言っても、(おおむ)ね察しはついているけど」

 

「キヒヒッ♪さっすが英雄派のリーダー、君が思ってる通りだよ。暴走させた九尾の力を利用して―――『初代キング』を復活させる。封印の(くさび)は全て破壊したから、後はここで超絶バトルを開始して『力』の波動を辺り一面にばら蒔くだけ。早い話、ここでグレモリー眷属も英雄派もブッ殺しちゃおうってわけ!キャハハハハハハッ!」

 

神風が両腕を広げて下卑た哄笑を上げる

 

新と一誠は怒りに震えた

 

「お前らがあのデカいドラゴンを捕らえたら、ロクでもない事になりそうなのは確かだな。それに―――『初代キング』の復活なんてさせるかよ。九尾の御大将を返してもらうッ!親子の再会を踏みにじりやがって!」

 

「ああ、絶対に許さねぇぞッ!」

 

2人の台詞の後にゼノヴィアが剣を構える

 

鞘の各部位がスライドして変形を始めた

 

スライドした部分から大質量の聖なるオーラが激しい音を立てて噴出し始める

 

更に刀身をオーラが覆い尽くし、極太のオーラの刃と化していく

 

新しいデュランダルからビリビリと力強い波動が走る

 

「新とイッセーの言う通りだ。貴様達が何をしようとしているのかは底まで見えない。だが、貴様達の思想は私達や私達の周囲に危険を及ぼす。―――ここで(ほふ)るのが適切だ」

 

ゼノヴィアの宣戦布告に祐斗が頷く

 

「意見としてはゼノヴィアに同意だね」

 

「同じく!」

 

イリナも応じて光の剣を作り出し、匙が嘆息しながら言う

 

「グレモリー眷属に関わると死線ばかりだな……。ま、学園の皆とダチの為か―――」

 

匙の腕、足、肩に黒い蛇が複数出現して体を這い出した

 

全身に黒い蛇を纏った匙の足下から黒い大蛇も出現する

 

大蛇は匙の(かたわ)らに位置すると黒い炎を全身から(ほとばし)らせてとぐろを巻く

 

匙の左目が赤くなり、蛇の如き目になっていった

 

「……ヴリトラ、悪いが力を貸してくれ。兵藤がフォローしてくれるそうだからよ、今日は暴れられそうだぜ?」

 

そう呟く匙の周囲にも黒い炎が巻き起こり、大蛇が低い声音で喋り始めた

 

『我が分身よ。獲物はどれだ?あの聖槍(せいそう)か?それとも狐と蜘蛛が混じった化け物か?どれでも良いぞ。我は久方ぶりの現世(うつしよ)で心地よいのだよ。どうせなら、眼前の者共を全て我が黒き炎で燃やし尽くすのも良かろうて』

 

言葉を話せる程に意識が復活した龍王の一角ヴリトラ

 

ヴリトラは相手を捕らえ、動きを封じる力を得意としている

 

とりあえず暴走させられた八坂を捕らえて欲しいと一誠が言おうとした瞬間―――

 

ズォォオオオオオオッ!

 

ゼノヴィアが天高く掲げるデュランダルがオーラを大きく噴出させる

 

極太の上に天を突こうかとばかりに膨れ上がった聖なるオーラの刀身が誕生していた

 

「―――初手だ。食らっておけッ!」

 

「―――ッ!?ちょっ、待てゼノヴィア!俺まで巻き込む―――」

 

新の叫びは届かず、無情にもゼノヴィアは巨大な聖なるオーラの剣を英雄派と神風一派の方に振り下ろした

 

新デュランダルの一撃が本丸御殿の家屋を丸ごと吹き飛ばし、勢いは止まらず遥か前方までオーラの波動が大波となって建物、公共物、風景を飲み込んでいった

 

攻撃が終わった後、眼前は(ことごと)く消滅し、城外の建物や道路も跡形も無く崩壊していた

 

ゼノヴィアは「ふー」と肩で息をして額の汗を手で拭う

 

オーバーキルの攻撃に一誠は興奮気味で言う

 

「おい、ゼノヴィア!1発めから飛ばし過ぎだろ!」

 

すると、ゼノヴィアはVサインを作りながら返した

 

「開幕の1発は必要だ」

 

「ロキの時もいきなりだったよね!?」

 

「安心しろ。これでもまだ威力を調整した方だ。その気になればこの周辺を丸ごと薙ぎ払えてしまうからな。私としては新の本気の攻撃やイッセーの本気のドラゴンショットを目指しているんだが。なかなか難しい。うん、2人のパワータイプの戦い方は私の理想だ」

 

「うん、じゃない!俺と新はここまで破壊魔じゃないぞ!ってか、新まで巻き込まれちまったぞ!?どうすんだよ!」

 

1番肝心な事にゼノヴィアは「あっ」と今思い出したかの如く口を開いた

 

その時、建造物跡の地面から腕が突き出てくると、一気に土が盛り上がって下から新と複数の英雄派メンバーが現れる

 

薄い霧が覆っており、どうやらそのお陰で無傷で済んだようだ

 

最初に地面から腕を突き出してきた巨体の男が首をコキコキ鳴らし、後方で曹操が槍で肩をトントンと叩く

 

「いやー、良いね♪と言うか、闇皇(やみおう)も苦労人だね」

 

「……マジで危なかった。ってか、ゼノヴィア!少しは考えろよ!今の俺は力を封じられているんだ!まともに食らったら死ぬぞ!?」

 

「うん、スマない」

 

「スマない、じゃねぇだろぉぉおおっ!何だよそのバカげた威力は!?」

 

「この新しいデュランダルは錬金術により、エクスカリバーと同化したものだ」

 

ゼノヴィアに続くようにイリナが説明を始める

 

「私が説明するわ。大雑把に言うと、デュランダルの刀身に教会が保有していたエクスカリバーを鞘の形で被せたらしいの!エクスカリバーの力でゼノヴィア使用時のデュランダルの攻撃的な部分を外へ漏らさず覆う。そして覆っているエクスカリバーとデュランダルを同時に高める事で2つの聖剣の力は相乗効果をもたらして―――凶悪な破壊力を生み出すのよ!」

 

「……つまり、デュランダルとエクスカリバーの合体聖剣って事か」

 

「その通り。―――エクス・デュランダル。この聖剣をそう名付けよう。ま、初手で倒せる程だったら苦労も無いな」

 

ゼノヴィアがデュランダルを翳しながらそう言って視線を斜めに移す

 

先程の一撃を防いだ英雄派と同じく、神風一派も生きていた……

 

神風は既に魔人態(まじんたい)合成獣(キメラ)姿となっている

 

ただ1つ違うのは―――神風の左手に籠手が装着されていた……

 

ドス黒く禍々しいフォルムの甲に血走った大きな目玉が浮かんでいる

 

他の闇人(やみびと)達も無傷だった

 

「キヒヒッ♪最高だよ、グレモリー眷属ぅ♪やっぱそうじゃなきゃ潰し甲斐が無いよねぇ♪英雄派のリーダーさん、君から見てどうすかぁ?」

 

「彼らはもう上級悪魔の中堅―――いや、トップクラスの上級悪魔の眷属悪魔と比べても遜色が無い。魔王の妹君は本当に良い眷属を持った。レーティングゲームに本格参戦すれば短期間で2桁台―――十数年以内にトップランカー入りかな?どちらにしても、末恐ろしい。シャルバ・ベルゼブブはよくこんな連中をバカにしたものだね。あいつ、本当にアホだったんだな」

 

曹操の言葉にジークフリートが苦笑する

 

「古い尊厳にこだわり過ぎて下から来る者が見えなかった、と言った所でしょ。だからヴァーリにも見放され、旧魔王派は瓦解したわけさ。―――さて、どうするの?僕、今の食らってテンションがおかしくなってるんだけど?」

 

「そうだな。とりあえず、実験をスタートしよう。暴走させられてるから上手く行くかどうか分からないけど」

 

曹操が槍の石突きで地面を叩くと怪物となった八坂の足下が輝き出した

 

「九尾の狐にパワースポットの力を注ぎ、グレートレッドを呼び出す準備に取り掛かる。―――ゲオルク!」

 

「了解」

 

曹操の一言に制服の上からローブを羽織った魔法使い風の青年ゲオルクが手を突き出した

 

ゲオルクの周囲に各種様々な紋様の魔方陣が縦横無尽に出現し、羅列された数字や魔術文字が物凄い勢いで回転する

 

「……魔方陣から察するにざっと見ただけでも北欧式、悪魔式、堕天使式、黒魔術、白魔術、精霊魔術……なかなか豊富に術式が使えるようですね……」

 

ロスヴァイセが目を細めながら呟く

 

九尾の足下に巨大な魔方陣が展開する

 

九尾が雄叫びを上げ、狐の双眸(そうぼう)が大きく見開いて危険な色を含み始める

 

全身の毛も逆立っていた

 

「グレートレッドを呼ぶ魔方陣と(にえ)の配置は良好。後はグレートレッドがこの都市のパワーに惹かれるかどうかだ。龍王と天龍が1匹ずついるのは案外(さいわ)いなのかもしれない。曹操、悪いが自分はここを離れられない。その魔方陣を制御しなければならないんでね。闇人(やみびと)に暴走させられてるから、思ったよりキツくてねぇ」

 

ゲオルクの言葉に曹操は手を振って了承する

 

「了解了解。さーて、どうしたものか。『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』のレオナルドと他の構成員は外の連合軍とやり合っているし。彼らがどれだけ時間を稼げるか分からない所もある。外には堕天使の総督、魔王レヴィアタンがいる上、セラフのメンバーも来ると言う情報もあった。―――ジャンヌ、ヘラクレス」

 

「はいはい」

 

「おう!」

 

曹操の呼び掛けに未だ新を抱き寄せているジャンヌと巨体のヘラクレスが前に出た

 

「彼らは英雄ジャンヌ・ダルクとヘラクレスの意志―――魂を引き継いだ者達だ。ジークフリート、お前はどれとやる?」

 

曹操の問いにジークフリートは抜き放った剣の切っ先を祐斗とゼノヴィアに向ける

 

どうやら最初から相手を決めていたようだ

 

「私はここでアーくんとイチャイチャしたいんだけどねー」

 

「あ、新さん!またあなたは女性をたぶらかしてるのですか!?こんな状況で不潔です!」

 

「俺捕まってる立場なんだけど……」

 

ロスヴァイセの叱咤を受けて(こうべ)を垂れる新

 

それを見てジャンヌが顔を笑ませた

 

「決めた。私はあの銀髪お姉さんにしようかな。何かアーくんの事知ってそうだし」

 

「じゃあ俺は天使の姉ちゃんだな!」

 

「んで、俺は赤龍帝(せきりゅうてい)っと。いや……どうせなら」

 

パキンッ

 

何を思ったのか、曹操は新の首に付けられた異能を封じる装置を外した

 

予想だにしなかった展開にグレモリー陣営がざわつく

 

「……どういうつもりだ?」

 

「簡単だよ、闇皇(やみおう)。俺は赤龍帝ともキミとも戦いたい。その為には首輪を外さなくちゃダメだろ?それに―――相手は俺達だけじゃないからさ。そのまま殺られちゃったら後味悪いでしょ?」

 

「共通の敵がいるゆえの利害の一致、か。……良いぜ、その誘い受けてやる。死んで後悔するなよ?」

 

「ははっ、OK。そっちのヴリトラくんはどうする?」

 

曹操が匙に視線を送る

 

匙の炎が勢いを増すが、一誠が手で制する

 

「……匙、お前は九尾の御大将だ。何とか、あそこから解放してやってくれ」

 

「俺は怪獣対決か。……あいよ。兵藤、死ぬなよ」

 

「死ぬかよ、そっちも気張れ」

 

「これでもここに来る前、『女王(クイーン)』に一応プロモーションしてんだからさ。最初から気合は充分だッ!―――『龍王変化(ヴリトラ・プロモーション)』ッ!」

 

匙の体が黒い炎に包まれ、巨大に膨れ上がっていく

 

漆黒の炎は形を成していき、細長い東洋タイプのドラゴンへと変貌した

 

九尾の御大将と真っ正面から対峙し、黒い炎が魔方陣を囲んで薄暗いオーラを放ち始める

 

「キヒヒッ♪グレモリー眷属も英雄派もやる気満々だね~。ボク達も負けてられないや。さて、誰を選ぶ?ボクは勿論、英雄派のリーダーと赤龍帝と闇皇さ」

 

「オレ様は金髪と銀髪の姉ちゃんを殺るぜ!」

 

「では、私は天使のお嬢さんとウドの大木を」

 

「あっしはあの剣士3人を相手にしやす」

 

「俺は余った『ポーン』をいただくとするか」

 

アドラスがロスヴァイセとジャンヌ、メタルがイリナとヘラクレス、ガーラントが祐斗とゼノヴィアとジークフリートの所へ散開する

 

残されたバリーはダイアンの所へ飛ぶ

 

相手が決まったので一誠はアーシアに言う

 

「アーシア、九重を頼む」

 

「はい」

 

「九重、アーシアを頼めるか?」

 

「う、うむ。じゃが―――」

 

「ああ、分かってる。お前のお母さんは俺が―――俺達が助けるッ!」

 

任せろと親指を立てて応じ、背中からドラゴンの両翼を出す

 

曹操の眼前に降り立ち、新と並ぶ

 

「一誠、ムカつくが曹操の計らいで首輪を外してもらえた。存分に暴れてやろうぜ」

 

「それは良かった。何せ俺達の相手はボス級ばかりだ」

 

少しした後に神風も近くに降り立ち、不気味な哄笑を上げる

 

「キヒヒッ♪何だろね、このドリーム過ぎる対戦メンバーは。早くブッ殺したくてウズウズしちゃうよ♪」

 

「とりあえず質問良いか?―――お前のその籠手、何なんだ?」

 

一誠の質問に神風は口の端を吊り上げた

 

「これかぁい?これはボクが開発した神器(セイクリッド・ギア)だよ。今まで集めてきた神器(セイクリッド・ギア)データをベースに作り上げたのさ。―――『邪眼の闇籠手(ネメシス・ギア)』と名付けてるよ。カッコいいでしょ~?能力だって凄いよ?大抵の神器(セイクリッド・ギア)の能力ならコピー出来ちゃうんだ♪こんな風にね!」

 

Explosion(エクスプロージョン)

 

籠手から無機質な音声が流れると同時に神風のオーラがグンと強くなる

 

それを見た新と一誠は驚愕してしまう

 

「まさか、俺の『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の能力を!?」

 

「まあねぇ♪『魔剣創造(ソード・バース)』とかもコピーしてるよ~。ま、『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』みたいな上位クラスの神滅具(ロンギヌス)はコピー出来ないし、禁手(バランス・ブレイカー)の再現も出来ないけど―――それでも本家の能力より強いよ~?」

 

「相変わらず反則染みてるな」

 

新は一言発してから闇皇に変異する

 

「曹操、お前は見て分かる。実は強いだろ?」

 

「弱くはないかな。弱っちい人間だけどね」

 

「嘘こけ。先生とやり合った奴が弱い筈ねぇだろ」

 

「ハハハハ、そりゃそうか。でもあの先生はチョー強かったけど?俺もまだまだだと思うよ、おっぱいドラゴンに蝙蝠皇帝」

 

一頻り言い合いした後、一瞬の静寂が流れる……

 

刹那、龍王化した匙と九尾の化け蜘蛛が咆哮と共に仕掛けた

 

黒い炎が九尾の周囲を完全に包囲し、炎が怪しげな揺らめきをすると九尾の全身からオーラが放出される

 

苦しむ様子を見せるが、九尾の化け蜘蛛は上半身と下半身の口から凄まじい火炎を吐き出した

 

匙も負けじと黒い炎を吐き出し、2つの巨大な火炎が空中でぶつかり大爆発を引き起こす

 

『クソッ!ロキの時みたいに上手く炎の結界が使いこなせない……!』

 

『集中しろ、我が分身よ。我の力は高い集中力が必要となる。……だが、それだけでもあるまいよ。都市の力を得た上に暴走させられた九尾の膨大な妖力もそうだが、あの魔法使いが展開したこの魔方陣も怪しげな結界効果を発揮しているな。少々術式が複雑で厄介だ……。これが大きく邪魔をして我の炎を無効化しようとするようだが……。都市、九尾の力、神滅具(ロンギヌス)と魔術の混合に禍々しき蜘蛛か……。力を散らそうとしても都市から流れてくる力で直ぐに復調してしまう。これではこちらの方が保たぬな』

 

匙とヴリトラの会話が一誠の『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を通して聞こえてくる

 

九尾だけでなく京都のパワースポットからの力、魔方陣、ブラックウィドウといっぺんに相手をするのは荷が重す過ぎるようだ

 

一誠は譲渡が必要かと訊くが、暴走の危険性がある為いらないとヴリトラに返される

 

大怪獣決戦が繰り広げられる中、グレモリー眷属と英雄派、神風一派は睨み合ったまま動かない

 

まず最初に動いたのは祐斗とゼノヴィア、ジークフリート、ガーラントの4人

 

金属音と共に火花を散らし始める

 

背中から亜種『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』を生やし、三刀流となったジークフリートが祐斗とゼノヴィアの剣戟を最小限の動きだけで受け止め、鋭い突きを繰り出す

 

そこへガーラントが割って入るように両腕を伸ばし、ジークフリートの突きを止めて振り回す

 

ジークフリートを放り投げた直後、口から鋭利なトゲを連続で発射

 

祐斗とゼノヴィアは飛んで来るトゲを全て切り払う

 

ゼノヴィアはデュランダルの鞘の一部に手を掛けると―――そこから柄の部分が現れて引き出す

 

引き出された柄から刃が生え、エクスカリバーの1本を持って二刀流に変更

 

2人がかりで高速の剣戟を見舞うが、ガーラントの全身は思った以上に堅牢で全くダメージを与えられない

 

「そんな剣戟じゃ、あっしの体は傷1つ付きやせんぜ?」

 

伸ばした腕を横薙ぎに払って2人を遠ざけるガーラント

 

そこへ笑みを浮かべたジークフリートがやって来る

 

「面白くなりそうだね。よし、大サービスだ!―――禁手化(バランス・ブレイク)ッ!」

 

ズヌッ!

 

ジークフリートの背中から新しく3本の銀色の腕が生えてきた

 

新しい腕は帯剣してあった残りの剣を抜き放つ

 

ジークフリートは三刀流から六刀流へと戦闘スタイルをチェンジした

 

その姿はまさに阿修羅の如し……

 

「魔剣のディルヴィングとダインスレイヴ。それに悪魔対策に光の剣もあるんだよ。これでも元教会の戦士だったからさ。これが僕の『阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)』。『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』の亜種たる神器(セイクリッド・ギア)禁手(バランス・ブレイカー)もまた亜種だったわけだ。能力は単純だよ。―――腕の分だけ力が倍加するだけさ。技量と魔剣だけで戦える僕には充分過ぎる能力だ。さて、キミ達は何処まで戦えるかな?」

 

祐斗とゼノヴィアを心配している中でロスヴァイセとジャンヌ、アドラスも激戦を繰り広げていた

 

ロスヴァイセは北欧魔術式フルバーストを2人に放つが、ジャンヌは殆ど視認出来ない程の速度で軽々と避け、アドラスは二対の円盤から放たれる炎で打ち消していた

 

「くっ!なかなかやりますね……!」

 

「ねーねー、銀髪のお姉さんはアーくんとどう言った関係なのかなー?」

 

「えぇっ!?ど、どうして今そんな事を!?戦いの最中ですよ!」

 

「彼女じゃないなら、お姉さんが貰っても良いよね?」

 

「……ッ!?い、いけません!不純異性交遊は教師として許しませんっ!」

 

「ふふっ、真っ赤になっちゃって可愛い♪」

 

「てめぇら、オレ様を放っといて呑気にくっちゃべってんじゃねぇぞ!」

 

アドラスが円盤から炎の渦を発生させ、ロスヴァイセとジャンヌを焼き殺そうとする

 

ロスヴァイセは防御の魔方陣で防ぎ、ジャンヌは先程と同じ様に高速の動きで回避

 

不敵に笑むジャンヌが叫んだ

 

「―――聖剣よ!」

 

アドラスの足下から聖剣が幾重にも生えてくる

 

アドラスは全身を貫かれるが、自身の体の炎で聖剣を溶かしていく

 

その様子を見てジャンヌがおかしそうに笑った

 

「やるやる!へぇ、見くびってたな」

 

「ハッ!どうしたぁ?クソカス人間の攻撃はそんなもんかよ?毛ほども効かねぇぜ」

 

「ムッ、言ったわね。分かった。お姉さんもジーくんみたいに大サービスで見せちゃう。―――禁手化(バランス・ブレイク)♪」

 

可愛く笑むジャンヌの足下から聖剣が大量に生み出され重なっていく

 

ジャンヌの背後に聖剣で創られた巨大なドラゴンが誕生した

 

これが彼女の神器(セイクリッド・ギア)―――『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』の亜種禁手(バランス・ブレイカー)―――『断罪の聖龍(ステイク・ビクティム・ドラグーン)』である

 

聖剣ドラゴンの登場にロスヴァイセは厳しい表情をするが、アドラスは狂喜に口の端を吊り上げていた

 

ドゴォンッ!ドオオンッ!

 

炸裂音が何度も響く合戦を繰り広げているのはイリナとヘラクレス、メタルの3人だった

 

イリナは光の槍を幾重にもメタルとヘラクレス目掛けて放つが、両者共に拳打でその攻撃を弾き返していた

 

特にヘラクレスの拳打は打ち込む度に爆発しており、まるで爆弾でも握って拳を出しているようだった

 

「ハッハッハーッ!良いねぇ!良い塩梅の攻撃じゃねぇかッ!」

 

光の槍を打ち落としたヘラクレスはメタルにも爆発の拳打を打ち込み、大きな爆発と共にメタルが()ぜる

 

しかし、メタルは爆煙の中から飛び上がって飛んでいるイリナにスクリューアッパーを仕掛けた

 

イリナは驚きながらも身を(よじ)ってそれを回避するが、拳の余波がイリナの制服の胸元を切り裂く

 

着地するメタルが感心した様子で言う

 

「ほう、あれを咄嗟に避けるとは。流石はミカエルに仕える天使だ。その純白の翼も美しい」

 

「こ、これでもミカエル様の(エース)なんだから!舐めないで!」

 

「うんうん、素晴らしいよ。そちらのウドの大木くんもなかなかの威力だ」

 

「俺の神器(セイクリッド・ギア)は攻撃と同時に相手を爆破させる『巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)』ッ!このまま爆発ショーをしても良いんだけどよォ。どいつもこいつも禁手(バランス・ブレイカー)になったら、流れ的に俺もやっとかないと後でうるさそうでな!悪いが、一気に禁手(バランス・ブレイカー)になって吹っ飛ばさせてもらうぜ!おりゃあああああああッ!禁手化(バランス・ブレイク)ゥゥゥッ!」

 

ヘラクレスが叫ぶと同時にその巨体が光り輝き出す

 

光が腕、足、背中で肉厚の物を形成し―――無数の突起物と化した

 

それはまるでミサイルのように……

 

「これが俺の禁手(バランス・ブレイカー)ッ!『超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)』だァァァァァァアアッ!」

 

ヘラクレスの攻撃照準がイリナとメタルに向けられ、イリナは周りを巻き込まないようにと動いて距離を取る

 

一方、メタルは嬉々としてミサイルが撃ち出されるのを待っていた

 

「ハハハハッ!素晴らしい!無差別攻撃と来たか!久々に血が(たぎ)るよッ!『装甲強化(アームド・アップ)弐式(レベルツー)』ッ!」

 

力強い発言と共にメタルの両足が強化され、動きが素早くなる

 

ヘラクレスの全身から生えたミサイルが発射態勢となって撃ち出されていく

 

そうはいくか!とばかりに新は剣技(クロス・バースト)、一誠は砲撃(ドラゴンショット)の構えを取る

 

ミサイルを少しでも撃ち落とそうとした時―――

 

「おっと、キミ達の相手はこっちだ」

 

瞬時に移動してきた曹操が槍の僅かな挙動で2人の手を上に(はじ)

 

そのせいで2人の攻撃はあらぬ方向に飛んでいってしまい、その間にもヘラクレスから撃ち出されたミサイルがイリナとメタルに襲い掛かる

 

ドッゴォォオオオオオオオオオオオンッ!

 

無数のミサイルは地上と空中で巨大な爆破を巻き起こし、激しい爆風が辺り一帯を襲う

 

爆煙の中から見えてくる2つの人影……

 

イリナはボロボロになりながらも上手く着地していた

 

メタルの方は体が少し欠けているものの、致命傷には至ってなかった

 

「……ハハハハ、ハハハハハハハハハッ!良いぞ、良いぞぉッ!ウドの大木にしては上出来だァッ!」

 

狂喜に吼えるメタルが駆け出し、ヘラクレスと真っ正面から殴り合う

 

ヘラクレスも嬉々として受け入れ、壮絶な打撃合戦を始めた

 

爆発が何度も巻き起こる中、一誠はアーシアに回復の指示を送り―――イリナのもとに緑色のオーラが届く

 

回復出来たイリナはアーシアに「ありがとう」と親指を立てた

 

「……クソッタレ、どいつもこいつも禁手(バランス・ブレイカー)かよ!」

 

「良いだろ?禁手(バランス・ブレイカー)のバーゲンセールってやつは。人間もこれぐらいインフレしないと超常の存在相手に戦えないんでね」

 

心中を見透かした様に曹操が愉快そうに笑い、槍をクルクルと回して距離を取る

 

一見すれば隙だらけなのだが、なかなか攻め立てる事が出来ない……

 

「お前も奴らみたいにここで禁手(バランス・ブレイカー)になるのか?」

 

一誠がそう訊くと曹操は首を横に振った

 

「いやいや。そこまでしなくてもキミ達は倒せる。だが、今日は充分に赤龍帝と闇皇を堪能するつもりだよ」

 

「……こいつはまた舐められたもんだ。でも、俺達をバカにしているようには思えないな」

 

「ああ、どうやればキミ達の力を引き出して戦いを満足出来るか考えているところだ。1つ、仲間が赤龍帝を倒せるある説を唱えた。時間を早める神器(セイクリッド・ギア)で攻撃する。禁手(バランス・ブレイカー)の制限時間がどんどん早まっていき、満足に戦えないまま鎧は解除されてしまう。仲間が持つ能力にそう言う制限時間のある者に効果がある神器(セイクリッド・ギア)があるのさ。時間の経過を一気に加速させて、浪費させる事が出来る。ただ、それだけの能力だ。直接的な攻撃力も特異な効果も無い。ただただ、制限時間を操作出来るだけだ。しかし、時間制限のあるキミには決定的な打撃となる。―――だが、恐らくこれでは赤龍帝を倒せない。キミは神器(セイクリッド・ギア)を深く知ろうとしている。もし、自ら禁手(バランス・ブレイカー)を解除して10秒毎に倍加していく禁手(バランス・ブレイカー)前の能力にそれを付加しようとしたら……?瞬時に倍加していく厄介な存在と化すだろうな。勿論、禁手(バランス・ブレイカー)状態で食らった攻撃が禁手(バランス・ブレイカー)前の神器(セイクリッド・ギア)にそう言う影響を及ぼすかどうか不透明だ。けれど、神器(セイクリッド・ギア)の深奥に(もぐ)る赤龍帝なら、その可能性を叶えそうでね」

 

「長い御託をグダグダと……。何が言いたいんだ?」

 

新が問うと曹操は肩を(すく)めて答えた

 

「案外、姑息な手よりもストレートな攻撃の方がキミ達を無理なく倒せるんじゃないかって話さ。―――キミ達はテクニックタイプを注意深く警戒していて、そのタイプでは逆にやりづらいんじゃないかなってね」

 

(ことごと)く核心めいたものを突く曹操の分析力に新と一誠は末恐ろしいものを感じた

 

「だが、そんな兵藤一誠にも決定的な弱点が2つある。―――龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)と光だ。ドラゴン、悪魔、2つの特性を有するキミは凶悪な分、自然と弱点も多くなってしまうわけだ。俺はこの弱点ってのに注目していてね。この世に無敵の存在なんていないと言う証明をしてみたいと感じてもいる。ま、この話はここまで。―――さて、やろうか」

 

「キヒヒッ、やっと終わったぁ?もう待ちくたびれたよぉ。他の皆も頑張ってるってのに、ボク達だけが話し込んでたらシラケちゃうからねぇ」

 

神風がそう言って視線を移すと、ダイアンとバリーも熾烈な激戦を繰り広げていた

 

ダイアンはご自慢の『牙流転生(がりゅうてんせい)』で幾重もの剣先を飛ばし、バリーは銃撃と剣戟で全て打ち落とす

 

お互いが1歩も退かない勝負だ

 

曹操が槍の切っ先を向け、菓子を(むさぼ)っていた神風が全身に凶悪な雷を(ほとばし)らせる

 

「アーシア!『女王(クイーン)にプロモーションだ!』」

 

「はい!」

 

一誠はアーシアからの同意を得て『女王(クイーン)』となり、新も『女王(クイーン)』形態となる

 

一誠はドラゴンの翼を展開して背中のブーストを勢い良く噴出させた

 

拳を突き出したまま猛スピードで曹操に一撃を繰り出そうと突貫していくが、曹操は槍を器用に回しながら当たる寸前で身を軽やかに(かわ)した

 

直線的な攻撃には対応出来るようだ

 

新も素早く飛び出して剣で斬りかかろうとするが、神風の雷撃が3人に襲い掛かってくる

 

瞬時に察した新は剣戟を中断して横へ飛び、一誠と曹操も飛び退いて回避する

 

神風は手元に生み出した雷で大剣を創り、横薙ぎに振るう

 

新はそれを『戦車(ルーク)』形態の盾で受け止めるものの、力負けして吹っ飛ばされる

 

一誠は再びドラゴンショットを撃とうとするが曹操に手を蹴り上げられ、先程と同じ様に空振りに終わってしまう

 

ズンッ!

 

一誠の腹部に深々と突き刺さる聖槍……

 

一誠は「ごふっ」と腹から込み上がってきた大量の血を吐き出す

 

「弱くはないんだけどね。真っ正面からの戦いだとまだ隙が多いな。それに仲間を気遣い過ぎる」

 

「悪かったな!」

 

吹っ飛ばされた新が巨大に伸ばした刀身の剣を曹操目掛けて振り下ろす

 

曹操は咄嗟に剣戟を回避するが―――ズシュッと鈍い音を立てて曹操の左腕が宙を舞った

 

見てみれば、いつの間にか接近していた神風が雷の剣で曹操の左腕を切り飛ばした形になっていた……

 

「美味しい所を美味しいタイミングでかっさらうって良いよねぇ?」

 

「……やれやれ、横からの食い逃げは気に入らないかも!」

 

ズシュッ!

 

曹操がお返しとばかりに神風の右肩を聖槍で貫く

 

神風は空いているもう片方の手で聖槍を払い除け、お互いに距離を取った

 

その間に一誠に緑色のオーラが飛んできて、一誠の意識を保つ

 

それでも腹の傷口は塞がらず、一誠は直ぐにフェニックスの涙を腹の傷にかけた

 

傷がようやく塞がり、新が一誠を肩を持って立たせる

 

宙を舞っていた左腕をキャッチした曹操が軽く笑いながら言う

 

「赤龍帝。今死にかけたのが分かったかい?聖槍に貫かれて、キミは消滅しかけたんだ。案外、すんなりと逝くだろう?」

 

“消滅しかけた”……その言葉に2人の体の内側から震えが生じる

 

「よく覚えておくと良い。今のが聖槍だ。キミ達がどんなに強くなってもこの攻撃だけは克服出来ない。―――悪魔だからね。たとえヴァーリであろうとも悪魔である限り聖槍のダメージは絶対だ」

 

「キヒヒッ!確かに痛いねぇ……ッ!まともに食らえばボクでも危ないかな?でもさぁ、君にも弱点ってのがあるんだよね~♪どんなに強くても、聖槍を持っていても所詮は人間。生身の人間だから一撃当てれば勝てちゃうんだよ~?」

 

「ハハハハ、確かにその通りだ」

 

自嘲する様に笑う曹操が聖槍を地面に刺し、(ふところ)から見知った小瓶を取り出す

 

蓋を取り払い、中の液体を傷口に振り掛けて左腕を切断面にくっつけようとした

 

左腕は傷口から煙を立てながら何事も無かったかの如く元通りになる

 

その小瓶は―――フェニックスの涙だった……

 

「フェニックスの涙……?何でお前がそれを持ってるんだ!?」

 

「裏のルートで手に入れた。ルートを確保し、金さえ払えば手に入る物さ。フェニックス家の者はこれが俺達に回っているなんて(つゆ)程も思ってないだろうけど」

 

只でさえ貴重なアイテムがテロリストの元に渡っている……

 

そんな事実を知ってしまった新と一誠は怒りを明らかにした

 

怒りに打ち震えていると……神風の籠手から邪悪なオーラが一層強く滲み出てきた……

 

待ってましたとばかりに神風が哄笑を上げる

 

「キャハハハハハハハハァッ!来たよキタよ来たよォッ!やっと来たぁ!遂に待ち望んでた展開がキタァァァァァァアアッ!予想よりも早いけど、この際何でもアリアリだよねぇっ!」

 

ブチブチブチィッ!

 

哄笑を上げた途端に神風は自ら籠手で覆った左腕を引きちぎり、それを頭上に放り投げる

 

籠手は空中で静止して浮遊し―――血走った目玉がギョロギョロと泳ぐ

 

「さあさあさあっ!いよいよだよォッ!―――『初代キング』の復活だァァァァァァアアッ!」

 

『――――っ!?』

 

闇夜の激戦区を見下ろす空で血走った目玉が妖しく輝き、空がドス黒いオーラに包まれていった……




次回でいよいよ『初代キング』が出てきます!

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