気付けばそこは京都駅のホームだった
周囲に視線を配らせる一誠、
「……こ、ここは地下のホームか?」
「ああ、どうやら昼間の現象をまた食らったようだな」
「
「じゃ、じゃあ、ここも別の空間に創られた疑似京都なのか?きゃつらの持つ技術は凄まじいのぅ」
九重の言う通り、何の予兆も無しに一誠達を包み込む霧の使い方の巧みさ、京都駅周辺にも同様の疑似フィールドを創り出す技術は驚嘆するものだ
ふいに一誠の携帯の着信音が鳴る
「もしもし、木場か?今何処だ?この奇妙な空間に転移してるんだよな?」
『うん。こちらは京都御所。ロスヴァイセさんと匙くんも一緒だよ。そちらは?』
「九重とダイアンと一緒で、京都駅の地下ホームだ。ちょっと待て、今地図を出す」
一誠は九重を肩から下ろし、眷属全員に渡された地図を
「このフィールド、まさか広大か?丁度この二条城中心にした地図が範囲じゃないか?」
『そうだね。二条城を中心に京都の町を広大に再現しているんだと思う。ゲームのフィールドでもこのぐらい広いのがあるから不思議じゃないけど、やはりレーティングゲームのフィールド空間を徹底的に研究しているようだ』
「木場、合流は二条城で良いか?」
『うん、了解。アーシアさん達への連絡はそちらが取るかい?彼女達もこちらに着いていると思うからね。僕達は英雄の方々から招待されたようだから』
「こちらからかけてみる。そちらは外の先生達に連絡を取ってくれ。ったく、唐突なご招待だぜ」
祐斗との連絡を終え、アーシア達とも連絡が取れた
教会トリオが仲良く集まっていたようで、アーシアの傍にゼノヴィアとイリナがいるので安心出来た
そちらにも二条城での合流を伝えた後、もう一度祐斗から連絡が届く
外のアザゼル達とは連絡が取れなかったらしく、一誠もかけてみたが繋がらなかった
どうやら携帯などの連絡手段が通じるのは疑似フィールド内にいる者に対してのみで、外部との連絡は取れないようだ
これ以上考えても仕方無いので、まずは皆との合流を目指す
昼間の観光帰りはホテルへ帰る手段として、二条城近くの地下鉄から電車に乗って京都駅まで帰ってきた
線路沿いに進んでいけば地下から二条城前の地下鉄駅まで行ける
移動の都合が整ったところで一誠は籠手を出現させ、
ダイアンも魔力を高めて
『
一誠が赤い閃光に包まれ、オーラが鎧の形に形成される
それを見ていた九重が感心するように言う
「うむ。昼にも見たが天龍の鎧は赤く美しいな。これが伝説の龍なのだな」
「九重、俺がお前のお袋さんを何とか救うからさ。俺の傍を離れちゃダメだぞ?九重の事は俺が守るからさ」
「う、うむ!よきに計らえじゃ!」
一誠の一言を聞いて九重は顔を真っ赤にし、そのやり取りを見ていたダイアンが肘で一誠の腹を小突く
「一誠~♪いつからロリで始まってコンで終わるアレになったんだ
「な……っ、ダイアン!お前まで新と同じ事を……っ!」
「一誠は巨乳より幼女を選んだの
「ロリコンじゃねぇって言ってんだろ!?俺は今も昔も巨乳派なんだよっ!」
「巨乳派な
「金髪ガール……?―――っ、アーシアの事か!?ダメだダメだ!うちのアーシアちゃんは渡しません!親友でもそれだけは許さん!」
一誠とダイアンがワイワイ言い合う中、九重はボソリと「……私だって母上みたくボインボインになる筈じゃ……」と呟いていた
その時、一誠達に敵意を送る誰かの気配を感じる
ホームの先に視線を送ると、英雄派の制服を着た男性が歩みを進めてきた
男は目と鼻の位置で足を止め、笑みを見せる
「こんばんは、
「一誠、あの男を知ってるの
「…………いや、覚えは無いな。若干、記憶が……悪いな」
一誠の答えに男は苦笑する
「まあ、そうだろう。あんたにとってみれば俺なんて記憶にも残らない程の雑魚なんだろうさ。―――けどな、あの時に得た力によって、俺はあんたと戦えるようになった」
そう言った直後、男の影が意志を持ったようにウネウネと動き出す
それを見て一誠はふと思い出した
黒いコートを着て影を自在に操り、他の影から攻撃を転移させた
「思い出した。俺の町を襲撃してきた影使いの
一誠の言葉に影使いの男は含み笑いを見せる
「ご名答。俺はあの時、あんた達にボコボコにされちまった。でも、今は違う。あんた達にやられた悔しさ、怖さ、自分への不甲斐なさが俺を次の領域に至らせてくれた。見せてやるよ。本当の影の使い方を―――」
底知れない重圧を感じ、男の周囲にある柱や自動販売機などの影が不気味に動き出した
そして男は低い声音で一言
「―――
ズズズズズッ……
男から放たれるプレッシャーが増し、周囲の影が男を包み込んでいく
徐々に影が形を成していき、鎧のような物が形成される
それはまるで一誠の
「―――自分のような
一誠の心を見透かしたように、影使いの男は愉快そうに呟く
「そう、あんた達にやられた時、俺はより強い防御のイメージを浮かべた。あんたみたいな鎧が欲しいと感じたよ。それだけ赤龍帝の攻撃力は恐ろしくて力強くて感動的だった。―――『
影の鎧は生きているように各部位が
一見すれば影のモンスターである
一誠とダイアンは揃って攻撃態勢を取った
「さてと……アーシアがいないからプロモーションは出来ない。ったく、作戦開始早々ツイてないと言うか……」
「一誠、ビビってんの
「いや、それは大丈夫。こちとら強敵と戦い過ぎて殆ど緊張しなくなってきてるからな。これも良い修行だ。―――プロモーション無しでやってみる!」
「OK!それでこそ一誠だ
一誠は拳を握り、背中のブーストを噴かして影使いに突貫していく
ダイアンもエレキギターの仕込み刀を抜いて、一誠に続くように飛び出す
一誠は猛スピードの拳打、ダイアンは突きを繰り出すが―――2人の攻撃が相手の体を通り過ぎる……
男は煙の様に霧散していき、当たった手応えも全く無い
何事も無かったかの如く
一誠は直ぐ様振り返り、ダッシュして男の背後から跳び蹴りを食らわせようとするが―――これも相手の体を通り過ぎただけで終わってしまう
元の位置に戻ってきた一誠は改めて体勢を取り直した
「この影の鎧に直接攻撃はおろか、どんな攻撃も無駄だ」
男は嘲笑した口調でそう言ってくる
直接攻撃が無意味だと理解しても逃げる訳にはいかない
一誠は手元から小規模のドラゴンショットを乱れ撃ちで男に放つが―――ドラゴンショットは男の体の中に消えていった
まるで吸い込まれたかのように……
「―――っ!しまった!こいつの元々の能力は!ダイアン!」
直ぐに予感した一誠はダイアンに呼び掛けるが、ホーム内の物陰からドラゴンショットの乱れ撃ちが転移され、一誠とダイアンに襲い掛かってくる
呼び掛けに反応したダイアンは仕込み刀でドラゴンショットを切り裂き、一誠は九重を脇に抱えて、向かってくるドラゴンショットを避けたり蹴飛ばしてやり過ごす
「くそっ!こっちの能力も相変わらずか!」
「一誠!気を付け
ザワザワザワ……ッ!
更にホーム内の影が意志を持ったように一誠の方に向かっていった
鋭い刃と化した影が一誠を襲おうとした時、ダイアンがオーラを高めて居合いの構えを取る
「『
ダイアンが力強く抜刀した直後、仕込み刀から飛び出した幾重もの鋭い魔力の刃が影を切り裂いていく
しかし、数が多過ぎるので全てを切り払う事は出来ず、影の1つが一誠の左足に巻きつき縛ろうとしていた
槍の様に鋭く形成された影も大量に迫ってくる
「まだまだ!」
一誠は籠手からアスカロンの刃を出現させて足を縛る影を切り払い、後方に飛び退いて体勢を立て直す
ダイアンも襲い掛かってくる影を切りながら飛び退き、一誠と並び立つ
「……こいつは思ったより
「厄介だな、テクニックタイプってところか。俺が最も苦手なタイプだ……」
「ハハハハ!やるなぁ。さすが赤龍帝。そっちの
確かにこのまま消耗戦を続けていけば、いずれ一誠の鎧は解除されてしまう
魔法の
「えいっ」
ボオッ!
一誠の脇に抱えられていた九重が手を前に突き出し、男に小さな火の球を放つ
影使いの男は避ける素振りを見せずに火の球を手で掴んで握り潰した
「これは小さな狐の姫様。狐火ですかな?この程度の熱量では、俺には無駄ですぞ?熱さが足りない」
「お、おのれ!」
影使いの男は嘲笑い、九重は悔しそうに歯噛みする
……ここで一誠がある事に気付いた
―――“熱さが足りない”―――
それはつまり、影の鎧を装着していても“熱さ”は感じると言う事だろう……
何となく攻め手を見つけた一誠はダイアンにコッソリ話し掛ける
「ダイアン、炎系の技ってあるか?」
「ある事はある
訊いてくるダイアンに一誠は耳打ちし、攻め手を教えられたダイアンは親指を立てる
一誠は背中からドラゴンの翼を生やして九重を包み込んだ
「ドライグ、九重を翼で何とか頼む」
『それは良いが。相棒、どうするつもりだ?』
一誠は大きく息を吸って空気を溜め込み、腹の中で小さな火種を作り出した
『
『
「ダイアン、準備は良いか!?」
「いつでもOKだ
ダイアンが仕込み刀を鞘であるエレキギターに収め、一誠は腹に生まれた大火力の炎を口から一気に噴き出した
ボオオオオオオオオオオオオッ!
大質量の炎がホーム内を包み込み、更にダイアンもエレキギターの音色を響かせて魔力を高める
「行く
ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!
ギターから放たれた灼熱の炎もホーム内を蹂躙
疑似京都駅の地下ホームは炎一色に塗り潰された
「―――炎だと!こ、この熱量は……!」
影で転移させようにもホーム全てが炎に包まれているので逃げ場は無く、影の鎧はダメージが無くても“熱”までは避けられない
「元龍王直伝の火炎とダチの合わせ技だ。熱さは保証付きだよ。―――蒸し上がりやがれ」
「くそぉぉぉおおおおおおおっ!赤龍帝ぇぇぇえええええっ!」
灼熱の炎が男の周囲に渦巻く
男は炎の熱にやられ、その場で絶叫を上げてのたうち回る
直接攻撃は受け流す事が出来ても、炎の高熱までは受け流せない……
一誠は『
「……龍の炎……」
ドラゴンの翼に包まれている九重がボソリと呟いていた
―――――――――――――
プスプスと煙を上げる地下ホーム、至る所が黒焦げになっていた
影使いの男は煙を上げて倒れ伏しており、既に影の鎧は解除されている
全身にかなりの火傷を負っていた
まともに戦う事も出来ないだろう……
「……強い。
影使いの男が体を震わせながら立とうとする
「まだやるのか?それ以上やったらあんた死ぬぞ!」
一誠の忠告を聞き入れずに男は何度も転びながら立ち上がろうとした
「……死んでも良い。あいつの……そ、曹操の
その叫びは心の底からの物だった
「あんたは曹操に洗脳されていないのか?」
「ああ、そうだよ……。俺は俺の意志で曹操に付き従っている……。何故かって?くくくく……」
男が苦しそうに息を上げながら話し始める
口の中も熱で痛んでいるにもかかわらず、男は話した
「……
「それが曹操って奴
「この力を持って生まれた俺を才能に溢れた貴重な存在だと言ってくれた……。……英雄になれると言ってくれた……。今までの人生を全て薙ぎ払うかのような言葉を貰ったらどうなると思う……?―――そいつの為に生きたいと思っちまっても仕方無いじゃないか……ッ」
絞り出すように男はそう独白した
そこまで曹操を慕っていても、曹操はテロリスト
今も九重の母親―――八坂を拉致して“実験”とやらを
「利用されているだけかもしれないんだぞ?」
「それの何処が悪い?奴は、曹操は!俺の生き方を、力の使い所を教えてくれたんだぞ……?それだけで充分じゃないか……ッ!それだけで俺は生きられるんだ……ッ!クソのような人生がようやっと実を得たんだぞ……ッ!それの何処が悪いってんだよぉぉぉぉぉっ!赤龍帝ッ!」
ただ黙って聞く一誠達に男は涙を流し、思いの丈を吐き出した
「……クソのような扱いを受けて、クソみたいな生き方を送ってきた俺達
“脅威”……確かに一誠もダイアンも人間から見れば恐ろしい存在だろう
曹操は
それはこの男にとっても人生の転機だったのかもしれない……
男は足をガクガクと震わせながらも立ち上がり、一誠達の方にゆっくりと歩みを進めてくる
敵意も消えていなかった
「俺達人間を舐めるなよ……ッ!悪魔……ッ!
侮蔑する叫びを上げて少しずつ近付いてくる
一誠とダイアンは拳を握り締め、同時に歩みを進めた
2人揃って男の顔面にパンチを繰り出す
「そうだな。俺は悪魔で―――」
「俺は
ゴウッ!
一誠とダイアンの一撃を食らった男は後方に大きく吹き飛び、ホームの柱に背中を強く打ち付ける
そのまま気を失い、その場に突っ伏した
倒れる男に一誠は呟いた
「あんたのやってる事で泣く奴がいる。どんな理由でも俺はそれを殴り飛ばすだけだ」
「俺も同じ
男を一瞥した後、2人は暗がりの線路の先に視線を向けた
その先を進めば二条城前に出られる
「九重、行くぞ」
「うむ!」
一誠は九重を背中に乗せ、ドラゴンの翼を広げて線路の先へ飛び出した
ダイアンも走って一誠の後を追っていく
――――――――――――
「ふうっ……。久し振りによう話したわぁ。ほんまおおきに」
「いや、礼には及ばねぇよ」
一方、英雄派のアジトらしき場所の牢屋に入れられている新と八坂は談笑で盛り上がっていた
あの後も京都の名所について語ったり、修学旅行の事を話したりしていた
次第に八坂は新との距離を詰め、遂にはその手を握っていた
「八坂姫?」
「そんな
「じゃ、じゃあ……八坂」
「……っ。やっぱえぇわぁ。お主のような強くて優しい男にそう呼ばれると……なんや不思議と身体が
八坂は滑らせる様に自らの手を新の手→肩→頬に持っていき、身体も新の方に向ける
先程まで九尾の御大将の顔をしていた八坂姫―――今ではすっかり女の顔になっている
「……なあ、
「あぁ。腕を取られようが足を取られようが、必ず八坂を助ける。勿論、九重も、この京都も。英雄派の好きにはさせねぇよ」
「……じゃあ、これは約束の証やねぇ……」
チュ……ッ
突然の不意打ちキス、八坂の柔らかい唇が新の唇と重なっていた
一瞬呆然と止まってしまった新は唇が離された途端、目をパチクリさせる
「……や、八坂……ッ?」
「ふふっ、
「……参ったぜ。そんな事されたら、余計に火ぃ
新は照れて頬を掻き、八坂は美麗な微笑みを見せる
そんなやり取りの直後、牢屋の扉が開かれて誰かが入ってきた
―――曹操とジャンヌだった
「おや、お取り込み中だったのかな?」
「もうっ、アーくんったら。いつの間に九尾のお姫様とイチャイチャしてたの?そう言う事なら混ぜて欲しかったのに」
「空気読めない奴らが来たか……。で、何の用だ?」
「そうカリカリしないでくれ。キミのお友達が二条城の前に到着したんだ。―――そろそろ開戦だから、連れていこうとね」
曹操の言葉で理解出来た
一誠達が来たんだと……
いよいよ……二条城を舞台にした英雄派との決戦が始まる……
――――――――――――
「
「キヒヒッ、ようやく来たね~♪お祭りパーティの役者が全員揃ったよ♪グレモリー眷属も英雄派も、ボク達が纏めてぶっ潰してやろうよぉ」
――――――――――――
「僕が倒した刺客は
祐斗が走りながらそう言う
一誠達は二条城の敷地内を進み、二の丸庭園を抜けて本丸御殿に続く『
辿り着いたのは古い日本家屋が建ち並ぶ場所
英雄派の気配を探る一誠達に声が投げ掛けられる
「
庭園に曹操の姿が見え、建物の陰からも英雄派の構成員が姿を見せる
勿論、そこには新もいた……
「―――っ!新!無事か!?」
「よう、一誠。それなりの歓迎は受けたが、何とか無事だ」
「はーい、お姉さんから離れちゃダメよ?」
ジャンヌが新を胸元に引き寄せてギュッと抱き締める
その様子を見たゼノヴィアとイリナ、ロスヴァイセからジト目の視線が注がれチクチクと新を責める
「母上!母上!ご無事でしたか!」
九重の叫び声、九重の視線の先に抵抗出来ないよう手を封じられた八坂が
「九重!九重!」
「母上ぇぇえええっ!」
九重が涙を流しながら八坂に駆け寄ろうとする
その時、新の視線の先―――遥か後方の空中に人影らしき物がいて、キラリと光る何かを向けていた
新はそれに気付いて咄嗟に九重に向かって叫んだ
「待て!九重っ、止まれ!止まるんだッ!」
ドォンッ!
闇夜の世界で映える二条城に1発の銃声が鳴り響く……
突然の銃声に一誠達どころか、英雄派すら呆気に取られる
駆け寄ろうとしていた九重の足が止まり、八坂の体が静かに後ろへ倒れ込んだ……
ドサッ……と力が尽きた様に倒れる八坂
彼女の胸には1つの弾痕が刻まれていた……
「……母上?母上……母上ぇぇええええええええええええっ!」
無情の銃声が親子の再会を壊し、いたいけな少女に悲鳴を上げさせた……
次回、いよいよ激戦開始です!