ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

123 / 263
今回は少し長めに書きました!


魔帝ジークと神風一派

『ゴガァァァァァッ!』

 

不気味な鳴き声を唸らせたアンチモンスターの群れが突っ込んできた

 

祐斗とゼノヴィアが前線に立つ

 

「木場、悪いが聖剣を一振り創ってくれ」

 

「了解。キミは二刀流の方が映えるからね」

 

祐斗が素早く手元に剣を一振り創り出すと、駆け出したゼノヴィア目掛けて放り投げる

 

空中で聖剣をキャッチしたゼノヴィアはアスカロンとの二刀流で敵陣に突っ込んでいった

 

ゼノヴィアの豪快な斬戟(ざんげき)でアンチモンスターが大量に消えていく

 

アンチモンスターの1匹が口を大きく開けて光線を放とうとしたが――――放たれた光線はゼノヴィアの前方に入った祐斗の聖魔剣(せいまけん)によって弾かれた

 

弾かれた光線が離れた位置にある建物を崩壊させる

 

「このぐらいの光なら、当たらなければ問題じゃない」

 

「いや、当たる前に倒せば良いだけだ」

 

二刀流でアンチモンスターを切り払いながらそう返すゼノヴィア

 

同じ『騎士(ナイト)』でもバトルスタイルは全く違う

 

「曹操、お前は俺がやらしてもらおうか!」

 

アザゼルがファーブニルの宝玉を取り出し、素早く人工神器(セイクリッド・ギア)の黄金の鎧を身に纏った

 

12枚の黒い翼を展開すると、高速で曹操に向かっていく

 

「これは光栄の極み!聖書に記されし、かの堕天使総督が俺と戦ってくれるとは!」

 

曹操は桂川の岸に降り立つと不敵な笑みで槍を構えた

 

槍の先端が開くと光り輝く金色のオーラが刃を形成され、この空間全体の空気が震える

 

アザゼルの光の槍と曹操の聖槍がぶつかり、強大な波動が生み出された

 

その衝撃で桂川が大きく波立ち、舞い上がった水飛沫(みずしぶき)が周囲に雨の如く飛び散っていく

 

アザゼルと曹操は攻め合いながら川の下流の方へ向かって岸を駆けていった

 

「一誠!曹操は一先ずアザゼルに任せて、俺達は残りの相手をやるぞ!」

 

「あ、ああ!分かった!」

 

現在の戦力メンバーは新、一誠、祐斗、ゼノヴィア、イリナ、アザゼルのみ

 

司令塔のリアス、リアスのサポート兼後方支援の朱乃、打撃+サポートの小猫、索敵+サポートのギャスパー、魔法攻撃の砲台役であるロスヴァイセはここにいない

 

まずは回復役のアーシアと九重を守る壁役を作らねばならなかった

 

チームバランスが著しく低い中、新と一誠はこの場に適した戦術を導き出そうと頭を働かせる

 

まず浮かんだのは新だった

 

「ゼノヴィア!お前はアーシアと九重の護衛に回れ!聖なるオーラを飛ばしてこっちに近付く敵を倒すんだ!」

 

「――――っ。了解だ!」

 

ゼノヴィアが新の指示に応じて素早く後方に下がり、アーシアの護衛に入った

 

一誠も負けじと頭をフル回転させ――――アンチモンスターへの対策案を発する

 

「木場!お前、光を喰う魔剣が創れたよな?」

 

「え?うん。――――そうか!」

 

一誠の問いに祐斗は直ぐに理解し、闇の剣――――『光喰剣(ホーリー・イレイザー)』を足下に何本か創り出して仲間の悪魔達に放り投げる

 

「その剣は普段、(つか)のみだ!闇の刀身を出したい時は剣に魔力を送ってくれ!」

 

祐斗からの補足説明もあり、新と一誠も追加指示を送る

 

「ゼノヴィア、危うくなったらそいつを盾代わりに光を吸え!」

 

「アーシアも不慣れかもしれないが、そいつを持っているんだ!無いよりマシだ!」

 

「やるな、新!」

 

「は、はい!」

 

ゼノヴィアは柄のみの闇の剣をスカートのポケットに入れる

 

新は早速闇の刀身を出し、闇皇剣(やみおうけん)との二刀流で向かってきたアンチモンスターを切り払う

 

一誠は祐斗から貰った闇の剣をアスカロンが抜けた籠手の穴に嵌め込み――――闇の盾を作り上げた

 

「なるほど、考えたな一誠。後は……イリナ!ゼノヴィアの代わりに祐斗と前線に立て!天使のお前なら光は弱点じゃないだろ?」

 

「じゃ、弱点じゃないだけでダメージは受けるんだけど、悪魔ほどの傷は貰わないわ。――――分かった!私、やってみるよ!ミカエル様の(エース)だもん!」

 

イリナは純白の翼を羽ばたかせてゼノヴィアがいた前衛ポジションに行く

 

光の剣を出現させたイリナは空中を飛び回ってアンチモンスターを撹乱し、隙を見て一気に(ほふ)っていった

 

新と一誠は中衛として戦う

 

「『僧侶(ビショップ)』にプロモーションするぜ、アーシア!」

 

「はい!」

 

アーシアの同意を得て一誠が『僧侶(ビショップ)』に昇格する

 

僧侶(ビショップ)』になった理由はドラゴンショットの強化、単純ながら威力はお墨付きである

 

「行くぜ、ドラゴンショット乱れ撃ち!」

 

一誠は闇の盾を構えつつ、右腕から中規模のドラゴンショットをアンチモンスターと英雄派目掛けて乱れ撃ちで放った

 

英雄派の連中は避けていくが、アンチモンスターは砲撃を受けて大量に消え去っていく

 

闇の盾で光線を防ぎ、九重の方に放たれた光線もドラゴンショットで撃ち落とす

 

「九重!もう少し後方に下がれ!」

 

「す、すまん」

 

「さて、デカいのを打ち込んでやるか。――――クロス・バーストッ!」

 

新が魔力を刀身に流した剣を振るい、地を這うような斬撃がアンチモンスターを大量に(ほふ)

 

ゼノヴィアも聖剣の波動を放って前方にいるアンチモンスターを撃破する

 

しかし、レオナルドと呼ばれる少年は足下の影から何度も何度もアンチモンスターを生み出していく

 

大量のアンチモンスターが放つ光線を打ち込まれても、すかさずアーシアが回復のオーラを飛ばしてくれるので大事には至らない

 

新は思う存分アンチモンスターを滅多斬り、一誠もドラゴンショットの乱れ撃ちでアンチモンスターを退治する

 

向かってくるのはアンチモンスターだけで、英雄派の連中は未だに攻撃の姿勢を見せていない

 

高みの見物のつもりか?

 

そう思っている新と一誠のもとに襲来する人影が複数現れた

 

制服姿の女の子数名が槍――――(ある)いは剣を携えて突貫してくる

 

赤龍帝(せきりゅうてい)闇皇(やみおう)の相手は私達がします!」

 

「――――っ。やめておけ、女性では赤龍帝(せきりゅうてい)闇皇(やみおう)には勝てないよ!」

 

腰に何本も帯剣した白髪の優男がそう叫ぶが、新と一誠は既に迎撃準備を整えていた

 

「一誠、準備は良いな?」

 

「当たり前だ!乳よ、その言葉を解放しろッ!『乳語翻訳(パイリンガル)』ッ!」

 

一誠は脳内に送った魔力を英雄派女子達に向かって解き放った

 

その瞬間、一誠を中心に謎の空間が広がっていく

 

「さあ、お嬢さんのお乳達!俺に心の内を話してごらん!」

 

『動きで翻弄した後、連携攻撃を叩き込むのよん』

 

『私は右から攻めるぞな』

 

『こちらは正面からなんだな』

 

一誠はおっぱいの声を聞いた直後に開眼して、その手を新に伝える

 

「よっ、ほっ、新!連携攻撃が来るぞ!そっちの子は右、そっちは正面からだ!」

 

「サンキュー」

 

新と一誠は仕掛けてきた英雄派女子達の攻撃を全て避けた

 

英雄派の女子達が驚愕する

 

「バカな!私達の動きが把握されている!?」

 

「読まれる筈が無い!私達の連携は完璧な筈だ!」

 

驚く英雄派女子達に一誠は不敵な笑みを見せた

 

「読んだのさ!否、喋ってくれた!あんた達のおっぱいがな!そして食らえ!『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』ッ!」

 

一誠はもう1つの技の名を叫ぶ

 

実は避けると同時に英雄派女子達の服に触れていたのだ

 

バババッ!

 

英雄派女子達の服がものの見事に弾け飛び、彼女達は裸になった

 

「い、いやぁああああああああっ!」

 

「魔術で施された服が……まるで役に立たないなんて!」

 

英雄派女子達が悲鳴を上げて自身の裸体を手で隠す

 

鍛えているのか、素晴らしいプロポーションをしていた

 

英雄派女子達は恥ずかしさのあまり、近くの家屋に逃げ込もうとしたが……そうはさせんとばかりに新が構える

 

「悪いがそうはいかねぇ。『暗黒捕食者(ダーク・グリード)』ッ!」

 

突き出した闇皇剣(やみおうけん)から闇が発生し、逃げる英雄派女子達を捕らえた

 

しかも、足を封じて後ろ手に縛るように……

 

「いやぁあああっ!な、何これ!?」

 

「闇が私達を捕らえてるの!?」

 

「そんなぁ……!これじゃ、隠せない……っ!」

 

足を封じられて()けた英雄派女子達は恥ずかしがりながら身を(よじ)らせる

 

「ぐふふっ、相手が女の子なら俺の妄想と手は止まらない!ここまで技が決まると気持ち良い事この上無いぜ!『乳語翻訳(パイリンガル)』で動きを読んで『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』で服を弾き飛ばし、新の『暗黒捕食者(ダーク・グリード)』で動きを封じておっぱい見放題!新、俺達のコンボは無敵だな!」

 

「え?あぁ、そうだな」

 

「さ、最低な技じゃな。こんなに酷い技を見たのは生まれて初めてじゃぞ……」

 

九重が新と一誠の技を見て呆れていた

 

小さい子にそんな事を言われ一誠は少し(へこ)むが、新は一切気にしなかった

 

「やはり、女では赤龍帝(せきりゅうてい)闇皇(やみおう)には勝てないか。恥辱にまみれても戦い抜く鋼の精神が必要になるけど……若い女性ではなかなか難しいね。流石(さすが)だよ、おっぱいドラゴン、エロ蝙蝠。ウワサの乳技(ちちわざ)裸技(はだかわざ)を見させてもらった。男には通じないけどね」

 

白髪の優男が冷静に分析しながらそう言う

 

「誰が男にやるもんかよ!」

 

「それ以前に乳技(ちちわざ)裸技(はだかわざ)って……何か嫌なネーミングだな……」

 

一誠は憤慨しながら返し、新は不満げな声で呟く

 

優男はニッコリ笑んだ後、他の英雄派のメンバーに言う

 

「皆も気を付けてほしい。今の赤龍帝(せきりゅうてい)は歴代で最も才能が無く、力も足りないが――――。その強大な力に溺れず、使いこなそうとする危険な赤龍帝(せきりゅうてい)だよ。強大な力を持ちながら、その力に過信しない者ほど恐ろしい物は無いね。あまり手を抜かないように。闇皇(やみおう)も同じだよ。力を使いこなすだけでなく、オリジナルの形へと昇華させている。未知数な分、危険性も極めて高いから充分に注意してくれ」

 

「……敵にそんな事を言われたのは初めてだな」

 

「あ、ああ……何かこそばゆい感じ……」

 

新と一誠の言葉に優男は首を(かし)げる

 

「そうかな?キミ達が思っている以上に現赤龍帝と闇皇の存在は危険視されるに値する物だと僕達は認識しているけどね。同様にキミ達の仲間の眷属と――――ヴァーリも。……さて、僕もやろうかな」

 

白髪の優男が1歩前に出て腰に携えていた鞘から剣を抜き放つ

 

「初めまして、グレモリー眷属。僕は英雄シグルドの末裔、ジーク。仲間は『ジークフリート』と呼ぶけど、ま、そちらも好きなように呼んでくれて構わないよ」

 

“ジークフリート”――――それは北欧神話『ニーベルングの指環(ゆびわ)』に出てくる主人公で、倒した竜の血を浴びて不死身になった英雄の名前である

 

ジークフリートの顔をずっと怪訝そうに見ていたゼノヴィアが何か得心したような表情となる

 

「……何処かで見覚えがあると思っていたが、やはりそうなのか?」

 

ゼノヴィアの言葉にイリナが(うなず)

 

「ええ、だと思うわ。あの腰に帯刀している複数の魔剣から考えて絶対にそう」

 

「どうした?あの白髪イケメンに覚えがあるのか?」

 

新の問いにゼノヴィアが答える

 

「あの男は悪魔祓(あくまばら)い――――私とイリナの元同胞だ。カトリック、プロテスタント、正教会を含めて、剣護(けんご)さんと並ぶトップクラスの戦士だ。――――『魔帝(カオスエッジ)ジーク』。白髪なのはフリードと同じ戦士育成機関の出だからだろう。あそこ出身の戦士は皆白髪だ。何かの実験の副作用らしいが……」

 

悪魔祓いと言う肩書きに一誠はフリードを思い出し、嫌な気分になってしまう

 

更にはゼノヴィアとイリナの上司――――闇人(やみびと)サイドにいる神代剣護(かみしろけんご)と同等の実力の持ち主……

 

「ジークさん!あなた、教会を――――天界を裏切ったの!?」

 

イリナの叫びにジークフリートは愉快そうに口の端を吊り上げた

 

「裏切ったって事になるかな。現在、『禍の団(カオス・ブリゲード)』に所属しているからね」

 

「……なんて事を!教会を裏切って悪の組織に身を置くなんて万死に値しちゃうわ!」

 

「……少し耳が痛いな」

 

ジークフリートの言葉にイリナが怒り、そのイリナの言葉にゼノヴィアはポリポリと頬を掻いていた

 

元々ゼノヴィアも破れかぶれで悪魔になった身分である……

 

ジークフリートはクスクスと小さく笑った

 

「良いじゃないか。僕や神代剣護さんがいなくなった所で教会にとはまだ最強の戦士が残っているよ。あの人だけで僕と剣護さん、デュランダル使いのゼノヴィアの分も充分に補えるだろうし。案外、あの人は『御使い(ブレイブ・セイント)』のジョーカー候補なんじゃないかな?――――と、紹介も終わった所で剣士同士やろうじゃないか、デュランダルのゼノヴィア、天使長ミカエルの(エース)――――紫藤イリナ、そして聖魔剣(せいまけん)の木場祐斗」

 

教会関係者だった3人に宣戦布告するジークフリートは手に持つ剣に不気味なオーラを纏わせた

 

そうこうしてる内に祐斗が神速で斬り込む

 

ガギィィィィンッ!

 

聖魔剣(せいまけん)を真っ正面から受けて尚、ジークフリートの剣は不気味なオーラを微塵も衰えさせなかった

 

「――――魔帝剣(まていけん)グラム。魔剣最強のこの剣なら、聖魔剣を難無く受け止められる」

 

鍔迫り合いを見せる両者

 

直ぐに飛び退いて体勢を立て直した後、再び火花を散らしながら壮絶な剣戟(けんげき)を繰り広げ始めた

 

「……木場と互角!?」

 

「いや、違うな。少しずつジークフリートの方が押している」

 

一誠の言葉を否定する新

 

新の言う通り、祐斗の表情が少しずつ厳しい物になっていくのが見て取れた

 

神速で動く祐斗の動きをジークフリートは見切り、目で追えない程のスピードで斬りかかっても当然の様に受け止めていた

 

祐斗のフェイントを織り混ぜた攻撃もジークフリートは最小限の動きだけでいなし、自身の魔剣を繰り出す

 

祐斗は避けるだけで精一杯、カウンターも出来ない状態だった

 

「うちの組織では、派閥は違えど『聖王剣(せいおうけん)のアーサー』、『魔帝剣(まていけん)のジークフリート』として並び称されている。聖魔剣の木場祐斗では相手にならない」

 

「あのアーサーと同格!?じゃ、じゃあ今の木場では……」

 

「チッ、加勢した方が良いか?――――っ」

 

加勢しようとした新の視線の先に、祐斗とジークフリートの剣戟に乱入する者がいた

 

ゼノヴィアが横からジークフリートに斬りかかり、祐斗の加勢をする

 

「ゼノヴィア!」

 

「木場!お前1人では無理だ!悔しいかもしれないが、私も加勢する!」

 

「――――っ。ありがとう!」

 

「私も!」

 

祐斗はゼノヴィアとの同時攻撃に乗り、更にイリナも参戦して3対1のバトルとなる

 

剣の切っ先が見えない程の斬戟が四者の間で起こるが、3人相手でもジークフリートは魔剣1本でいなしていき、数を物ともしない

 

祐斗が神速で分身を生みながら撹乱させて死角からの攻撃の構えを取り始め、ゼノヴィアは上空から強大なオーラを纏った聖剣で斬りかかった

 

更にイリナが空を滑空しながら、背後から光の剣で突き刺そうとする

 

この同時攻撃に勝利を確信する新と一誠だが、ジークフリートは背後から迫るイリナの攻撃を振り返らずに魔剣で防ぐ

 

更に空いた手で腰の帯剣を1本抜き放ち、上空から斬りかかってきたゼノヴィアの剣を1本破壊する

 

祐斗が渡した聖剣がガラスの如く儚い音を立てて砕け散った

 

「――――バルムンク。北欧に伝わる伝説の魔剣の一振りだよ」

 

ジークフリートは余裕の表情で言うが、まだ祐斗の死角からの攻撃が終わってない

 

両手は2本の魔剣で塞がっているので避ける(すべ)が無い

 

横薙ぎの一閃がジークフリートの横腹に入る寸前――――

 

ギィィィィンッ!

 

金属音が鳴り響く……

 

祐斗の聖魔剣はジークフリートが新たに鞘から抜いた魔剣によって防がれていた

 

「ノートゥング。こちらも伝説の魔剣だったりする」

 

3本目の魔剣よりも驚くべき事がある……

 

既に2本の魔剣を持っているジークフリートが何故3本目の魔剣を持てるのか……?

 

その答えは――――ジークフリートの背中から生えた3本目の腕が魔剣を握っていたからだ

 

銀色の鱗に包まれた腕……それはまるでドラゴンの腕のようだった……

 

驚く新達にジークフリートは笑みながら言う

 

「この腕かい?これは『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』さ。ありふれた神器(セイクリッド・ギア)の1つだけれど、僕のはちょいと特別でね。亜種(あしゅ)だよ。ドラゴンの腕みたいな物が背中から生えてきたんだ」

 

「『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』!?確か俺の『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の下位版だったよな?亜種って……背中から腕が生えてくるのかよ!」

 

「伝説の魔剣に亜種『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』での三刀流……何処の海賊狩りだよ、チクショウ」

 

ジークフリートの魔剣に神器(セイクリッド・ギア)の正体を知った祐斗の表情がより厳しい物に変わる

 

「……同じ神器(セイクリッド・ギア)使い。けれど、あちらは剣の特性どころか、その神器(セイクリッド・ギア)の能力すらまだ出していない、か」

 

「ついでに言うなら、禁手(バランス・ブレイカー)にもなっていないけどね」

 

残酷な報告が追い討ちを掛ける……

 

確かに実験を繰り返していた英雄派の構成員が禁手(バランス・ブレイカー)になれない筈が無い

 

ジークフリートは素の状態で祐斗、ゼノヴィア、イリナの3人を圧倒していた

 

困惑する一誠の前にアザゼルが降り立った

 

同様に英雄派の中心に曹操が戻ってくる

 

チラリと2人が攻撃を打ち合いながら向かった下流方面を遠目に見やると――――煙が上げる焦土と化していた……

 

アザゼルは恐らく英雄派が創った空間だからと遠慮無しに攻撃を打ち込んだのだろう

 

アザゼルの鎧は所々壊れており、黒い翼もボロボロだった

 

一方、曹操の方も制服や羽織っている漢服が破れていた

 

しかし、伝説の存在でもある堕天使の総督と一戦交えて負傷が少ない事に驚きを隠せない……

 

「……これが英雄派のトップ……」

 

「……心配するな、イッセー。お互い本気じゃない。ちょっとした小競り合いだよ」

 

「小競り合いで下流の地域が崩壊しているんですけど!?」

 

面白(おもしれ)ぇ。なら、俺も少し手合わせしてみるか」

 

そう意気込む新は闇皇剣(やみおうけん)に魔力を注入し、強大な電撃を(ほとばし)らせる

 

先程アンチモンスターに放った剣技(けんぎ)――――クロス・バーストの体勢だ

 

新が攻撃を仕掛けてくると知った曹操は口の端を吊り上げ、聖槍(せいそう)の切っ先を新に向ける

 

切っ先に集まる輝かしいオーラが刃となっていく……

 

「――――っ!皆、離れろ!あいつらデカいのを撃つつもりだ!」

 

アザゼルの呼び掛けで新を除く全員が後方に飛び退き、新は高密度の魔力を帯びた剣を振るった

 

「クロス・バーストォッ!」

 

剣を振るった刹那、巨大な斬撃が地を抉りながら猛進していく

 

曹操は「面白いっ!」と発して聖槍から光り輝く刃を撃ち放った

 

衝突する聖槍の刃と赤い斬撃が天と地を揺り動かす……

 

激しい火花を散らしながら押し合う2つの攻撃、その威力はまさに互角……

 

剣を握る手を震わせる新は更に力を込め、曹操も同様に技の威力を底上げさせる

 

その瞬間、2つの攻撃は巨大な爆発を生み――――攻撃の余波を受けた新が後方に吹き飛ぶ

 

直ぐに体勢を立て直す新だが――――右腕の鎧が完全に破壊され、剣を握る手を伝って血が(したた)り落ちる……

 

曹操の方は軽く息を切らす程度でダメージは少なかった

 

「……クソッ。結構な威力を放ったってのに、あの程度の傷かよ……。参ったぜ……」

 

舌打ちする新に曹操は首をコキコキ鳴らしながら言う

 

「今のは良い威力の攻撃だったよ、竜崎新。仲間の眷属悪魔達もね。これが悪魔の若手でも有名なリアス・グレモリー眷属か。もう少し、楽に戦えると思ったんだが、意外にやってくれる。俺の理論が正しければ、このバカげた力を有するグレモリー眷属を集めたのは兵藤一誠と竜崎新――――キミ達の力だ。兵藤一誠は身体機能と魔力の才能は無いかもしれないが、ドラゴンの持つ他者を惹き付ける才能は歴代でもトップクラスだと思うけどね。ほら、ドラゴンは力を集めるって言うだろう?キミの場合は良くも悪くもその辺が輝いていたって事だよ。竜崎新も未知なる力――――『闇皇(やみおう)の鎧』を宿してる上に戦闘のプロ。更に兵藤一誠と同じく他者を惹き付ける才に恵まれている。連続する名うての存在の襲来、各龍王との邂逅(かいこう)、そして多くに支持されている『おっぱいドラゴン』と『蝙蝠皇帝』が良い例だ。『(キング)』無き眷属をこの状況で冷静に対処出来た。まだ稚拙で穴だらけとも言える手配だが……手慣れたら怖くなるかもしれない」

 

曹操が新と一誠に槍の切っ先を向けてくる

 

「だから、俺達は旧魔王派のように油断はしないつもりだ。将来、兵藤一誠は歴代の中でも最も危険な赤龍帝になると確信している。竜崎新も危険度ナンバーワンの闇皇(やみおう)だ。そして、眷属も同様。今の内に摘むか、もしくは解析用のデータを集めておきたいものだ」

 

英雄派は今まで新達が相手にしてきた旧魔王派とは根本的に違う……

 

旧魔王派などは基本的に小馬鹿にしてきたので、その隙を突いて勝ってきた

 

アザゼルが曹操に改めて問う

 

「1つ訊きたい。貴様ら英雄派が動く理由は何だ?」

 

「堕天使の総督殿。意外に俺達の活動理由はシンプルだ。『人間』として何処までやれるのか、知りたい。そこに挑戦したいんだ。それに悪魔、ドラゴン、堕天使、闇人(やみびと)、その他諸々、超常(ちょうじょう)の存在を倒すのはいつだって人間だった。――――いや、人間でなければならない」

 

「英雄になるつもりか?って、英雄の子孫だったな」

 

曹操は人差し指を青空に真っ直ぐ突き立てた

 

「弱っちい人間の(ささ)やかな挑戦だ。蒼天(そうてん)(もと)、人間のまま何処まで行けるか、やってみたくなっただけさ」

 

英雄派は今まで新達が相手にしてきた旧魔王派とは根本的に違う……

 

旧魔王派などは新達を小馬鹿にしてきたが、今まではその隙を突いて勝ってきた

 

アザゼルが嘆息しながら新と一誠に言う

 

「……イッセー、新、油断するなよ。こいつは――――旧魔王派、シャルバ以上の強敵だ。お前らを知ろうとする者はこれから先、全て強敵だと思え。特にこいつはその中でヴァーリと同じぐらい危険性が抜きん出ている」

 

「ヴァーリと同じぐらい……」

 

「まあ、最強の聖槍を持っているだけでも相当な強敵だろうよ」

 

アザゼルが揃った事で両陣営が改めて身構える

 

英雄派は未だにアンチモンスターを生み続けている

 

第二波の戦闘が始まろうとしたその時――――新達と英雄派の間に1つの魔方陣が輝かせながら現れた

 

今まで見た事の無い紋様……

 

「――――これは」

 

アザゼルは何か知っているようで、怪訝に思っている新達の眼前に現れたのは――――魔法使いの格好をした可愛らしい女の子だった

 

帽子にマント、まさに魔法使いの格好で歳は中学生くらい

 

女の子はクルリと新達の方に体を向けると、深々と頭を下げてきた

 

ニッコリと笑顔で新達に微笑み掛ける

 

「初めまして。私はルフェイ。ルフェイ・ペンドラゴンです。ヴァーリチームに属する魔法使いです。以後、お見知りおきを」

 

「ヴァ、ヴァ、ヴァーリチームゥゥゥゥ!?何でヴァーリの仲間がこんな所に!?」

 

仰天する一誠を他所に、アザゼルが魔法使いの女の子――――ルフェイに訊く

 

「……ペンドラゴン?お前さん、アーサーの何かか?」

 

「はい。アーサーは私の兄です。いつもお世話になっています」

 

「アーサー……あの聖王剣(せいおうけん)使いの妹か。へー、こんな可愛い妹がいたのか」

 

新が感心する中、アザゼルは顎に手をやりながら言う

 

「ルフェイか。伝説の魔女、モーガン・ル・フェイに(なら)った名前か?確かにモーガンも英雄アーサーペンドラゴンと血縁関係にあったと言われていたかな……」

 

ルフェイが目を爛々と輝かせながら新に視線を送り、新に近付くと手を突き出してくる

 

「あ、あの……私、『蝙蝠皇帝(こうもりこうてい)ダークカイザー』のファンなのです!差し支えないようでしたら、あ、握手してください!」

 

新は突然握手を求められて若干反応に困るが、とりあえず「サ、サンキュー……」とだけ呟いて握手に応じた

 

握手してもらったルフェイは「やったー!」と物凄く喜ぶ

 

曹操側も呆気に取られるが、曹操が頭をポリポリ掻きながら息を吐く

 

「ヴァーリの所の者か。それで、ここに来た理由は?」

 

曹操の問いにルフェイは屈託の無い満面の笑顔で返した

 

「はい!ヴァーリ様からの伝言をお伝え致します!『邪魔だけはするなと言った筈だ』――――だそうです♪うちのチームに監視者を送った罰ですよ~」

 

ドウゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!

 

ルフェイが可愛く発言した直後、大地を揺り動かす程の震動がこの場を襲う

 

ガゴンッと何かが割れる音

 

そちらに視線を送ると、地面が盛り上がって何か巨大な物体が出現する寸前だった

 

地を割り、砂を巻き上げながら姿を現したのは――――雄叫びを上げる巨人らしき物だった……

 

『ゴオオオオオオオォォォォォオオオッ!』

 

無機質な物で創られたようなフォルムに腕も脚も太く、全長10メートルはありそうな石の巨人

 

アザゼルが巨人を見上げて叫ぶ

 

「――――ゴグマゴクか!」

 

「はい。私達のチームのパワーキャラで、ゴグマゴクゴッくんです♪」

 

「ゴッくんって、そんな可愛らしく呼ばれてるの!?あれが!?」

 

「アザゼル、あの石の巨人は何だ?」

 

新の問いにアザゼルがゴグマゴクについて説明を始めた

 

「ゴグマゴク。次元の狭間に放置されたゴーレム的な物だ。(まれ)に次元の狭間に停止状態で(ただよ)ってるんだよ。何でも(いにしえ)の神が量産した破壊兵器だったらしいが……。全機が完全に機能停止だった筈だ」

 

「あんなのが次元の狭間にいるんですか!?機能停止って、あれ動いてますけど!」

 

「ああ、俺も動いているのを見るのは初めてだ。問題点多過ぎたようでな、機能停止させられて次元の狭間に放置されたと聞いていたんだが……動いてるぜ!胸が(おど)るな……ッ!――――そうか。ヴァーリが次元の狭間で彷徨(うろつ)いていたのはグレートレッドの確認だけじゃなかったんだな」

 

アザゼルの意見にルフェイが答えた

 

「はい。ヴァーリ様はこのゴッくんを探していたのです。オーフィス様が以前、動きそうな巨人を次元の狭間の調査で感知したとおっしゃっておられまして、改めて探索した次第です」

 

「先生、次元の狭間ってあんなのやグレートレッドがいるんですね……」

 

「次元の狭間は、ああ言う処分に困った物が行き着く先でもある。グレートレッドも次元の狭間を泳ぐのが好きなだけで実害は無いぞ。各勢力でもグレートレッドはブラックリストや各種ランキングに入る事は無い。あれは特例だ。つつかず自由に泳がせておけば良いものを……」

 

アザゼルがそう呟く中、ゴグマゴクが英雄派の方を向き、ルフェイがゴグマゴクに指示を出す

 

「ゴッくん、あの人達にお仕置きしちゃってください♪」

 

『ゴオオオオオオオォォォォォオオオッ!』

 

雄叫びを上げるゴグマゴクが巨大な拳を振り上げる

 

曹操や英雄派の連中が身構えた途端――――再び渡月橋の中心で魔方陣が輝きながら現れた

 

しかも、今度は3つ……

 

「今度は何だ?またヴァーリチームの誰かか!?」

 

一誠の言葉にルフェイは(いぶか)しげな表情となる

 

「いえ……ヴァーリ様のチームは今のところ、ヴァーリ様、美猴(びこう)様、兄のアーサー、黒歌(くろか)さん、フェンリルちゃん、ゴッくん、私の7名だけです」

 

実に濃過ぎるヴァーリチームのメンバー紹介を受ける

 

では、これらの魔方陣はいったい誰なのか……?

 

疑問に思っていると魔方陣から何者かが姿を現す

 

現れた3人は異形の姿をしていた……

 

真ん中に立つのは炎の様な髪を揺らめかせる人型サイズのドラゴン、その者の周囲には円盤らしき武器が2つ浮遊している

 

右隣にいるのは全身を鎧と刃物で固め、兜の隙間から鋭い眼孔を覗かせた――――同じく人型サイズのドラゴン

 

左隣には2人よりも一回り大きく、爬虫類の様な頭をした全長3メートル程はありそうなドラゴン

 

突然現れたこの3人のドラゴンにアザゼルが切り出す

 

「お前ら、いったい何者だ?」

 

アザゼルが問い詰めると炎の髪を揺らめかせるドラゴン→鎧と刃物を纏ったドラゴン→爬虫類の様なドラゴンが順番に答えた

 

「ケケケッ、オレ様は神風一派(かみかぜいっぱ)に属するサラマンダーの闇人(やみびと)、アドラス・ヴェルメリオ様だ」

 

「私は、同じく神風一派に属するリザードマン族出身の闇人(やみびと)、メタル・(ディー)・アズール」

 

「あっしも神風一派に属する闇人(やみびと)のガーラント・グリンベルデと申しやす。因みにあっしはナーガ族出身でございやす」

 

「サラマンダー、リザードマン、ナーガって……全部ドラゴン関連のモンスターじゃないか!?」

 

「しかも、その全員が闇人(やみびと)で神風絡みかよ……」

 

一誠が仰天し、新が憎々しげに吐き捨てる

 

サラマンダーとは炎の精霊とも呼ばれ、溶岩の中を住み処にしている蜥蜴(とかげ)やドラゴンのモンスター

 

リザードマンは二足歩行する竜人(りゅうじん)の魔物で、ナーガはインド神話に伝わる蛇の姿を持ったドラゴンである

 

その3種族出身の闇人(やみびと)が神風一派を名乗って現れてきた……

 

3人の闇人(やみびと)の登場に曹操が訊ねる

 

闇人(やみびと)3人が京都まで御足労を掛けるとは、何かの悪巧(わるだく)みかい?」

 

「よぉく分かってんじゃねぇか、『禍の団(カオス・ブリゲード)』のクソ英雄。ああ、そうだよ。オレ様達がここに来たのは、てめぇらに朗報を伝える為だ」

 

下卑た笑いを見せるアドラスは、その調子のまま中指を突き立てて“朗報”とやらを口に出す

 

「てめぇらがモタついてるお陰で――――『初代キング』復活の準備が整ったぜぇ?もう終わったな、てめぇら」

 

『――――っ!?』

 

アドラスの口から出た衝撃かつ最悪の(しら)せに全員が絶句する

 

新達と英雄派の反応を見たアドラスは大爆笑、メタルとガーラントもクスクスと笑う

 

「良い反応をありがとう、悪魔と英雄派の諸君。君達が牽制し合っているお陰で神風一派の目的は最終段階まで終えたよ。手薄になった警備を突破して『初代キング』を封じ込めている結界石(けっかいせき)を破壊したんだ」

 

「神風が言ってやした。『禍の団(カオス・ブリゲード)』が表立てば、そいつを隠れ蓑にして結界石を破壊すると……。狙いはドンピシャでございやしたね。(おとり)役、ご苦労さんでございやした」

 

嫌味タップリに言ってくるメタルとガーラント

 

新達どころか、英雄派まで『初代キング』を復活させる準備の囮に使われていた……

 

アザゼルが悔しげに言う

 

「クソッタレ……ッ!あのガキの計画はもうそこまで進んでたのかよ……ッ!」

 

「俺達まで囮に使われていたとは、見事に一杯食わされたな……」

 

曹操も嵌められた事に怒りの色を見せる

 

報告を終えたアドラス達が帰ろうとした矢先、ルフェイが前に出て言う

 

「あなた方もヴァーリ様の邪魔をするのですか?」

 

「邪魔ぁ?ヒャハハハッ!邪魔なのはてめぇらの方だろ?怪我しねぇ内に帰んな、クソガキ」

 

「ムッ、感じが悪い人達ですね。ゴッくん、お願い」

 

ルフェイはゴグマゴクに攻撃指示を出すと、ゴグマゴクは応じて巨大な拳を振り上げる

 

そこへ神風一派の1人、メタルが嬉々として前に出た

 

「ゴーレムか、面白そうだな。私が行こう」

 

「時間掛けんなよ」

 

「勿論さ!『装甲強化(アームド・アップ)壱式(レベルワン)』ッ!」

 

力強い台詞を発した直後、メタルの両腕が円錐状の装甲に強化される

 

前に飛び出し、迫り来るゴグマゴクの巨大な拳に強化された左手を突き出した

 

空を切る音と共に衝突音が響き――――メタルが拳打を思いっきり振り抜く

 

ゴグマゴクは後方に吹き飛び、大きな音を立てて倒れ込んだ

 

倒れたゴグマゴクにルフェイが駆け寄る

 

「――――ッ!ゴッくん!」

 

「嘘だろ!?あの巨体を一撃で吹っ飛ばした!?」

 

一誠はメタルの強さに驚愕、拳を振り抜いたメタルは首をコキコキ鳴らして不満げに漏らす

 

「意外に歯応えが無くて残念だな」

 

「ヒャハハハッ!大した事ねぇなぁ!こうなりゃオレ様達もデッケェ花火ぶっ放してやろうぜぇ!」

 

「それじゃ、あっしは『禍の団(カオス・ブリゲード)』にやりやすので、アドラスは悪魔どもにぶっ放してくだせぇ」

 

ガーラントが英雄派の方を向いて全身から邪悪なオーラを発する

 

「『拡散する蛇の群れ(オロチ・スプレッド)』ォッ!」

 

オーラが巨大な蛇の群れと化して英雄派に襲い掛かっていく

 

英雄派の連中は直ぐに飛び退いて攻撃を回避、蛇の群れは付近の家屋や地面を破壊した

 

「おーおー、派手にやってんなぁ!オレ様も行くぜぇっ!」

 

アドラスが新達の方を向き、2つの円盤を自身の前で円を描くように回転させる

 

次第に炎が噴き上がり、アドラスが濃密なオーラを発しながら回転する円盤の中心に勢い良く手を伸ばした

 

「サラマンダー・キャノォォォォォォンッ!」

 

ゴオオオオオオオオオオッ!

 

回転する円盤から大質量の熱光線が発射され、新達の方に向かっていく

 

熱光線の危険度を察知したアザゼルは「まずい!避けろォッ!」と叫んで横っ飛びした

 

一誠達も横っ飛び、新も直ぐに避けようとしたのだが――――ある事に気付いてしまった

 

自分の後ろに先程『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』で裸にして『暗黒捕食者(ダーク・グリード)』で捕らえた英雄派女子がいる……

 

動きを封じられている彼女達が逃げられる訳が無い……

 

新が避ければ彼女達は間違い無く死ぬ……

 

「――――ッ!……死なせてたまるかよッ!」

 

新は前方に『闇皇紋章(エンブレム)』を壁の如く多量に展開し、更に魔力を(うなが)

 

アドラスが発射した熱光線は『闇皇紋章(エンブレム)』の壁に衝突

 

膨大な熱量によって壁と新自身が焼かれていく……

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁあっ!ぐっ……!ぎ、オオオオオオォォォォォォオオオオオオオオオオオッ!」

 

痛みと熱さに絶叫する新、鎧も端々から崩壊していく

 

しかし、それでも新は魔力を最大限にまで上げて何とかアドラスの熱光線を相殺させた

 

闇皇紋章(エンブレム)』の壁が砕け散った直後、鎧も強制解除され、全身ボロボロの新は英雄派女子の所に歩み寄る

 

「……だ、大丈夫か……?」

 

「どうして、どうして私達の盾になったの……?私達は敵なのに……」

 

「関係ねぇよ……っ。俺は……殺されそうになってる女を、放っておけないだけだ……っ。例えそれが……敵でもな……」

 

『――――ッ』

 

新の行動と言葉に英雄派の女子は心を打たれ、頬を赤く染める

 

無茶を働いた新は血の塊を口から吐き出し、その場に倒れ込んだ

 

その姿に一誠達は絶句するが、アドラスは非情にも嘲笑(あざわら)

 

「ヒャハハハッ!見たかよ、今の!あいつ敵を庇ってぶっ倒れやがった!本物のバカだぜ!」

 

「……ッ!貴様ァッ!」

 

新を侮蔑するアドラスに怒り心頭のゼノヴィアが飛び出していくが、アドラスは2つの円盤を操ってゼノヴィアの剣戟を防ぎ、腹に円盤を激突させる

 

空中で攻撃をくらったゼノヴィアは地に転がり落ちる

 

アドラスは更に哄笑を上げて侮蔑した

 

「たかが1人殺ったぐらいでキレてんじゃねぇよ!ボケが!何ならいっそ、てめぇら纏めてブッ殺して――――あ?何だ、この霧は?」

 

周りを見渡していると、英雄派の1人が手元から霧を発生させていた

 

制服の上にローブを羽織った青年――――その男こそが『絶霧(ディメンション・ロスト)』の使い手だった

 

英雄派の全員と新を薄い霧で包み込み、曹操が霧の中から言う

 

「少々、乱入が多過ぎたか。――――が、祭りの始まりとしては上々だ。アザゼル総督!我々は今夜この京都と言う特異な力場と九尾の御大将を使い、二条城で1つ大きな実験をする!是非とも制止する為に我らの祭りに参加してくれ!」

 

楽しそうに宣言する曹操、英雄派、新の姿が徐々に見えなくなっていき、アドラス達も退き時かと悟って一誠達に宣告する

 

「おい、クソ悪魔ども!次は二条城って所で会おうぜ!『禍の団(カオス・ブリゲード)』もてめぇらも、オレ様達がブッ殺してやる!」

 

「戦いの時が来るまで、ゆっくりと体を休めておきたまえ」

 

「あっしらは一筋縄じゃありやせんからね。精々(せいぜい)頑張ってくだせぇ」

 

アドラス達は魔方陣の中へと沈み、その姿を消した

 

それと同時に全員の視界が霧に包まれる

 

「お前ら、空間が元に戻るぞ!攻撃を解除しておけ!」

 

アザゼルからの助言が飛び、一誠達は急いで攻撃態勢を解いた……

 

 

―――――――――――

 

 

一拍空けて霧が晴れた時、そこは観光客で溢れた渡月橋周辺だった

 

何事も無かったかの様に橋を往来していく

 

「おい、イッセー。どうした、すげー険しい顔になってんぞ?ってか、竜崎の奴いねぇじゃん。何処行った?」

 

一誠の顔を覗き込む松田が新の不在に気付く

 

一誠は「…………いや、何でもないよ。新は速攻でトイレに向かった」と誤魔化した

 

他のメンバーも表情が険しく、ルフェイとゴグマゴクの姿は何処にも無かった

 

恐らく霧が晴れたと同時に消えたのだろう

 

ガンッ!

 

アザゼルが電柱を横殴りしていた

 

「……ふざけた事を言いやがって……ッ!京都で実験だと……?舐めるなよ、若造が!」

 

「……母上。母上は何もしていないのに……どうして……」

 

マジギレするアザゼルに、体を震わせる九重

 

八坂だけでなく、新まで英雄派に捕まってしまった……

 

英雄派と神風一派の襲来、二条城での実験、そして『初代キング』の復活……

 

一誠達の修学旅行は思いがけない波乱の展開を迎えそうになっていた……


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。