ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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新年最初の投稿です!
皆さん、明けましておめでとうございます♪これからも宜しくお願いします♪


急襲、英雄派!

『はぁ……昨日は美味しい思いをしたな』

 

翌朝、新達はホテルを出て京都駅に向かっていた

 

新は昨夜の事を思い出しながら缶コーヒーを飲む

 

昨夜はゼノヴィアと交わり、イリナとは未遂で終わったものの天使のおっぱいを味わい、更にその後は裸のロスヴァイセと添い寝すると言う“リア充爆発しろ”並みの体験を済ませたのだ

 

一方、隣にいた一誠は何やら浮かない顔をしており、アーシアも一誠をチラチラ見ては顔を赤くしている

 

挙動不審ぶりにピンと来た新は一誠を呼んで詰め寄った

 

「一誠、アーシアとセッ○スしたのか?」

 

「ブゴプァッ!?」

 

新のストレート過ぎる問いに一誠の口から何かの塊が飛び出す

 

ゲホゲホと噎せる一誠は呼吸を整えてから喋る

 

「い、いきなり何を言い出すんだよ!?」

 

「明らかに挙動不審なんだよ、お前とアーシア。で、どうなんだ?ヤったのか?」

 

「い、いや……それが……」

 

先程より気落ちする一誠は話すかどうか迷ったが、性に関しては鋭い新相手じゃ隠し通せないと諦めて話す事にした

 

実は昨夜の就寝時間前、一誠の部屋にアーシアが遊びに来ていたのだが、その直後に松田と元浜がやって来た為――――思わずアーシアを連れて押し入れの中に隠れた

 

2人が部屋を出た後、アーシアが一誠の腕を掴み、次第に良いムードになって――――キスをした

 

自然にお互いの唇を重ね、一誠はアーシアの愛しさと大切さを痛感させられる……

 

その後、アーシアは大胆にも一誠を押し倒し、こう告げてきた

 

“私……イッセーさんの子供が欲しいです……っ”

 

いつも健気なアーシアの口から放たれた大胆な台詞に一誠は湯気を噴き出し、更にアーシアが直ぐ寝間着を脱いで裸になった事で多量の鼻血を噴射

 

空気が薄く狭い空間の中で裸のアーシアから子作り宣言されれば、一誠でなくともパニックに陥るだろう……

 

急展開に困惑する一誠はとりあえず押し入れから出た方が良いんじゃないかと考え、出ようとしたが……棚板に頭を思いっきりぶつけてしまう

 

その衝撃と鼻血による血液不足および酸欠で倒れてしまい――――アーシアに介抱されて終わりと言う結果になってしまったそうだ……

 

「……」

 

「アーシアに『子供が欲しい』と言われてドキッとしたし、嬉しかった……本当に感動したんだよ!……でも、何て言うか……俺は肝心な所で不甲斐無いよな……」

 

「あぁ、全くその通りだ」

 

新は呆れた顔でバッサリ吐き捨て、一誠も溜め息を吐く

 

「そこまで良い感じになったってのに、何で行かなかったんだよ?このまま甲斐性無しで終わっても良いのか?」

 

「それは自分でも分かってるよ。でも、あと1歩が踏み込めない……」

 

一誠にはまだ心の奥底で何かが邪魔しているのだろうか……?

 

その“何か”が一誠の心を縛り付け、アーシアとの発展を阻害しているのだろうか……?

 

新は探りを入れてやろうかと思ったが、これは一誠自身の問題、自分が首を突っ込んで世話するのは野暮

 

自分自身で解決しなければ意味が無いと(いさ)めて何も言わない事にした

 

新が一誠の肩を叩く

 

「この話題はもう良い、今は修学旅行を楽しめ。悩むのは向こうに帰ってからにしろ」

 

「そ、そうだな……。そうしよっか」

 

「おい、イッセー。竜崎と何を話し込んでたんだ?」

 

松田が一誠の顔を覗き込みながら訊いてくる

 

「いや、別に……。って、お前と元浜もすげー顔だよな……」

 

「あぁ、ただでさえブサイクな顔が更にブサイクになったな」

 

「うるせぇ、ほっとけ!」

 

「これは名誉の負傷だリア充め、()ぜろ」

 

一誠が言うように松田と元浜の顔は腫れ上がっており、絆創膏(ばんそうこう)だらけだった

 

2人は昨夜、女風呂を覗けるスポットとやらに行ったのだが……そこは既に生徒会――――シトリー眷属に押さえられていた

 

それでも突貫したらしく、ボコボコにされてこのザマ……

 

新と一誠は気を取り直して観光を再開、今日は嵐山方面に行く予定だ

 

一誠が「天龍寺までは?」と桐生に訊ねると、彼女は予定表を見ながら答える

 

「えーと、京都駅から嵐山方面行きに乗って、最寄りの駅で降りるわ。そこから徒歩で到着ね」

 

「了解。じゃあ、駅まで行くか。部長も言ってたけど、観光各所への移動はバスと電車なんだな」

 

「まあ、観光地はそんなもんだろ」

 

新達は京都駅で嵐山方面行きの電車に乗り、最寄り駅で降りた後は天龍寺まで徒歩

 

看板が出ているので迷う事無く到着した

 

大きな門を(くぐ)って境内を進み、受付で観光料金を払っていた時だった

 

「おおっ、お主達、来たようじゃな」

 

聞き覚えのある幼い声、振り返れば巫女装束姿の金髪少女――――九重が立っていた

 

獣耳と尻尾は一般人がいるので隠している

 

「九重か」

 

「うむ。約束通り、嵐山方面を観光案内してやろうと思うてな」

 

松田と元浜が九重を見て驚く

 

「はー、可愛い女の子だな。なんだイッセー、お前現地でこんなちっこい子をナンパしてたのか?」

 

「失敬だな、このハゲめ」

 

「……ちっこくて可愛いな……ハァハァ……」

 

「自重しろ!スターダスト変態ッ!」

 

ドゴッ!

 

危険な息遣いになっていた元浜を新が飛び膝蹴りで仕留める

 

一誠は密かに親指を立てるが、九重に抱き付く者がいた

 

「やーん!可愛い!何よ兵藤、何処で出会ったのよ?」

 

「は、離せ!馴れ馴れしいぞ、小娘め!」

 

「お姫様口調で嫌がるなんて最高だわ!キャラも完璧じゃないの!」

 

頬擦りしてくる桐生を九重は嫌がるが、桐生は一層喜んでいた

 

嘆息する新と一誠は桐生を引き離して話題を再開させる

 

「こちらは九重。俺やアーシア達のちょっとした知り合いなんだ」

 

「九重じゃ、よろしく頼むぞ」

 

一誠は改めて九重を紹介し、九重はえっへんと若干ふてぶてしい態度を取る

 

「あ、グレモリー先輩繋がり?それなら分かるかも。あのホテルだって先輩の親御さんが経営している会社と関係あるって話だし」

 

「ま、まあ、そんな所だ。それで九重、観光案内って何をしてくれるんだ?」

 

一誠が訊くと九重は胸を張って自信満々に答える

 

「私が一緒に名所へついて回ってやるぞ!」

 

「じゃあ、早速天龍寺を案内してくれよ」

 

「勿論じゃ!」

 

斯くして、九重の案内による名所巡りが始まった

 

 

――――――――――――

 

 

「いやー、回った回った」

 

そう言って息を吐くのは松田だった

 

新達は九重の薦めた湯豆腐屋で昼食を取っている

 

あの後、九重の案内で天龍寺を回って大方丈裏(だいほうじょううら)の庭園や雲龍図(うんりゅうず)を見た

 

それから二尊院(にそんいん)に竹林の道、常寂光寺(じょうじゃっこうじ)も見て回り、秋模様の嵐山は新達だけでなく観光に来ていた人々を魅了していた

 

「ほら、ここの湯豆腐は絶品じゃ」

 

九重が湯豆腐を掬って器に入れてくる

 

器に入れてもらった湯豆腐を食べる新達

 

「んー、美味いなー!」

 

「あぁ、やっぱり湯豆腐は出来立てが1番美味い。これで日本酒が飲めれば最高なんだけどな」

 

「新、お前学生なんだから少しは自重しろよ」

 

新と一誠が和気藹々(わきあいあい)と湯豆腐を堪能する中――――

 

「和の味がする。悪くない」

 

「はい、いつも食べているお豆腐とは違って風味が新鮮で美味しいです」

 

「お豆腐良いわよねぇ……」

 

ゼノヴィア、アーシア、イリナもご満悦の様子

 

ふと、新はイリナの方を見るが――――イリナは視線が合った途端に赤面してしまう

 

イリナは今朝から新と目が合う度にこんな調子なのだが、教会関係者で天使のイリナにとって昨夜の出来事は大事件

 

新は昨夜のイリナの可愛さを噛み締めながら湯豆腐を口に運ぶ

 

「あ、イッセーくん。新くん」

 

偶然隣の隣の席で昼食を取っていた祐斗に声を掛けられる

 

「おおっ、木場か。そういや、今日はお前の所も嵐山攻めるんだったな」

 

「うん。天龍寺行ってきたのかい?」

 

「ああ、見事な龍が天井にあったぜ」

 

「僕もこれから渡月橋(とげつきょう)を見てから午後は天龍寺に行こうとしていた所なんだ。楽しみだな」

 

「渡月橋か。俺達もこれ食べたら行く予定だ」

 

などと話していたら「秋の嵐山、風流なもんだぜ」と言う聞き覚えのある声が聞こえてきた

 

声の正体はアザゼルで、しかも昼間から日本酒を飲んでいた

 

「おう、お前ら、嵐山堪能しているか?」

 

「先生!先生も来てたんですか?って、教師が昼酒はいかんでしょう」

 

「そうだ。俺に寄越せ」

 

「新はもっとダメだろ!」

 

一誠が酒飲みの2人を非難していると「その通りです」とアザゼルの対面に座る女性――――ロスヴァイセが同意した

 

「その人、私が何度言ってもお酒を止めないんです。生徒の手前、そう言う態度は見せてはならないと再三言ってはいるのですが……」

 

「まあ、そう言うな。嵐山方面を調査した後でのちょっとした休憩だ」

 

どうやらアザゼルは嵐山で『禍の団(カオス・ブリゲード)』と闇人(やみびと)の調査をしていたようだ

 

「だがな、ロスヴァイセ。ちったぁ要領良くいかないとよ。そんなだから男の1人も出来ないんだぜ?」

 

アザゼルの一言にロスヴァイセは真っ赤になってテーブルを叩いた

 

「か、か、彼氏は関係無いでしょう!バカにしないでください!もう、あなたが飲むぐらいなら私が!」

 

ロスヴァイセがアザゼルの(さかずき)を奪って酒を飲み干す

 

見事な飲みっぷりを見せた直後――――

 

「ぷはー。……だいたいれすね、あなたはふだんからたいどがダメなんれすよ……」

 

「なっ!?酔っぱらった!?たった1杯の酒で!?」

 

新を始め、一誠も驚いてるのを他所にロスヴァイセは2杯めの酒を注ぎ、再び豪快に飲み干す

 

目が座っているロスヴァイセはアザゼルに絡み出した

 

「わらしはよっぱらっていやしないのれすよ。だいたいれすね、わらしはおーでぃんのクソジジイのおつきをしてるころから、おさけにつきあっていたりしててれすね。……だんだんおもいだしてたきた。あのジジイ、わらしがたっくさんくろうしてサポートしてあげたのに、やれ、おねえちゃんだ!やれ、さけだ!やれ、おっぱいだって!アホみたいなことをたびさきでいうんれすよ。もうろくしてんじゃないかってはなしれすよ!ヴァルハラのほかのぶしょのひとたちからはクソジジイのかいごヴァルキリーだなんていわれててれすね、やすいおきゅうきんでジジイのみのまわりのせわしてたんれすよ?そのせいれすよ!そのせいでかれしはできないし、かれしはできないし、かれしはできないんれすよぉぉぉぉぉぉぉ!うおおおおおおおおんっ!」

 

大号泣するロスヴァイセに新達はどうしたら良いのか分からず、アザゼルは頭をポリポリ掻きながら言う

 

「分かった分かった。お前の愚痴に付き合ってやるから、話してみな」

 

「ほんとうれすか?アザゼルせんせー、いがいにいいところあるじゃないれすか。てんいんさーん、おさけじゅっぽんついかでー」

 

ここまで酒癖の悪いロスヴァイセに「「まだ飲むの!?」」と揃って驚く新と一誠

 

アザゼルが溜め息混じりに言う

 

「お前ら、さっさと食って他に行け。ここは俺が受け持つから」

 

新達は顔を見合わせ、昼食を素早く済ませて店を後にした

 

店を出る寸前、酔ったロスヴァイセが「ひゃくえんショップ、サイコーれすよー!アハハハハ!」と爆笑してるのが聞こえた……

 

 

―――――――――――

 

 

「ロスヴァイセちゃん、凄い事になってたな」

 

「ああ、あれは相当酒癖が悪いぞ」

 

店を抜け出て渡月橋を前にした頃、松田と元浜もロスヴァイセの酒癖の悪さに若干引いており、桐生も頷いて同情していた

 

「きっとロスヴァイセちゃんも若いながらに苦労してんのよ。相手があのアザゼル先生じゃ、溜まったものをぶつけたくもなるわね」

 

『原因はアザゼル先生だけじゃないんだけどね……』

 

『元雇い主のオーディンも相当なエロジジイだったからな。確かヴァルハラじゃ、あのジジイの付き人になるまで窓際族だったって言うし……』

 

新と一誠がヒソヒソ話し合っていると「お主達の眷属は大変なのが多いのか?」と九重に訊かれてしまい、2人は「「……ちょ、ちょっとな」」と返すしかなかった

 

ロスヴァイセの話は一先(ひとま)ず置いておき、数分程観光街を歩くと桂川が姿を現す

 

歴史を感じさせる古風な木造に加え、赤々としている山の風景が秋を感じさせてくれる

 

「知ってる?渡月橋って渡りきるまで後ろを振り返っちゃいけないらしいわよ」

 

桐生がそう言ってくるとアーシアが聞き返す

 

「何でですか?」

 

「それはね、アーシア。渡月橋を渡っている時に振り返ると授かった知恵が全て返ってしまうらしいのよ。エロ3人組は振り返ったら終わりね。真の救いようの無いバカになるわ」

 

「「「うるせえよ!」」」

 

一誠、松田、元浜が異口同音に叫ぶ姿に新は爆笑、桐生は気にせず説明を続ける

 

「あともう1つ。振り返ると男女が別れるって言い伝えもあるそうね。まあ、こちらはジンクスに近いって話だけど――――」

 

「絶対に振り返りませんから!」

 

桐生の説明を遮ってアーシアが涙目で一誠の腕を掴む

 

「だ、大丈夫だよアーシア。言い伝えだって」

 

一誠がそう言うものの、アーシアは首を横に振って「絶対に嫌」と一誠の腕を強く掴んだ

 

何とも微笑ましい光景を見守る新――――すると、新の腕にも誰かがしがみついてきた

 

「ん?どうした、ゼノヴィア?」

 

「……私も振り返らないぞ……っ。新と別れるなんて絶対に嫌だ……っ」

 

プルプルと震える可愛らしいゼノヴィアに新は思わずプッと吹き出してしまう

 

そんな調子で渡月橋を渡っていると、少し前方に祐斗の班もいた

 

渡っている最中、アーシアとゼノヴィアは(かたく)なに振り返る素振りを見せない

 

「クソ。イッセーとアーシアちゃん、もろカップルじゃないか……!」

 

「悔しいところだが、あれは既にバカップルの領域に入りつつあると思うぞ」

 

「竜崎はもう()ぜてしまえば良いのに……!」

 

「それだけじゃ物足りん。豚の餌にでもしてやりたいぐらいだ」

 

「お前ら、ここを渡りきったら殺すから覚えておけよ?」

 

背後で野次を飛ばしてくる松田と元浜にドスの効いた脅しを掛ける新

 

一誠もバカップルと呼ばれ殴ってやりたい衝動に駆られるが、アーシアの為にここは我慢する

 

「気にせんで良いと思うのじゃが……。男女の話は噂に過ぎんのじゃ」

 

九重もそう言う中、渡月橋を無事に渡りきって反対岸に到着

 

アーシアとゼノヴィアは大きく息を吐いて落ち着いたようだが、帰りもここを渡らなければならない

 

反対側はどう攻略していくのか、そんな風に周りを一望したその時――――突如、ぬるりと生暖かい感触が新達を包み込んでいった……

 

 

―――――――――――

 

 

「……何だ、今のは……?」

 

新が(いぶか)しく思って周囲を見渡すと――――自分と一誠、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、九重、そして離れた位置にいる祐斗しか周辺に人がいなかった

 

松田、元浜、桐生、更に他の観光客もまるっきりいない

 

突然の現象に全員が驚き身構える

 

少ししてから新達の足下に霧が立ち込めてくる

 

「――――この霧は」

 

霧を見て驚くアーシア

 

「……この感じ、間違いありません。私がディオドラさんに捕まった時、神殿の奥で私はこの霧に包まれてあの装置に囚われたんです」

 

「――――『絶霧(ディメンション・ロスト)』」

 

祐斗が新達の方に歩み寄りながらそう言いつつ、その場で(かが)んで足下の霧を触る

 

神滅具(ロンギヌス)の1つだった筈だよ。先生やディオドラ・アスタロトがそれについて話していただろう?恐らく、これが……」

 

「お前ら、無事か?」

 

空からの声、見上げるとアザゼルが黒い翼を羽ばたかせて飛んで来た

 

新達のいる所に降り立つと翼をしまいながら言う

 

「俺達以外の存在はこの周辺からキレイさっぱり消えちまってる。俺達だけ別空間に強制的に転移させられて閉じ込められたと思って間違い無いだろう。……この様子だと、渡月橋と全く同じ風景をトレースして作り出した別空間に転移させたのか?」

 

「ここを形作っているのは悪魔の作るゲームフィールドの空間と同じ物ですか?」

 

レーティングゲームのフィールドと酷似しているように思えてならない一誠はアザゼルに訊く

 

「ああ、三大勢力の技術は流れているだろうからな。これはゲームフィールドの作り方を応用したんだろう。――――で、霧の力でこのトレースフィールドに転移させたと言う訳だ。『絶霧(ディメンション・ロスト)』の霧は包み込んだ物を他の場所に転移させる事が出来るからな。……(ほとん)どアクション無しで俺とリアスの眷属を全員転移させるとは……。神滅具(ロンギヌス)はこれだから怖いもんだぜ」

 

アザゼルの説明の後、九重が震える声で口を開く

 

「……亡くなった母上の護衛が死ぬ間際に口にしておった。気付いた時には霧に包まれていた、と」

 

「おい、早速来たようだぜ。例の奴らが」

 

新がそう言って視線を渡月橋に向けると、渡月橋の方から複数の気配が現れる

 

薄い霧の中から人影が幾つも近付いてきて姿を現す

 

「初めまして、アザゼル総督、そして赤龍帝(せきりゅうてい)闇皇(やみおう)

 

挨拶してきたのは学生服を着た黒髪の青年で、学生服の上から漢服(かんふく)を羽織っていた

 

見た目だけなら新や一誠と1つか2つぐらいしか変わらない

 

青年の手には槍が握られていたが――――槍からは不気味なオーラが出ている……

 

その男の周囲には似たような学生服を着た若い男女が複数人いる

 

悪魔やドラゴン、闇人(やみびと)とはまた違った異様なプレッシャーを放っている

 

「お前が噂の英雄派を仕切ってる男か」

 

アザゼルが1歩前に出て訊くと、中心の青年が肩に槍の柄をトントンと乗せながら答えた

 

曹操(そうそう)と名乗っている。三国志で有名な曹操の子孫、一応ね」

 

「曹操……魏武帝(ぎぶてい)、魏の奸雄(かんゆう)と言われた曹孟徳(そうもうとく)か」

 

新も曹操についての基礎知識を口走り、仰天する一誠がアザゼルに訊ねる

 

「先生、あいつは……?」

 

「全員、あの男の持つ槍には絶対に気を付けろ。最強の神滅具(ロンギヌス)黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』だ。神をも貫く絶対の神器(セイクリッド・ギア)とされている。神滅具(ロンギヌス)の代名詞になった原物。俺も見るのは久し振りだが……よりにもよって現在の使い手がテロリストとはな」

 

『――――ッ!?』

 

アザゼルの言葉に全員が酷く狼狽し、曹操の持つ聖槍(せいそう)に驚きの視線を向けた

 

「あれが天界のセラフの方々が恐れている聖槍(せいそう)……っ!」

 

「私も幼い頃から教え込まれたよ。イエスを貫いた槍。イエスの血で濡れた槍。――――神を貫ける絶対の槍っ!」

 

イリナが口元を震わせながら言い、ゼノヴィアも低い声で続ける

 

彼女達教会関係者からしてみれば『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』はまさに究極の存在はと言っても過言ではない

 

「あれが聖槍……」

 

一誠の隣にいるアーシアが虚ろな双眸(そうぼう)で槍を見つめていた

 

まるで槍に魅了され、意識をが吸い込まれていくように……

 

そこへアザゼルが素早くアーシアの両目を手で隠した

 

「アーシア。信仰のある者はあの槍をあまり強く見つめるな。心を持っていかれるぞ。聖十字架(せいじゅうじか)聖杯(せいはい)聖骸布(せいがいふ)聖釘(せいてい)と並ぶ聖遺物(レリック)の1つでもあるからな」

 

九重が憤怒の形相で槍を持つ青年――――曹操に叫ぶ

 

「貴様!1つ訊くぞ!」

 

「これはこれは小さな姫君(ひめぎみ)。何でしょう?この私ごときで宜しければ、何なりとお答えしましょう」

 

曹操の声音は平然としているが、明らかに何かを知っている様な口調だった

 

「母上をさらったのはお主達か!」

 

「左様で」

 

あっさりと認める曹操、やはり『禍の団(カオス・ブリゲード)』の仕業だったようだ

 

「母上をどうするつもりじゃ!」

 

「お母上には我々の実験にお付き合いしていただくのですよ」

 

「実験?お主達、何を考えておる!?」

 

「スポンサーの要望を叶える為、と言うのが建前かな」

 

それを聞いて九重は歯を剥き出しにして激怒、目にはうっすらと涙を溜めている

 

母親をさらわれた挙げ句、実験の材料にされそうになっているのだから無理もない

 

「スポンサー……?オーフィスの事か?それで突然こちらに顔を見せたのはどういう事だ?」

 

アザゼルが問い詰める

 

「いえ、隠れる必要も無くなったもので実験の前に挨拶と共に少し手合わせをしておこうと思いましてね。俺もアザゼル総督と噂の赤龍帝(せきりゅうてい)殿と闇皇(やみおう)殿にお会いしたかったのですよ。それともう1つ目的があるんだ」

 

そう言って曹操は視線を新に向け、それに気付いた新が“俺?”と言った感じで自分を指差す

 

「その通り。竜崎新、君もある意味英雄の子孫と言っても過言ではない。竜崎総司(りゅうざきそうじ)――――悪魔、天使、堕天使と共闘したとはいえ、最凶最悪の魔族・闇人(やみびと)の『初代キング』を封じ込めた唯一の人間。我々英雄派の中でその行為を讃える者が多い上にリクエストも絶えない。なので、彼の子孫である竜崎新の身柄を確保するのも今回出てきた目的の1つさ」

 

「新が英雄の子孫!?」

 

今まで知らなかった事実に一誠も他の仲間も驚きを隠せず、アザゼルは顎に手を当てて考察する

 

「なるほどな。確かにあいつは英雄と言われても相違無い。英雄派の奴らが竜崎総司の子孫たる新を狙うのも合点がいく。親父さんのお陰で偉い奴らに目をつけられちまったもんだな、新」

 

「ったく、良い迷惑だぜ」

 

舌打ちする新は曹操に指を突きつけて言い放った

 

「悪いが俺はテロリストの仲間入りなんざ御免(こうむ)るぜ」

 

「ハハッ、やっぱそうだよな。分かりやすいぜお前。そう言う事だ、英雄派。九尾の御大将を返してもらおうか。こちとら妖怪との協力提携を成功させたいんでね」

 

アザゼルが手元に光の槍を出現させ、新達も戦闘態勢に入る

 

新は闇皇(やみおう)に変異し、一誠は禁手(バランス・ブレイカー)のカウントを始めてから取り出したアスカロンをゼノヴィアに渡す

 

アスカロンを受け取ったゼノヴィアは前方に出た

 

ここで新はロスヴァイセがいない事に気付く

 

「アザゼル、ロスヴァイセはどうした?」

 

新の問いにアザゼルは嘆息する

 

「あいつもこちらに転移してるが、店で酔い潰れて寝てる。一応強固な結界をあいつに張っておいたから早々酷い事にはならんだろう」

 

「そ、そうか……」

 

新達が構えても英雄派は一向に構える様子を見せない

 

すると、曹操の横に小さな男児が並び、曹操がその男児に話し掛けた

 

「レオナルド、悪魔用のアンチモンスターを頼む」

 

男児は無表情で小さく頷く

 

その直後、男児の足下に不気味な影が現れて広がっていく

 

影は更に渡月橋全域に至るまで広がり、その影が盛り上がって形を成していく

 

腕、足、頭が形成されていき、目玉が生まれて口が大きく裂けた

 

その数はざっと100以上……

 

「ギュ」

 

「ギャッ!」

 

「ゴガッ!」

 

耳障りな声を発して現れた黒ずくめのモンスター軍団

 

二足で立ち、肉厚な全身に鋭い牙と爪を持っていた

 

生唾を飲み込みながら驚愕していると、アザゼルがぼそりと呟いた

 

「――――『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』か」

 

アザゼルの言葉に曹操が笑みを見せる

 

「ご名答。そう、その子が持つ神器(セイクリッド・ギア)は『神滅具(ロンギヌス)』の1つ。俺が持つ『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』とは別の意味で危険視されし、最悪の神器(セイクリッド・ギア)だ」

 

またしても現れた神滅具(ロンギヌス)所有者……

 

自分のとヴァーリのしか知らない一誠は頭がパンクしそうになる

 

カウントが終わった所で禁手化(バランス・ブレイク)、赤いオーラが鎧を形成させた

 

「せ、先生、何がなんだか……」

 

混乱する一誠にアザゼルが説明を始める

 

「あの男児が持っている神器(セイクリッド・ギア)はお前のと同じ『神滅具(ロンギヌス)』だ。神滅具(ロンギヌス)は現時点で確認されているもので13――――。グリゴリにも神滅具(ロンギヌス)の協力者がいるが……。その神滅具(ロンギヌス)の中でもあの神器(セイクリッド・ギア)は性質――――能力が『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』や『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』よりも凶悪なんだよ」

 

「それは一誠のよりも強いって事か?」

 

「直接的な威力ならイッセーとヴァーリの神器(セイクリッド・ギア)の方が遥かに上だ。ただ、能力がな……。木場の『魔剣創造(ソード・バース)』、あれは如何なる魔剣も創り出せる能力だった。それは分かるな?」

 

「は、はい」

 

「『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』がそれと同様だ。如何なる魔獣をも創り出す事が出来る。例えば、怪獣映画に出てくるような全長100メートル、口から火炎を吐く怪物。それを自分の意志でこの世に生み出す事も出来る。自分の想像力で好きな怪物を生み出せるとしたら、最悪極まりないだろう?そう言う能力だ。使い手次第じゃ、一気にそんなバケモノを数十、数百の規模で創り出せるんだよ。『絶霧(ディメンション・ロスト)』と並ぶ、神器(セイクリッド・ギア)システムのバグが生んだ最悪の結果とも言われている。『絶霧(ディメンション・ロスト)』も能力者次第では危険極まりない。霧を国家規模に発生させて、国民全てを別空間――――次元の狭間辺りに送り込めば一瞬で国を1つ滅ぼすなんて事も可能だろうからな」

 

「そ、それってどっちも世界的にヤバい神器(セイクリッド・ギア)じゃないですか!」

 

仰天する一誠の言葉にアザゼルも苦笑する

 

「まあ、今の所どちらもそこまでの事件は前例が無い。何度か危ない時代はあったけどな。しかし、『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』、『絶霧(ディメンション・ロスト)』、『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』。……神滅具(ロンギヌス)の上位クラス4つの内、3つも保有か。それらの所有者は本来、生まれた瞬間に俺の所か、天界か、悪魔サイドが監視態勢に入るんだが……。20年弱、俺達が気付かずにいたってのか……。それとも誰かが故意に隠したのか……。確かに過去の神滅具(ロンギヌス)所有者に比べると、現所有者はほぼ全員、発見に難航している面が目立つな」

 

アザゼルは一誠の方に視線を移す

 

確かに一誠も当初は「危ない神器(セイクリッド・ギア)を持っているから殺す」→「実は違った」→「いや、やっぱり神滅具(ロンギヌス)所有者だった」と言った感じで何度も評価が(くつがえ)った

 

アザゼルの呟きは続く

 

「……何か、現世に限って因果関係があるのか?元々の神滅具(ロンギヌス)自体が神器(セイクリッド・ギア)システムのバグ、エラーの(たぐい)と言われているからな……。ここに来てそれらの因果律が所有者を含めて独自のうねりを見せて、俺達の予想の外側に行ったとかか?それは勘弁願いたい所だが……、イッセーの成長を見ていると現世の神滅具(ロンギヌス)全体に変調が起き始めていると感じてしまっても不思議は無いな……。バグ、エラーの変化、いや、進化か?どちらにしろ、神器(セイクリッド・ギア)研究や神器(セイクリッド・ギア)システムを司っているわりに俺も含め、お互い甘いよな、ミカエル、サーゼクス」

 

「先生、その凶悪神器(セイクリッド・ギア)の弱点は?」

 

「本体狙いだ。――――まあ、本人自体が強い場合もあるが、神器(セイクリッド・ギア)の凶悪さ程じゃないだろう。それに『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』は現所有者がまだ成長段階であろうってのも大きい。やれるならとっくに各勢力の拠点に怪獣クラスを送り込めている筈だからな」

 

「倒すなら成長しきってない今って事か。とにかく出てくるアンチモンスターとやらを全部潰していけば良いんだろ」

 

新はコキコキと指や手、首を鳴らし、アザゼルの言葉を聞いた曹操は苦笑していた

 

「あららら。何となく『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』を把握された感があるな。その通りですよ、堕天使の総督殿。この子はまだそこまでの生産力と想像力は無い。――――ただ、1つの方面には大変優れていましてね。相手の弱点を突く魔物――――アンチモンスターを生み出す力に特化しているんだな、これが。今出したモンスターは対悪魔用のアンチモンスターだ」

 

曹操が手をフィールドに存在する店の1つに向けると、アンチモンスターの1匹が口を大きく開けて一条の光――――光線を放った

 

その瞬間、店が吹き飛んで強烈な爆風を巻き起こす

 

「光の攻撃――――。こいつは!」

 

爆風の中、アザゼルが叫んだ

 

「曹操、貴様!各陣営の主要機関に刺客を送ってきたのは俺達のアンチモンスターを創り出すデータも揃える為か!」

 

「半分正解かな。送り込んだ神器(セイクリッド・ギア)所有者と共に黒い兵隊もいただろう?あれはこの子が創った魔物だ。あれを通じて各陣営、天使、堕天使、悪魔、ドラゴン、各神話の神々の攻撃を敢えて受け続けた。雑魚一掃の為に強力な攻撃も食らったが、お陰でこの子の神器(セイクリッド・ギア)にとって有益な情報を得られた」

 

「あの黒いバケモノはデータ収集の為の囮だったって事か」

 

禁手(バランス・ブレイカー)を増やしつつ、アンチモンスターの構築も(おこな)った。お陰で悪魔、天使、ドラゴンなど、メジャーな存在のアンチモンスターは創れるようになった。――――悪魔のアンチモンスターが最大で放てる光は中級天使の光力に匹敵する」

 

今まで英雄派が小規模な攻撃を仕掛けてきたのは神器(セイクリッド・ギア)所有者の禁手(バランス・ブレイカー)使いを増やすのと同時にアンチモンスターを創り出す為のデータ収集

 

用意周到で計算高い……

 

憎々しげに睨むアザゼルだが、一転して笑みを作り出した

 

「だが、曹操。神殺しの魔物だけは創り出せていないようだな?」

 

「…………」

 

アザゼルの一言に曹操は反論しない

 

一誠が「どうして分かるんですか?」と訊くとアザゼルはニヤけながら答える

 

「やれるならとっくにやってる。こうやって俺達に差し向けてくるぐらいはな。各陣営に同時攻撃が出来た連中がそれを試さない訳が無い。それに各神話の神が殺されたら、この世界に影響が出てもおかしくないものな。――――まだ、神殺しの魔物は生み出せていない。これが分かっただけでも収穫はデカい。恐らく、闇人《やみびと》のアンチモンスターも現段階では創り出せていないだろう。闇人(やみびと)は現時点じゃ数が少ないから、データを集めにくいんだろうな」

 

「つまり、対神用のアンチモンスターと対闇人(やみびと)用のアンチモンスターはいないって事だ」

 

「な、なるほど!あ、でもいるよね。神殺しの魔物なら」

 

新と一誠の脳裏に神殺しの魔物――――『神喰狼(フェンリル)』が(よぎ)る……

 

曹操は槍の切っ先を新達に向けた

 

「神はこの槍で(ほふ)るさ。さ、戦闘だ。――――始めよう」

 

それが開戦の合図となった――――!




遂に来た英雄派!次回はもっともっと大混戦な展開にしたいと思います!

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