ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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修学旅行、いざ京都へ!

新幹線が東京駅を出発してから10分ぐらい経過した頃、ウキウキした表情で松田が「俺、実は新幹線初めてなんだよな!」と前の席で呟いていた

 

松田と元浜は以前、幽神(ゆうがみ)兄弟に手酷く痛めつけられ、グリゴリ経営の病院に搬送されたのだが……卓越した治療技術で既に完治していた

 

ただし、幽神(ゆうがみ)兄弟に関する記憶を少々改竄(かいざん)――――幽神(ゆうがみ)兄弟が神器(セイクリッド・ギア)持ちの賞金首である事は伏せられた

 

新は車両の1番後ろの席に座っており、一誠は松田と元浜の後ろの席で、身を乗り出して談笑している

 

新の隣には誰もおらず、ゼノヴィアとイリナは通路を挟んだ向こう側にいる

 

京都までまだ時間があるので一眠りしようかと席を傾ける直前、ゼノヴィアがこちらに近付いて隣の席へ座った

 

「新、先に言っておきたい事があるんだ」

 

「何だよ」

 

「今、私はデュランダルを持っていない。――――丸腰だ」

 

「デュランダルを持っていない?何でだ?」

 

「うん。なんでも正教会に属している錬金術師がデュランダルの攻撃的なオーラを抑える術を見つけたらしくてね。天界経由であちらに送ったんだ」

 

正教会とはキリスト教会の派閥の1つで、エクスカリバー強奪事件の際には協力してくれなかった

 

ゼノヴィアが皮肉げに笑む

 

「あの正教会が協力的になってくれたとはね。恐らくミカエル様を始めセラフの方々の口添えがあったのだとは思うが、それでもあそこの錬金術師に鍛え直してもらえるのならば、これ程の機会も無いと感じたんだ」

 

「例の協力態勢から派閥間も(せば)まったって事か。頭が固い老害共も流石にミカエル様の意見には逆らえないよな」

 

「聖剣の能力を下げずに攻撃的なオーラだけを抑える術。実に興味深いところだね。……まあ、持ち主である私が未だに抑えられないと言う不甲斐なさが際立つわけだが……。これで『騎士(ナイト)』とは何とも情けない……。私は死んだ方がマシか……?ああ、主よ」

 

「自虐に走るのも大概にしとけよ。何か遭ったら一誠からアスカロンを借りれば良いじゃねぇか」

 

「うん、そうだね」

 

やり取りを終えてゼノヴィアは元の席に戻っていき、新は瞑目して眠りの体勢についた

 

その寸前で一誠が祐斗と何か話している声が聞こえてくるが、眠気が僅かに(まさ)って新の意識をブラックアウトさせた

 

 

――――――――――

 

 

「……ん?何だ……?また意識の中へダイブしちまったのか」

 

真っ暗な空間の中で佇む新

 

そこは以前『初代キング』が進言してきたのと同じ状況下だった

 

“また来るのか?”と辺りを警戒していると、新の直ぐ近くを徘徊する火の玉から声が発せられる……

 

『ごきげんよう、現闇皇(やみおう)くん』

 

「その声……っ!まさか……伊坂か!?何でお前が!?」

 

『おやおや、自分で喰らっておきながら忘れるとは感心しないな』

 

なんと火の玉の正体は新が飛ばされたフロニャルドで対峙した闇人(やみびと)――――魔剣将官(まけんしょうかん)と呼ばれた伊坂威月(いさかいづき)だった……

 

伊坂は新の猛攻で大打撃を受けた末、『暗黒捕食者(ダーク・グリード)』によって新の鎧と体内に封じ込められた

 

その伊坂が新の意識の中に現れている……

 

「テメェ、完全にくたばったと思ってたのに……まだ何か企んでやがるのか?」

 

『そう睨まないでくれ。今の私ではどうする事も出来んよ。「初代キング」と同じで肉体を失い、魂だけの存在になっているのでね』

 

「……で、俺の意識の中に出てきた目的は何なんだ?」

 

新が(いぶか)しげに訊くと伊坂は意味深な含み笑いをしてから言う

 

『単純に君に興味が湧いてきたのだよ。破壊と殺戮、支配欲を象徴とする「闇皇(やみおう)の鎧」を宿して自我を維持していられるのは君が初めてだ。過去に君の父親――――竜崎総司(りゅうざきそうじ)は「初代クイーン」から鎧を奪い、三つ巴の大戦時に我々と対抗してはいたが……彼はまだまだ(いびつ)な感じだったよ。……どうやら君には自分でも想像がつかない程の潜在能力があるのかもしれんな。それがいったいどう言った物なのかは見当も付かないがね』

 

「俺の潜在能力……?」

 

『まあ、何にせよ今の君には規格外の力を発現させても問題は無いと言う事だ。これから先の戦いは過酷さと苛烈さを増していくだろう。その中でも君は凄いスピードで成長を遂げている。普通ならばあり得ない程のね。私としてはこうなった以上、途中で君に死滅してもらう訳にはいかない。私の力も使うと良い。それが同族の力をも奪う「闇皇(やみおう)の鎧」の本質だからね』

 

伊坂がそう言い残した瞬間、火の玉は鳥の様な形となって蒼い輝きを発した……

 

 

――――――――――――

 

 

ハッと目を覚ますと、新幹線の中だった

 

今さっきのやり取りで何か変わった事は無いかと思い、人目が付かないように籠手を具現させてみる

 

―――発現させた右籠手には鳥の羽の如き意匠が加わっていた―――

 

「あの野郎、何のつもりだ……?」

 

疑問を口ずさんでいると前の席で「う、うおおおおっ!おっぱい!」と松田の叫ぶ声が耳に入ってくる

 

“あのハゲ、遂に薬物にでも手を出したか?”と容赦無く毒づく新が立ち上がってみると……松田が隣の席にいる元浜とじゃれている光景を目撃してしまった

 

「うわっ!松田!何をする!俺の乳を揉んで何が楽しい!」

 

「はっ!俺はいったい何を……。急に乳を求め出して……それで……」

 

「松田、お前そこまでおっぱい欠乏症にかかって……。よし、今夜ホテルの部屋でエロDVD観賞会をしよう!機材は全て荷物に積んである!」

 

その話を聞いて一誠も「マジか!」と身を乗り出していた

 

「おおっ!イッセー!それでこそだ!よーし!この日の為に入手した『桃色爆乳景色(ももいろばくにゅうげしき)・金閣寺』と『肌色巨乳模様(はだいろきょにゅうもよう)・銀閣寺』を見ようぜ!」

 

「「おおっ!」」

 

一誠と松田は元浜の言葉に大きく返事をし、クラス女子からは「死ねエロ3人組!」「新幹線の中までキモい!」などと罵られていた

 

「俺はあの作品、10歳の時に見たな……」

 

 

――――――――――

 

 

『間もなく京都に到着致します』

 

到着のアナウンスが流れ、新幹線が駅のホームに停車

 

新達は荷物を持ってそのまま外へ出て、桐生の先導で改札口まで移動して(くぐ)っていく

 

「おおっ!広いなー!」

 

「見ろ、アーシア!()(たん)だ!」

 

「は、はい、ゼノヴィアさん!伊○丹です!」

 

興奮気味のゼノヴィアとアーシアはあれこれと指を差して反応し合っており、イリナも「天界にもこんな素敵な駅が欲しいわ!」と違う目線で興味津々となっていた

 

「集合場所はホテル1階ホールだったわね。ほーら、男子ぃ、あとアーシア、ゼノヴィアっち、イリナさんも駅に夢中になるのも良いけど、さっさと集まらないと午後の自由時間無くなるわよ!はい、竜崎も缶コーヒー飲んで集合ー!」

 

「ふわぁ……あぁ、分かってる」

 

班の纏め役である桐生に声を掛けられ、飲み干した缶コーヒーをゴミ箱に捨てて集合する

 

全員が集まった所で桐生はしおりを出して位置を確認していた

 

「えーと、ホテルは駅周辺なのよね……。今出てきたのが西改札口だから……バス停方面に出て、右方向に動きながら……」

 

「とりあえず、外出ようぜぇ。いつまでも駅ん中じゃ前に進めねぇし」

 

「松田、知らない土地で迷ったら大変なのよ。1人の判断ミスで容易に戦死者が出るわ」

 

「ここは戦場かよ!」

 

「いや、松田。桐生の意見は正しい。チームワークは大切だ。ここはボスの桐生に任せよう。京都は既に私達に牙を向いているかもしれない」

 

「お前らノリノリだな……」

 

桐生とゼノヴィアの説得力ある凄みに新は頭を掻いて欠伸をする

 

駅内で「キャー!痴漢!」などと女性の悲鳴が聞こえ、男性が「お、おっぱいを……!」と痴漢行為した挙げ句、周りにいた男性達に取り押さえられている光景があった

 

「京都も物騒だな」

 

「ああ、元浜。何処にでも変態はいるもんだな」

 

「俺の前にもいるぞ。変態とハゲの変態とメガネの変態がな」

 

「何だと竜崎!?俺達よりも変態のくせに!」

 

「モテる男の余裕かチクショウ!今に見てろよ!」

 

「新!さらっと俺も仲間入りさせんな!否定はしないけど」

 

「よし、把握!いざ行かん!」

 

桐生の先導のもと、新達は京都駅を出て古都へと歩み出した

 

京都駅に着いて、そこから数分歩いたところに大きな高級ホテルが見えた

 

その名も「京都サーゼクスホテル」……

 

少し離れたところには「京都セラフォルーホテル」が建っている

 

入り口に立つボーイに学生証を見せ、ホールまで案内された

 

きらびやかで豪華絢爛な造りのロビーを見て、松田、元浜、桐生は圧倒される

 

クラス全員がホールの床に座り、先生達の注意事項に耳を傾ける

 

「百円均一のショップは京都駅の地下ショッピングセンターにあります。何か足りないものがあったら、そこで済ませるように。お小遣いは計画的に使わないとダメです。学生の内から豪快なお金の使い方をしてもロクでもない大人になるだけですよ。お金は天下の回り物。あれやこれやと使っていたらすぐに無くなります。だからこそ100円で済ませなさい。――――百均は日本の宝です」

 

ロスヴァイセが生徒達に百均ショップを熱く語っている

 

ロスヴァイセは教師に就任してすぐに生徒からの人気を得て、更に歳が近いため「ロスヴァイセちゃん」と親しみを込めて呼ばれていたりする

 

前に立つ教師の最終確認が終わり、生徒達が従業員から部屋のキーを受け取っていく

 

新も自分の部屋のキーを取りに行こうとした矢先、アザゼルに呼び止められた

 

「新、お前の部屋なんだが」

 

「何だ?聞いた話じゃ一誠は一人部屋らしいな。しかも、ボロボロの和室。まさか同室って訳じゃねぇだろうな?」

 

「いや、そうじゃない。お前だけ部屋無しになっちまった」

 

「同室より酷い結果で返された!?部屋無し!?何でだよ!」

 

「いやー、旅行資金の遣り繰りが災いしちまったのかなー?」

 

わざとらしい態度に舌打ちをしていると、アザゼルの(ふところ)から何かがはみ出しているのが見えた

 

新は直ぐにはみ出した何かを取り出してみる

 

それは元浜が先程新幹線の中で叫んでいたタイトルのエロDVDだった……

 

「……なるほど、そう言う事か」

 

「あ、バレた?悪いな。この作品はまだ見てなかったもんでつい」

 

「……ちょっと殺ってくる」

 

「おーい、せっかくの修学旅行なんだ。流血沙汰は程々になー?」

 

アザゼルの勧告を無視して新は松田と元浜の首根っこを掴み、人気(ひとけ)の少ない非常階段に連れていく

 

「な、何だ竜崎!俺達が何をしたって言うんだ!?」

 

「しらばっくれんな。もうネタは上がってんだよ」

 

「遂に気付いたか……。だが、勘違いするな。これはな、お前に対する嫌がらせではない。俺達の大願を成就させる為に仕方無く(おこな)った適切な措置なのだ」

 

「言い訳はお前らを殺してから聞いてやる」

 

一誠は止めようとしたが時既に遅し……松田と元浜は非常階段の奥に連れていかれた

 

その直後、一誠の携帯が鳴って画面を確認すると……2通のメールが来ていた

 

Message from 松田『たすてけ』

 

Message from 元浜『たそけて』

 

「……うん、あいつら『助けて』って打ちたかったんだろうな……」

 

一誠は悲哀に満ちた表情で携帯を閉じてから自分の部屋に足を運び、数秒後に新が非常階段から戻ってくる

 

彼の顔には返り血らしき物が頬や額に付着しており、ポケットティッシュで拭き取っていた

 

「ったく、修学旅行ぐらいバカな真似を控えろっての。さて……部屋無し状態をどうするか。俺だけ別のホテルに泊まるってのもな……」

 

「新さん」

 

どうするか考え込んでいるとロスヴァイセに呼び止められた

 

「何だロスヴァイセ?何か用か?」

 

「はい、先程アザゼル教諭からお話は聞きました。こちらの手違いでお部屋が無いそうですね?」

 

「そうなんだよ。とあるバカ2人のせいでな。んで、仕方ねぇから自腹で一人部屋借りようと――――」

 

「いいえ!無駄遣いはいけません!さっき言ったばかりですよ!そう言う無駄遣いを繰り返しているとロクでもない大人になってしまうんです!」

 

「じゃあ、どうすれば良いんだよ?」

 

「無駄遣いさせない為にも……新さんは私と同室していただきます!」

 

新は一瞬理解出来なかった

 

普段も同じ家に住んでると言うのに、旅行先でも何故?と言う心境だった

 

ロスヴァイセが続けて言う

 

「一人部屋だと……あなたは"絶対"部屋を抜け出して他の女生徒を襲うと考えたのです」

 

「"絶対"を強調してハッキリ言いやがるな……ッ」

 

「それだけじゃありません!新さんが一人部屋なのを良い事に、ゼノヴィアさんが夜這いに行くかもしれない可能性だってあります。ですから教師として、責任を持って私が新さんを監視します」

 

「あ〜……確かにあり得るな。昨日の夜だってそうだ。あいつのキス、今までで1番激しかったぜ……どういう訳か、朱乃と同じ様に魔力を込めてやがった」

 

そのお陰で朝、少し唇が痛かったとか何とか……

 

「あ、新さんとチュー……ハッ!で、ですから!女生徒達の貞操を守るため、ゼノヴィアさんの夜這いを阻止するために、新さんは私と同じ部屋と言う事です!異論はありませんね!?」

 

慌てて弁論するロスヴァイセに、新は頭を掻きながら答えた

 

「ん〜、まぁ良いけどよ。美人の女教師と相部屋なんて滅多にねぇ状況だからな。喜んで」

 

答えを聞いた瞬間、ロスヴァイセの表情が明るくなった

 

その様子を見ていた村山、片瀬、桐生含める女子生徒数名から黄色い声が飛び交う

 

「ロスヴァイセちゃんが竜崎くんとあんなに親しく話してる!」

 

「まさか、付き合ってるの!?教師と生徒のイケナイ恋愛!?」

 

「竜崎もやるわね~。後輩、同学年、先輩の次は新任教師のロスヴァイセちゃんだなんて」

 

「兵藤×木場きゅん×竜崎くんも売れ筋だけど……新作は竜崎くん×ロスヴァイセちゃんに決まりね!」

 

「近い内に結婚とかしちゃうかも!」

 

新はこの黄色い歓声をとりあえず聞き流す事にした……

 

「新さんと結婚……新さんと結婚……」

 

 

――――――――――

 

 

「おーっ、見ろ、アーシア、イリナ。珍しいものがたくさん店頭に並んでいるぞ」

 

「わー、かわいい狐ばかりですね」

 

「ここでお土産ちょこっと買ってもお小遣い足りるかしら?」

 

午後になり、京都駅から一駅進んだ稲荷駅に到着した新逹一行

 

アーシア、ゼノヴィア、イリナの教会トリオは早速京都の空気を堪能している

 

「美少女トリオの京都風景。まずは1枚目!」

 

先程ボコられ復活した松田(顔に包帯を巻いている)がアーシア逹を撮影していると、ゼノヴィアが新を呼ぶ

 

「新、一緒に写ってくれ」

 

「あぁ、良いぜ?」

 

「イッセーさんもこちらへ」

 

「おう、アーシア」

 

新の腕にゼノヴィア、一誠の腕にアーシアがしがみ付き、松田は怨恨の視線を向けたままシャッターを切った

 

一番鳥居を抜け、本殿を進み、稲荷山に登れる階段に足を踏み入れた

 

歩き始めて数十分

 

「……ぜーはー……ま、待ってくれ……。ど、どうしてお前逹はそんなに動けるんだ……?」

 

元浜(松田と同じく包帯付き)は既にグロッキーとなっており、松田が嘆息しながら言う

 

「おいおい、元浜。情けないぞ。アーシアちゃん逹だってまだ元気だってのに」

 

松田は元々運動神経が良い方なので体力には自信がある

 

新逹も悪魔なので基礎能力は人間より上

 

夏休みに特訓もしたから余裕だった

 

途中にある休憩所の店を見ながら登っていく

 

「わりぃ、俺チョイとお先にてっぺんまで行ってみるわ。新も来るか?」

 

「おうよ。競争しようぜ」

 

新と一誠は他の皆に断りを入れてから階段を勢い良く駆け上がった

 

そして頂上らしき場所に出ると、そこには古ぼけたお(やしろ)があった

 

辺りは木々に囲まれており、まだ日が出ているのに薄暗い

 

2人は手を合わせてから下山しようと、お社で手を合わせた

 

『おっぱいをたくさん見て触れますように!彼女が出来ますように!アーシアとエッチ出来ますように!』

 

『世界中の良い女とセッ◯ス出来ますように。天使の美女美少女とセッ◯ス出来ますように。とにかく良い女とセッ◯ス出来ますように』

 

卑猥かつ正直な願いを念じた……

 

新と一誠は互いの念が分かったのか、ハイタッチを交わしてその場をあとにしようとした

 

「……京の者ではないな?」

 

突然の声に反応して周囲に気を配らせる

 

「人間じゃねぇな、この気配。出てきやがれ」

 

新が挑発的に告げ、一誠が身構えていると……巫女装束を来た少女が現れた

 

金髪に金色の目をしており、頭部には獣の耳が生えていた

 

獣耳の少女は2人を激しく睨み、吐き捨てるように叫ぶ

 

「余所者め!よくも……ッ!かかれっ!」

 

掛け声と共に林から黒い翼を生やした頭部が鳥の輩と、神主の格好をして狐の面を被った奴等が大量に出現した

 

「おおっと!何だ何だ!?」

 

「カラス天狗に狐、妖怪か。妖怪様が何の用だ?」

 

「母上を返してもらうぞ!」

 

「は、母上?何を言ってんだ!俺達はお前の母ちゃんなんて知らないぞ!」

 

一誠が少女にそう叫ぶが、少女は問答無用と言った様子だった

 

「ウソをつくな!私の目は誤魔化しきれんのじゃ!」

 

「ったく、メンドクセェ事になったな」

 

新は闇皇(やみおう)に変異して、襲ってきた天狗逹を拳と蹴りで吹き飛ばす

 

「どうした、2人とも」

 

「何々?妖怪さんよね?」

 

ゼノヴィアとイリナが合流し、手には土産屋で買ったと思われる木刀を手にしていた

 

少し遅れてアーシアも駆けつける

 

「……そうか、お前逹が母上を……もはや許す事は出来ん!不浄なる魔の存在め!神聖な場所を(けが)しおって!絶対に許さん!」

 

少女が怒りを一層深めて叫ぶ

 

話し合いは出来そうに無かった

 

「一誠はアーシアの所に行ってやれ。俺は単独でも平気だ」

 

「分かった!でも、あまり派手にやらないでくれ!部長から言われてるんだ!」

 

「分かってる!」

 

新がマントを翼に変えて飛び上がり、カラス天狗逹の攻撃を(かわ)しながら拳と蹴りで打ち落とす

 

一誠逹も特に苦戦する様子は無かった

 

少女は不利だと悟り後方に退(しりぞ)き、憎々しげに睨んだあと手をあげる

 

「……撤退じゃ。今の戦力ではこやつらに勝てぬ。おのれ、邪悪な存在め。必ず母上を返してもらうぞ!」

 

少女がそれだけ言い残すと、一迅の風と共に消え去った

 

この京都で起こって欲しくない何かが起こりそうな予感がした……

 

 

―――――――――

 

 

「キヒヒッ。ここが京都か〜♪いや〜、良い空気と場所だね〜♪」

 

神風(かみかぜ)。この地に残り1本となった封印の(くさび)があるのか?」

 

「そうだよ。でもね、京都は特殊な力場だからさ〜。ここにある封印の楔は、東西南北の何処かにある4つの結界石で守られているらしいんだよね〜。バリー、まずはそれを破壊しに行こう♪」

 

「4つの結界石か」

 

「キヒヒッ♪まっ、その点については心配無いよ。ボクの隠し玉達にも来てもらうから。3人ともかなりの手練(てだ)れで、ボクの計画にあっさり乗ってくれたんだよ。いや~、やっぱり持つべき者はイエスマンだね♪」

 

 

――――――――――

 

 

修学旅行初日の夜、食事を終えた新は自販機でココアを買い、飲みながら今日の出来事を考えていた

 

新達は妖怪の襲撃を受けた後、松田達と合流し、警戒しながらも伏見稲荷での観光を終えた

 

ホテルに戻ってからこの事をアザゼルとロスヴァイセに報告するが、「何故京都で襲撃を受ける?」と困惑していた

 

新達が京都に旅行するのは事前に伝えてある筈らしい

 

アザゼルはもう一度確認を取ると言って戻り、向こうにいるリアスにも報告すべきかどうか迷ったが、アザゼルが「まだ何か起こったか分からない。余計な心配をあいつに与えるな」と言われ踏み留まった

 

確かに今の段階では情報量が少な過ぎるので動くのはリスクが高い

 

更に新には伊坂の一件もある……

 

右籠手に羽の様な意匠が加わっただけだが、体には何の変化も無い

 

「自分でも想像がつかない程の潜在能力、か……」

 

伊坂の放った意味深な言葉を解読しようとするが、こちらも情報不足な為に分かる筈も無かった

 

今分からない事を考えても仕方無いと吹っ切り、新はココア缶をゴミ箱に捨てて動く

 

「……そろそろ頃合いだな。この時間、女子が風呂に入る時間だ。――――覗きに行くか」

 

堂々と覗き宣言、女風呂に続く階段を下りようとした時……非常階段から喧騒が聞こえてくる

 

その非常階段も女風呂への近道で、新は扉を開けて降りてみる

 

すると、階段の踊り場で一誠とジャージ姿のロスヴァイセが対峙しているのが見えた

 

どうやら一誠も同じ事を考えていたらしい

 

ロスヴァイセが新に気付いたのか、攻撃体勢を取る

 

「あなた達がお風呂場に行く事なんて最初から分かりきっている事ですから。教師として女生徒の裸を死守します!」

 

「ロスヴァイセさん……。いくら仲間でもこれだけは譲れません。――――俺は女風呂を覗きます」

 

「一誠、そんなお前に良い情報がある。耳を貸せ」

 

疑問符を浮かべる一誠に新はコッソリと耳打ちする

 

その直後、一誠は「マジか!?恩に着るぜ!」と感謝して来たばかりの道を戻っていった

 

ロスヴァイセが怪訝そうに訊く

 

「新さん、イッセーくんに何を吹き込んだのですか?」

 

「あぁ、あいつには『誰にもバレずに女風呂を覗ける絶好のスポットがある』と伝えたのさ。……まあ、そいつは真っ赤な嘘だけどな」

 

「……?どうして嘘の情報を?」

 

「ロスヴァイセ、俺はガキの頃に親父からこう言われたんだ。――――『女湯を覗く時は、友を(あざむ)け!自分だけが覗ければそれで良い!』ってな」

 

「最低な考えじゃないですか!」

 

「関係ねぇよ!よく言うじゃねぇか。騙される方が悪いって」

 

一誠を出し抜いた新は悪人顔で持論を述べる

 

「だいたい、新さん!あなたはリアスさんや朱乃さんの裸体を毎日の様に拝んだり、尚且つ触ったりもしているのだから、それで充分でしょう!」

 

「甘いな。良い女がそこにいるなら、女の裸がそこにあるなら行く。それが男ってモンだぜ?」

 

「んもう!この女ったらし!(ちな)みにですが、私を突破してもシトリー眷属の2年女子の方々が見張ってます。最終手段ですが、匙くんが龍王に覚醒して新さんを止めます。――――どちらにしろ、お風呂を覗く事なんて出来ないのですよ」

 

女風呂には既に強力な防衛陣が整っているようだ

 

しかも、最終手段が匙の龍王覚醒……厳戒過ぎる態勢に新は溜め息を吐く

 

「ったく、少しは見逃してくれても良いんじゃねぇのか?それぐらい寛容じゃないと彼氏なんていつまで経っても出来ねぇよ。つーか、出来ても直ぐに別れ話切り出されるぞ」

 

新の核心を抉る様な台詞がスイッチとなったのか、ロスヴァイセは狼狽し始める

 

「かかかかかかかかかかか、彼氏の事は今関係無いじゃないですか!ど、ど、どうせ私なんて処女の元ヴァルキリーですよ!私だって将来有望でカッコイイ彼氏とエッチな事したいのにぃぃぃぃぃっ!」

 

絶叫と共にロスヴァイセが全身から魔力を放つ

 

「やべっ、流石に言い過ぎたか……」と自粛する新だが、ロスヴァイセは涙目で完全にスイッチが入ってしまった

 

非常階段を大きく揺らす程の迫力に、新は右籠手を発現する

 

「もう許しませんからね!」

 

ロスヴァイセの手元から放たれた電撃が非常階段を縦横無尽に走る

 

籠手で電撃を薙ぎ払いながら飛んでくる魔術攻撃を回避していく

 

その間に新は手元に黒い魔力――――闇を纏わせ、準備を整えた

 

「行くぜ。『暗黒捕食者(ダーク・グリード)』ッ!」

 

新の手から闇が解き放たれ、電撃や魔術攻撃を飲み込みながら這い回り――――ロスヴァイセを完全に捕らえる

 

「……ッ!こ、これはあのエッチな技!?」

 

「ご名答だが、もう遅いぜ?さあ、仕上げだ」

 

新が右手を振り払った刹那、ロスヴァイセを包んでいた闇が霧散した

 

ロスヴァイセを裸にして……

 

ロスヴァイセの裸を吟味する新

 

彼女の美麗(びれい)なおっぱいは形から大きさ、ピンク色の乳首まで見事だった

 

美脚にくびれた腰とスレンダーなボディラインは、まさに芸術品とも相違無い程に

 

「う、うぅ……」

 

「……え?泣き入った?わ、悪かったな……つい」

 

平謝りする新にロスヴァイセは泣きながら激怒する

 

「ついで済ませるつまりですか!?あ、あのジャージは特売の時に980円で買ってきた物なんです!い、今だと3倍以上するかもしれないのに!ブラジャーやパンツだって、安い時に買ってきたんだからーっ!」

 

「キレる所そっち!?俺に裸を見られてる事よりもジャージの方にキレるのか!?」

 

「ハッ!やだ!お、お嫁に行けなくなっちゃいます!」

 

ようやく自分の現状に気付いて裸を手で隠すロスヴァイセ

 

新は頭を掻きながら再び失言してしまう

 

「行く宛があるとは思えないんだが」

 

「……っ!?」

 

その言葉を聞いてロスヴァイセがワナワナと震え出す

 

「い、今なんて言いました……?行く宛が無い……?あ、新さんは私がずっと独身でいると思ってるのですか……?う、うわあぁぁぁぁぁぁぁんっ!酷いですぅぅぅぅぅっ!」

 

ロスヴァイセはあまりのショックに泣き叫び、涙目でポカポカと新を叩きまくる

 

暴走したロスヴァイセに新は気圧(けお)されてしまう

 

「いてっ、いてっ!悪かった!悪かったって!謝るから落ち着け!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁんっ!人が1番気にしてる事を平然と言うなんてぇぇぇぇぇっ!新さんのバカァ!鬼!悪魔!鬼畜!エッチ!変態!サディスト!性欲色魔!」

 

「悪かったって言ってるだろ!頼むから少しは落ち着――――おわぁっ!」

 

「きゃっ!」

 

そうこうしてる内に足が(もつ)れてしまい、新とロスヴァイセは倒れ込む

 

新は仰向けに倒れ、ロスヴァイセは新を押し倒す様な体勢となった

 

ムニュリとのし掛かるロスヴァイセのおっぱいに新の視線は釘付け

 

ロスヴァイセは一瞬間の抜けた表情となるが……直ぐに顔を真っ赤にして湯気を噴き出す

 

新が起き上がろうとした矢先、何故かロスヴァイセは新にしがみついてきた

 

「なっ!?お、おい!ロスヴァイセ!何してんだ!これじゃ起き上がれねぇだろ!」

 

「だ、駄目です!今起きたら新さんに裸を見られちゃいますっ!ひゃぁ……っ!あ、新さん……!太股(ふともも)でそんな所を擦らないで下さい……っ!」

 

「だったら今すぐ退けよ!もし、こんな所を誰かに見られたら――――」

 

「りゅ、竜崎……?何してんの……?」

 

第三者の声に冷や汗ダラダラで首を動かす新

 

下の階段から風呂上がりであろう寝間着姿の桐生、更には村山や片瀬、その他女子数名が顔を赤くして新とロスヴァイセの現状を見ていた……

 

「ロ、ロ、ロスヴァイセちゃんが裸で竜崎くんを押し倒してるっ!?」

 

「ロスヴァイセちゃんが攻めなの!?まさかの攻守逆転っ!?」

 

「次の新作は竜崎くん×ロスヴァイセちゃんじゃなくて、ロスヴァイセちゃん×竜崎くんだったなんて……!」

 

「ロスヴァイセちゃん、もう寿(ことぶき)退職しちゃうの!?」

 

村山、片瀬の女子達が盛り上がる中、桐生は思わずスマホで新とロスヴァイセがくんずほぐれつしている現場の写真を撮った

 

「……これはまた凄い特ダネに出会っちゃったわね。非常階段からバレずに竜崎んとこ――――ロスヴァイセちゃんの部屋に押し掛けてみようかな~と思ってたら、まさかこんなイチャラブシーンを見せつけられるなんて……。修学旅行だから浮かれるのは分かるけど、いくら何でも大胆と言うか……手が早過ぎると言うか……」

 

「ちょっ、待て!今なんで写メった!?その写真をどうする気だ!?」

 

「あ、大丈夫大丈夫。思わず撮っちゃったけどばら蒔いたりしないから。……それじゃ、お邪魔しました……。仲良くごゆっくり~……」

 

桐生達はそそくさと非常階段を出て自分達の部屋へと戻っていった――――大きな誤解を抱いたまま………

 

顔をひくつかせる新は未だにしがみついているロスヴァイセに怒りの丈をぶつける

 

「どうするんだよ!今ので完全にあらぬ誤解を受けたぞ!?」

 

「ご、誤解ですって……?新さんは私を裸にしておきながら誤解の一言で済ませるつもりなんですか!?もう許しません!責任を取っていただくまで絶対逃がしませんからね!乙女心を傷付けた罪は重いんですから!」

 

「あーもう!分かった、分かったよ!そんなに嫁に行きたきゃ俺ん所に来れば良いだろ!」

 

「…………え?そ、そんな……こんな場所でいきなり告白だなんて……。わ、私と新さんは教師と生徒で……っ。新さんから見たら、私なんてまだ不束者(ふつつかもの)で……。そ、それにご両親にもまだご挨拶が……っ」

 

半ばヤケクソ気味で言い放った新の台詞に困惑するロスヴァイセ

 

いつもの新らしからぬ言葉の選択ミス、ハプニングの連続で脳の処理に狂いが生じてしまったのだろう……

 

改めてロスヴァイセを退かそうとする新のもとに近付く影――――見てみるとアザゼルがそこにいた

 

「あー、楽しんでいるところすまない」

 

「これが楽しんでいる様に見えるか?早くこの妖怪子泣きヴァルキリーを何とかしてくれ」

 

「プクク……ッ!子泣きヴァルキリーって……ッ!それより俺とお前達に呼び出しが掛かった。近くの料亭に来ているそうだ」

 

「呼び出し?誰からだ?」

 

「魔王少女様だよ」

 

魔王少女=セラフォルー・レヴィアタンの方程式が即座に出てきた

 

やはり何か遭ったなと悟り、アザゼルは「直ぐに来いよ。乳繰り合うのはそれからにしてくれ」と伝えてから立ち去っていく

 

「別に乳繰り合ってる訳じゃ無いってのに……。ま、とりあえず行くか」

 

「行くって何処へ……きゃあっ!?」

 

新に抱きかかえられたロスヴァイセは軽く悲鳴を上げる

 

新はロスヴァイセをお姫様抱っこしたまま非常階段の扉を開き、誰もいない事を確認してから部屋へと直行していった

 

「しっかり捕まってろよ?部屋に着いたら直ぐに着替えて、アザゼルが言ってた料亭に来い。俺は先に行ってるからな」

 

「は、はい……」

 

ロスヴァイセを抱えて素早い動きで走り抜ける新

 

彼の腕の中でロスヴァイセはますます鼓動が高まったとか……

 

『……男の人に抱えてもらうって、こんなにも安らぐのですね……っ。新さんの腕……力強いのに、優しい感じがします……っ』


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