ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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やっぱりオリジナル話は悩むぅぅぅ!
長くなってスミマセン!


闇皇の蝙蝠VS魔剣将官

「くそッ、次から次へと出てきやがるな」

 

「キリが無いでありますぅ~!」

 

フィリアンノ城から緊急出陣した新、シンク、エクレ、リコは大元たる闇人(やみびと)――――伊坂威月(いさかいづき)がいるであろう場所を目指していた

 

しかし、道中にはまだまだ大量の闇人(やみびと)が構えており、蹴散らしても蹴散らしても向かってくる敵軍に手こずっていた

 

体力を温存しつつ伊坂の所へ行きたいのだが、現状はすこぶる芳しくない……

 

そんな時、闇人(やみびと)軍の中から何かが急速に伸びて襲い掛かってきた

 

シンクは神剣(しんけん)パラディオンを盾に変型させて防ぐ

 

新は伸びてきた物体を掴んで思いっきり引っ張った

 

引きずり出されたのは――――毒々しい紫色の体躯を持つ闇人(やみびと)で、新が掴んでいるのはそいつの右腕だった

 

その闇人(やみびと)は左腕を伸ばして新を刺そうとする

 

新は伸びてきた左腕も掴んで防ぎ、そのまま背負い投げの要領で地面に叩きつけた

 

「チッ、また来やがったか」

 

舌打ちする新の視線の先には――――強化されたであろう闇人(やみびと)が3体も走ってきた

 

それぞれ形の違う角や牙を生やした闇人(やみびと)は新達を翻弄するかの如くジグザグに走行しながら向かってくる

 

その上、量産型の軍勢も後を絶たない

 

大技で一気に(ほふ)ってやろうかと魔力を上げようとしたその時――――新達の後ろから風を切る様な音が凄まじい勢いで前方の闇人(やみびと)軍を吹き飛ばす

 

背後を見てみれば大剣を振り下ろした姿勢のダルキアンと忍者刀を構えるユッキーがいた

 

「ダルキアン卿!ユッキー!」

 

「皆の衆、ここは拙者とユキカゼに任せるでござる」

 

「後から直ぐに追い掛けるから心配無用でござる~♪」

 

「すまねぇ、恩に着る!」

 

新達は2人の厚意に甘んじて先を急ぐ事に

 

ダルキアンとユッキーは自分達を取り囲む闇人(やみびと)の軍勢に対し、お互いの背中を守る様にして武器を向けた

 

「さて、拙者らは未知なる魔物の討伐と参るでござる」

 

「心得ましてござる!」

 

4体の強化闇人(やみびと)を陣頭にした軍勢が一斉にダルキアンとユッキーへ飛び掛かっていき――――

 

神狼滅牙(しんろうめつが)封魔断滅(ふうまだんめつ)ッ!」

 

「紋章術、封魔陣(ふうまじん)ッ!」

 

2人の強大な紋章術の餌食となった……

 

 

――――――――――――

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「おやおや、その程度の力しか出せないのかね?猫姫くん」

 

少し前に戦闘を始めたレオ閣下率いるガレット獅子団が誇る戦士陣……しかし、伊坂は焦る様子を微塵も見せず自前の剣の刀身を磨く

 

劣勢になっているのはガレット獅子団の方だった

 

先陣を切ったゴドウィン将軍は地に倒れ、レオ閣下とガウル、そしてジェノワーズも満身創痍で息を切らす

 

あまりにも実力差があり過ぎるせいか、伊坂は“やれやれ”と言った感じで嘆息する

 

「これではこの世界を崩壊させるのも安易過ぎてつまらないな。……やはり見所があるのは私と同じくここへ飛んできた闇皇(やみおう)ぐらいか。君達では少々役不足かもしれん」

 

「好き勝手に言ってんじゃねぇよ、この野郎ッ!」

 

侮辱された事に怒ったガウルが輝力武装(きりょくぶそう)の爪を出して駆け出す

 

ギラギラと闘志を(ほとばし)らせて爪を振るった……しかし、ガウルの攻撃は(ことごと)(かわ)されてしまう

 

しかも伊坂はその場から1歩も移動せず、上半身の動きだけで……

 

「君の攻撃は単調でつまらない。まるで子供が駄々をこねて繰り出す打撃のようだ。君には少し外の世界の戦い方も教えた方が良いかな」

 

そう言うと伊坂はガウルの蹴りを屈んで回避した際に足元の地から砂を一握り採取

 

次にガウルが爪を突き出そうとした瞬間、左手の中に忍ばせていた砂をガウルの目に投げつけた

 

目の中に異物を入れられたガウルは視界を封じられ、目元を手で押さえる

 

その隙に伊坂は長剣の(つか)でガウルの鳩尾を突き、更に膝蹴りを入れた

 

目の痛みと窒息感に(さいな)まれ、膝をつくガウル

 

そんな彼に伊坂は容赦無く長剣を振り下ろした

 

だが、それは間一髪レオ閣下の魔戦斧(ませんぶ)グランヴェールの乱入によって止められた

 

「おや、間一髪防いだか。感心感心」

 

「貴様ぁ!目潰しなど姑息な真似をしおって!」

 

「姑息?いったい何がだね?まさか猫姫は私が正々堂々と戦うのを期待していたのか?残念だが、私はそんな殊勝な(はか)らいをする人柄では無いのでね」

 

バサッ!

 

伊坂は背中から青みがかった黒い両翼を広げ、翼から羽を幾重にも射出した

 

至近距離にいたレオ閣下とガウルはまともにくらってしまい、皮膚を切り裂かれる

 

そこへジェノワーズが2人を助けるべく一斉攻撃を仕掛けてきた

 

ジョーヌは輝力武装(きりょくぶそう)で雷の爪を手に纏い、ノワールはセブンテイルを展開

 

ベールは弓を構えて光の矢を無数に放った

 

「いくでぇ!虎王拳(こおうけん)ッ!」

 

「……セブンテイル!」

 

「フラッシュアロ~ズ!」

 

まず無数の矢が上空から伊坂に向かって降り注いでいく

 

伊坂は左手から黒い霧を噴射し、壁の様な形を形成させる

 

更に自らの羽を1枚取り、それに(ほむら)を纏わせ――――霧の方へ投げつけた

 

焔に包まれた羽が霧の中へ入った瞬間、次々と爆発を引き起こして光の矢の群れを簡単に消し去った

 

「この霧は私が調合した爆薬でね。よく燃える代物だよ」

 

伊坂は余裕を浮かべて説明しながらジョーヌの攻撃を(かわ)し続ける

 

ノワールの7つに分かれた尻尾による追撃も軽やかに回避し、剣戟で彼女達を突き放す

 

すると、ここで伊坂が溜め息をついた

 

「……やはりつまらないな、君達の戦い方は。もっと鬼気迫る臨場感に包まれるのが本来の(いくさ)と言う物だ。ままごと遊びを戦いと勘違いしている君達の戦い方はあまりにもヌルい。君達が苦労して退治したと吹聴する魔物とやらも、ただ君達が“弱い”から“強く感じた”だけじゃないのかね?」

 

またもやフロニャルドに対する侮辱を始めた伊坂にレオ閣下は怒りに震えて拳を握り締め、ジェノワーズも怒り心頭で再び連携攻撃を仕掛けていった

 

しかし、伊坂は長剣に焔を纏わせ――――円を描く様に回転斬りでジェノワーズを薙ぎ払う

 

吹き飛ばされたジェノワーズは地面を滑る様に転がされた

 

「やれやれ、何とも無様な」と伊坂が嘲笑う中、フロニャルド陣の援軍が空から飛来してきた

 

「レオ姉~!加勢しに来たのじゃ~っ!」

 

「レオ様~!ガウく~ん!」

 

来てくれたのはパスティヤージュ軍、先頭を絨毯の如き乗り物で飛んでいるのはパスティヤージュ国の領主クーベル

 

そして箒に乗っているのがパスティヤージュ国の勇者レベッカ

 

彼女達の周りにはブランシールと呼ばれるセルクルに酷似した大型の鳥が多数飛んでおり、その背中にはパスティヤージュ国の騎士達が搭乗していた

 

クーベルは自身が所持する宝剣(ほうけん)――――天槍(てんそう)クルマルスの銃口を地上にいる伊坂に向け、レベッカもライフルの様な晶術銃(しょうじゅつじゅう)ウィッチキャノンを構える

 

「ガーネットスパーク最大火力じゃ~!レベッカ、準備は出来とるか!?」

 

「いつでもOKですよ、クー様!」

 

「うむ!キャラウェイ、リーシャ!一斉射撃なのじゃ~!」

 

「「はいっ!」」

 

パスティヤージュ晶術騎士団の騎士でエッシェンバッハ騎士団の指揮隊長キャラウェイ・リスレと、飛空術騎士団の隊長リーシャ・アンローベもクーベルに続くように銃を構え、他の騎士達も同様に構える

 

全ての銃口にエネルギーが集められていき、射撃準備が整った

 

「ガーネットスパーーーーーークッ!」

 

「ウィッチキャノン!アステリズムストラーーーーーイクッ!」

 

クーベルとレベッカ、パスティヤージュ軍の騎士全員が強力なエネルギー砲を伊坂に撃ち放った

 

四方八方から迫り来る砲撃に伊坂は余裕の態度を崩さず、自前の長剣に蒼い焔を纏わせる

 

剣を横薙ぎに振るうと――――剣から巨大な炎の鳥が飛び出して砲撃を全て打ち消した

 

「にょぉっ!?」

 

「そ、そんなぁっ!」

 

一斉射撃を容易く消された事に驚くパスティヤージュ軍に炎の鳥は勢いを止めず襲い掛かり――――騎士達を1人残らず呑み込んだ……

 

炎に焼かれたブランシールは“けものだま”と化した騎士達と共に地上へ落下していく

 

しかし、伊坂は生き延びている輩を見逃さなかった

 

間一髪クーベルを救出したレベッカとリーシャに狙いを付けた伊坂は両翼を広げ、高速で空へ飛び出す

 

彼女達の眼前で静止した伊坂は再び焔の剣を構えた

 

「空の散歩は楽しめたかい?」

 

「い、いつの間に!?」

 

「では、君達もそろそろ落ちたまえ」

 

焔の剣が2度振るわれ、(エックス)字の斬撃――――魔剣技クロスフレイムがクーベル達を襲った

 

大きな爆発と炎が噴き上がり、クーベル達は墜落してしまう

 

しかも……先程の攻撃が致命的ダメージを与えたせいか、彼女達の衣服が見事に砕け散った

 

「にょわぁっ!?」

 

「ひゃあぁっ!」

 

「きゃあぁっ!」

 

クーベル、レベッカ、リーシャは悲鳴を上げて自分達の裸体を隠す

 

しかし、相手は戦闘狂……墜落していても容赦などしない

 

両翼を畳み、まるで戦闘機の様に降下してきた

 

燃え盛る焔の剣を構え、3人一緒に(ほふ)ろうとする

 

その瞬間、遠くから一筋の閃光が轟音と共に突き抜け――――クーベル達を救出、伊坂の剣戟は空振りに終わった

 

3人を救出したのはボード状の乗り物に乗ったシンクと闇皇(やみおう)に変異済みの新

 

シンクはレベッカを抱え、新はクーベルとリーシャをそれぞれ左右の脇に抱える

 

「ベッキー、大丈――――ぶじゃないその格好!」

 

「えぇっ?シ、シンク?……ッ!いやぁぁっ!見ちゃダメぇッ!」

 

「ちょっ!ベッキー!今だけはやめて!危ないから!」

 

「……ごめんなさい」

 

顔を真っ赤にして胸を隠すベッキーとなるべく彼女の方を見ないようにするシンク

 

まるで付き合いたての初々しいカップルみたいな空気でした……

 

「熱々だな、お二人さん」と新が茶化していると、クーベルがペチペチと鎧を叩いてくる

 

「あ、どうした?」

 

「の、のうアラタ……。助けてくれた事に関しては礼を言うのじゃ。じゃから……早く降ろしてもらえんかのう?いつまでもスッポンポンは恥ずかしいのじゃぁ……」

 

「それにどさくさに紛れてお腹周りを揉むのはやめてください!セクハラは犯罪です!」

 

「えー、緊急事態って事で勘弁してくれよ」

 

新は地上へ降りて2人を解放すると……助かったと言う安堵からか、クーベルはポロポロと涙を流し始めた

 

「おいおい、どうした?そんなんでよく国の領主が務まるな。厳しく言うようで悪いが――――泣いてる暇なんか無いんだよ」

 

「うぅ……っ、確かにそうじゃぁ……。そうなのじゃが……やっぱり怖いのじゃぁ……っ。あんなのにウチらが勝てるとは思えんのじゃぁ……っ」

 

泣きじゃくるクーベルに新は兜を解除、素顔のまま言い聞かせる

 

「皆そう思ってる、気持ちは同じなんだよ。でも……誰かが戦わないと本当にこの世界は滅ぼされるぞ。良いのか?お前の大好きな国が、大好きな人が滅ぼされても良いのか?」

 

「……ぅにゅぅ……」

 

「俺は何の因果でこの世界に来ちまったのかは分からねぇけど、これだけは言える。身勝手な理由で滅ぼされて良い世界なんて1つも無い。だから俺は守る。守ってやるから今は泣き止め!泣くのは終わってからにしろ!」

 

新は再び兜を直して伊坂の所へ向かう

 

「随分と遅い到着じゃないか。そんなに我が軍に手こずっていたのかね?」

 

「少なくとも俺は手こずっていない。シンク、後の2人は何処に行った?さっきから姿が見えないんだが」

 

「あ、エクレとリコはベッキーを連れて服を取りに戻ってます」

 

「そんな事してる場合かよ……。ったく、しょうがねぇな」

 

新は悪態をつきながらも剣を取り出し、切っ先を伊坂に向ける

 

「……なあ、おっ始める前に1つ質問して良いか?」

 

「何かな?」

 

「昨日お前はこの世界を滅ぼすって言ったよな?滅ぼした後はどうするんだ?」

 

「何故そのような事を訊く?」

 

「単純な疑問だ。ここを滅ぼした後はどうする?俺やシンク達を殺した後、誰もいなくなった世界で何をする?ただ滅ぼすだけならバカでも出来るからな。……他に別の目的があるんじゃないのか?」

 

新は伊坂の目論見(もくろみ)にもっと探りを入れた

 

伊坂も元々は何らかの方法でこの世界に飛ばされてきた

 

それならここから元の世界に戻る方法を探すのが必然なのに、この世界を滅ぼす事を優先している

 

新はそれが解せなかった

 

質問に対して伊坂はこう答える

 

「君の言う事は(もっと)もだ。私も君と同じく向こうの世界から飛ばされてきた。だから、まずやるべき事は“この世界から向こうの世界へどうすれば戻れるのか?”――――それを探す事だった。しかし、飛ばされてきた当時の私はそうする暇が無かったのだよ」

 

「どういう意味だ?」

 

「君も向こうの世界の者なら知っている筈だ。悪魔、天使、堕天使による三竦みの大戦を。そして……その大戦に我々闇人(やみびと)が乱入して悪魔、天使、堕天使を全滅させようとした事を。私はその大戦で生き残った者の内の1人だ」

 

「……ッ!?あの三竦みの戦争の生き残り……!?」

 

伊坂のカミングアウトに新は目を見開かせて驚くしかなかった

 

『初代キング』が封印された闇人(やみびと)の勢力はガタ落ち、純正闇人(やみびと)の殆どが三竦みの戦争で死に絶えた筈

 

なのに、異世界に逃げ延びて健在していた……

 

どういう事なのか尋ねる前に伊坂が説明に入る

 

「『初代キング』が封印された時はもう逃げの一手しか無かったな。それだけ『初代キング』の力は大きかった。右腕として貢献してきた私も絶望に駆られ、重傷を負い、他の者達と同じ様に駆逐されてしまうのかと嘆いたものだ。そこで私は当時未完成だった次元転移(じげんてんい)の術式を使った」

 

次元転移(じげんてんい)?」

 

「簡単に言えば過去から未来へ無理矢理移動させる術。君達が使用している転移魔方陣の上位版だと考えれば分かり易いだろうね。その次元転移で私は“三竦みの戦争が終わった未来”へ逃れようとした。しかし、未完成だった上に重傷を負ったせいで力を完全に制御出来なかったのが災いしたのか……術が大きく乱れ、間違ってこの世界に飛ばされてしまった――――と言う事だ。まあ、手違いはあったものの、これで良かったのかもしれないな。お陰で大戦時の傷を癒せただけでなく、更に強化出来たからね」

 

伊坂の意味深な言葉に(いぶか)んでいると、伊坂は自身の首に長剣を宛がい――――そのまま首を斬り落とした……

 

突然の凶行に周りは悲鳴を上げ、新とシンクは呼吸すらも忘れてしまう程愕然とした

 

だが、それ以上の光景を直ぐ目の当たりにする

 

首を斬り落とされた伊坂の体は独りでに動き、地に落ちた伊坂の首を拾い上げる

 

更には斬り落とされた筈の伊坂の首が不気味にほくそ笑み、新とシンクに視線を向けた

 

「この様に首を斬り落とされても私は死なずにいる。これはある意味、この世界が与えてくれた産物と言う事だ。“魔物”と呼ばれる存在と作用を知った私はそいつらを殺し、喰らい続けた」

 

「……魔物を……喰った……?」

 

その言葉にシンクは更なる衝撃を受けた

 

このフロニャルドには民や自然、国に実害を与える“魔物”と呼ばれる脅威が存在しており、正体は各地の精霊や動物が何らかの原因で突然変異し、凶暴化した物だと言われている

 

通常ならば戦って元に戻せるのだが……伊坂はそれらを殺した挙げ句、喰らってきた事を暴露した

 

「我々闇人(やみびと)にとって生物の血肉は食糧であり治療薬でもある。手近な魔物を喰らい続けた結果――――この実態に気付けた。かつて多くの魔物を退治し続けた剣士も今の私と同じ様に“死なない体”となったのだろう?」

 

「死なない体となった剣士?誰だよ?」

 

「……ダルキアン卿と、そのお兄さんのイスカ・マキシマさんです……」

 

ダルキアンの名を聞いた新に戦慄が走る

 

昨日まで剣を交わした相手が魔物の血によって不死身になってしまった等と聞かされては無理もない……

 

伊坂は首を元通りに接合しながら話を続けた

 

「そう、ブリオッシュ・ダルキアン――――本名ヒナ・マキシマは幼少時に故郷を魔物に滅ぼされ、兄のイスカ・マキシマと共に魔物を退治し続けた。その際に浴びた魔物の血によって“不老不死の呪い”を受けたそうだ。そこで私はもう1つのプランを思い付いた。魔物を退治する君達を滅ぼした後、私と同じ様に他の闇人(やみびと)にも魔物を喰わせ、不死の軍団を作る事も出来ると。私はそのプランの成功者第1号だ。そして不死身と化した軍勢を率いてこの世界を脱出する。それが私の今の計画だ」

 

「マジ、かよ……」

 

伊坂の計画に新は畏怖せざるを得なかった……

 

ただでさえ凶悪な闇人(やみびと)が不死身になってしまったら、もはや対処しようが無い

 

だが、それは新に“この男を絶対に逃がしてはならない”と言う決意を固めさせた

 

改めて剣を構えようとした時、シンクの様子がおかしい事に気付く

 

「…………そんな事の為に……そんな事の為に、あなたはフロニャルドを……姫様達を滅ぼそうとしてるのか……!」

 

「何か問題でも?」

 

「魔物だって……元々は優しい精霊や動物達なんだ……!今なら元に戻せるんだ!元に戻せる命を……あなたは奪ってきたのか……ッ!」

 

「弱き命など所詮強き者に喰われる宿命。その死骸が私達の強さの向上に繋がるなら本望じゃないのか?」

 

無慈悲で冷酷な伊坂の言葉に――――シンクは遂に怒りを爆発させた

 

「命をッ!命をバカにするなあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

シンクは地面を蹴って凄まじいスピードで飛び出し、神剣パラディオンで斬り掛かる

 

伊坂は神剣パラディオンの一撃を片手で止めた

 

「おやおや、君も感情に流され易い人格だな。そこで無様に呻いている猫王子くんと同じか」

 

伊坂は両翼から幾重もの羽を射出してシンクの体を切り刻む

 

無数の羽をくらったシンクは飛ばされ、地を滑る様に転がる

 

追い討ちに伊坂は蒼き焔の渦を解き放つが、それは新が振り下ろす剣によって掻き消された

 

「本当にトンでもない事を企んでいるな。今まで会ってきた闇人(やみびと)の中じゃ最悪の部類だ」

 

「フッ、私から言わせれば君達の方こそ最悪だと思えてならんよ。神聖なる戦いを興行等に堕落させているのだから」

 

「ヘッ、この世界が気に入らないならさっさと出ていけば良いだろ。破壊させてたまるかよ!」

 

ダッシュで距離を詰めた新は横薙ぎの剣戟を見舞うが、伊坂の長剣がそれを止める

 

刀身に魔力を込めて何度も斬り掛かれば、伊坂も同じ様に焔を纏った長剣で対抗してきた

 

高速で苛烈な剣戟合戦が始まり、辺りに金属音と火花、打ち付けた時の余波が飛び交う

 

伊坂が両翼を広げて空へ飛び上がると、新もマントを翼に変えて空中へ飛び出した

 

地上から空中へ剣戟合戦の場を代えた2人

 

激しく打ち合うその光景はまさに死闘と呼べるものだった

 

「やはり君が1番の障害になり得るね。何せ『初代キング』が所有していた鎧を纏っているのだから。しかし、不死身と化した私に勝てるかな?」

 

伊坂は焔の長剣を振るって炎の鳥を幾重にも出す

 

それぞれが意思を持っているかの如く自在に動き回り、四方八方から襲い掛かる

 

新は避けながら『僧侶(ビショップ)』形態にチェンジ

 

両肩のキャノンと銃を別々の方向に向け、高密度に高めた魔力を掃射した

 

炎の鳥は魔力で掻き消したが、伊坂は既に魔剣技(まけんぎ)クロスフレイムの構えに入っていた

 

2度振るわれた長剣から(エックス)字の斬撃が直進、新を地面へ落とした

 

めり込んだ地で血反吐(ちへど)を吐く新の鎧にはXマークが刻み込まれ、その近くに伊坂が降り立つ

 

「どうした。もう終わりかね?」

 

「ガハ……ッ!ま、まだまだ……ッ!こんな傷、なんて事はねぇよ!」

 

体を起こした新は再び伊坂に斬り掛かったが、焔の長剣で防がれる

 

しかし、新は予測していたかの様に剣から手を離して徒手空拳に切り替え、魔力を込めた打撃や蹴りで伊坂の腹を集中攻撃

 

更に両手を合わせた掌打(しょうだ)で伊坂を吹き飛ばした

 

1度手放した剣を再び握り、自分も飛び出して伊坂の腹を貫く

 

強烈な連続攻撃、普通なら重傷は否めないが……

 

「なかなか素晴らしい攻撃だ。こう言う過激さこそ、戦いの醍醐味だ。しかも、不死身と化した私を相手にしているのに全く戦意を落とさない。大した闘争心だ」

 

「俺は1度、不死身の奴と戦った事があるからな。何度でも復活するなら――――何度でも殺してやる!ただ、今回はそう簡単にはいかねぇようだが」

 

「分かっているじゃないか」

 

ギンッ!

 

伊坂の胸にある目玉が妖しい輝きを放った瞬間、新の体が独りでに宙を舞う

 

動かそうとしても自分の意思では動いてくれない……

 

伊坂が両翼から無数の羽を射出しながら言う

 

念動力(サイコキネシス)と言う超能力をご存知かな?触れずに物体を動かす力だ。私の胸にある眼はその力を発する事が出来る」

 

「くそったれ……!エスパータイプかよ……!」

 

悪態をつく新の周りで構えている無数の羽は一回り大きくなった刃と化し、一斉に新の全身へと突き刺さった

 

傷痕と口からまた血を吐き出す新を、伊坂は容赦無く地面に叩きつける

 

頭を掴んで持ち上げた伊坂は先程のお返しとばかりに、焔の拳で新を殴り飛ばす

 

殴り飛ばされた新は岩に激突し、崩壊した岩の破片に埋め尽くされる

 

伊坂の圧倒的な力にシンクも動けなくなった……

 

「そ、そんな……アラタさん……!」

 

「ここで終わりにするのも一興だが、遅れてやって来た者達も歓迎してやらねばならんようだな」

 

新と戦ってる間に終結したフロニャルド陣営を見据える伊坂

 

ビスコッティの領主ミルヒ、闇人(やみびと)の討伐を終えたダルキアンとユッキー

 

ガレットの勇者ナナミにパスティヤージュの英雄王アデルと魔王ヴァレリー

 

装備を直してきたレベッカとエクレ、リコも戻ってきた

 

だが、目の前の惨状を見て言葉を失う……

 

ボロボロにされたガレット軍とパスティヤージュ軍、傷だらけのレオ閣下達

 

更には瓦礫に埋もれた新

 

残酷な光景にミルヒは涙を流した

 

「酷い……っ」

 

「酷い?随分と甘い考えを言うものだな、犬の姫様。私の元いた世界では当たり前の光景だぞ。君達が遊びでやっている戦いとは次元が違う」

 

「貴様ぁ!姫様を侮辱するなぁっ!」

 

激昂したエクレが鞘から双剣を抜いて斬り掛かろうとする

 

伊坂は全身から焔のオーラを噴き出し、両手を広げると同時に莫大な規模の衝撃波を解き放った

 

伊坂を中心とした衝撃波はフロニャルド陣営を呑み込み、大地も木々も全て焼き尽くす

 

衝撃波が止んだフィールドには傷だらけで横たわる勇者や騎士達の姿があった……

 

装備もボロボロにされ、圧倒的な力の前に戦意は萎えかけていた

 

伊坂は自らの羽を1枚千切(ちぎ)り、火を点けたそれを煙草(たばこ)代わりに吸う

 

一服を終えた伊坂は周りを見渡しながら更に罵倒を重ねる

 

「やはり何も出来ないではないか。平和と言う理想を掲げた所で力が無ければ灰塵(かいじん)()するのみ。それを無理強(むりじ)いする方がよっぽど悪だ」

 

「ふ、ふざけるな……!身勝手に命を食い荒らし、愚弄する貴様に善悪を区別する資格などありはせぬ……ッ!」

 

レオ閣下が魔戦斧(ませんぶ)グランヴェールを杖代わりにして体を起こし、両手で握り直すが――――伊坂はフッとその場から姿を消し、レオ閣下の眼前に現れた

 

「戦いを嬉々としているが、心の底では臆病風に吹かれている。粗末な力しか持ってない猫姫」

 

ドンッ!

 

伊坂の蹴りがレオ閣下の防具を砕き、彼女は血を吐いて地面に突っ伏す

 

「レオ様……レオ様ぁ!」

 

「如何にも守られてばかりの情けない微弱な犬姫」

 

ドゴッ!

 

瞬時に移動した伊坂は倒れていたミルヒを蹴り飛ばし、直ぐにまた消えるように移動

 

(うずくま)っていたクーベルの尻尾を掴み、そのまま持ち上げる

 

「ひにゅうぅぅっ!」

 

「領主の威厳も力も足りない無力なげっ歯類の姫」

 

伊坂はクーベルを投げ捨て、シンクの前へ足を運ぶ

 

「そして偽善ばかり並べ立てる脆弱(ぜいじゃく)な勇者もどき」

 

伊坂の拳がシンクの腹に深々と刺さり、シンクは血と共に内容物を吐き出した

 

一瞬空中に浮いたシンクの体が地上に落ち、背中を伊坂に踏みつけられる

 

もはや面白味は無いと思ったのか、伊坂はシンクを足で小突いて転がし、両手を広げながら言う

 

「これで分かっただろう?この世界がどれだけ無駄で無力で無価値な物に覆われているか。偽りの(いくさ)で支えられている世界など必要無い。……と言っても、口で諭すのは無駄骨の様だな」

 

伊坂は再びレオ閣下の所へ歩み寄り、仰向けに倒れている彼女の首筋に長剣を向けた

 

「見せしめにまず猫姫の首を飛ばすとしよう」

 

「……ッ……ッ!」

 

「ハハッ、怯えているのかね?心配しなくても良い。痛みは一瞬で消える」

 

長剣が伊坂の頭上に到達した刹那、風を切る音と共に振り下ろされた

 

レオ閣下は情けないと頭では分かっているものの、本能から来る恐怖に勝てず……自分の最期を悟って目を閉じた

 

ズシュッ……!

 

肉を切り裂く不快な音

 

そして自分の頬に水滴が落ちた様な感覚で不意に目を開けてみると――――伊坂の凶刃を両腕で防ぐ者の姿があった……

 

「……ッ。ア、アラタ……ッ」

 

「やれやれ、君もしぶといね」

 

「悪いが、いつまでも寝ていられねぇんだ……ッ!」

 

新は腕に食い込んだ長剣を強引に押し返す

 

兜は半分割れ、鎧もボロボロ、全身蜂の巣状態で血を流し続ける新

 

伊坂は長剣を振って刀身に付着した血を落とす

 

「まだ(あらが)うつもりかね?いくら足掻(あが)いた所で今の私を滅ぼす事は出来ない。不死身と化した時点で私が滅びると言う運命は既に尽きた。諦めた方が利口だと思うのだが?」

 

生憎(あいにく)、俺はそんな事を素直に聞き分ける頭を持っていない……。今、俺の頭の中にあるのは――――テメェをここでぶっ倒すッ!それ以外考えてねぇよッ!」

 

「そこまでしてこの弱き者達と平和ボケの世界を守りたいのか?」

 

「少なくとも俺やテメェみたいな外から来た奴に、このフロニャルドの存在を否定する権利は無い。いや、寧ろこう言う世界はあるべきだ。国中の人々が明るく楽しく暮らせる世界……。それを部外者が邪魔したり、破壊するのは大間違いだ!――――この世界の在り方はこいつらが決める事なんだよッ!」

 

新は腹の底から叫び、伊坂の思想を真っ向から否定する

 

彼の熱弁にシンク達は勿論、フロニャルドの騎士達全員が心を打たれた

 

対して伊坂は頭を痛める動作の後、再度長剣に焔を纏わせる

 

「では、仕方が無い。ここで灰になってもらおうか。異世界の風に乗って散りたまえ」

 

「そうはいかねぇ。こんな良い世界を破壊させてたまるか!俺が1番嫌ってる奴の技をパクってでも止めてやるッ!」

 

そう言うと新は剣を構え、全身から溢れ出す魔力のオーラを刀身に集める

 

刃から電撃に酷似した魔力が(ほとばし)り、バチバチと広がる

 

伊坂も迎撃すべく長剣に焔を纏わせ、更に出力を上げた

 

準備が完全に整った瞬間――――お互いの必殺剣(ひっさつけん)が同時に繰り出された

 

「クロス・バーストォォォッ!」

 

「クロスフレイムッ!」

 

地面を斬る様に振るった新の剣から出た波動は大地を抉りながら突き進み、伊坂の剣から放たれた(エックス)字の斬撃は大気を焦がしながら猛進していき――――2つの技が激突した刹那、辺り一帯は巨大な閃光と爆煙(ばくえん)に包み込まれた




いよいよ終盤に近づいてきました!
幽神兄弟と魔剣将官、次回辺りでケリを着けようと思います

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