「ですから、部長!部長や朱乃さん、女の子皆がセクシーな衣装を着れば――――」
「ダメよ。あなただって集中出来なくなってしまうじゃない」
幽神兄弟との一戦後、オカルト研究部部室に戻った一誠はリアスに幽神対策のアイデアを掲示していた
その内容は“リアス達がセクシーな格好をして戦う”と言った下心満載のアイデアであっさり却下
無慈悲な断言に一誠は大いに泣き崩れた……
因みにアーシアは全員の傷を癒す為に『
「しっかし、見事にやられたもんだな。まんまと幽神兄弟の策に嵌められた挙げ句、全員フルボッコとは。イッセーの機転が無かったらマジで全滅してたぞ?」
アザゼルの指摘に一誠は勿論、リアス達も言葉を詰まらせる
「ったく、厄介な
「先生、何か良いアイデアは無いんスか?」
「そうだな。まあ、奴らの弱点が分かっただけでも儲けものだし、そこを突けば何とかなりそうなんだが……。問題はその弱点なんだよなぁ。……プッ、まさか女の裸を見ただけで撤退する程の童貞兄弟だったとはな!1番手っ取り早いのはありったけ呼び集めた女をイッセーの『
「やっぱそれしか無いですよね!?先生!」
「だが、それをやったらお前はそっちに目が行って集中出来なくなるわな。実現性が低過ぎる」
“ガーン!”と言う響きが似合いそうな顔でショックを受ける一誠
一誠が立てた幽神対策は僅か数分で全て白紙に戻された……
「まあ何にせよ、今日はもう奴らが来る事も無いと思うが……念のため警戒は怠らん様にしとけよ?特にイッセー、奴らの標的はあくまでもお前なんだからな」
「……はい」
そう、幽神兄弟はまだ一誠を狙っている
自分達の人生を狂わされ、地の底を徘徊させられた恨みはそんな簡単に消えたりするものではない……
全員が今後も幽神兄弟に対して最大限の注意を払う事になった
―――――――――――
「アーシア、今日ぐらい悪魔稼業は休んでも良かったんだぞ?昨日今日と皆を回復させて疲れてんだから」
「すみません、イッセーさん。ご心配をお掛けして……」
数十分後、小さな街灯のみで照らされる夜道を自転車で走る一誠としがみつくアーシア
追い討ちを掛ける様に悪魔稼業の知らせ――――アーシアの指名が入ってきて、一誠は疲弊したアーシアの付き添いとして同伴していた
内容は単なるお悩み相談で、それを終えた一誠とアーシアは帰路の途中で公園に自転車を停める
一誠はベンチにアーシアを座らせ、
「少ししたら帰ろうな、アーシア」
「はい」
ゆったりと休憩する一誠とアーシア
良い雰囲気が築けそうな時、アーシアがある話を切り出す
「あの……イッセーさん」
「どした、アーシア?」
「イッセーさんは……あのご兄弟さんの事、どう思いますか?」
一誠は誰の話なのか即座に理解出来た
アーシアの言う“ご兄弟さん”とは恐らく
一誠は敵意を表す苦々しい顔付きとなった
「……中学の頃は嫌な奴らだなぁってぐらいは思ってた。けど、今は許せねぇよ。俺達の事情に全く関係の無い松田と元浜を傷付けようが平然としやがって……。あれが“人間”のままでいられるのが不思議なくらいだ」
「イッセーさん……」
「心配すんなって!もし、あいつらが襲って来てもアーシアは絶対守ってやるよ!」
「いえ、それは嬉しいんですけど……どう言ったら良いのでしょうか。あの人達――――何だかとても悲しい目をしていたような気がするんです」
アーシアの意味深な言葉に一誠は間の抜けた表情となる
アーシアは何を思ってそんな事を言うのだろうか?
「確かにあの人達が今までしてきた事はいけない事ですし、怖い人達だって事も分かります。ただ……」
「ただ?」
「以前の私と境遇が似ているんです。誰かの為に頑張ってきたのに認められなかったり……拒絶されたりと……経緯はまるで違うかもしれませんけど、何となく似ている――――そんな気がするんです。あの人達の目は……今まで見てきた中で1番悲しげな感じがしました……」
憂いの表情で言葉を紡ぐアーシア
以前の彼女も幼き頃に両親に捨てられ、孤独に生きてきた
悪魔――――ディオドラを助けてしまった事で魔女と貶され、蔑まれ、追放された……
そんな状況に遭っても彼女は耐えてきたのに神は不在と知らされ、今までしてきた“祈り”は全て無駄だったと――――普通ならばこの時点で何もかも信じられなくなってしまう……
幽神兄弟も元を辿ればアーシアと殆ど同じ境遇なのかもしれない
アーシアはアーシアなりに幽神兄弟の心意を読み取ったのだろうか……
しかし、アーシアと幽神兄弟は境遇こそ似ているものの、決定的に違う所がある
アーシアは地獄の底の様な境遇に落とされても自分が信じてきた物への祈りを止めなかった
不在だと分かった今でも神への祈りを続けている
だが、幽神兄弟は逆に自分達以外の信じられる物を全て放棄
一誠どころかこの世の全てを憎み、
アーシアは不遇に立ち向かったが、幽神兄弟はそこから目を
「あの人達にもまだ信じられる何かがあったら……私みたいに救われたかもしれないんです……。救える筈だった人達を救えなかったのは、ちょっとツラいです……っ」
話を続けるアーシアの目に涙が浮かび、彼女はそれを指で拭う
「ごめんなさい、イッセーさん……。しんみりさせちゃいました……?」
「いや、アーシアのせいじゃねえよ。何かさ、そう言われると……あいつらもある意味では“被害者”だったのかなって……。俺達みたいに部長や仲間がいなかったから。1人でもあいつらの側に誰か居てくれたら――――あんな風に歪まなかったのかもな……」
“あの時、自分が少しでも証言すれば良かったのかもしれない”
今更ながら一誠は幽神兄弟に対して申し訳ない念を
少しして一誠は何かを決意したかの様に勢い良く立ち上がる
「よし!こうなったらさっさと幽神を取っ捕まえて――――あの時なにも言ってやれなかった事を詫びる!それで向こうの気が晴れるとは思えないけど、俺がスッキリしねえからな」
「イッセーさん……ふふっ、イッセーさんらしいです」
「アーシアのお陰だよ。よっしゃ、心配の種が1つ消えたところで何か飲むか?ちょうどそこに自販機があるし」
「良いですか?なら、お茶をお願いします」
「オッケー。俺はコーラでも飲もうかなっと」
一誠は飲み物を買うべく近くの自販機まで走っていった
数メートル離れた先の自販機に辿り着くものの――――なんと全ての飲み物が売り切れていた……
一誠はキョロキョロと辺りを見渡し、少し離れた場所のコンビニを発見
「アーシア、ちょっとそこのコンビニで買ってくるから待っててくれー!」
一誠はアーシアに一声掛けてからコンビニを目指して走っていった
ベンチで座って待つアーシアに睡魔が
まだ疲労が抜けていなかったのだろう
そんな彼女の背後に赤と銀の眼孔が現れた……
――――――――――
「お待たせアーシア。お茶買ってきた――――って、アーシア?」
飲み物を買って戻ってきた一誠だが、ベンチにはアーシアの姿が無かった
一誠は直ぐに公園の周りを走ってアーシアを探すが見つからず、アーシアの携帯に電話を掛けてみる事に
コール音が10回ほど鳴った後、ガチャリと電話に出た様な気配が一誠の耳に走る
「もしもし、アーシア?今何処にいるん――――」
『よぉ、さっきぶりだな。兵藤ォ』
ピクッと青筋が立ちそうな声音が耳に入り込んでくると同時に一誠は目を見開いた
一誠は思わず通話相手の名前を口ずさむ
「……ゆ、幽神……っ!なんでまたお前が……!?」
『獲物が安心しきっている時こそ絶好のチャンスであり、狩りの鉄則だ。俺達があっさり引き上げたと
「……っ!?まさか……今日来た依頼も、あの自販機も!?」
『あぁ、そうさ。あの後、直ぐには引き上げないでお前らの動きを監視してたんだよ。なかなか大変だったぜ?この女の契約相手を見つけるのは。何たって近くに公園と自販機、コンビニがある場所なんて一握りぐらいしか無いからな。お陰で財布も軽くなっちまった。まあ、その甲斐あってお前のストッパーを手に入れる事が出来たから良しとするか』
急に来た悪魔稼業の依頼も、自販機の全ジュース売り切れも、全ては幽神兄弟の仕業だった……
それもアーシアの身柄を確保する為の伏線……
絶句したまま立ち尽くす一誠に
『兵藤、女を返して欲しかったら明日の午後4時――――町外れの教会跡に1人で来い。そこで今度こそケリをつける。良いか、1人で来いよ?誰か1人でもお前の仲間を連れてきたと分かったら、この女の命は無いと思え。それまでは丁重に扱っといてやる。じゃあな』
ガチャリと切れる電話
一誠はまたしても幽神兄弟に一杯食わされてしまい、歯痒さあまりに自分の携帯を地面に叩き付けた
街灯も消えかかった暗い夜に一誠の怒号が響き渡る……
「くっそォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
―――――――――――
一方、こちらはアーシアを誘拐し終えた幽神兄弟
一誠に指定した町外れの廃教会を一時的なアジト代わりに使用しており、アーシアの携帯を放り投げた所だった
古びた椅子に腰掛ける
アーシアは今、横長の椅子の上でスヤスヤと眠っていた
「ったく、呑気な女だぜ。拉致られたってのに気付かねぇで寝てやんの」
「まあ、こいつは典型的な回復役で体力は
あどけない寝顔で眠っているアーシアを見やる幽神兄弟
意識の無い彼女は寝返りを打とうとした
しかし、寝かされている場所は幅が狭い横長の椅子だったので寝返りを打てば落ちるのは確実
体が反射的に動いてしまったのか、正義は椅子から転がり落ちるアーシアをキャッチした
フニュッ
その時、彼の手に柔らかな感触が広がる……
正義の手はしっかりとアーシアの可愛らしい胸を掴んでいた
「……っ!……っ!?」
手の感触を知った正義の血流が乱れ始め、同時にあの出来事までフラッシュバックさせてしまう
一誠の『
ゆっくりアーシアを床に下ろし終えた直後、正義は火消し用のバケツに直行し――――ブシャアァァァッと鼻血を噴出した
バケツは1分も経たない内に鼻血で溢れ、正義は血を流し過ぎたせいで倒れる
「あ、兄貴!?大丈夫か!?」
「か……っ、かは……っ。気を付けろっ、相棒……。油断したら死ぬぞ……」
「このクソ女、よくも兄貴を―――――っ!」
悪堵が眠っているアーシアの胸ぐらを掴み、起こそうとした途端に固まる
それは制服がはだけ、彼女の胸元を包み込んでいる純白のブラジャーを直視してしまったからである
女の子に対しての免疫力が皆無な悪堵は当然――――
ブシャアァァァッ!
ブシャアァァァッ!
ブシャアァァァッ!
ブシャアァァァッ!
ブシャアァァァッ!
ブシャアァァァッ!
ブシャアァァァ……ッ!
まるで殴り飛ばされたかの如く宙を舞いながら鼻血を噴き出し、悪堵も床に倒れ伏した
何とか輸血を終えた正義が悪堵に輸血パックを手渡す
ここで幽神兄弟による鼻血劇場の音で目が覚めたのか、アーシアがゆっくりと起き上がって
「ぅん……っ。あれ、私いつの間に寝ちゃってたんですか……?――――っ。あ、あなた達は……っ」
「目が覚めたようだな、
「え?……きゃあっ!ど、どうしたんですか!?凄い血です!」
「自分の胸に(ブシャアァァァッ)――――自分の胸に聞いてみろ……っ。俺達が一般市民なら、あんたを殺人未遂で通報してるところだ」
“自分の胸”と言う単語にアーシアは自分の胸元を確認し、ようやく胸元がはだけていた事に気付く
恥じらって制服の胸元を直し、幽神兄弟もようやく落ち着きを取り戻した
因みに鼻血は火消し用のバケツ5個に溜められている……
「さて、やっと話が出来る状態になったな。率直に言う。お前には兵藤を独りで来させる為の人質になってもらう。余計な邪魔さえ入らなきゃ、あんたは無事に帰れるって寸法だ」
「……っ。どうして、どうしてそこまでイッセーさんを……」
「理由なんざ簡単、劣等生のくせに満足な人生を送ってるあのクソ野郎が気に入らないんだよ。奴の大事な物を全部ぶっ壊してやらないと気が済まないぐらいにな……。その1つでもあるお前を確保しておけば、兵藤の下手な小細工も封じる事が出来る」
「明日の午後4時、人質のてめぇの前で腐れ兵藤の公開処刑をしてやらぁ。特等席で楽しみにしてな」
明確な敵意を吐き出す正義と嘲笑う悪堵
すると、ここでシリアスな空気を壊す音が……
くきゅるるるるぅ……っ
鳴ったのはアーシアのお腹だった……
恐らく『
空腹の間近で聞かれたアーシアは顔を真っ赤にする
せっかくの空気を台無しにされた正義は呆れた表情で「腹減ってるのか?」と訊き、アーシアは無言で頷くしかなかった
「まあ良い、俺達も血が足りないから飯にしようと思ってたところだ。相棒、アレを持ってきてくれ」
「はいよ」
悪堵は隅に置かれていた段ボール箱を引き摺ってくる
中を開けてみると……大量のカップ麺が入っていた
悪堵は1つずつ取り出して床に置いていき、正義はガスコンロとヤカンを用意して火を点ける
「お前は何にする?初心者は定番の塩、醤油、味噌、豚骨辺りが無難だが」
「何だか凄い数ですけど……いつも食べてるんですか?」
「当たり前だろ。で、味はどうする?お前が決めないなら俺が決めるぞ」
「あの……私、こう言う食べ物は初めてでよく分からないんです」
「なにっ?カップ麺を食った事が無いのか?初めて聞いたぞ、そんな奴……。もう良い、お前は塩味な」
正義は再び呆れた表情でカップ麺(塩味)にお湯を注ぎ、アーシアの前に置く
「兄貴、今日は何味にする?カレー、チャーシュー麺、
「相棒、俺が買ってあったハヤシライス味と宇治金時味はどうした?」
「その2つなら昨日、兵藤を待ち伏せてた時に兄貴が食ったじゃねぇか」
「なら、サーロインステーキ味とポテトサラダ味は?」
「それは一昨日に食って無くなった」
「ぐ……っ!だったらお好み焼き味とハニートースト味は……!」
「3日前に食って無くなった」
好物(美味しそうとは思えない味)のカップ麺が底を突いていた事に正義は歯軋りをする
すると、ここで悪堵が1つのカップ麺を取り出した
高級感溢れたゴールドカラーのカップ麺を掲げ、得意気に語り始める
「兄貴、そんなのはいつでも買える。コンビニやスーパー、専門店を数百件探し回って見つけてきた逸品がある。それがこの――――世界三大珍味カップ麺だ!」
「世界三大珍味カップ麺……!?聞いた事無いぞ、そんな味は!」
「へへへっ。こいつはあまりにもコストが高過ぎるから、発売後たった2日で製造中止になった幻のカップ麺だ。中には勿論――――世界三大珍味のフォアグラ、キャビア、トリュフが入っている。しかも!トリュフは黒と白の両方だ!」
「まさか……こいつを手に出来る日が来るとは……っ!相棒、やっぱりお前は最高の弟だ!」
「よせやい、兄貴。弟として当然の働きだ」
悪堵は世界三大珍味カップ麺の蓋を半分剥がしてお湯を注ぐ
自分もトムヤムクン味とイタリアンバジル味のカップ麺にお湯を注ぎ、3分間待つ
3分後、全てのカップ麺の蓋が開けられ――――容器から匂いを伴った湯気がフワリと漂う
特にトムヤムクン味とイタリアンバジル味は酸味と香草の香りが
正義はアーシアに割り箸を渡してから自分も割り箸を裂いて食べ始めた
世界三大珍味カップ麺を
「美味いッ!」
「やっぱそうだろ、兄貴?」
「こいつは今まで食べてきたカップ麺の中でも5本の指に入る美味さだ。まずは開けた途端、鼻にやって来るトリュフの香りが食欲を掻き立て、スープに染み込んだキャビアの塩気とフォアグラの出すコクが絶妙にマッチしている。太麺はその3つの要素を絡めるのに最適だ」
「兄貴がそれだけ饒舌になるなんてな、良い仕事してるぜ」
悪堵もトムヤムクン味のカップ麺を勢い良く啜り始め、アーシアは見よう見真似で割り箸を裂こうとする
不器用ながらも何とか裂く事に成功し、渡された塩味のカップ麺を食べ始めた
割り箸で掴んだ麺をチュルチュルと啜っていく
直後、カップ麺を初めて食べたアーシアは衝撃を受ける
「ほ、本当にお湯を注ぐだけでこんな美味しい食べ物が出来るんですか……!?す、凄いですっ!お米やパンでは真似出来ない生成法があるなんて初めて知りました!」
「大袈裟だな、そこまで言う奴は初めて見た」
「ああ、主よ。これで空腹に苦しむ多くの人達を救えます……」
感激のあまり天に祈りを捧げるアーシアに幽神兄弟は「潰れた教会跡で祈るかよ……」と吐き捨て、カップ麺を啜っていく
完食しそうな量にまで達した時、正義がふとアーシアに問いを投げ掛けた
「何故お前の目には陰りが無い?」
「え……陰り、ですか……?」
唐突な質問にアーシアはキョトン顔になり、正義は構わず続ける
「最初に出くわした時から気になっていた。お前は俺達と同じ――――いや、俺達以上の地獄を味わってきた目をしている。なのに、お前の目には陰りが無いどころか、寧ろ光すら感じる。何故だ?何がお前をそこまで維持させる?人から裏切られ、蔑まれ、貶されてきた奴は全て陰りや暗闇が目の奥底に潜んでいた。一片の陰りすら無い奴なんて……この世に存在しない」
正義は
“自分達以上の酷い境遇にいたならば、廃れるのが当たり前”と考える正義は陰りの無いアーシアが理解出来ず、その理由を聞かずにはいられなかった
アーシアは箸を止める
「えっと……やっぱり、誰かを恨み続けても傷付くだけだと思うんです……」
「傷付く?怪我なんて直ぐに治るが?」
「体の傷はそうですけど、心に負った傷は簡単には治りません……。傷付くのもあなただけじゃありません。……あなた達のご両親だって――――」
「残念だが、父親も母親もとっくの昔にいなくなっている」
遮る様な正義の言葉にアーシアは固まり、悪堵がその理由を話す
「クソ親父は俺達が退学になった途端、見限って他の女を作って逃げたし、母さんは同じ時期に精神が壊れて入院――――んで、去年死んだ」
「……っ」
「俺達はとっくの昔に何もかも失ってんだ。親も、家も、学園の立場も。あの頃から傷だらけなんだよ。今更傷の1つや2つ増えた所でどうって事はねぇ。俺達にとって寧ろそれは好都合だ。“失う物が無い”=“弱味を突かれない、リスク無しで前に出れる”って方程式が出来上がるのさ」
「つまり、お前達のように守るべき物など無いからこそ――――どんな手段でも
幽神兄弟の持論にアーシアは言葉が出せず、ただ悲哀の視線を向けるだけだった……
その後、幽神兄弟は食べ終わったカップ麺を放り捨てて長椅子に横たわる
どうやら寝るようだ
「お前もさっさとそいつを食べて寝ろ。明日はお待ちかねの日だからな。一応言っておくが、逃げようとしても直ぐに連れ戻すぞ。怪我したくなければ大人しく人質になっているんだな」
そう言って正義は
「……イッセーさん……私、この人達をどうにかして救ってあげたいです……っ。だって、誰も周りにいないまま生きていくなんて――――悲しすぎます……っ」