ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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幽神兄弟回です


仁義無きハンティング

「理科準備室か……。ここにもいないな」

 

「そ、そうみたいね……」

 

2階の理科準備室を捜索しているのはゼノヴィアとイリナ

 

薬品棚から漂う独特な匂いに包まれた室内を見渡す

 

普通の学園でさえ不気味な雰囲気を醸し出しているが……ここは特に不気味だった

 

棚に並べられた動物のホルマリン漬けや標本、人体模型に作り物の骸骨

 

更には危険そうな薬品と理科室に関する定番の代物がより不気味さを演出している

 

ゼノヴィアとイリナは警戒しながら幽神兄弟の捜査を続けるが……

 

カタン……ッ

 

「んひぃっ!?」

 

ちょっとした物音で過剰に反応してしまうイリナに対し、彼女の肩に手を置くゼノヴィア

 

「ああ、すまない。今のは私が何かを蹴ってしまったようだ」

 

「ほ……っ。驚かさないでよ、ゼノヴィア」

 

「イリナ、もしかして怖いのか?」

 

「そ、そんなわけないでしょ!理科準備室が不気味だからビックリしちゃっただけよ……」

 

「そう言えばイリナは昔から突発的な脅かしに弱かったな。小さい頃、お化けに変装した剣護さんを見て大泣きしてたのを思い出したよ」

 

「も、もう!言わないでよ!忘れようとしてたのに!それにゼノヴィアだって怖がって、剣護さんの寝床にコッソリ潜り込んでたじゃない!」

 

「なっ!?あ、あれは怖がった訳じゃないぞ!剣護さんが寒そうにしていたから暖めていたんだ!」

 

自分達の黒歴史が引き金となり、子供の様に喧嘩するゼノヴィアとイリナ

 

一頻(ひとしき)りの喧嘩を終えた2人は息を整え、理科準備室を出ようとしたその時――――何かが動いた様な物音が微かに聞こえてくる……

 

ゼノヴィアは亜空間からデュランダルを取り出して剣先を音がした方角に向ける

 

暗闇が支配する室内は不気味過ぎる程に静まり返っており、イリナも光の剣を出して周囲を警戒し始めた

 

―――天上に逆さまの状態で張り付いている緑の鎧人(よろいびと)に気付かないまま……

 

ピュウッ♪

 

軽快そうな口笛の音を聞いたゼノヴィアとイリナが天上に視線を移した刹那――――彼女達の眼前に液体の入った薬瓶が飛んできた

 

天上に逆さで張り付く鎧人(よろいびと)は石を投げて薬瓶を破壊し、中に入っていた液体を彼女達にぶちまけた

 

液体はゼノヴィアの目元とイリナの頬や服に飛び散る

 

「うあぁぁぁっ!」

 

(あつ)……っ!嘘……これって硫酸!?」

 

皮膚を焼く音と異臭に液体の正体が判明

 

そう……投げられた薬瓶の中身は硫酸だった

 

イリナの頬と衣服の所々が焦げ、ゼノヴィアは焼かれた目元を押さえて苦しむ

 

奇襲を成功させた鎧人(よろいびと)――――幽神正義(ゆうがみまさよし)は体勢を反転してゆっくりと降り立つ

 

「こうも上手くいくとは呆気ないな」

 

「ひ、卑怯よ!硫酸をかけるなんて!」

 

「卑怯?ハハハッ、地獄に堕ちた俺達兄弟には最高の褒め言葉だ」

 

正義はゼノヴィアを狙って左足での蹴りを繰り出した

 

イリナはそうはさせないとばかりに光の剣で正義の蹴りを防ぐ

 

イリナしか戦線に立てないのを利用して左右の蹴りラッシュを見舞う正義

 

光の剣は蹴りを受ける毎に削ぎ落とされていき、徐々にイリナの体にも蹴りによる爪痕が刻まれる

 

「うぐ……っ!ゼ、ゼノヴィア!イッセーくんとリアスさんに連絡を――――」

 

「無駄だ。ここら一帯にはあらゆる通信を遮断する妨害電波を流してある。外からも内からも連絡は出来ない。残念だったな!」

 

バキィンッ!

 

正義の左足がイリナの剣を砕く

 

光の剣を砕いた蹴り足は勢いのまま頭上に上がり――――イリナの脳天に振り下ろされた

 

カカト落とし(別名ネリチャギ)をくらってしまったイリナは顔面から床にくず折れ意識を失う

 

「ぐ……っ!イリナぁ……!貴様だけは許さん!斬り殺してやるッ!」

 

視界が塞がれたままであるにもかかわらず、ゼノヴィアはデュランダルを振りかぶった

 

しかし、目の見えない剣士の剣戟など当たる筈も無い……

 

軽々と柄を蹴り上げられ、デュランダルは天上に突き刺さる

 

得物を失ったゼノヴィアに対し、正義は容赦無くサイドキックを叩き込んだ

 

左右の連続蹴りから無慈悲な膝蹴りに繋げ、強烈なローキックでゼノヴィアを転がす

 

髪の毛を掴んでゼノヴィアを無理矢理起こし、今度は壁際に叩き付けるように蹴り飛ばした

 

そこから更に左右の連続蹴りを繰り出していき、ダウンすらさせず痛め付ける

 

トドメに左足を高く上げ、ゼノヴィアの鎖骨に振り下ろした

 

カカト落としによってゼノヴィアの鎖骨は砕ける……

 

それでもゼノヴィアは軋む体に鞭を打つかの如く起き上がろうとするが……

 

「なぁ、おかしいか?おかしいなら笑えよ。笑ってみろよ?なぁ」

 

グシャ……ッ!

 

(むご)い一撃、正義はゼノヴィアの頭を踏みつけて意識を刈り取った

 

その後は(ふところ)からスマホを取り出し、倒れ伏したゼノヴィアとイリナをカメラモードで撮影する

 

撮影が終わると今度は通信チャットを起動させて弟の幽神悪堵(ゆうがみあくど)にメッセージを送る

 

『デュランダル使いと天使を仕留めた。相棒はどうだ?』

 

メッセージを送ってから数秒後、悪堵からのメッセージを受信

 

『流石は兄貴。こっちは雷光(らいこう)の巫女と戦乙女(ヴァルキリー)を撃破した所だ。証拠写真掲載』

 

向こうはどうやら朱乃とロスヴァイセを仕留めたようだ

 

直ぐに悪堵から例の証拠写真が送られてくる

 

朱乃とロスヴァイセが血だらけで横たわっている痛々しい姿を映された画像が……

 

すかさずメッセージを送り返す正義

 

『良いぞ、次はリアス・グレモリーと聖魔剣使いだ。2人がかりで仕留める』

 

『了解、兄貴』

 

チャットを終えた正義はスマホを懐に戻し、ゼノヴィアとイリナを一瞥してから理科準備室を去っていく

 

「フンッ、狩りは終盤だな」

 

 

―――――――――――

 

 

「……部長、やはり繋がりません。通信用の魔方陣も機能しないとなると――――」

 

「私達をおびき寄せたのはこの為だったのね。何処までも卑劣極まりないわ……」

 

裕斗の言葉に苦虫を噛み潰した様な顔付きとなるリアス

 

通信機器も通信用魔方陣も使えない現状、仲間達の安否が気になる……

 

嫌な予感を(よぎ)らせる中、リアスと裕斗は薄暗い廊下を早足で駆け始めた

 

階段に差し掛かろうとしたその時――――2人の目の前に空き缶が飛び出してきた

 

小気味良い金属音に足を止め、裕斗は聖魔剣を一振り創る

 

「そんなに急いで何処に行くんだ。デートかぁ?だったら俺も混ぜてくれよ」

 

嫌味な言い方をしながら階段を降りてくる1つの人影

 

クルクルと缶コーヒーを回しながら出てきたのは銀色の眼孔を光らせる褐色の鎧人(よろいびと)――――幽神悪堵(ゆうがみあくど)だった

 

その姿を目にしたリアスはオーラを高め、裕斗は聖魔剣の切っ先を向ける

 

「随分と余裕を持った出方ね。私の管轄で勝手な真似をしておきながら、それ程までに自信があるのかしら?」

 

「無かったらワザワザ出てこねぇよ。てめぇらはもう俺達兄弟の狩り場(テリトリー)の中だ」

 

憎まれ口を叩きながら悪堵は頭部を覆っている兜のマスクのみを解除し、缶コーヒーを開けて飲む

 

缶コーヒーを飲み干すと再びリアスの方を向く

 

「幽神悪堵、あなたの兄――――幽神正義は何処にいるの?」

 

「さぁな。兄貴ならその辺で散歩でもしてるんじゃねぇのか?」

 

口の端を吊り上げ、悪どさ満載のニヤケ面でふざけた回答をする悪堵

 

真面目に答える気が無いのは分かりきっていた事だが……リアスの怒りのゲージが上がる

 

「聞いてみただけとは言っても、やはり不愉快ね。それなら力ずくで聞かせてもらうわ!」

 

リアスは全身から赤いオーラを噴出させようとするが、悪堵が(てのひら)を向けて待ったを掛ける

 

「おいおい、良いのかぁ?あんまりド派手な攻撃しちまうと――――ここが崩れてお仲間が瓦礫の下敷きになっちまうぜ?」

 

悪堵の言葉にリアスはオーラの噴出を中断せざるを得なかった

 

まだ学園の中には一誠達がいるので、滅びの魔力の様に強大な力を振る舞えば建物は簡単に崩壊し――――仲間が潰される……

 

そこで裕斗が1歩前に出た

 

「部長、彼は僕が引き受けます。その間に1階へ降りてイッセーくんを呼びに行ってもらえますか?」

 

「……分かったわ。気を付けるのよ、裕斗」

 

「おっと、そう簡単に行かせると思ってんのかァッ!」

 

兜のマスクを装着状態に戻した悪堵はその場を駆け出し、リアスに殴り掛かろうとした

 

裕斗は瞬時に察知して悪堵の右拳を聖魔剣で止める

 

「悪いけど邪魔はさせないよ」

 

「カッコつけるじゃねぇか、騎士(ナイト)野郎ォッ!」

 

悪堵は続けざまにパンチのラッシュを浴びせていく

 

重いストレートやフック、アッパー、裏拳、肘打ち等を連続で繰り出すが、裕斗は全ての打撃攻撃を聖魔剣で受け流す

 

距離を詰められているので悪堵の方が有利な状況にある

 

そこで裕斗は悪堵の足元から大量の聖魔剣を出現させ、悪堵を自分とリアスから遠ざけようとする

 

悪堵は足元から出てきた聖魔剣を飛び退いて回避

 

その隙にリアスは翼を広げ、一誠を呼びに行くため窓から外へ飛び出そうとした――――その時……

 

「バカめ」

 

「――――っ?」

 

まるで自分達の仕掛けた罠に引っ掛かった様な台詞を吐き捨てる悪堵

 

一瞬理解出来なかったリアスだが……視線を前方に移した瞬間、もう1人の狩人――――幽神正義(ゆうがみまさよし)が飛び込んできた

 

オーラを集束させた左足がリアスの腹に深々と食い込み、彼女に血反吐(ちへど)を吐かせる

 

完全に油断していたリアスは後方の壁に激突し、裕斗もその一瞬の惨事に気を散らせてしまう

 

「交通事故にご用心ッ!」

 

ドゴォッ!

 

悪堵は裕斗が自分から目を逸らした隙を突いてダッシュで詰め寄り、強烈なブローを急所である肝臓に打ち込んだ

 

脇腹を殴られ、内臓にも響く衝撃を受けた裕斗は膝をついて悶絶

 

呼吸も少しおかしくなり、口から血の塊を吐き出す

 

どうやら先程の一撃で肋骨も折れ、その折れた肋骨の何本かが彼の肺を傷付けてしまったのだろう……

 

悪堵はダメ押しに裕斗の膝頭(ひざがしら)に拳打を叩き込んで膝を砕く

 

裕斗の最大の武器であるスピードを奪い尽くした……

 

「ぐあぁ……っ!」

 

「ヘヘッ、残念だったな!実は(あらかじ)め兄貴と打ち合わせしてたんだよ。てめぇらのどっちかが仲間を呼びに行こうとしたら、屋上で待機してる兄貴がそいつに蹴りをぶち込むってな。狙いも時間もドンピシャだぜ」

 

「……全て計算ずくだったと……!?」

 

「俺達は暗闇を狩り場(テリトリー)にしてる狩人だ。必ず獲物を追い詰めて……ぶっ潰すッ!」

 

悪堵は裕斗の髪の毛を掴んで無理矢理立たせる

 

リアスは直ぐに裕斗を助けようとするが先程の一撃で体が言う事を聞かない……

 

悪堵は捻りを加えたアッパーを裕斗の腹に打ち込み、宙へ浮かせる

 

浮いた裕斗の真下へ素早く潜り込み、オーラを集めた右腕を高速且つ連続で突き出した

 

裕斗の全身に拳の痕が刻み込まれていく……

 

悪堵はトドメとばかりに右腕にオーラを纏わせ、落ちてきた裕斗を回転式のバックハンドブローで吹っ飛ばす

 

後方へ吹っ飛ばされた裕斗は壁を突き破り、幾つもの教室を貫通していった

 

「裕斗……っ!裕斗ッ!」

 

悲痛な叫びを上げるリアスに対し、正義は左足で彼女の首元を押さえ付けてギリギリと踏みにじる

 

「どうした、リアス・グレモリー。自分の下僕がやられて苦しいか?ハハッ、噂通りの甘ちゃんだな。たかが自分の手足となる道具にそんな感情を(いだ)くとはよぉ」

 

下僕(道具)の心配するより、てめぇ自身の心配をした方が良いんじゃねぇのか?もう残ってんのはてめぇと兵藤、生徒会のヤロー1人とあの金髪クソ女だけだぜぇ?」

 

「の、残ってるのはって……どういう事……!?朱乃は……小猫は……!?」

 

幽神兄弟の言葉に(いきどお)りを覚えたリアスは沸々(ふつふつ)と沸き起こる怒りのまま、真意を問いただす

 

リアスの問いに幽神兄弟はただ嘲笑うだけだった

 

ここで正義がスマホを取り出して“証拠写真”を見せつける

 

あまりにも酷く、ゲスな(おこな)いにリアスの怒りは更に上昇した

 

「俺達はまともにやり合うつもりなんか無い。狩りは用意周到に準備し、尚且つ獲物を追い詰めて狩る。正面から突っ込むなんざバカのやる事だ。お前らはそのバカの代表格だな」

 

ドォォンッ!

 

自分の眷属を嘲笑、侮蔑されたリアスは(てのひら)から小さいながらも破壊力がある滅びの球体を放った

 

滅びの球体は正義の顔面に直撃し、頭部が爆煙に包まれる

 

正義が数歩後退した隙にリアスは両手に滅びの魔力を集める

 

「兄貴!?」

 

「私の可愛い眷属をここまで侮辱するなんて万死に値する!消し飛びなさいッ!」

 

リアスは両手に集めた滅びの魔力を正義に向かって解き放った

 

しかし……爆煙に包まれながらも正義は莫大なオーラを纏った蹴りで、リアスが放った滅びの魔力を霧散させた

 

一撃で消された事に絶句する中、正義の頭部を覆っていた爆煙が徐々に晴れる

 

大きく割れた兜の隙間から見えてきた正義の顔

 

彼の額にある昔の傷痕から血が垂れ、眼はこの世の物とは思えない程に血走っていた……

 

形容し難い鬼気迫る気迫にリアスは膠着してしまう

 

「キレてるか?そりゃそうだよなぁ。だが……俺達の怒りと憎しみは――――お前らみたいな一発芸とは格が違うんだよぉ……ッ!」

 

ドゴォッ!

 

正義の膝蹴りがリアスの腹に深々と食い込み、リアスは血と内容物を吐き出して倒れ――――そのまま意識を失った

 

狩りを終えた正義は血の混じった唾を吐き捨て、その場を立ち去ろうとする

 

「兄貴、大丈夫か?血ぃ出てるぞ」

 

「昔の古傷が開いただけだ。別にどうと言う事は無い。少し時間を食ったが……後は兵藤を含めた3人だ」

 

正義は立ち去る前にリアスの服のポケットから携帯機器を取り出し、着信履歴や電話帳を調べる

 

その中から一誠の番号を見つけ、直ぐ様発信

 

コール音が数回鳴った後、一誠が電話に出た

 

『もしもし、部長?大丈夫ですか?何か今凄い音が鳴ったんですけど――――』

 

「人違いだ、俺はお前の部長じゃない――――兵藤」

 

正義の声を聞いた途端、一誠の口調に怒気が走る

 

『幽、神……ッ!なんでお前が部長の携帯に出てんだ!?部長に何しやがった!?』

 

「チョイと眠ってもらった。他の奴らもおやすみタイム、後はお前ら3人だけだ。兵藤、1分以内に体育館へ来い。来なかった場合はお仲間が事故死する事になるぜ」

 

『おい、待て!幽神――――』

 

一誠の言葉を無視して通話を切る正義

 

リアスの携帯機器を放り捨て、窓から体育館の方を見やる

 

一誠が来るのを確認する為だ

 

そして……急ぎ足で体育館の中へ入っていった一誠、アーシア、匙の姿を確認すると――――口の端を吊り上げた

 

「行くぜ、相棒。最後の獲物を狩りに」

 

「あぁ、兄貴となら誰が相手でもブッ潰せるぜ」

 

暗闇を狩り場(テリトリー)にする狩人――――幽神兄弟は薄暗い廊下の闇の中へ消えていった……




次回は新サイド編です

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